白銀あくあ、策士策に溺れる。
CMが明け、放送中のランプが点灯する。
「あ、あれ? さっきの人は?」
俺はびっくりした振りをする。
もちろんこれはただのフリだ。
「さっきの人? なんの事です?」
「さあ?」
「あそこは最初からねねちょさんデザインの小熊先輩のぬいぐるみですよ」
って、クマのぬいぐるみってそっちのクマかよクマー!
eau de Cologneは素知らぬふりをした後に笑みを浮かべる。
「はい、それじゃあ、次はまろん先輩の番でしたね。くじをどうぞ」
「ちょっと待って、さっき……」
「さっきのは無効ですよー。たとえ、裏で答えてたとしても無効でーす」
ははは。いいぞー。アヤナー、もっとやれー!
恥ずかしがるまろんさんを堪能するために、俺は心の中でアヤナに声援を送る。
「えー、もーやだー!」
まろんさんはイヤイヤと可愛いそぶりを見せながらくじを引く。
少しでいいから、同い年のゆかり先輩にこの可愛さを分けてほしい。
「えーと……62番さんです」
「やったー!」
62番さんが立ち上がる。
「お二人に質問です。まろんさんもあくあ君もSNSで良く運動してるけど、芸能人対抗、夏の大運動会とかには出ないんですか?」
芸能人対抗、夏の大運動会。
要は女性芸能人たちが水着を着たり、体操服を着たりして、さわやかに、そう、さわやかに運動をする大会である。
「去年は組む人がいなかったけど、今年は悪夢の世代で出ると思うよ。インコちゃんは応援団だけどね」
悪夢の世代って事は楓も出るのか……。それ、圧勝したりしない?
あっ、でも、小雛先輩が運動音痴だからプラスマイナスゼロか。
「俺も阿古さんにBERYLでどうって聞いてる。多分出るんじゃないかな?」
俺の回答に客席が盛り上がる。
実はまだ解禁してない情報だけど、隅っこから見てる蘭子お婆ちゃんにアイコンタクトで確認したから、言っても大丈夫なはずだ。
「もしかしたら、丸男とか孔雀とかはじめとか入れたり、ゲストで石蕗さんとか賀茂橋さんとかチャーリー君とか、裏技で理人さんとか楓のお父さん呼んで史上初の男女対抗戦にするかもって話も聞いた」
「あっ、そうなんだ。って、それ、言っても大丈夫な情報なの!?」
「大丈夫大丈夫。同じ藤だし、そこでこっそり見てる蘭子おばあちゃんが何も言わないから大丈夫でしょ。ちなみに楓が出るなら、人類で楓に勝てるのは俺しかいないと思うから超本気で頑張ります」
俺の答えに客席から笑い声が起きる。
競技によっては他の女子でも楓に勝てると思うんだけど、競技が純粋にフィジカル勝負とかになればなるほど楓が無双しちゃうんだよなあ。
「でも、最近、楓の様子がちょっとおかしいんだよね。なんか、この前も自分の拳を見つめながらパワーが落ちてる気がするって言ってたし」
「えっ? 楓ちゃん、大丈夫かな? 結婚式の時は元気にしてたのにね」
「多分、季節の変わり目で体調崩したみたいなものだと思うんだよね。うちのお医者さんが休みの日だったから、職場の近くのお医者さんに診てもらったらそうじゃないかって」
「ふーん」
カノンや琴乃も言ってたけど、結婚式とかで立て込んでたから楓も疲労がたまってたのかもしれない。
それにえみりも、ああ見えて楓パイセンは変なところで繊細だからって言ってっけ。
変なところはちょっと余計だけど、確かに楓て意外と繊細なところがあるんだよな。ホゲってる時がアレなだけで普段は周りのこととかちゃんと見てるし、そういう気配りなんかもできる人だ。
「……って、あれ? 国営放送の近くにあった病院って、この前、ヤブ医者で捕まったとかなんとかって、国営放送の週刊ホゲニュースで言ってたいような……ま、それなら、ニュース読んでる楓ちゃん本人が自分で気がついてるよね。うんうん、大丈夫大丈夫」
ん? まろんさん、どうかした?
まろんさんは俺の隣で何やら小声でぶつぶつと呟く。
「それじゃあ次は私ね!」
ふらんちゃんは元気よくくじを引く。
「はいでた。35番! ザコ!?」
俺の事か!?
一瞬、自分が呼ばれたのかと思って席から立ち上がりそうになる。
危ない危ない。俺の中にある、女の子の前じゃいつだって敗者でいたいという欲望が漏れ出てしまった。
「あっ、私です」
客席のお姉さんが35番の紙をカメラの方に向ける。
「ふーん。お姉さんってば、雑魚なんだ。ざーこざーこ!」
「わー、ありがとうございます!」
ふらんちゃん……あとでお金払うから、お兄さんにもそれやってくれないかな?
できればeau de Cologneのみんなに囲まれながらやって欲しいけど、アヤナがものすごく冷たい目で俺の事を見てきそうで想像しただけで震えてる。
「お姉ちゃん、ネタとはいえごめんね。付き合ってくれてありがと!」
やっぱこれなんだよな。eau de Cologneは、アヤナ筆頭に根が素直なのがいいところだ。
「えとえと、さっき結婚したらって話が出たけど、あくあ君とふらんちゃん、お互いが兄妹だったらどういうことがしたいですか?」
なるほどね。ふらんちゃんが妹か……。
俺は、毎日ふらんちゃんのお馬さんになってる自分の情けない姿が頭の中に思い浮かぶ。
うん。全く違和感がないな。間違いなくこれだ。
「えー!? あくあ様がふらんのお兄ちゃんだったら、毎日連れ回しちゃうかも。学校の送り迎えとかもさせて、どう? ふらんのお兄ちゃん、ちょーかっこいいでしょーって同クラの子達に自慢しちゃうと思う」
ふらんちゃんは歯を見せて笑う。いい笑顔だ。
確かに、らぴすより活発なふらんちゃんは、俺の事を連れ回しちゃう気がするな。
「俺はそうだな……。うちのらぴすはインドア派なんだけど、ふらんちゃんはお買い物とか好きそうだし、一緒に原宿とか渋谷をうろうろしたりとか?」
「さっすが、あくあ様! ふらんの事……ううん。女の子の事がわかってるー! あっ、それとね。ふらん、お兄ちゃんが居たらドリンク回し飲みしたり、一緒にりんご飴ぺろぺろしたいんだ。ねー、あくあ様、ふらんのお兄ちゃんになってー」
ふらんちゃんは自分の唇に人差し指を当てると、上目遣いで俺を見つめる。
おっふ、ふらんちゃんって、なんかこういうふとした仕草の時、年上のアヤナより大人っぽく見えるんだよなー。
俺の妹がらぴすで本当に良かったよ。もし、俺の妹がふらんちゃんだったら、どうなってたんだろう……。
「それじゃあ、今度みんなで一緒に遊ぼっか」
「やったー! あくあ様大好きー!」
ふらんちゃんは無邪気なふりをして俺の腕に抱きつく。
さっき咄嗟にみんなと一緒にって言って本当に良かった。2人きりならどうなっていたことか……。
「じゃあ次は私ね」
アヤナは74番のくじを引く。
アヤナグッズを身につけた74番さんは立ち上がってガッツポーズをする。
ファンなら嬉しいよな。わかるよ。
「同じ学校のクラスメイトで、日本を代表する男女のアイドルグループのエース、そして同じ師を仰ぐ役者であるお二人に質問です。それぞれの視点から、お互いにどう思ってるか教えてください!!」
なるほど……これはガチな質問ですね。
俺は切り替えて真摯な姿勢で質問に答える。
「役者としてのアヤナはどちらかというとライバルっていうより同志かな。小雛先輩を倒すためのね」
「ふーん……私はライバルとして実力不足ってこと?」
「いやいや、そういう意味じゃなくてですね……」
俺はアヤナの返しにたじたじになる。
アヤナは俺の反応を見て、可愛らしく舌を出す。
「ふふっ、嘘だよ。ま……小雛先輩を倒すまでは同志って事にしておいてあげますか。その後は私があくあを倒すけどね!」
「おっ、いいね。それはそれで望むところだ」
嫌いじゃない、というよりも、アヤナのこういうところは好きだ。
この世界的に、男性の俺の方が遥かに有利にも関わらず、俺と対等でいようとしてくれるアヤナの姿勢は他の役者さん達にも大きく影響を与えたと思う。俺が役者として孤立してないのは、アヤナの姿勢あってこそだと思ってる。だから、ゆうおにでアヤナと共演して本当に良かった。
「で、アイドルとしては、どうなのよ?」
「それはもう普通にアイドル界の大先輩ですから。ライバルというよりも、こっちは追っかけないといけない立場なので頑張りたいと思います」
「またまたー。すぐそうやって持ち上げる」
別に持ち上げてるわけじゃないんだけどな。
確かにセットにお金がかかってたりとか、うちはスタッフとかも錚々たるメンバーが揃ってるけど、ライブとしての完成度はeau de Cologneの方が高いと思ってる。
そこはやっぱり経験だったりの差が大きい。元より俺だって前世では研究生からアイドルデビューしたばかりだったからな。トップアイドルとしてのステージの場数が単純に違う。
そういう意味ではイリアさんのフェアリスとか、他のアイドルから見習うべきところはたくさんある。
「アヤナから見てBERYLはどう?」
「そうね……ぶっちゃけ本音トークだから言うけど、あくあソロなら私が口を出すレベルじゃないけど、BERYLとしてはまだ改善点が多いんじゃない?」
「おっしゃる通りです」
「BERYLはそれぞれが個性的だから統一感を出すのがちょっと難しいんだよね。でも、そこを乗り越えたらもう誰も追いつけないのかなって気がしてる。だって、たまに4人が見せる抜群に4人があってる時のステージはやばいなって思うもん」
やっぱりアヤナはよく見てるなあと思う。
BERYLにはまだ上がある。伸び代しかないグループだ。
だから俺が先頭を切ってみんなについてこいよって言い続けたい。それでついてきてくれると信じてるとあ、慎太郎、天我先輩に俺は甘えっぱなしだ。
俺はふっとを息を吐くと、表情を緩める。
「じゃあさ、クラスメイトとしてはどうよ?」
「クラスメイトとしては……特にないかな」
特にないのかよ! 俺は席から滑り落ちそうになった。
昔みたいに急に塩対応になるの。やめてもらっていいですか?
「いや、なんか思い出すわ。俺にとってのクラスメイトとしてのアヤナは初期の塩対応アヤナだからね」
「ちょっと待って、あの頃は思い出さないでよ。もー!」
アヤナは昔の自分を思い出して恥ずかしがる。
「はい、もうこの質問は終わり! 次行こ次!」
アヤナは強制的に質問を断ち切る。
いいっすね。俺も客席のみんなもアヤナの反応にニヤニヤした顔を浮かべる。
アヤナのファンは確実に俺と同じレート帯だと認識した。
「あっ、アヤナちゃん。最後は番組視聴者からの質問だってさ」
「えっ? もうそんな時間?」
俺はカメラがこっちを向いていない隙に、目の前のスタッフさんが手に持っているカンペに視線を向ける。
【最後の質問は、あくあ君がまろんさん、ふらんちゃん、アヤナちゃんの順に一緒にくじを引いてもらいます。こちらが用意した、視聴者からの質問が書かれたカードを2人で協力して選んでくださいね】
なるほどな。了解した。
「それじゃあ、最初は俺とまろんさんですか」
「うん、あくあ君、どれ引こっか?」
まろんさんの髪から良い匂いがして、俺の鼻先をくすぐる。
ちょっと甘くて柔らかくて石鹸程度のほのかに香る優しい匂い。一番男がグッとくるやつじゃねぇか!!
「まろんさんが選びたいのでいいよ」
「もー、それじゃあ意味ないじゃん。一緒にえらぼ?」
はーい!
まろんさん、お金出すから俺専用のお姉ちゃんになったりしてくれないかな?
正直な話、お姉ちゃんは何人いても良いからね。
「じゃあ、まろんさん。同時に引きたいカードを指さそっか」
「うん!」
まろんさんは俺の顔を見上げると、ニコッと笑う。
待って、至近距離からのアイドルスマイルはずるい。俺に気があるんじゃねぇかと勘違いしそうになるだろ!!
「「せーの!」」
おっ、俺とまろんさんは同じカードを指差す。
「やった! あくあ君、一緒だね!」
やべぇ。プライベートだったら、こっちを向いた瞬間に可愛すぎキスしてたかも。
これが悪夢の世代か。気を抜いたら本当に一瞬で持っていかれそうになる。
女性トップアイドルグループ、eau de Cologneのキャプテンは次元が違うなと思った。
「なんて書いてありました?」
俺はカードをめくったまろんさんの耳元で囁く。
「え、えっと……」
顔を赤らめたまろんさんは手に持っていたカードを表に向ける。
【あくあ君とまろんさんに質問です! お互いに異性として魅力的なポイントってどこだと思いますか? できれば交互に言い合って勝負してください!! ぐへへ……。質問ナンバー0721、ラーメン捗るさん】
ラーメン捗るさんっていつも俺の配信に来てくれてる常連さんじゃん!
突発的な出演にも関わらず見てくれてるなんて嬉しいな。
「だ、そうですね。ちなみに俺はまろんさんのお姉さん的なところは異性としての魅力的なポイントだと思いますよ。どんなに強い男だってたまには甘えたくなる夜もありますから」
「あっ、先に言っちゃうなんてずるい!」
顔を真っ赤にしたまろんさんを見て、俺はニヤニヤする。
「えっと、えっと、おっきいところとか……?」
「おっきい? どこが!?」
まろんさんの危ない回答に思わず俺もびっくりする。
さすがは悪夢の世代、油断も隙もない。
ちなみに俺もおっきいのは好きです。何がとは言わないけどね。
「あっ、違う! 違うの!!」
顔をさらに赤くしたまろんさんは自然と声が大きくなる。
「そうじゃなくて、目線の高さというか、こうやって隣り合ってると、ちょっと上を見上げなきゃいけないのがちょうど良い高さだなって思ったの!!」
俺はまろんさんの答えにほっと胸を撫で下ろす。
ふぅ、もう少しで1人のトップアイドルにイケナイ発言をさせてしまうところだった。
「なるほどね。そういう事なら俺も俺の目線的にまろんさんってちょうど良いんだよね。ほら」
俺はまろんさんを抱き寄せると、自分の肩にまろんさんの頭をもたせかける。
それを見た客席から黄色い悲鳴が返ってきた。
「どう?」
「どうじゃないでしょ。もー!」
まろんさんの顔がますます赤くなる。
そこにさらに追撃をかけるのが白銀あくあスタイルだ。
「ほら、このままじゃ俺が勝っちゃいますよ」
「あっ、え、あ……」
慌てるまろんさんの隣で、俺は数字を10から0に向かってカウントダウンさせる。
「ろーく、ごー、よーん、さー……」
「待って待って、固いとことか!?」
固いところぉ!? この人は生放送中に一体何を言い出すんだ!?
流石の俺もびっくりして口をあんぐりと開けてしまう。
「え……? あっ……」
俺と周りの反応を見たまろんさんは自分の言った発言の意味に気がついたのか、耳まで真っ赤にしてしまう。
「そうじゃなくて、胸板とか腹筋とか! さっき抱き寄せられた時に、良いなって思っちゃったの!! そ、その、変な意味じゃないんだから!!」
変な意味じゃないってことは、その意味も分かってるってことですよね!?
「もー、やだー!! なんで今日だけこうなっちゃうのー」
顔を両手で覆い隠したまろんさんは、膝を折ってコンパクトに縮こまってしまう。
「え、えーっと……他にもいっぱい魅力的なところはあるけど、今日は俺の負けです」
流石に可哀想だから俺は両手をあげて降参のポーズを見せる。
これ以上踏み込むと、まろんさんが小熊先輩に変わってしまうかもしれない。
俺は悪夢の世代の危険度を舐めていた事を反省する。
「やったー! 2人とも、あくあ君に勝ったよー」
勝負に勝って復活したまろんさんが、ふらんちゃんやアヤナに抱きついて喜ぶ。
こんなに可愛いのに中身は……なのか、たまらないな。
「それじゃあ、あくあ様、次はふらんと一緒にカードを引いてくださいね」
「OK、どれにする?」
俺はふらんちゃんと一緒に相談しながらカードを選ぶ。
さっきといい、ふらんちゃんの体の寄せ方はなんでこんなにも手慣れてるんだろう。
「勘だけどこれとか、良さそうな気がする。あくあ様はどう思いますか?」
「それじゃあ、それにしよっか」
俺はふらんちゃんと見つめ合うと、一緒に選んだカードを引いてみんなに見せる。
すると客席から大きな拍手が起こった。
なんだろう? 俺はふらんちゃんと顔を見合わせると、質問が書かれたカードをこちらに向ける。
【ふらんちゃんとあくあさんに質問です。お互いのアイドルグループのおすすめポイントを教えてください!! 質問ナンバー0902、92姐さん】
なるほどな。確かにこれは良い質問だ。
俺はふらんちゃんと再び顔を見合わせると、ニカっと歯を見せて笑い合った。
「eau de Cologneのいいところはね。みんなちゃんと可愛いところなんですよ。でもステージになると、みんなちゃんとかっこいいんだよね。胸が熱くなるし、気がついたらライブが終わった時に泣いちゃってる自分がいるんですよ」
俺の答えに対して、客席のみんなも首がちぎれるくらいうんうんと頷いてくれた。
「だから俺が推すeau de Cologneのおすすめポイントは、やっぱりライブですね。ライブに行けば全てがわかる。まずはそこからなんですよ」
ふらんちゃんが俺の熱弁に手を叩く。
「わー、ありがとうございます!」
やっぱりふらんちゃんってメスガキみがあるけど、いい子なんだよな。
アヤナの事も大好きだけど、ちゃんとeau de Cologneのことも大好きだし、ライブのパフォーマンスもたまにアヤナをくいそうになるくらいのパフォーマンスを見せる時がある。
間違いなく次世代のアイドルを引っ張っていく存在だ。
俺がプロデュースするミルクディッパーにとっても、ふらんちゃんは高い壁になるだろう。
「じゃあ、ふらんのBERYLおすすめポイントは〜、んー……いっぱいありすぎてどうしようかな。ライブもいいけど、ふらんが一番好きなのはベリルアンドベリルでみんなで何かに挑戦したりとか、あとは配信やトーク番組で雑談してるのとかが一番好きなんだよね」
なるほどな。確かに俺もベリルアンドベリルで色々やったり、配信でみんなとだべるのは好きだ。
ライブって本当は言って欲しかったけど、その二つが人気なのも俺は知ってるし、それがBERYLの現状って事だと思う。
「もちろん、ライブもおすすめだから、今度出るBERYLのライブのDVDやBDも買ってあげてねー!」
この言葉が全てだと思う。
アヤナとかまろんさんってしっかりしてるように見えるけど、意外とふらんちゃんが一番しっかりしてるんだよな。ちゃんと俺達のDVDやBDが出るのも把握してるし、ある意味で俺が知る限り、この世界で1番のプロフェッショナルアイドルかもしれない……。
「ありがとね。ふらんちゃん」
俺はふらんちゃんにお礼を言うと、アヤナが来るのを待つ。
「それじゃあ最後にアヤナ、2人で引く?」
「えっ、やだ」
やだってなんだよ! 即答しなくたっていいじゃん!!
客席からもクスクスと笑い声が聞こえてきた。
俺はしょんぼりした顔をする。
「もー、いつもの冗談じゃない! ほら、一緒に選ぼ」
ふひひ、ちょっと寂しげな顔をするとアヤナはすぐに優しくしてくれるんだよな。
小雛先輩からは、あんたやりすぎるとわざとやってるのがバレて怒られるわよって言われたけど、俺は擦れるところまで擦り続ける男だ。
「じゃあ、これにする?」
「おう!」
俺達は選んだカードをひっくり返す。
【あくあ様とアヤナちゃんに質問です! 異性としてお互いの今の素直な気持ちを教えてください! 質問ナンバー0473、乙女の嗜みさん】
あっ、うちの配信によくきてる無言スパチャの人だ!
「ちょっと!!」
アヤナはカメラに向かってほっぺたを膨らませる。
ど、どうかしましたか?
「もー!! この質問を入れた人、絶対にわかってていれてるでしょ!」
アヤナの反応に客席から笑い声と拍手が返ってくる。
中には「嗜みいいぞー」「さすが嗜みわかってる」って人の声も聞こえてきた。
乙女の嗜みさんって、有名人なのかな?
「で、アヤナは俺の事をどう思ってるんです? 俺は異性としてアヤナはすごく魅力的だと思うけどね」
俺は自分の事がよくわかっている。
攻撃力に全振りした俺は先制攻撃こそが全てなのだ。
「あっ! さらっとそういう事を言って自分のターンを終わらせるのずるい!!」
顔を赤くしたアヤナに俺はポカポカと叩かれる。
こういうところが可愛いんだよな。
「で、どうなんです?」
「まぁ、その……一般的には魅力的なんじゃないかな」
俺が一歩踏み込むと、アヤナはあやふやな回答を返して来た。
ここで逃さないのが俺だ!!
「いやいや、一般的な意見じゃなくて、アヤナから見て俺は魅力的かどうか聞きたいんだけどなあ!」
「もーっ!! わかったってば。魅力的、私から見ても魅力的だと思いまーす!」
やったぁぁぁあああああああ!
アヤナは顔を真っ赤にするとまろんさんに泣きつく。
「よしよし、アヤナちゃん。頑張ったね」
ふひひひ、乙女の嗜みさん、どこの誰か知らないけど最高のアシストあざーす!
俺と嗜みさんの夫婦の如く完璧な連携コンボでアヤナをノックダウンできました。
「むぅ……」
まろんさんに慰められて復活したアヤナが俺の事を見てぷくーっとほっぺたを膨らませる。
「でも、さっきのあくあはきらーい」
ガーン! ちょ、ちょ、アヤナさん、それは番組的なフリですよね!?
あっ、俺がアヤナに近づくと、アヤナはまろんさんの後ろに隠れて顔をプイッと背けられた。
ちょっと待って、この空気のままで番組が終わっちゃうの? 流石に放送事故じゃない?
流石にそれはまずい。どうにかしなきゃと思った瞬間、俺の視界にとある人が映った。
「助けて、大怪獣ゆかりゴーン!」
俺がそう呼ぶと、私服の小雛先輩がカメラの前に出る。
番組が始まる前にメッセージを送信しておいてよかったぜ。
「うちのバカが本当にすみませんでした!! ほら、あんたもアヤナちゃんに謝る!」
「すみませんでしたぁっ!」
アヤナはぺろっと舌を出すと、嘘だよーって顔をする。
ふぅ、よかった。生放送で調子に乗りすぎた事を反省する。
「というわけで、色々あったけど、みんな初回生放送スペシャルのご視聴ありがとうございました」
俺の隣でまろんさんが番組を締めようとする。
それなのに、反対側に居る小雛先輩が俺にコソコソと話しかけてきた。
「ねぇ、ところでこれって私のギャラでるの?」
「さぁ?」
「さぁ? じゃないでしょ。じゃあ、あんたのギャラから引いとくように阿古に言っとくわ」
「そんなぁ〜」
「ちょっと2人とも! 会話、全部入ってるって!!」
最後はまろんさんのツッコミと共に、客席とスタッフの笑い声に包まれて番組が終了した。
結局、ぐだぐだじゃねぇか!!
「で、なんでこうなったのよ?」
「熱出した羽生総理が全部悪いです」
俺は全ての罪を羽生総理に背負わせて、スタジオからトンズラした。
Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。
https://mobile.twitter.com/yuuritohoney