天我春香、2年A組天我先生!?
最初に出てくる教育実習生えみりの話は、なろうだと通してくれないのでこちらでは公開できませんでした。すみません。
今日はテレビでアキラ君が教育実習に行った時の映像が放送される日だ。
1人だけ大学生のアキラ君は、教育実習で乙女咲に行くのを楽しみにしてたのに、なぜかその時の事を私には一切話してくれない。
だから私はこの日をすごく楽しみにしていた。
「あっ、始まった」
私はテレビを食い入るように見つめる。
【2年A組、天我先生!!】
タイトルとともにロン毛を靡かせながら1人土手を歩くスーツ姿のアキラ君が映し出される。
わー、すごーい! なんかすごく先生っぽい!!
あれ? でも、乙女咲の近くにこんな土手なんかあったっけ?
わざわざこのシーンのためにみんなで土手に行ったとかは流石にないだろうし、多分、私が知らないだけできっと近くに土手があるのよね。うん。
『今日から教育実習生として2年A組を担当する天我アキラ先生です。拍手』
アキラ君に対して2年A組の皆さんから暖かな拍手が飛ぶ。
わー、よかったね。アキラ君。
でも、その中に3人だけ拍手を送らなかった生徒が居た。
「あ、あれ? みんな?」
あくあ君、慎太郎君、とあちゃんの3人は、何故か教室の中でアキラ君が持ってるのと同じサングラスをかけていた。えっと、みんなどうしたの?
それを見た担任の杉田先生は突っ込んでいいのかどうか、困惑した表情でカノンさんに助けを求める。
『教育実習生? けっ、男かよ。こっちはえみり先生が1日でクビになって荒れてるんだよ!』
えみりちゃんは、一体何をやらかしたんだろう……。気になる。
それに7月が来るのに、あくあ君達は冬服の学ラン着てて暑くないのかな?
確か衣替えって6月初めだよね。
『あくあ、それ完全に八つ当たり……』
あっ、とあちゃんのダボダボ学ランかわいい!
よく見たらサングラスも大きめでサイズがあってなくて片側がちょっと傾いてる!
『お……俺ら腐ったほにゃららの事は放っておけよ』
黛君ー! セリフ噛んでるよー!!
あっ、黛君って育ち良さそうだし、そういうのやり慣れてないから適切な言葉が思い浮かばなかったのかも。
『不良の生徒だと!? 我はそういうのを待ってたんだ!!』
3人を見たアキラ君が感動で震える。
あー、そういえばアキラ君と一緒に学園ドラマを見た時に、「我も先生になって不良の生徒を更生させたい。グレートティーチャーアキラとかどうだろう?」って、言ってたっけ。
あくあ君達は優しいからそれに付き合ってあげてるんだ。
『え、えーと……天我先生、あとはよろしくお願いします』
『杉田先生、任せてください!!』
あっ、アキラ君の授業だ。何を教えるんだろう。
やっぱり理数系だから数学かな? それとも物理? 化学? 生物?
わー、かっこいいアキラ君が見れるの楽しみだな。
もしかしたら白衣姿が見れるかもしれないと私は期待で胸をドキドキさせる。
『よーし、それじゃあ家庭科実習室に移動するぞー。今日はパンケーキ作りだ』
私はソファから滑り落ちそうになる。
え? なんで家庭科なの!?
もっと他に向いてるのがあるんじゃない!?
『おい! 家庭科の授業だってよ。他のグループが焼いたパンケーキを食いまくって授業を破壊するぞ!!』
『お、おう!』
か、かわいい! あくあ君も黛君も不良なんてやり慣れてないからやる事が可愛すぎるよ!!
普通なら授業ボイコットとか、喧嘩とか、教室の中で暴れるとかじゃないの!?
クラスメイトの女子達も2人の不良の方向があさってすぎて身悶えする。
それら全体を見て、とあちゃんは呆れたようにため息を吐く。
『よし、それじゃあ今日はみんなでパンケーキを作るぞ。わからない人は先生に聞いてくれて構わないからな』
『『『『『はーい』』』』』
アキラ君はいろんなテーブルに顔を出しては話しかける。
いいな。子供達……と言ってもそう年は変わらないけど、乙女咲の生徒達と触れ合うアキラ君を見て、子供ができたらアキラ君は可愛がってくれそうだなって思った。
『ヒャッハー! パンケーキのホットケーキミックスでクレープ作ってやるぜ!! 先生の言うことなんて聞いてられっか!! 慎太郎! 焼いたのどんどん置いてくから準備してくれ』
『お、おう! パンケーキじゃなくてクレープいっぱい焼くぞ!』
だから不良のベクトルが違うんだって!!
周りの女子達があくあ君達の可愛さに耐えきれずに膝から崩れ落ちてるじゃん!!
ちゃんと真面目に授業受けてるし、本物の不良さんから不良舐めるなって苦情はいるよ!!
『へへっ、冷蔵庫からチョコレートをくすねてきたぜ。これでチョコクレープにできるぞ。クレープの生地をチョコに変えちまうなんてかなりの邪道、俺って悪だろ? とあ、これ生地に混ぜるからテンパリングしてくれ』
『うん、わかった』
さっき、アキラ君が、「パンケーキの飾り付けに使うフルーツやチョコが冷蔵庫に入ってるから、必要なグループは使っていいぞ」って言ってたし、普通にくすねたわけじゃないんだよね。
あっ、今までなんとか耐えてたアヤナちゃんが3人の可愛さに耐えきれずに台パンしてる。
『くっ、めちゃくちゃ暑くなってきたぜ』
あ、うん。学ランで火を使って料理してたら暑くて当然だろうね。
この日の気温30度近くあるって言ってたし……。
『流石に暑いから僕は脱ごうっと』
あくあ君は不良プレイのために我慢してたけど、汗を掻いたとあちゃんは一足先に学ランを脱ぐ。
黛君も無理してあくあ君に付き合わなくてもいいのに、汗をダラダラ流しながらも学ランを着ていた。
『よしっ、クレープできたし、他の女子達のところに行くぞ!!』
『うん』
『ああ』
あくあ君達は出来立てのクレープが乗ったお皿を持って他のグループに向かう。
美味しそー。画面見てるだけでお腹が空いてくる。
私も何度かアキラ君と一緒にあくあ君のお家にお邪魔したけど、あくあ君ってば本当に料理がうまいんだよね。
『おいおい、うまそうなパンケーキの匂いがするがここか?』
『あ、うん。た、食べる?』
『もちろん。その代わりお前達には俺達が作ったこのクレープをやろう』
『え? いいの?』
あくあ君達は自分たちが作ったクレープとパンケーキを交換する。
えっと……それってただの取り替えっこじゃ……。
あくあ君達からクレープを受け取った女子達は嬉しそうにはしゃぐ。
『見ろよ。この分厚いパンケーキをペラペラのクレープと交換してやったぜ。俺ってとんでもない悪かもしれないな』
あっ、うん……。あくあ君の中じゃ面積の問題なんだ……。
女子達は自分の手づくり料理をBERYLの3人に食べて貰えるし、自分達はBERYLの3人が作った手作りのクレープが食べられるし普通に得しかないよね。
『よし、クレープはまだまだある。他の女子達とも交換するぞ』
『あ、ああ』
あくあ君達は次々と他のグループ達と料理を交換する。
そのせいであくあ君達のテーブルには30枚以上のパンケーキ並んだ。
えっと、もしかしてそれ全部食べるの?
『す、すげぇ数のパンケーキだぜ』
『ねぇ、あくあ。これ本当に全部食べるの?』
まぁ、そうなるよね。
とあちゃんもわかってるなら、どこかで止めてあげて!
『白銀! 黛! 猫山! お前ら、何をやってるんだ!!』
男子達の状況を見て、アキラ君が駆けつける。
アキラ君……気がつくなら、もっと早い段階で気がつこうよ。
でも、アキラ君のそういうちょっとズレてるところも私は好き。
『食べ物を粗末にするなんて悪行、この農家出身の熱血教師、天我アキラが許さないぞ!!』
『はぁ?』
あくあ君は立ち上がるとアキラ君に詰め寄る。
わっ、わっ、話の流れはこの際置いておくとして、このシーンだけ見たらすごくドラマっぽい!!
これにはクラスメイトの女子達も立ち上がって身を乗り出す。
『天我先生は俺達が食べ物を粗末にするような奴らに見えるのかよ?』
『ち、違うのか?』
『俺達は特大の悪だからな。今から3人でパンケーキ祭りして暴飲暴食するんだよ!! 自分の体に対して悪さする俺、かっこよくね?』
う、うーーーん、別にかっこ良くはないかな……。
アヤナちゃんはこういうあくあ君にとても弱いのか、カノンさんの背中に顔を覆い隠すように蹲っていた。
『白銀……そういう事なら教師の我にだって考えがある』
アキラ君はあくあ君達が作ってプレゼントしたアップリケのついたエプロンをかっこ良く脱ぎ捨てる。
できれば、白衣を着ているアキラ君でこのシーンが見たかったけど、まぁ、いっか……。それっぽく見えない事もないしね。
『な、なんだよ? 糖尿病になるからやめろって言うのか!? ちなみに女子達に作ったクレープはカロリーハーフだ。ちゃんと健康には配慮したぞ!!』
あくあ君は演技だと槙島みたいな悪役ができるのに、台本がないと悪役の演技がこんなにもポンコツだなんて想像してもいなかったよ。
でも、槙島熱に浮かされたファンがこれを見たら、こっちの悪あ君の方がいいって言いそうな気がする。
なんとくなくだけど、あくあ君のファン層的にそんな感じだよね。
だって、現にアヤナちゃんとカノンさんの2人は今のあくあ君に大喜びしているように見えます。
『お前らのその悪事を阻止するために我もパンケーキを食べるぞ!!』
『くっ、慎太郎! とあ! 俺達も負けてられないぞ!』
『あ……ああ……』
黛君、大丈夫かな?
あくあ君に付き合って無理したらダメだよ。
『ねぇ、ところでこれってどこが悪なの?』
『こ、細かい事は気にするな。行くぞ、とあ!!』
とあちゃんには、できたらもっと早い段階でツッコミを入れて欲しかった。
顔を見る感じ、不良を演じるのが面倒になったか飽きてきたんだろうなあ……。
『あくあ君がんばれ!』
『黛君、無理しないでー!』
『とあちゃん……は、ちゃんとセーブしてるよね。やっぱり』
『天我先生ふぁいとー!』
4人はというか、主にあくあ君とアキラ君の2人が一心不乱にパンケーキを貪り食う。
その姿を見たクラスメイトの女子達が4人に声援を送る。
いいなぁ。この学校、絶対に楽しそう。
カノンさん達をみていると、私もアキラ君と同じ学校に通いたかったなと思った。
『うっ!』
『慎太郎!!』
『黛ーっ!』
倒れた黛君を2人が支える。
流石に食べすぎたのかな? 大丈夫?
『が……学ランが暑くて限界だ』
そっち!? 食べ過ぎじゃなくてよかったと私はホッとする。
でも、熱中症は心配だから、学ランは脱いだ方がいいと思うよ。
『くそっ! 誰だよ。学ラン着た方がそれっぽく見えるから着ようぜって軽い気持ちで言ったやつは!!』
とあちゃんが無言であくあ君を指差す。
アキラ君とあくあ君が詰め寄った時はドラマかなって思ったけど、これってやっぱりコントなのかな?
『慎太郎、あとは俺に任せろ!』
『あ、ああ、頼んだぞ!』
あくあ君は再び席に戻ると無言でパンケーキを食べ始める。
『白銀……』
それを見たアキラ君も席に戻るとパンケーキを食べる。
2人ともすごいのは無理に食べてるんじゃなくて、ちゃんと美味しそうにパンケーキを食べてるところだ。
あくあ君はアキラ君を見てポツリと呟く。
『先生は他の先生とは違うんだな』
あっ、あっ、あっ、よくある不良の生徒が先生を認めるシーンだ!
話の流れは置いといて顔の良さと演技力だけでそれっぽいシーンになるのすごい!!
小雛ゆかりさんがいつも言ってるけど、雰囲気だけで説得力のあるシーンに仕上げてゴリ押してくるって、これのことなんだろうな……。
2人は周りの応援もあって、最後まで美味しそうにパンケーキを食べ切った。
『先生……やるな!』
『白銀……お前こそ!』
わー!! お互いを認め合う2人の姿にクラスメイトからも拍手が起こる。
話の流れは完全にしょうもないコントだけど、画面だけ見たら私たち女子が見たかった男子同士の青春ドラマになってるのがすごい!!
ジリリリリリリ!
そこに火災警報器の音が鳴る。
もしかしてコンロの火を消し忘れたのかな?
『あっ』
『あっ』
みんなで慌てて火元の確認をすると校舎の外に避難する。
どうやら老朽化したホースからガス漏れしてたみたい。
それでガス警報器が反応したんだね。みんなに被害がなくてよかったー。
『えーと、事情聴取のために一応問題となったコンロを使ってた3人にご同行お願いできますか?』
『『『はい……』』』
あくあ君、とあちゃん、黛君の3人がパトカーに乗り込む。
それを見たアキラ君が叫ぶ。
『白銀ーっ! 黛ーっ! 猫山ーっ! くっ!』
アキラ君は警察官の1人が乗ってきた自転車に跨るとパトカーを追っかける。
そういえばドラマ見て一度でいいからパトカーを追跡してみたいって言ってたよね。
番組が黒画面にフェードアウトすると、最後にヲチはネタですというテロップが表示される。
私達は一体なにを見せられているんだろう。
「ただいま」
あっ、終わったタイミングでアキラ君が帰ってきた。
私はあわてて玄関に向かう。
「おかえりなさい。2年A組天我先生みたよ」
「あ、あぁ……」
うーん、アキラ君ってばやっぱりまだ何か隠してるよね。
私はそれとなくアキラ君に聞いてみる。
「実はアレな……。ボヤ騒ぎは問題なかったんだが、その場の流れで警察官の自転車に乗ってパトカーを追いかけていったのが不味くてな。教育実習を1日で切り上げられてしまったんだ……」
えみりちゃんと一緒だ……。
私はアキラ君に落ち込まないでと励ましの言葉をかける。
「ほら、私もお腹ぺこぺこだしご飯にしよ」
「ああ!」
ふふっ、よかった。いつものアキラ君に戻ってくれた。
カノンさんも、男の子には美味しいご飯を食べさせたら秒で元気でるよって言ってたしね。
「今日はアキラ君の好きなカツ・ドゥーンだよ」
「おお! それは楽しみだ!!」
「ふふっ、ちょっと待っててね。すぐに準備するから」
私はあくあ君たちが作ってくれたアキラ君とお揃いのエプロンをつけると、キッチンへと向かった。
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