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雪白美洲、私から見たヘブンズソード。

 ああ、昨日の夜はすごく楽しかったな……。

 私は、白銀家の全員が集まった昨晩の出来事を思い出す。

 久しぶりにあくあ君ともたくさんお話ができたし、みんなと過ごす時間はとても楽しかった。

 できる事ならあくあ君ともっとお話ししたかったな。

 仕事で日本を離れて海外に行くのが少し億劫になる。

 いや……あくあ君は役者をやってる私を見てカッコいいと言ってくれてたし、尊敬してるあくあ君のためにお仕事頑張らなきゃ! 他になんの取り柄もない私が唯一、あくあ君に誇らしく思ってもらえるのはそれくらいしかないしな。


「あっ、みんな〜。そろそろヘブンズソードが始まるよ!!」


 そういえば今日って日曜日だっけ。

 まりんちゃんの元気な声でみんながテレビの前に集まる。


【マスク・ド・ドライバー ヘブンズソード 2nd ROUND 総集編!】


 今日は総集編か……。

 元よりFINAL ROUND移行前にお休みする日だったけど、ファンの再放送でもいいからヘブンズソードをやって欲しいという声があって急遽2nd ROUNDの総集編が放送される事になった。


『月子……お前』


 最初のシーンは、土砂降りの中、黛君が演じる橘斬鬼と、淡島さん演じるトラ・ウマーこと橘月子のシーンからだ。

 トラ・ウマーになる前の人間だった頃も含めて全ての記憶を思い出した月子は、自らがトラ・ウマーである事に、チジョーの幹部である自分が橘の傍に居る事に対して苦しむ。

 そんな最中にチジョーは、神代がお世話になっている南珈琲店の親子を襲撃する。

 チジョーの行動に気がついた月子は南親子を助けるためにトラ・ウマーに変身して彼女達を助けた。

 しかしそのタイミングで助けに来た橘に自らがトラ・ウマーである事を見られてしまう。

 そこで月子が取った行動は……。


『バレてしまったのであればしかたない。私がトラ・ウマーだ。橘斬鬼……いや、ライトニングホッパー!』


 橘は胸を押さえると苦しむような顔を見せる。

 その演技からは悲痛な感じがちゃんと見て取れるし、最初は大根役者だった彼も随分と成長したなと思う。


『ずっと……ずっと、嘘をついていたのかっ!?』

『そうだ。お前の心の闇に、トラウマに付け込むためになぁっ!!』


 全ては悲しい嘘だった。

 自らの犯した罪を償うためにも、そして橘に憎まれるようにと、月子は自分の中に芽生えた気持ちすらも封印して橘に攻撃を仕掛ける。


『変……身っ!』


 ライトニングホッパーに変身した橘は苦戦しながらも1人でトラ・ウマーを倒す。

 逃げて逃げて逃げ続けたトラ・ウマーは、最後の最後に逃げずに自らの罪と向き合い罰を受けた。


【強く……なったね】


 声に出したはずじゃないのに最後の最後に漏れ出た月子としての感情。

 激闘の末にハイパーフォームになったライトニングホッパーの特性で、橘は月子の思念を感じ取ってしまう。


『月子……月子っ!!』


 全てを理解した橘は、月子の亡骸を抱き抱えて彼女の名前を何度も叫んだ。

 本編ではこの後にEDだっけ。あの時は日曜からなんてものを見せるんだと大荒れだったとか。

 結局、公式が直ぐに淡島さんと黛君のオフショット写真をあげたり、2人からの反応があったり、何故か総理が謝罪会見しておさまったと記憶している。その翌日に、総理が関係ない事で謝罪してすみませんでしたという謎の謝罪もしてたっけ。

 小雛ゆかりの「困った時はとりあえず総理に謝罪させとけばどうにかなると思ってるでしょ」っていう単語がトレンドランキングに入ってた事も思い出す。


『おにーちゃん、本当に行っちゃうの?』

『ああ……世話になったな』


 居候先の南珈琲店がチジョーに襲撃された時に、オーナーのハルカさんが手を怪我してお店を開けられなくなってしまった。

 その事にすごく責任を感じた天我アキラ君が演じる神代始は、2人の前から消えてしまう。


『俺のせいでまた……!』


 神代家が滅亡したのは、幼い時に神代がチジョーに狙われた事が原因だった。

 その事がトラウマになっている神代は、怪我をしたハルカさんと家族達を重ねてしまい、南家の2人だけではなく剣崎達みんなの傍にに居る事が怖くなってしまう。

 それまでバイトのシーンなどでコミカルな描写が多かった神代だけど、2nd ROUNDでは彼の影が強く描写される。

 神代は剣崎達と離れた後もみんなの事を気にかけていて、顔を見せずに陰ながらみんなをサポートする健気な姿に、SNSでは涙を流した女性が多くいたという。

 その中で彼がハイパーフォームに目覚めたのは、みんなを守るためだという理由も天我先輩らしいと多くの女性達を泣かせた。


『夜影ミサだな?』

『誰だ……?』


 スーツを着た女性に囲まれた小早川優希演じる夜影ミサは身構える。


『我らは政府直轄の新組織、OJYOの者だ』

『OJYO……?』

『知っての通り、先の襲撃で大きなダメージを受けたSYUKUJYOは再編中だ。そこで政府はSYUKUJYOを再編するよりも、SYUKUJYOの上に新たな機関、OJYOを創設し、全てを一元化する事を決めた。そこの指揮官に夜影ミサ……君が任命される事になった。これが政府からの召集令状だ。なお、君に拒否権はない』


 SYUKUJYOの成り立ちは、元を正せば民間の組織だった。

 だからこそ政府はこれを機にSYUKUJYOを骨抜きにして、OJYOという新たな組織を作ろうとしたのだろう。


『くっ……わかった。その代わり、加賀美には手を出すな。それが条件だ』

『いいだろう。どちらにせよ、彼方は手を出せないからな』


 政府主導の新組織に警戒心を持った夜影は、野放しにして置く方が危険だと思いSYUKUJYOからOJYOへと籍を移動する。

 せっかく仲間と一緒に戦う事に目覚めた夜影が、皮肉にもこういう形でSYUKUJYOを離れざるを得ない事態になるとは思わなかったな。ましてや夜影の気持ちを考えると、お母さんが居たSYUKUJYOを離れるのは相当辛かったと思う。それでも彼女は、みんなのためにSYUKUJYOを離れてOJYOに身を置いた。

 彼女は加賀美や剣崎達とは距離を置きつつ、周囲の目がない時に遭遇した時は、みんなに自分しか知り得ない情報を伝える。スパイ夜影というワードがトレンドランキングに入ってくるようになったのもこの頃からだ。

 元より脳筋役を務める事が多い小早川優希さんがこういうポジションをやるのは、個人的にもすごく驚いたな。


『見ての通り、私はしばらく現場には復帰できないわ。だから貴方にSYUKUJYOの代表権を委譲します。政府の新組織OJYOからの引き抜きから貴方を守るためにも……ううん、SYUKUJYOという組織を守るためにも、貴方の力を貸してちょうだい』

『田島司令……わかりました!』


 SYUKUJYOを引き継いだ猫山とあ君が演じる加賀美夏希は、苦労の連続だった。

 みんながそれぞれの思惑を抱えてバラバラになるのをなんとか繋ぎ、その上でOJYOに全権を奪われ、OJYOのサポートに回る損な役回りしか回ってこないSYUKUJYOを未熟ながらもまとめていく。

 最初は頼りなかった加賀美も、組織を率いていくうちに頼り甲斐のある存在になっていた。


「あっ、あくあちゃんの出番よ!」

「きたー!!」

「レナータ、立つんじゃない。お前はでかいんだからみんなが見えないだろ。ほら、後ろにいるラズリーちゃんが何も見えてないぞ」


 全く、こいつはいつまで経っても子供っぽいところがあるな。

 まりんちゃんが子供っぽいのは可愛いからいいとして、お前も子供がいるんだからそろそろ母親として少しは落ち着けよ。

 あっ! あくあ君のアクションシーンだ! 迫力がある! かっこいい!!


「あくあ君、すごい!!」

「そういう美洲もでかいんだから、興奮して体を振って周りに迷惑をかけるんじゃない。隣にいるらぴすが潰されてるじゃないか」


 むぅ……私はらぴすちゃんにごめんと謝ると、テレビに視線を戻す。


『……月子』


 月子の死で再起不能になっていた橘に、リヴィドア・ロイツェヴェリアが演じるシスター・ミ・レーンが迫る。

 最初は正気を保っていた橘だったが、彼女は暗闇に紛れこみひたすら彼の耳元で囁き続けた。

 一体、誰が悪いのか、何が悪で何が正義なのかと。


『ボグノゴゴロハモウボドボドダ!』


 このシーンをテレビでリアタイ視聴していた時は、ついに橘がチジョー化したのかと誰しもが思ったが、これは後に感情が入りすぎたためにこう聞こえただけで、本当のセリフは「僕の心はもうボロボロだ」というのが、公式から発表されている。


『さぁ、今こそ闇の力に飲み込まれて悪のドライバーへと堕ちるのです。橘斬鬼……いいえ、ダークライジングホッパー!!』


 装甲がゆっくりと黒く染まっていくライトニングホッパー。

 誰しもが橘の闇堕ちを確信したそのタイミングで、私達のヒーローが駆けつける。


『そうはさせないぞ。ミ・レーン!!』


 颯爽と登場した剣崎を見て、白銀家の全員がソファから立ち上がる。


「きゃー!」

「あくあちゃーん!!」

「いよっ、待ってました!!」


 私とレナータに挟まれていたラズリーちゃんが、勢いで後ろに押し出されてしまう。

 ごめん、大丈夫?


『剣……崎……?』


 橘へと注ぎ込まれていたミ・レーンの闇の力を剣崎は無理やり引き剥がしていく。


『橘さん。思い出すんだ。彼女との楽しかった記憶を……!』

『その楽しかった記憶が俺を辛くさせるんだ!! だから……』


 ヘブンズソードはライトニングホッパーを殴り飛ばして強制的に変身を解除させる。


『だからって、彼女との楽しい記憶を忘れても、チジョーに奪われてもいいと思ってるのか!?』


 ここからのシーンは、日本のドラマ史上……いや、世界のドラマ史に残る名シーンだ。

 生身になった剣崎は橘の胸ぐらを掴む。


『じゃあ、俺はどうしたらいいんだよ……!』


 橘は剣崎に殴り返す。

 男性の俳優同士による衝撃の喧嘩シーンは、あくあ君の卓越した演技力と成長した黛君の演技力、それに2人のリアルな関係もあって多くの人達に衝撃を与えた。

 あまりにも衝撃を受けすぎて、卒倒した人達で病院が溢れかえったという。


『それを考えるのが生きるって事だろ! 月子さんは今の橘さんを見て、喜んでると思ってるのか!? 橘さんは今の腑抜けた姿を月子さんに見せて恥ずかしいとは思わないのか!? 目を覚ませよ。橘斬鬼!!』


 剣崎は気合を入れるために橘の頬を殴り飛ばす。

 本当は殴ってないけど、どう見ても殴っているようにしか思えないシーンにすごくドキドキハラハラさせられる。

 この2人が殴り合いをしている間、剣崎に攻撃を仕掛けようとしたシスター・ミ・レーンは神代が抑えていた。


『俺は……俺は……!』


 なんとか一時的とはいえ、剣崎は橘の闇堕ちを阻止する。

 しかし行き場を失った闇の力が一般人へと向かおうとしていた。


『どこに行く。お前の相手はこの俺だ!!』


 闇の力を掴んだ剣崎が、その全てを自分の中へと吸収していく。

 それを見たシスター・ミ・レーンはほくそ笑む。


『くっ!』


 ここで初めて明かされる剣崎の過去。

 剣崎の2人の母、1人はチジョーだった小雛ゆかり、そしてもう1人、生みの親であるこの私の登場シーンだ。


「ふふっ、こっちじゃミクちゃんがお母さんなんだよね。今見てもちょっと面白いかも」

「確かに……でも、あくあ君みたいな子供ならお腹を痛めて産んでもいいなって思う」

「あら? じゃあ試しに私の子供を産んでみる?」


 まりんちゃんの言葉に私はドキッとする。


「何!? それはダメだ。それなら私の子供を孕め、雪白美洲!」

「レナータ……なんで私がお前の子供を産まなきゃいけないんだ。嫌に決まってるだろ」

「私だって嫌だ!」


 なら、なんで言ったんだ……。

 こいつの考えてることは一番わからん。


「でも、まりんちゃんの子供をお前が産むのは嫌だ! ぐぬぬぬぬ!!」


 全く……心配しなくても大丈夫だ。今は子供を産むよりもしたいことがある。

 まずは小雛ゆかりさんに勝つ。もちろんレイラちゃんにも勝つ。

 その上であくあ君と共演して、美洲お母さんしゅごーい! って言わせるのが今の私の夢だ!!

 そのために私はまりんちゃんから離れてステイツやスターズに行ったりしてる。


『総司をお願い……!』


 母親役だった私は妊娠中に小雛ゆかり演じる傷ついたチジョーを見つけ介抱する。

 剣崎の母は誰にでも優しかったが、その優しさが仇で最後にはチジョーに殺された。

 そうして1人残された産まれたばかりの剣崎を育てたのは、前に剣崎の母が助けたチジョー、そう、小雛ゆかりさんである。

 小雛ゆかりは、私との約束を守るように剣崎を立派な男に育て上げ、そうして別れを告げた。

 人とチジョーが同じ世界で暮らせるわけがない。小雛ゆかりはその事がわかっていたからである。

 でも、母に捨てたれた事は剣崎にとってのトラウマだった。


『なんでお母さんはあの時、俺から離れていったんだ』

『お母さんは俺を捨てたんだ』

『そもそも彼女は俺の本当の母親じゃないだろ』

『俺は本当に人の味方なのか?』

『俺のやっている事は正しいのか?』

『お前はおかあさんに会いたいが故にドライバーを、みんなを利用しているんだ!』


 闇の力を吸収した剣崎に悪魔の囁きが襲う。


『チェンジ・ド・フォーム、ダークモード!』


 ヘブンズソードの装甲がゆっくりと禍々しく変容していく。

 しかし心の強い剣崎はそれら全てを受け止めて、強引にハイパーモードへと変身する。


『剣崎総司、お前の心に杭は打った! その楔から逃れられると思うなよ!!』


 これが2nd ROUNDの最後のエピソードだった。

 みんなが活躍して盛り上がった1st ROUNDの最後のエピソードとは対照的である。


「あーん、これでもう一週間待たなきゃいけないなんて、いやああああああ!」


 シクシクと涙を流すまりんちゃんを私とレナータが優しく宥める。


「ほらほら、あくあ君とえみりちゃんのデュエット曲もあるし、今日のコンサートも楽しみだなぁ」

「……うん」

「さ、お腹もすいたし、みんなでご飯を食べに行こう。まりんちゃんもお腹空いたよね」

「うん!」


 良かった。元気になったまりんちゃんを見て、私とレナータは顔を見合わせて笑い合う。

 ふふっ、やっぱりまりんちゃんはこうじゃないとね。

 さてと、私もすぐにスターズに行かなきゃだし、日本を発つ前にしっかりとあくあ君を目に焼き付けておこう。


「ほらほら、ミクちゃん早く早く!」

「はいはい」


 私はゆっくりとソファから立ち上がると、ミクちゃんに手を引かれて部屋を後にする。

 この数時間後、まさかあんな事になるなんて、この時の私は想像すらしていなかった。

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https://twitter.com/yuuritohoney

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― 新着の感想 ―
[一言] ダディャーナザン・・・
[一言] こーれは闇〇子ホンですわ間違いない(゜д゜)
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