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羽生治世子、世界よこれが日本の総理だ。

「ふぅ」


 サミットもついに最終日を迎えた。

 これまではサミットの開催国の代表として、多くの議題について話をまとめてきたが今日は一筋縄では終わりそうにない。


「総理、そろそろお時間です」

「うん、わかった」


 秘書官の1人である理人君に呼ばれて私はソファから立ち上がると、近くに置いてあった写真立てを手に取る。


「行ってくる」


 愛する家族にそう告げた私は執務室にかけてあった国旗に一礼して部屋を出る。

 これは私なりのこの国の総理大臣として責任を持つためのルーティーンだ。

 私は会場入りすると他の参加国の代表に挨拶をすると、用意された席に座る。

 円卓状のテーブルが中央に設置された席には、ステイツのヘンリエッタ・F・ローゼンベルグ大統領、極東連邦の蘇深緑(スウ・シェンリュ)皇帝、アラビア半島連邦のシャムス女王陛下、大スターズ共和国のオードリー・ブラッドレー代表の4人が既に着席していた。

 それぞれ1人まで後ろに補佐をつける事が許されており、シャムス女王陛下はシーラ・リンクス国民評議会代表を、スウ皇帝はオレーニャ・アンジェル代表を、ブラッドレー代表はヴィクトリアさんを補佐につけている。また、ステイツのヘンリエッタ大統領はあのエスコートした外交官の男性ではなく、国防大臣を自らのそばに置いていた。ここまでは予測通りといったところか。


「羽生総理、流石にそれはふざけすぎではないのか?」


 極東連合のオレーニャ・アンジェル代表は私の後ろを見て目を細める。


「いいや。私は大真面目だよ。このお方の前では、私は国民に対して真摯でなければいけないからね」


 私は一瞬だけ自分の斜め後ろにいるくくり様へと視線を向ける。


「だから、彼女は補佐というよりも、この私が自らの国にとって間違った選択をしないための監視役だと思ってくれていい」

「ははは、確かに君はお茶目なところがあるからな。願わくば今日は世界にとって正しい選択をしてくれる事を望むよ」


 私は波風を立てないようにローゼンベルグ大統領の牽制に対して笑顔を返す。

 そのタイミングで南ステイツ共同体、アフリカ共同体、オセアニア諸国連合、東南アジア共同体の各代表もそれぞれの席に着席をしサミットを開始する準備が整った。


「それでは最後の議題、世界条約に記載された男性の取り扱いに関する項目について話し合いたいと思います」

「その件について一言いいだろうか?」


 最初に挙手したのは極東連邦のオレーニャ・アンジェル代表だ。

 これも予測通り。彼女は初手からガンガン突っ込んでくるタイプだし、慎重なステイツのローゼンベルグ大統領とは対極的だ。


「知っての通り、世界のさまざまな国がそれぞれの国のやり方で男性の数を維持し、そしてこれまでの間、増やそうと努力してきた」


 アンジェル代表の言葉に全員が無言で頷く。

 世界はそれぞれの国の男性の取り扱いについて不可侵条約を結び、各国がいろいろなやり方で男性の数を増やそうとした。

 その中でも一番恐ろしい政策は、黒蝶家も参考にしたアラビア半島連邦や極東連合が試した苗床計画だろう。

 女性の私でさえも想像しただけで体が震え上がったが、なぜだかうちのあくあ君……とえみりちゃんあたりは飛んで喜びそうな気がしているのは私の気のせいだと思いたい。


「しかし、その努力も虚しく、どの国を置いても男性の数は減り続け、ここ数十年はギリギリのところ、男女比1対99の割合を保っているのがやっとだ」


 女性99人に対して1人、まるで神の意思があるかのように今の世界はずっとこの数をキープし続けている。

 中にはこれ以上は下がらないからもういいんじゃないかという論を提唱する学者もいるが、これ以上、男性の出生数が下がらないという根拠はない。何よりも、私達国の指導者としては“かも知れない”ではいけないのだ。

 そうじゃない場合、迷惑をかけるのはのちに続いていく国民達である事を指導者であれば心に留めておかなければいけない。


「そこでだ。私はとある情報筋からとても興味深い話を聞いた」


 アンジェル代表と目が合う。


「羽生総理。貴女の国の民である白銀あくあの子供が男性だというのは本当か?」

「個人情報保護の観点や、憲法による個人の尊重の観点から国家の代表として回答を差し控えさせていただきたいと思います」


 私が即答した事で周囲が少しピリつく。


「……これは世界の有事に対する命題、お答えいただきたい」

「個人のプライベートの事に関しては回答を差し控えさせていただきたい」

「羽生総理、これはサミットだ。よく検討をした上で回答を……」

「検討に検討を重ね検討を加速させた上で国家の代表として慎重に検討した結果、回答を差し控えさえていただきたい」


 私の後ろにいるくくり様があんたマジって顔をしているが大真面目だ。

 この緊張感のある顔を見てほしい。かつてこれほどまで真面目な顔をした羽生治世子がいただろうか?

 ポケットからキャバ嬢の名刺が出てきたのが嫁に見られて土下座をした時くらい真剣な顔をしている。


「羽生総理、世界条約には男性に関するデータは世界で共有するという項目がある。それについてはいかがか?」


 シャムス女王陛下がうまく話を逸らす。

 彼女ならそうすると思った。


「その件については白銀あくあ氏担当官からデータを預かっている。理人君、各国の代表達に資料を」

「はい」


 理人君は結さんと宮餅先生が決死の覚悟で計測したあくあ君のデータが書かれた用紙を各国の参加者に配る。

 資料を見た議場にいる人達が目を見開く。


「射出距離6m26cm!?」

「時速69kmだと!? なんという勢いだ……」

「250ml!? まさかの缶ジュース一本並だと!?」

「継続時間およそ72.1時間……もはや人間の次元じゃない」

「最速射出時間0.4545秒!? まるで古いステイツの映画に出てくる早撃ちのガンマンみたいじゃないか!」

「じ、次元が違いしゅぎる」

「彼の遺伝子を採取して研究するべきだ! これは世界が変わるぞ!」

「我が国で彼を量産できれば……」

「待て! クローン研究に関しては最低限の倫理観は保つべきだ」

「そんな事を言ってられるのか?」

「いや、みんなよく見るんだ。この項目のところを」


 1人の参加者が資料に書かれた一部の項目を指差す。


「生殖細胞が強すぎるために、女性もそれ相応でないと受け止めきれないいだと……?」

「そんなことがあるのか!?」

「……なるほど。つまり並外れた女じゃないとダメってことか」

「ほぅ、カノン様を見る目が変わりますな」

「実はむっつりというお噂は本当でしたか……」

「あのお顔でそうとは、やはり女は信用できませんな」


 いや、うん……そういう事を書いてるわけじゃないんだけど、錯乱した各国の参加者が良い具合に勘違いしてくれているので放っておく。

 私は表情を変えずに心の中で各国から勘違いされたカノンさんに謝罪する。


「す、すごいな。これは……」

「あ、あ、あ……」


 おやおやぁ? うぶなシャムス女王陛下とスウ皇帝陛下が顔を赤くして小さな唇をキュッとする。

 ふぅ……悪いけどもう各国の要人達は退場してくれないか?

 だって、サミットなんかより美少女達を弄り倒した方が面白そうだもん。

 

「あ、あくあしゃま……しゅごい」


 おっとぉ!? こっちのくくり様も滅多に見せない可愛い反応を見せてくれる。

 理人君……もうみんなを帰らせてくれるかな? ここから先は私が美少女3人とこのデータを使った検討会を開くから、サミットはもう終わりにしよう。君たち各国の要人達は空気を読んで早く自分の国に帰りなさい!

 これをきっかけにして、カノンさん達と合わせて各国のロイヤルな方を全てこの国に抑留して人質に取るのだ!! ははは、これぞ羽生マジック。世界よ。私の狡猾な罠にハメハメされて震えろ!! なーんちゃって。

 なーに、他国から何かごちゃごちゃ言われたら全部「遺憾でーす!」って、言っとけば良い。いやぁ、遺憾砲、本当に便利な言葉ですよ。時代は大砲なんかより遺憾砲だ。え? お宅の国、まだ時代遅れの大砲なんて使ってるんですか? 大砲じゃ人は殺せても、マウントは取れませんよ? はっはー!

 と、心の中でのおふざけもここまでにして、私は普段の真面目なモードに切り替える。おい、理人君。総理に真面目なモードなんてありましたっけ? って顔でこちらを見るのはやめなさい。君、あくあ君とつるみだしてから少し性格が悪くなったぞ!


「このデータが事実だとしたら、なおさらのこと、各国の間で情報を共有すべきではないだろうか?」

「先ほども言ったが、我が国では個人を尊重しているし、その事は憲法にも定められている。それを国として白銀あくあ氏に強制する事はできないし、国としても国民の安全保障上の問題から他国の政府機関や研究機関に彼を派遣する事はできない」


 私は断固とした態度で各国の代表をぐるりと見渡す。

 いつも国民から四面楚歌にされているこの私からしたら、たった十数人からの視線なんて全く痛くもない。


「世界国際連合の常任理事国として、日本に対して国際法の遵守を要請する」


 まー、普通にそう出るだろうね。各国の代表から協力の要請をまずは議題に挙げるべきという話が出る。

 私がそちら側の立場でも同じ事を要請するし、まずはそこからだ。

 しかし、このカウンターパンチは予測していなかっただろう。


「わかりました。そういう事なら我が国は、要請が認められた場合、常任理事国の拒否権を行使した後に、世界国際連合からの離脱を検討する」

「なっ!?」


 私の発言に対して各国の要人達がざわめく。

 メインとして話し合う常任理事国以外にも今回は小国も含めて全ての代表をこのサミットには招待した。

 日本が離脱するという事は長年固定化された常任理事国の枠が一つ空くという事である。

 特に常任理事国入りを狙っているオセアニア諸国連合や東南アジア共同体からすれば騒がずにはいられないだろう。

 アンジェル代表が要請をした段階で、1時間後には日本に対して国際法を遵守するかどうかの採決をしなければいけない。


 この1時間が肝だ。


 決められた時間。それもたった1時間。普通じゃない状況を作り出し、誰しもが想定外の状況に置かれ、常任理事国というぶら下げられたニンジンがあって、人間の抑えきれない欲が顔を出す。

 日本が外れる事でメリットを得る国もあれば、その逆もまたある。

 大スターズ共和国に関していえば、スターズ崩壊以降、唯一後ろ盾になっている我が国がいなければ最悪国が傾くし、アラビア半島連邦は我が国がいなければあまり関係性のよろしくないステイツとの緩衝材がなくなる。それは極東連合、ステイツもまた同じだ。

 私は心の中でほくそ笑みながら、さらに爆弾を落とす。


「我が国が世界国際連合を離脱した場合、すべての参加国が公平な立場、対等な関係を保ち、何かあればお互いに助け合う平和な世界を目指した、世界平和連合を即時樹立する。もちろん我らは平和を提唱しているので世界国際連合と対峙するつもりはなく、加盟国であっても参加を認める方針だ」


 ニチャア。私は心の中で気持ち悪い笑みを浮かべる。

 おっと……いけないいけない。また紗奈ちゃんにお母さんが気持ち悪い顔してるって言われるところだった。


「そして世界平和連合では、7月21日に完成する白銀キングダムにて、留学や出向という形で招待した各国の代表を後宮内に招き滞在させる予定です。そこではもちろん白銀カノン氏主導の超お茶会や、白銀あくあ氏と直接交流する機会があると断言しておきましょう」


 世界よ。核ミサイルの開発に躍起になっているようだが、そんなものが何の役に立つ?

 これが日本の開発した羽生白銀のダブルコンボによる特大ロケット砲、H2ロケットだ!!


「羽生総理……それは正気の上での発言か?」

「もはや私が生まれる前より発足し、それ以来、常任理事国が只の一度も変わらず、常任理事国一つの我儘で拒否権を発動できるこの組織は果たして正常なのか。そして小国は、noblesse oblige、強者たる矜持も忘れ自己のことしか考えない大国に媚び諂う事に果たして意味はあるのか、そこをよく考えていただきたい」


 私はローゼンベルグ大統領に笑顔を向けつつ腹の中で睨み合う。


「たった1人の国民のために国を危険に晒すのか?」

「たった1人の国民を護れずに何の為の国家か?」


 ローゼンベルグ大統領は追い詰められたら何をするかわからないタイプだ。

 だから私は質問を質問で返すだけに留める。

 私は改めて会場の中をぐるりと見渡すと、ゆっくりと穏やかな口調で口を開く。


「それでは極東連合のアンジェル代表の要請に従い、日本国への協力要請を採決するまでの1時間の間、議長として会議を一旦解散したいと思います」


 さぁさぁ悩め悩め。でも持ち時間はもう1時間もないぞ。

 何が得で何が損か。どれが自国にとって一番得になるのか、みんな頑張って考えてくれたまえ。

 いやぁ、見てるだけの私は楽しいなぁ。

 うっきうきでスキップしてたら、トイレの前で仁王立ちしてたくくり様に見つかって土下座する。


「いくら、あくあ様を守るためとはいえ、あくあ様を利用するのはあんまり好きじゃないんだけど?」

「すみませんすみません。一応その、本人からは許可をとってまして……」


 私はえみりちゃんに教えてもらった得意の高速揉み手でくくり様に擦り寄る。


「むしろ、外国人のお姉様達とお話しできるよ。大きいお姉さんを送ってくるように言っとくねって行ったら、本人も前のめりで協力的になりましてね」


 くくり様はほっぺたを膨らませてむくれたお顔を見せる。

 ここで私は一歩を踏み出す。


「も・ち・ろ・ん、その後宮を管理する人がカノン様だけじゃ足りないだろうと、ツテ(えみりちゃん)を使ってちゃんと縁故でくくり様をねじ込んでますから、安心してください!!」

「そ……そういう事なら……えみりお姉ちゃんが絡んでると、本当に何をするかわからないし、カノンさんが倒れたらいけないからもちろん受けるけど、今後はあまりこういう事はないようにしてほしいわ」

「は、はひぃ〜、この羽生治世子、重々に承知しております!」


 ふぅ、うまくいったうまくいった。

 外国との交渉より、くくり様との交渉や揚羽議員からの追求が一番怖いからな〜。

 ましてやあくあ様が絡むとメアリー先生もいるし、うひぃ。考えただけで身震いしてきた。


「それでは日本への協力要請について採決を行いたいと思います」


 トイレから戻って少しすると採決が始まった。

 

「大スターズ共和国は協力要請の採決を拒否します。国際法にもそれぞれの国に定められた憲法を遵守すべきと書かれているように、そちらが優勢されるべきかと思われます」


 ブラッドレー代表は毅然とした態度でそう答える。

 現在の連合が定めた規約の矛盾を突きつつ、どちらの展開になるにせよ、世界条約よりも憲法が優先されるべきという大スターズ共和国としての利点を取りに行った事は正解だと思う。

 アドバイスを送っていたヴィクトリアさんは自らを過小評価しているが、難しい展開でも大きな間違いをせずに少なからずの利を確保できる点に関してはとても優れている。是非とも世界平和連合を樹立した際には、彼女がスターズの代表として後宮入りして欲しいものだ。


「アラビア半島連邦としては協力の要請については認めるが、日本の拒否権発動については賛成を表明する。そして日本が国際平和連合を樹立するなら、そこへの参加も積極的に検討したい」


 シャムス女王陛下は国際連合を立てつつも日本にも賛同の意思を示す。

 化石燃料の資源国家であるアラビア半島連邦が両連合に参加し、コントロールすることであわよくば主導権を握る可能性を考えたのだろう。

 続く南ステイツ共同体やアフリカ共同体も同じ考えを示す。

 ここまでは想定の範囲内だ。しかし、問題は残る2カ国だろう。

 アンジェル代表が口を開こうとした瞬間、スウ皇帝が手を上げてそれを遮る。

 傀儡だと見られていた彼女の行動に。ローゼンベルグ大統領も含めた各国要人は驚いた表情をみせ、私は心の中で口角をあげた。


「極東連邦の民を統べる皇帝として、国際連合の常任理事国に与えられた拒否権を発動し、この議題そのものの破棄を検討する事を提案します」


 ははははは! 私は心の中で大笑いした。

 大スターズ共和国は国際連合の要請に対して拒否の意思は示したが、議題そのものを拒否権を使って中止にするなんて私以外の誰も想像をしていなかっただろう。

 それこそ、議題に挙げられている国以外が拒否権を発動した事なんて過去に一度もない。ただ、過去に例がないだけで、ルール上はそれも認められている。

 まさかスウ皇帝が1番の知恵者だとは流石の私も想定していなかったけど、これで議題自体がキャンセルされ、話は最初の段階へと戻る事で、日本の離脱の話もなくなり連合の継続がほぼ確定となった。

 こうなった場合のパターンは……。


「しかしこの提案は共同代表、極東連合を実効的に支配しているオレーニャ・アンジェル代表の意思とは反するものであり、私は現時点をもって、自らの命と体、心と魂を守るために日本国への保護と亡命を緊急要請いたします」

「了解した」


 私の即答に合わせて、察しのいい理人君がすぐにアンジェル代表とスウ皇帝の間へと割り込む。

 遅れて反応した他のSP達がすぐにスウ皇帝をアンジェル代表から引き剥がし別室へと反応する。

 危なかった。私の対応が一瞬でも遅れてたら、どうなるかわからなかったぞ。


「……日本国総理大臣羽生治世子に告ぐ。貴国は極東連邦と敵対するおつもりか?」

「我が国はあくまでも国際連合の条約に則りスウ皇帝からの保護要請を受諾したに過ぎません。この事に関しては緊急性の高い案件であると判断し、現在残りうる全ての議題をキャンセルし、スウ皇帝の亡命について国際連合が承認するかどうかについて議題に挙げたいと提案いたします」


 ここで事態を静観していたローゼンベルグ大統領が口を開く。


「一旦、昼休憩を挟んだ後にその議題について採決をする事を提案する。議題に挙げるには亡命の理由を我々が深く知る必要があり、スウ皇帝からの聴取が必要だと考えられるが、どうだろうか?」


 さすがはステイツの大統領と言ったところか。

 先の件も含め、少しでも各国に冷静に判断する時間を与えたかったのだろう。

 この間に根回しするのも彼らのいつもの手口だ。

 とはいえ、ここは私も一旦休憩を挟むべきだと思っているので利害は一致している。


「わかりました。では一旦休憩を挟んだ後に会議を再開したいと思います」


 だいたい3時間くらいか、そこから1時間話し合って採決するとして、そこから1時間、少し長丁場になりそうだな。そう思っていたところに、各国の人間が議場に傾れ込んでくる。


「羽生総理!」

「どうした?」


 私は慌てる秘書の1人に落ち着くようにと声をかける。


「たった今、国籍不明のステルス戦闘機が日本海側から当国の領空を侵犯し、こちらへと向かってきています!」

「日本海側に展開していた艦隊は?」

「それが敵機は無人機のようでして、レーダーに引っかからないように海面ギリギリを低空飛行して迫っていたようです。肉眼で確認した時にはもう……!」


 私は秘書と話しつつ各国の要人達の様子を伺う。

 どうやら他の国も同様の情報を得たようだ。

 ステイツはすぐに各国代表に対して、自らが呉に停泊させている空母へと一時的に避難するように提案する。


「迎撃は?」

「防衛大臣が出撃命令を出していますが……」


 どうやら対応に(こまぬ)いている時間はないようだ。

 危機はすぐそばにまで迫っている。


「わかった。それならばそちらの指揮は防衛大臣に任せる」

「総理!?」


 建物の外に出た私は借りたバイクに跨って、近くでやっている映画博覧会の会場へと向かう。


「総理!?」

「どうして総理がこんなところに!?」


 私はバイクに乗ったまま会場に入ると、人を掻き分け目的のものが展示してある場所へと向かう。

 そこで見知った顔を見かける。


「本堂? お前、本堂准尉か!?」

「総理!? お久しぶりです!」


 自衛隊に居た時の同僚と久しぶりに再会し抱き合って喜ぶ。

 戦闘機乗りだった時から、本堂准尉は私が乗る戦闘機の整備を担当してくれていた。


「本堂准尉、どうしてここに?」

「それはこちらのセリフです。今は第一線からは退いていまして、博覧会のお手伝いをしにきたまでですよ」


 私は本堂准尉に軽く事態を説明する。


「そういうわけで、こいつを借りたいが大丈夫か?」

「総理……本気ですか? 相手は最新鋭のステルスドローン戦闘機ですよ? 50年近く前に製造されたVFX-14ヘルキャットで立ち向かうなんてとてもじゃないですが……」

「大丈夫。本隊が到着するまでの間、相手を牽制するだけだ。で、行けるのか?」


 本堂准尉は私の問いに笑顔を見せる。


「もちろんです。展示してる実弾を積めばすぐにでも」

「頼む!」


 私が本堂准尉と話をしていると、車に乗った佐藤議員達が駆けつける。


「総理、やはりここにいましたか……」

「佐藤議員……同じ山の民の好として止めてくれるなよ?」

「いえ、止めるつもりはありません。はなから私たちもその気持ちでここに来てます。むしろ同じ肉壁になった同志として私達もお供させてください! おい、お前らBT-34があるぞ!!」

「ヒャッハー! 80年以上前に製造された骨董品じゃねぇか! やれるのか?」

「まっすぐ動いて弾が撃てるなら問題なんてないだろ?」

「違いない! よしっ、みんな、すぐに準備に取り掛かるぞ!」


 私はみんなが準備をしている間に服を着替える。

 流石にスーツのまま乗るわけにはいかないからな。

 準備を整えて戻ってくると、そこにはパイロットスーツを着た1人の女性が立っていた。


「遅かったじゃない」

「メアリー先生……どうしてここに、いや、理由は推して知るべきか」


 私はメアリー様からヘルメットを受け取るとVFX-14に乗り込む。


「どうかご無事で。貴女の乗る戦闘機をまた整備できて光栄でした」

「こちらこそ、本堂准尉、貴女が居るから私は飛べる。ありがとう」


 これが最後になるかもしれない言葉を交わして私はハッチを閉めた。

 久しぶりだが趣味でエアレースに参加してたりするので腕は鈍ってない自信がある。


「紗奈ちゃん、行ってくる」


 私は娘の写真にチューをすると、握り慣れたスロットへと手を伸ばした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >「ほぅ、カノン様を見る目が変わりますな」 ポンなみさん「解せぬ!」 [一言] やべぇ・・・総理映画化第4弾まったなし!
[一言] ヤると思ったよ!!!(゜д゜)
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