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白銀あくあ、晩餐会。

「ど、どう? 変じゃない?」


 シンプルなマタニティドレスを着たカノンが俺の方をチラリと見る。

 美しい。語彙力がなくて申し訳ないが、その言葉がすぐに頭に思い浮かんだ。


「大丈夫、お前はいつだって綺麗だよ。カノン」

「えへへ……」


 って、えみり!? そこは普通、俺のポジションでしょ!!

 旦那で彼氏の俺を差し置いて、えみりとカノンの2人は俺の目の前でイチャイチャする。

 仲良しな2人は着ているドレスまで一緒だ。正確には左右非対称を反転させたようなドレスで、2人で並ぶと本当に姉妹のように見える。

 これは百合の間に挟まる男としてはいかなきゃな。

 俺は当然の如く忍者のような素早い動きで2人の間に割り込む。


「えみりもドレスがよく似合ってるよ。カノンもすごく綺麗だ。まぁ、2人ともいつも綺麗だけどな!!」

「あくあ……」

「あくあ様」


 2人はうっとりとした顔で俺の両肩に頭をもたせかける。

 両手に花とはまさにこの事を言うのだろう。

 ただ一つ残念なのは、今日、俺をエスコートするのはカノンだけということだ。


「えみりちゃん、今日はエスコートよろしくね」

「メアリーお婆ちゃん、この私に任せておいてください! 泥舟に乗った気持ちでいてくださいね」

「ふふっ、えみりちゃんってば、本当に面白いわね。豪華客船だと沈没するかもしれないもの。日本が作った泥舟の方がまだ安全よね」


 いかにもスターズの人らしいブラックジョークに、俺もカノンも頭を抱える。

 前世に存在したイギリスもそうだが、なんであっちの人はこんなにもブラックジョークが好きなんだろう。


「パパー! 私達のドレス姿も見て欲しいのじゃ」

「……似合ってる?」


 ハーちゃんとフィーちゃんもお揃いの形のドレスか、いいね!

 しかもハーちゃんが黒のドレスは色気があってどこか妖艶で、フィーちゃんの白のドレスは清楚感が出てて眩しい。


「2人ともよく似合ってるよ」

「わーい、なのじゃ!」

「……ありがと」


 頭を撫でるとせっかくのヘアセットが崩れてしまうので、俺は2人の腰に手を回して、そっと抱き寄せる。

 そのついでに2人が大きくなってないか、パパとして膨らみをチェックする。

 2人ともお姉さん達が大きいからな。今はぺったんでも将来的には期待ができそうだ。


「あ、あくあくあ君、私のドレスはどうかな?」

「ほらほら、お姉さんのドレスも見て」


 美洲お母さんはえみりの隣に立っても普通に姉妹で通用しそうだな。

 たまに美洲お母さんって本当に俺と同じ人間なのかなって思う時がある。カノンがエルフなら、この人はハイエルフじゃないかって思うくらい若いし綺麗だ。

 レイラさんはまさにステイツの女優って感じだ。長い足とスタイルの良さが際立っている。綺麗さの中にかっこよさも感じて俺は好きだな。


「2人ともすごく素敵ですよ。むしろ俺が2人の隣に立ったら、ただの添え物ですよ」

「あくあ君が添え物だなんて、そんな……」

「ははっ、いいね。あくあ君をアクセサリーにできるなんて女冥利に尽きるよ」


 俺は2人と少しだけ話を弾ませると、くくりちゃんのところへと向かう。


「くくりちゃん、着物すごく似合ってるよ」

「ありがとうございます、あくあ先輩。この着物、お母さんのなの」


 くくりちゃんは照れ笑いを見せる。どうやら俺の言葉がすごく嬉しかったみたいだ。


「まさか、くくりちゃんのエスコートを揚羽さんがするとは思ってなかったですよ」

「ふふっ、私もよ」


 スーツを着た揚羽さんを見て俺も表情が緩む。

 政界に復帰すると聞かされた時はびっくりしたけど、揚羽さんのこの顔を見たらこれで良かったのかもしれないなと思う。

 今の揚羽さんは以前に政治家をやっていた時よりも、憂いが無くなって随分とすっきりしたように見える。


「みなさん、そろそろ入場です」

「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」


 俺とカノンは、メアリーお婆ちゃんとえみり、ハーちゃんとフィーちゃん、美洲お母さんとレイラさん、そしてくくりちゃんと揚羽さんの後ろに続いて並ぶ。

 晩餐会の会場には他にも日本から参加してる人は多いが、日本を代表して俺たち5つのグループが選ばれた。


『続きまして、日本を代表して5つのグループが会場に入場いたします』


 名前をコールされた順番に晩餐会が行われる会場に入場する。


「さぁ、行こうか」

「……はい!」


 俺はカノンをエスコートして会場の中に入ると、一礼した後に指定された場所へと向かう。

 このあとは各国の代表者が入場する番だ。


『大スターズ共和国より、オードリー・ブラッドレー代表と、エスコート役のヴィクトリア・スターズ・ゴッシェナイト代表特別補佐のお二人が入場いたします』


 大スターズ共和国の選挙では、オードリー・ブラッドレーさんが見事に選挙を勝ち切った。

 投票率ほぼ100%の中で彼女が選ばれた理由は、多くのスターズ民が変革を望んだからだろう。

 そしてヴィクトリア様は、国民と国の事を考えて新任の彼女をサポートするために権限のない補佐役に就任したと聞いている。ヴィクトリア様の選択は、変化に多少なりとも怖さを感じている国民を安心させたとも聞く。

 隣に居たカノンがヴィクトリア様の顔を見て、暖かな笑みを見せる。

 良かった。流石に饂飩はやりすぎたかと思ったけど、結果的にカノンが嬉しそうにしているならそれでいい。


『アラビア半島連邦より、女王のシャムス陛下と、マナート特別参事、シーラ・リンクス国民評議会代表がご入場いたします』


 シャムスさんはエスコート役をつけず、その後ろにお姉さんでありベリルの役員でもあるマナートさんと、国民評議会の代表であるシーラ・リンクスさんを連れて入場する。

 アラビア半島連邦は女王制だが、その下に一応国民評議会があるんだっけ。アラビア半島連邦にはいろんな部族の人がいるから、その代表となると……彼女はきっと苦労してるんだろうなと思った。

 かっこいいシャムスさんの姿を見て、フィーちゃんも胸を張る。

 フィーちゃんは日本に結構な頻度で来てるマナートさんとはちょいちょいあってるみたいだけど、お姉さんのシャムスさんとはもう半年近く会ってない。

 だから俺は、羽生総理に直接お願いして、少しでいいから家族の時間を作ってあげられないかと相談した。そのせいで日程を調整した理人さんは何かと大変だったらしい。ほんと、すみません……。


『極東連邦より、オレーニャ・アンジェル代表、蘇深緑(スウ・シェンリュ)皇帝の入場です』


 会場が大きくざわめく。

 どうしたどうした!?

 俺が戸惑っていると、隣にいるカノンが小さく口を開く。


「スウ・シェンリュ皇帝がサミットに来るなんて予定になかったから、来ている事もこれに参加する事もみんな驚いてる。滅多に表舞台には顔を出さない人だから」


 へぇ……。

 多分、名前からしてあの金髪でスーツを着た人がオレーニャ・アンジェルさんだろう。

 となるとあの後ろにいる顔を隠した人がそうか。オレーニャさんの体が大きいのもあるせいかだいぶ小さく見えるな。


「スウ・シェンリュ皇帝は、確かまだ中学生くらいの年齢だったはず。私は会った事ないけど、くくりちゃんは会った事があるかもしれないわね。それともう一つ、みんなが驚いた理由は、名前の読み上げ順がオレーニャ代表よりスウ皇帝の方が後ろだったことね。羽生総理がそんな事をするとは思えないし、これは向こうからそう希望が出てたって事よね。何より後ろの人を見て」


 皇帝の後ろにぴたりとついてくる妙齢の女性に目を向ける。

 んん? 服装は皇帝の方がらしい格好をしてるけど、あっちの方が豪華な宝石をつけてる気がするな。

 むしろスウ皇帝はそれに比べると、あまり宝石を身につけておらず着飾った感じがしなかった。


「確か皇帝の侍女長は(リウ)家の長女、柳紅花(リウ・ホンファ)だったはず。この扱いといい、皇帝より目立つ侍女長といい、極東連邦がスウ皇帝を傀儡化しようとしてるって噂は本当みたいね。スウ皇帝のお母様はウイグルのご出身だし、政変のあった幼少期は争い事を避けるために中央から離れた台湾でお過ごしになられたから、立場的にもあまり後ろ盾がいないとされているの」


 カノン……お前ってやっぱり優秀だったんだな。

 普段があまりにもポンポンしてたからついつい忘れてしまうところだった。定期的に優秀だった事を思い出させてくれてありがとな。


『続きまして南ステイツ共同体より、ガブリエラ・オリヴェイラ共同代表とマルティナ・ロドリゲス共同代表のご入場です』


 南ステイツは他の地域と少し違って代表が2人いる。

 地域によっては貧富の差があったり、ステイツとの国境に面している北部はあまり治安がよろしくないらしい。

 日系人も多く住んでる事から日本との縁が深い地域だ。


『続きましてアフリカ共同体よりジャネット・ソット代表、東南アジア共同体よりキリカ・サノン代表、オセアニア諸国連合よりマイア・キャンベル代表のご入場です』


 おっ!

 3人の後ろに続いてアフリカ共同体と東南アジア共同体の2ヶ国でアドバイザーを務めるレナータさんが入場する。

 貿易会社や海運会社を持っているレナータさんは、この2つの地域で多大なる貢献をした事から名誉国民として扱われていると聞いた。

 今日はレナータさんが来る事もあって、母さんやらぴす、しとりお姉ちゃんやラズリーもベリルに手配してもらったホテルで待機している。美洲お母さんもいるし、なんとか時間を作って白銀家全員で食事くらいできたらいいんだけどな。


『最後にユナイテッド・スターズ・オブ・ステイツ、U.S.Sよりヘンリエッタ・F・ローゼンベルグ大統領、エスコート役のジェイ・H・バーンズ特任外交官のご入場です』


 ステイツのローゼンベルグ大統領のエスコートを務めるバーンズ特任外交官は男の人だった。

 さすがは天下のステイツといったところか。オレが前の世界で見たハリウッドの俳優みたいにカッケェな。

 ストロベリーブロンドの髪色に、黒のスーツがよく似合ってる。

 おまけに大統領以下のメンバーもちゃんと男性のエスコート役を連れてきてるんだな。

 これがステイツか。入場からして国力の違いを見つけてくる。


「えー、本日は……」


 羽生総理のそんなに長くない前置きから晩餐会が始まる。

 俺はカノンと一緒にいろんなところへと挨拶に行く。


「ヴィクトリア様、お久しぶりです」

「久しぶりね。うちの妹を泣かせてないでしょうね」


 ヴィクトリア様の先制パンチに俺もタジタジになる。


「泣かせないように努力します……」

「ん、それでよろしい。カノンもこの男に泣かされたらすぐにいうのよ」

「ふふっ、お姉さま、ありがとうございます」


 2人の間にもう蟠りはないようだ。きっと日本で打ち解ける事ができたんだろう。

 やっぱりあの時、ヴィクトリア様を日本に行かせて良かったと思った。こういうのは間を挟まず2人で話すのが一番いいんですよ。


「あくあ様、その節はお世話になりました」

「いえいえ、こちらこそ……」


 俺はオードリーさんにペコペコと頭を下げる。

 国旗と国歌をおうどんに変えてしまった手前、この人にはとてつもなく申し訳なさを感じてしまう。


「あの……国旗と国歌は別に変えてもいいですからね。元のに戻すとか」

「あら? あの国旗と国歌、これからを担っていく子供たちからのウケがすごくいいんですよ。私はとてもいいと思いますわ」


 はは……俺は笑顔を引き攣らせる。

 まさかこれもスターズジョークで、俺のやった事を末代まで語り継ぐとかいう嫌がらせとかじゃないよな?


「オードリーさん、私が言える事じゃないんだけど……スターズをよろしくお願いします」

「はい。スターズ王家が今まで守り抜いてきたこの国を必ず良い方向へと導いて見せます」


 カノンはオードリーさんと固く握手を交わす。

 妊婦をあまり立たせておくのもアレなので、休憩していたとあにカノンを預けて1人でレナータさんのところへと向かう。


「レナータさん」

「やぁ、あくあ君、うちの娘は迷惑をかけてないかい? そういえば、この前、初めて女子会をして楽しかったって電話をもらったよ。こひ……いや、小熊……違うな。小狸、小狐だったか。うーん、日本語は難しいな。主催者の小日向さんに、ありがとうといっておいてくれ」

「わかりました。きっとうちの小日向先輩も喜ぶ事でしょう」


 うーん、惜しい。でも、小雛と小日向ならよく似てるから、もうこのままでいっか。

 俺とレナータさんが会話をしていると。美洲お母さんがやってきた。


「レナータ、久しいな」

「あら、そっちこそ元気にしてた」


 そういえばこの2人と母さんって同級生なんだっけ。

 母さんからは仲良し3人組だったと聞いている。


「ところで、まりんとはいつ離婚するの?」

「そんな予定はない」


 ひっ! 2人の間に火花が散る。

 あ、あれぇ? 母さんから聞いていた話と違うぞ。


「流石に弱みにつけ込むのは可哀想だったから見逃したけど、貴女が帰ってくるのがもう少し遅かったら私がまりんを貰い受けるところだったわよ」

「……その点は感謝してる。私が留守だった間もまりんちゃんを陰から見守っててくれてありがとう。レナータ」


 2人は表情を崩すと、持っていたグラスで軽く乾杯する。

 ふぅ……。一瞬どうなる事かと思ったけど、よかったよかった。


「でも、やっぱりまりんは私との方がお似合いだと思うんだよね」

「ほぅ。その話、もっと詳しくしようじゃないか」


 ヒェーッ! 危機感を感じた俺は、巻き込まれないようにそっとその場を離れる。

 あのままあそこにいたら、どっちのお母さんが良いって聞かれそうだったしな。


「「うまうま」」


 美味しそうにご飯を食べるえみりと楓の姿が視界に入る。

 楓……取材しないといけないのに、完全に食レポになってる事に気がついて! 後で鬼塚さんに怒られるよ!!

 俺は2人を尻目に、1人の女性に近づく。


「お久しぶりです。シャムス陛下」

「白銀殿、久しいな。うちのフィーヌースが世話になっている。どうだ? そちらに迷惑をかけたりはしてないか?」


 俺はシャムス陛下に笑顔を見せる。


「いえいえ。フィーヌース殿下は私などよりも全然しっかりとしてますよ」

「ははっ! そうか! それは良かった。どれ、少し人酔いをしたな。よければそこに見えている庭で夜風に当たらぬか?」

「はい」


 俺はシャムス陛下と一緒に人気のない庭に出る。

 シャムス陛下が俺をここに連れ出したのは、もっと砕けた話をしたかったからだろうと直ぐに理解した。


「ふぅ。ここなら少しは言葉を崩して大丈夫だろう。フィーは本当に大丈夫か?」

「はい、歳の近いハーちゃんがいたのもよかったし、今、住んでるところはくくりちゃんやえみりさん、保護者として揚羽さんがいるので大丈夫だと思います」


 シャムスさんはさっきまでの女王としての顔ではなく、ただの姉の顔になる。


「それと、今回は私達三姉妹のための時間を作ってくれてありがとう。ここで頭を下げる事はできぬが、深く感謝をしている」

「いえ、俺は当然の事をしたまでです。家族の時間は大事にした方がいいですから。私がいうのもアレですけどね」

「はは」


 俺とシャムスさんはそれぞれに家族がいる方を見る。


「今回のサミット、もしかしたら……いや、確実に君が議題に上がるだろう」

「俺が?」


 俺がシャムスさんの方へと顔を向けようとしたら「顔の向きはそのままで」と言われた。

 シャムスさんは笑顔で、ガラス窓越しに目が合ったフィーちゃんに手を振る。


「君は自らの子供の性別を公表していないが、大国のトップであればそれとなく気がついている」


 シャムスさんの言葉に俺はドキっとする。

 カノンが男の子と女の子の2人を妊娠している事はまだ世間には公表してない。

 もちろん知っている人物も少ないし、事実を知っている人が口を割るとも思えないが、おそらくは情報があまりにも秘匿されていることからそういう予想を立てているという事だろう。


「私個人としては君の味方だが、女王として国民評議会の期待を裏切るわけにはいかない。スターズも心情的には君達の味方だろうが、ステイツは大スターズ共和国を新興国として扱う事で発言力を弱めようとしている。極東連邦もきな臭いし、君の家族がアドバイザリーを務めてるとはいえ、アフリカ共同体や東南アジア共同体は利益重視だ。ステイツや極東連邦の話に利があれば、そちらに賛同するだろう」


 なるほど、どうやら今回のサミット、俺は無関係ではいられなさそうだ。

 とはいえ、国の方針に対して俺個人がどうこうするのは難しそうなので、羽生総理の頑張りに期待したい。

 他力本願なところはあるが、流石に俺個人じゃどうしようもない事もある。


「まぁ、そういうわけだ。君個人がどうこうできる問題じゃないかもしれないが、何も知らないよりかはいいだろうと思ってな。ま、私などが心配せずとも、ミセス羽生がどうにかしてくれるだろう」

「俺もそれを期待したいです」


 会話が終わったタイミングで俺とシャムスさんは顔を見合わせて笑い合った。

 そこにフィーちゃんがやってくる。俺は少しでも姉妹2人の時間を作ってあげるためにその場を離れた。

 その後も俺は色んな人に声をかけて友好関係を結んでおく。

 これも自分と家族を守るためだ。

 シャムス陛下の話を聞いた身構えていたが、ステイツや極東連合の代表は俺に接触してくる素振りすら見えない。杞憂に終わればいいんだけどな。


「ん?」


 一瞬だけステイツの男性と目が合う。確かバーンズ特任外交官だっけか。

 なんか、どっかで見た事がある顔なんだよな。うーん……思い出せない。

 彼は俺の会釈に対してふっと鼻で笑うと何事もなかったかのように視線を外した。

 ま、まぁ、俺の気のせいかもしれないし、気のせいって事にしておこう。


「はぁ……疲れた」


 後少しで晩餐会も終わりだし、がんばろ。

 俺はトイレで気合いを入れ直すと、晩餐会が行われている会場に戻るために歩き出す。

 その途中で1人の女性と会った。

 確かアレは……。


「スウ皇帝陛下?」

「は、はい」


 やべ、つい名前を口に出してしまった。流石に無礼だったか?

 とりあえず声をかけてしまった以上は失礼になるので、俺は笑顔で会釈をする。


「こんなところで、どうされたのですか?」

「……侍女長のホンファが戻ってくるのを待っています」


 あぁ、あの豪華な宝石をつけてた人か。

 あの人なら確か普通に晩餐会でぺちゃくちゃと話してた気がするぞ。

 俺とカノンにも話しかけてきて、まるで自分が皇帝のように振る舞ってたから覚えてる。


「その方でしたら、会場でお見かけしましたよ」

「……そう、でしたか。ありがとうございます」


 スウ皇帝陛下は俺に軽く頭を下げる。皇帝がそんなにも気軽に頭を下げていいのかな?


「それでは……」


 スウ皇帝陛下は椅子から立ち上がると、1人で晩餐会の会場へと戻ろうとする。

 いやいや、皇帝がエスコートや侍女もなしに1人で会場に戻ったらまずいでしょ!

 ああ! もう、なるようになれ! どうせ俺は考えるだけ無駄だし、そういうのは他のやつに任せた!!

 俺は細かい事を考えるのをやめると、スウ皇帝陛下に再び声をかける。


「よろしければ、私にエスコートさせてもらえますでしょうか?」

「え……でも……」


 スウ皇帝陛下は俺の手を取るかどうするか悩むような素振りを見せる。

 おそらく自分と俺の立場も考えた上で、この手を取るのを躊躇っているのだろう。

 つまり何も知らないお飾りの皇帝ではないということだ。

 しかし、そんな都合は俺にとっては関係のない事である。

 俺は白銀あくあ、1人の女の子を悲しませるくらいなら世界にも喧嘩を売る男だ。


「お立場的に流石に1人で会場に戻るのは良くないかと思われます。よければ俺の事を利用してください」

「……何から何までありがとうございます。心優しき貴方と日本国に感謝を」


 顔は隠れててわからないが、声や言葉からしてこの子は優しい子だろうなと思った。

 俺がスウ皇帝陛下の手を取って会場に戻った事で、少しだけ会場がざわめく。

 隣に居るスウ皇帝には「気にしなくていいから」と声をかける。

 俺はそのままくくりちゃんのところへと彼女を連れていく、確か2人は知り合いかもしれないってカノンが言ってたし、俺がくくりちゃんから頼まれたって事にしておけば問題がないはずだ。

 もちろん察しのいいくくりちゃんは俺がしたい事を直ぐに悟って対応してくれる。

 その後、すぐに駆けつけた羽生総理やメアリーお婆ちゃんのサポートもあって、俺の行動もあまり問題にはならなかった。


「終わったー」


 俺は控室で一瞬だけグデーっとなる。

 こうして無事に晩餐会を終える事ができたが、俺は自分が議題に上がるかもしれないという話を思い出して少しだけこのサミットの事が心配になった。

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[一言] なーにいざとなったら捗るとホゲラーハイパー化すりゃなんとでもなるへーきへーき
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