雪白えみり、真夜中の乙女達。
BERYLの北海道公演3DAYSが無事に終了した。
今頃、BERYLの四人は夜の便で帰宅して家ですやすやと寝ている事だろう。
その一方で私はまだ北海道に残っていた。
「はい、そういうわけで始まりました。雪白えみりの真夜中ラジオin北海道のお時間です」
私はお笑い芸人……じゃなくって、ハイパークリエイティブスーパーアルバイターマルチタレント雪白えみりとして夜にラジオ配信を行なっている。
その配信を北海道でもやってほしいと姐さんに頼まれたのだ。
【始まった!!】
【やったー!】
【ソムリエール:なんでラジオ配信なのにプロフェッショナルなアナウンサーの森川楓さんじゃなくて雪白えみりさんなんですか!?】
【↑そいつがプロじゃないからだよ】
【昨日のグダグダな番組の締めを忘れたのか?>ソムリエール】
【えみり様でいいよ。真夜中にまで森川の声を聞きたくない。だって、笑っちゃって眠れなくなるだろ?】
【↑それな!】
森川プギャー! これでよし、送信、と。
私は台の下で見えないように文字を打って、ラーメン捗るのアカウントでコメントを投稿する。
「というわけで早速ですが今日のゲストはこの方です。どうぞ〜」
「みなさんこんばんは。ベリルエンターテイメント所属、白銀カノンです」
告知もなかったし、そもそも予定にもなかったカノンの登場にコメント欄が沸く。
お前ら本当にカノンの事が好きよな。
【まさかのカノン様来たー!】
【カメラ、カノン様も映して!!】
【森川楓:私も同じホテル内にいるのでゲスト行けます!!】
【↑だからお前はこなくていいって、今日は大人しくしとけ】
【森川は朝からずっと声出してたから、お休みしとけよ。喉潰れるぞ】
【今日のライブはイベントとかMCが多かったし、朝にテレビ番組の生出演もあったんだから、森川は素直に休んどけ】
リスナーの言う通りだよ。楓パイセンは普通に休んどけ。
何より楓パイセンはただでさえおっちょこちょいなのに、今日は疲れてるから特に注意が必要だ。
例えば生配信中に、いきなり私の事を捗るって言うとかな……。
自分で言っててなんだけど、楓パイセンなら普通にありそうって思ってしまった。
私はコメント欄の楓パイセンを無視して他のコメントへと視線を向ける。
「あくあ様は帰ったのに、カノン様は帰ってないの? って、リスナーさんからコメントが来てますね」
本当はその下にある、ぐへへ、今穿いてるのは何色ですか? ってコメントをチョイスしたかったがグッと堪える。
こんな素敵なコメントを送ってくれたリスナーさんは誰かな? えーと、お、ラーメン捗るさんかー。どうやら自分で無意識のうちにコメントを投稿していたみたいだ。
私は目の前でジト目になったカノンからスッと視線を逸らす。
「えーと、リスナーの人にわかりやすく最初から説明すると、私は今回、ベリルのお仕事じゃなくて、ツアーパックの一般客としてここに来ています。でも、私達ツアー客が乗る飛行機がトラブルで出れなくなって、一泊してから明日の朝に帰ろうって話になりました」
本当は無理して帰る事もできたけど、妊婦に無理はさせたくないという超過保護な人達がワラワラゾロゾロでてきて、結局カノンはホテルでもう一泊する事になった。
そういうわけで、メイド達のみんなや結さん、白龍先生、それに仕事が残ってる姐さんや森川もこっちにいるので、東京の自宅に帰ったのはあくあ様だけである。そう、今、あの家にはあくあ様お一人しかいないのです。
くっ! こんな事になるなら仕事を受けずにさっさと帰宅しておけばよかった。そうしたら今頃はあくあ様と二人きりで真夜中の大運動会を……おっと、ヨダレが垂れそうになったぜ! 気をつけないとな。
【白龍アイコ:プライベートで北海道に来てたのに仕事させられたんだけどなんかある?】
【↑草wwwww】
【先生が簀巻きにされてたのバックヤードで見ました! by裏方スタッフ】
【白龍アイコ:↑見てないで助けてよ!!】
【白龍先生乙w】
【白龍先生、せっかくのお休みでも仕事させられてるの草w】
【行く前からウキウキだったSNSの更新がピタッと止まった理由はそれだったのか……】
【↑謎が解けたなwww】
【先生、もう三日くらい北海道いてよ。ファンのみんなと一緒にすすきのいこw】
おお! お姉さんとか男装した女がわんさかいると言われてるあの北方最大の歓楽街、すすきのかー。
一時期、街プリスレで男の子が働いていると噂になったんだよな。もちろんガセだったけど。
ワンチャン、私も残ってすすきのに……って、冗談だよ冗談。だからそんなに睨むなってカノン!
心配しなくても、私の財布の中にすすきので遊ぶ金なんてあるわけないだろ! ちくしょー、自分で言ってて悲しくなるぜ!!
「で、ホテルに泊まって、さっきまで寝てたんだけど……夜に目が覚めちゃって、寝れなくなったから景色を見てたんだよね。そしたらそのタイミングでえみり先輩に拉致られちゃいました」
「はい、同じ部屋で泊まってるので拉致してきました」
私の泊まっていた部屋がダブルベッドだった事もあって、ホテルにお願いして宿泊のプランを二人用に切り替えてもらった。
そうしないと、帰れなくなったお客さんでホテルがいっぱいになっちゃうからな。少しでも部屋数を空けた方がいいと思ったからだ。
【えみり様とカノン様が同じ部屋ぁ!?】
【皇くくり:いいなー。私も残ったら良かった】
【あっ、あっ、あっ】
【美女と美少女が同じ部屋、何もないわけがなく……】
【ふーん、すごくえっちじゃん】
【白銀あくあ:うおおおおおおおお! おおおおお同じ部屋ぁ!?】
【↑すごく動揺してる人がいると思ったら、私の好きな人で草w】
【あくあ様、まだ寝てなかったんだ】
【明日学校だよ? あっくん早く寝よ?】
【あくあ君、こんな時間まで起きてちゃダメでしょ? ほら、お姉さんと一緒にお布団で寝よ?】
【私の肉布団空いてますよー。ムレムレのホカホカでーす!】
【ママでよかったら一緒に寝る? 今なら中学1年になる娘もついてきます】
【あー様が登場しただけでコメント欄が地獄になるの草w】
【えみり様はコメント欄規制しないからなー】
【桐花琴乃:みなさん、ちゃんと自重してくださいね?】
【↑ヒェーッ!】
【イエス、マム!!】
【姐さんが登場した途端、姉垢とママ垢のコメントが静かになるの草w】
くっ、コメ欄がいい感じになってきたのに、姐さんに怒られちゃったぜ。そういうわけだから、お前ら、そこそこに頼むぞ。
私は前を向くと就寝用のキャミソールとナイトガウンを着たカノンの姿をジッと見つめる。
こいつ……人妻になってからなんか妙に色気が出てきたな。
「そういうわけで、今、私の目の前には就寝時の無防備な姿のカノンがいます」
「ちょ」
ぐへへ、後で一緒に寝る時にこっそり触ったろ。
あくあ様のためにも、私がちゃんとカノンのを育てておきますね。
なーに、女の子同士のきゃっきゃうふふなんて日常茶飯事、ノーカンですよ。ノーカン。
「そ、そういうえみり先輩だって、私と同じのを着てるじゃないですか!」
「あ、うん」
流石にホテルだしな。
そういうわけで私は、カノン達が前にプレゼントしてくれた可愛いキャミとナイトガウンを着てる。
あれ? 今、気がついたけど、これ、カノンと同じのじゃね?
「って、これ、本当に同じの?」
「そうだよ。お揃いの色柄違い」
あっ、本当だ。私は席から立ち上がるとカノンと一緒に横に並んで確認する。
【お揃いだって!?】
【なんかドキドキしてきた】
【白銀あくあ:ふぁ〜っ!】
【↑あくあ様、おつらそう!】
【二人とも、あくたんのために見せてあげて!】
【↑とか言って、自分が見たいんだろ! だって、私も見たいもん!】
【↑そらそうですよ!!】
【カ・メ・ラ! カ・メ・ラ!】
【森川楓:カ・メ・ラ! カ・メ・ラ!】
【メアリー:カ・メ・ラ! カ・メ・ラ!】
【皇くくり:カ・メ・ラ! カ・メ・ラ!】
【白龍アイコ:カ・メ・ラ! カ・メ・ラ!】
【白銀あくあ:カ・メ・ラ! カ・メ・ラ!】
仕方ないなあ。
私は設置しているカメラを手に取ると、私達二人の姿を映す。
「どう、見える? ほら、カノンも近づいて」
「う、うん」
ちょっと見切れてる。こうかな?
私はカメラの角度を変える。
【うおおおおおおおおおお!】
【ありがとうございます。ありがとうございます!!】
【かわい〜! 私もそれ欲しい〜!!】
【これ、今日中に特定されて明日には売り切れてます】
【皇くくり:私もそれ買います】
【↑くくり様、胸部のサイズがないとこの寝巻きはゲフンゲフン】
【↑不敬で処されてもおかしくないのに、それでも言うなんてこれこそ真の愛国民だよ】
【二人でお揃いの三つ編みしてるの可愛すぎ!!】
【髪も服もお揃いとか、もう姉妹じゃん!! めちゃくちゃ仲良しじゃん!!】
【カノン様とえみり様が仲良し? うっ、頭が……】
【↑最近、観測史上最大のホゲラー波が飛んできてるからな。気をつけろよ!】
【白銀あくあ:今から走ってそっちに行きます!!】
【あくあ君wwwww】
【あくあ様なら本当に走っていきそうだからやめて!!】
【あっくん、こんな夜遅くにお外を走ったら風邪ひくよ!? お姉ちゃんと一緒にお布団でおねんねしよ】
【ゆかりご飯:あんたが走ってる間に夜が明けて二人は帰ってくるわよバカ>白銀あくあ】
【↑正論草wwwww】
【小雛ゆかり監視中! 小雛ゆかり監視中!】
【月とスッポン:あくあ、また停学になるよ……】
【アヤナちゃん止めてあげて!】
【アヤナちゃんがあくたんをお布団に寝かしつけてあげて!】
【↑それのライブ配信、どこで見れますか?】
くんくん、くんくん……ふぁ〜っ、男を惑わせる狡猾な女の匂いが出てますわ!!
私は偶然を装ってカノンの体を押す。
「ちょっと、そんなにくっつかなくてもカメラの枠に入ってるって!」
「あ、ごめん。つい……」
これ以上はまずいなと思った私は撤退する。
もし、これがプライベートならこのまま続行してた。
私は席に戻るとカメラを元あった位置に設置する。
っていうか、これ、対面じゃなくて隣り合ってすれば二人とも顔映るじゃん!
「ちょっと待って、位置変える」
私はリスナーに声をかけてから椅子とかカメラの位置をずらす。
【スタッフー?】
【これは急遽ゲストが増えたから仕方ないよ】
【えみり様ナイス!】
【カノン様は手伝わなくていいよ。妊婦なんだから大人しく座っとけ!】
【あ、姐さんが手伝いに来た】
【姐さん普通にパジャマで草w】
【姐さん、絶対に寝ながら見てただろw】
姐さんが手伝ってくれたおかげで、すぐに配置換えが済んだ。
そのまま混ざればいいのに、姐さんは仕事が終わるとすぐに帰っていく。
なるほどな。あれがプロフェッショナルな女か。自称プロフェッショナル笑のアナウンサーとは大違いだ。
私は改めてカノンの隣に座る。
ていうか、ここまででもう10分以上使ってるじゃん! 急げ急げ!
「そういうわけで……なんだったっけ?」
私は首を傾けると頭にクエスチョンマークを浮かべる。
「連れてこられた私に聞かれても……」
「確かに……」
かに……? 蟹!?
そういえば、あくあ様が1日目のMCでずっと蟹が食いたいって言ってたな。
最終的にアンコールの後に、蟹を食いたいとかいう謎の歌を歌ってトレンドに入ってたほどだ。
「そういえばあくあ様って結局のところ、蟹を食べられたのかな?」
「旅館の人が気を利かせて蟹鍋にしてくれたらしいよ。ほら」
カノンはあくあ様から送られてきた蟹鍋パーティーの画像をカメラに見せる。
【ずっと気になってた!】
【ありがとうございます。ありがとうございます!】
【そういうの助かる!】
【うわー、みんなの浴衣姿だ!!】
【その携帯、盗まれないようにしなよ。お宝画像いっぱいありそう】
【ラーメン捗る:↑カノン様の自撮り写真が入ってたりとか!?】
【↑お前はいい加減怒られろ】
【とあちゃんの浴衣姿えっど!!】
【これ、右側のとあちゃんとあくあ君だけ切り取れば、二人で旅館デートしにきてるみたいに見えるくない!?】
【↑天才か!!】
【くそー、あくたんは浴衣はだけすぎだろ!!】
【この画像を見ただけで全てが理解できる。みんなちゃんと浴衣着てるのに、あー様だけはだけすぎです!!】
【↑それな!】
【国民的アイドルが一番サービス精神旺盛なんだよな】
【あくたんの胸元に手を滑り込ませたい……】
確かに……。あくあ様って本当に無防備だよな。
【お前ら、少しはえみり様を見習えよ】
【えみり様、こんな下品なコメント欄を見ててもなんて清らかなお顔をしているのかしら】
【本当、こんなコメント欄ですみません】
【ソムリエール:雪白えみりだって、本当は私達と同じ事を考えてるよ!!】
【↑お前と一緒にするな!】
【お稲荷さんソムリエとかいう意味のない資格を持ってる奴は黙っとけ!】
【↑それな! とあちゃんとスバルたんの見分けもつかないプロ資格なんて意味ないだろ! 受験料返せ!!】
【お稲荷さんソムリエの資格試験なんて、波動を感じるとかそういうスピリチュアル的なもんだよ。実際、意味なんてない】
【桐花琴乃:みなさん大人なんですから、お静かにお願いしますね?】
【姐さんに怒られてるの草w】
【コメントすぐに消されてて草www】
【姐さん、現場から離れるって言ってたけど、やっぱり現場には姐さんが必要だよ】
【↑それな!!】
【姐さんがいないと、この動物園は誰が面倒を見るんです?】
【↑せめて保育所か幼稚園に、人間にしてくれ!!】
【↑こんなでかい園児がいるか、バカ! 私たちは牛だ牛、よくて牧場だ!】
どうやらうまく誤魔化せたようだ。
私はカノンに次の会話を振る。
「そういえば、今日泊まるって事は、カノンは明日の学校どうするの?」
「普通にオンラインで受けるよ」
別に休んでもいいと思うけど、そういうところ真面目だよな。
オンラインの授業中に捗ってた私とは大違いだ。
私は学生生活についての話題を広げる。
「ところで最近の夫婦生活はどう?」
「えみり先輩?」
「あ、ごめん、学生生活。普通に間違えた」
メンゴメンゴ! 今回はわざとじゃなくて普通に素で間違えちゃったわ。
私は咳払いすると、真面目にやろうと切り替える。
「うーん、あくあが停学になった事以外、特には……あ、でも、最近気が付いたんだけど、修学旅行に行けるかどうかが怪しいんだよね」
「そういえばあくあ様もカノンも2年生だっけ」
しゃーねぇ。修学旅行が延期になった時は、検証班のみんなで冬休みか春休みにやり直し修学旅行してやるか。
「いつまで学校行くの?」
「とりあえず夏休みまでは行けると思う。夏休み明けは出産が近いしお休みしてオンラインで受けるつもり。あっ、それで思い出したんだけどさ、天我先輩が5月に教育実習で私達のクラスに来るんだってさ!」
え? まじ?
ついに、一人だけはみってた天我先輩がぼっちを卒業して、乙女咲にBERYLが集結するのか。
それを聞いたコメント欄が勢いよく流れていく。
【やったあああああああ!】
【天我族の私、感無量……】
【よかったねぇ。本当に良かった……】
【天我! 天我! 天我!】
【天我先輩、今からワクワクしてそう】
【あくあ君がだる絡みする姿が今から見えるw】
【↑わかるw】
【ゆかりご飯:悪ガキあくあに頭から黒板消し落とされないようにしなよ】
【↑むしろご褒美】
【↑プレイが高度すぎる……】
【いやいや、あくあ様は意外とそういうのは邪魔しないよ。休み時間とかにはイタズラしそうだけどねw】
【私もあくあ君の保健体育の先生になって実習してあげたい】
うんうん、わかるぞ。私もあくあ様に保健体育で色々したい。
そう思った私は、検証班の仲間達にも内緒で裏でずっととある計画を進行してた。
「なるほどね。あと、私も来月から教育実習で行くからよろしくな」
「え? どこに?」
「カノンの通ってる学校」
カノンは首を傾けて頭にクエスチョンマークを浮かべる。
くっそー、森川がホゲってる時と違って、こいつ、ホゲっててもクソ可愛いな。
そんな無防備な顔してたらイタズラするぞ! と言うか、カメラ回ってなかったらイタズラしてた。
「待って、誰がどこに教育実習に来るって?」
「私、雪白えみりが乙女咲の2年A組に教育実習に行きます」
「ええええええええええええ!」
びっくりしただろう。そうだろう。
私は心の中でしめしめする。ドッキリ成功!!
【ご、豪華すぎる】
【乙女咲いいなー】
【でも、よく考えたらあくあ君のクラスの教育実習ってそのレベルの先生じゃないとダメな気がする】
【↑そうだよな。私達みたいなモブなら出会っただけで卒倒するぞw】
【白銀あくあ、猫山とあ、黛慎太郎、天我アキラ、月街アヤナ、白銀カノン、雪白えみりが一つのクラスに揃うとか、もうほとんどドラマじゃない?】
【↑そのドラマ、ネットフリッカーで放送してます?】
【ドラマのキャスト豪華すぎだろw】
【実際に集めたらキャストの費用だけでとんでもない事になりそうw】
【おまけに後輩に皇くくり、祈ヒスイ、音ルリカ、加藤イリアだよ。そして先輩にナタリア・ローゼンエスタ。そのドラマの放送どこでやってますか?】
【そういうドラマで、メインキャストを後ろから見守るモブになりたい】
【↑それな!!】
【羽生総理:総理の権限を使って教育現場の視察に行こうかなー】
【↑はい、謝罪案件】
【明日の謝罪内容ができて良かったね!】
【総理が視察に行くのはアリ。前回も視察した時の映像を国会に流したり、映像になかった部分を国会で発表したりしてすごく良かった】
【↑国会生中継が過去最高視聴率だった時なw間違いなく史上最高の神回だった】
【ワーカー・ホリック:いた、イタタタ……】
【↑ワーカーさんはもう寝ろ! 寝てるとこ見た事ないぞ】
おーい、カノン、戻ってこーい。
本当にイタズラしちゃうぞー。
「って、そんなのより今日のライブだよ。ほら、カノンは今回の北海道ライブツアーはどうだった?」
私は唐突に会話を軌道修正する。
ほら、お前の大好きな話だぞー。だからクソヲタ戻ってこーい!
「えっと……」
おっ、帰ってきた帰ってきた。
カノンは一旦咳払いすると、改めてマイクに向かって口を開く。
「そうですね。今回の北海道ライブは後ろの映像がちゃんと個別のストーリー仕立てになってたんだけど、コンセプトとなる部分、根底が一緒で、三日間通して見ても繋がりを感じられて良かったかなあと思います。例えば初日のライブはえみり先輩のコラボステージから始まったけど、雪の国から上京していく女の子をBERYLのみんなが応援するファイトソングの構成になってたんだよね。そして二日目は上京して故郷が恋しくなった女の子と地元に残った親友の二人の視点で描かれてて、特に華火はヒスイちゃんとあくあの歌声がすごくよくてドキドキしました。ラストの地元に帰ってきた子が幸せになるストーリーも含めて全て最高だったと思います。BERYLのみんなも歌唱力がすごく上がってて、とあちゃんはもうソロでも十分にプロでやれるんじゃないかな? 最初はテクニックで誤魔化してたのが、最近、ものすごく感情がこもってて聞いてる方の心にも響くんだよね。天我先輩は元より普通に上手かったけど、変にカッコつけた歌い方をするところとそうじゃないところを使い分けられるようになったのが個人的にはすごくよくなったと思います。黛君はまだまだかもしれないけど、最初に比べたら全然良くなってるし、回をこなす度に成長しているので、これからの更なる成長に期待できると思いました。とはいえ、BERYLといえばやっぱりあくあ様だよね。何、あの、色気!? それに感情表現がすごい! 切なそうな時は胸がギュッと締め付けられるし、いくぞって時には心臓がドキドキして止まらないし、もう、それを聞かされて見せられてる私達はずっとジェットコースターなんですよ。このアトラクション、何!? って、感じです。おまけに歌声だけじゃなくて顔もいいし、もうずっと永久に見てられるっていうか、なんならあくあ様以外見てないというか、とにかくあくあ様が最高な三日間でした。間で全く関係ないトークやるのも気が抜けて良かったし、今回はクイズだったりとか、テレビ番組に生中継で出演したり、みんなでゲームしたりとか、ライブ以外の要素もすごく楽しかったなー。で、もう一度言うけど、歌ってる時のあくあ様、カッコよくない? 歌もそうだけど、あの表情がもう来るんだよね。あと、ダンスもかっこいいし、でもさー、それなのにさー、あくあ様ってたまにすごおおおおおく、可愛いファンサしてくれたりするの! そこがもうね。最高っていうか、母性本能をくすぐられるっていうか、え? たまに狙ってやってるの? って、思ったけど、全然そんな事なくて、普通に天然なんだよね。前は全然、ずっとかっこいいあくあ様だけを私達に見せてくれたのに、ちゃんとファンの事を汲み取ってくれて、そういう素っぽい部分も見せてくれる嬉しいし、やっぱりあくあ様はファン至上主義なんだなって、どこまでをファンを大事にしてくれるんだなって思ってウルッとしちゃった。で、えみり先輩はどう思いました!? あくあ様のどこが良かったですか!? みんなと一緒に朝まで語りましょう!!」
「ぐーぐー」
「え、えみり先輩!?」
ふぁっ!? お、おぅ。気がついたら途中で寝落ちしちゃってた。
「あ、終わった?」
「終わった? じゃ、ないですよ。もう! ちゃんと聞いてました?」
「あ、うん」
半分くらいはね。私はカノンからスッと視線を外す。
【クソヲタ無双中、クソヲタ無双中!】
【あくあ様の反応がない。寝たか……】
【良かったな。カノン様、あくあ様が起きてたら最悪離婚だよ離婚】
【えみり様、途中で完全に寝落ちしてたなw】
【今ので何人か寝落ちしたぞw】
【泣き止んでた子供が一瞬で寝ただと!?】
【↑カノン様の呪文を録音しておくといいよ。ぐずった子供が一瞬で寝るから】
【↑おー、いい話聞いたけど、それ教育に大丈夫?】
【カノン様の呪文で睡眠学習を受けた子供達の将来がとても心配です】
【↑やめろ! 変なフラグ立てるな!!】
【日本国民総クソヲタ化計画、スターズ崩壊を笑えなくなってきたな】
【あのゆかりご飯さんでさえも普通に寝たぞw】
【↑さすがは正妻、ついに大怪獣ゆかりゴン、野良の小雛ゆかりに勝てるカードが出現したか】
【アヤナちゃんも普通に寝落ちしてて可愛い】
【あ、くくりちゃん様も寝ちゃった、お休みなさいませー】
【あのずっと起きてるワーカー・ホリックさんも寝たぞ!】
【↑なんだってぇー!?】
ふぁ〜っ、なんか本当に眠くなっちゃった。
妊婦を夜更かしさせるのもよくないし、もう少しだけトークしてから寝ようかな。
「そういえばツアーは商店街とかも行ったの?」
「行ったよー! ガチャガチャでえみり先輩のばっかり出たんだけど、どうして!?」
それはアレだ。お前が深層心理で私を求めてるからだろ?
へへっ、そんなにも私の事を想ってくれてるなんて照れるぜ。
「じゃあ、私のと交換する? ちなみにダブったのはカノンのだけど……」
「えぇっ? 自分のかあ……それはそれで恥ずかしいんだけど……」
おっ、コメント欄に現れた野生の楓パイセンと姐さんもダブってるらしいから、みんなで回せばいいんじゃね?
どうやらカノンもその事に気がついたようだ。
私達はその後も数十分近くトークを続ける。
「結局、なんかBERYL云々より私達の話になっちゃったね」
「しゃーない」
だってもうお前一人でライブの感想を全部言っちゃったから、それ以上のものが何もないんだよな。
「それじゃあ、雪白えみりの真夜中ラジオin北海道はこれにて終わりです」
「リスナーの皆さん、今日はありがとうございました。おやすみなさい」
「みんなもあまり夜更かしをしすぎないように。おやすみなさい。それと今からお仕事の人、今もお仕事の人、大変だろうけどお疲れ様です! お先に失礼しますね。それではー」
配信終了を宣言してからしばらくコメント欄を見つめる。
【おやすみなさーい!】
【今から仕事です。頑張ってきます!!】
【夜勤中ですが、とても楽しかったです。ありがとうございました!】
【カノン様、2回に1回くらい出ていいよ。もっとクソヲタトーク聞かせてほしい】
【今日もえみり様の清らかな声に癒されました。ありがとうございます!!】
【カノン様、うちの子を寝かしつけてくれてありがとうございます。でも将来、カノン様みたいになったら責任取ってくださいね!】
【えみり様、次の広島ツアーで発表するあくあ君との二人の曲も楽しみにしてます!!】
【二人とも遅くまで本当にありがとう。お疲れ様!】
【えみり様も今日、朝から色々出てて大変だったんだから、ゆっくり休んでくださいね!】
私は頃合いを見て配信終了ボタンを押す。
「よし、じゃあ、寝るか……って、カノン!?」
横に居たカノンが私の肩にコテンと頭を乗せる。
も、ももももももしかして、あくあ様と離れて寂しいとかで、甘えてるんですか!? ぐへへ、そういう事なら私に任せてください。ちゃんと寂しい夜も私が慰めて差し上げますよ!!
私は鼻息を荒くして、隣のカノンへと視線を向ける。
……なーんだ。普通に寝ただけかー。
「おーい、こんなところで寝たら風邪引くぞー!」
ったく、無防備な寝顔を見せて、私かあくあ様以外なら襲ってるぞ。あれ? 逆か?
私は姐さんと楓パイセンにヘルプのメッセージを送る。
しゃーねぇ。それまでの間、私の肩を貸しといてやるか。
私は二人が来るまでの間、カノンがお腹を冷やさないように一枚のブランケットを二人で使った。
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診断メーカーで新年のおみくじ作りました。
もっと色々できるの考えてたけど、これしかなかったんだよね。
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