白銀あくあと雪白えみりのデート大作戦。
えみりさんとデートをする事になった俺は、のえるさんと弾正さんの2人を藤堂紫苑さんのところに送り届けてから自宅で服を着替える。
「せっかくだし、スーツでも着ていくか」
ジョンから支給された服の中には、それこそ一流ブランドならではのドレッシーなスーツもある。
ただ、高校生の俺には、こういうスーツを着る機会というものが授賞式くらいしかない。
だから俺は思い切って今日はそれを着る事にした。
「よーし、行くか」
俺はバイク乗り場に戻るとエンジンをかける。
「あ、あれ?」
おかしいなぁ。エンジンがかからないぞ?
え? さっきまで乗ってたのに、こんなタイミングで故障するの?
それはないでしょと俺は天を仰いだ。
「まぁいい。せっかくだし、タクシーを使おう」
俺はタクシー会社に電話をかける。
『すみません。今、いっぱいで……』
『ごめんなさい。今日に限って全部出てて』
嘘だろ、一台も捕まらなかった。
しゃーない。こうなったら外にでて適当に野良のタクシー拾うか。
1台くらいは空車が走ってるだろ。
俺は外に出ると、大通りを歩きながらタクシーを探し始めた。
◇◇◇
「てぇへんだ! てぇへんだ!」
今からあくあ様とのデートだ!
私は家に帰るとカノンに買ってもらったお高いドレスに……って、ない!? どうして!?
あっ……。そういえばあのドレス、スターズに行く時に持って行ったから、クリーニングに出してるんだったぁぁぁあああああ!
じゃあ、待てよ? 私、何を着ていけばいいんだ!? ナスニーの着ぐるみか!? って、そんな冗談言ってる場合じゃねぇ!!
私はクローゼットの中にある服と睨めっこする。
ダメだ。そもそもデートする可愛いワンピースで、ホテルに着ていけるような高級なものがない。
「しかたない。これにするか……」
私はママからもらったお古のワンピースを自分で染め直したり、破けたところを補修してリメイクしたものを手に取る。
これ、私は可愛いと思ってるんだけどデザインが凄く古いからダサいって言われたりしないかな?
それでも裸や普段着で行くよりマシかと思った私は、ママのワンピに着替える。
せっかくだし、カチューシャをつけたり、80年代を意識した感じにするか。それならそういうファッションってことで古臭く見られても誤魔化せる気がしたからだ。
「よし、行くか!」
私は竹子のバイクに乗って走り出す。
ホテルまでの道すがら、私は路肩でヒッチハイクをしているお姉さんを見つけた。
どうしたんだろう?
まだ、待ち合わせまでに時間があるから聞いてみるか。
「どうしました?」
「すみません。実はお母さんが倒れたって聞いて慌てて病院に行こうとしたんだけど、車が故障して……それに、どういうわけか今日に限ってタクシーが見つからないんです!!」
なるほど、そういう事か……。
私はお姉さんに病院の場所を聞く。
まだ時間には余裕があるから、今から行けば時間には間に合うな……。
それに、あくあ様なら少し遅れたくらいで文句言ったりする人じゃないし、事情を説明したら許してくれるはずだ。
「お姉さん、後ろに乗りな!」
「あっ、ありがとうございます!!」
ヘルメットを被ってるおかげか、それともお母さんが心配でそれどころじゃないのか、お姉さんは私が雪白えみりだって事に気がついてないみたいだった。
「大丈夫。私が間に合わせてみせるから安心しな!!」
「はい!」
私はお姉さんをサイドカーに乗せると、病院に向かって走り出した。
◆◆◆
ふぅ……なんとかタクシーを拾う事ができた。と思ったのも束の間、えみりさんとの待ち合わせをしているホテルに向かおうとした道中で俺の乗ったタクシーは大渋滞に巻き込まれてしまう。
「すみません。すごい大渋滞でこれ以上はちょっと前に進みそうにないですね。時間、大丈夫ですか?」
俺は時計で時間を確認する。
うーん、まだ少し時間には余裕があるけど、俺から誘っといて待たせるのは無しだと思う。
「それじゃあ、ここで降ろしてもらえますか?」
「はい、大丈夫ですよ。すみません。目的地まで辿り着けなくて……」
「いえいえ、こういう時もありますって。お仕事、大変だろうけど頑張ってくださいね。あ、お釣りは大丈夫ですから」
「あ、そんな……あああ、ありがとうございます!」
俺はタクシーの外に出ると、目的のホテルに向かってゆっくりと走る。
「あくあ様!?」
「え? え? ドラマの撮影!?」
「スーツ姿で走ってるし、絶対にそうだよ!!」
ごめん、みんな。
パッと見、映画の撮影に見えるけど、完全にプライベートなんだ……。
「ん?」
俺は途中の公園で泣いている小さな女の子と何かを探している複数のお姉さん達の姿を見つける。
「どうしました?」
「あ、あくあくあ様!?」
「え、あ、えっと、その、この子が風船を木に引っ掛けちゃったらしくて」
なるほどな。それで棒みたいなものがないかみんなで探してたのか。
まだ時間はあるし、えみりさんは少し俺が遅れても怒る人じゃないだろう。それにデートに遅刻したとしても、俺が謝ればいいだけの話だ。
俺はジャケットを脱ぐと近くに居たお姉さんに手渡す。
「持ってて」
「は、はい!」
俺は助走をつけて跳ぶ。
しかし、残念ながら風船の紐を掴む事はできなかった。
「すごい……!」
「信じられないくらい跳ぶじゃん」
「明らかに身体能力がプロ」
「やはり森川とあくあ様は別次元」
「森川とあくあ様の間に子供ができたら、とんでもない子供になりそう」
うーむ、こうなったら木を登るしかないか。
俺は心の中でジョンに服を汚してごめんなと呟きつつ隣の木に登る。
そしてできるだけ上に登ったところで体を木から離して目一杯手を伸ばす。
「あと少し!」
「もうちょい、もうちょい右!」
「そこ! そこ!」
「あ」
「やったー!」
「掴んだ!!」
ふぅ。良かった。
俺は木から降りると風船を手に持って小さな女の子に近づく。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
うんうん、ちゃんとお礼が言えてえらいな。
俺は女の子の頭を撫でるとお姉さんからジャケットを返してもらう。
さてと、ちょっと急がないとな。
俺はみんなに手を振ると、再びホテルに向かって走り出した。
◇◇◇
「本当にありがとうございました」
「いいってことよ!」
私は女性を病院に送り届けると、そのままホテルに向かってバイクを走らせる。
って、ガソリンがねぇ!! ガソリンを入れる金もねぇ!!
しゃーねぇ。確かここってベリルエンターテイメント……じゃなくて、エンタープライズの本社が近くにあったよな。
あそこにバイク置いて行くか。
私は事務所の駐車場にバイクを置かせてもらうと、そのまま目的地に向かって走り出……せなかった。
なんでピンヒールのブーツなんて穿いてきたのか小一時間自分に問い詰めたくなる。
「きゃあ、えみり様よ!」
「かっこいい!!」
「なんて優雅なウォーキングなのかしら」
「もしかしてお散歩かしら?」
「歩いてるだけでスタコレじゃん。ただの歩道がランウェイに見えたわ」
くっそー、走りてぇ!!
一応あくあ様に遅れるかも知れないって連絡を……携帯の電池が切れてるじゃねぇか!!
終わった……。いや、まだ終わってない!
松葉杖部長の諦めるなって言葉を思い出せ!!
あの人は窓際の窓枠にしがみついてでも、チャンスを待ってヘブンズソードを成功させたんだ。
ホテルにさえ到着すれば、あくあ様はきっと待っていてくれる。私は、私の信じるあくあ様を信じるんだ!
「きゃあ!」
あ、私の目の前でお婆さんが買い物袋をぶちまける。
大変だ!
私は落とした蜜柑を拾い上げて買い物袋に入れてあげる。
「ありがとねぇ……って、美洲様!?」
ははは、お婆ちゃん、残念ながら私は美洲おばちゃんじゃないよ。
遠くに転がっていた分は、その近くにいた女性が拾ってくれたみたいだ。
ナイス! 優しい人もいるんだなあと嬉しくなる。
その人の顔を見て私は固まった。
「こっちにも落ちてましたよ。どうぞ……って、えみりさん?」
姐さん、どうしてここにいるんですか?
も、もしかして私が真面目にバイトやってるか心配になって追いかけてきたんじゃ!?
「どうしたんですか、その格好?」
「実は……」
私達2人はお婆ちゃんと一緒に横断歩道を渡って、自宅近くまで送り届けながら事情を説明する。
お婆ちゃんは耳が遠い事もあって、私達の会話は聞こえてないみたいだった。
「そういう事なら私が車でホテルまで連れて行きます。まだ時間もあるし間に合うでしょう」
「ありがてぇありがてぇ!!」
ふぅ……。これでもう安心だ。
私1人なら心配だったけど、姐さんが一緒なら大丈夫だろう。
なーんて油断してた私がバカでした。
ホテルを目の前にして私達は渋滞に巻き込まれる。
「姐さん、ここまででいいよ」
「いいんですか?」
私は無言で頷く。
ここの駅を抜けて反対側に出ればホテルは目の前だ。
むしろ車で迂回するより近いと思う。
「ありがとう。姐さん」
「いえ、それよりも頑張ってくださいね。私にできるのはこれくらいですが、健闘を祈ります」
私は姐さんとグータッチをすると、車を出て駅の方へと歩き出した。
◆◆◆
「あれ? おかしいな?」
えみりさんに連絡を入れようと思ったら、電波の圏外だった。
こんな都会のど真ん中でそんな事あるか?
『ただいま、太陽フレアの影響で局地的に電波障害が起こっています。大変繋がりにくい状況なので、怪我や事故などには十分注意してください』
電光掲示板に映った鬼塚アナのニュースを見て納得した。
そういう事ならしゃーないよな。
どのみちホテルはもう目の前だ。ここの通りを抜けていけば全然余裕で間に合う。
信号が青になった瞬間、俺の目の前を車が猛スピードで突っ込んでいった。
「は?」
何が起こったのか一瞬、理解できなかった。
俺は大きな音がした方向へと視線を向ける。
するとそこには、建物に突っ込んだ車があった。
一斉に車が止まったので、俺は慌ててそっちに駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
扉を叩くが反応がない。
やべぇ。ガソリンの匂いと、何かがショートしたような焦げ臭い匂いがする。
俺はジャケットを脱ぐと、腕に巻き付けてガラス窓を叩き割った。
「声が聞こえてたらなんでもいいので反応してください!!」
俺はドアの内側に手を回してロックを外すと扉を開ける。
残念ながら事故にあったお姉さんの反応はない。
俺はお姉さんを救出するために座席を後ろに下げて、ハンドルを固定しているレバーを持ち上げる。
フォーミュラの映画に出るために私有地で車に乗ったり勉強してた甲斐があったな。
「危険だからみんなは離れて!!」
俺は手伝いにこようとした人たちを牽制しつつ、お姉さんの体を抱えて安全な場所まで運ぶ。
やべぇ。心臓が止まってる。
俺はすぐに心肺蘇生のための応急手当てを施す。
その甲斐もあってか、なんとかお姉さんは息を吹き返した。
程なくして救急車の音が聞こえてくる。
良かった。誰かが通報してくれたんだなとホッとする。
そう安心した瞬間、お姉さんが乗ってた車が爆発した。
火花でガソリンが引火したのだろうか。
俺はギリギリお姉さんを助ける事ができてホッとする。
不幸中の幸いにも他に怪我人はいないようだ。
「あと、よろしくお願いします!」
俺は駆けつけた救急隊員の人に、お姉さんの事を任せる。
とてもじゃないが、もうホテルで食事なんてできる格好じゃないけど、えみりさんを1人で待たせるわけにもいかない。最悪、服ならホテルの側で買えばいいわけだしな。
早くえみりさんに会いたい。
俺はそんな事を想いながらホテルに向かって走り出した。
◇◇◇
もうすぐあくあ様に会える。
私は気持ち早足で出口に向かって駅の構内を歩く。
その途中で下を見て何かを探している人を見つけた。
「どうかしましたか?」
私はお姉さんに声をかける。
「あ……実はコンタクトを落としちゃって」
あぁ、それは大変だな。
私もお姉さんと一緒になってコンタクトを探す。
しかしこういう時に限って中々見つからない。
「私も手伝います」
「私も」
途中、通りかかった人達も手伝ってくれて捜索したが見つからなかった。
そこに救世主が現れる。
「ん? えみり、そんなところで何してんの?」
「か、楓先輩!」
野生の森川楓が現れた!!
ゲームならきっとそういうメッセージボックスが出ただろう。
私は楓パイセンに事情を説明する。
「そういう事なら視力が良すぎて医者に測定不可能と言われた私に任せてくれ」
え? そうなの? あれ? でも、楓パイセンってたまにメガネかけたりしているような……。え? 頭が良さそうに見えるからメガネかけてる? 国営放送の知的なアナウンサー枠を目指してるう!?
もはやその思考が究極にバカっぽい事に気がついて欲しい。
「あったー!!」
楓パイセンは秒でコンタクトを見つける。
すげぇ。さすがスターズ奥地の民族相手に視力対決で勝った女は次元が違う。
「ありがとう楓パイセン。って、あれ? さっきスーパーで会った時、この後、仕事だって言ってたんじゃ……」
「ふっ、その事なら安心して欲しい。私がスケジュール帳に間違えて時間を書いていたせいで遅刻して、今は鬼塚パイセンが私の代わりにニュース番組に出てくれている!!」
いやいや、それなら急ぎなよ!
私のデートも大事だけど、そっちはもっと遅れたらダメなやつじゃん!!
楓パイセンを送り出した私は出口を抜けてホテルへと走り出す。
◆◆◆
「きゃー、誰かー! 私の子供が!!」
今度はなんだ? っていうか焦げ臭いな。
火事か! 俺は煙の出たマンションを見て一瞬で状況を理解する。
「すみません。そのバケツ借ります!!」
「あ、はい……って、あくあ様!?」
俺は念の為に頭から水を被る。
「すみません! 5階の一番左部屋の人! 俺が今からそこに行くんで扉を開けてくれませんか!!」
「は、はい!!」
俺は火事の起こったマンションの隣にあるマンションの中に入る。
さっき、レスキューが遅れていたように、渋滞で間に合ってないんだ。
事態は一刻を争う状況だし、そもそも俺は迷って立ち止まる男じゃない。
そうだ……。それなのに、俺は何を戸惑っていたんだろう。
えみりさんはカノンや琴乃、楓達には良く素を見せてくれるが、初めて会った時から、どこか俺にはよそよそしかった。いまだに2人きりの時じゃ、あまり素を見せてくれないしな……。
それもあって俺は、えみりさんに対して踏み込んじゃいけないのかなと、どこか一線を引いていた気がする。
「すみません。ベランダお借りします! 大丈夫ですか!?」
「はい、もちろんです!!」
俺はベランダに出ると、隣のビルに飛び移る。
ヘブンズソードやスターズウォー、TOKYO SWEEPERやNocturnal Darknessでパルクールの練習をしておいて良かった。
「大丈夫?」
「け、けんじゃき」
俺は子供に向かって微笑む。
「ああ、そうだ! 良く頑張ったな。えらいぞ! 俺が来たからにはもう大丈夫だから。ほら、俺にしがみついて」
「うん!」
俺は子供を抱えると、ベランダの手すりに乗る。
行けるか?
流石に俺1人の命じゃない。一瞬だけ戸惑う。
そんな俺の背中を押したのは、俺の中にいる剣崎だった。
『やれるよな?』
ああ! 俺はお前に! 剣崎総司に恥じない俺でいたい!!
確実に成功させる。俺はその思いで隣のビルに飛び移った。
下からは悲鳴に近い叫び声が聞こえる。
「はぁ、はぁ……」
ギリギリだった。俺は自然と子供を抱きしめていた両手に力が入る。
良かった。この子が助かった事が何よりも嬉しい。
「すみません。ベランダお借りして、その……」
「いいんです。むしろありがとうございます!!」
俺はとりあえず危険だからと、その部屋の人と一緒に一階まで避難する。
「ママー!」
「ああっ! 本当に無事で良かった。ありがとう。ありがとうございます!!」
良かった。俺は親子の対面を優しい目で見つける。
お母さんは何かお礼をさせてくださいと言ったが、俺は結構ですと断った。
その一方で隣のマンションのお姉さんには連絡先を渡して、部屋を汚しちゃった分、後でお礼するからと伝える。
俺は近くのショーウインドウに映り込んだ自分の姿を見て苦笑した。
もう見るからにボロボロだが、せめてホテルにはいかなきゃ。
俺は急いでホテルへと走り出した。
◇◇◇
途中、降りられなくなってる猫を助けたり、道に迷ってる外国人を道案内したりしたが、やっとホテルに着いた。
私はエレベーターに乗って上にあるレストランへと向かう。
はぁはぁ……ちゃんと時間通りに着いた自分を褒めてあげたい。
チーンという音と共に、私はエレベーターから出る。そして後悔した。
「全員、手を上げろ!! 今よりこのホテルは我々が占拠した!!」
え? 映画のロケか何か始まりましたか?
お邪魔しましたーと無関係を装い降りようとしたがダメだった。
「おい、お前! 止まれ!!」
2度ある事は3度あるんだなー。
テロに遭遇する事に定評がある私は手慣れた感じで人質になる。
これが高校野球なら、2年連続3度目とか出るんだろうなあと呑気な事を考えていた。
「私達の要求はただ一つ、他の男性とは違う白銀あくあを国民の共有財産にする事だ!!」
あー、残念だ。この瞬間、目の前のお姉さんが私の敵になる。
私は雪白えみり、そして聖あくあ教の聖女、シスター・エミリーだ!
あくあ様の日常は私が守る!!
「おい! お前、雪白えみりだな? 政府との取引に使う。ついてこい!!」
へいへい。私はテロリストに言われた通りに立ち上がると、背中に銃を突きつけられて警察との交渉の場に向かう。
「余計な事はするなよ? それと、逃げ出せるとは思わない事だ」
わかってるって、テロリストってどうしてこうもテンプレ的な事しか言わないんだ?
私は大人しく指示に従う。
「私たちからの要求は以上だ!! 言っておくが少しでも近づいたら、このビルに仕掛けた爆弾を含めて周囲を爆破するぞ!!」
テログループは警察に対して自分達の要求を伝えると、ビルには誰も近づけないようにと言った。
その帰り道、私が例の如くトイレに行きたいと駄々を捏ねる。前の時もそれでどうにかなったし、今回もそれでどうにかできるだろう。
もはやパターン化した手法だが、私は擦れる時に擦るタイプだ!
テロリストのグループは2人を残してレストランのある階層へと戻る。
「またせたで候!」
トイレに向かう途中、私についてきていたテロリスト2人がバタバタと倒れる。
りんなら来てくれると思ってたぜ!
「聖女様、脱出するならこっちでござるよ?」
「いや。このビルに仕掛けられた爆弾を見つける。どうやらテロリスト軍団は、他の場所にも爆弾を仕掛けているようだ。りんは、この事を他のメンバーに伝えてくれ」
あとはクレアかメアリーお婆ちゃんかくくりが上手くやってくれるだろう。
私はりんと分かれると、テロリストに見つからないようにビルの中に設置された爆弾を探し始める。
とは言っても、闇雲に探したところで見つかるわけがない。
だから私はみことを頼る事にした。
『あっ、聖女様! ようやく繋がった!』
太陽フレアの電波通信障害のせいでサバちゃんと連絡がつかなかったが、りんが持ってきてくれた特殊な通信機のおかげでなんとか繋がった。
『今、ブチ切れたくくり様とクレアさんが、せっかくのデートを邪魔するな、全員ぶち殺してやるとかって言って、両手に麻酔銃仕様のサブマシンガン持って光学迷彩が施された最新鋭のヘリに乗ってそっちに向かってます!!』
はは……テロリストの皆様、ご愁傷様です。
私はくくりとクレアの話は聞かなかった事にしてスルーする。
『サバちゃん、テロリストが設置してそうな爆弾があるところを教えてくれ』
『がってん承知の助!!』
サバちゃんってなんかこう、言葉のチョイスが古い気がするのは私の気のせいだろうか?
私はサバちゃんのナビに従って爆弾が設置されたと思わしきフロアへと向かう。
◆◆◆
はぁ、なんとかホテルに着いたぜ。
裏口からホテルに入った俺はエレベーターに乗ろうとしたが、動いてなかった?
おい、嘘だろ?
しゃーねぇ。隣にあるこの階段からレストランのある五十階まで駆け上がるしかないか。
俺は黙々と階段を駆け上がりながらえみりさんの事を考える。
この格好を見たら彼女はどう思うだろうか?
もしかしたら笑って少しくらいはカノン達に見せているような表情を自分にも見せてくれるんじゃないか?
それとも驚かせてしまうのだろうか?
心配させてしまうのだろうか?
あぁ、なんでもいい。
俺はえみりさんの素の感情を曝け出した表情を見たいんだと思った。
そのためには俺もえみりさんに一歩を踏み込まなきゃいけない。
俺は階段を登り切ると、扉を開ける。
正直、体力的には限界だったが、えみりさんの顔を想像したらなんとか登り切れた。
「くそ!」
俺の目の前を何人かが通り過ぎていく。
どうしたどうした?
って、さっきの人明らかに武装してなかったか?
「テロリストの首謀者と取り巻きが人質を連れて逃げたぞ!!」
は? テロリスト?
くそ、良くわかんないけど、それなら人質に取られた人がやばい。
瞬時にそう判断した俺は人質をとったテロリストを追うために、さっき登ってきた階段でさらに上の階へと向かう。
はぁはぁ、ぜぇぜぇ。全く、今日は本当になんて日だと心の中で叫んだ。
◇◇◇
『あった! サバちゃんあったよ!!』
私は爆弾を見つけるとサバちゃんに爆弾を解除する方法を聞く。
流石にバイトリーダー捗る様でも、爆弾の処理をした経験はないからな。ははは!
『わかりました。できる限り爆弾の構造とか、書かれている数字や単語を私に伝えてください!!』
『OK!』
私はできる限りサバちゃんにわかりやすく爆弾の構造や、書かれている文字を伝える。
ふと気がついたが、この状況……もし、あくあ様が爆弾を解除しにきてたら詰みだったなと思った。
『わかりました。それでは私の言う手順で作業をしてください』
『了解した!!』
私はサバちゃんの指示に従って爆弾を解除していく。
途中、ダクトを通った時に煤けた頬やおでこを流れる汗を拭き取る。
『最後のコードは……あ、だめ。サーバー負荷ががが』
『サバちゃん?』
私はインカムを外して液晶部分を見る。
サーバーエラー? もしかして掲示板のせいで鯖落ちしたのか?
嘘だろ……。私は目の前にあるコードを見てため息を吐く。
赤、橙、黄、青、緑、桃、紫、白、黒……。なんでこんなにコードが残ってるかなあ。
私は通信が途切れる前に聞いたサバちゃんの最後の言葉を思い出す。
最後のコードは……って、言ってたよな。となると、この中からどれか一本を切ればいいはずだ。
私は通信機を見つめる
「へっ、こうなったら運頼みだ」
私は通信機を使って、私が知る限りこの世界で最も幸運な女に電話をかける。
頼む。繋がってくれよ。
「捗る!?」
「はぁはぁ……お姫様、今日の肌着は何色ですか?」
「え? 白……って、何を言わせるのよ。このおバカ! そんな事より……」
私は、ありがとなって小さく呟くと電話を切る。
例えこれで外れたとしても、死ぬ前にソレが知れたから本望だ。
それにお前ならきっと白を穿いてるって信じてたぜ!!
私は白いコードに手をかける。
「ああ、もし死ぬなら最後にあくあ様とハグしたかったぜ」
ま、あくあ様に対してビビって猫被ってた私が悪いんだけどよ。
もし、これで爆弾を止められたら、その時は……私は、そんな事を考えながら白いコードを引き抜く。
それと同時に動いていたタイマーがぴたりと止まった。
ありがとよ嗜み。お前は私にとっての最強ラッキーガール、幸運の女神様だぜ。
おかげで私も覚悟が決まった。
あくあ様に会いたい。
そして、素の自分を知って、その上で好きになってもらいたい。
あくあ様がここに来てるかどうかなんてわからない。
でも私は、あくあ様ならここに来ている気がして、一番上のフロアに向かって一心不乱に走り出していた。
◆◆◆
「まさか本人の方からやってくるなんてな……」
「人質を解放するんだ! それ以上、罪を重ねちゃダメだ!!」
俺は最上階のエリアでテロリスト達に対して人質を解放するように伝える。
テロリスト達も諦めたのか、人質を解放して持っていた武器を置く。
良かった……俺の説得が通じたのかと思った。
するとテロリスト達は上着を脱いでタンクトップ姿になる。
「どうせなら最後にいい思いをするか」
「ああ、そうだな」
「人生の最後にこんないい男が抱けるんだ」
も、もしかしてこいつら俺を押し倒すつもりなのか?
俺としては通常ならそういうプレイも吝かではないが、相手は犯罪者だ。
毅然とした態度でテロリスト達と対峙する。
「うおおおおおおお!」
俺は飛びかかってきたテロリストを跳ね除ける。
悪いけど、ちょっと鍛えてるくらいの女の子に負けるつもりはない。
しかし、これまでの諸々が負担となって俺の体に重くのしかかる。
足腰に力が入らない。そのせいで体勢を崩して、相手の一人に首をきめられる。
やべぇ。意識を落とされたら、流石の俺もどうしようもない。
俺はなんとか抜け出すと、逆に技をかけてきたやつを地面に引き倒す。
「はぁ……はぁ……」
あ、あと1人だ。でも俺も限界が来ている。
俺はカウンター狙いで拳を構えた。
「お前なんかが出てきたから……お前なんかがいるから、私たちは希望を抱いてしまうんだあああああああ!」
テロリストのリーダー格らしき人物が俺に向かってくる。
俺はギリギリまで引きつけると、相手の攻撃を見極めて回避した後に相手の鳩尾へとカウンターを決めた。
流石に意識を奪うほどではなかったけど、それでも相手は後ろに倒れて悶絶する。
「くそっ!」
リーダー格の女は、痙攣した足に鞭を打って立ちあがろうとする。
逆に俺の方はもう体力的に限界だった。片膝をついてしまう。
「はは、残念だったな」
リーダー格の女は上の階まで持ってきてたボストンバックの中から爆弾を取り出す。
「こうなったらお前だけでも、上の階の奴らだけでも道連れにしてやる!!」
やべぇ。どうにかしないと。俺はなんとか立ちあがろうとする。しかし足に力が入らない。
くっ、どうやらベランダを飛び移った時に着地で挫いたのは気のせいじゃなかったか。
その状態で五十階まで階段で上がったので余計に悪化してしまったんだろう。
絶体絶命のピンチだが、俺は諦めずに歯を食いしばる。
「ははは、流石の超人白銀あくあにも限界があるみたいだな。さぁ、これで終わり……だぁっ!?」
誰かがリーダー格の女性に突撃して、揉み合うように倒れる。
「とったどー!!」
リーダー格の女性から爆弾を奪った女性が天に掲げる。
って、えみりさん!?
「はは、残念だったな。もう爆弾は起動済みだ! 今からじゃ解除も間に合わない、止めるのは不可能だ!!」
え? よく見ると、爆弾に表示されたタイマーに残り1分と書かれていた。
「えみりさん!!」
「はい!」
俺は阿吽の呼吸でえみりさんから小型の爆弾を受け取ると、限界が来てる足腰に鞭を打って階段をかけ上がる。
その後ろをえみりさんも必死についてきていた。自然と俺の足腰にも力が入る。
「うおおおおおおおおおお!」
俺は屋上エリアの扉を蹴破ると、外に出て勢いよく爆弾を空中に投げる。
って、待てよ。これじゃあ、下で爆発したら大惨事になるんじゃ!? やべえ! そこまで考えてなかったぞ!!
そう思った瞬間、空中に飛んだ爆弾に何かが貫通して爆発した。
◇◇◇
『ミッションコンプリート』
私の耳につけた通信機からりのんの声が聞こえる。
はは、空中に放り投げた爆弾を、飛んでるヘリから狙撃して1発で命中させるとかバケモンかよ……。
私は改めて聖あくあ教は危険な宗教なんだと認識した。
「えみりさん」
あくあ様はボロボロになった格好で私のことを見つめる。
はは、なんでそんなズタボロになってるんですか?
って、私も人の事なんか言えないか。
自然と笑みが溢れる。
「俺と結婚してください!」
「喜んでええええええええ!!」
見つめ合う私達の後ろで爆散した爆弾の粉がパラパラと音を立てて落ちていく。
え? 待って? 今、なんて言った? 私もなんて返した!?
流石の私も上手く状況が飲み込めない。
なんとかして、誰かに助言を求めようとしたが、急に通信機が通信エラーになる。
はあ!? さっきまで普通に使えてただろ! なんで急にそこでポンコツになるんだよ!!
「カノンのところに報告に行こうか」
「はい」
カノンはどういう顔をするのかな?
普通に喜んでくれるだろうか、それとも呆れるだろうか。それを想像しただけで笑みが溢れる。
私とあくあ様の二人は手を繋いでカノンの待っているマンションへと向かった。
Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。
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診断メーカーで新年のおみくじ作りました。
もっと色々できるの考えてたけど、これしかなかったんだよね。
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