白銀あくあ、クソゲーも極めればこうなる。
世の中にはクソゲーと呼ばれるものが星の数ほどある。
例えば俺が空き時間で毎日やってる【チクタク・アーチェリー】なるゲームもクソゲーの一つだ。
アーチェリーと名前がついているように、弓を放って的を当てるゲームなのだが、このゲーム、なかなか奥が深い。
試合ごと、試合時間の経過に合わせて天候や風向、風速や湿度が変わるために、同じ角度、同じ強さから弓を放ったからといって毎回同じところに当たるわけじゃないというのがこのゲームのミソだ。
このゲームのいいところは空き時間で淡々とやれるところだ。
ただ、このゲーム……エラー落ちが多い。これに関しては個人が作ってるから仕方ない部分はあると思う。
しかし、天候だけなら理解できるが、プレーヤーにもバイオリズムが設定されており、そのバイオリズムによって視認性や精度に差異があるのだ。つまりゲームをプレイするプレーヤーの腕以外の部分が絡んでくる。
そして何よりもやばいのが、こんなクソゲーにもチーターが沸いてくるところだ。
「しゃぁっ! 勝った!!」
チーターに勝利した俺はガッツポーズを決める。
対戦相手が高級チーターなら負けてたかもしれないが、今回対戦したチーターは使ってるチートが安物だったから勝てた。
「へへっ、もしかしたら俺、このゲームじゃ一番強いんじゃね?」
チーターのせいでランクシステムが崩壊したせいで、運営がランクシステムそのものを削除したから、このゲームで誰が一番強いのかはわからない。
早くランクシステムが復活してほしいが、カジュアルにまでチーターが湧いてくるようなら絶望的な気がする。
「はぁ……」
俺が小さくため息を吐くと、ゲームの通知欄に新着メッセージが表示される。
おお! ついにランクシステム復活か!?
俺は興奮した様子で通知を開く。
[エレファント・アーチェリー日本大会オフライン開催のお知らせ]
いやいやいや!
こんなクソゲーで日本大会もクソもないだろ!!
え? 俺以外にこのクソゲーやってるやついるの!?
[詳細はエレファント・アーチェリーの日本コミュニティにて記載しております]
日本コミュニティ? えっ? そんなのあるの!?
あっ、本当だ……。っていうか、このゲームをやり始めて1年と半年近く、こんなところに隠れてボタンがあるの初めて知ったぞ……。
俺は恐る恐るコミュニティの中を覗く。
————————————————————————
698 ななし
このXXゲーにこんなコミュニティあるの初めて知ったんだが……。
699 ななし
>>698
奇遇だな。私も同じだ。
700 ななし
>>698-699
やぁ。ここに人が来て嬉しいよ。
701 ななし
やっぱりボタンの位置がわかりづらいよな。
これって直せないのかね?
702 ななし
>>701
運営曰くシステム的に無理なんだって。
703 ななし
こんなところあったんか……。
このゲーム一年くらいしてて初めて知ったぞ。
704 ななし
>>703
あるある。私もゲーム初めて10ヶ月は気が付かなかった。
705 ななし
わお! いつもは過疎ってるコミュニティが今日は盛況だぜ!
706 ななし
>>705
告知のおかげで明らかに人増えたよな。
707 ななし
このゲーム、チーター多すぎ。
あいつらカジュアルモードしかないのにチート使うのバカだろ。
708 ななし
>>707
わかる。
709 ななし
このゲームにちゃんとコミュニティあって、おまけにオフラインの日本大会まで開催されると聞いてびっくり。
人の事言えないけどお前らまだこのゲームやってたのか……。
710 ななし
>>709
それな!
711 ななし
>>709
今、残ってる奴らはチーターに勝てる化け物ばっかりだよ。
712 ななし
>>711
お前らさぁ、こんなXXゲーに本気になるなよ!!
私も人のこと言えねぇけど!!
713 ななし
>>712
それな!!
714 ななし
オフライン大会、どこでやるか知ってる人いますか?
715 ななし
>>714
市民体育館。コミュニティの1人が本当に趣味で開いてくれる大会だから、予算的に借りられるのがそこしかなかった。
今日もそのためにバイトに行ってるらしい。
716 ななし
>>715
最近のEスポーツは大きな箱でやってるのに比べて、世知辛いな……。
717 ななし
>>715-716
こんなXXゲーでオフライン大会やってくれるなんて感謝だわ。
正直、私が優勝するヴィジョンしか見えてない。
718 ななし
>>717
それな。私も自分が一番強いと思ってる。
719 ななし
>>717-718
ほぅ、それは聞き捨てなりませんね。
720 ななし
まぁまぁ、お前ら決着はオフラインでな。
大丈夫、ちゃんとわからせてやんよ!
721 大会運営
みなさん、盛り上がってますね。
先ほどバイトから帰ってきました。
722 ななし
>>721さん、ちーっす!
723 ななし
>>721
うちらの大会のためにほんまありがとうございます!!
724 ななし
>>721
大会、楽しみにしてますね!
絶対に盛り上げましょう!!
725 ななし
>>721
クラファンサイトから1000円だけど寄付したよ。
本当に大会開催してくれてありがとな。私、そう言うの出た事ないから楽しみなんだわ。
726 大会運営
>>725
アザース!
その大会についての事なんですけど、大会アナウンサーがゴリ……森川楓さん、実況解説がクソヲ……白銀カノンさんに決まりました。それと私も当日は1プレイヤーとして出場するので、当日の受付と運営を姐……桐花琴乃さんが担当してくれる事になったのでご報告いたします。
727 ななし
>>726
すげぇ!!
728 ななし
>>726
こんなマニアックな過疎ゲーがしちゃいけないラインナップだろ!!
729 ななし
>>726
うおおおおおおおおおおお!
730 ななし
>>726
カノン様が解説ってwww
あのクソヲタ、某FPSゲームのアジア予選の解説でも良くてプロから好評だったけど、こんなしょーもないゲームまで履修してやがるのかよwwwww
普通にすげぇわ……。
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ちょっと待って、俺の嫁達は何してんの!?
特にカノン。1年以上もやってる俺が言うのもなんだけど、これとんでもないクソゲーだよ!!
「と、とりあえずエントリーだけしとくか」
俺もプレイヤーの1人として初のコミュニティ大会には参加したい。
そして、できればこのクソゲームを一緒に遊んでくれる友達が欲しいと思った。
それから数週間後。
変装した俺は、埼玉県にある市民体育館に来ていた。
「あ、あれ、あくあ様じゃない!?」
「本当だ!!」
「あっ、カノン様達が解説だからお顔を出してくれたのかも」
俺の存在に気がついた人たちがチラチラとこっちを見てくる。
すまん、みんな。嫁のためじゃなくて、普通にプレイヤーなんだ。
みんなが応援してくれるアイドル白銀あくあは、このクソゲーを三桁時間やってるただのバカなんだよ。
「すみません」
「はい。って、あくあさん!?」
受付に居た琴乃がびっくりした顔をする。
「え、えっと……大会にエントリーしていたものですが……」
「あ、は、はい」
くっ! 俺と琴乃の間で気まずい空気感が漂う。
琴乃は優しいから大丈夫だと思うが、内心、私の夫、こんなクソゲーの日本大会に参加するんだって呆れられていないかとても心配になる。
「登録名をお願いできますか?」
「東京から参加のエレファントマンです」
俺のハンドルネームを聞いた琴乃は驚いたようなリアクションを見せる。
くっ、男だからと言ってふざけたハンドルネームをつけたせいで、まさかこんな辱めを受けるなんて……! ころせっ!
「な、なんだって〜!?」
「あくあ様が、あ、あの、有名なエレファントマンさんの正体だったなんて!」
「ほらぁ! やっぱりマンがついてたし、男の子だったじゃーん!」
「ぐわああああ! 流石にそれは予想していなかった」
周りの人達が俺の名前を聞いてざわめく。
俺は受付を済ませると、大会が始まるまでの間、人気のないところでゲームをしてエイムの感覚を温める。
「そろそろ俺の番か……」
俺は一回戦の時間が来たのでステージに向かう。
『さぁ、盛り上がってきたところで、一回戦最初の目玉!! 次の対戦は登別のマタギスナイパーこと、そんな釣り糸で釣られクマさんと、ベリルのチジョーハンターこと、エレファントマンさんの対戦だあ!』
ちょ、楓! ベリルのチジョーハンターってなんだよ!!
俺も登別のマタギスナイパーみたいにもっと、かっこいい名前にしてくれよ!!
くっ、俺はツッコミを入れたいのをグッと堪えて、セッティングを急ぐ。
『いやー、さすがはオフライン大会ですね。くぅっ! 今大会屈指のカードが一回戦から見られてるなんて、どう思いますか、白銀カノンさん?』
『はい、私もびっくりしました。2人ともこのク……ゲームでは息の長い有名な選手ですから。以前まであってランクはもちろんのこと、カジュアルで対戦した人も結構多いのではと思います』
くっそぉぉぉおおおおお!
純粋に大会に集中したいのに、2人の解説が気になって気が削がれる。
『さて、今回の勝負のポイントですが、白銀カノンさんはどこが勝負のポイントになると思いますか?』
『今回は大会仕様ということで、天候や風の変化が多いので、そこにちゃんとコミットできるのかなというところがポイントになると思うんです。つらクマさんはその辺のアプローチがとっても上手な方なので、大会で緊張したりとか焦ったりしなきゃ十分にポイントが稼げるのではないでしょうか。対してエレファントマンさんは、ノってくると止められないタイプなので、いかに最初から入り込めるかが鍵になると思います。それに加えてエレファントマンさんは天候や風など荒れた試合で力を発揮するタイプなのと、こういうオフラインの環境にも慣れてると思うので、大会環境に後押しされてアドが取れるのではないでしょうか』
ちょっと、待ってや! 思わず俺の中にいるインコさんが顔を出す。
このクソゲーにそんな語るところある!? カノン……お前って、本当にすごいやつだったんだな。
俺、普通に感動しちゃったよ。
『解説の白銀カノンさんありがとうございます。今回の解説も見事に私の耳の左から右に綺麗に流れて行きました。えっと、それでは選手の準備が整ったみたいなので、試合を開始したいと思います』
楓の言葉に合わせて後ろのモニターにカウントが表示されると、それに合わせて会場に居た人たちが声を合わせてカウントをする。
このクソゲーにこんなに人が集まるなんて本当にどうにかしてるぜ。
「3!」
「2!」
「1!!」
「GAME START!!」
スタートと同時に試合が始まる。
試合は交互に的に向かって矢を放っていき、その合計のポイントを競う。
的の中心に放った矢が近づけば近づくほどポイントが高くなるシステムで、自分のターンになってから10秒以内に矢を放たなければいけない。
俺より先に先行のつらクマさんが矢を放つ。
『108! おー、いきなり3桁の高ポイントが出ましたね!』
『最初は緊張するものですが、つらクマさんはうまく仕留めてきましたね。矢を放つタイミングで風の強さが変わらなければ、もう少しポイントが伸びたかもしれません。これは運が悪かったというよりも、風が変化してから直ぐに放つというこのク……ゲームの基礎を忘れちゃっていましたね。そう考えると、本業でもマタギをやっているつらクマさんも、オフライン大会の環境にのまれて焦って射っちゃったのかもしれません』
くそおおおおお! ゲームに集中したいのに、カノンの解説が気になって仕方がない。
俺は一旦心を落ち着かせると、呼吸を整えて矢を射る。
『当たったー! 115ポイント! 上回ってきましたねー』
『はい、そうですね。ちゃんと風を読み切った上で自分のタイミングで矢を射てたのではないでしょうか。それでも、あともう少し読みを深くできればポイントが伸びたかもしれないだけに、本人は少し悔しがってるかもしれませんよ。しかし初手でこれは悪くありません。いやー、さすがはトップクラスの選手同士による試合です。最初からレベルが高いですね』
あああああああああ! 集中できねぇ!! カノンの解説は悪くない、悪くないからこそ、気になって集中できねぇ!! はぁはぁ、はぁはぁ……あかん。こんなんじゃつりクマさんには勝てねぇぞ。集中しろ、あくあ! 明鏡止水だ!!
2投目、3投目と俺とつりクマさんはお互いに一進一退で矢を射って行く。
5投目で一旦つりクマさんに逆転を許すものの、7、8投目でポイントを詰めた俺は9投目で逆転し、最後のラウンドとなる10投目で高いスコアを叩き出して逃げ切る。
『一回戦は、ベリルのチジョーハンターことエレファントマンさんの勝利です!! いやー、一回戦から手に汗を握る良い試合でしたね』
『はい。つりクマさんは終始安定したポイントを出していましたが、大会環境にのまれて安全策に行きすぎていましたね。やはりこのレベルの戦いになると、少しリスクを冒してでも攻めるべきだったと思います。その一方でエレファントマンさんは、最初に高いポイントを出してそのままノってくるのかと思ったら、今回は少し安定しませんでしたね。しかし、その攻める姿勢が後半によく出てたと思います。特に逃げ切りの10投目なんて安定したポイントを狙いにいけばいいだけなのに、そこでもちゃんと勝負してくる強気な姿勢が勝利を呼び込んだのかもしれませんね』
だから、カノンはなんでこのクソゲーでそんなに語れるんだよ!!
普通にすごいよ!
俺はつりクマさんと握手をしてお互いを検討し合うと、次の試合があるまで人気のないところで再びエイムを温める。
その後、2回線を勝ち抜いてベスト32に進出した俺は、ベスト16を目指すタイミングで強敵にぶち当たった。
『続いてのは対戦はベリルのチジョーハンターにして人妻キラーのエレファントマンさんと、淡路の罪なJこと家長……家中さんです!』
ちょっと待って、俺の変な二つ名増えてない!? 人妻キラーってなんだよ。もう!!
俺はとりあえず罪なJのJの意味を確認するために……おっとぉ。いけないけない。これは大会だ。集中しないと!
勝負はもう始まってる。もう少しで相手のトラップに引っ掛かるところだった。
試合前に罪なJなんて見ちゃったら、試合に集中できなかったかもしれない。
『解説の白銀カノンさん、この勝負はどう見ますか?』
『胸を見たら負けます。胸を見なきゃ勝てます。以上!!』
カノンの解説が雑になってる!?
お前まさか、実はちょっと飽きてきたか、適当に言ってたレパートリーが切れてきたかのどっちかだな!?
しかしそのおかげで試合に集中できた。
俺は血の涙を流しながら、最後まで罪なJを見ずに家中さんに勝利した。
痛みに耐えて勝利を収めた俺は、感極まって家中さんとハグをしてお互いの健闘を讃えあう。
『いやぁ、良い勝負でしたね』
『ふーんだ。あくあのばーか!』
あれ? もしかしてカノンってば、ただ嫉妬してただけ!?
俺はすぐにSNSを開くと「カノン、愛してるよ。お仕事がんばってね」と、メッセージを送る。
『えへへ』
『お前って本当に単純よな。あれ? もしかしてゴリラの化身と呼ばれたこの私より単純なんじゃ……』
よかったよかった。カノンの機嫌が治ったことだし、俺も試合に集中する。
更にベスト16、ベスト8を突破した俺は、準決勝でも勝利を収めて、ついに決勝に進出した。
くっ、気がついたら、もう夕方じゃねーか。こんなクソゲームになってやるんだ俺はという気分になるが、それに打ち勝って試合に臨む強い心も、このゲームには必要な要素である。
『それでは決勝に残ったのはこの2人。本物の罪乳は私だ! ギルティーミルク21さん! そして、ベリルのチジョーハンターで人妻キラー、MOTHER FXXKER エレファントマンさんどうぞー!』
楓、だんだん俺への説明が酷くなってるってぇ!!
俺はとりあえずギルティーミルクさんの罪な部分を観察する。
さっきは見なくて我慢してたのが透け過ぎていたからカノンに嫉妬されたが、それならいっそ開き直ってみて仕舞えば良い。むしろそっちの方が試合に集中できると思ったから。
おおー。これが本物のギルティーミルクか。すげぇな。何故か彼女を見ているとえみりを思い出す。
『解説の白銀カノンさん、この長かった戦いもこれで終わりです。最後まで残ったこの最強のプレイヤー2人を見て、率直な感想を聞かせてください』
『正直なところ、もう帰りたいです。私からは以上です』
カノーン!
多分、ボランティアでこの仕事を引き受けたんだろうけど、せっかくだから最後まで頑張って!!
『さぁ、泣いても笑ってもこれが最後ですよ。ゲームスタート!!』
楓の声に合わせて歓声が沸く。
さすが、このクソゲーの大会を朝から夕方にかけて応援をしていた連中の歓声だ。
面構えからして違う。俺は、このクソゲーに無駄に時間を消費してしまった仲間達……いや、同志ののためにも試合に集中する。
『うおおおおおおお! 2人ともすごい! 初手から130ポイントオーバーだあああああ!』
『2人とも、このク……ゲームをかなりやり込んでますね。どれだけ無駄な時間を費やせば、こんなにも上手くなるのでしょう。私にはわかりません』
カノン、やめて。そんな事を言ったら、俺とギルティーミルクさんのライフがゴリゴリ削れちゃう。
そのせいもあって俺もギルティーミルクさんも2投目で的を大きく外してしまった。
どうやら相手も俺と同じ、こんなクソゲーになにマジになってるの? って、思ってる自分との戦いに突入したようである。
『2投目は逸れましたが、3投目は持ち直して、4、5とシーソーゲームでポイントを伸ばしてますね』
『さすがです。ここからはもうお互いの意地と意地の戦いですね。せめて優勝する事で、このク……ゲームに費やした無駄な時間に意味を持たせようと2人とも必死です。優勝したとしても、どうしてこんなゲームやっていたんだろうという虚しさしか残らないのにね……』
カノーン! なんで決勝の時だけそんなに刺々しいの!?
もしかして俺だけじゃなくて、ギルティーミルクさんも知り合いなのか!?
滅多に見られない毒舌カノンに俺はびっくりする。
『白銀カノンさん、どうしました? 決勝はやけに毒舌ですね』
『すみません。自分がこのゲームに費やしてきた無駄な時間を思い出して、冷静になってしまいました』
あっ……カノンもこのクソゲームに結構な時間を費やしていたのね。
まぁ、そうじゃなきゃ解説であんなに口が回らないよな。
『やはり両者ともにレベルが高い! 白銀カノンさんの精神的な攻撃をものともせずに6、7、8投目も安定して高得点を叩き出してくる!!』
『さっきのえ……ギルティーミルク21さんのタップ撃ちはすごかったですね。アレで微修正して当ててくるのは、ちょっと普通のプレイヤーじゃ真似できないですよね。対してエレファントマンさんは、ここにきて更に感覚が研ぎ澄まされてきたのか、今の環境を完全に読み切ってます』
9投目、俺とギルティーミルクさんのスコアが並ぶ。
ついにここまできたか。勝負は最後の10投目に委ねられた。
「頑張れ、頑張れ!」
「あく……エレファントマンさん、最後いけるよー!」
「ギルティーミルクさんも頑張って!!」
「くっ、まさかこのクソゲーに感動するなんて!!」
「エレファントマンさん優勝あるよ!!」
「ギルティーミルクさんも、遠慮して手を抜いちゃダメだよー!!」
「2人ともがむばれぇー!」
観客席からの大きな歓声が聞こえないほど、俺は集中していた。
同点のまま最後を迎えると、最後は同時に矢を討たなきゃいけない。
俺とギルティーミルクさんは、カウントの時間中にそれぞれ矢を放つ。
その後に、俺達2人の画面が後ろの大きなバックモニターに2画面で表示された。
『いったぁ! 2人ともど真ん中だぁ!』
『最後に相応しい両者高ポイント確定です!! あとはこれがどこまで中心点に近づくか……』
モニターに表示された的が拡大されていく。
強者同士の戦いになると、最後は1ピクセルが勝敗を分ける。
全員がモニターへと視線を向けると、固唾を飲んで最後にポイントが表示される瞬間を待った。
『でたぁ! ギルティーミルク21さんは145.6ポイント! 対するエレファントマンさんは、147.3ポイントだあああああああ!』
「しゃああああああっ! やったぁぁぁあああああああ!」
俺は両手を振り上げてその場で何度もジャンプする。
どっちが負けてもおかしくなかった。
それでもお互いに全力を尽くし、その上で勝てた事が嬉しかったんだ。
「ギルティーミルク21さん、ありがとう。良い勝負だった」
「は、はい」
抱き合ってお互いの健闘を讃える俺とギルティーミルクさんに、みんなから暖かな拍手が送られる。
もちろん試合が終わってもう集中しなくても良いので、長めにハグをしてギルティーミルクさんのギルティーミルクの感触をしっかりと味わう。
『おめでとうございます。このゲームの初代日本チャンピオンは、エレファントマンさんです!!』
『ありがとうございます!!』
俺はカノンからトロフィーを受け取ると、観客席に向かってそれを掲げる。
『というわけで、エレファントマンさんにはこの夏にシンガポールで行われる世界大会に日本の代表選手として日本選手団の1人として参加していただきたいと思います』
『は!?』
ちょっと待って、それ、どういう事!?
俺は楓が指差した方向に目を向ける。
すると看板の隅っこの辺に、そのことについて書かれていた。
ちょっと待って、そういう大事な事はもっとでっかく書こうよ!!
『そして、来年スターズで行われる4年に1度しかない祭典ではe-sports競技の参入が認められ、この種目が正式な競技として採用される事が急遽決まったので、エレファントマンさんには全日本チクタク・アーチェリー協会から日本代表の強化選手として認められる事となりました。是非ともそちらも頑張ってくださいね』
『はあ!?』
待って待って、ただのファンコミュニティーのオフライン大会だろ!? 急に話が大きくなってないか!?
世界大会はまだしも、そもそもこんなクソゲーが4年に1度しかしない大会の競技に選ばれちゃダメだろ!! もっと他に、こう、なんか色々あるんだから、そっちのゲームを採用しなよ! 流石にこれはないってぇ!!
『それでは最後にもう一度、今日参加した全てのプレイヤー達とこの愛すべきクソゲーに拍手をお願いします!!』
『楓先輩、楓先輩。ファンコミュニティ主催の大会だけど、作成したゲーム会社もサポートに入ってるからクソゲーって言っちゃまずいですよ! ゲーム会社の人、あそこで笑っちゃってるけど!!』
はは、ははは……。俺は喜ぶ観客達の顔を見ながら、笑顔を引き攣らせた。
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