白銀あくあ、母の日大作戦!!
「おはようございます!」
ベリルの本社ビルを訪れた俺はすれ違う人達に元気よく挨拶を交わしていく。
俺が本社ビルを訪れた理由はただ一つ、とあと慎太郎、天我先輩に呼び出されたからだ。
「うぃーっす!」
俺は勢いよく溜まり場になってる控室の扉を開ける。
すると部屋の中では、とあ、慎太郎、天我先輩の3人が緊張した面持ちで顔をつき合わせていた。
「結局、何も決まらないままこの日が来ちゃったね」
「ああ」
「仕方ない。ここは秘密兵器を使うしかないようだ」
立ち上がった天我先輩がカッと目を見開くと俺の方へと顔を向ける。
それに合わせてとあと慎太郎も俺の方へと視線を向けた。
えっ? 俺?
「後輩。同じ男としてお前に頼みがある!」
天我先輩が俺の両肩をガシッと掴む。
真剣な顔で男として頼があると言われたら、断れるわけがないよな。
俺も天我先輩に真剣な眼差しを返す。
「僕達、今まで散々お母さんには迷惑かけちゃったからさ、母の日に何かしてあげられたらなって思ったんだよね」
天我先輩は春香さんに振られて荒んでた時に夢子さんに迷惑をかけて、とあは引きこもってた時にかなたさんにいっぱい心配をかけて、慎太郎は留学の時に反抗期で貴代子さんにそっけない態度をとって拒絶してしまったから、そのお詫びを兼ねて感謝の言葉を送りたいと……なるほどな。
「だが……いざ、やろうとするとな。僕達だけでは生憎と考えがまとまらなくてな。そこであくあに相談したわけなんだ」
状況を理解した俺は、慎太郎の肩をポンと叩く。
過ぎてしまった事を悔やむ事も時には必要かもしれないが、三人にとって、そしてみんなのお母さん達にとってもそれ以上にこれからの方が大事だと思ったからだ。
「そういう事ならこの俺に任せておけ!」
いいか。俺の名前は白銀あくあ、この世界に存在するお母さん全ての恋人だ。
お母さんの事ならこのマザコンマスターあくあこと熟女キラーの白銀あくあに任せてくれ!!
「とりあえず母の日といえばアレだろ。カーネーション」
「「カーネーション?」」
慎太郎と天我先輩は顔を見合わせる。
もしかしてこの世界にはそういう文化がないのかな?
「そういえばスバルがそんな事を言ってた気がする」
とあが知っているという事は、天我先輩と慎太郎が知らなかっただけか。
「とはいえ、最近だとバラとか胡蝶蘭もいいらしいぜ。とりあえずここにいてもなんだ。店に行こう!!」
俺はみんなを連れて近くのお花屋さんへと向かう。
その途中で、俺達の存在に気がついた人達から視線が集まる。
「え? 何かの番組ですか?」
「ここって本社ビルのそばだよね? みんなでお昼ご飯かな?」
「いやいや、流石にまだ早いっしょ」
「どーせ、あくあ君がまたなんかやらかしてるんでしょ」
「あるある」
「それな!」
「掲示板で書き込んだろ」
「嗜み、お前の旦那がまたなんかしてるから、何かが起こる前にそれとなく確認しておいた方がいいぞ。っと、送信!」
「ベリルの白銀あくあ専用フォームから、あくあ君がまたなんかしてますって姐さんにメール送っとこ」
「森川は……来たらややこしくなるから、連絡しなくてもいっか」
目的のお花屋さんに到着した俺達はお店の中へと入る。
「いらっしゃいま……っせぇ!?」
店員のお姉さんも俺達4人が揃ってくるとは思っていなかったんだろう。
瞬きする事も忘れてその場で固まってしまった。
おーい、大丈夫かー?
俺はお姉さんの手を掴んで優しく話しかける。
「お姉さん。花を買いに来たんですけど、いいですか?」
「はい、私の花でよければ好きなだけ買っていってください」
ん? 一瞬だけ店員のお姉さんのいう花のニュアンスが違う気がしたけど、俺の気のせいか?
「母の日におすすめのお花ってありますか?」
「あっ、そっちのお花ですか……」
お姉さんはしょんぼりした顔を見せる。
あれ? 俺、何か間違えました?
「そうですね……。最近だとお菓子とセットになったのとかが人気ですよ」
へー、お花屋さんってこういう有名な菓子店とコラボしたセットも売ってるんだ。
和菓子にカステラにジュースにゼリーに焼き菓子にクッキー、いろいろあるなあ。
「いいな。我はこの焼き菓子とクッキーがセットになった花を買おうかな」
天我先輩は洋菓子とセットになった定番のカーネーションを手に取る。
いいねいいね! 元気そうなイメージのある夢子さんにぴったりだと思う。
「天我先輩、お母さん喜んでくれるといいですね」
「うむ!」
天我先輩は良い買い物ができたと満足そうに笑顔を浮かべる。
「というわけで、我は先に行く。今から電車に乗れば今日中に渡せそうだしな! 後輩、助かったぞ。ありがとな!!」
支払いを終えた天我先輩は店員のお姉さんに先に商品を準備してもらうと、駅が近かったこともあり、ひと足先にお母さんのところへと向かっていった。
「で、お前らはなんかいいのあった?」
「僕はお花だけにしておこうかな。お母さん、ダイエット中だし」
かなたさんがダイエット中?
なんでそんなもったいのない事をするんだ!!
かなたさんはあの腰回りの肉ぷにが最高なのに、それを捨てるなんて勿体無い!
仕方ねぇ。こうなったら俺がかなたさんを肥えさせるしかない。俺は謎の使命感に燃えた。
「ここら辺の可愛いのとか、かなたさん好きそうじゃね?」
「確かに……カーネーションはスバルが買うかもしれないから、バラにしようかな」
うんうん、かなたさんの花が咲いたような笑顔に、このバラはぴったりだと思う。
「じゃあ、僕はアジサイにしようかな。この色とか母が好きそうだ」
「おっ、いいんじゃね」
貴代子さんに紫陽花か。
確かに貴代子さんの雰囲気に紫陽花の花は似合うな。
こう、後ろからギュッと抱きしめたくなるわ。
「ところで、あくあは何か買わないのか?」
「俺は胡蝶蘭買おうって決めてたからな。これにするわ」
母さんは胡蝶蘭が一番好きだ。
だから母の日にはこれを贈ろうと決めていた。
「「「ありがとうございました」」」
俺達は店員のお姉さんにお礼を言うと、お店から出る。
「花は決まったとして、他にも何か贈るのか?」
「うーん、僕は服でも送ろうかな」
そういや近くに服屋もたくさんあったな。
とりあえず、あそこに行くか。
「こんにち……わぁっ!?」
あっ、また店員のお姉さんがフリーズした。
男三人、それも高校生が婦人服しか売ってないところに来たのは流石に不味かったか。
「すみません。服を買いに来たのですが」
「とっ、とっ、とあちゃんのですか!?」
とあ? ああ、とあは女の子の服を着たりするからな。
「いや、とあじゃなくて、とあがとあのお母さんに服をプレゼントしたいって……」
「ああ、なるほど。そういう事でしたらこちらへどうぞ」
ちゃんと店員さんモードに切り替わったお姉さんは、俺達をおすすめの商品があるコーナーへと案内する。
「お客様のお母様でしたら、年齢的にここら辺くらいかと」
「なるほどね」
とあは服を一つ一つゆっくりと見ていく。
慎太郎はこういうところがあまり慣れてないのか、落ち着かずにそわそわしてた。
「慎太郎、その辺にあるソファとかに座っててもいいんじゃないか?」
「そ、そうさせてもらう」
慎太郎を店内にあるソファに座らせた俺は、その間に他のコーナーを見て回る。
おっ、この辺のシャツとか琴乃に似合いそうだな。いや、待てよ……。意外と楓とかアリなんじゃないか?
楓ってワンピとか、フェミニンな格好してる事が多いけど、こういうシャツに足が綺麗に見えるタイトスカートとかも似合う気がするんだよね。それにメガネとかかけてれば、知的なアナウンサーに見えなくもない気がした。
「お姉さん、よかったらこのシャツと似合いそうなミニのタイトスカート……あっ、それいいっすね。それ買います!」
いいね。知的なアナウンサー風の楓も悪くない。
おっ、逆にあそこにあるセクシーなドレスとか、琴乃に似合うんじゃないか?
ちょっとホテルのレストランでご飯食べる時とかにいい気がする。よし、これも買おう。
カノンにはこのゆったりとしたシフォンのブラウスとかいいな。これならお腹が膨れても着れそうだ。
結はジーンズにしよ。結のケツのラインが堪能できそうなスキニーにしよっと。
それとアイは無難な服を買いがちだから、こういうちょっと若い感じのがいいな。
「これまとめてお願いします」
「はい」
お会計を済ませて服を包んでもらっていると、同じく買い物を済ませたとあがやってきた。
「あくあも買ったんだ」
「とあは何かいいのがあったか?」
「うん」
とあは自分の買った商品を俺に見せる。
って、財布? あれ? 服じゃないの?
「あれ? 服じゃないの?」
「うん、店員のお姉さんに相談したら、自分の子供からもらったものなら毎日使いたいだろうし、小物はどうかって言われたんだよね。あっ、でも、服も一応買ったんだよ」
おー、いいじゃん。
かなたさん、意外とシンプルな服が多いから、こういうフェミニンな感じのブラウスはいいと思う。
「それじゃあ、僕はこの後、スバルと合流して打ち合わせするから」
「おう、頑張れよ!」
「うん、あくあ、今日はありがとね!」
俺はとあを見送ると、ソファに座っていた慎太郎を迎えにいく。
「で、慎太郎はどうする?」
「あ、ああ、僕も花と一緒に何かを贈ろうと思ってるのだが、いいのが思いつかなくてな」
なるほどな。そういう事なら俺に任せてくれ!!
俺は慎太郎を連れて、近くにあったイチオシのショップへと向かう。
「あっ、あっ、あっ」
店員さんだけじゃなくて、売り場にいたお客さん全員が俺たちを見る。
「あっ、あくあ……ほ、ほほ本当にここに入るのか?」
「ああ、もちろんだとも!」
俺は慎太郎の肩を掴むと、パラダイスの中へと足を踏み入れた。
ウッヒョー! なんかもうこの時点から良い匂いがしてる気がする。
「な、何かをお探しですか……?」
店長らしき人が出てきたので、俺はキリッとした真面目な顔で応対する。
「慎太郎がお母さんに下着をプレゼントするらしいので、一緒に選んでもらえませんか?」
そう、ここは女性達の秘密の園であり、俺にとってのパラダイス。ランジェリーショップだ!!
「な、なぁ。本当に買うのか?」
「当然だろ。ほら、あの紫陽花の色と同じ水色の下着とか良いんじゃないか?」
って、慎太郎? どうした?
俺はふらついた慎太郎の体を支える。
「あくあ、どうやらここは僕には早かったみたいだ」
「慎太郎……」
すまねぇ、慎太郎。流石に俺も調子に乗りすぎた。
「えっと、店長さん、パジャマとかって置いてますか?」
「はい、ありますよ!」
俺は慎太郎に肩を貸して女の子のパジャマを売っているコーナーへと向かう。
「こういうのとか、触り心地もいいし、これからの時期にどうでしょう?」
「おおー、良いんじゃないのか?」
半袖にショートパンツタイプ。おまけに猫ちゃん柄だと!?
貴代子さん、絶対にこういうの着なさそうだから逆にいいな。
頭の中でこれを着た貴代子さんを想像してニヤけそうになるのを必死に抑える。
「わかった。これにする」
慎太郎は先に会計を済ませてパジャマを包んでもらう。
「すまない、あくあ。僕はここが限界だ。先に帰らしてもらう」
「あ、ああ。わかった。ごめんな。慎太郎」
「いや、おかげで良い買い物ができた。母さん、意外とこういう可愛いものが好きだけど、自分じゃ似合わないって言って買わないから喜んでくれると思う」
うんうん、わかるぞ、慎太郎。
俺は慎太郎を見送ると、母さんにプレゼントするものを購入する。
「ありがとうございました」
「はい、こちらこそ」
俺はお店のガラスウィンドウにデカデカと【白銀あくあ参上!】と、サインしてその場を立ち去る。
「ただいまー」
俺はプレゼントを抱えて実家に帰る。
するとすぐに母さんが出迎えてくれた。
「おかえり、あくあちゃん!!」
俺は出迎えてくれた母さんの近くに大きな鉢植えの胡蝶蘭を置く。
「これ、母さんに。ほら、今日は母の日だろ?」
「あくあちゃんが私に!? 嬉しい! ありがとう!!」
俺は飛びついてきた母さんを抱き止めると、その場でぐるりと回転する。
素直に喜んでくれている母さんを見て、普通に嬉しくなった。
「みんなは?」
「リビングにいるよ!」
そういう事ならみんなで一緒にどこかに食事にでも……いや、ここは俺が久しぶりに手料理を振る舞うか!
「よし、それじゃあ、俺がなんか作るからさ。みんな、服を着替えておしゃれしてきなよ。せっかくだし食事を楽しもう」
「うん、わかった!!」
その日は久しぶりに母さんと美洲お母さん、しとりお姉ちゃん、らぴすとラズリーを呼んで6人で家族団欒を楽しんだ。
本当は美洲お母さんにもプレゼントを用意しようと思ってたけど、遺伝子を提供した方は父の日に祝うのが恒例らしい。
今日はカノンもメアリーお婆ちゃんと今日は一緒に過ごすみたいだし、今晩はこっちに泊まって行こうかな。
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