白銀あくあ、凸待ちアヤナ!?
「ほーら、素直なふらんちゃんには、お兄ちゃんが焼いた一番いいお肉をくれてやろう!」
「わーい。ありがとうございます」
俺はみんなに肉を焼いて振る舞う。
もちろんその間に俺自身も肉を喰らい、空腹を満たしていく。
うめぇ! 俺は心の中で小雛先輩のクレジットカードに感謝しつつ、パクパクとお米を食べる。
この焼肉店は仙台出身の女将と山形出身のシェフがやってるだけあって、お肉だけじゃなくて米にもちゃんとこだわっているところが俺の好きなポイントだ。
「あくあ様って、いつもすごく美味しそうにご飯を食べてますよね」
「おう!」
俺は飯を食うために敢えてハードなトレーニングを課したり、仕事でカロリーを消費しまくってると言っても過言ではない。
腹が減った時の飯、疲れた時の白米は脳にガツンと効くからな。
「ふらん、ご飯を美味しそうに食べてくれる男性って、すごくいいなって思います」
ふらんちゃん……なんていい子なんだ!
もし、君が俺より年上で大きなお姉さんだったとしたら、今の優しげな笑顔だけで俺はコロッといってたかもしれない。
君が小学生で本当に良かったと思う。
「あくあ様ってお料理も上手だけど、やっぱり料理が得意な家庭的な女の子とかの方が……好き、なんですか?」
「いや、別にそれはないかな」
確かに料理が得意な女の子は魅力的かもしれないけど、人には向き不向きっていうものがあるし、料理ができなくても魅力的な女子はいっぱいいる。
「ただ、自分のために料理を作ってくれる事は普通に嬉しいし、ありがとうって思う。それに、出来ない子でも自分のために頑張ってくれてるんだと思ったら、男としてはグッとくるものがあるよね。さらにもっと言えば、可愛いフリフリのエプロンとかつけてくれたら嬉しいかな」
「ふーん、エプロンかー」
ふらんちゃんは美味しそうに肉を食べるまろんさんへと視線を向ける。
なるほど、その脂身がまろんさんの膨らみの栄養になってるわけなんですね。
「まろん先輩とか似合いそう」
「うぇっ!? わ、わわわ私!?」
話を振られるとは思ってもいなかったまろんさんが慌てた素振りを見せる。
まろんさんのエプロン姿? いくら払えばそれを見る事が出来るのかな? 支払いなら大丈夫。俺にはこのKCB……小雛クレジットビューローカードがあるからな!!
「じーっ……」
なんて事を考えてたら、アヤナに全てを見透かされていたのか、割と本気のジト目で見つめられた。
だ、大丈夫だって。小雛先輩のカードをそんな事に使ったりしないから!
まろんさんとむふふな事をする時は、ちゃんと信頼と実績のAQUA HENTA……じゃなくて、HESOKURI EXCHANGE 、略してAHEXカードを使うから安心して欲しい。
「そうそう、あくあ様、うちのまろん先輩ってすごく家庭的なんですよ」
「へー」
そういえば、バレンタインの時にもらったチョコも美味しかったな。
「ふらんは実家が西の方だから、今はまろん先輩のお家でお世話になってるんだけど、ハンバーグだって手捏ねだし、肉じゃがとかだし巻きとかもとっても美味しいんですよ。あっ、それと、おはぎ! まろん先輩の作ってくれるお団子とかおはぎとかすごく美味しいんです」
おはぎを作れる女子……いいな。
しかも、まろんさんが手で握ってくれたおはぎだと? 早速アヘックスカードの出番か?
昨今、手作りのおにぎりやおはぎが無理だという人もいるが、俺は違う。
俺は女子の手汗が染み込んだものなら涙を流しながら美味しくいただくタイプの男だ。
無類の女好きでもあるこの白銀あくあの本気を舐めないでほしい。
そういえばこの前、嫁達やペゴニアさんに握らせたおにぎりを食べて、誰が握ったおにぎりか一発で当てて小雛先輩にドン引きされた事があったっけ。あの時は締めに食った小雛先輩の握り飯に殺されかけたぜ……。
俺は三途の川を渡りかけたあの日の事を思い出す。
「へぇ、じゃあ、今度、俺もご馳走になろうかな」
「ほぇっ!?」
びっくりしたまろんさんがお肉を喉に詰まらせそうになる。
大丈夫か? 隣に座っているアヤナがまろんさんの背中をトントンと叩く。
「あー、それいいですね。アヤナ先輩も呼ぶので是非とも遊びに来てください! ふらんはあんまりお料理とかしないんだけど、その分、アヤナ先輩と一緒にあくあ様のおもてなしを頑張りますね!」
ふらんちゃんって、話しやすいしちょっとギャルっぽい雰囲気あるけど優しい感じがして良い子だな。
よーし、お兄ちゃんも、ふらんちゃんをおっきくするために、じゃんじゃん高いお肉焼いちゃうぞー!
「ところで、夏に開業するベリルインワンダーランドの、eau de CologneとBERYLのコラボ施設の事は聞きましたか?」
「うん、一応、俺は全部の監修に関わってるからね」
ベリルインワンダーランドにはBERYLとヘブンズソードのコラボアトラクションもあるし、俺が出演した過去作とのコラボ施設やアトラクションもある。
eau de Cologneとのコラボ施設もそのうちの一つで、初回はeau de Cologneの歌う楽曲の世界に俺達BERYLがダイブするという設定だ。
そのためのコラボステージやPVもあるし、楽曲専用の衣装も作ったし、施設内で販売するグッズはもちろんのこと、コラボPVで使った場所も施設内に完全移築してあるので、実際に撮影した世界観のステージに自分達がお邪魔して記念撮影したりとか、俺たちが着用した衣装と同じデザインのものを貸し出したりとか、シーズンごとにお互いのグループの楽曲を入れ替えて、その世界観に飛び込むeau de CologneとBERYLのグッズが展開されるので、何度も来る人だって飽きが来ないようにしている。
「あくあ様、すごーーーーーい。忙しいのに、そんな事もしているんですね」
ふらんちゃんは子供のように目をキラキラと輝かせると、尊敬するような眼差しで俺を見つめつつパチパチと拍手する。
ああ……なんだろう。ふらんちゃんとお話していると、どんどん自信が湧いてくる自分がいる。
明日も頑張ろうって気になるし、何がとは言わないけど、俺の中の何かが凄く満たされるんだよな。
「ふらん達、コラボのおかげでベリルさんから事前パスもらったんだけど、どこを見たらいいかとか全然わからなくて〜、あくあ様みたいななんでも知ってるような人が案内してくれたらいいのにな〜、なんて〜。でも、あくあ様って凄くお忙しいし、そんな事を言われても迷惑……ですよね? ごめんなさい!!」
「そんな事ないよ。ふらんちゃん」
例え忙しかろうと、72時間働いた後だろうと、女の子から誘われた瞬間にすぐに身体が動いちゃう男、白銀あくあだぞ? ましてや将来、確実に良い女になるのがわかってるふらんちゃんの誘いを、この俺が断るわけないんだよなあ!!
「むしろ、この俺に案内させてくれないか?」
「わーい、やったー。さっすがー、あくあ様って本当にみんなに優しいんですね。ふらん、凄く嬉しいです!!」
無邪気に喜ぶふらんちゃんを見て、俺もホクホク顔になる。
ふらんちゃんならワンチャンお付き合い……いや、落ち着くんだ、あくあ。流石にふらんちゃんはまずいぞ。でも、ふらんちゃんとお話してると、うちの妹のらぴすどころか、嫁のカノン……いや、俺より大人の小雛先輩より全然大人っぽく見えるんだよなあああああ。
それに、お前はそうやって最初から自分の可能性を縮めていいのか?
この前、杉田先生が「君達、学生には無限の可能性がある。だから、自分からアレは無理、コレは無理だと思っちゃダメだぞ」と、授業中に言われたばかりじゃないか!
そういえば、この俺が尊敬する昔いた光の戦士みたいな名前の人も、女の子は早めに目をつけて自分好みに育てるのはアリって言ってたし、一旦、これは持ち帰って検討すべき事案だろう。
「あっ……! あくあ様、あくあ様!」
「ん? ふらんちゃん、どうかした?」
ふらんちゃんは俺の耳元に顔を近づける。
やめて、今、その距離感で囁かれると普通に意識しちゃいそうになるから。
「あくあ様の事だから忘れてないと思うんだけど、今月末はアヤナ先輩の誕生日なんですよ」
ウン、ワスレテナイヨ……。俺は少しだけ視線を明後日の方向へと泳がせる。
ふらんちゃんは俺の顔をじーっと見ると、周りに聞こえないように小さな声で囁く
「実はふらん、まだお世話になってるアヤナ先輩のプレゼントが決められなくて困ってるんです」
「き、奇遇だね。実は俺もまだ買ってなくてさ……ははは」
「あくあ様はお仕事だって忙しいし、忘れてたわけじゃないんだから、仕方ないですよね」
俺はふらんちゃんの完璧なフォローにうんうんと頷く。
くっ、ふらんちゃんが小学生じゃなかったら、俺の嫁になってカノンを助けてあげてくれというところだった。
「あくあ様、良かったら、ふらんと一緒にアヤナ先輩のお誕生日プレゼントを選んでくれませんか? 忙しいあくあ様にこんな事を頼むのはどうかと思うんですけど、ふらん、いつもお世話になってるアヤナ先輩に喜んで欲しいなって。でも、ふらんが選んじゃうとまた似たような感じになっちゃうし、あくあ様みたいに経験が豊富で、頼り甲斐があって、博識で、決断力があって、かっこいい大人のお兄さんが一緒に選んでくれたら、アヤナ先輩もきっと喜んでくれるし、ふらんもすごく助かります」
ふらんちゃん……なんて良い子なんだ!!
お世話になっている人のためにってところがグッとくるし、すごく健気で応援してあげたくなる。
それに小ひなんとか先輩と違って、ふらんちゃんはこの俺の事がよくわかってるじゃないか!
「あくあ様、ダメなふらんの事を助けてくれませんか?」
「もちろんだとも。ふらんちゃん、この俺に任せてくれ!!」
そう、かっこよくて、頼り甲斐のあって、博識で決断力のある大人なお兄さんの俺に全てを任せなさい!!
はははははははは!!
凄く気分が良くなった俺は、自分で焼いた肉をパクパクと食べる。
「ふらんちゃん、恐ろしい子……!」
「流れるようにあくあ様とお買い物デートを取り付けやがった」
「なんという煽て上手、一瞬、間違えて銀座のクラブに来たのか思ってしまった」
「ふらんちゃん、私よりも二回りも年下なのに、全肯定してくれるママみを感じるのは私だけかな?」
「私もふらんママに甘えたいよ〜。お仕事から帰ってきたら全力でよちよちしてもらいたいよぉ〜」
「流石は一度接待した相手は確実にファンに堕とす魔性の小学生と言われているだけの事はある」
「ふぅ、私たちにはとてもできないような高難度のミッションを流れるように攻略していくぅ〜」
「おまけに、あくあ様のセンスが独特だとわかっていて、アヤナちゃんへのプレゼントが変にならないように自分がついて行く事でカバーするという……。完璧がすぎるよ」
「私たちのようなモブにはぐうの音も出ないです」
「これでまだランドセル背負ってるとか嘘だよな?」
「あの相手を勘違いさせるような仕草とか、私のお気に入りのラウンジ嬢と完全に一致してんだけど……」
「こーれ、数年後は嫁になってます」
「掲示板に嗜みプギャーって書いとこ」
「数年後に掘り返されて預言者キター! って、言われるやつな」
「eau de Cologneの裏番長って呼ばれる理由がわかる。2人が引退してもふらんちゃんがいればeau de Cologneの将来は安泰だよ」
どうやらみんなも楽しんでくれているようだ。
俺は一旦、トイレに行くために立ち上がる。
「ふぅ……」
トイレから出て帰ろうとすると、目の前からアヤナがやってきた。
「あくあ、今日は本当にありがとね」
「いいって。俺も普通に楽しかったしな」
俺とアヤナは少しだけ夜風にあたるために中庭に出る。
今日は月がよく見える夜だ。
「後でゆかり先輩にもお礼を言わないとね」
「じゃあ、俺の分も頼むわ」
「もう、それはちゃんと自分で言わなきゃダメでしょ」
「はは、わかってるって」
俺とアヤナはいつものようなやり取りで笑い合う。
同じ同級生でもアヤナとの会話は他のクラスメイトや、カノンとも少し違う感じになるんだよな。
それがまた心地いい。
「実は今日、生放送だからちょっと緊張してたんだ」
「俺だってそうだよ」
「嘘!? あくあは絶対に緊張なんてしないタイプでしょ?」
「いやいや、あの小雛先輩だって意外と緊張するタイプだったりするんだから当然だろ」
「えーっ!? それこそ絶対にないでしょ」
俺はアヤナに対して笑みを返す。
信じてもらえないかもしれないけど、俺だって小雛先輩だって決して緊張しないわけじゃない。
むしろ緊張があるからこそ、俺も小雛先輩もそれをパワーに変えてみんなの前に立てるんだ。
「じゃあ、あくあは緊張した時、どうしてるの?」
「成功した時の事を考えてるよ。そうしたら、少しは自分の理想としてるものに近づける気がしてさ」
「自分の理想……」
俺が空を見上げると、釣られてアヤナも空へと視線を向ける。
その横顔をチラリと見て、あの日の夜を少しだけ思い出してドキドキした。
「ま、俺達は幸せ者だよな」
「えっ?」
アヤナは俺の言葉に驚く。
「この空には無数の星があって、それと同じくらいの人間が地上にはいる。その中で、俺達を見つけて応援してくれるファンがいるんだぜ? それってすごい事だと思わないか?」
「あっ……」
「だからさ、ファンの期待にだけは絶対に応えなきゃダメだよなって思う。それが俺の理想とする最高のアイドル、最高の白銀あくあだ」
俺は一瞬だけ目を閉じると、アヤナと向かい合うように体を向き直してお互いを見つめ合う。
ほんの少しだけ風が吹いて、擦れた草花が心地のいい音を立てた。
「私もそう……なれるかな?」
「なれるさ」
俺はアヤナに手を伸ばすと、風で乱れた前髪を人差し指で軽く直す。
「俺にとってのアヤナは、このお月様のようにいつだって光り輝いているからな」
自分で言ってて恥ずかしくなったが、それはお互い様だ。
アヤナは顔を真っ赤にすると、唇をワナワナと振るわせる。
「もう! もう! それを言ったら、私にとってあくあは太陽だよ!! 日中遠慮なくピカピカ光ってるところとか、紫外線対策でこっちが日焼け止め塗らなきゃいけないとことかさ!!」
「ちょっと待って、最初褒められてるのかと思ったら、それって普通に悪口じゃね!?」
「そうですー! 悪口ですー!」
「いやいや、太陽は重要でしょ! もっとこう褒めるところとかない!?」
「あるけど、デメリットもあるんですー。だから太陽なんですー!」
アヤナは恥ずかしさを紛らわすために、俺に悪態をつく。
はは、 アヤナがふらんちゃんくらい素直だったら、俺達はどうなってたんだろうな。
あの日の夜、もしかしたら俺はアヤナと結ばれてて、今とは違う未来だったんじゃないかって思う時がある。
もちろん、そんな事はカノンや アヤナには言わないし、俺は現状に、この未来にすごく満足してるけどな。
「もー、やだ。お手洗い行ってくる」
アヤナはそう言って俺から離れると、1人お手洗いへと向かう。
俺はアヤナの後ろ姿を見送ると、みんなのいるところへと戻った。
「あ、お帰りなさい」
あっ、帰ってきたらふらんちゃんがスタッフさんのところに話に行って、隣の席がまろんさんになってた。
俺を全肯定してくれるふらんちゃんが居なくなって悲しいけど、まろんさんが隣で目の保養的にもすごく嬉しい。
「あくあ君、うちのふらんが色々とごめんね……」
ん? どういう事?
まろんさんは俺に対して申し訳なさそうな顔を見せる。
もしかして、まろんさんにはお兄さんの俺がふらんちゃんの相手をしてあげたように見えちゃったのかな?
「いいって、俺もふらんちゃんとお話しできて楽しかったしね」
「ふふっ、ありがとね」
まろんさんは、俺を見ると一瞬だけ固まる。
やべっ、俺がまろんさんの膨らみばかりを見てたのがばれたか!?
よく見るとまろんさんは、俺のおでこの上ら辺を見ていた。
「あくあ君、髪に葉っぱがついてるよ」
あっ、アヤナの髪からとった葉っぱを自然に返したはずが、どうやら風に舞って自分の方へと戻ってきたらしい。
「とってあげよっか?」
「よろしくお願いしまーす!」
うっひょー。至近距離から合法的にまろんさんの膨らみを堪能できるなんて最高じゃねぇか!!
俺はこの仕事を受けて、本当に良かったと今、心から感謝している。
今の俺なら、小雛先輩にだって素直に感謝できるだろう。
「はい、取れた」
は〜、許されるのであれば、このまま、まろんさんに甘えたくなる。
「ふふっ、あくあ君ってば、さっき、私の見てたでしょ」
「いっ!?」
まろんさんの言葉に俺はドキッとする。
やべー。見えないと思ってたのにバレてたのか!?
「女の子は普段見られたりしないし、私みたいなおっきい子はそういう視線に敏感だから、気がつく子は気がつくんだよ」
そういえば、前にもそんな事を言われたな……。
でも、大きいのはついつい見ちゃうんだよなああああああ。
これはもう男の性と言っても過言ではない。
「ふふっ、触ってみる?」
い、いいんですか!?
俺は自然と前のめりになる。
「なんてね。こんなみんなが居るところで、そんな事するわけないじゃない」
で、デスヨネー。
「あっ、でも、2人きりの時なら……」
2人きりの時ならあ!?
ちょ、ちょ、その言葉の続きが気になるんですが!?
「ふふっ、あくあ君って本当に可愛いよね。私、あくあ君みたいな弟が欲しかったなー」
奇遇ですね。俺もまろんさんみたいなお姉さんが欲しいです。
なんなら俺は常にお姉さんを募集してますよ。姉は何人いてもいいですから。
「ね……少し、暑くない?」
ふぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
まろんさんの仕草に俺はドキドキする。
「あはは、なんだか気分が良くなってきちゃった」
ん? 待って、なんかまろんさんの様子、おかしくない?
俺は奥に居たふらんちゃんと目が合う。
あれれ? 青褪めた顔しちゃって、どうしたのさ?
「ま、まろん先輩、もしかしてお酒の匂いだけで酔っちゃったの!?」
えっ? そんな事ある?
「ふふっ、あくあ君、お姉ちゃんとしてみない?」
「えぇっ!?」
「ね? いいでしょ」
喜んでぇ!!
俺の心の中のあくあが立ち上がって大喜びする。
待て待て待て、お前、俺の理性を勝手にグーで押し出すんじゃない!!
「黙ってるって事は、いいって事だよね」
まろんさんの顔が近づいてくる。
抗えねぇ! いや、むしろここまできたら覚悟を決めるんだ、あくあ。
これは事故のようなもの。そう、仕方がない! 仕方がない事なんだ!
「それじゃあ、いただきまーす」
目を閉じたまろんさんの顔が近づいてくる。
いただかれまー……。
「だめーっ!」
「んっ!?」
不幸な事故だったんだと思う。
まろんさんを阻止したアヤナと唇同士がぶつかる。
「あ……」
真っ赤になったアヤナはそのまま後ろに倒れた。
「だ、大丈夫か! アヤナ!!」
そう言えば、まろんさんは!?
首を振って周りを確認すると、酔ったまろんさんをふらんちゃんがよちよちしていた。
やっぱり俺の理想のママじゃねぇか! ふらんちゃんは早く俺のママになってくれ!!
「うおおおおおおおおおおお!」
「きたあああああああ!!」
「ありがとうございますありがとうございます!」
「これは凸待ちアヤナですわ!」
「いやいや、これは凸待ちじゃなくて自分から凸ってるでしょ!」
「こういうのが見たかったんですよ!」
「結婚式には呼んでくださいね」
「みんな……今日の事は秘密にしようね」
「もちろん!!」
「ちょっと外にマスコミがいたらいけないので駆逐してきます」
「私も行く。アヤナちゃんとあくあ君を守るために今から本気出す」
俺は風の当たる縁側でアヤナを膝枕すると、女将さんに貸してもらった団扇でアヤナの赤くなった顔を仰ぐ。
おーい。大丈夫かー。早く復活しろー。
「ううう」
はは。まだもうちょい復活には時間がかかりそうだな。
「ごめん、あくあ……」
「いいって、気にするなよ」
俺は夜空に輝く綺麗な月を見上げながら、アヤナの復活をゆっくりと待った。
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