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白銀あくあ、対白銀あくあ専用決戦兵器。

「え? ゲストの人が熱出ちゃったって?」


 ベリルアンドベリルの収録でテレビ局に訪れていた俺は、何やら慌ただしくしていたスタッフさんの会話を偶然にも聞いてしまう。


「あっ……はい。それで生放送だから、今回はゲストなしで行こうかなって話てて……」


 収録と違って生放送かー……。それだと日程をずらしてってわけにもいかなさそうだ。


「何の番組か知らないけど、俺でよかったら代わりに出ようか?」

「い、いいんですか?」

「もちろん!」


 困った時はお互い様だ。

 何よりテレビ局には結構迷惑をかけてるから、こういう時こそちょっとずつ恩返ししていきたい。


「って言いたいところだけど、一応、そこの控室にうちのスタッフが居るから事務所に確認だけ取ってみて」

「わかりました!」


 スタッフのお姉さんのうちの一人が、慌ててスタッフの居る控室へと向かうと剣崎ばりのスピードで帰ってきた。


「許可取ってきました!」


 おっ、早いな。


「それじゃあ、行きましょう!」


 って、あれ? 台本は?

 え? 台本なんか読んでる暇ないって!? そもそも俺の出演が決まった時点で台本が白紙になったあ!?

 全部、アドリブでお願いしますって、自分で言うのもなんだけど本当にそれで大丈夫かな……。

 何が起こっても知らないよ? とりあえず小雛先輩に、何かあったら俺の代わりに土下座お願いしますって送っとこ……。確かあの人、今、港区で収録してるから番組が終わる1時間後くらいに間に合うだろ。


「はい、それじゃあ、タイミングが来たら出てください。後は流れで行きます!!」

「はい!」


 あっ、せめて番組名と共演者だけでも聞いておけばよかった。

 俺はタイミングを測るために耳を澄ませる。


「それでは本日のスペシャルゲストです! どうぞ!」


 ん? めちゃくちゃ聞き覚えのある声だな。

 俺は少しだけ疑問に思いつつも、舞台袖からそっと顔を出す。


「きゃーっ!」

「えっ? えっ……? えぇっ!?」

「ちょ、えっ?」

「嘘っ!?」

「うぎゃー!」


 先に俺の存在に気がついたお客さん達が驚きの声をあげた。

 どーも、どーも。俺は客席に向かってウィンクする。そこでまた悲鳴が起こった。

 客席の反応を見た司会の3人がゆっくりと顔を後ろに向ける。


「「「えっ?」」」

「あっ、どーも、お邪魔します」


 俺は目があったeau de Cologneの3人にも軽く会釈する。

 もー、スタッフさんもアヤナが出てる番組なら最初に言ってくださいよ。

 って、これなんの番組だろう? アヤナが出てる番組は全部チェックしてるけど、セットを見た感じ何の番組か分からなかった。


「えっ? 待って待って、今日のゲストって羽生総理じゃなかったっけ?」


 まろんさんは驚いた顔をする。

 って、今日のゲストって羽生総理だったんだ。

 ていうか、あの人、熱出したの? 大丈夫?


【普段使ってない頭を使って熱が出たらしいです】


 俺はカンペを見て、なんとも言えない顔をする。


「その羽生総理が熱出しちゃって、今日は俺が代わりにやってきました」


 で、どこに座ればいいのかな?

 あっ、そこね。了解!


「で、この番組って何?」

「ゲストと語らうNGなしの本音ぶっちゃけトーク番組、それの初回放送SPです」


 あっ、そうなんだ。

 この前言ってたあの番組の収録が今日だったのか。

 俺は目の前のスタッフさんが持ったカンペに視線を向ける。


【この番組では客席にいる皆さんから質問を聞いて、それをゲストとeau de Cologneのメンバーの一人が答える形になります。基本、質問内容にNGはなしですが、やばい質問が来たらその時点でCM、CM明けに該当の問題を起こしたお客さんが熊のぬいぐるみになります】


 ほほう。なるほどね。

 俺は少しだけ腰を浮かせて座り直すと、どんな質問が来てもいいぞという面構えを見せる。

 この白銀あくあ、質問にNGはない!!


「それでは、最初の質問者を引き当てたいと思います」


 アヤナが前に出ると、透明な球体の中に手を突っ込んで風で舞う紙を一枚だけキャッチする。


「えーと……最初の質問者は7番の方です!」

「わー、ラッキー7ですね!」

「おめでとうございます!」


 俺も笑顔で拍手を送った。おめでとう!

 7番のカードを手に持った人は、びっくりしつつも立ち上がる。


「えっと、くじを引いた人とゲストの人が質問に答えてくれるんですよね? だったら、月街アヤナさんと白銀あくあさんに質問です! ぶっちゃけ、小雛ゆかりさんの事をどう思っていますか? NGなしの本音トークでお願いします!!」


 すぅ……。俺は軽く深呼吸すると、スタッフの方へと視線を向ける。


「えっ? この質問ってNGじゃないんですか?」


 真顔になっている俺の反応を見て、客席からは笑い声が起きる。


「あくあ、NGなしのぶっちゃけ本音トークだよ!」

「いやいや、それにしたってこれは最初からクライマックスがすぎるでしょ!」


 なんでよりにもよってこの質問なんだよ。

 俺は両手で顔を覆い隠す。


「えっと……私は一人の役者として普通に尊敬しています」

「役者としてね。そこは人としてじゃないんだ?」

「もー、まろん先輩。そこは突っ込まないでくださいよ!」


 え? 小雛先輩を人としてソンケイ? ソンケイって俺が知ってる尊敬って漢字とは違うよな?


「でも……そうですね。みんな、結構、勘違いしてると思うんだけど、ゆかり先輩って結構優しいんだよ? わかりづらいし厳しいところはあるけど、誰に対しても最初から攻撃的なわけじゃないしね。ただ、ご飯を食べ終わった後は、ちゃんと食器を水につけておいて欲しいです」

「それな!」


 俺の合いの手に合わせて客席から大きな笑い声が起きる。

 できれば、弁当を食べ終わった後の容器も軽く水で洗い流してゴミに捨てといて欲しい。それくらいはできるよな?


「で、そういうあくあはどうなのよ?」


 アヤナ、そこは俺に話を振らずにもう終わった事にしておいてほしかったな。


「そうですね。本音を言うと、俺もアヤナと同じで役者としては小雛先輩の事を尊敬してます。それに意外とあの人には結構助けられてるので、そこも感謝してます。でもね、声を大にして言いたい。それ以上にこっちも面倒見てますからね! そこはもうお互い様でしょ!!」


 役者としてはきっちりしてるくせに、その分、私生活が自堕落過ぎるんですよ。

 そのうち、歩くのも面倒くさがって人をお馬さんにして移動したりとかしないですよね?


「はい。この質問はもうこれで終わり!」


 俺が両手を広げて強制的に打ち切ると、客席から笑い声が聞こえてきた。


「それじゃあ、来島ふらん、次の質問いきまーす!」


 次はふらんちゃんか。

 ふらんちゃんはくじを引くと、そこに書かれた番号をカメラに見せる。

 次は39番さんか。39番さんは連れの友人と手を叩いて喜び合うと、席から立ち上がる。


「月街アヤナファンのお二人に質問です! おすすめのアヤナちゃんを教えてください!!」

「ちょっと待って! 私の事!?」


 アヤナはスタッフさんにこれってNGじゃないのって顔をする。


「アヤナ、この番組はNGなしのぶっちゃけ本音トーク番組だよ」


 俺がさっきと同じ事をアヤナにやり返すと、周りから笑い声が起きた。


「俺のオススメは、お見合いパーティーの時かな。デュエットしてる時に、アヤナが俺の方に振り返るシーンがあるんだけど、アレは最高に良かった」

「えー? それ、あくあ様にしかみえてないじゃないですかー」


 そうだよ。だからいいんだよね。

 俺はふらんちゃんの膨らんだほっぺたをツンツンして遊ぶ。うーん。幼女のほっぺたってなんでこんな独特な感じがするんだろうな。フィーちゃんやハーちゃんのほっぺたもそうだけど、永遠にツンツンしたくなる。


「もー、やだ」


 アヤナは赤くなった顔を両手で覆って首を左右にふるふると振る。

 そういう可愛いところがグッとくるんだよな。


「私はダントツでアヤナ先輩の泣き顔です。あっ、悲し泣きじゃなくて嬉し泣きしてる時ですよ。あんまり見せてくれないけど、eau de Cologneで初めて全国ライブツアーした時とか、あくあ様が助けに来てくれた時とか、ああいう嬉し涙です」

「わかるわー!」


 アヤナ本人はもちろんのこと、あの小雛先輩ですらまだ気がついてないけど、俺は知っている。いや、知っているというよりも間近にいるからこそ偶然、そのシーンに遭遇して気が付いたと言うべきかもしれない。

 これからアヤナがアイドルや役者として一気に飛躍できるとしたら、俺はアヤナの笑顔……もっとわかりやすく言うと、悲しみや絶望、怒りや苦しみから喜びに変わる時の感情表現だと思ってる。

 でも、俺がそれを本人に言わないのは、今ある刹那に見せる自然な感情のゆらめきを大事にして欲しいからだ。だから、今はまだその時じゃない。


「後はアレかな。学校にいる時のアヤナ。クラスの友達と話してる素のアヤナが一番です!」

「えーっ! あくあ様、ずーるーいー!! そんなのふらんもファンの子達も絶対に見れないじゃん!!」


 確かに……。


「そういう時は俺のSNSを見てください! アヤナも結構出てます!! それと、そろそろアヤナの制服が夏服に切り替わるので、みんなも楽しみにしててね」

「ちょっと!!」


 俺はアヤナに肩をポカポカと叩かれる。

 ほらほら、ファンのみんなも喜んでるよ。


「二人とも、あんまりアヤナちゃんを虐めちゃダメよ。めっ!」


 おっふ……。これが番組中で助かったぜ。

 さすがは小雛先輩と同期の悪夢の世代なだけはある。油断してたら、まろんさんのお姉さんパワーで俺の魂ごと持っていかれるところだった。

 まろんさんのそういうお姉さんな感じはアイドルじゃない俺に刺さるんで、番組中はできる限り控えてくださいね。


「まろん先輩ー、ふらんは通常営業として、あくあが私を虐めるんです!」

「よしよし。あくあ君には後から私が注意しておいてあげるからね」


 ぐぬぬぬぬぬ! まろんさんの豊かな胸部装甲に頭を埋めるアヤナを見て俺は心の中で血の涙を流す。

 羨ましい!!


「それじゃあ、次は私かな?」


 ふらんちゃんに続いてまろんさんがくじを引く。

 次は29番か。29番のお姉さんはびっくりして、一瞬フリーズした後に周りをキョロキョロしながら立ち上がる。

 そうそう、当選したのはお姉さんだよー!


「え、えっと……。すみません。いきなり当てられて、びっくりしちゃって……」

「あはは、びっくりして質問が飛んじゃったのかな? 大丈夫。ゆっくりでいいからね」


 ふぁ〜っ、さすがはeau de Cologneのキャプテンだぜ。

 この俺が甘えたくなるお姉さんみを感じる。なんなら土下座で頼めばバブらせてくれるんじゃないかという淡い希望さえ抱いてしまう。


「え、えっと……」

「ふふっ、本当になんでもいいんだよ。がんばれー!」


 まろんさん……。eau de Cologneやめたら、俺専用の甘やかし係兼応援係やってくれませんか?

 俺がしくじった時や疲れた時によく頑張ったねって甘やかして、仕事に行く前にがんばれがんばれって応援するだけの簡単なお仕事です!!


「あっ……じゃあ、もし二人が結婚したら、どういう家庭を築きたいですか?」

「えぇっ!? わ、私とあくあ君が!?」


 まろんさんがびっくりした顔を見せる。

 普段は余裕のあるお姉さんが戸惑う姿……最高です!


「あっ、そういう意味じゃなくて……あっ、でも、その意味でいいです」

「いやいや、違うんだよね? もー! 早とちりして勘違いしちゃったじゃん」


 涙目になったまろんさんが顔を赤くしてむくれる。

 まろんさん……俺が可愛くて甘やかしてくれる年上のお姉さんに弱いって知っててやってますか?

 まさかこんなところに対白銀あくあ専用決戦兵器が存在したとはな……。これが悪夢の世代か。恐ろしい!!


「えっと、結婚したら子供……って、今のなし! なしなし!」

「何がなしなんですか?」


 俺は白銀あくあ、攻撃力に全振りした全裸の男。

 あえてそこに踏み込む。


「う……あ、いっ、一般論としてですよ。やっぱり結婚するなら愛する人と子供が欲しいわけじゃないですか」

「そうですね。わかります。で、まろんさんは子供が何人欲しいんですか?」


 まろんさんは顔を両手で覆い隠す。


「もー、あくあ君はそうやってすぐに揶揄う!」

「で、実際のところ、何人欲しいんですか?」


 まろんさんは顔から手を退けると、俺の方をチラチラと見ながら小さな声で呟く。


「……ができるくらい欲しいです」

「えっ? なんて?」


 もちろん聞こえてるけど、そこは聞こえない振りをする。


「さ……サッカーチームができるくらい欲しいです」

「えっ? なんだって!?」


 俺はもう一度まろんさんに聞き直す。


「サッカーチームができるくらい欲しいって言ってるの! できれば対戦できるくらい!!」


 対戦できるくらい!? それって22人、いや、控えを入れたらよんじゅうろくにん!?

 ふぁ〜っ、こんなところに逸材が隠れていましたかー。


「もー! 絶対に最初ので聞こえてたでしょ!」


 まろんさんが俺の背中をパンパンと叩く。


「そういうあくあ君はどうなのよ?」

「あー、俺は普通にソファでお話ししながら、まったりできる家庭がいいですね」


 嘘じゃない。実際、うちの家庭はそんな感じだ。

 そうやって俺がちゃんとみんなの話を聞く事で、家庭内のすれ違いを減らしている。


「あっ、ずるいー!」

「はは」


 とりあえず俺は心の中にあるお姉さんメモに、まろん先輩は可愛いお姉さんと書き込む。

 とても重要なことだから忘れないように二重丸の花丸をつけた。


「それじゃあ、続いてまろん先輩、次の質問をお願いします!」

「えっ? また私!?」


 まろんさんは半泣きになりながら次のくじを引く。

 次は45番か。45番を当てたお姉さんが大喜びで立ち上がる。いいね!


「それじゃあ、お二人に質問です! サッカーチームを作るために夜の大運動会は週何回くらい開催したいですか!?」


 あっ、ランプの色が赤色から緑に変わった。

 つまり今はCM中という事である。

 さっきの質問をしたお姉さんは警備員の人に両肩を掴まれてスタジオから退場していった。


「で、週何回するんです?」

「えっ? 7って……もー! 何、言わせるのよ。もう!!」


 俺はまろんさんに背中をバンと叩かれた。

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[一言] おめー弱点属性じゃないのあんのかおう(゜д゜)
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