宮餅玉藻、私と白銀家の皆さん。
本編のノクターン版に追いついたので、ここからの更新は本編がこちらで転載できない話をやってる時は別連載している番外編の話を幕間で投稿します。それも尽きたらノクターン回をやってる最中はお休み回になります。
なお、ノクターン版は掲示板の表現が違ったりしていて、文字数にして30万文字程度、単行本1.5冊分多いです。つまりなろう版は逆にここまでで1.5冊分の話を削ってる事になります。
私の名前は宮餅玉藻。
日本滞在時におけるカノン様の専属侍従医のお役目をスターズ王家から賜りましたが、カノン様が結婚した後はそのまま白銀家専属の侍従医になりました。
「宮餅先生、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私はサポートに入ってくれる結さんと挨拶を交わします。
結さんは男性担当の看護師資格も持っているすごい人だ。
それもあって、月に一度の定期検診の日はナース服を着てサポートに入ってもらっています。
別に服は着替えなくてもいいのだけど、結さん曰く「あー様はこちらの方が喜ばれますので」という事らしい。
そういう事なら私も雇用主のためにナース服を……と思いましたが、あくあ様は私に向かってこうおっしゃられました。
『宮餅先生は白衣でお願いします!! できればミニのタイトスカートにストッキング。胸元がちょっと緩い上着なら、俺はなお嬉しいです!!』
雇用主の希望を叶えるのも専属としてのお役目です。
私は自分の服装を鏡で確認した後、椅子に座って足を組む。
「それでは皆さんが来る前に結さんの診察についてですが、健康の方には何の問題もありませんでした」
「はい」
私はカルテのファイルを開いたパソコンのモニターから視線を外すと、結さんとちゃんと顔を向け合う。
向こうも言いづらいし、こっちも聞きづらい事だけど、白銀家の侍従医としては聞いておかなければいけません。
「その後、お気持ちに変化があったりとかは?」
「はい。変わりありません。でも……他の奥様方やあー様が幸せそうなお顔をしているのを近くで見ているだけで私は満足です」
結さんは、儚げで微かな笑みを見せる。
なるほどね。そういう事ならまあいいでしょう。
あくあ様ともお話ししましたが、カノン様達との子育てを通じて、もしかしたら結さんにも気持ちの変化があるかもしれないし、ゆっくり見守りましょうという話で落ち着いた。
心は傷ついただけ、癒すまでに同じ時間がかかる。ううん、もしかしたらそれ以上かかる事だってあるし、傷が癒えない事だってある。それでも、寄り添い続ける事だけはできます。
「わかりました。それじゃあ、改めて今日はよろしくお願いしますね」
「はい! 微力ながらお手伝いさせてもらいます」
はは……微力ながらね。
医者になるより難しいと言われている男性の担当官になって、医師免許や弁護士資格より難関とされている国内最難関の資格、おいなりさんソムリエのプロ資格保持者がご冗談を、と言いたくなった。
「それでは宮餅先生、最初の方をお呼びいたしますね」
「はい」
結さんは診察室の扉を開けると、外で待っている人の名前を呼ぶ。
「白龍先生どうぞ」
「は、はい!」
私はその間に白龍先生のファイルを開いてカルテを確認する。
「診断の結果なんですが、結論から言うとまだ妊娠の方はしてないみたいです」
「……そうですか」
白龍先生はガックリと肩を落とすと気落ちした表情を見せる。
医者によって考え方は様々ありますが、私はこういう時に寄り添う事ができる医師でありたいと思っています。
私はパソコンの画面から視線を外すと、白龍先生の方へと体を向ける。
「あまり気落ちしないでください」
私はそう言うと、白龍先生の手の甲に自らの手のひらを重ねる。
「幸いにもあくあ様も協力的ですし、白龍先生の年齢で妊娠された方もいます。ね。だから私達と一緒に頑張りましょう」
「はい! ありがとうございます」
私はもう一度パソコンの画面に向き直ると、他の検査項目へと視線を向ける。
「あ、それと他の検査は正常値ですが……少し運動不足ですね」
「ギクっ!」
白龍先生はわかりやすく視線を泳がせる。
「もちろんお仕事も大事ですが、それ以上に大事なのは白龍先生のお体です。それは私の雇用主でもあるあくあ様からも言われている事ですから、ちゃんと朝はお日様を浴びて適度な運動をしてくださいね。あとで編集さんには、私の方から伝えておきますから」
「は、はひ……」
なんかさっきより気落ちしているように見えるのは私だけでしょうか。
私は簡単にできるウォーキングや、自分の世界に没頭できるエアロバイクの二つを薦める。
「適度な運動は脳も活性化してくれますし、不安やストレスからも解放してくれます。それこそ最初は、執筆に行き詰まった時とかにするというルールで始めるのもいいかもしれません。まずはそういうルーティンを作ってから、自然と運動する事を日常生活に取り組んでいきましょう。1人ですると続かなくなるのなら私や結さんも付き合いますし、他の奥様方と一緒にやるのもいいと思います」
「わ、わかりました」
んー……後は特にないかな。
私は備考欄に書かれた文字を見つめる。
【現実が想像を上回ってくるんですが、どうしたらいいですか?】
うん、それは私がどうにかできる問題じゃないですね。
私は普通にスルーする。
「それじゃあ、何か気になる事があったらいつでも相談してください」
「はい、わかりました。何から何までありがとうございます」
白龍先生はぺこりと頭を下げると、診察室を後にする。
結さんは外に出ると、次の人の名前を呼ぶ。
「白銀琴乃さーん、いますかー?」
「はーい、今行きます!」
私は白龍先生のカルテを閉じると琴乃さんのカルテを開く。
「よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
琴乃さんは妊娠してから約3ヶ月か。
つわりが重くて辛かったと聞いています。
「えーと、その後、体調とか気になる事はありませんか?」
「おかげさまで今は落ち着いてます。つわりも最初慣れるまでが大変でしたが、根性でどうにかしました」
いやいや、つわりが根性でどうにかなったりしないからね!?
あのお花畑四天王……もとい、検証班四人の中でも、琴乃さんは楓さん以上に、パワーと気合と根性でどうにかしようとするところがあります。
私は頭を抱えながらも、絶対に無理だけはしないでくださいねと注意する。
【追記:あとで琴乃さんが無茶しないようにえみりさんにみておいてねと伝える】
検証班の中でも1番のお姉さんが琴乃さんです。
だから他の3人に何かがあった時、無茶しないように注意するのが琴乃さんの役割みたいなところがある。じゃあ、その琴乃さんが無茶しそうになった時、検証班内で誰が止めるのかと言われたらこの人しかいません。
あくあ様と同じで意外と周りを細かくみてるし、意外とえみりさんから注意された時は私が言うよりも素直に言う事を聞いてくれるんですよね。
「それと他の検査だけど、異常もないし、数字も健康そのものでした。あとは……激しい運動はダメだけど、ストレスの発散のためにも適度な運動であれば大丈夫ですし、むしろ琴乃さんの性格的に、気を遣いすぎてストレスを溜める事だけはしないでくださいね」
「は、はい……」
私は琴乃さんの目をジッと見つめる。
念には念を押しておきましょうか。
「何かあったら、誰かに相談する。仕事の事なら天鳥社長に、家庭の事ならあくあ様やカノン様に、身体の事に関しては私や結さんに、本当にどうでもいい事ならえみりさんとか楓さん辺りにでも相談しとけばいいんですよ」
「善処します」
これくらい言っておかないと、琴乃さんは1人で抱えちゃうタイプです。
白龍先生は意外と甘え上手なんだけど、私の隣にいる結さんも大概甘え下手だから後で言っておかないといけませんね。
「私からは以上です。他に何か聞きたい事はありますか?」
「あ、あの子供の性別とか……」
あー、なるほどね。
「早ければ来月か、再来月くらいにはわかるかなと思います。知っての通り、何故か男の子が産まれる確率は低いですが、カノン様も男の子を妊娠してますし、琴乃さんの旦那様はあのあくあ様ですから。一応、どちらが産まれてもいいように心構えだけしておいてくださいね」
「あ、ありがとうございます!」
男の子を妊娠した女性は、国から支援金がでたり、特別な支援を受ける事ができます。
その代わり、男の子の親になるための教育プログラムを国から受ける必要がある。
「男の子が産まれた場合、琴乃さんの場合は、普通の母親とは違う特別な教育プログラムを受ける事になっています」
カノン様も、男の子の妊娠が発覚した時点で、羽生総理を中心とした特別な支援チームが結成された。
私はマウスでパソコンの画面に表示されたファイルをクリックする。
【白銀あくあ、特別支援チーム】
最高責任者として羽生総理が名前を連ねる一方で、支援プログラムを円滑に行うための仕組み作りに玖珂理人さん、しきみさんの夫妻、メディア統制を代表して藤蘭子会長、ベリルを代表して天鳥社長、うどん……スターズ側を代表してメアリー様、母親達への支援要員としてあくあ様のお母様でもある聖母、白銀まりんさん、猫山かなたさん、黛貴代子さん、天我夢子さんらに加えて結さんや私が名前を連ねている。
仮称として白銀あくあとついていますが、BERYLのそれぞれの母親が参加しているように、将来的にはベリルが抱える男子達が家庭を持った時にもこの支援プログラムが活かされる事になります。
「どんな困難な時でもBERYLの男子達は協力しあってここまでやってきました。だから、私達もチームとして頑張りましょうね!」
「は、はい!」
私は大丈夫と、両手で握り拳を作ると口角をニコッと持ち上げる。
琴乃さんの担当医である私が弱気なところは見せられません。
私は聖あくあ教の一員でもありますが、あくあ様より白銀家の侍従医を賜った時点で、私が優先すべきは白銀家の皆さんです。
たとえ日本やスターズ、羽生総理、教団やメアリー様を敵に回したとしても、私があくあ様の奥様方やお子様達を利用させるような事はさせません。
「おかげでだいぶ不安がなくなりました。ありがとうございます」
「いいんですよ。また何かあったら相談しにきてくださいね」
最後にもう一回念を押す。
これくらい言っておかないと琴乃さんは本当に相談してきませんから。
「結さん、次の人をお願いできますか?」
「はい!」
結さんが扉を開けて、次の人の名前を呼ぶ。
私はその間に琴乃さんのカルテを閉じて、次の女性のカルテを開く。
「たまもん先生、よろしくオナシャス!!」
「はい、よろしくお願いします」
私は椅子に座ったえみりさんの方へと体を向ける。
「結論から言うと妊娠はまだです」
「ぐへへ、その分、回をこなせって事ですね。わかりました!!」
って、席から立ち上がらないでください! まだ話は終わってませんよ!!
「体の方も……至って健康ですね。特に言う事はありません」
私はちょうどいい機会だと思って、えみりさんに琴乃さんを見ておいて欲しいという事をさりげなく伝える。
「そういう事なら、この私に任せてください!」
本当かなあ……。
さっきまで大丈夫だと思ってたけど、本人の顔を見たら急に心配になってきました。
「というわけで、他に何か聞きたい事はありませんか?」
「うーん……」
えみりさんは一瞬だけ悩む素振りを見せる。
「お二人に質問なんですけど……」
「はい」
私と結さんは顔を見合わせると、真剣な表情を見せるえみりさんに同じく真剣な表情を返す。
大丈夫、どんな悩みや不安でもお姉さん達に任せなさい!
「妊娠組のみんなが気を遣わずにイチャイチャできる事って他になんかありませんか? あくあ様も気になってるんじゃないかなあと思って。せっかくだし、みんなで楽しみたいじゃないですか。それに私や白龍先生、楓パイセンが妊娠した時のために、今のうちに色々考えておきたいんですよね」
いつものようにくだらない質問が来た時のためにずっこける準備をしてたのに、意外とまともな質問でびっくりしました。
「そう……ですね。例えばの話、ゲーム感覚にするのはどうでしょうか?」
「例えば?」
私は前に小雛ゆかりさんがカノン様にお伝えしたゲームを説明する。
「ほっほ〜!」
えみりさんは目を見開いて手をポンと叩く。
そ、そんな顔でじっと見つめてどうかされましたか?
「いやあ、さすがです。さすが、SNSのアカウント名がたまもっこりの人は違いますわ」
「それは関係ないでしょ!! あと、このやり方を考えたのは私じゃなくて小雛ゆかりさんだから!!」
こんな事ならやっぱり、前に使ってたアカウント名のタマコロガシに戻そうかな。
「結さんは何か、他にいい方法とかありますか?」
「そうですね……」
今度は結さんが一瞬だけ思案するような顔を見せる。
その一方でえみりさんは真剣な表情で、結さんの膨らみをガン見していた。
あくあ様もそうだけど、雪白の血筋って大きいのが好き多いの? それともこの2人だけ?
あっ、でも美洲様が結婚したまりんさんも、弾正さんが結婚したのえるさんも大きよね。これはもしや、あくあ様の大きいのが好きってあくあ様のせいじゃなくて雪白の血のせいでは……?
私はメールボックスを開くと、国家を揺るがす重要事項連絡としてその事を羽生総理に伝える。
「えみりさんは家族の団結力を高めたいんですよね?」
「はい」
「例えば、あー様の好きなコスプレパーティーをするとか、みんなであー様をチヤホヤするイベントをして、それで結束力を強めてはどうでしょう?」
「ひゅーっ!」
口笛を吹いたえみりさんが興奮したように鼻息を荒げる。
「よしっ! それじゃあ私は準備しなきゃいけなくなったのでこれで……」
えみりさんは椅子から立ち上がるとブツブツと何かを呟く。
「うーむ、イベントのための費用を稼ぐためにバイトを増やさなきゃな。最近新しいバージョンが出た茶ばんだ粉を売り捌くか、リラックス効果のあるいい匂いのする草を売り捌くか……いや、ここはやはり手堅く竹子でバイトかな」
心配だなあ……。
私は念の為にくくり様にメールを送る。
「結さん、次の方を呼んでもらえますか?」
「はい」
私はえみりさんのカルテを閉じるとペゴニアさんのカルテに切り替える。
「ペゴニアさん、つわりはあまりなかったと聞きましたが、本当に大丈夫ですか?」
「はい」
ペゴニアさんは、ニコニコした顔を見せる。
うーーーーーん、本当かなあ。この人は本当に本心が読めないし、絶対に誰にも弱みを見せないから、琴乃さん以上に気をつけて見ておかないといけません。
とはいえ、どうしたものか……。仕方ありません。奥の手を使いましょうか。
「……ペゴニアさん。ペゴニアさんに何かがあった時、一番に悲しむのはカノン様です」
私の真剣な言葉に、ペゴニアさんの表情がほんの少しだけぴくりと反応する。
「侍従長という立場上、誰にも弱みを見せられないのはわかります。ですが、ペゴニアさんが侍女として仕事に誇りを持っているように、私もこの仕事に誇りを持って取り組んでいます。ですから、どんな細かい事でもいいから、必ず相談してください」
「……はい」
うん、どうやら私の言いたい事は、ちゃんとペゴニアさんに伝わったみたいだ。
皆さんがカノン様くらい単じゅ……純粋ならいいんですが、中にはペゴニアさんのように一筋縄ではいかない方もいます。
ああ……将来、あくあ様が小雛ゆかりさんとくっついた時の事を想像して少しだけ気が重くなりました。だってあの人、絶対に面倒臭そうなのが確定してるもの。
「実はそんなに重くはなかったのですが、つわりがピークの時はさすがにきつかったです」
「今は大丈夫ですか?」
「はい。もうピークは過ぎたので……」
「……次からはちゃんと言ってくださいね。悲しむのはカノン様だけじゃないんですよ」
「わかりました」
ペゴニアさんは本当に申し訳なさそうな顔をする。
うん、ちゃんと反省してるなら良し!
「他には、何かありませんか?」
「妊娠や身体の事については特には……ただ、この後にお嬢様の診察がありますから、私もこのまま同席して構いませんか?」
「わかりました。いいでしょう」
あっ! 良い事を思いつきました。
それなら次からペゴニアさんとカノン様は一緒に面談しましょう。
カノン様が大好きなペゴニアさんなら、カノン様に嘘ついて大丈夫なんて言えないですよね。
「カノン様を呼んできてもらえますか?」
「はい」
私はペゴニアさんのカルテを閉じるとカノン様のカルテを開く。
「あ、玉藻先生。今日はよろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします。ふふ、お腹、少しだけ膨らんできましたね」
「はい!」
カノン様の嬉しそうな顔に私はもちろんのこと、あまり感情を表に出さない結さんやペゴニアさんの表情も崩れる。さすがはあくあ様の正妻です。
「今のところは順調ですね。どうです? 何か不便に思うことだったりとかありますか?」
「うーん、今はないかなあ……。ただ、つわりが治ってちょっと食欲が増えてきたのが気になります……」
ふふっ、なるほどね。
カノン様もお年頃ですし、女性であるならば仕方のない事です。
「お腹に2人もいるんだから当然の事です。出産した後に痩せるためのプログラムもありますし、あくあ様は少しふっくらしたくらいじゃ嫌いになったりしませんよ。それに、カノン様は今でも十分に細いですし、もし気になるのでしたら妊娠中にもできる運動のプログラムをお渡ししましょうか?」
「はい、よろしくお願いします!」
私はファイルを開くと運動について書かれたところを印刷する。
「数字も健康そのものですし……他に何か気になる事はありますか?」
「そうですね……」
カノン様は一呼吸おくと、顔を赤らめる。
ああ、なんかとてつもなく嫌な予感がしてきました。
「最近、あくあがかっこよくて困ってます」
はい。私とペゴニアさんは瞬時に心を無にする。
ごめんなさい。結さん。後は任せました。
「元より優しかったんだけど、妊娠してからまた新しく気がついた優しさがあって、そういうところにキュンとしちゃうんです。例えば一緒に歩いてる時もあくあは絶対に危険な車道側を歩いてくれるんだけど、それだけじゃなくて、すぐに私を庇えるような距離にいるんですよ。例えばあくあの右半身が車道側なら、左手がすぐに私の後ろに来るようにしてたりとか、そういう事を考えずにスマートにできてるってすごくないですか!? あとあと、妊娠で私が授業中に眠くてうたた寝しそうになった時とか、眠たくなったら俺の顔を見ろってこっそりメッセージ送ってくるんですよ!! どう思います!? かっこよくないですか!? そ、それに、この前、お腹をあくあに見られないようにこっそりお風呂に入ったりしてたのに、あくあにお腹がぽっこりしたところを偶然にも見られちゃったんです。さっき玉藻先生も言ってたけど、私も女の子だから、あくあにはお腹が出てるところをあまり見られたくないなって思ってたのに、そんな私を見てあくあが、その……頬を赤くしてくれたんです。えみり先輩にバレたら、面倒だから絶対に内緒にして欲しいんだけど、あの時は本当にハグしたくてたまりませんでした。おまけに、その、あくあってば、毎日毎日、私に好きだよって囁いてくれるし……こ、これって、お前の事が大好きだからな。のサインですよね!? きゃー! どうしようどうしよう。私も子供は野球チームとかサッカーチームができるくらい欲しいけど、出産後はあくあともっとイチャイチャしたりデートを楽しみたいというか……あ、まって。今の無しです! わ、私、普段からそんな事なんて考えてませんから。だ、だからえみり先輩にはこれも絶対に内緒にしててくださいね! あっ、それとそれと……」
どれくらいの時間が経ったのだろう。
私の意識が再び現世へと戻ってきた時には、さっきまでの喧騒が嘘のように静かになっていた。
「せ、先生?」
あら、カノン様、どうかしましたか?
「えーと……脳外科の先生の電話はどこでしたっけ?」
「先生!?」
私は携帯で脳外科の先生の電話番号を調べる。
「先生、先生!」
ペゴニアさん、どうかしましたか?
カノン様の近くに立っていたペゴニアさんがスススと私に近づいてくると、耳元でコソコソと囁く。
「大丈夫です。いつもの平常運転でした」
「あっ、はい。そういえばそうでしたね」
私は隣に居る結さんの体をポンポンと叩く。
もう、終わりましたよー。
「もー! 2人とも小声で喋ってるふりしてるけど、全部聞こえてるって!!」
ぷんすかした顔のカノン様を見て私達は苦笑する。
私はカルテにあくあ様に関する脳みそ以外は正常と書き込んだ。
「まぁ、また何か気になることがあったら相談しに来てください」
「次こそはちゃんと聞いてくださいね。約束ですよ」
私はカノン様に満面の笑みを向ける。
もちろん頷いたり、言質になるような同意の言葉を呟いたりはしない。
「さてと……次は、まりんさん達ですね」
「はい」
お母様方はまとめて診察でしたっけ。
私は結さんにお願いして、3人を呼んできてもらう。
「玉藻先生、いつもうちの息子がお世話になってます」
「今日はよろしくお願いします」
「お世話になります」
私は3人に特に問題はなかった事と、妊娠をしてない事を告げる。
どうやら3人とも妊娠に関しては焦ってないようだ。
「健康面も特に懸念する点はありませんね。ただ、みなさんは少し運動不足なので、ちゃんと運動してください」
「はーい」
「わかりました」
「私、あまり運動が得意じゃないんだけどなあ……」
私は長く続けられるように、簡単なメニューを一緒にやってはどうかと提案する。
共通した話ができるママさん同士で喋りながらやるというのは、ストレス発散にもなるし、ちょうどいいなと思いました。
「他に悩みはありますか?」
「あくあちゃんがあまり甘えてくれません!」
私はまりんさんに、それは年頃の男の子だからですと答える。
さすがにそれだけだと可哀想なので、甘えやすいような環境を作ってはどうかとアドバイスしました。
「私は、しんちゃんが結婚しても、あくあ君の事をパパと呼びたくないって……」
そりゃそうですよ!!
私は貴代子さんに、あくあ様もそれは絶対に嫌だと思うからやめてくださいねと言う。
「はは、それならうちのとあもそんな感じだよー。うちなんか、スバルとあくあ君がくっついても、絶対にお兄さんだなんて呼ばせないって言ってたもん」
ほほう。その話は後で詳しく聞くので、ちゃんと時間を取ってくれませんか?
大丈夫。何もやましい気持ちなんてありません。ただ、アクトア、トアクアの今後のためにも、学術的な関係からお話を聞くべきだと思った次第でございます。
「玉藻先生、ありがとねー!」
「今日もお世話になりました」
「ごめんね。長く喋っちゃって」
長く喋るのはいつのも事ですから。
一人ずつの時はもっと長かったので、やっぱり一回にまとめて正解だったようです。
「次の3人も同時診察希望だそうです」
「了解です」
胡桃ココナさん、黒上うるはさん、鷲宮リサさんね。
私は結さんが3人を呼びに行ってる間に、三人のカルテのファイルを開く。
「宮餅先生、本日はよろしくお願いしますわ」
「よ、よろしくお願いします」
「お世話になります」
ほらほら、そんなに緊張してかしこまった感じじゃなくていいから。
私は三人に近所に住んでるお姉さんくらいに思ってくれていいからねと伝える。
「まずはみなさん気になってる事だと思いますが、胡桃さんの方は順調ですね。担当医のマリア先生からもそう伝えるように伺っています」
三人は手を取り合って喜び合う。
ふふ、思わず私と結さんも顔を見合わせて笑顔を溢す。
「それじゃあ妊娠だけど……三人は学校卒業してからを予定しているって事でいいのかな?」
「「「はい!」」」
なるほどね。結婚も妊娠も卒業した後か……。
そこら辺は、あくあ様と話し合って決めたらしい。
胡桃さんは医療系の大学に、黒上さんもあくあ様の仕事が手伝えるように経営学とか言語系の大学に進学希望、鷲宮さんは大学は一応行くけど、Vtuberをやりながら舞台女優の勉強をしたいと……なるほどね。
このことは担任の杉田先生も知っているかもしれないけど、後で一応確認をとってみましょうか。
「それじゃあ、三人とも、何かあったり、もし、途中で気が変わってもいつでも相談してくれていいからね」
「はい、今日はお世話になりましたわ」
「ありがとうございました」
「宮餅先生、ありがとう。またね」
私は手を振って笑顔で三人を見送る。
次はと……。
「ナタリアさんはヴィクトリア前王女殿下とお話をするために一時帰国しているそうです」
「なるほど、了解しました」
それじゃあ、こっちは帰国次第って事かな。
私は開いていたナタリアさんのカルテが書かれたファイルを閉じる。
「ギリ間に合った!」
慌てた声が聞こえてきて、私と結さんは顔を見合わせる。
どうやら楓さんが診察に間に合ったようです。
「よろしくお願いします!!」
「はい、よろしくお願いします」
結さんは汗だくになった楓さんにタオルを手渡す。
私は近くに置いてあったペットボトルの水を楓さんに手渡した。
「ぷはぁ! 生き返りました!! あざっす!」
私は楓さんのカルテのファイルを開く。
「んー……健康面は特に問題なしと、前に骨折した部分も全然大丈夫そうですね」
あっ、でも無茶だけはしないでくださいね。
絶対にと、私は念を押して本人にそう伝える。
「で、妊娠の方は……って、あれ?」
おかしいな。データがない。
あれー、何でだろう。もしかしてホゲった?
最近、データが急に消えたり、保存していたはずのファイルが無くなったりする事をホゲったというのが世間ではブームだ。
「あ、提出するの忘れました。家にキットが置きっぱなしになってます」
「わかりました。後でちゃんと提出してくださいね」
よかった。どうやら本人がホゲっただけみたい。そういう事もあると私は自分に言い聞かせる。
「他に何か聞きたい事はありますか?」
「んー、特には……ご飯もたくさん食べてるし、夜もちゃんと熟睡してます!」
それなら問題ないですね。
楓さんが急にご飯を食べられなくなったりとか、夜が不安で眠られないとかなら一大事だけど、これなら大丈夫そうです。
「それじゃあ、次の仕事が押してるので!」
「はい。そうだと思ってタクシーを呼んであるので、それに乗って行ってくださいね」
「何から何までありがとうございます!!」
楓さんはそう言って、来た時と同じ様に慌てて飛び出て行った。
大丈夫かなあ。
「それじゃあ、次は白銀家のメイドさん達ですね」
「はい」
続けてるーなちゃん、りんちゃん、りのんさんの診断をする。
みことちゃんは流石に専門外なので、そちらはこよみ先生に任せた。
ふぅ……流石に疲れたけど、これで全員、無事終了と……。
「結さん、今日はありがとうございました」
「こちらこそ、いつもありがとうございます。それでは、私も次の準備がありますので……」
「はい!」
私は結さんを見送ると、帰るための準備を整える。
ん? 誰かの足音が聞こえてきました。
もしかして、忘れ物でしょうか?
「玉藻先生! すみません。仕事で遅れました!」
「あ、あくあ様!?」
私はあくあ様を見て固まる。
「あれ? 俺ってもしかして今日じゃなかった……?」
「はい。全員の診察を終えて、後日という事と伺っていましたが……」
私としてはいつきてくれてもいいんですけどね。と、心の中で呟く。
「すみません。俺が早とちりしてしまってたみたいです」
「いいんですよ」
私はせっかくだし、あくあ様に健康面で不安がないか聞いてみる。
一応、奥様方とは別にやってる定期検診では問題なかったけど、そういう数字に出ない不安もありますから、聞いておいた方がいいと判断しました。
「最近の悩みですか……奥さんともっとイチャイチャしたいとか……」
「それなら奥様方にはっきりとそう言えばいいじゃないですか」
それが一番いいに決まってますからね。
私はあくあ様に、年頃なのはわかりますが、恥ずかしがっちゃダメですよと伝えた。
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もっと色々できるの考えてたけど、これしかなかったんだよね。
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