白銀あくあ、聖クラリス訪問。
男なら一度は憧れるハーレム生活。もし、自分がそうなったら朝から晩まで気に入った子を片っ端から抱いて行こうと思っていた。
「くそおおおおっ! あからさますぎるリストバンドのせいでタイミングを失っちまったあああああああ!」
俺は地べたに両手と両膝をついて絶望する。
しかもリストバンドをつけてたらすぐに声をかけようとした女の子に限って、リストバンドをつけてない。
あ、あれ? 俺ってもしかして本当はモテてないのか?
いや、そんな事はない。き、きっと、みんな恥ずかしがってるだけなんだよな!? そうだと言ってくれ、アヤナ!! 俺の頭の中に現れた大怪獣ゆかりゴンが「ばーか、ばーか」と煽ってくる。
くっ……! リストバンドを見せびらかしながら、「私の椅子になるならつけてあげてもいいわよ」ってなんなんだよ!! 迷わず椅子になろうとしたら、「もっとプライド持ちなさいよ」って説教されたし、俺はどうしたら良かったんだ!?
まぁ、いい。相手は小雛先輩だ。深く考えるだけ無駄だよ無駄無駄。
とりあえず偉い人達が新しいシステムを開発してくれるまでの間は、近しい人達は小雛先輩を除いて恥ずかしがってるだけだと思う事にする。うん、そうしよう。
「よし、とりあえず誰かに声をかけよう!」
自分から提案しておいて使わないのは流石にないよな。
かといって誰でもいいというのは違う気がした。
俺はもっと自分の性格を考えて提案するべきだったと少し後悔する。
みんな、深く考えずに声をかければいいんだよって言うけど、このシステムは俺にはハードルが高すぎた。俺の頭の中に再び大怪獣ゆかりゴンが「ばーか」と言いながら通り過ぎていく。
そんな事を今更言われなくてもこっちは分かってるんだよ!
よし、ここは一旦、今後も関係が続くであろう知り合いだけに絞って声をかけてみるか。
「うーーーーーん」
誰がいるかなぁ。
アヤナや小雛先輩もそうだけど、当然の如く阿古さんや揚羽さんもリストバンドをつけてなかった。
俺は学校の近くにある公園に行くと、ベンチに座って目の前を通り過ぎていく中学生達を見つめる。
一回、俺も年下の女の子と付き合ってみるか?
そんな事を考えていたら、妹のらぴす達が通っている聖クラリスに辿り着いた。
「あ、あくあ様!?」
「きゃー! かっこいー!」
「らぴすちゃんを迎えにきたのかな?」
「リストバンドをお見せするのは、流石にはしたないかしら?」
「あくあ様、私のお兄様になってくれないかな?」
前に来たことあるけど、やっぱり聖クラリスはおとなしい子が多いな。
きゃーって言ってても小さな声だし、リストバンドだってわざとらしくアピールしたりしないし、遠巻きにこっちを見ているだけだ。
「せっかくだし、らぴす達の様子でも見ていくか」
俺は学校の敷地内に入ると事務局に行く。
「うちの子達の様子を見にきました」
「はい! どうぞ〜!!」
聖クラリスにはフィーちゃんも通ってるし、ハーちゃんも小等部にいる事もあって、俺はらぴすも含めた保護者として顔パスで聖クラリスに入る事ができる。
校舎に足を踏み入れた俺はまずハーちゃんに声をかけようと小等部の校舎へと向かう。
その途中で女子達の話し声が聞こえてきた。
「ねぇねぇ。あくあ様の例のアレってさ。私たちにも売ってくれるのかな?」
「えー? どうなんだろ」
「女の子なら買えるんじゃないの?」
「まじ? 私も買えるかな……」
誰か、俺のことについて話してる子達がいるな。
俺は窓からクラスの中を覗き込む。
「あ」
俺はそこで見知った顔を見つけて思わず声を漏らしてしまう。
「あーっ、あくあ様だー。こんなところでどうしたんですかー?」
「ふ、ふらんちゃん!? えっ? ふらんちゃんって聖クラリスだったの!?」
ちゃんと制服を着ているらぴすと違って、ふらんちゃんはスカートも短めだし、なんかこう……全体的に聖クラリスっぽくない。ていうか友達もみんなそんな感じだし……これって、アレか? ギャルか!?
さ、最近の小学生ってすごいな。
「あれ? 言ってませんでしたっけー? 私、こう見えてもお嬢様なんですよー」
「初めて知ったよ……」
俺はふらんちゃんの腕を見る。
残念ながら手首にリストバンドがない。やべぇな。ここまで知り合いの手首にリストバンドがないと俺も自信を失ってしまいそうだ。
「あれれー? もしかして、あくあ様ってば、ふらんの手首にリストバンドがあるかないか確認しましたー?」
「い、いや、別に……」
俺は咄嗟にふらんちゃんから目を背ける。
くっ、俺の周りにいるぼーっとした子達と違って、ふらんちゃんは色々と鋭いな。
「あくあ様、あくあ様」
ふらんちゃんはつま先立ちで俺の耳元に顔を近づける。
くっ、これで小学生なら、大人になった時はどうなるんだ!?
「私もまろん先輩もアヤナ先輩に気を遣って付けてないだけですから、気にしないでくださいね」
「えっ?」
そ、そうだったのか。
でも、気を遣ってって、どういうことだろう?
「あくあ様ってば、かわいー。もしかしてあくあ様って、かっこいいのに結構ポンコツだったりします? ふらん、そういうお兄さん、可愛くて結構好きですよ」
くっ、ふらんちゃんに可愛いなんて言われてちょっと嬉しい自分がいる。
小学生のふらんちゃんにただでさえぐらついてるのに、ふらんちゃんが俺より年上だったらどうなるんだろう?
「よく考えてくださいよ〜。あの拗らせてるアヤナ先輩が、好きな異性に対して素直なわけないじゃないですか〜」
うおおおおおお! た、確かに、言われてみたらそんな気がする。
って、あれ? 俺、ふらんちゃんにアヤナが手首にリストバンドをつけてなくて凹んでるって言ったっけ? あ、あれ? もしかして俺の考えている事が読まれてたりとかしないよね?
「それと、リストバンドって長さも自由だし、手首につけなきゃいけないってルールはないんですよ」
「えっ?」
ふらんちゃんは困惑する俺の目の前で、首につけていたチョーカーをずらす。
するとそこにはリストバンドが巻かれていた。
「ほら、心配しなくてもふらんは最初からあくあ様のものだし、あくあ様がアヤナ先輩をもらう時には、まろん先輩とセットでついていくので覚悟しておいてくださいね」
まろんさんとセットだってぇぇぇええええええ!?
いやったあああああああああああああああああ!!
俺は心の中で勝利の雄叫びをあげる。
「ふふっ、あくあ様だけに特別な夜のライブを開催したっていいんですよ。もちろんアイドルの時の衣装を着て」
ふぁああああああああああああああ!
ふらんちゃん、いえ、ふらん様! 本当にありがとうございます!!
「あくあ様、そういうわけだから、早めにあの頑固なアヤナ先輩を攻略してくださいね。ふらんとまろん先輩も協力しますから、ね?」
頑張る。俺、頑張るよ。ふらんちゃん!!
ふらんちゃんは再び俺の耳元に顔を近づける。
「ふらんはまだ男の子と手も繋いだ事がないから、デートする時はちゃんとリードしてくださいね」
だ、ダメだ。ふらんちゃんと一緒にいると、どうにかなってしまいそうな自分がいる。
俺は自らを見失い倒錯する前に、ふらんちゃんにお礼を言って教室を出た。
「……パパ、こんなところで何してるの?」
教室を出たタイミングで、偶然出会ったハーちゃんにジト目で見つめられる。
ま、まさか、さっきのやりとりを見られてないよな……?
「その教室、eau de Cologneの来島ふらんさんが居る教室だよね?」
くっ! 抜けてるカノンと違ってヴィクトリ様といいハーちゃんといい、なんでこんなにしっかりしてるんだ!!
スターズの民の間じゃカノンが一番しっかりしてるって話だったけど、絶対に嘘だろ!?
「もしかして、パパ……」
迫ってくるハーちゃんに俺はドキッとする。
「私達の事を見捨ててeau de Cologneのプロデューサーになったりしないよね?」
ふぅ……。セーフ!
よかった。ヴィクトリア様もそうだけど、ハーちゃんもこういうところはちょっとズレてるんだよね。
「大丈夫だよ。俺がみんなのプロデューサーから外れるわけないから」
「本当?」
ハーちゃんは大きな目で俺の事をジッと見つめる。
こうやってちゃんと顔を見るとカノンと似てるよな。
もし、カノンが小学生だったらこんな感じだったのか……。
これはもう全人類が倒錯するレベルの美少女だよ。
「本当だよ。俺以外の奴がハーちゃんのプロデューサーになるなんて絶対に嫌だしね」
「嬉しい」
ハーちゃんは俺にギュッと抱きつく。
可愛いな。俺はそのままハーちゃんと手を繋ぐと、他のメンバーのところへと向かう。
「あれ? あくあおにーさん、こんなところでどうしたんですか?」
スバルたんの白セーラーきたあああああああああああ!
くんくん、くんくん……しかもこの制汗剤の爽やかな匂い。もしかして最後の授業は体育だったのかな?
「ちょっと、みんなの様子を見にきただけだよ。ところでらぴす達は?」
「今、体育の授業が終わって、ロッカーで着替えてる最中だと思いますよ。私は忘れ物を取りにちょっとだけ教室に向かってるところなんで」
「らぴす達とは、どこかで待ち合わせしてる?」
「はい。今からみんなで新曲のダンスの練習しようって、フィーちゃん達とも校門の入り口で待ち合わせしてます」
そういえば、みやこちゃんが言ってたな。
最近は色々と忙しくて、レッスンの管理はみやこちゃんに任せっきりになってる。
よし、久しぶりに俺もプロデューサーとして熱血指導するか。
「に、兄様!? どうして聖クラリスに!?」
「たまにはらぴす達の様子を見ておきたくてな」
俺はいつものようにデレデレした顔で、可愛いらぴすの頭を撫で撫でする。
「パパー! フィー、水泳の授業で今日一番とったのじゃ!!」
「おー、よかったな。フィーちゃん」
フィーちゃんは俺の背中に飛びつく。
水泳部に所属してるフィーちゃんは前にマリンスポーツやってみたいって言ってたし、夏はえみりと相談してハーちゃんと一緒に海にでも連れてってあげるか。
俺も今年の夏は遊びたいし、今年は個人として夏コミに一般参戦する事が決まってるし、何よりもえみりから提案された計画のためにも、阿古さんにもまとまった休日が欲しいとお願いしてある。
もちろん仕事がない事はないけど、今年の夏は少しゆっくりできるといいなと思った。
「あくあ先輩、こちらにきてたんですね」
「ああ、一年はさっき授業が終わったのかな?」
「はい!」
ありがたいことに乙女咲は単位さえとっていれば午後の授業は出席しなくていい日がある。
その単位の取得だってオンラインの授業で夜や休日などの空いた時間で取れるし、課外活動のボランティア運動、部活動、勉学に関する論文の提出、一般企業や公共機関へのインターンなど、様々な形で補填することが可能だ。
そういう意味で乙女咲はいいと思ってる。やりがいがあるというか、自分から行動する俺みたいな奴にはうってつけの学校だ。
「そういえば、えみりって今、くくりちゃんのクラスで教育実習してるんだっけ?」
「はい。再度の教育実習で他の学校にご迷惑をおかけするわけにもいけませんし、それならえみりお姉ちゃんは私の監視下に置いておいた方がいいと判断したんで」
くくりちゃんは笑顔だが、なぜか俺の背筋がゾクリと震える。
えみりは一体、何をやらかしたというのだろう。あの日の授業の事を聞いても、カノンやアヤナはもちろんのこと、ペゴニアさんやクラスのみんな、授業を行ったえみりでさえ何も教えてくれなかった。
俺達はくくりちゃんの用意した車に乗って、ダンススタジオのあるベリルの本社を目指す。
「はい、それじゃあ最初から通していきます!」
俺は後ろのパイプ椅子に座って、みんなに声をかけるみやこちゃんの様子を伺う。
みやこちゃんは裏方の仕事が楽しいらしく、俺が言わなくても細かいところまでちゃんとやってくれている。
あの時、本人から裏方をやりたいと聞かされて、良いよって言ってよかった。
「プロデューサー、どうですか?」
「良いよ。良いけど、良過ぎる……というか、型にハマりすぎてるな」
俺はパイプ椅子から立ち上がると、みんなに少しだけ手本を見せる。
「わかるかな? みんなはおそらく先生のお手本通りにパフォーマンスをやってるんだろうけど、これを実際にやるのは先生じゃなくてみんなだ。もっと、ミルクディッパーらしい色を見せてくれなきゃ。ファンだってきっとそれがみたいんじゃないのかな」
みんな真剣な顔で俺の話に耳を傾ける。
「言っておくけど、完璧にできてるのは良いことだ。色を見せるのもちゃんとした基礎があってこそだからね。みんなここまでできるようになってるなんてすごいよ。みんなちゃんと頑張ってるね」
俺が褒めるとみんなの顔から笑みが溢れる。
「さぁ、もう少しだけ練習して今日は終わりにしようか。あんまりやり過ぎるのも良くないしね」
俺達はもう少しだけ練習してから解散する。
結局、当初の目的を忘れて普通に指導する事に熱が入ってしまった。
いや、これで良いのか? うん、良いってことにしておこう!!
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