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幕間 桐花琴乃、休日の過ごし方。

結婚前の姐さんです。これも10月くらいかな。

「んんっ……」


 寝返りと共に目が覚める。

 それと共に思考能力が徐々に復帰していく。

 あ……そっか、昨日、私、疲れててそのままベッドに……。

 私は目が覚めると、ベッドの傍に置いてある時計を見る。


 10:38


 あっ! 遅刻! 会社!!

 意識の覚醒と共に飛び起きた私は、コードに足を引っ掛けて部屋の中でこけそうになる。

 あぶな! 私も、もう20代じゃないんだから注意しないと……。でも、そのおかげで完全に目が覚める。

 シャワーを浴びたり朝ごはんを食べてる時間はないけど、とりあえず髪だけでもセットしてって、あぁ……そっか、今日はお休みだった。私は偶然目に入ったカレンダーの日付を見て安堵する。


「はぁ……」


 洗面化粧台の前で私はホッとしてため息を吐く。いい歳して、朝から何やってるんだろう。

 今でこそベリルエンターテイメントに勤めていますが、以前の私は世間様からはブラック企業と呼ばれていた会社に勤めていました。天海航空開発から転職して少し経つのに、社畜時代だった頃の感覚がまだ完全に抜け切りません。


「とりあえずシャワーはいろ」


 シャワーで全身を綺麗に洗い流した私は、脱衣所にある鏡の前で立ち止まる。


「む、もしかしてまた少し大きくなりましたか?」


 はぁ……私は鏡の前で大きなため息を吐く。

 私は髪を乾かしたり美容液を塗ったりして色々と整えた後に、かなり遅めの朝ごはんを食べました。

 今日の朝食は昨晩食べようと買ってきたけど、寝てしまったために食べられなかったお弁当です。

 食事を終え洗い物をした私は、眠気覚ましにお気に入りのドリップコーヒーを淹れる。

 さてと……食後のコーヒーでも嗜みながら、ゆっくりとテレビでもみようかな。


『速報です。つい先ほど、ベリルエンターテイメントの社名を勝手に騙り、所属タレントの白銀あくあに会える権利が当選したなどという虚偽の情報で人を騙して、数億円に及ぶ詐欺事件を起こしたグループが一斉に検挙されました』


 通称、3億円事件。

 ちょうど、みんなでスターズに行っていた間に起こった事件です。

 事件当時は会社に残っていたあくあさんのお姉さん、白銀しとりさんがすぐに当社とは無関係であるとアナウンスしてくれたおかげで事件は直ぐに沈静化しましたが、それでも被害にあった人は相当な数の人がいました。

 いつもはこういうおかしい事件があっても、聖あくあ教とかいう捗るさんが運営している変なグループがすぐにどうにかしてしまうのですが、今回はあちらもスターズの件で忙しかったのでしょう。それもあって被害が拡大したのかもしれません。


『捕まったグループの容疑者たちは口を揃えて、クッキーはもう嫌だ、お茄子でけつあなを確定されたなどと意味不明な供述をくり返し、中にはポリ袋に入ったナニかを無理やり吸わされて、会話にならない状態の人もいたようです』


 現場の映像に切り替わると、捕まった犯人たちがパトカーの中に押し込められている最中でした。

 お尻を押さえていた女性たちは、座れないのか護送車の座席に四つん這いになって座らされている。

 なんて情けない姿なんでしょう。私は小さなお子さんがいる家庭は、あえてこういう映像を見せるべきだと思いました。悪い事をしたら、こんな恥ずかしいことになるんですよって……。


『えーっと、新たな情報が入りました。ハイパフォーマンスサーバーを自称する人物から、警視庁に対して先ほど連絡があった模様です。3億円事件で詐欺グループが被害者から搾取した金銭は、暗号資産に換金されるタイミングで奪還に成功した。だから、それぞれの被害者にお返しするよ、とのことです。繰り返します……』


 このハイパフォーマンスサーバーを自称する人物っていったい誰なんでしょう。

 天鳥社長も現地で会ったことがあるらしいけど、その正体は不明です。

 まさかとは思いますが、うちのハイパフォーマンスサーバーは聖あくあ教とかいう変なところに関わったりしてないですよね? 一応、サーバー管理者の鯖兎さんには社長が確認したところ、関係ないって言ってたみたいだし、そんな形跡もなかったみたいだから大丈夫だとは思うけど……何故か嫌な予感しかしません。

 捗るさんにはしっかりと注意したから、ちゃんとあの変な団体を管理できてれば良いんですけど……。


『続きまして次のニュースです。アラビア半島連邦からの来訪が予定されている……』


 私はテレビをつけっぱなしにしたままノートパソコンを開く。




【おねショタ】星水シロのお姉ちゃんになり隊part14【ショタおね】


278 ななし

 個人的にシロくんに言ってほしい台詞。


 「あれぇ? おねえちゃんってば、ボクの脱ぎ捨てた靴下を手に持ってナニしてるのぉ? もしかしてにおいをかいだり、へんなことに使ったりとかしないよね?」

 「ぷーくすくす。おねえさんって、こんなことでよろこんじゃうんだ〜。ちょろ〜い」

 「ねぇねぇ、おねえちゃん、ボクみたいなちいさな男の子にののしられて、はずかしくないのぉ〜?」

 「えっ!? おねえさん、そんなどうでもいいものまだだいじにもってるんだぁ。ボクがすてさせてあげよっか?」

 「そんな年になるまで経験がないとか、かわいそ〜。いいよ。今から3秒以内に、おねえちゃんがボクに土下座するなら捨てさせてあげても。ハイ、さー……って、おねえちゃん早すぎー。よわよわじゃーん」

 「こんな子供の前で土下座するなんて、お姉ちゃんは恥ずかしくないんですかぁ〜?」


281 ななし

 >>278

 あっ、あっ、あっ(私の脳が破壊されていく音)


282 ななし

 >>278

 やっぱり時代はOSUGAKIですわ。


283 ななし

 >>278

 この年まで経験なくてすみません。だから何卒、なにとぞ、捨てさせては貰えないでしょうか?


284 ななし

 >>278

 シロくんとたまちゃんでオスガキ喫茶してくれたら、全財産を溶かす自信がある。


285 ななし

 >>278

 私なら喋ってる途中で土下座する。


287 二重奏

 >>278

 https://*****.com/*****.zip


290 ななし

 >>287

 掲示板のベートーヴェンこと二重奏さんきたあああああああ。


291 ななし

 >>287

 貴女のおかげで、いつも耳が幸せになっています。ありがとうございます。


292 検証班◆07218KADO6

 >>287

 いつも娘がお世話になってます。あざす。


294 ななし

 >>287

 二重奏と神絵師だけは神。

 何度、私がお世話になったことか。


295 ななし

 >>287

 まだこれを聞いてない奴は気をつけろ!!

 聞いて3秒で脳が溶けてトリップする。




 おっと、昨晩覗いていたスレが開きっぱなしになっていました。

 こんな如何わしいスレを普段から見ているわけではありませんが、たまにはチェックしておかないと……そう、何せ私はベリルエンターテイメントの社員ですから、これも大事な業務の一環なのです。

 それとなんか今、知り合いがいたような気がするけど、見なかったことにしましょう。

 私は掲示板を閉じると、いつも巡回している掲示板やサイトをチェックして回る。

 うん、どこも平常運転かな。


「ついでにメッセージアプリも確認しておきましょうか」


 私は手に持ったスマートフォンのアプリを起動する。



【検証班2】


 えみり ピコーン! すげぇこと思いついたぞ!!

 かえで なんだなんだ!?

 えみり 嗜みとの間に子供を作れば、間接的にあくあ様の家族になれるんじゃね?

 かえで やべえ! 捗る、おま……天才かよ!!

 カノン しょーもな。

 カノン そんなみみっちいこと言ってる暇があったら、ちゃんとアピールしなよ。

 カノン 捗るって本当にネット弁慶だよね。

 カノン あくあから聞いたけど、私がいないと大人しいんだって? それじゃダメでしょ。

 カノン 楓先輩も仕事の相談があるとか言って、食事に誘えばいいじゃん。

 カノン そもそも楓先輩は帰ってくるのが先だけど。まだ帰ってこないの?

 えみり ハイ……。

 かえで っす……。



 どうやらここも平常運転のようです。

 私はノートパソコンのキーボードをかちゃかちゃと文字を打つ。



 ことの 楓さん、お仕事があるんで早く帰ってきてください。

 かえで っす……。



 秒で返信が来たけど本当に大丈夫なのでしょうか?

 仕方ありませんね。帰国日を知らせてくれたら空港まで迎えに行くわよと入力する。


「ん、新着メッセージ? 誰からだろう」



 猫山とあ

  この前のCDの件だけど、あれでOK出しておいてください。

  それと今日、あくあにクレープ奢ってもらっちゃった。

  いいでしょ〜?

  琴乃お姉ちゃんには、奥さんも持ってない写真こっそりあげちゃうね。


  添付画像 *****.jpg



 おっふ。

 あくあさんがほっぺたに生クリームをつけて、クレープを頬張っている画像だった。

 えっ? これ、ほっぺに生クリームがついてるの気がついてないのかな?

 それって色々と大丈夫なんでしょうか?



 猫山とあ

  あっ、ちなみに生クリームはちゃんと後で取ってあげたよ。

  美味しかった〜。



 え? それって、クレープが美味しかったってことですか?

 そ、そそそそそそれとも、ほっぺたについた生クリームを、とあちゃんが食べて……うっ、急に心臓が……。

 はぁ、はぁ、どうやら最近、掲示板でも一部の住民が動悸を起こしたり立ちくらみを起こしているようですが、その波がついに私にもきたようです。もう私も30ですし、これはちゃんと病院に行かないとダメですね。

 それとスターズに行っていた間、ジムに行けなかったから体が鈍ってるのかもしれません。


「そういえば……確か、ベリルの本社にジムができたんでしたっけ」


 あくあさんとアキラさんの希望で、筋トレができるところが欲しいからと阿古社長にお願いして作ってもらったと聞いてます。

 そういえばまだ利用していませんし、会社は一部の人を除いて今日はお休みですけど、ジムは365日24時間好きな時に使っていいと聞いているから試しに利用してみようかな。

 私は簡単に身支度を整えると、つい最近購入したばかりの自家用車に乗って会社に向かう。

 東京は自家用車なんてなくても快適に生活できますけど、静岡にいた時は会社の車を運転してましたし、車を運転するのは結構好きだったりします。仕事柄あってもいいかもと自分に言い聞かして購入しましたが、本音を言えば9と2が刻まれたこの車の名称と、可愛らしい丸っこいフォルムに一眼で魅了されてしまいました。外車で、しかも自分が生まれるより遥かに前に発売されたクラシックカーなんて、運転できるのかどうか最初は不安だったけど、車を見たあくあさんが、かっこいいねと言ってくれたのでやっぱり買ってよかったと思います。


「おぉ……」


 会社に到着した私は、手前の女子更衣室で運動用の服に着替えてジムの中に入りました。

 一通り必要な器具が新品で何台も揃ってて、中は広いし天井や床、壁などに高級感があって、何よりも見晴らしが良い。


「うーん、最高!」


 幸いにも貸切状態だった事もあり、何だかちょっとリッチな気分になってテンションが上がったせいか、色々と捗っちゃいましたね。

 さてと、最後にランニングして、ストレッチして帰ろうかなと思ってたら、誰かの足音が聞こえてきました。

 貸切もこれで終わりかーと思ってたら、後ろで何かを落とす音が聞こえてくる。


「えっ?」

「えっ?」


 聞き覚えのある声に思わず振り向くと、あくあさんが運動用の格好をして立っていました。

 ビタビタのTシャツの上からでもわかる上半身の筋肉、あぁなんてカッコいいのでしょう。惚れ惚れとしてしまいます。それに加えて、な、生足ですって!? 私は、膝上のパンツから覗かせるあくあさんの生足を食い入るように見つめてしまった。

 はっ!? いけません。私はとあちゃんのマネージャーなんですよ!! ここで平常心を乱すわけには!!

 良く見ると、あくあさんは手に持っていたマットを床に落としていました。

 ど、どうしたのでしょう? はっ!? 私は自分の体を見下ろして自らの状態を再確認します。

 汗染みのできたトップスに、丸見えになっているおへそや、ポニーテールにしたうなじ、開いた腋を伝う汗の滴、おまけに下に穿いたスパッツが食い込んでいました。


「ご、ごめんなさい。見苦しいものをお見せして……」

「おっ……」

「えっ?」


 あくあさん? 今何か言いませんでした?


「あっ、なんでもありません。その……全然見苦しくなんてないですよ。桐花さんが普通に綺麗で見惚れてしまったくらいです。むしろその、ありがとうございました!!」


 き、綺麗!? わ、私なんかがですか!?

 あくあさん……これは後で阿古さんに相談して、眼科に連れて行くべきかもしれません。

 こんな30にもなる女のどこが綺麗だと言うのでしょう。あ、あぁ、そっか、あくあさんは優しいから、きっと、私に気を遣ってそう言ってくれたんだ。はは、それを真に受けて勘違いしちゃうところでしたよ。もー。


「あっ、決してその、お世辞とかじゃないですからね」


 えっ? えっ? お世辞じゃないってそれ、ど、ドウイウコトデスカ?

 き、気になる〜、気になるけど聞けない〜、そんな勇気は私にはない〜。

 2人で隣に並んでランニングマシンを走っていると、ものすごく視線を感じました。

 これって、もしかして見られてたりします? でもそれを確認するのが怖くてそちらの方向を向けない。どうしようと思っていたら、目の前の窓ガラスに私たちの姿がうっすらと反射してました。

 そこに映った姿に目を凝らすと、隣にいたあくあさんが、上下に揺れる私のものを明らかにガン見していたのです。

 も、もっと揺らしてあげた方がいいのかな? 私がわざとらしく上下に激しく動くと、それに釣られてあくあさんの視線が上下に動く。あくあさん……おぉーって声を漏らしちゃダメですよ。はっきり言って、私くらいの歳の女性になると、男の子のそういう反応が同意だと勘違いして襲われてもおかしくありませんからね。

 結局その後も私は、ストレッチしていた姿をあくあさんにチラチラと見られ続けてしまいました。


「はぁ、何やってるんだろ私……」


 熱くなった体を冷水で鎮めて冷静になった私は、帰り支度を整えて更衣室を出る。

 ちょうどそのタイミングで誰かからメッセージを着信しました。



 深雪・ヘリオドール・結

  よかったら今晩ご一緒しませんか?



 私はいいですよとすぐにメッセージを返します。

 あの日以来、深雪さんとは何度か一緒にご飯を食べたりとかしました。

 深雪さんとは、仕事柄2人ともあくあさんと関わってはいますが、お互いにそこの領域の部分はあえて聞かずに、1人のファンとしてアイドル白銀あくあさんや、シロくんのお話をする事が多いです。



 深雪・ヘリオドール・結

  それではこの前お話ししていた、秋葉原のとり膳さんでどうですか?



 OKっと……。

 運動の後の焼き鳥とビールって美味しいんですよね。でも、ビールを飲むとさっき運動した分が……いえ、むしろこれはチャンスでは? 食べた分を消費するためにジムに行けば、あくあさんとまた2人きりになれるかもしれませんし、そ、それに、また私なんかの体をたくさん見てくれるかもしれません。

 かといって、私にはそれ以上どうこうなんてできる自信はないんですけど、それでも別にいいんです。

 だって、今まで誰も見向きもしてくれなかった私のことを、あくあさんだけはちゃんと女として見てくれるんですもの。あとは嗜みさんに子供が生まれた時に可愛がったり、まだ若いえみりさんや楓さんがあくあさんとくっつく事に協力できたら私はそれだけで満足なんです。


「……好き」


 車の中で私は、そう呟いた唇を指先で軽く触れる。

 思わず出てしまった言葉に、窓ガラスに反射した私自身が驚いた顔をしていました。


「が、我慢しなきゃ」


 私はベリルエンターテイメントの社員なんだから、こんなおばさんに好意を持たれたって、あくあさんだって困ると思います。だからちゃんと自制しなきゃ。私はそう何度も自分に言い聞かせる。

 ちなみにその日の夜、ベロンベロンに酔った私は、次の日、本当に遅刻しそうになって反省しまくりました。

 これでは楓さんの事を言えませんね。


「よし、頑張るぞ!」


 私は緩んでいた心を引き締め直すと、新たな企画書を持って社長室へと向かいました。

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https://x.com/yuuritohoney

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[良い点] 検証班4人の中で実は姐さんが一番かぁいぃ説。
[良い点] とあちゃんが地味にクリームでマウントとってる所 おっふってなった
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