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白銀あくあ、本当に映しちゃいけない人。

「さぁ、残すところ後2問となりました。次の問題はパートナーに選ばれた人が解答者として控え室に向かってください」


 となるとうちの身内からは、丸男、小雛先輩、えみり、インコさん、アヤナの5人が選ばれるわけか……。

 みんながんばれよー。小雛先輩以外!!


「ちょっと、あんた、今、私以外は頑張れって思ったでしょ!!」

「思ってない思ってない!」


 なんで今の一瞬でバレるんだよ!?

 あの人、俺の心の中に盗聴器でも仕込んでるんじゃないのか……。


「さて、ここに残された皆様は次の問題が何なのか、気になりますよね?」

「はい」

「うん」

「ええ」


 俺たちは鬼塚アナの言葉に頷く。


「次の問題は一流の芸能人であれば、プロの監督が撮った映像作品と素人の監督が撮った映像作品を見比べたら、その違いがわかって当然だろうという問題です」


 マジかよ……。明らかに小雛先輩とアヤナとえみりが有利な問題だ。

 うちの丸男と楓のパートナー役のインコさんは大丈夫か?


「なお、プロの作品はこの方に撮っていただきました」

「どうも〜! 本郷弘子です」


 本郷監督が撮った作品なら、カメラワークが特徴的だからわかりやすいかもな。

 丸男がちゃんと本郷監督の作品を見ていればチャンスはある。

 孔雀と丸男のところには次のドライバーの話も来てるから、俺達が出てるヘブンズソードをちゃんと見て、自分達が出る次の作品に繋げてほしい。

 そういえば、本郷監督がうちのカノンと楓と琴乃とえみりで魔法少女物がやりたいと言ってたけど、あれはどうなったんだろうか? 琴乃が私は素人だし、人様の前で30歳女子が魔法少女とか絶対になしって断固拒否ってたっけ。

 俺としては熟女や人妻の魔法少女にはくるものがあるんだがな……。今度試しにやってみてほしいと、土下座でお願いしてみるか。


「そしてアマチュアの監督がこちらの方となります!!」

「皆さん、ごきげんよう。今日は孫娘がお世話になっています」


 メアリーお婆ちゃん!?

 これには俺だけじゃなくカノンもびっくりした顔をする。


「素人なりに頑張ってみたので、何人か引っ掛かってくれると嬉しく思います。ふふふ」

「お婆ちゃん……まじ?」


 鬼塚アナからコメントを求められたカノンがたじたじになる。

 ははは、身内が出てるってだけでも恥ずかしいよな。その気持ちわかるぞ。頑張れー。

 それにしてもお婆ちゃんが出てるって事は、あの撮影はそういう事だったのかと俺は納得する。


「そして、この問題に限り選択肢がAとB以外にCが用意されています。そして三つ目の選択肢を選んだ人は、それは絶対にあかんでしょという事で2ランク降格する事になります」

「「「「「えーっ?」」」」」


 おい、マジかよ……。

 丸男、お前、本気で頑張れよ!!


「というわけで、三つ目の作品を撮ってくれた素人さんはこちらの方です!」

「あくあちゃーん!! みってるー!? お母さんだよー。あれ? らぴすちゃん、これちゃんと映ってる?」

「母様、ちゃんと映ってますから。わわわ、そんなにカメラに近づいたらダメですよ」


 俺は豪華な椅子から滑り落ちる。

 恥ずかしいってレベルじゃない。

 しかも冒頭がちょっとだけお母さんのNTRビデオっぽいのやめてもらえますか!?


「白銀あくあさん、この事は知っていましたか?」

「知ってたら全力で止めてますよ!!」


 俺の反応にスタジオ内で笑い声が漏れる。

 らぴすも、しとりお姉ちゃんも、何よりも美洲お母さんも、みんな全力で止めてくれよ!!

 どう考えても俺が恥ずかしいだけじゃん!!


「はい、それでは解答者の準備ができたみたいです。その様子を見てみましょう」


 映像が切り替わると、アイマスクをつけた小雛先輩が映る。

 あっ、あのアイマスク、俺が休憩時間に描かされたやつだ。


「ふふっ、何あれ。もー、アイマスクで笑わせてくるのやめてくださいよ」

「あはは、本当にね。何、あれ? 目の位置からしてなんかおかしい気がする」

「確かに……どこをどう考えたら、ああなったんだろう。ふふっ」


 カノン? 楓? アイ? 何がおかしくてツボに入ったのかわからないけど、それ、お前達の愛する夫が真面目に描いたアイマスクだからね?


「それでは、アイマスクを外してください」

「はーい」


 小雛先輩はアイマスクを外すと、目の前のモニターに向かって真剣な顔を見せる。

 こういうところを見るとやっぱ女優なんだなって思う。

 それに、やっぱ黙ってたらちゃんと美人だよな。


「三つの作品には共通したテーマがあり、今回のお題は奇跡になります。それではAの作品をご覧ください」


 こちらのモニターにも映像が映し出される。

 最初に映し出された映像は、俺の歌う曲をバックに手書きで書かれたパラパラ漫画だ。

 俺に似た男がバイクを疾走させる。シーンが実写に切り替わると、その漫画を読んでいる1人のドレスを着た女性が映し出される。スタジオの中がその人物を見てざわめく。


「カノンさん!?」

「いや、若い時のメアリー様でしょ!」

「ううん、違う。これは……ナタリア?」


 そう、このMVで俺の相手役を務めたのはナタリアさんだ。

 お姫様のようなドレスを着たナタリアさんは、真剣な顔でその漫画を読む。

 すると、漫画の中にいる俺の絵と目が合う。

 次の瞬間、漫画の中にいる俺がナタリアさんにウィンクした。

 それを見たナタリアさんはびっくりした顔をする。いきなり絵が動いたら、誰だってびっくりするよな。

 ここで映像が漫画の中にいる俺と、実写のナタリアさんを中心としてぐるりと回転する。

 その角度によって、俺が実写になったり、ナタリアさんが漫画になったりして目まぐるしく変化していく。


 すげぇ。これどうやって作ったんだ!? すごすぎるだろ……。


 ナタリアさんは、恐る恐る漫画の中にいる俺へと手を伸ばす。すると、そのまま漫画の中へと飲み込まれてしまう。

 そして俺の世界にやってきたナタリアさんと漫画の俺がお互いに見つめ合う。

 再び、実写のシーンに切り替わると、部屋に入ってきたメイドさんが映し出される。

 メイドさんは机の上に置かれた漫画を見て呆れた顔をすると、漫画をくしゃくしゃにして持ってきたカートの中のゴミ箱に捨ててしまう。

 そのせいで、俺とナタリアさんが居た世界がぐちゃぐちゃになっていく。

 俺はナタリアさんを漫画の世界から外に出すために、彼女の手を引いて崩壊する漫画の世界から脱出しようとする。

 その息をもつかせぬ展開に司会の鬼塚アナも含め、みんなが固唾を飲んで見守った。


 ナタリアさんは、最終的に外の世界へと脱出できたが、漫画の中に居た俺はその中に取り残されてしまう。

 メイドさんに捨てられた漫画を探すために部屋から飛び出たナタリアさんは、涙目になりながらゴミの中を漁る。そうしてなんとかして見つけたクシャクシャになった漫画を、ナタリアさんはその場でシワを伸ばすようにして広げた。

 そこで奇跡が起こる。

 漫画の外に飛び出た俺がナタリアさんと実写の世界で対面するのだ。

 見つめ合う2人。こうして曲の終わりと共にMVが終わる。

 おお……なんて綺麗なMVなんだ……。

 俺は実際に完成した映像を見たわけじゃなかったから、普通にその完成度の高さに驚く。


「いやー、すごかったですね」


 ちょっと待って、凄かったとかいう次元を通り越えて、これは間違いなくプロの犯行でしょ!?

 お婆ちゃんは今すぐに監督デビューするべきだよ!! ていうか、この曲のMVもうこれでいいよ。


「白銀あくあさん、どうでしたか?」

「この曲、実はMVがなかったんです。今日からこれが公式になります」


 俺の言葉にみんなが沸く。


「実はこのMVに使われたパラパラ漫画は、メアリー様や藤蘭子会長、森長めぐみ社長が、羽生総理達を巻き込んでみんなで1枚1枚手書きで書いたそうですよ。なんでもメアリー様達の同人サークルは夏のコミバに出るそうなので、そちらも楽しみにしてください」

「嘘でしょ!?」


 カノンがびっくりした顔をする。いや、俺もびっくりだよ!!

 メアリーお婆ちゃん、本当に何やってんのさ!?

 流石の小雛先輩も、これは難しいだろうなと思った。


「小雛ゆかりさんどうでしたか?」

「素晴らしい作品だと思いました。ちゃんとこの4分の映像の中に起承転結があって、奇跡というテーマにも相応しい作品だったと思います。ただ……あくぽんたんが美化されてたところだけが、非常に気に食わなかったです」

「いやいやいや! 美化とかじゃないですから!!」


 別室の小雛先輩に突っ込む俺を見てスタジオの中が笑い声に包まれる。


「それではBの映像を見ていただきましょう」


 Bの映像は美しいピアノのメロディに合わせて花が開花していく映像だった。

 へー……あの花って、こんな感じで咲くんだ。綺麗だな。

 奇跡というか生命の神秘を感じる。

 多分、題材からして華道家の母さんが撮ったんだろうけど、あのふざけた紹介動画は本当になんだったんだろう。

 俺らは誰が監督をしているかわかってるから、映像を見ただけでなんとなく気がつけるけど、誰が撮ってるのかわからない小雛先輩達からすると難しいだろうな。


「Bの作品はどうでしたか?」

「いいと思うわ。それにしてもこれ、撮るの大変だったんじゃない?」

「はい。かなり大変だったと聞いてます」


 だろうね。こんなに上手く開花させるのって人の手じゃ無理だし、そう考えると奇跡って言葉はぴったりなのかも。母さんは運がいいからなあ……。


「それでは最後にCの作品をご覧ください」


 最後の映像は一言で言って凄かった。

 世界大会に出ているプロのアスリートや、海外で活躍するプロの表現者、世界的なプロのアーティストによる芸術の暴力。それに統一感を持たせて一つの映像に仕上げているところがすごいと思った。

 映像クオリティの高さに加え、最高のパフォーマンスの中に人間らしい生々しさ映し出されているのもポイントが高い。ちゃんと人が作ったものだとわかるところもいいな。奇跡のような業技の一つ一つにため息が出た。


「小雛ゆかりさん、Cの作品はどうでしたか?」

「これが正解じゃない? 素人にはわかりづらいけど、本当に細かいところに拘ってる所がプロって感じ」


 俺も小雛先輩の言葉に頷く。

 素人とプロじゃこだわるポイントが地味に違うかったりする。

 多分だけど、小雛先輩は薄々これが本郷監督の作った作品だと気がついてると思った。

 本郷監督らしいカメラワークはなかったけど、細かい癖が出てるんだよな。


「さすが小雛ゆかりさんです。外してくれたら面白かったんですけど、普通に当ててきましたね」


 俺は鬼塚アナの言葉にうんうんと頷く。

 映像が切り替わると、次に映し出されたのはアヤナだ。


「えー!? どうしよう……。全部クオリティ高いし、ちょっとわかんないかも。ただBは違う気がする。プロにしては主張が薄いというか、そんな感じがします。となるとAかCで、Cの方がプロみたいな感じするけど……Aが好きなんでAにします!!」


 あっちゃー。アヤナってば、そっちを選んじゃったか。まぁ、仕方ない。これはこの作品を作ったメアリーおばあちゃん達を褒めるべきだ。


「いいですね。アヤナちゃんのそういうところが好きです!!」


 鬼塚アナ、個人的な贔屓が入ってますよ。わからなくはないですけど!!

 映像が切り替わると、真剣な顔をしたえみりが映る。


「これはCですね。理由……? なんとなく、感性です」


 あっ、このキリッとしたドヤ顔は、いい加減な事を言ってる時のえみりだ。

 カノンと楓もその事に気がついてるのか、2人とも微妙な顔をする。

 再び映像が切り替わると、次に映されたのはインコさんだ。


「これはBやな! だって三つの映像の中で一番綺麗やんか!!」

「インコォォォオオオオオ!」


 あーあ、やっちまった。2ランクダウンだ……。

 楓の反応にスタジオ内が笑いに包まれる。楓……どんまい!

 その後も他の芸能人達が続く。

 そして最後に出たのは山田だ。


「うーん、好きなのはAかBなんだけど……だからこそCかなあ。選んだ理由はネガティブだけど、ある意味で自分を信じてみようと思います」


 丸男……お前、すごいよ。

 俺は席を立つと、感動で涙を流しながら拍手を送る。


「それでは正解発表の時間です!!」


 鬼塚アナはは扉をガチャガチャさせずに、少しタイミングをずらしてCの部屋に入る。


「おめでとうございます!」

「しゃー!」

「やったあ!」

「ふっ、私はわかってましたよ」


 一見すると余裕そうだけど、えみりは内心ドキドキだったんだろうなあ。

 それぞれの部屋から参加者達が戻ってくる。


「まろん先輩すみません」

「いいっていいって」


 まろんさんがアヤナを慰める。

 どさくさに紛れて俺の事も抱きしめてくれないかな。


「くっ、すまん。楓……」

「大丈夫大丈夫、私に任せろ!!」


 こっちは不正解続きだが空気は悪くなさそうだ。

 次のラスト問題は頑張ってな。


「あくあさぁん! 俺、俺、やりましたよ!!」

「丸男、お前、本当によくやったよ。2問とも正解するなんてすごいじゃないか!」


 俺は丸尾とハイタッチする。

 よーし、こうなったら最後の問題も正解して、全問正解目指すぞ!


「それではAを選んだ人は1ランク降格、Bを選んだ人は2ランク降格になります」


 俺と丸男、カノンとえみりは変わらず一流芸能人。

 小雛先輩とアイは二流芸能人でステイ。

 アヤナとまろんさんは三流芸能人に降格。

 そして楓とインコさんは2ランク降格して、他人の空似さんを通り越えて映す価値無しの人になった。


「えっ? もしかしてこれ映ってないの?」

「嘘やろ!?」


 楓とインコさん2人が騒ぐ。


「はーい。静かにしてくださーい。映す価値なしの人は、司会者権限でミュートさせていただきます!」

「そんなぁー!」

「うがーーー!」


 っていうか、2人とも何もないじゃん。

 椅子どころか敷物すらない。2人とも、裸足で地べたに正座させられていた。


「それでは最後の問題です。最後の問題では、正解したら1ランクアップとなるので、頑張ってくださいね!」

「ヤッタァアアア! 画面に映れるぞおおお!」

「ヨッシャアアア! 楓がんばれえええええ!」


 楓とインコさんの2人が盛り上がる。


「解答者の方は控え室にどうぞ」


 俺は丸男に言ってくると言うと、控え室に向かう。

 もちろん俺の順番は最後だ。


「それでは白銀あくあさん、最後の問題です。心の準備はよろしいですか?」

「はい」


 控え室から移動した俺は、スタッフの人にアイマスクを外される。


「正解はどっち!」


 問題と共に、俺の目の前に2人のとあが出てくる。


「右です!」

「正解です!!」


 しゃーっ!

 って、え? 何この問題?


「どういうこと?」

「とあちゃんとスバルちゃん、2人に同じ格好をさせて本当の男の子はどっちかって問題でした。白銀あくあさん、正解、おめでとうございます!」

「「「「「おめでと〜!」」」」」


 って、よく見たら、周りにみんながいる!?

 俺は周りに祝福されながらも席を立つ。


「えー、事前にお伝えしたとおり、最後の問題で正解した人は1ランクアップとなります。一流芸能人の白銀あくあさんと、山田丸男さんは、番組始まって以来初めての超一流芸能人になります!! おめでとうございました!!」


 うおおおおおおお!

 俺は丸男と抱き合って喜ぶと、ひな壇の一番奥にある玉座のような椅子に座る。


「ところで他のみんなはどうだったんですか?」

「残念ながら、あくあ様ともう1人を除いて他の皆さんは外されてしまいましたが……正解した人も……」

「尊い犠牲やった……」


 あれ? インコさんの席にゴザが敷かれている。

 ていう事は、楓が正解して映す価値のない人から他人の空似さんに格上げになったって事?

 あ、あれ? それなら楓は一体どこに……。


「えー、森川楓さんはちんち……放送禁止用語を使ってしまったので、その……本当に映してはいけない人になりました……」

「あれは悲しい出来事だった」

「当てたのすごかったのにね」

「うんうん、私達も盛り上がったよね」

「さすがはティン……んんっ、森川さんだって思ったのにね」


 みんなが沈痛な表情になる。

 楓、お前、一体何を言ったんだよ……。

 俺は玉座に座りながらも、最後はなんとも言えない表情で収録を終えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] そういえば持ってたなぁ…ソムリエ
[一言] なんたらソムリエ取ったばっかりに……(ノ∀`)
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