小雛ゆかり、レオタードを着る意味あった?
独房から放り出されたあくあ演じるリョウは、用意された部屋の中で総理と二人きりになる。
『単刀直入に言おう。来日中の王女に対して危害を加える事で、我が国とスターズの間に亀裂を入れようとしてる勢力がいる』
日本に来ているジーナ王女に何かがあったら、普通に外交問題よね。
まぁ、現実じゃあ外交問題どころじゃ済まされないやらかしをしてるのが、今、テレビに映ってるこの二人なんだけど、これってもしかして視聴者からのツッコミ待ちかしら?
『この来日の最後には、サプライズで我が国とスターズとの間で一つの条約が結ばれる。これにより不平等だった我々との関係がお互いに対等なものへと変わる予定だ』
なるほどね。だから早めの帰国はできないという事か。
『それもあって王女の警備は厳重だ。そこで敵対勢力は侍女のリーシェさんを拉致しようとしたのだろう』
つまり敵対勢力は王女とは知らずにリーシェさんを襲撃してきたわけだ。
そして政府側もその事については知らないという事ね。
『本当なら、リーシェさんをこちらに返してもらって……とも考えたけど、その敵対勢力を引きずり出してそのバックボーンにどこの国がいるのか、それを突き止めるのにいい機会だとは思わないかね?』
『……つまり、侍女のリーシェさんを囮にするということか?』
そういう事だと羽生総理は無言で頷くと、スターズ側からも提案された事だと告げる。
『君は裏の社会じゃ有名なんだって? 約束の帰国時間までの間、侍女のリーシェさんを守ってあげてくれないだろうか?』
政府やスターズの本国は侍女のリーシェと王女のジーナが入れ替わった事を知らないし、リョウ達もリーシェが本物の王女だとは知らない。
それでも、リーシェが囮に使われるという事を聞いて、リョウはあまりいい顔をしなかった。
『断ったら?』
『そりゃ、もちろん殺人罪とかで君は死刑だよ死刑。もちろん、君のパートナーもね』
リョウを演じるあくあの殺気が孕んだ真剣な顔つきに私は肌をヒリつかせる。
この感情の切り替えの速度と、内に孕んだ感情を表面にあまり出さずに表現するところは本当にお見事だわ。
他の男性俳優陣とはやはり次元が違うと、一般の視聴者にも分かるようにわからせてくる。
『でも、受けてくれるなら二人とも全てなかった事にしよう。それにある程度の忖度はするし、もちろん今回の事も不問にしてもいい。いや……そもそも、今回の件は自衛隊のヘリが整備不良で落下、敵の襲撃なんて無かった事になるんだがね』
こっちの総理の方が本物より有能な気がする。
でも、こっちの総理は腹黒っぽいし、このホゲった国には、腹踊りしてる今の総理くらいでちょうどいいのかもしれない。
『もちろんサポートはつけよう』
総理が指をパチンと鳴らして合図を送ると、ゆっくりと部屋の扉が開く。
そこに立っていたのは阿古っちだった。
「これ、何役?」
「一応総理の秘書だって。扉を開けるだけだし、せっかくだからっていうのでやったけど、どう?」
どう? って言われても、これだけの演技で逆に下手だったら、そっちの方がやばいでしょ。
私は阿古っちに、悪くないんじゃないって返す。
「ふふふ。大女優に褒められちゃった」
別に悪くないと言っただけで、褒めてないんだけどね。
阿古っちのそういうところ、あくあって奴と全く同じだわ。
ま、そういうポジティブなところは私にはない部分だから普通に羨ましく思う。
『上野警視総監より、極秘の任務にあたるように言われてやってきました』
えみりちゃん演じる紗枝と、アヤナちゃん演じる玲奈の二人が部屋に入ってきた。
警視総監の娘でもあり、先ほどの現場を担当していた事から、総理にリョウのお目付として任命されてしまう。
あーあ、かわいそうに。
『そういう事だから、よろしくね。冴島さん』
『おにーさん、任務で一緒だからって、お姉ちゃんに変な事したらダメなんだからね!』
あー、アヤナちゃんが可愛い。私はデレデレした顔をする。
テレビ局も、茄子もっこりな男のシーンより、もっとアヤナちゃんを映しなさいよ!!
三人は羽生総理と別れると、喫茶キャットマウンテンで、私が演じる薫、カノンさんが演じるリーシェ、玖珂レイラが演じる瞳、雪白美洲が演じる希美、内海隼人さんが演じる大入道と合流して事情を説明する。
『それじゃあ、私達は何? 狙われるのがわかってて、明日も普通に行動しろってこと?』
『そういうことだとさ』
リョウは薫のためにその取引を飲んだとは言わない。そういうところが少しあくあと似ているなと思った。
『とりあえず、一旦仮眠するべ。明日に備えてな』
リョウ達はローテーションで仮眠を取って翌日に備える。
そして翌日、リョウ、薫、リーシェの三人は普通に街へと繰り出した。
残りの5人は周りにバレないように3人から離れて警護に当たる。
『皆さん、私のためにすみません』
『気にするなよ。リーシェさんは何も悪くない。こういうのは、襲ってくる奴らが悪いんだ』
正論ね。
珍しくリョウと意見が合う。
『あー、もう襲ってくるか来ないかわからない連中を気にするのはやめだやめ! せっかくの旅行、最終日なんだから楽しもうぜ!!』
『リョウの言う通りよ! 来るか来ないかわからない連中の事なんて、どうでもいいわよ! むしろ来るならきなさいよ!! バーーーーーーーカ!!』
『いよっ! それでこそ薫だ!! いいぞ!!』
『冴島さん……薫さん……』
リョウと薫の二人はリーシェの手を掴む。
『さっ、行こうぜ』
『はい……!』
3人の様子を遠巻きに見ていた5人が笑顔を見せる。
さっきまでの緊張した面持ちと違って、リーシェは日本で過ごす最後の日を楽しむ。
『今のところ、不審な影はなしね』
『了解です。こちらも不審者は見当たりません』
ちなみに1番の不審者ならそこにいるけどね。
あいつ、現実でも存在自体が公然わいせつ罪か何かで逮捕されないかな。
『襲撃してきませんね』
『それならそれでいいと思うんだけどね』
襲撃がないまま時間だけが過ぎていく。
新しい条約への調印が行われるのは飛行機に乗る直前、空港で行われる事になっている。
『冴島さん、薫さん、そろそろ、空港に向かいましょうか』
『わかった』
3人は車を止めてある駐車場へと向かうために、大通りにある交差点で立ち止まる。
そこに何台もの軍用車が猛スピードで突っ込んできた。
交差点で停止した軍用車の中から武装した勢力が出てくる。
『侍女のリーシェ……一般市民を巻き込みたくなかったら、我々の交渉の材料として同行してもらおうか』
武装勢力は周囲に居た一般市民達を人質にとって、リーシェにこっちに来るようにと同行を願い出る。
『……わかりました』
『リーシェ! 行っちゃダメだ!』
リョウはリーシェへと手を伸ばす。
『冴島さん……ありがとう。最後に貴方のような男性と出会えてよかった』
リーシェを演じるカノンさんの表情がいいわね。あのあくぽんたんがグッとくるのもわかる。
あくあなんか放っておいて、私と一緒に役者をやらない? 私がちゃんと一から鍛えてあげるわよ。
『行くぞ!』
武装勢力はそのままリーシェさんを車に乗せて走り出す。
それを一台の車が追跡する。パトライトをつけた外車だ。
確かこの車って桐花マネが静岡の実家から持ってきたんだっけ。
『前の車、待ちなさーーーーい!』
アヤナちゃん……ううん。玲奈。待ちなさいで止まるような奴らがテロなんかしないわよ。
なるほど、このドラマでもアヤナちゃんが癒し枠なのか。いや……でもこのドラマの脚本は司先生だ。
私は司先生の脚本が油断出来ないという事を痛いほど知っている。
だから玲奈はずっとこういう感じで居て欲しいと願った。
そしてその後ろから更にもう一台の車がやってくる。
『冴島さん! 薫さん!! 乗って!!』
助手席から顔を出した希美が二人に車に乗るようにと促す。
赤いミニサイズの車を運転しているのは大入道だ。
身体のサイズに車のサイズがあってないにも程があるわ。
『リョウ、薫、希美、瞳。しっかり掴まってろよ。飛ばすぞ』
この体格でよくシートベルトが締められたなと思う。
天井に頭が擦りついてるし、撮影中は車が壊れたりしないかヒヤヒヤした。
『きゃあ!』
明らかな重量オーバーで、車がカーブを切る時に車体が揺れる。
うーん、心なしかこのカーブを曲がる時に、後部座席で私と玖珂レイラに挟まれたあくあが嬉しそうな顔をしていたように思ったんだけど、私の気のせいだったか。
むしろ、あのあくあが耐えて演技をしきったと褒めるべきなのかしら?
武装勢力とリョウ達のカーチェイスが続く。
新宿の街を封鎖して撮影しただけの事はある。迫力が段違いだ。
『くっ、流石に逃げきれないか』
リーシェを連れた武装勢力は、近くにある高層ビルで車を停車させる。
日本は、この頃より少し前の60〜70年代にかけて、建築技術の発展と建築基準法の制限緩和、国際競技大会の誘致によって高層タワーの建設ラッシュが続いていた。
このドラマでも使われているビルもそのうちの一つである。
今は無きテレビ日本の本社ビル。武装勢力はリーシェさんを連れてその中に押し入る。
『はぁ、暇だなあ』
『本当にねぇ』
シーンが切り替わると、とあるビルで受付をしている二人の女性の映像へと切り替わる。
エキストラとして受付嬢のお局役で出演している白龍先生と、このドラマで監督をやっている本郷監督の二人だ。
二人ともOLの服装を着て恥ずかしそうにしてたけど、それを見てたあくあだけが喜んでいたのをよく覚えている。
『何か面白い事でも起きないかしら』
『ははは、ないない』
どう考えてもただのフラグだ。
二人が談笑する空間にさっきの武装勢力がリーシェさんを連れて雪崩れ込んでくる。
『このビルは我々が占拠する!! 命が欲しければ、さっさとここから出ていけ!!』
『きゃーーー!』
『助けてー!』
武装勢力は天井に向かって銃を乱射する。
その銃声を聞いて、人々が逃げ惑う。
もちろん二人も慌てて逃げ出した。
『ここだ! 行くぞ!!』
遅れて到着したリョウ達がビルに突入する。
『玲奈! 私達は一般市民の避難を優先させるわよ』
『わ、わかった!』
玲奈と紗枝の二人は高層ビルから逃げ遅れた一般市民を避難させるために別行動を取る。
残りの4人……いや、瞳さんを除く3人はそのまま正面を突破して、武装勢力を追う。
ここで再びシーンが切り替わると、どこか厳かな雰囲気が漂う日本風の宮殿が映し出される。
『上様、武装勢力がジーナ王女に接触した模様です』
多くの人達が平伏する高御座、そこにかけられた簾の奥に一人の女性が映る。
上様……皇きくり役を務める、その実の娘でもあるくくりちゃんだ。
本郷監督はダメもとでお願いしたらしいけど、お母さんの役をやれると聞いて本人は嬉しかったみたいだとえみりちゃんから聞いた。
『して、お庭番は?』
『既に手配しております』
『重畳』
きくり様は、部下からの報告を聞いて満足そうにほくそ笑む。
ここでシーンが戻ると、どこかのビルの上に立つ3人の美女が映し出される。
あー、ヤダヤダ。これだから身長が高くてスタイルのいいモデル体型の女は嫌になるわー。
『ふふっ、どうやら私達の出番みたいね』
なぜかレオタードを着た玖珂レイラと、小早川優希、淡島千霧の3人が映し出される。
この3人のレオタード姿を見たあくあは、その場で崩れ落ちて涙を流しながら感謝の言葉を呟いたらしい。あーーーー! 本当にしょーもな!!
あいつ、本当になんかしょうもない事で炎上しないかな。
『行くわよ!』
『ああ!』
『はい!』
お庭番の3姉妹がビルから飛び立つ。
再びシーンが切り替わると、リョウ達は武装勢力の一部と銃撃戦を繰り広げていた。
『二人とも、ここは私達に任せて!!』
『わかった! 大入道、希美さん、あんまり無茶はするなよ!!』
大入道と希美の二人はリョウの言葉に頷くと、わざとらしく敵を引きつける。
その隙にリョウと薫の二人は、一気に奥まで駆け抜けて行った。
あー、こういうなんでもないシーンでも、やっぱり雪白美洲は華があるなと思い知らされて腹が立つ。
女優賞で勝てたのも、本当のところは点差以上にギリだったと思ってる。
それくらい余裕がなかったし、やっぱりこの女は玖珂レイラ以上にチートだ。
もちろん玖珂レイラも十分にチートスペックだけど、あっちは雪白美洲を神格化しすぎてるから、そこを上回る事はないと確信してたのよね。だから雪白美洲にさえ勝てば女優賞は取れると思ってた。
本当にあの時、私があいつに勝てたのはいろんな要素があってこそだと思う。
役者の演技なんて結局、見てる人の受け取り方次第だし、審査員が違ったら結果だってきっと違ってた。それこそ、私の視聴者票があったのも、私があくあと共演してたからと言うのもあっただろう。
でも、そう、でも……だ。勝ったのは私! 小雛ゆかりだ!! この結果は変わらない。
だから今年一年は雪白美洲に会うたびにマウントを取ってやろうと心に誓った。
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診断メーカーで新年のおみくじ作りました。
もっと色々できるの考えてたけど、これしかなかったんだよね。
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