佐倉ゆかな、解決ナイトカウンセリング4。
『それじゃあ、アヤナちゃん、次お願い!』
『はい。初めまして、相談員の皆様。僕の名前は松尾佑佳と言います。名前は女の子っぽいけど男です』
お、おおおおお! 男の子の相談者さん!?
これにはスタジオの観客たちも沸く。
『BERYLのみんなが楽しそうに学校の話をしているのを聞いて、僕も3学期から学校に通い始めました。おかげさまで今は、楽しく学校に通ってます』
いいじゃーん!
ワイプに映った小雛室長が腕を組んでうんうんと頷く。
『ただ、学校に通い始めて以来、クラスの女子達を見て僕にはとても気になる事があるのです』
スタジオのボルテージはマックスだ。
これはもしかしてラブですか!? そ、それとも別のにゃにかだったりとか……?
『それは……』
みんなが息をのむ。
自然と私もけいともういもテレビに前のめりになる。
『クラスの女子達が放課後にやってる女子会というものです』
そっちかーーーい!
インコさんと小雛さんと、あくあさんのツッコミが重なる。
『そこで僕も女子会というものをやってみようと思ったんですが、何をしたらいいのかわかりません。それとクラスの男子は僕1人なので、一緒に女子会をしてくれる友達もいません。相談員さん、お願いです。僕と一緒に女子会をしてくれませんか? と、いう事です』
『なるほどね。それならうちに適任が1人いるわよ』
確かに。みんなが小雛ゆかりさんの言葉に頷く。
『はい、そういうわけで僕、猫山とあ相談員が相談者さんの願いを叶えに行きました。VTRどうぞ!』
うん、今日もとあちゃんは可愛い。彼って本当に男の子なのかしら? 性別が公表されててもたまにわからなくなる時がある。それって私だけかな?
あと、とあちゃんが着ているジャージがダボダボなのは、確実にスタッフが狙ってやってるなと思った。
『はじめましてー、相談員の猫山とあです』
『は、はじめまして、相談者の松尾佑佳です』
へー。なるほどね。相談者の松尾君も童顔で可愛い感じの子だった。
『女子会がしてみたいって聞いたんだけど?』
『はい、やってみたいです!』
『なるほどね……それじゃあ、早速やってみますか』
『い、いいんですか……?』
とあちゃんはこくんと頷く。
『まぁ、任せといてよ。それじゃあ、そのための準備をしようか?』
『準備?』
画面がブラックアウトすると、準備中というテロップが表示された。
『はい、そういうわけで準備完了です!』
きゃー! 乙女咲の制服、もちろん女子用のを着用したとあちゃんが映し出される。
かわいー。似合ってるー。
『こ……これ、本当に大丈夫なんですか……?』
あ、相談者さんの松尾君も女子の制服とウイッグを着用して出てきた。
これは松尾君が通ってる学校の制服かな?
とあちゃんの着用していた乙女咲の制服とは違う制服だった。
『大丈夫、大丈夫、似合ってるよ。ゆかちゃん!』
『ゆかちゃん!?』
松尾君はちゃんづけで呼ばれたのが恥ずかしかったのか顔を赤くする。
『というわけで、女子会をやっていこうと思うんだけど、人数がね。これじゃあ足りません』
確かに、2人で女子会は無理だもん。
『で、僕の知り合いのお姉様に声をかけようと思ったんだけど、今、こっちにいないんだよね』
テロップでお姉様はスターズに出張中と表示される。
あー、なるほどね。その時期に撮影したのか。
『カノンさんはパワーオークションの女子会の準備で大変そうだったし、月街さんは……なんか死にそうな顔してたから、僕も声をかけづらかったんだよね』
ワイプに映った月街さんが苦笑すると、次に映った小雛さんが素知らぬ顔でそっぽを向いて口笛を吹く。
あ、あやしい。あくあさんと一緒でわかりやすく何かに関与している表情をしていた。
演技が上手い小雛さんが誤魔化せないなんて、多分よっぽどの事だと思うけど、本当に何があったんだろう?
『そういうわけで、この2人を呼んできました。どうぞ』
とあちゃんの掛け声と共に2人の女子が横から出てくる。
『はじめまして、ベリルエンターテイメント所属、ミルクディッパーの白銀らぴすです。今日はスターズに出張している兄……姉様の代わりにやってきました』
あ、聖クラリスの制服姿だ! かわいい!
隣に居たけいとが、だらしのない顔で立ち上がる。
「らぴすちゃん、天使!」
ふふっ、良かったね。けいと。
ベリルカフェでいっぱいファンサしてもらってファンになっちゃったんだよね。
『松尾君、いや……ゆかちゃん! はじめまして! ベリルエンターテイメント所属の那月紗奈だ! 虫取りとザリガニ釣りなら任せて欲しい!! あと、タケノコ掘りも得意だぞ! ははははは!』
紗奈ちゃん、それ全部女子会でやらないやつ……。
なんか彼女って見た目正統派美少女アイドルって感じなのに、中身がこうズレてるよね。
そのズレてるところが面白いからバラエティでも引っ張りだこだ。
「ふふふ、紗奈ちゃんは相変わらずだなあ」
ういは嬉しそうな顔でテレビを見つめる。
仲のいい友達が活躍するのが純粋に嬉しいようだ。
『那月さん……それ、どれも女子会でやる事じゃないよ』
『うん』
とあちゃんとらぴすちゃんの2人が困った顔をする。
あら、かわいい。
『えぇっ!? 祈さんやえみりさん、フィーちゃん、ハーちゃんの5人で、アパートの裏にある野山に行って女子会した時はそんな感じだったんだけどな……』
『いや、普通は野山で女子会とかしないから……ていうか、それってただのピクニックじゃ?』
とあちゃんのツッコミにみんなが頷く。
『あれー? えみりさんは裏山は庭ですから、ガーデンティーパーティーみたいなもんですよって言ってたんだけどなあ』
うーん、確かにえみりさんが裏山でピクニックしてたら、貴族のご令嬢がガーデンティーパーティーしてるように見えなくもないなという気がして、なんともいえない気持ちになる。
『うん、まぁ、それは置いといて、今からするのは普通の女子会です。そういうわけで、らぴすちゃん』
『はい』
『らぴすちゃんは、スバルやみゃーこちゃんとクラスメイトだけど、3人は普段、どういう女子会をしてますか?』
『そうですね……』
とあちゃんはライブでのMC経験が活きてるのか、こういうのが上手くなったなあと思う。
らぴすちゃんは一瞬だけ考えるような仕草を見せる。
『最近だとレンタルスペースでお部屋を借りて、みんなでゲームしたりとかライブ観たりとか、普通にお菓子を買ってお話ししたりとか、あ、それとお菓子作りなんかもした事あります』
へぇ、そうなんだ。
私の時代はホテルに女の子同士で泊まって、そこでうんぬんかんぬんって話は聞いた事あるけど……流石にそれはまずいよね。松尾君もそんなの知ったらドン引きすると思う。
『はい、そういうわけで、レンタルスペースの方を借りました!』
『『『おぉ〜!』』』
とあちゃんの手際の良さに、らぴすちゃん、紗奈ちゃん、松尾君の3人が揃って感心するように拍手する。
ほんと、とあちゃんって手際いいよね。そつがないというか、あくあさんのMC以上に整ってる気がする。
あくあさんも上手だけど、小雛さんと一緒で丁寧というよりも結構ゴリ押すところが多い。そういうところがパワー教の森川さんと似た所がある。だからあの3人が揃ってする小雛ゆかりの部屋は凄く面白いんだよね。
『はい、というわけで琴乃お姉ちゃんの実家をレンタルさせてもらいました!!』
『『『桐花マネの実家!?』』』
テロップでここは静岡県ですと表示される。
桐花マネってただの社員さん、いわゆる素人さんなのにベリルに入ってから色々と大変だなあと思った。
『はい、本当はあくあの部屋で勝手にやろうと思って僕が事前に調査したんだけど、映ってはダメなものが出てきたらまずいので桐花マネの実家をお借りしました』
映ってはダメなものって何!?
あくあさんのお部屋って、そんなテレビに映せないようものが出てきたりするんですか?
「きっ、気になる! あくあ君のお部屋を見学したい!」
「ふふ、何があるんだろうね。るーなちゃんに聞いたら教えてくれるかなー?」
うい!? その手があったかーって思ったけど、守秘義務で普通に教えてくれなさそう。
るーなちゃんって、おっとりしてるけど、そこら辺ちゃんとしてそうだもん。
『それじゃあ、中に入ってみましょう』
『へー、二階建てなんですね』
『おぉ! この入り口にある土間、羽生家の実家を思い出すというか、なんか凄く落ち着く……』
ふーん、そうなんだ。
羽生さんの実家ってどこだっけ?
確か凄く田舎だった気がする。
あー、だから紗奈ちゃんってザリガニ釣りとか、虫取りとかが得意なのか。なるほどね。
けいとが前に言っていた、その人を構成する要素にルーツが見えてくると深みが出るっていうのは、こういうことかーと理解した。
『奥には縁側のある和室もあるじゃないか!』
紗奈ちゃんは目を輝かせる。
らぴすちゃんは土間を見るのが初めてなのか、興味深そうに色々みていた。
『ごめん、ゆかちゃん。あんまり女子会っぽくなかったかも』
うん、確かにお家が純和風っぽくてSNSで上がってるキラキラ女子会っぽさはゼロだ。
『ううん。僕としてはなんかこうあったかい感じがして凄く落ち着きます。さっきまで凄く緊張してたんだけど、この縁側のある和室とか、心地のいい風がふわっと入ってきたりとか、い草の匂いがして凄く素敵だなと思いました』
松尾君、めっちゃいい子じゃん!
でも、わかる。私もこういう方が普通に好き。
冬はこたつに入ってみかん食べたいし、夏はこういうところでお素麺が食べたい。
『2階はどうなってるんですか?』
『見てみましょう』
みんなで2階にあがる。
『こっちは、琴乃お姉ちゃんの部屋だから映せないとして、もう一個はなんだろうね?』
『趣味の部屋って書いてありますね』
『撮影許可が出てるならみてみよう!』
みんなで扉を開けるとそこには部屋を丸ごと使ったジオラマが出来てた。
『あっ、ザンダムだ! しかも僕達のもある!!』
『すごいすごいすごい!』
とあちゃんと紗奈ちゃんは嬉しそうな顔で部屋を見渡す。
「わ、私もここに行ってみたい……!」
けいとは好きそうよね。
でも、出したら出しっぱなしでお掃除しないし、落としたパーツを掃除機で吸い込む未来が見えるからダメよ。
ういと私に、ちゃんと自分でお片付けするって約束したら、買ってもいいけどね。
あと、絶対にいい加減に積んで倒すのもなしよ。桐花マネみたいに湿気対策した上で、綺麗にケースの中に積んでるならいいけど、けいとはそんなの絶対にできない気がする。
『こうなってくると、もう一つの部屋はどうなってるんだろうという気がします』
『確かに……』
らぴすちゃんの発言に全員が顔を見合わせる。
『それじゃあ、僕が中を一瞬だけ確認します』
とあちゃんは桐花マネに許可を取ると、1人だけ扉を開けて中を覗き込む。
そしてすぐに扉を閉めると、うんと頷いた。
『まぁ、あれだよね。ドライバーグッズ多かったです。特に剣崎とヘブンズソード』
うん、普通に考えたらそうだよね。
桐花マネって特撮好きだし、見なくてもその説明だけで部屋がどうなっているのか安易に予想がついた。
多分、ケースの中にベルト飾ったり、剣崎の特大ポスターかけたりしてるんだろうなあ……。
『ま、それはいいとして、今から改めて、この4人で女子会をやっていきたいと思います』
あっ、そういえば、そういう依頼だったね。
普通にお家見学に夢中になりすぎてて、みんな本来の目的を完全に失念していた。
『まず女子会では基本的におしゃべりが中心です。最初の話題としては、やはりベリルかあくあを選択するのが無難でしょう。そういうわけで、ゆかちゃんはBERYLで誰が好き?』
とあちゃんは、当然僕だよねと顔を覗き込みながら聞く。
『え、あ……ぼ、僕はその、あくあお姉様で……』
『チッ!』
とあちゃん!? ちゃんとマイクに舌打ちの音が入ってるけど大丈夫!?
『もー、やだー、帰りたいー』
駄々をこねるとあちゃんかわいい。
『ゆかちゃん、そういう時は僕の事を思って嘘でもとあちゃんですって言ってくれた方が嬉しかったなー』
『あ、すみません……』
『なんて、嘘だよ。それに、女子会としての答えはそれで間違ってないからね。あくあを嫌いな女の子なんてフューリア様以外いないだろうし、あくあの話しとけばほとんどの女子とは話が会うと思うよ』
とあちゃん、それは言っちゃダメでしょって思ったら、ワイプに映ったあくあさんの、それはそうという声と共にスタジオの笑い声が入ってくる。
あくあさん、自覚ないと思ってたのに、ちゃんとフューリア様に嫌われている自覚あるんだ……。
とあちゃんは最初の会話をきっかけにどんどんと話を広げていく。うまいなあ。
「メモメモ……」
ん? 隣を見るとけいとがメモをとっていた。
「どうしたの?」
「いつか開く女子会のために参考になるかなと思って……」
あ、うん。私はそれ以上何もいえなかった。
4人はその後もゲームをしたりカラオケをしたりして遊ぶ。
『わわっ、スイカップゲームに対戦モードなんてできたんだ』
へー、2人対戦モードなんてあるんだ。
らぴすちゃんは自分の球が出る度に悲しい顔を見せる。
だ、大丈夫、きっと成長するから! 私はらぴすちゃんの味方だよ!!
「らぴすちゃんかわいー!」
「ふふっ」
私は微笑ましい顔をしているういとけいとに対して、ジトーっとした目で見つめる。
2人は私と違って大きいよね。
あくあさんの登場以降、大きく変わった事が一つある。
それは日本を揺るがす大きい小さい問題、通称膨らみ大戦争だ。
前までは小さい方が圧倒的な勝利だったのに対して、白銀あくあは大きいのが好きというデマにより一斉に盛り返してきた大きい派が日々、小さい派に対して無自覚マウントを取ってくる。それこそ、ソースになったあくあさんも好きと言っただけで、大きいのが好きだなんて言ってないのに、白銀あくあが大きいのが好きという言葉だけが一人歩きしたんだよね。
最近ではワイドショーだけじゃなくて、ちゃんと国会でもこの問題が討論されたり、あくあさん本人も改めて俺は全てを愛しているという声明を出して収拾に向かおうとしている。
あのままだと、大饂飩共和国どころか、日本が大きい帝国と小さい連邦に分かれて膨らみ共和国になる勢いだったので本当に解決して良かった。ネットで国旗の日の丸がアレになってるのを見た時は本当に絶望したもん。
『それじゃあ、みんなで最後にクッキーを作って終わりにしよっか』
『『『はーい!』』』
こうして2時間に及ぶ女子会は終わりを告げる。
最初は緊張してた松尾君も、最後にはみんなと普通に話せるようになって、良かった良かった。
協力してくれた紗奈ちゃんとらぴすちゃんは仕事のために帰宅して、再びとあちゃんと松尾君の2人になる。
『というわけで、ゆかちゃん、ここからが本番です』
『えっ?』
どういう事!? これにはワイプの小雛さんも首を傾げる。
『さっきのはあくまでも女子会の予行演習です。今から、クラスメイトの女子達を誘って女子会をしましょう!!』
『えええええええええ!?』
おー、そこまでするんだ!?
『テレビの前のみんな〜! 解決ナイトカウンセリングは、そこまでやります!!』
これには私達もスタジオにいる観客の人達も拍手をする。
『え、で、でも……』
『ゆかちゃん、いや、松尾君が女子会をやりたいと思ったのはどうしてかな?』
とあちゃんの問いかけに松尾君はハッとした顔をする。
『クラスの女子達が楽しそうにしている女子会を見て、本当は自分も一緒に混ざりたいと思ったんだよね?』
『は、はい……!』
とあちゃんはコクンと頷く。
『僕もね……本音を言うと最初はすごく怖かった。だけど、そこで一歩を踏み出したからこそ、僕は今ものすごく楽しいんだ。だから、ね? 僕も側で見守ってるから、松尾君も勇気を出して一歩を踏み出してみない?』
あの過去を公表したとあちゃんの言葉だからこその重みと説得力があった。
『あの時、そんな僕をあくあが助けてくれた。だから、今度は僕が松尾君の背中を押すよ。もちろん、人には人のペースがあるし、松尾君がまだ早いって思うならしなくてもいいと思う。でもね……こういうのは勢いが大事だから! って、いつも勢いだけでどうにかしてる人が言ってたよ』
ワイプに森川さんとあくあさんの2人が映し出される。
2人とも、え? 自分ですか? みたいな顔してたけど、他にいないよね。
『……わかりました。僕もとあちゃんみたいに勇気を出してみます!!』
よく言った! という小雛室長の言葉と共に大きな拍手が起こる。
こうして、松尾君は待ち合わせの連絡がついた女子達の元へと向かう。
『ま、松尾君!?』
『かわいい!』
『女の子の服、よく似合ってるよ!!』
女子達も最初、松尾君の姿を見た時はびっくりしたけど、概ね好評だ。
自衛で女装する男の子も結構いるけど、きっと松尾君は女装せずに学校に通ってたんだろう。
それに、女子ならかわいい男の子がいたら女の子の服を着せたいよね。
彼氏の体型が近かったら、自分の服を着させたりとか、お揃いの服で双子コーデしたいって子も結構多い。
『あ、あの……その……』
松尾君は言葉に詰まる。
それに対して、近くのロケバスの中で見守っていたとあちゃんが頑張れと呟く。
『よ、良かったら僕と女子会をしてくれませんか!?』
松尾君のお願いに女子達はびっくりして顔を見合わせた後に、笑顔ではいと頷いた。
『そ、それじゃあ、えぇっと、よろしくお願いします』
松尾君は再び桐花マネの自宅に女子達を連れて戻る。
ここに来て、女子達もまさかの展開に緊張したのか少しぎこちなくなってきた。
それでも松尾君は、会話に詰まった時も、さっきの女子会を思い出したりしてなんと会話を広げる。
時にはとあちゃんがインカムからアドバイスをしたり、さっきの女子会で作ったクッキーを振る舞ったりして場を盛り上げた。
『えっと、みんな、今日は本当にありがとう』
『ううん、こっちこそ、本当にありがとう!』
『松尾君、今日はすごく楽しかったよ』
『良かったら、また一緒に女子会しようね!』
無事に女子会が終わると、そのタイミングでとあちゃんが出てくる。
『みんな、楽しかったー?』
これにはクラスメイトの女子達も驚く。
『松尾君は、最後までよく頑張ったね』
『はい、はい……!』
とあちゃんは松尾君を労うと、女子達の方へと顔を向ける。
『みんな、びっくりしたでしょー?』
とあちゃんの言葉に女子達は声も発せず、ただただ首を上下に振るだけだった。
ふふっ、びっくりしすぎて声も出ないってこういう事なんだね。
とあちゃんは女子達に今回の番組の趣旨や松尾君が依頼してきた事などを説明する。
『そしてここは、僕の元マネージャー、桐花琴乃さんの実家です!』
『『『『『えぇえぇえっ!?』』』』』
うん、そういう反応になるよね。
急にみんなが周りをキョロキョロし出す。
さっき、ここって松尾君のお家なのかなー? なんて、話で盛り上がってたけど、これはこれで驚きだよね。
『ちなみにさっきみんなが食べたクッキーは、松尾君と一緒に僕と那月さん、らぴすちゃんの4人で作りました!!』
『『『『『うぇええええ!?』』』』』
女子達はびっくりしすぎて目を白黒させる。
松尾君の手作りってだけでも盛り上がってたのに、知らず知らずのうちに、とあちゃん達の手作りクッキーも食べてるんだもん。そりゃ、そうなるよ。
1人の女子が、取っておけば良かったと悔しがる。うん、気持ちはわかるけど、置きっぱなしにして腐る未来がわかるから食べて正解だと思う。
『松尾君、これからも頑張ってね!』
『はい、ありがとうございました! 後、今日でとあちゃんのファンになりました。これからはあくあお姉様と一緒に推していきたいと思います!』
良かった良かった。
でも、松尾君がイーサン君みたいに変に拗らせたりしないかちょっとだけ心配になる。
再びカメラがスタジオに戻ると、笑顔の小雛さんが映し出された。
『いやー、良かった。松尾君、本当に頑張ったわね。でも、これからよ!』
この言葉に相談員のとあちゃんも頷く。
『僕も、これをきっかけにして、松尾君が女性と交流するきっかけになればと思います』
これにはスタジオも沸く。
確かに、最初は女子会って形でお話しして、そこから男女の関係になるやり方もあるのか。
ここまで計算してるなんて、さすがとあちゃんと言わざるを得ない。
『なるほど、その手があったか……。さすがはBERYLの頭脳担当。よし、じゃあ、俺も何食わぬ顔で女子会するか』
あくあさんの呟きをマイクが拾ってスタジオに笑い声が漏れる。
これに対して、小雛さん、月街さん、とあちゃんの3人だけが呆れた表情のジト目になった。
後、天我先輩でも黛君でもなく、とあちゃんがBERYLの頭脳担当っていうのはなんとなくわかるな。うん……。
『バカは置いといて、アヤナちゃんはどう思う?』
『良かったと思います。一歩を踏み出した松尾君の勇気にも感動しましたが、とあちゃんだからこそ彼の背中を押す事ができたんじゃないかなと思いました』
うんうん、そうだよね。私もそう思う。
『顧問のインコはどう?』
『女子会、うちもあんまやらへんのやけど、久しぶりにホロスプレーのみんなでやろうかなと思います。そういうわけで、今度ホロスプレーのみんなで……』
『はい、それじゃあ、アヤナちゃん、最後の依頼をお願いします』
『ちょっと、待てや!!』
ははは、容赦なく番宣をカットする小雛さんに笑い声が起きる。
2人が言い争う下で、ちゃんと番宣が表示された。
なになに? ホロスプレーで女子会配信やるのかー。機会があったら見てみようかなと思った。
『えぇっと、それでは本日、最後の依頼をご紹介したいと思います』
アヤナちゃんは戸惑いつつもちゃんと進行をする。
なるほどね。室長を小雛さんがやるにしても、あくあさんがやるにしても、秘書にちゃんと真面目に進行できる人を置くのは鉄則だなと思った。
『最後の依頼は大阪府からの依頼になります』
これには、会場も沸く。まさかの大阪府からの依頼?
『今度、大阪でIRを誘致しようと思うので、何かアドバイスをください。お願いします!! だ、そうです。この依頼には白銀あくあ相談員と……え? 小雛室長も同行したんですか?』
『当たり前でしょ。未成年に対してそんな依頼を送ってくる大阪に文句言いに行ってやったわよ!』
それはそう!
小雛さんってこういうところ、ちゃんと常識があるんだよね
『というわけでVTR行くわよ!』
映像が切り替わると、小雛さんが会議室の中央でどんと座っていた。
それに対してヘコヘコする大阪府の知事達を見て、あ、もう怒られた後なんだと状況を察する。
小雛室長の、なんで私が怒ったところがカットされてるのよという声と共に観客席の笑い声が入った。
『で、IRだっけ? 何コレ、何がしたいのよ? 別にIRを誘致する事に関してはなんとも思わないけど、あんたこんな計画で客が来ると思ってるわけ? あんた、商売、舐めてるんじゃない?』
小雛さんの言葉に職員さん達が項垂れる。
近くで聞いていたIR関連の企業の人達もタジタジの表情を見せた。
『俺も、日本でするならもうちょっと日本色を出した方がいいと思うんだよね。ホテルとかも純和風とか、いっそお城の形にするとか、庭とかも枯山水にするとか海外受けのいい禅寺っぽい施設を作るとか、和を前面に押し出した方がいいんじゃないかと思います。だって、この計画表なら他の国に行くのとなんら変わらなくありませんか? それってわざわざこの国でやる意味あります?』
それはそうと思わず頷いてしまった。
やっぱり、あくあさんってこういうところの着眼点がいいよね。
『それこそ、舞妓さんとか芸者さんとか入れたり、雅楽や和楽器なんかの演奏ができるステージを作るとか、将棋とかの対戦ができたり、歌舞伎や能が披露できる能楽堂みたいなステージがあったら面白いのかなと思いました。あと、土俵、ラスベガスでボクシングして盛り上がってるの見たら、土俵作って相撲するのとか盛り上がると思うんだよね。他にも書道パフォーマンスや即興の華道とかも派手でいいと思う』
そういえば、BERYLやベリル所属アーティストのライブ演出の草案を考えてるのはあくあさんなんだっけ? っていうのが、この発言からも理解できた。
ちゃんとお客さん目線から何をしたらいいのか、盛り上がるのかがわかった気がする。
『それならさ、カジノも普通のじゃなくてチンチロリンとか丁半とか、トランプの代わりに花札とかカルタもありかも。なんならさっき将棋やるって話出てたけど、外国人向けに一局30分くらいに終わるように駒数を少なくするとか、盤面を狭くするとかいいかもね。まずはルールとか駒の動きを覚えてもらう事が重要だから、競技カルタも英語向けでやるとかアリじゃない? ルールさえわかれば、派手な演出で盛り上がると思うわよ』
『確かにそれはアリだと思います。例えば今流行のe-sportsのバトロワ系が盛り上がるのって、1試合20分くらいで終わる試合を次々回していくからなんですよね。そういうのを基準に考えてやると、新規層を獲得できていいと思います。既成概念に囚われるよりも裾野を増やして、最終的にその競技自体を盛り上げる事に繋がるし、何よりもどれも日本独自の文化って感じがしていいなと思いました。とにかく、そこに来たら非日常感を味わう事ができるっていう空間づくりと、そこでしか味わえない特別感を出す演出っていうのを、もっと、ちゃんと考えた方がいいと思います』
なるほどね。何かの分野で成功した人って、他の分野に行ってても成功するっていうのがよくわかった。
どんどんアイデアが出てくるし、これが無理とかあれが無理とかじゃなくて、どうやったら面白いかを常に考えてる。何よりも挑戦する事に積極的で、置きにいってないところもすごいなと思った。
SNSで、この2人を会社の顧問で雇いたいという声が上がっているのも納得だ。
『あとは日本独自の屋台的なところも作ったらいいかも』
『あるある。高級感のあるエリアの裏側で、そういう雑多なところがあるのもいいと思うのよ。お好み焼きとかたこ焼きとかを、もっとジャンクに提供したら良いと思う』
『逆に高いのは海外受けの良い神戸の牛肉を提供したりとかね』
『うんうん、お抹茶を点てる茶道のイベント体験とか、そういうアクティビティも盛り上がりそうだよね。あとは兵庫もそうだけど京都とか和歌山、奈良、滋賀とかも巻き込むべきね。もちろんちゃんと他の県にも利益があるようにする事が重要だから、そこはちゃんとしなさいよ』
ずっと話し続ける2人に対して、職員達はもちろん関係者のみなさんも無言でメモを取り続ける。
せっかくだから、大阪はメインの展示物がトイレの万博もどうにかしてもらった方が良くない?
と、思ったら普通に万博に対しても2人は意見を出し始める。
『万博は逆に一箇所にまとめる必要なくない?』
『確かに、こういうのって色々にわかれてした方が盛り上がりそう。一箇所にまとめなきゃいけない理由てないと思うんですよね』
そっかー。なんとなくそういうのって一箇所にまとめてやるってイメージあったけど、それが既成概念になっている事に気が付かされた。
この2人って本当に革新的というか、そういうのに囚われてないところがすごいと思う。
『そもそも都市部なんて放っておいても勝手に箱物ができるのに、今更新しいの建てる必要なんてないじゃない。むしろそれ以外の市町村とかは、こういう機会でもなかったらいつまで経っても老朽化した建物を使い続けなきゃいけないんだから、そういうところこそこういう機会に新しいのに建て替えてあげるべきでしょ』
『そうそう。箱物を作るって単語は結構悪者にされがちだけど、建築やイベントには多くの業者が絡んでるし、ああいう業種の人達は飲食とか、物品の購入にお金を結構使ってくれるからやる事にはすごく意味はあると思うんですよね。大きな建物も実は技術の継承問題や、新しい技術の開発なんかで重要になってくるし、老朽化した建物の建て替えなら地震対策にもなるし、意外とメリットも多いんだけど、そういうところもちゃんとクローズアップした方がいいと思います』
もはやスタジオの観客席どころか、私達視聴者も圧倒されっぱなしである。
2人はその後も次々とアイデアを出し続けた。
『もちろん、利益は出さなきゃいけないから、そこはちゃんとしてね。理想と現実は別だから』
『そうそう。でも、理想を追求していく姿勢だけは持った方がいいです。いつだって世の中と人の心を動かすのは、そういうパッションですから』
『うんうん、あんたもたまには良い事を言うようになったじゃない』
こうして、無事に意見交換会……という名の、一方的な意見提出会が終わった。
うん、これなら来年の万博やIRも大丈夫そう。よかったよかった。
『はい、というわけでこの件は私とあくあが無事に解決してきました。ていうか、やっぱり最後のが一番クソしょうもなかったわ。ごめんね、天我君、これに比べたらポイントカードの方が全然マシよ』
観客席の人達も小雛さんの毒舌に苦笑する。
『えーと、大阪府の職員の皆さん、本当にうちの室長と相談員が好き勝手言ってすみませんでした』
秘書のアヤナちゃんが頭を下げる。
それに対して小雛さんが謝る必要なんてないわよと言う。
『そもそも松葉杖部長はこの依頼を番組の主旨とは違うって断ったのに、大阪局のお偉いさんのなんとかってやつが勝手に受けたのが悪いのよ!! まあ、局側にもそれなりの事情があったんだろうけど、次からはこういうのはなしね。せっかくあくあを使うのに、こういう使い方するのは勿体無いわよ』
あー、なるほどね。これだけ依頼の毛色が違ったのはそういう事か。
ふふ、ネットではまた暴君小雛ゆかり、大怪獣ゆかりゴンがお怒りだと書かれているけど、私だけはちゃんとわかってる。
小雛さんはそれが言いたかったから、この回の室長を担当したんだろうなと思った。
『最後に顧問の鞘無インコさんから一言もらえますか?』
『関西出身のうちとしては、2人がもう全部言いたい事を言ってくれたから、逆に言う事はなんもないわ。あ、一言だけあった! 大阪都ってネーミングだけは近所に住んでる節子おばちゃんも言ってたけど、センスないからやめた方がええで。なんで大阪がわざわざ東京のバッタもんに落ちなあかんのや!! どうせ変えるんやったら、もっと北海道さんみたいな唯一無二の独自性を出せや!! それなら大饂飩共和国に対抗して、粉もん特区構想とかでええやろ!!』
それはそうとみんなが頷いて番組が終わった。
「あれ? けいと、寝たの?」
隣を見るとテーブルに突っ伏して寝息を立てているけいとが居た。
あんたって、難しい話を書く癖に、難しい話を聞くとすぐに寝るよね。
「けいとお姉ちゃん、こんなところで寝たら体を痛めちゃうよ」
「ほら、自分の部屋で寝るわよ」
私とういは、2人でけいとを寝室まで運んだ。
全くこの子は、図体が大きいのにまだこう言うところが子供っぽいんだから!
「おやすみ、けいと、あんまり無茶しないでね」
私はけいとの体にお布団をかけた後、部屋の扉を閉じた。
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診断メーカーで新年のおみくじ作りました。
もっと色々できるの考えてたけど、これしかなかったんだよね。
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