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白銀あくあ、新入生達。

「ふぁ〜っ」


 流石に昨日はハッスルしすぎたか。

 おかげで今日はすごく眠いが、自業自得なので仕方ない。


「あくあ、大丈夫?」


 カノンは心配そうな表情で俺の顔を覗き込む。


「ん? ああ」


 俺はカノンを心配させないように笑顔を見せる。

 もう午前の授業も終わったし、後は昼飯を食って午後の授業を受けたら良いだけだ。


「どうせ夜遅くまで、へっ、変な事してたんでしょ」


 ギクっ! アヤナの言葉に俺は固まる。

 くっ……アヤナってば、小雛先輩と一緒に暮らすようになってから勘が鋭くなってないか?

 やっぱり純粋なアヤナが小雛先輩と同居した事で、めちゃくちゃ悪い影響が出てるのかもしれない。うん、そうだ! 絶対にそうに違いない!!


「あくあのあの顔、確実になんかしてたね」

「ええ、間違いなく」


 ジト目になったとあに囁かれたペゴニアさんがニヤニヤした顔をこちらに向ける。

 とあ、お前は俺の味方じゃなかったのか!?


「あくあ……ほどほどにな」


 そう言って慎太郎は俺の肩をポンと叩いた。

 イタ、イタタタ! 待ってくれ。お前にそうされるのが俺にとっては一番効く。


「あくあ君、かわいい」

「ふふっ、変なことしてたんだ」

「へぇ……」


 ココナとリサとうるはの三人が優しい目で俺を見つめる。

 ちょ、みんな、やめて。


「あくあ君……」


 クレアさんまでそんな生優しい目で、私はわかってますからね。みたいな感じで俺を見るんですか!?

 居た堪れなくなった俺は、飲み物を買いに行く振りをして教室を出た。


「あ、あくあ様」


 俺は自販機のところで知り合いに声をかけられた。


「おっ、ヒスイちゃん、どう? 友達はできた?」

「はい! たくさんできました!!」


 ヒスイちゃんは手に持ったスマホの画面を俺に見せる。

 ちょっと待ってくれ。入学して1ヶ月ちょっとしか経ってないのに、クラスメイトは勿論のこと、全校生徒と先生たちのメッセージアプリのアカウントを知ってるの!? それってやばくない!?

 この前、偶然にもくくりちゃんのプライベートなスマホの画面を見ちゃったけど、くくりちゃんなんて電話帳に10人くらいしか居なかったぞ!? 俺とかえみりとか揚羽さんとか、クラスメイトの欄もヒスイちゃんだけしか居なくてすごく心配になったわ。

 とはいえ、くくりちゃんは元々華族六家だし、やんごとなき血筋の人だからクラスメイト達もどう接していいのかわかってないのかもしれない。うーん……そうなると、自分から行かなきゃ難しい気がするけど、くくりちゃんはそういうタイプじゃない気がする。どうしたものか……。

 そういえば俺のもう一人の妹、ラズリーも友達ができないって配信で言ってたし、今度二人が会うようにセッティングしようかな。年が近いし、意外といいかもしれない。

 ただ、流石に二人きりは厳しいか……。よしっ! ここはボッチとしての経験が非常に豊富な小雛先輩も召喚しよう。おお、我ながら名案だ!! 人生の先輩として小雛先輩に二人にアドバイスを……んん? ぼっちを謳歌してた小雛先輩のアドバイスで大丈夫か? 俺は一瞬だけ不安になったが、細かい事は気にしないタイプなので、深く考えない事にした。

 楓やえみり、羽生総理も世の中、考えるよりまずは行動だって言ってたしな!! 頭なんて所詮飾りだから、使う方が無駄なんだ!!


「すごいな……。学校は楽しい?」

「はい!」


 ヒスイちゃんは満面の笑みを俺に向ける。


 ああ……一緒だ。


 ヒスイちゃんの笑顔を見て、俺は前世で憧れたリリィさんの笑顔を重ねる。

 俺は彼女のこの笑顔に憧れてアイドルを志した。


「あ、あくあくあくあ様!?」

「あ……ごめん」


 俺は無意識のうちにヒスイちゃんの髪に触れると、指先で軽くポニテールを弄ってしまう。

 やっちまった。前世なら確実に一発アウトである。

 でも、手の届く至近距離で自分の推しが自分だけに向けて満面の笑みを見せてくれるとか、普通に我慢できないだろ……。いや、それでも良くない事は良くない事なので俺はヒスイちゃんにもう一度謝る。


「あ、え、えっと、その、あくあ様に触られるのは嫌じゃないから、別にいいですよ。むしろ、そうやってもっと褒めて欲しいです。私は褒められて伸びるタイプなので!」

「そっか、じゃあ、いっぱい褒めちゃおうかな」


 俺は許可を得たことで、すかさず両手でヒスイちゃんをもみくちゃにする。


「えへへ」


 やっぱり羽生総理や楓、えみりの言う通りだった。

 頭で考えてたら、こんな事にはならなかっただろう。

 やはり考えるより先に行動! これこそが人生の答えだったのだ。


『大丈夫、やらかしてもそれをカバーしてくれる味方をたくさん作っとけば、大抵どうにかなるから!! それに何度もやらかしてるうちに、周りも慣れてくるんだよね。むしろ自分のやらかしに周りを適応させればいいのよ!!』


 俺に言ったこの発言だけが切り取られた羽生総理が翌日全国放送で謝罪してた姿が思い浮かぶ。

 正直、これが許されるのなら、うちの総理はもう何を言っても大丈夫な気がした。

 いや……これが許されるくらい、羽生総理はこの世界の日本国民にとっては良い総理という事なんだろうな。


「あ、あの、あくあ様……それ以上はその……」


 顔を真っ赤にしたヒスイちゃんが潤んだ瞳で俺を見上げる。

 あっ、無意識のうちに触りすぎちゃった。ごめんな。


「ヒスイちゃんはグループじゃなくてソロだし実家がすごく遠いから、困った時に相談できる人もまだ少ないと思う。だから、何か困った事があったら、プロデューサーの俺にすぐに相談して良いから。男の俺に相談しづらかったら琴乃とか、楓やえみり、カノン、とにかく誰でも良いから相談してね」

「はい! ありがとうございます!!」


 うん、良い笑顔だ。

 俺はヒスイちゃんの頭をポンポンと叩くと、かっこよくその場を去る。


 ん?


 待てよ。俺は一体、何をしにあそこに行ったんだっけ? あっ……!

 教室に帰ってる途中で飲み物を買うのを忘れた事を思い出した俺は、違う自販機がある場所へと向かう。

 さっきの場所に戻った方が近いが、そんな恥ずかしい事が俺にできるはずがない。

 幸いにも誰かにバレたわけじゃないから、俺は何食わぬ顔で平静を装う。


「あくあ様は、一体何をしにきたんだろう……」

「きっとお飲み物を買おうとしたけど、忘れちゃったのよ」

「えぇっ!? 高校生にもなって、そんな事ある!?」

「きっと森川さんのせいね。結婚式以降、ホゲラー波の観測が活性化してるって言ってたし」

「うんうん、それに、あくあ様のそういう所が可愛いんじゃない! アイドルとしては完璧なのに、プライベートまで完璧だったら付け入る隙なんてないわけだし」

「だよね。槙島とか剣崎なんて完全防備で隙なんかないけど、今なんかもう隙しかないもん」

「そんな事を言ったら、また小雛ゆかりさんがテレビで、あんた達が甘やかすのが悪いんじゃないってキレるわよ!」

「良いじゃん。どうせみんな甘やかしてるんだから」

「そうそう、私達はあくあ様を甘やかしたいのよ! これはそういうプレイなの!!」

「それに私は一番あくあ様を甘やかしてるのは実は小雛さんだと思う。勘の鋭さに定評がある私にはわかるね」

「「「「「それはそう!」」」」」


 何やら周りの女子達がキャアキャアと盛り上がってたが、小雛先輩がどうこうってチラッと聞こえてきたから俺の話じゃないな。

 どうせまた何か公園で猫と喧嘩したとか、しょうもない事をやらかしんただろう。小雛先輩ならいつものことだ。

 俺は同じ失態をやらかさないように、あまり人気のない旧校舎にある自販機へと向かう。

 その途中で音ルリカさんとすれ違った。


「ども」


 音さんはすれ違い様にそれだけ言うと、俺の隣をスッと通り過ぎていく。

 クールだなあ。自分の世界を持ってると言うか、自立した感じの子だなと思った。

 俺は軽く会釈を返すと、自動販売機のある方へと向かう。


「ん?」


 足音?

 何やら気配を感じた俺は、横にあった階段へと視線を向けた。


「あ……」


 ちょうど下の階から階段を上がってきたくくりちゃんと目が合う。

 おおー。いいねー。乙女咲の制服姿がグッとくる。


「くくりちゃん、こんなところでどうしたの?」

「あっ、えーと……」


 くくりちゃんは、手に持っていたお弁当が入っていると思わしきランチバッグを体の後ろに回す。

 ん? ここから先って自販機とトイレしかないけど……ま、まさか、トイレでぼっち飯とか、流石にないよな……? いや、流石にこれはミルクディッパーのプロデューサーとしては見逃せない。


「くくりちゃん、その……まさかだけど……」

「ち、違うんです。その……私って元々、その自分で言うのも恥ずかしいんですが、そう気軽に声をかけられる立場じゃなかったから、えっと……クラスのみんなが気を遣わなくていいように、あ、う……」


 あー……。そっか。うん、普通にそうだよな。

 カノンの時も最初はそうだったけど、立場的に普通にみんな声をかけづらいか……。

 俺はそういうのを一切気にしないけど、くくりちゃんの場合、一般家庭の子はもちろんとして、逆に華族としての地位が高かった家の子ほど、畏れ多くて声をかけづらいというのもあると思った。


「ヒスイちゃんと一緒に食べるとか……」

「えっと、祈さんは普通に誘ってくれるんだけど……祈さんは初日からクラスの中心に居るみたいだし、みんなが一緒に彼女とお昼を食べたがってるから、私ばっかりに構わせたら申し訳ないかなって……」


 くっ……。なんて良い子なんだ!


「そっか……」


 うーん、どうしたものか。

 普通に俺がお昼を誘っても良いが、それじゃあ解決にならない気がする。

 だって、俺の方が1年先に卒業しちゃうし、後かららぴすやスバルたん、みやこちゃんが入学してくると言っても、やっぱりクラスの子達と仲良くしたいよな。


「くくりちゃん、ちょっと待ってね」

「は、はい」


 こういう時は頼りになる大人に相談するべきだ。

 俺はぼっち経験が豊富なKY先輩に相談のメッセージを送る。



————————————————————————————————————


 白銀あくあ

 小雛先輩ってぼっちじゃないですか。


 小雛ゆかり

 あんた、そんなに私にぶっ飛ばされたいわけ?


 白銀あくあ

 いやいや、そうじゃなくて、ぼっちの先輩として小雛先輩に相談したい事があるんですよ。

 俺、あんまりそういう経験がないからわからないんですよね。


 小雛ゆかり

 え? あんたそれってナチュラルにこの私に喧嘩売ってる?


 白銀あくあ

 それはいつものこととして、高校でぼっちの時ってお昼どうしてました?


 小雛ゆかり

 そんなの普通に教室で食べれば良いじゃない。


 白銀あくあ

 それができずに一人でトイレで食べてる子がいるから相談してるんでしょ。


 小雛ゆかり

 はあ!? なんで自分がぼっちだからって一人トイレでご飯を食べなきゃいけないのよ。

 ぼっちはトイレでご飯を食べなきゃいけないなんてルールないんだから!!

 私なんかクラスメイト全員に喧嘩ふっかけて、私と阿古以外の全員を便所でご飯を食べさせた事があるわよ!!

 誰もいない教室で勝ち誇ったように二人で食べたお昼ご飯は最高に良かったわ!


 白銀あくあ

 すみません。小雛先輩に相談した俺が悪かったっす。

 返答のレベルがちょっと次元が違いすぎて想定外でした。

 ごめんなさい!!


 小雛ゆかり

 やっぱりあんた普通に喧嘩売ってるでしょ!! 


————————————————————————————————————



 電話がかかってくる事を察した俺はすぐに携帯を機内モードにして電話機能を制限する。

 ダメだ。相談した人選が明らかに悪すぎた。なんで俺はこの人に相談しちゃったんだろうと深く後悔する。


「ごめん。何か良いアドバイスがないかなと思って、経験豊富な人に相談したんだけど人選が違った」

「あ、いえ……どうして、そういう状況になったのかわからないけど、私もびっくりしました……」


 ん? あっ……しまった。

 メッセージアプリ内で小雛先輩と会話してると思ったらSNS上で普通に会話してた。

 そのせいでSNSのトレンドランキングに、【これがこれからの便所飯】【新時代のボッチ飯】【小雛ゆかりは次元が違う】【実話】【本物】【ぼっちキング】【あこゆかてぇてぇ】【ゆかあくからしか摂取できない何かがある】【小雛ゆかりって実は生粋のお嬢様だって知ってた?】【小雛は大好きなお婆ちゃんの姓だって言ってた。本当の姓は……】というワードが1位に入ってくる。

 ちょっと待って、最後の二つが気になるけど、今はそれよりもくくりちゃんの事だ。


「くくりちゃん……くくりちゃんが一人がいいなら俺は何も言わないけど、くくりちゃんが友達と一緒に学校生活を楽しみたいっていうのなら、俺は全面的に協力するよ。だって、俺は乙女咲でいっぱい友達ができたし、慎太郎やとあっていうかけがえのない親友ができた。だから俺はくくりちゃんに、ここでいっぱい友達を作ってほしい。とは言っても、これも俺のエゴだから、俺はくくりちゃんの考えを尊重するよ」


 俺はくくりちゃんと向き合うと、その両肩にそっと手を置いて優しく微笑みかける。


「だから、くくりちゃんはどうしたい? 言いづらいなら後からでもいいし、男の俺が相談しづらいなら俺以外の誰に相談してくれてもいいからさ。俺は、くくりちゃんがどうしたいかを知りたいな」

「あくあ先輩……」


 くくりちゃんは胸の前で握り拳を作る。


「はい、私も普通のお友達が欲しいです。ううん、お友達とはいかなくても、クラスメイトの子達と仲良くなりたいです。だから私に協力してくれませんか?」

「そっか! そういう事なら俺に任せておいてくれ!!」


 とは言っても、どうするかが問題だよな。

 俺がこのまま一緒に1Aの教室に入っていって、くくりちゃんと一緒にご飯を食べながら周りに居る子達を誘ってきっかけを作ってあげる事も考えたけど、それじゃあ根本的な問題の解決にはならない気がする。


「まずは友達を誘ったとして……どうやって周りの子達と仲良くしていくかだよな……」


 俺がどうしようかと考えていると、目の前にいるくくりちゃんの携帯電話が鳴る。

 

「あ……」


 くくりちゃんは持っていた携帯電話の画面を俺に向ける。


「げげげっ!」


 俺は小雛ゆかりと書かれた名前を見て頭を抱える。

 仕方ない。出るしかないか……。

 俺はくくりちゃんから携帯を受け取ると、通話のボタンをスワイプする。


『あんた、電話切ってるでしょ』

『なんでくくりちゃんってわかったんですか?』

『そんなのこっちはあんたが着拒するのを見通して、カノンさんに電話をかけてからあんたがクラスにいないのを確認して、1年の加藤イリアに電話かけてから目星をつけたに決まってるじゃない。あいつ、乙女咲に入学したって聞いた時は本当のアホかと思ったけど、中々役に立つ事もあるわね。私も来年、乙女咲に入ろうかしら』


 ゲゲゲッ! 俺は慎太郎演じる橘さんが、初期の頃に剣崎の名前を呼ぶような声を出す。


『なんでもするから、それだけは勘弁してください』

『ちょっと! 冗談なのに、そんなにガチなトーンで言われると流石の私も傷つくんだからね!!』


 あ、うん。それは本当にすみませんでしたとちゃんと謝る。


『わかればよろしい。それはそうとして、今度、司先生と一緒に女子会する事になったのよね。だから、くくりちゃんもそこに呼びなさい。クラスメイト全員に便所飯食わせる方法なら、私が教えてあげるから安心しなさい!!』

『いやいや、くくりちゃんは別にわざとハブられてるわけじゃないんだから、クラスメイトの子達と敵対する必要なんてないでしょ! むしろ、距離のあるクラスメイトの子達とどうやって仲良くなるかなの!!』


 俺は電話越しに頭を抱える。


『まぁ、どっちでもいいからくくりちゃんに来る様に言っておいて。あっ、でも、さすがに私と司先生は歳が離れてるから、歳の近いあんたのもう一人の妹も誘っとくわ。あの子、絶対に友達いなさそうだし。あ、あんたは知ってると思うけど私は思い立ったらその日にするタイプだから、待ちたくないし今日の学校が終わったら後で送る住所に集合ね。ちなみにあんたは絶対についてきちゃダメよ!! だって、これは女子会なんだから!!』


 小雛先輩は自分の言いたい事だけ言って一方的に電話を切る。

 その強メンタル、俺も見習いたい。


「というわけなんだけど、どうかな? 嫌なら俺がちゃんと断るから遠慮せずに言ってほしい」

「あ、いえ、せっかくだし、行ってみようと思います。さっき、あくあ先輩も言ってたけど、あくあ先輩に最初のきっかけを作ってもらっても、今のままじゃ自分の方から壁を作っちゃいそうな気がするんですよね」


 俺はくくりちゃんの答えに無言で頷くと、頭をポンポンと叩く。


「わかった。そういう事なら、俺も応援するよ」

「はい!」


 とりあえずここは小雛先輩に任せてみるか……。

 ていうか、小雛先輩、いつの間に司先生と知り合ったんだ?

 俺ですらまだ素顔の司先生と会った事がないのに、うらやましい。


「っと、せっかくだし今日の昼は俺と一緒にご飯食べようぜ」

「は、はい!」


 俺はくくりちゃんの手を掴むと、食堂の方に向かって駆け出した。

 くっ、流石にこの時間帯となると、俺の好きなオヤコ・ドゥーンあくあスペシャルは売り切れか。


「ごめんねぇ。オヤコ・ドゥーンならさっき売り切れたばっかりよ」


 食堂のお姉さんが指差した方へと視線を向ける。

 するとそこにはオヤコ・ドゥーンが載ったトレイを持ったナタリア先輩とカノンが立っていた。


「あっ……あくあ様。オヤコ・ドゥーン、食べたかったですか? 私のオヤコ・ドゥーン食べます?」

「あくあ、私のオヤコ・ドゥーンでよかったら分けてあげようか?」


 なぜかパトリシアさんとナタリアさん、カノンとフューリア様が頭にチラつく。

 俺は頭の中の親子を振り払い笑顔で誤魔化す。


「いいって、別の頼むからさ」


 ん? 俺は少し奥でクラスの女子達とオヤコ・ドゥーンを食べているとあと目が合う。


「あくあ、もしかして僕のオヤコ・ドゥーン食べたいの?」


 うっ! とろりとした卵が絡んだぷりぷりの鶏肉と粒の立ったご飯を見て、ちょっとだけ食べさせて欲しいと思ったが俺はなんとか耐える。

 俺はこの欲望に打ち勝つために、いつもの定番を頼んだ。


「カツ・ドゥーンあくあぶっかけわかめうどんスペシャルで」

「はいよー。あくあ君のぶっかけわかめうどんセット入りましたー!!」


 ウッヒョー、ぶっかけわかめうどんとカツ・ドゥーンのセットもうまそうだぜ!

 オヤコ・ドゥーンは明日食べよう。


「みんな、今日も俺のために美味しいご飯を作ってくれてありがとう」

「「「「「きゃー!」」」」」


 食堂のお姉さん達のアイドル、白銀あくあは満面のアイドルスマイルをサービスする。


「私、あくあ様が卒業したら、ベリルの社内食堂に就職するんだ」

「いやいや、それより白銀キングダムでしょ。募集出てたわよ」

「確か私達なら審査なしで合格なんだっけ?」

「そ、白銀キングダム内に学校を作るから、正式勤務は2Aのみんなが卒業した後らしいけどね」

「私、そこ行きます!」


 おおー、トレイを持って先に席を取ってもらっていたくくりちゃんの元へと向かう。


「美味しそうですね」

「一口食べてみる?」


 俺はスプーンでカツ・ドゥーンを掬うとくくりちゃんへと差し出す。


「え、あ……」


 くくりちゃんは恥ずかしがりながらも、俺の差し出したカツ・ドゥーンをパクリと食べる。


「おいひいです」

「はは、だろう? 丼も美味しいけどカレーやうどん、コロッケだって美味しいんだぜ」


 俺はくくりちゃんと食事しながら、少し周りの様子を伺う。

 するとそこに一人の女性が突撃してきた。


「あくあくーーーん!」

「あっ、イリアさん」


 イリアさんは普通に俺の隣に座る。


「あ……くくりちゃんも一緒だったんだ。ごめん、私、邪魔だったかな?」

「い、いえ。私は別に大丈夫です」


 そういえば二人って同級生だっけ……。

 小雛先輩や楓やインコさん、まろんさんと同い年のイリアさんが後輩っていうのがいまだに慣れない。


「イリアさんは、もう学校に慣れました?」

「うん! 高校に入るのはもう四度目だしね!! 私くらいになると、みんなの反応も慣れっこなんだよ!」


 俺は色々な意味で頭を抱えそうになる。

 重い。重すぎるよ。四度目の高校生活ってなんですか!?

 小雛先輩のぼっち生活は、本人が聞いて欲しそうなそぶりをしてるから俺も言えるけど、こっちは別の意味で小雛先輩より闇が深そうな気がして何もいえなかった。

 さっきまであんなにも美味しかったカツ・ドゥーンと、ぶっかけわかめうどんの味がしない気がするのは俺の気のせいかな……。


「ま、そういうわけだから、くくりちゃんも私と同じぼっち生活を満喫するなら言ってね!」


 イリアさんは大盛りのカツ・ドゥーンをモリモリ一気喰いすると、付属の味噌汁を水のように流し込んで去っていった……。わ、ワイルドがすぎる。これが悪夢の世代か……。俺はもう一度頭を抱えた。


「あくあ先輩、今日はありがとうございました。私、午後の女子会も頑張ってみますね」

「あ、うん。それでも困った事があったら……いや、なんもなくても、いつでも連絡してくれていいから」


 俺はくくりちゃんにそう言うと、また頭をポンポンと叩く。


「あくあ先輩……責任の取れない女の子にはあんまりそういう事はしない方がいいですよ」

「それなら大丈夫。俺だって責任の取れない子には、こんな事しないから」


 なぜなら俺はミルクディッパーのプロデューサーだからな。

 自分がプロデュースする女の子が楽しく日々の生活を送るのも、プロデューサーとしての務めだ。


「え……ぁ……ぅ……」


 いつもはクールな感じのくくりちゃんの顔が真っ赤になる。

 どうかした?


「あーあ、あくあがまたなんかやってる」

「いやいや、俺はプロデューサーとしてだな。当たり前の事を言っただけだよ」


 隣に立ったとあが下から俺の顔を覗き込む。


「そういうのが言葉足らずっていうんだよ。それに、さっきの言い方なら、責任の取れる“子”にはそういう事するんだよね」

「な、なんだよ? 別におかしい事は言ってないだろ?」


 とあはにんまりした顔をすると、俺に背をむけて手をひらひらと振る。


「ちゃんと言質はとったからねー」

「ちょ、言質ってなんだよ!?」


 とあのやつ、どうしたんだ?

 っと、それよりも今はくくりちゃんをどうにかしなきゃ。


「くくりちゃん、熱があるなら保健室に行こうか」


 俺は固まったくくりちゃんを抱き抱える。

 やばいな。さっきより体が熱くなってる気がする。

 これは風邪を引いたのかもしれない。俺はくくりちゃんを保健室へと連れて行った。


「大丈夫。平熱よ。ちょっと温かいものを食べて体温が上がっただけかもね。ほら、最近暑いしねー」

「そうですか……」


 俺はホッと胸を撫で下ろすと、養護教諭の根本先生にお礼を言う。

 ともかく、くくりちゃんが熱を出してなくてよかった。


「くくりちゃん大丈夫? 小雛先輩との予定も無理なら後日に伸ばしてもらうように俺から言うけど……」

「大丈夫。本当に大丈夫ですから……」


 んー、まぁ、そう言うことならいいけど、本当に無理しちゃダメだよ。

 っと、そろそろ昼の授業だ。


「それじゃあ、くくりちゃん、またね」

「はい。あくあ先輩、今日はありがとうございました。」


 俺はくくりちゃんに手を振ると、教室へと戻る。


「あれ?」


 なんかやたらと人数が少なくない?

 え? みんな早退した!? アヤナも!?

 いやいや、アヤナならさっき普通に食堂で普通に飯食ってたじゃん!!

 そのせいで流れ弾を喰らって早退した!? 一体、俺がさっきまで居た食堂で何が起こったと言うんだ。

 最初は食中毒を疑ったが、俺の腹は全く壊れてないからその線はないと思う。


「小雛先輩が言ってたよ。あくあが全部悪いって。ねー、カノンさん」

「そうそう、あくあが全部悪い! ねー、とあちゃん」


 とあとカノンは顔を見合わせると笑い合う。

 それをみた俺は意味もわからず首を傾ける。んー……まぁ、目の前の二人が楽しそうだし、まぁ、いっか!

 小雛先輩も「あんたの頭のレート帯は楓やえみりちゃん、羽生総理と同じなんだから深く考えちゃダメ」って、言ってたしな!! 進学校でもあるメアリーの三人と俺が同じ頭脳だなんて、小雛先輩も褒める時にはちゃんと褒めてくれる人だ。だから俺もその期待に応えるべく、留年しないように真面目に勉強しよ。

 俺は眠気覚ましに大きく伸びをすると、教科書のページを開く。


 それから10分後、俺は自分が持ってきた教科書が一年の時のものだと気がついた!

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診断メーカーで新年のおみくじ作りました。

もっと色々できるの考えてたけど、これしかなかったんだよね。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] うわぁ、大惨事の予感しかしない・・・。 ((('▽';)))
[一言] やっぱオールナイトコキ過ぎて脳細胞死滅してない?(゜д゜)
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