森川楓、聖白新聞は出入り禁止で。
「うーん」
なんか最近、身体が重い気がする。私の気のせいかな?
それに心なしかお腹周りがほんの少しだけぽこっとしてきたような気がする。
はっ!?
も、ももももしかしたら結婚が確定した事で気が抜けて太ったとか!?
そういえばここ最近お腹が空いてやたらとドカ食いしてた事を思い出す。
このまま自堕落な生活を送っていたらあくあ君に捨てられるかもしれない。
「運動しよ……」
とりあえず走ったりジムに行ったりする回数を増やそうかな。
何もせずにこのままにしておくよりかはマシだろう。
「さっきから鏡の前で百面相して、どうかした?」
あ、あくあ君。
スーツ姿かっこいい……じゃなくって!
「え? あ……な、なんでもないよ。あはは……」
私は咄嗟に笑顔で誤魔化す。
せ、セーフ!
なんとかあくあ君にだけはこの事がバレないようにしなきゃ。
結婚式までにどうにかするぞと私は決意を新たにする。
「楓、綺麗だよ。そのブラウス、前にも着てたけどよく似合ってるね」
「あ、ありがとう」
えへへ。私は照れながらもう一度自分の姿を鏡で見る。
このふわっとしたお気に入りのブラウスは、私が国営放送のアナウンサーに就職する事が決まった時、検証班のみんながプレゼントしてくれた私の宝物だ。
だからその服があくあ君に褒められてすごく嬉しい。
「今から結婚記者会見だけど緊張してない?」
「大丈夫! あくあ君は……まぁ、大丈夫だよね」
あくあ君はカノンとも記者会見やってたし、至っていつも通りって感じだ。
少しくらい緊張してくれたら、頼り甲斐のある私のお姉さんらしさも発揮できるんだけど……まぁ、それは次の機会にしておこうかな。
「なんかあったら頼ってくれていいから」
「うん」
それ、私が言いたかったセリフだけど、まぁ、いっか。
まだ記者会見までに時間があるので、私はスマホの検索サイトでトップニュースをチェックする。
【白銀あくあさん、森川楓さんが揃って緊急記者会見。ライブ配信はこちらから】
【聖白新聞は結婚発表ではないかと予想。2人のこれまでについて振り返る特集ページを公開】
【ホゲウェーブ研究所がフライングで森川名誉研究員を祝福、慌てて投稿を削除、ホゲラー波の影響と釈明】
【国営放送を出て都内のホテルに向かう鬼塚響子アナウンサー。記者の問いかけに対して無言で会釈】
【SNSのトレンドランキングに森川結婚おめでとう。フライングでの祝福が相次ぎ発表前に一位に】
【白銀カノンさん、森川さんの結婚について記者から問われ否定せず。もうしばらくお待ちくださいと答える】
【ベリルエンターテイメント取締役桐花琴乃さん、事務所からの発表は記者会見後に行うと回答】
【1時間前に駅前でフライングして号外を配る聖白新聞を受け取る人達】
ちょっと!
なんでまだ発表してないのにバレてるの!?
しかも最後の記事、写真出てるけど、めっちゃ見覚えのある捗るが映ってるんだけど!!
はぁ……私はスマホの電源を落としてバッグの中に片付ける。
「それじゃあ、行こっか」
「うん!」
私はあくあ君にエスコートされて控え室から記者会見場へと向かう。
うおおおお、ちょっとだけ緊張してきたー。
舞台袖に立った私とあくあ君を見た鬼塚パイセンは目で合図を送る。
「それでは白銀あくあさん、森川楓さん、両名のご入場です。温かい拍手でお出迎えください!」
あくあ君と一緒に会場に入ると、無数のフラッシュが焚かれる。
って、近い近い近い! やたらと近い位置からフラッシュ焚いてきてるの誰!?
よく見たら記者のカメラにデカデカと聖白新聞の文字が書かれたシールが貼られていた。
ほんっと、あの新聞社は!! 出入り禁止にしておいてくださいよ!
私とあくあ君は用意された場所に立つ。
よーし、ここは頼り甲斐のある年上のお姉さんとしての本領を発揮しちゃいますか!
私が気合を入れている隣で、あくあ君は鬼塚パイセンからマイクを受け取る。
「えー、本日お集まりの皆さん、今日は大変忙しい中、私達の事にお時間をとっていただきありがとうございます。この度、私、白銀あくあは、ここにいる国営放送の森川楓さんと結婚する事となりました。つきまして本日は、その事に関してのご報告を兼ねた記者会見を開かせてもらいたいと思います」
あ、あ、あ、それ私が言おうと思った奴。
あくあ君は私に対してニコリと微笑むと、隣にある座席へと手を向ける。
「私、白銀あくあと森川楓さんは私の全国ツアーライブ、北海道での開催を終えた後の来月、GW中に結婚式を挙げる運びとなりました。式に関しては全てになるか一部になるかは未定ですが、国営放送さんが放送してくれるようなので、ご興味がおありの方はできればそちらの方を見ていただければと思います」
ほへー。
あくあ君がしっかりしすぎててシンプルな顔になる。
あれ? 私が高校生であくあ君が社会人だっけ?
「それじゃあ、座ろっか」
「う、うん」
私はあくあ君にエスコートされてちょこんと席に座る。
え? ちょっと待って、なんか私が想定していた事を全部やられてる気がしてるんだけど気のせいかな?
「それじゃあ鬼塚さん。もう質問コーナーに移ってもらって構いませんか?」
「はい、わかりました」
あっ……。
こーれ、私、いらない子です。
2人が有能すぎて私の出る幕がない。
こうなったら質問コーナーで爪痕を残すしかないなと私はそう確信する。
ん? 結婚発表って爪痕残さなきゃいけないんだっけ?
まぁ、細かい事はいっか! 深く考えたら負けだ。
「それでは一番右から3番目の前から5番目の方、どうぞ」
「はい」
記者の人がスタッフからマイクを受け取る。
「白銀あくあさん、森川楓さん、まずはご結婚、おめでとうございます」
「「ありがとうございます」」
あくあ君と二人揃って会釈を返す。
「白銀あくあさんにご質問です。ズバリ森川さんと結婚した理由はなんでしょうか?」
ふふふ、私に対する質問じゃないけど、良い質問じゃないですか!
当然、頼り甲斐があって、ちゃんとしてる
「そうですね。楓はなんというか、少しそそっかしいところがあって……」
ちょっと! なんで記者だけじゃなくて周りのスタッフ達もクスクス笑ってるの!?
よく見たら鬼塚パイセンまで笑ってるじゃありませんか!!
あれ? 結婚記者会見って私がチヤホヤされる類のやつじゃないんですか!?
そういえば、カノンも妊娠報告の記者会見で結構いじられていた事を思い出す
「そこがまた、放って置けないというか。気になる時点でもう答えは出てたと思うんです。それとやっぱり明るくて、話をしていてすごく楽しいし、一緒に居て楽しいところに惹かれました」
普通は逆だと思うんだけど、もしかしてこれって私があくあ君に面倒見られる側だったりしますか?
おかしいな。私の予定では、高校生のあくあ君を大人の包容力で優しく見守る私の図を想像してたのに、むしろあくあ君に世話を焼かれて心配されるダメな大人、つまりどこかの小雛ゆかり先輩と同じレート帯じゃないですか!!
いや、まだ諦めちゃダメよ! ここからでもまだお姉さんとしての矜持を見せる事ができるはず!! 私も家事は得意な方じゃないけど小雛先輩より遥かにマシだし、毎日ご飯で料理の腕は上がってる。
まだ慌てる時間帯じゃない、ここからも逆転可能だと私は余裕の表情で水を飲んで誤魔化す。
「楓って呼んでるんですね」
「2人の時はね。ちなみに桐花マネ、いや、今は取締役か、彼女の事もプライベートでは琴乃って呼んでます」
あらぬ方向の流れ弾に姐さんが舞台袖で悶える。
いいぞ〜。そういうのどんどんお願い。姐さんは記者会見も開いてないし、どんどん流れ弾を当てていこう。
鬼塚パイセンが次の記者を指名する。
「ご結婚おめでとうございます。お二人はお仕事で共演される事も多いですが、ご結婚した後も変わらずといった感じでしょうか? それともやはり変化のようなものがあるのでしょうか?」
よし! ついに私にも質問がやってきたぞ!
先にあくあ君がマイクを手にもつ。
「そうですね。俺はあんまり変わらないんじゃないかなあと思います。例えば今日の記者会見の冒頭でもそうですが、俺も楓も言葉遣いが多少外行きになるだけで、森川楓の部屋とかバラエティ番組に出てる時とかほとんどプライベートみたいなものですよ。だから逆に家に居る時もそんな感じになるのかなと思ってます」
あくあ君……もしかしたら知らないのかも知れないけど、森川楓の部屋はバラエティ番組じゃなくて、実は教養・教育カテゴリーの地域経済・社会密着ドキュメンタリー番組なんだよね。
私はあくあ君からマイクを受け取るとその事を訂正した。
ちょっと! なんでそこで笑いが起きるんですか!?
え? 私、そんなおかしな事を言いましたっけ?
私がポカンとした顔をしていると、鬼塚パイセンが次の記者を指名する。
「先ほど家に居る時もとおっしゃいましたが、それはお二人が同居されるという事でよろしいのでしょうか? また、その事について白銀カノンさんと白銀琴乃さんはどう思っていらっしゃるのか、お聞かせ頂けたら嬉しく思います」
「はい。楓とも同じ家で暮らせたらなと思います」
あくあ君はテーブルの下で、私の手の甲にそっと自分の手のひらを重ねる。
ちょ、まって。嬉しいからやめてとは言わないけど、急にそういうのは緊張する。
「それとカノンや琴乃は楓と仲がいいのですごく喜んでました。そもそも、俺が家にいない時とか、カノンが自宅に呼んでお泊まり会をしたり女子会をしたりしてますから、普段から一緒にいられるというのは楽しみにしてるんじゃないかなと思います。あ、それと事後報告になりますが、この場をお借りして、琴乃とはすでに同じ家に住んでいる事を発表させていただきます」
復帰した姐さんが裏で再び悶絶する。それをカノンが大丈夫? と声をかけていたのが見えた。
流れ弾いいぞー。どんどん当てていこう!!
鬼塚パイセンは姐さんの居る舞台袖にちらちらと視線を向けつつも、次の記者を指名する。
「お二人の結婚に心よりお喜び申し上げます。えーと……プロポーズはどちらから? できればその時の内容と反応を教えていただきたいと思います」
「そこは2人だけの思い出なので秘密で」
あくあ君が即答した事で会場からは残念がる声が漏れる。
その一方で二人の思い出を大切にするあくあ君に対して温かい拍手も起こった。
「そうですね……一つ言えるのは、プロポーズは俺からです」
私はあくあ君からの2度目のプロポーズを思い出して顔を赤くする。
姐さんとの結婚式が終わって、中途半端にしたくないからすぐに結婚しようと言われた。
その時にもらった黄緑の宝石が美しい婚約指輪を私はジッと見つめる。
みんなでお揃いの結婚指輪も楽しみだけど、婚約指輪はあくあ君が私に贈ってくれたただ一つの指輪だ。
「それ以上はやっぱり秘密です。だって、俺以外の男に可愛い楓を見せたくないですから」
ふぁあああああああああ! あくあ君の答えに記者席も盛り上がる。
自分で言うのもなんだけど、私を可愛いにカテゴライズしてくれるのなんてあくあ君だけだよ!!
心配しなくても他の男が寄ってくる気配なんて一個もないからね。むしろ最近、小学生の男の子に指をさされて野生の森川だ、逃げろって言われたくらいだし……。
私の赤面した顔を見た鬼塚パイセンが気を利かせて、次の質問にスキップしてくれる。
「それでは森川楓さんに質問です。あ、その前にお二人ともご結婚おめでとうございます。白銀あくあさんのどういうところが一番好きですか? それと、プロポーズされた時のお気持ちだけでも教えていただければと思います。あ、答えづらい質問だったら、普通に今日の朝ごはん何食べたかとかでもいいですよ」
記者さんめっちゃ優しい……。
私はスタッフさんからマイクを受け取る。
「一番好きな所は、ありすぎて一つに選ぶのが難しいかも」
私の答えに記者席から笑い声が漏れる。それと同時にみんながうんうんと頷いた。
「その中でもあげるとしたら、そのままの私を好きになってくれたところとか、やっぱり一緒に居て楽しいところとか、そういうところかな。プロポーズされた時はめちゃくちゃ嬉しかったです。それと朝は気合を入れるために、ドカ盛のカツ丼を食べてきました」
最後の答えで記者の人たちも爆笑する。
よく見ると隣にいるあくあ君も、司会をしている鬼塚パイセンも、舞台袖にいる姐さんとかカノンも普通に笑ってた。
だって、お腹空いてたんだもん!
「ふふっ、すみません。ちょっと……えー、左から3番目の方、あ、後ろから2番目で、ふふっ」
鬼塚パイセンはいつまで笑ってるんですか!?
ちゃんと司会進行してくださいよ!
「白銀あくあさん、森川楓さん、ご結婚おめでとうございます。お二人に質問です。結婚後に何かしたい事とかありますか?」
「俺も楓も体を動かすのが好きなので、二人でスポーツとか? 小雛先輩が……あ、えーと、小雛先輩がご近所に引っ越してきたんですけど、いつの間にか自治会長になってたらしくて、草野球とかスポーツ大会の人数が足らないから参加するように言われてるんですよね。だからそういうのとか一緒にやれたらなあと思います」
あー……これは、あくあ君が参加すると言った事で、ただの自治会の大会が全国規模の大会になる流れだぞ。
鈍感な私でもすぐにわかった。
「あ、できたら記者の皆さんで、小雛先輩が自治会長になった経緯を調べといてもらえますか? 恫喝とかしてたら俺が平謝りしに行かないといけないんで、ほら、今、そういうのとかすごくダメじゃないですか」
「する訳ないでしょ!!」
あ……。鬼塚パイセンが立っている方の舞台袖から見覚えのある小雛ゆかりさんが出てきた。
その姿に記者席から歓声が起こる。
「え? なんでこんなめでたい場所に小雛先輩がいるんです? もしかして俺と楓の結婚記者会見をぶち壊しにきたとか……」
「そんなの二人と共演してるからでしょ!! あと、ちゃんと祝いに来たに決まってるじゃない!!」
あれ? この流れどっかで見たぞー。あっ! そうだ思い出した。森川楓の部屋だ!
私は、また、ですか……と、遠い目をする。
「ほら、そんな事よりこれ、私からの結婚祝いよ」
「へ?」
小雛先輩は近づいてくると私にプレゼントの袋を二つ手渡した。
まさかの展開に私は目が点になる。
「ほら、開けなさいよ」
「あ、はい」
一つ目の袋を開けると、中から数十万円分の旅行券が出てきた。
ええっ!? こんなにいいんですか!?
「あんただって、たまにはこいつと二人きりの時間が欲しいでしょ? そういう時はこれ使って、近所のホテルとかでもいいから旅行して二人の時間を作るきっかけにしたらいいわよ」
「あ、ありがとうございます」
こ、小雛先輩〜!
物凄く気が利いた贈り物に思わずびっくりして泣きそうになる。
「ほら、もう一個も開けなさいよ」
この上、まだ何かもらっていいんですか!?
私はウキウキした気持ちでもう一個の袋も開ける。
って、何これ? ホゲった顔をしたゴリラの着ぐるみルームウェアとバナナの抱き枕?
とりあえずこの上から着てみて? うーん、わかった。
「これは、あんたの同期、巷じゃ悪夢の世代って呼ばれてるらしいけど、私とインコ、イリアとまろんからのプレゼントよ!」
い、いらない。とはいえないけど、これ、どうするの?
あくあ君は意外と可愛いと言ってくれるけど、みんな笑ってるよ? あくあ君、大丈夫?
さっきの感動が吹き飛ぶくらいの無表情になる。
「そういう訳だから、二人とも結婚おめでとう! 私がみんなの代わりにそれを言いにきてやったのよ。感謝しなさいよね」
「はは、ありがとうございます」
「ありがとうございます。えっと、その、すごく嬉しかったです。はい」
私とあくあ君は苦笑する。
小雛先輩は言いたい事を言って満足したのか、来た時と同じようにズンズンと歩いて舞台袖へと戻っていった。
「それではお時間の方も押してきてますので、次で最後の質問にしたいと思います」
「はいはいはぁい!」
やたらと自己アピールが激しい記者がいるなあ。
鬼塚パイセンは一瞬どうしようかと躊躇ったけど、他の記者が急に手を上げなくなったので仕方なくその人を指名する。
この記者会見場に入れた人はちゃんとチェックされてるから変な人は居ないと思うけど、心配だなあ。
「聖白新聞です!!」
あっ、思い出した。さっきやたらとパシャパシャしてきた失礼な記者だ!
「お二人は運動をするのがお好きとの事ですが、夜に激しい運動したりとかは?」
「ないです」
私はあくあ君からマイクをぶんどると真顔で答える。
あくあ君に、こんな質問の回答をさせるわけには行かないと思ったからだ。
「次の大運動会のご予定は?」
「ないです」
はー……器用に声色を変えてるけど、流石の鈍感な私でも気がつく。
全く、変装までして……バレたらどうするとか絶対に考えてないんだろうなと思った。
「他の奥さん達とコスプレ徒競走とか二人三脚とか、組体操や玉入れ競争、騎馬戦や綱引きはしますか!?」
「ないです」
お前って本当にすごいよ。
なんとなく言いたい事が伝わってきて、なんとも言えない気持ちになる。
「なるほど……わかりました! 次の大運動会がある日は密着取材に行くので誘ってくださいね」
「絶対に誘いません」
本当になんなんだろうという気持ちでいっぱいになる。
あーあ、聖白新聞だけ炎上しないかなあ。
ていうか鬼塚パイセンも止めてくださいよ! あくあ君は意味分かってないし!! あ……姐さんがえみりの肩を掴んで裏へと連れて行った。あざーす。
「それではお時間の方がやってきましたので、以上で白銀あくあさん、森川楓さん両名による記者会見を終わりたいと思います。今日はお忙しい中、お集まりいただき、ありがとうございました」
「「ありがとうございます」」
私とあくあ君は鬼塚パイセンに合わせて二人でぺこりと頭を下げる。
ふぅ、なんとか無事に終わる事ができた。
「楓、お疲れ様。大丈夫? 最後微妙な顔してたけど疲れてない?」
「あ、うん。大丈夫。あくあ君こそ疲れてない?」
「大丈夫」
ふふっ、私はあくあ君と顔を見合わせて笑う。こういう何気ない瞬間が一番幸せって感じがするな。
「鬼塚先輩、ありがとうございます!」
「鬼塚さん、俺からも今日はありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう。結婚式本番も私が司会をするから安心してね」
今日の司会が鬼塚パイセンで本当に良かった。
そのおかげで普段通りでいれた気がする。
「小雛先輩、ところで俺への祝いの品とかは……」
「あるわけないでしょ。とりあえず結婚式は呼びなさいよね。美味しいご飯ドカ食いするから」
ふふっ、あくあ君が小雛先輩に絡まれてたので、私は検証班のみんながいるところへと向かう。
「本当、えみり先輩って懲りないよね」
「少しは反省してください」
あっ、えみりが二人の前で正座させられてた。
もー、仕方ないなあ。可哀想だし、ここは先輩として助け舟を出してあげようかな。
「二人ともありがとう。でも私は大丈夫だから、むしろえみりが居てくれて最後よかったよ」
「か、楓パイセン〜!」
すがりつく後輩の頭を私は撫でる。
全く、私から言わせるとあんたもカノンも同じくらい世話がかかるんだから。
まぁ、そこが憎めなくて可愛いところなんだけどね。
「ほら、お腹すいたし、みんなでロケ弁食べよ。私は2個食べちゃおうかな〜」
「こ、これって、持って帰ってもいいんですか!? 昨日から食ってなくて……」
どうしてそうなるのよ……。
私と姐さん、カノンの3人は顔を見合わせると、呆れたような表情でため息を吐く。
そして仕方がないなあという顔をすると、えみりにご飯を食べてない事情を問いかける。
「あっ、あんたら美味しそうなロケ弁食ってるじゃない!」
「ちょ、小雛先輩、それ俺の焼肉弁当!!」
「ふふーん、こういうのは早い者勝ちよ」
私は手に持っていた焼肉弁当をあくあ君に差し出す。
「あくあ君、私のでよかったら……」
「あ……でも、楓だって焼肉弁当食べたいでしょ」
「うん。でも、あくあ君が食べたいのなら譲るよ」
「それなら二人で半分こする?」
「うん!」
あー、なんかいいな。
これが近いうちに毎日の日常になるのかと思ったら嬉しい気持ちになる。
私は騒がしい周りを見渡すと、今日一番の笑顔を見せた。
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