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崩壊のドーム。

前半がえみり視点、◇から先の後半があくあ視点です。

「なんだなんだ!?」


 突然の警報に私は昼飯の焼きそばを食ったまま立ち上がる。

 今日のBERYLの公演は前半と後半に分かれていて、私の出番は後半だから呑気に外で昼飯を食っていた。


「えっ? 戦闘機がこっちに向かってるって」

「ちょっと待って、それってやばくない?」

「携帯に避難しろって出たんだけど!?」

「えーとえーと避難所ってどこだっけ?」


 食堂にあったテレビがベリルのライブ映像から緊急ニュース速報に切り替わる。

 するとヘルメットを前後ろ反対に被って、マイクを逆さまに持った楓パイセンが出てきた。


『楓ちゃん、マイクマイク!』

『あっ』


 楓パイセンは持っていたマイクを正しい方向へと戻す。

 なるほど、自分よりホゲってる人を見ると冷静になるって話は本当だったんだな。

 国営放送の完璧すぎる人選のおかげで、その放送を見ていた全員が瞬時に冷静になった。

 さすが普段から森川楓という存在に鍛えられてる日本国民の対応力と適当力は違うな。


『只今、政府より、広島市内に向かって国籍不明のドローン戦闘機が飛翔中との情報が入りました。広島県、並びに近郊の県にお住みの方は速やかに、そして冷静に政府指定の避難用シェルターに移動を開始していください。繰り返します』


 やべぇな……。

 その場にいた全員が顔を見合わせると真剣な表情で頷いた。


「あの森川が真面目に仕事をしているだと……?」

「えらいこっちゃえらいこっちゃ!」

「森川が真面目な時点で緊急事態だってわかる」

「携帯に送られてきた避難所マップが見れない人がいたら言ってください!」

「場所がわからない人ー! 私と一緒に移動しましょう!」


 すげぇな。楓パイセンのおかげで、全員が冷静に行動している。

 私は思わず涙がホロリとこぼれ落ちそうになった。

 いや、今はそんな冗談を言ってる場合じゃねぇ。

 私はすぐにカノンに電話をかける。


『ただいま、非常に繋がりにくい状況になっています。時間をおいておかけ直し……』


 ダメか。そりゃそうだよな。

 こういう時は政府や公共機関に優先して電話回線が割り当てられるっていうし、最初からダメ元だった。

 幸いにもカノンの側にはペゴニアさんがいるし、姐さんやくくり、揚羽お姉ちゃんは私よりしっかりしてる、楓パイセンはミサイルが降ってきてもピンピンしてそうだから大丈夫だろう。

 となると私が気にするべきなのはただ一つ、あくあ様の事だけだ。

 私は避難する人たちからわざと離れて小道に入る。

 確かこの道をまっすぐ行けば、コンサートをしているドームがあるはずだ。


「おいおい、マジかよ!?」


 私の頭上を真っ黒な戦闘機が飛んでいく。

 ステルス? しかもあんなのがドローンで動いてるっていうのかよ!?

 それを追いかけるように見覚えのある戦闘機が飛んでいく。


「あ、あれって、映画博覧会にあったVFX−14ヘルキャットじゃねぇか!」


 確か解説してくれた人が、戦闘機の骨董品だなんて言ってたけど、そんなので最新鋭っぽい機体に挑むなんて自殺行為だろ!?

 ドッグファイトを仕掛けたVFX-14は華麗な操縦テクニックで相手をおちょくるように、ドローン戦闘機と対称的になるように背面にへばりつく。

 すげぇ! 美洲おばちゃんの映画でも見たシーンだ!!

 一体、誰が乗ってるのか知らないけど、素人の私から見ても確実にエースパイロットだと思う。

 あれ? エースパイロットなのにどうしてあんな古い戦闘機に乗ってるんだ?

 うーん、よくわからん。まぁ、こまけー事はいっか。

 私は拳を突き上げて「頑張れー」とエールを送る。

 すると喧嘩を売ったVFX-14がドローン戦闘機を撃墜した。


「うおおおおお! やったー! って、やべぇ! あっちの方向は!!」


 コントロールを失ったドローン戦闘機がコンサートが行われているドームの屋根に墜落していく。


「あくあ様! 姐さん! みんな!!」


 私はドームに向かって走り出す。

 くっそ、何か、何かいい移動手段はないか!?

 再び大通りに出た私は、前が詰まって立ち往生していた一台の車の窓を叩く。


「頼む! BERYLのみんなを助けるために力を貸して……って、あ、あの時のお姉さん!?」

「えみり様!? って、あの時のって、えっ? えっ?」


 私が偶然にも出会ったのは、あの時、展示会でパワードスーツを展示していた町工場のお姉さんだった。

 もしかしたら現場は瓦礫が崩れて大変な事になってるかもしれない。そう考えるとこの遭遇はラッキーだった。


「お姉さん、お願いがあります。あくあ様を助けるために」

「わかりました!!」


 さすがあくあ様のファンだぜ。あくあ様の名前だせば事情を説明する暇もなく0.1秒で話がつく。

 私はすぐに車に乗り込む。


「運転代わります!」

「はい!」


 私は2tトラックに乗り込むと、近くにあった小道に入ってドームの方へと向かう。

 配達のバイトした経験がここで生きている。

 幸いにもこちらの道は空いていた。


「あくあ様、待っていてください。今、私が行きます!!」


 私は目的地のドームに向かってアクセルを踏み込んだ。





 それは突然の出来事だった。

 コンサートの最中にアラーム音がけたたましく鳴り響く。


『みなさん、ステージから戻ってきてください!』


 何があったんだ?

 声の感じからしてあの冷静な琴乃が慌てている事が伝わってくる。つまりは明らかに普通じゃない事が起きてるって事だ。

 俺はマイクを手に持つとみんなに向かって喋りかける。


「みんな! 一旦、落ち着いて冷静に! 今から俺がスタッフの人に詳細を聞いてくるから!!」


 俺はファンのみんなにそう言うと、琴乃の言葉に従ってバックステージへと戻る。


「皆さん落ち着いて聞いてください。たった今、政府から退避命令が発令されました。その理由は現在、国籍不明のドローン戦闘機が市内に向かって飛翔中だからとの事です。私達は今から政府が有事の際に用意している避難シェルターへ向かうので、皆さんは誘導するスタッフの指示に従ってファンのためにも最初に移動してください」


 国籍不明のドローン戦闘機!?

 避難シェルター!?

 くそっ、どうなってるんだ!

 俺は困惑しつつも周囲にいる友人達の顔を見渡す。

 どうやら俺と同じように、とあ、慎太郎、天我先輩も上手く状況を飲み込めていないようだ。

 スタッフの人たちも不安そうな顔で、この状況にどうしていいのか分からずに戸惑っているように見える。


「琴乃、俺は残ってファンのみんなに落ち着くように声をかけるよ。だから身重の琴乃は先に避難してくれ!」

「あくあさん……」


 俺はあえてステージの方へと向かう。

 もちろん自分が避難した方がいいのはわかってる。

 でも、ファンを置いて逃げるなんて、俺にはできそうにない。

 そもそもさっき、みんなに説明するって言ったし、みんなを無事に避難させるためにも俺が残った方がいいと判断した。


「あくあ……僕も残るよ。あくあ1人じゃ心配だからね」

「我も、後輩達を残してなど行けぬ!」

「もちろん僕も残るぞ。友人達を残して1人だけ避難なんてできるわけないだろ」


 お前ら……。

 俺はとあ、天我先輩、慎太郎の顔をぐるりと見渡すと無言で頷いた。

 ここでお前らも避難しろなんて言うのは野暮だろう。


「行こう。ステージに! みんなを会場から避難させるんだ!」


 俺は琴乃に避難してくれと言うと、4人でステージの上に戻る。

 まずは不安なみんなを落ち着かせる事体。


『みんな、まずは落ち着いて聞いてくれ。緊急アラートで知っていると思うが、今、ここに国籍不明の戦闘機が向かってきています』


 俺は淡々とした言葉で、それでいてみんなに冷静な行動をとるように促す。

 幸いにも会場が少しざわめいただけで、みんな俺の言葉に冷静になって耳を傾けてくれた。

 そして俺の言葉に続いて、慎太郎、天我先輩、とあの3人が口を開く。


『このドームがある公園には避難用のシェルターが設置されています』

『もちろん、ここにいる全員が避難できるように設計されていると聞いたから安心してくれ』

『だから、みんなー! 今から僕たちの誘導の言葉に従って、落ち着いて避難してくれるかなー? もちろん、ファンのみんなならできるよねー?』


 最後に喋ったとあの呼びかけに対して、ファンのみんなから「できる」と声が返ってくる。

 とあのファンが一番教育されているという噂は本当だと思う。


『それじゃあまずは最初に1人で移動が困難な人や身重な人、体調不良の人から、ゆっくりと!』

『1人で移動が困難な時は、スタッフか近くにいる人に声をかけて一緒に避難してくれ!』

『その次は子供とご老人だ。もちろん親御さんや付き添いの方も一緒にだ』

『最後に残ったみんなは、最後列から順番に避難していくよ!』


 俺たちの誘導に従ってファンのみんなが避難シェルターへと移動していく。

 本当はこのまま何事もなければいいのだが……。

 そう思っていた。


『さぁ、最後のグループだ!』


 最前列に残った最後のグループが移動を開始する。

 身重な琴乃を含めた一部のスタッフも誘導員として避難済みだ。

 現場に残っているのは、俺たちBERYLの4人と阿古さん、残ったスタッフと最前列に居たファンのみんなの数十人に満たないグループだけである。


「みんな、俺たちも移動するぞ」


 俺はとあや慎太郎、天我先輩に声をかけると舞台裏に視線を向ける。


『阿古さん達も避難してください!』

『わかってる! こっちも裏口から移動を開始してるわ』


 さぁ、俺たちも避難だ。

 最後に俺がステージから降りようとしたら、ドーム全体が揺れて足元がふらつく。


「あくあ!」


 とあの叫び声が聞こえる。

 俺が咄嗟に天井を見上げると、天井にぶら下げられた照明が俺の方に向かって落下してきた。

 全くあの時と同じシチュエーションに、俺は一瞬立ち止まってしまう。


「あくあーっ!」

「後輩!!」


 咄嗟に横っ飛びした慎太郎と天我先輩が俺にタックルする。

 そのおかげで俺は落下してくる照明器具を回避する事ができた。


「「大丈夫か!?」」

「あ、ああ。助かった」


 前にトラウマを克服してたおかげで俺はなんとかすぐに立ち直る事ができた。


「みんな! 天井が崩れてきてる!」

「早く逃げましょう!!」


 くそっ、何がどうなってるんだ!!

 俺達はみんなと一緒に出口を目指して走る。

 しかし、その途中でまたドームが大きく揺れた。


「崩れる!」


 先を走っていた俺は外に出ると後ろを振り返る。

 すると崩壊したドームの天井の瓦礫が落ちてきて、入り口を塞いでしまう。


「入り口が!!」

「くそっ!」

「あくあ、中にまだ阿古さんが!!」

「わかってる!」


 俺はみんなと協力して入り口の瓦礫をどかそうとする。

 しかし落ちてきた瓦礫が巨大すぎてびくともしない。

 くそっ!


「俺は……俺はなんて無力なんだ……!」


 俺が自らの無力感に打ちひしがれていると、2tトラックが猛スピードでやってきた。


「あくあ様!」

「えみり!?」


 どうして、えみりがこんなところに!?

 いや、今はそんな事はどうでもいい。

 俺はえみりに早く避難をするようにと言おうとする。


「あくあ様、これを使ってください!!」


 えみりは俺が喋るよりも先に口を開くと、2tトラックの後ろにあるコンテナを開く。

 そこには見覚えのある物が4つ立っていた。


「これは……」

「最新鋭のパワードスーツです!!」


 パワードスーツ!?

 こんな物があるのか……。いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。

 これなら、あの瓦礫を退かせる!


「これを着て後ろ側から乗り込んでください! 機能を説明します!!」

「君は……?」

「私はこれを開発した町工場の娘です!」


 俺はお姉さんから手渡された厚手の全身タイツのようなスーツを着る。

 これでこの外郭スーツの後ろに回り込めばいいんだな!?


「外郭スーツの装着手伝います!!」


 お姉さんとえみりが手際よく俺にスーツを装着させていく。

 えみりはこれを着た事あるのかスーツの装着が手慣れていた。


「あくあ様、これで大丈夫です!」

「システム起動させます!!」


 ヘルメットを被って少しすると、目の前がクリアになる。

 行けるのか……?

 俺は藁をも掴む思いでドームの入り口を塞ぐ瓦礫に手を伸ばす。

 剣崎! 俺に力を貸してくれ……!


「うおおおおおおおお!」


 俺は力を入れると重たい瓦礫を持ち上げて投げ飛ばす。


「大丈夫か?」

「あ……え? ヘブンズソードって……その声はあくあ君!?」


 俺の姿を見た阿古さんがびっくりした顔をする。


「ああ、俺だ!! 事情は後で説明するとして、阿古さんは避難してください!!」

「わ、わかったわ! でも、絶対に無理だけはしないでね!!」


 周囲をよく見ると崩落した瓦礫が橋の道路を塞いだり、ドームの入り口と同じように瓦礫が建物の入り口を塞いでいた。

 このスーツならそれも退かせるかもしれない。

 ……行くか。目の前で助けられる人がいるのなら助けるべきだ。そうだろ? 剣崎!


「あくあ!」


 とあの声で後ろを振り向くと、同じようにスーツを着たとあ、慎太郎、天我先輩の3人が立っていた。


「我らも行くぞ!」

「行こう! みんなを助けに!!」

「ああ!!」


 俺達はえみりさん達にも避難するように言うと、困ってる人たちを助けるために動き出した。

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https://x.com/yuuritohoney

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[一言] パイセンととあのサイズ大丈夫なんかいな(゜д゜)
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