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白銀あくあ、一流芸能人の品格。

 一流芸能人には品格が必要だ。

 その品格を審査してくれる番組があるらしい。

 俺は男性芸能人を代表して、その番組に出演する事になった。


「それでは今日のスペシャルゲストの白銀あくあさんです。どうぞー!!」

「どうもこんにちは、白銀あくあです!! 今日はよろしくお願いします!!」


 俺は司会の鬼塚アナと談笑する。

 もしかしたらワンチャンあるかもしれないと思ってワクワクした気持ちで現場入りした俺は、鬼塚アナの手首にリストバンドがなくて絶望した。

 あのシステム考えたやつ誰だよ!! 俺だよ!! なんだよリストバンドって!! リストバンドのせいで俺の精神がゴリゴリのゴッリゴリに削られただけじゃねぇか!!

 俺の自尊心はもう壊滅的だよ!!


「そして、白銀あくあさん以外のゲストの皆さんがこちらになります!!」

「ちょっとちょっと! 鬼塚パイセン、紹介が雑過ぎるにも程があるでしょ!!」


 楓が他の参加者達より先に、お笑い芸人さん並みのスピードで前のめりでカメラの前に入ってくる。

 さすがは楓だ。こんなアナウンサー、俺の世界でも見た事がない。

 バラエティ番組にかける意気込みと勢いが違う。ただ、それがアナウンサーとして正解なのかはこの俺にもわからない。楓は俺の知る限り、この世界で一番おもしれー女だ。


「ゲストの皆さんです!」

「紹介も雑すぎる!! 国営放送さぁ! 私はいいけど、他の人はもうちょいちゃんと紹介してあげなよ!! そういうとこ、国営の傲慢さが出てるぞ!!」


 アナウンサーっていうのはフリーを除いて、その放送局に雇われている会社員のようなものだ。

 それなのに楓は雇用主である国営放送にも容赦がない。普通なら考えられない事だが、森川楓という人間は、えみりも言ってるけどそういう次元で生きてないんだよな。

 やっぱり楓と結婚してよかった。こんなおもしれー女、他にはいない。

 俺は参加者の中に混じっていたカノンとアイの2人に視線を向ける。カノンは妊娠中なんだし、あんま無理しないように見とかなきゃな。


「はいはい、時間がないから次に行きますよ〜」


 さすがは鬼塚アナだ。楓のあしらい方を熟知してやがる。


「えー、今日のスペシャル放送ではいつもの放送とは違いまして、一流芸能人の方達にはコンビを組んで参加してもらいたいと思います」


 えっ? マジ? そんなの聞いてないんだけど!?

 うわー、俺のコンビは誰だろ。えみりかな? アヤナかな? 誰がくるか楽しみだー。


「それでは白銀あくあさんのパートナーとなる方に入場していただきたいと思います! どうぞ〜!」


 俺は期待で胸をワクワクドキドキしながら、ゲストの入場口を見つめる。


「ちょっと! いつまで待たせんのよ!! こっちは6時間も前からスタンバってんのよ!!


 俺は小雛先輩の登場にズッコケる。

 なんとなくわかってたけどさあ!! もう少し夢くらい持たせてくれたっていいだろ!!


「チェンジで!」

「はあ!? 誰がチェンジよ!! 私のコンビは白龍先生よ!」

「ええっ!? わ、わ、私!?」


 じゃあ、なんで最初に飛び出てきたんだよ!?

 全くもって紛らわしい事、この上ない……。あ、アイは頑張って。


「えーと、それでは改めまして白銀あくあさんのパートナーさん、どうぞー!」


 鬼塚アナのコールに合わせてカチンコチンに固まった丸男が手と足を同時に出しながら入場してきた。

 ああ……。だから小雛先輩が先に入ってきたのか。

 これでも多分、少しは緊張がほぐれた方なんだろうな。


「おい、丸男、大丈夫か!? お前、顔が真っ青だぞ!!」

「あ、はい……。本当は孔雀が出る予定だったんだけど、夏風邪で熱が出ちゃって急遽代わりに俺が……」

「あぁ……」


 そういう事なら後であくあ特製スペシャルうどんを作りに行くか。

 風邪といえばお粥とうどんは定番だからな。今日は特別にお揚げにわかめに梅干しまで入れてやろう。


「それでは次に白銀カノンさんのパートナーに入場してもらいましょう。どうぞ〜!」

「らぴすちゃんかな? アヤナちゃんかな? 誰かな〜?」


 まるで先ほどの自分を見ているようだ。カノン、あんまり期待しない方がいいぞ〜。

 その予想が当たったのか、カノンは両手を挙げて入場してきたえみりを見てなんともいえない顔をする。

 カノンの反応とは違って、観客席からはえみりの登場で歓声が湧く。


「カノン、私が来たからには安心しろ!」

「本当かなぁ……」


 カノンとえみりの隣に立っていた楓がニヤニヤした顔を見せる。


「カノン、ハズレ乙」


 おい、楓! それは盛大なフラグだぞ!!


「それでは次に森川楓さんのパートナーに入場してもらいましょう。どうぞ〜」

「姐さんこい! 姐さんこい! 姐さんこい!」


 楓……琴乃は裏方だし絶対に出ないぞ。

 全員の視線がゲストの入場口に向けられる。

 しかし、誰も入場してこない。あれ? トラブルか?


「楓のパートナーは、うちや!!」


 あ、この声はインコさんだ。

 入場口の上に設置された大画面のモニターにインコさんの姿が映る。


「ハズレきたー!」

「誰がハズレや! 楓と組まされるうちかてハズレやろ!!」


 そこ、パートナー同士で喧嘩しちゃダメだよ〜。


「ハズレ乙」

「ぐぬぬぬぬ!」


 えみりも楓を煽るんじゃない。

 まぁ、これも仲がいい証拠か。


「それでは次に城まろんさんのパートナーに入場してもらいましょう。どうぞー」

「よろしくお願いします」


 おっ、アヤナだ!

 eau de Cologneの鉄板コンビかー。これは手強そうだな。


「まろん、うちのインコと交換しようぜ!」

「なんでや!」

「いやいや、まろんさん。うちのえみり先輩と交換しましょう」

「なんだってぇ!?」


 詰め寄る楓とカノンの圧にまろんさんがタジタジになる。

 鬼塚アナは首にぶら下げていたホイッスルを口に咥えて音を鳴らす。


「パートナーの交換は禁止ですよ〜」


 司会が鬼塚アナでよかった。

 首根っこを掴まれた楓がおとなしくなる。


「はい、皆さんおとなしく席に着いてくださいね〜」


 笑顔の奥に般若の顔が見える。

 先ほどまでの騒がしさが嘘のように、全員がおとなしく自分の席に着席した。

 すげぇな。あの小雛先輩すらおとなしく従っている。

 対小雛ゆかり専用のリーサルウェポンとして鬼塚アナを口説くのもありか。

 鬼塚アナは他の参加者達のパートナーを紹介する。


「それでは最初のお題です」


 全員の視線が鬼塚アナに向けられる。

 丸男、大丈夫か? 俺は緊張してる丸男にリラックスリラックスと声をかけた。


「一流芸能人の皆さんは、きっと毎日毎日、信じられないほど美味しい料理を食べてる事だと思われます。だったら、素人が作った料理と一流のシェフが作った料理の違いくらい目隠しをしていても余裕で解っちゃいますよね?」


 いやいやいや、毎日毎日、外で美味しいものばっかり食べてたら痛風とか糖尿病とか高血圧になっちゃうよ。

 俺も外食はあまり増やさないようにしてるし、外食をする時はちゃんとカロリー計算しながらご飯を食べてる。

 それこそアイドルにとって体型の管理も仕事の一つだしな。


「それでは、各チームお互いに話し合って最初の解答者を決めてください」


 確か今回答えなかった方が次回の問題で解答者になるんだっけ?

 次の問題が何かはわからないけど、最初は手堅くポイントを取りに行きたい。それに、緊張してる丸男のためにも、ここは先輩としてしっかりとポイントを取ってかっこいいところを見せとくか。


「丸男、最初は俺が行くわ」

「は、はい!」


 俺は座っていた豪華な椅子から降りると、問題が出題される部屋へと向かう。

 お題はチャーハンか……。楽しみだな。

 最後の解答者に選ばれた俺は、控え室の椅子に座って自分の順番を待つ。


「白銀あくあさん、この目隠しをつけてください」

「はい!」


 俺は目隠しをつけてスタッフさんの誘導で料理が用意されたテーブルにつく。


「これ右側に置いてあるのは、どっちのチャーハンですか?」

「Aです」

「じゃあ、Aで」


 俺の答えにスタッフの人の言葉が詰まる。


「え?」

「あ、匂いでわかりました。とはいえ、せっかく作って頂いたのに食べないのは失礼に当たるので、よろしくお願いします」

「え、えっと……それではまず最初にAのチャーハンから」


 俺は困惑するスタッフさんにチャーハンを食べさせてもらう。

 まず口の中に広がるのは香ばしい醤油の匂いだ。お米もちゃんとパラパラだし、卵もうまくお米に絡んでる。

 玉ねぎやにんじんの甘みも感じられるし、胡椒やネギの香りも効いていてとても美味しい。

 素材の味を活かしつつ、シンプルかつ完璧な黄金比で作られたチャーハンだ。


「次にBのチャーハンになります」


 おお! 葱油の味がガツンとくる。それに加えてこのチャーシューの濃厚な肉の味。おまけに臭みを消すためにちゃんと生姜も入れてあるな。もちろんこちらもお米はパラパラだし、卵の味がしっかりと感じられる。

 なるほどなぁ。


「やっぱりAですね」

「それはどうしてですか?」

「Bのチャーハンは普通にお店で出てきてもおかしくないです。ただ……Aの方が香りが豊かなのと、匂いがくどくないというか……うーん、Bは葱油を使いすぎてるのがひっかかりました」


 これで外してたら目も当てられないが、俺は自分の感覚を信じる。

 目隠しを外した俺は、Aの部屋の扉を勢いよく開く。


「ほらー、やっぱりAじゃない!!」

「あくあ様、やったあああああ!」


 えっ? 小雛先輩とえみりしかいないの?

 嘘でしょ!? 流石にこれは外したか……。えみりは信用できるけど、小雛先輩と一緒かあ……。


「ちょっと、なんで不満げな顔してるのよ!」

「いやあ、小雛先輩と一緒なのがちょっと……」

「はあ!? ゆうおにの撮影してた時にあんたがチャーハン食べたいって言うから、私がホテルの中華に連れて行ってあげた恩を忘れたわけ!?」


 そういえばそういうことあったなぁ……。

 でも、あの時は俺達意外にもアヤナとか他にも5、6人いたでしょ!


「あくあくーん!! そっちは小雛先輩とえみりだから確実にハズレだよ! なんでそっちに行っちゃったのー!?」


 楓……俺は楓のそういうポジティブなところも、その根拠のない自信があるところも、自分の事を100%信頼しているところも、全部大好きだぞ。


「あくあ君、今なら誰も見てないからこっそりBに来ても大丈夫だよ!!」

「いやー! あくあ様、Aに行かないで!!」

「ううっ、あくあとゆかり先輩があっちだって事は……」


 他の参加者達も俺のAの部屋に入って騒ぐ。

 あ……楓だけじゃなくて、アヤナもそっちか。

 俺はBの部屋のみんなに手を振りつつ、広いソファを小雛先輩とえみりと俺の3人で優雅に使う。


「それでは正解を発表したいと思います!」


 扉のノブがガチャガチャと回転する音が聞こえる。

 どうやら鬼塚アナが隣のBの部屋とAの部屋のノブを交互にガチャガチャしているようだ。


「正解は……」


 テーブルの上に置いてあるモニターでBの部屋を確認すると、自信満々で待ち構える楓をよそに、他の人たちは祈りような姿勢で入り口を見つめる。


「Aです! 一流芸能人の皆様。おめでとうございまーーーす!!」

「やったー!」

「しゃあっ!」


 えみりと小雛先輩が部屋の中に入ってきた鬼塚アナを抱きしめる。

 くそっ、余裕のあるふりをしていたら完全に出遅れた!! ぐぬぬぬぬ。俺もその間に入っていいですか!?


「かえでー! お前、あんなに自信満々やったのに外しとるやんけ!!」

「がーん! ゼッタイニ アタッタト オモッタノニ……」


 楓どんまい。俺は楓の肩をポンと叩く。


「まろん先輩すみません……」

「いいのいいの。大丈夫だから。ね?」


 アヤナに混じってまろんさんに褒めてもらおうとしたら、後ろに居た小雛先輩にジト目で睨まれた。

 はいはい、ちゃんと自分の席に戻りますよ。


「Aの料理は世界の名店ベスト100に選ばれたお店のチャーハンです。白銀あくあさんは香りでわかったと言いましたが、チャーハンの香りづけにとても工夫をしているそうで、奥行きを出すために特殊な調合のスパイスと甲殻類から取った油を使っているそうですよ。正解した3名の一流芸能人の皆様、何よりも香りだけで正解に導いた白銀あくあさん、お見事でした」


 俺は豪華な椅子に座ってうんうんと頷く。


「そしてBのチャーハンですが、それを作ったのはこちらの方になります」


 大画面のモニターに見知った人の顔が映る。


「グゥレイトォ!」


 天我先輩がダイナミックに中華鍋を振るう。


「天我特製葱油増々焼豚炒飯の完成だ! さぁ、召し上がれ!」


 そういえばベリルアンドベリルでお料理対決があるから、自宅で春香さんに教えてもらいながら2人で料理を作って勉強してるって言ってたっけ。

 今回の結果を見るとその成果が十分に出たようだ。実際に、俺とえみり、小雛先輩の3人以外は天我先輩のチャーハンを選択したのだから、大したものだと思う。

 元より天我先輩は理数系だし、料理をするのに向いていると思っていたのでこの結果も意外ではない。


「というわけで、Bは天我アキラさんの炒飯でした。ご協力ありがとうございます!!」

「天我君のチャーハンだって!?」

「あわわわわわ!」

「くっ、私が料理の問題に出てれば」

「くそおおおおお!」


 Bのチャーハンが天我先輩のチャーハンだとわかって現場が騒然となる。

 食べられなかった方は悔しがり、運よく食べられた人の中にはびっくりすぎて泡を吹いて倒れる人までいた。


「えーと……10分だけ休憩を挟みたいと思います」


 うん、その方がいいだろうな。

 そのタイミングで丸男が俺に話しかけてくる。


「あくあさん……みんなが審査してる間、俺たちも食べたんですけど、俺……全然分かりませんでした」


 俺は落ち込む丸男の肩をポンと叩く。


「大丈夫。お前が外れても俺が当てるから、チームで頑張ろうな!」

「はいっ!」


 俺は丸男を元気付けると、小さなモニターでさっきの回答の様子を見て、変なアイマスクをつけた小雛先輩のターンでゲラゲラ笑った。

 するとすぐ後ろに居た小雛先輩に頭を叩かれる。


「人の事を笑ってるけど、あんただって、めちゃくちゃすけべそうな顔のアイマスクつけてたわよ」

「嘘でしょ!?」


 本当じゃん! ははは、なんだこれ!? でも、長く見てると意外とこれも悪くない。

 俺は自分の出演シーンを見返して小雛先輩と2人でゲラゲラと笑った。

 これで間に挟まれた丸男の緊張が少しでも解けるといいな。頑張れよ。丸男!

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