佐倉ゆかな、解決ナイトカウンセリング2。
夜も遅かったので準備を整えるという事で、2人が会うのは翌日になった。
まさかの泊まりである。えみりさん、お金大丈夫かな? ま、日本を代表する華族六家の人だし、お金ならたくさん持ってるよね。
あれ? でも、それならバイトする必要なんてないような……いや、きっと社会勉強か何かでしょう。うん、きっとそうだ。
『ついに対面の日がやってきました。長原さん、早速ですがこのアイマスクを装着してください』
『はい』
長原さんは車の中でアイマスクを装着する。
それをえみりさんが両手を引いて体育館の中へと連れていく。
体育館の中ではすでにアイマスクを装着していた北村さんが待っていた。
『というわけで長原さん、北村さん、お互いにアイマスクを外してください』
2人はえみりさんの指示通りにアイマスクを外すと、お互いを見てびっくりした顔をする。
プロチームのユニフォームを着た長原さんの姿を見た北村さんは、友人が夢を叶えた事に素直に感動して言葉を詰まらせる。
その一方で長原さんは車椅子姿の北村さんを見て、なんて声をかけていいのかわからずに言葉を詰まらせた。
見かねたえみりさんが再びサングラスをかける。
『北村さん、あんた長原さんから借りパクしてるバスケットボールがあるでしょ』
『……はい』
北村さんはゆっくりと長原さんの所まで車椅子を前に進ませる。
『事故に遭ってもう歩けないって分かった時、バスケもできなくなって全部が嫌になった。辛くて辛くて、そんな時に車椅子バスケに出会ったの。最初はまた挑戦してもって勇気が出なかったけど、なりちゃんから借りっぱなしになっていたこのバスケットボールを見て、やっぱりもう一回バスケットをしようと思った。ありがとう。そしてずっと借りっぱなしにしていて……あの時の約束を守れなくてごめんなさい』
『そんな事、謝る必要なんてないよ……みやびちゃん!』
長原さんは北村さんをギュッと抱きしめる。
『相変わらずなりちゃんは泣き虫だなぁ』
『みやびちゃんだって』
2人は泣きあいながらも再会を喜ぶ。
私達や相談員のえみりさんもその姿を見て涙ぐむ。
『なりちゃん。あの時、借りっぱなしになってたこのバスケットボール、遅くなったけど今、返すね。ごめん。ずっと借りてて……でも、このボールのおかげでもう一度私は立ち上がる事ができたの』
北村さんは膝の上に抱えていたバスケットボールを長原さんに差し出す。
『なりちゃんも、プロの世界で挫けそうになった時はこのボールを見て。私はなりちゃんに借りてたこのボールにすごく勇気をもらったから。きっと今度はこのボールがプロで戦うなりちゃんの力になってくれると思う。大丈夫。どんな状況でもブザーが鳴るその時まで試合は何があるかわからないよ』
『みやびちゃん……ありがとう』
長原さんは北村さんからバスケットボールを受け取る。
その時の2人の姿を見てなんて美しいんだろうと思った。
そしてどこからともなくドムドムとドリブルをする音が聞こえてくる。
全員の視線がそちらへと向けられると、綺麗に3Pシュートを決めるえみりさんの後ろ姿が映し出された。
えみりさんは振り返ると、舌を出しながら2人に向かって3本指を向ける。
『なり、みやび。せっかくだし、みんなで一緒にバスケットしようぜ!』
その姿を見て2人は笑顔で顔を見合わせた。
『『うん』』
ここで楽しくみんなでバスケをして終わりかなと思ってたら、えみりさんはニヤリと笑う。
そしてそのまま体育館の入り口へと指先を向けた。
『というわけで2人にとって特別な今日この日のために、解決ナイトカウンセリングがスペシャルな対戦相手を用意してきました! 沖縄プラチナクイーンズの皆さんと、北村さんが所属する車椅子バスケのチームの皆さんです。どうぞ!!』
沖縄プラチナクイーンズって……確か長原さんが入団するプロチームよね!?
VTRが切り替わると、2人のために協力してほしいと頭を下げるえみりさんの姿が映しだされた。
なるほど……そういう事かと理解する。
「えみり様〜、かっこいい〜」
「うんうん」
けいとはここでも泣きながら興奮する。
もー、泣くか喜ぶかどっちかにしなさいよ。
『それでは、今から私たちと皆さんとで5対5で試合をしたいと思います』
『『えぇっ!?』』
2人は驚いた顔をする。
5人って、残りの3人はどうするんだろう?
1人はえみりさんが出るとしても、明らかに人数が足りないでしょ。
心配したスタッフさんが声をかける。
『えみりさん、5人いないけど、どうするんですか。これ?』
んん? このスタッフさんの声、どこかで聞いたことがあるような……。
『そんなの姐さんもやるのに決まってるでしょ。何のためにマネージャーでついてきたと思ってるんですか!』
『ええっ!? 私!?』
私達3人も同じ声が出た。え? 桐花マネが同行してるって事?
テロップに撮影時期は3月初旬になりますと表示される。
なるほど。今は役員になった桐花マネだけど、この時はマネージャーとしてえみりさんの撮影に同行していたんだ。
『私が出るにしても後1人足りないと思うのですが……』
『ふふふ、そう思うでしょ! さぁ、テレビの前の皆さんも思い出してください。この番組は大阪局の制作だけど、これがどこの局で、何の番組を日曜の朝に放送している局か忘れたんですか?』
えーと、確かこの番組の放送局って……。
「旭日テレビだな」
「しかも日曜の朝って言うとあの番組しか思いつかないだけど……」
ういやけいとの目がキラキラする。
流石の私も分かったよ。旭日テレビ、日曜、朝、そしてヒーロー。
おそらくテレビの前で見ている誰しもがヘブンズソードを連想して、剣崎総司の、いや、アイドル白銀あくあの登場を予感した。
『解決ナイトカウンセリング。最高責任者の松垣隆子部長こと、松葉杖部長です!!』
『どうも、松葉杖生活から復帰した松垣隆子です。よろしくお願いします!!』
そっちかーい! というインコさんの声が聞こえてきた。
まさに国民の全てを代弁するようなナイスツッコミだったと思う。
私も思わず、あくあ君でも他のBERYLの誰でも、ましやて本郷監督でも淡島さんや小早川さんでもなくて、そっち!? って、思っちゃったもん。
『実は沖縄に行く時に、後から確認を取ったら、何かあるといけないからと急遽一緒に同行してくれました。いやー、さすがです部長。勘が冴えてる!』
『リストラの波が来た時も会社の窓際にしがみつき、首にならない程度に給料を啜れるだけ啜った長年の勘がいきました』
ちょっと! せっかくいい話なのに笑わせないでよ!!
ういはツボに入ったのか、珍しくお腹を抱えて笑う。
メンバーが揃ったところでえみりさんが全員にルールを説明する。
『ルールは車椅子バスケのルールで、そちらは沖縄プラチナクイーンズの選手が3人と車椅子バスケの選手が2人でお願いします。それと車椅子の選手は北村さんと怪我明けの松垣部長のマッチアップでどうでしょう? キャプテン、監督、そのルールで大丈夫ですか?』
『はい。大丈夫ですよ』
うわー、どうなるんだろう。
カメラがぐるりと回転すると、体育館には多くの人達が見学に来ていた。
試合前、円陣を組んだ解決ナイトカウンセリングチームは、松垣部長が声を出す。
『本音は勝つ気でパッション見せるぞって言いたいんだけど、責任者としては番組でタレントさんやスタッフさん、依頼主さんが怪我をしたら番組がお蔵入りしてしまう可能性がある上に、私のお給料が下がるので、みなさん怪我なくプレーしましょう』
『それはそう!』
ははははは! ワイプに映った相談員達もこの言葉には笑みを見せる。
私やうい、けいとの3人も松垣さんの言葉と、えみりさんの素早い返しに笑ってしまう。
『それではジャンプボールから試合をスタートします。1ピリオド10分のみ。いいですね?』
『『『『『はい!』』』』』
すごい、審判もちゃんとした人なんだね。
そして、最初のジャンプボールは桐花マネが飛ぶみたいだ。
ボールが天高く上がったタイミングでえみりさんの声が体育館の中に響く。
『姐さん。デカ・オンナーの意地を見せろ!!』
『流石にプロ相手は無理!』
うん、いくら身長の大きな桐花マネといえど、普通に桐花マネより大きいプロには勝てないよね。
ジャンプボールに負けたえみりさんのチームはあっという間に速攻からのダンクで2ポイントを決められる。
しかし、その直後にボールを受け取った北村さんも阿吽の呼吸で長原さんにパスを出す。
『なり!』
『任せろ!』
おおおおおおおお! 北村さんからパスを受けた長原さんが綺麗なジャンプシュートを決めてすぐに速攻で取り返した!!
久しぶりにあった2人がこれだけ息を合ったコンビプレーを見せるって事は、それくらいこの2人は子供の時に一緒にバスケットをしていたんだと思う。バスケのルールは触りくらいしか知らない私でもちょっと熱くなる。
その後、すかさず2点を取り返されるが、今度は長原さんが引きつけたタイミングで北村さんにパスを出す。
パスを受けた北村さんはすかさず3ポイントシュートをリングに沈めて逆転に成功した。
『みやび、今日のシュートタッチもいい感じじゃん!』
『当然!』
自陣のコートに帰陣する2人は握り拳をコツンとぶつけ合った。
「いいね。こういうのを見てると、創作意欲が湧いてくるよ。白龍先生の言葉を借りるとしたら、現実に負けたくないってね」
けいとは嬉しそうに笑った。
どうやら2人のハートがうちの天才にも火をつけちゃったみたいね。
そして、火がついたのは相手チームも同じだ。
プロチームもすかさずカウンターに出る。
しかし、そのタイミングを虎視眈々と狙っていた女が1人だけいた。
『オフェンスファウル!!』
プロの選手がえみりさんを倒してファールを犯してしまう。
『ぐへへ……メアリーが誇る粘着ディフェンス、粘りのえみりとは私の事です』
えみりさんはこんな状況でも冷静に、相手のエースから上手にファールをもらいました。
ていうか、プロ相手にファウルもらうのって普通にすごくない?
『いける。みんないけるよ!!』
松垣部長の声に私達もうんうんと頷く。
でも、相手はプロ、それも強豪チームです。上手くいったのはここまででした。
3分を過ぎる頃には体力が落ちてきて、長原さんの負担が大きくなる。
そうして5分を過ぎる頃、事件が起こりました。
『みやび!!』
長原さんは体力的に限界だったけど、それでもボールを持った北村さんにパスを呼ぶ。
しかしほんの一瞬の戸惑いが元で相手にボールをカットされる。
『うおおおおおお!』
『くっ、本当にしつこい!』
えみりさんは足をもつれさせながらも、相手の取りたいコースより先に体を入れる。
あまりにもえみりさんに粘着されすぎた相手のエースは、ほんの少しだけ嫌がってワンステップを入れた。
そのタイミングを逃さずに横から長い手が伸びてくる。
『阿吽の呼吸なら、こっちだって負けてませんから!!』
このタイミングを狙っていたのか、桐花マネがボールをスティールする。
そしてボールは再び北村さんのところへと転がってきた。
『なり!』
北村さんは、今度は迷わず長原さんへとパスを出そうとする。
でも体力が切れかかっていた長原さんはボールを呼ぶ事ができなかった。
『あっ』
反応が遅れたために、手に当たったボールがコートの外へと弾かれる。
誰しもがそれを目で追うだけで見送ってしまう。
でも、その中で1人の女だけが横っ飛びしながらボールを追いかけた。
『諦めるなあああああああああ!』
ボールに触れた松垣部長はそのままゴロゴロ転がって壁に激突する。
ちょ、ちょ!? 怪我明けなのに、大丈夫? ていうか、今、すごい音したけどやばくない?
『はぁ……はぁ……』
松垣部長の呼吸音をマイクが拾う。良かった。生きてる。
もちろんレフェリーはすぐに試合をストップした。
『部長!!』
『松垣さん!!』
えみりさんと桐花マネの2人が松垣部長のところへと駆け寄る。
松垣部長はゆっくりと立ち上がると、ボールを持って北村さんと長原さんの前に立った。
『あんまり役に立ってない私が言えた事じゃないけど、それでも言わせて欲しい。まだ試合は終わってないぞ?』
松垣部長の言葉に長原さんと北村さんの2人はハッとした顔をする。
それを見た松垣部長は優しい笑みを浮かべる。
『このストーリーを始めたのが君達なら、このストーリーの結末を決めるのも君達だろ? 長原さん、北村さん、君達はこの試合どうしたい?』
松垣部長は2人にボールを差し向ける。
私の前でその様子をテレビを見ていたけいとが珍しく真剣な表情で目を細めた。
「この試合は止まっていた2人の時が再び進み出した試合でもあり、これからプロの世界へと足を踏み入れる長原さん、そして車椅子の選手として日本代表を目指す北村さん2人の人生にとってもこれが最初の一歩だ。だからこそ松葉杖部長はこの試合の意味を説いたんだろう」
けいとは自らの両手を組むと、私の方へと視線を向ける。
「ゆかねぇは、スポーツの世界になんで勝ち負けがあると思う? それはチームが勝利を目指して努力する姿に多くの人が価値を見出しているからだよ。だからこそスポーツには勝者が存在して敗者が存在する。その中で見せる輝きの中に、間違いなく本物が、その人達の辿ってきた人生が存在しているんだ。だからこそスポーツは、いや、高みを目指して競い合う姿は面白い」
けいと……急に真面目モードになるのはやめてくれる?
これは、一旦限界がきておかしくなった後に、何かに刺激されて急に揺れ戻しが起きた時のけいとだ。つまりもう体力的に限界なのである。
テレビを見終わったらけいとを強制的に寝かせようと思った。
『なり』
『みやび』
それ以上の言葉はいらなかった。
2人は目を合わせると無言で頷きあう。
『って、部長!? 足、パンパンじゃないですか!?』
『へっ!?』
えみりさんの言葉にカメラが松垣部長のふくらはぎを映す。
ちょ、すごく腫れてるんだけど!? だ、大丈夫ですか!?
『いて、いててててて……いや、痛くない! これは怪我じゃない』
『いやいや、部長、これ明らかに折れてますって!!』
『し、しーっ、そういうのは今、番組的に本当にまずいんだから。あっ、ここカットで……』
怪我してない事を強調する松垣部長だけど、誰がどう見ても怪我していた。
流石にこれ以上は続行不可能かな。残念だけどこればかりは仕方ない。
『どうしましょう? 相手チームの人にお願いして選手をお借りますか?』
『うーん……実はその事なんだけど、一応保険もかけてて……』
えみりさんが何かを喋りかけようとした時、誰かが体育館の中へと入ってきた。
それに気がついた観客席から悲鳴に近い声があがる。
『きゃーっ!』
『嘘でしょ!?』
『なんでここにいるの!?』
全く、狙ってるんじゃないかってくらい最高のタイミングで出てくるよね。
でも、この男の場合、それが普通なのだ。
けいとは嬉しそうに歯を見せて笑みを溢す。
その隣で見ていたういは満面の笑みを見せる。
『えみりさん……あの時した貴女との2度目のデートの約束を果たすために、飛行機に飛び乗ってきました』
デ、デェトォォォオオオオオオオオ!?
しかも2回目って事は1回はしてるって事!?
ええっ!? ま、まって、この2人ってそういう関係なの!?
SNSで確認しようとしたら、ネット自体が回線パンクして落ちてた。
いや、うん、普通に考えてそうか。
どうやらテレビを見ていた全員が一斉に確認したみたいだ。
『あ、あくあ様、来てくれてありがとうございます!』
えみりさんはあくあさんに駆け寄る。
『いや、それは別にいいんだけど、こういう事情があるならわざわざ沖縄でスポーツデートしてくださいだなんて周りくどい誘い方じゃなくても……って、言っても、えみりさんはそういう人でしたね』
あくあさんは笑顔を見せると、えみりさんの頭をポンポンする。
うわぁ、いいな……。私もけいともういもついつい自分で自分の頭を撫でてしまう。
「これってさ、えみりさんがあくあ君とデートの約束してたけど、そのデートの権利をこのために使ったって事?」
「そういう事だろうな。くっ……えみり様、いい人がすぎる! かっこいい!!」
この日本に住んでいる女性の中で、他人のために白銀あくあとデートする権利を使える人は何人いるんだろう?
雪白えみり……かっこいいじゃない! 私の尊敬する小雛ゆかりさんの次にかっこいい人だなと思った。
あくあさんは松垣部長のところに行く。
『松垣部長、さっきの横っ飛びはカッコ良すぎでしょ。自分の年くらい考えてくださいよ』
『はは。若者達が頑張ってるのを見たら、つい体が……ね。そういう訳でこの様だ。だから、後は頼めるかな? 私達のヒーロー』
あくあさんは松垣部長の言葉に頷くと、長原さんと北村さんのところへと向かう。
『ほら、後ろを見て』
2人は後ろを見ると大きく目を見開いた。
『なりー! そんなすぐにへばってたら、プロなんか無理だぞ!!』
『みやび!! 迷うな! お前のパスでなりは最強になれるんだ!!』
『2人とも根性見せろ!!』
彼女達は一体……。
『あくあ様、あれって……』
『えみりさんから電話があってすぐにカノンに事情を確認して、楓にも手伝ってもらって、2人が幼少期にプレーしたミニバスチームのみんなにも一緒に来てもらったんだ。ごめん、そのせいで少しだけ遅れた』
テロップには、この件に関しては番組が関与していないので残念ながら映像はありませんと表示される。
それってつまり、あくあさんも番組に関係なく善意で動いてるって事でしょ?
はぁ……なるほどね。そりゃけいともういも夢中になるし、私の憧れの小雛ゆかりさんも可愛がるわけよ。
あんたちょっとカッコ良すぎない?
ていうか、そういうのはちゃんとスタッフさんに連絡して映像に残しなさいよ。この国の女の子達は、そういう貴方が頑張ってる姿を見たいんじゃない。
いや、陰で頑張ってる貴方を想像するから、胸が高鳴って熱くなるのか。
『あくあさん……』
『阿吽の呼吸はこっちもなんだろ?』
あくあさんは桐花マネの頭もポンポンする。
ふふっ、あの怖い桐花マネが普通に少女のような顔してるなんてすごいな。
『そういうわけだから、2人も体力的に限界だろ? 交代だ。大丈夫、あとは俺達に任せて』
あ……応援に駆けつけた子達の中から2人が出る。
選手を3人交代した解決ナイトカウンセリングチームは全員で再び円陣を組む。
もちろん音頭を取るのは松垣部長だ。
『さぁ、もう残り5分しかないけど、みんなでやれるだけの事をやろう』
次に声を上げたのは駆けつけたミニバスチームの監督さんだ。
『お前ら、小学生の時にこういう試合は何度も経験しただろ! あの時のパッションを思い出せ!!』
選手達は昔を思い出して笑みを見せる。
そうして次に声を上げたのは北村さんだ。
『私は……逆転したい! 勝ちたい!!』
『同じだ! みやび、私も勝ちたい!』
北村さんの声に長原さんが応える。
全員がその言葉に頷いた。
けいとの言葉を思い出す。なるほど……これが貴女の求める本物ってやつなのね。
『よしっ、勝ったらみんなで沖縄の料理を食べに行こう! 番組のお金か部長のポケットマネーで!!』
『えみりさーん!?』
ふふっ、ふふふ、えみりさんって意外と冗談言うよね。
確かに若い時の美洲様と似てるかもしれないけど、彼女の方がなんというか親しみやすさがあると思う。
『おい、お前ら。わかってると思うけど手なんか抜くなよ』
『はい、監督!』
そして、それに対してプロの人達もちゃんと本気で向き合ってくれる。
そういうのを見て、普段あまりスポーツを見ない私でもいいなって思った。
『試合を再開します』
再びボールがコートの中に入ると一進一退の攻防が続く。
『きゃあああああああああ!』
『あくあしゃましゅごいいいいい!』
『うぎゃああああああああ!』
脳みそが溶けたような女達の悲鳴に近い歓声が体育館に鳴り響く。
うん、普通にプロ相手にも3ポイント決めたり、ダンクしたり、普通にかっこいいよ。
誰が見たってかっこいいと思う。本当にあくあさんって、女の子が夢に描いたような王子様なんだって思った。
けいとはういはもちろんのこと、私だって普通にかっこいいなって思っちゃったもん。
こんな彼に対して、あんな雑に接する事ができる女の人なんて多分小雛ゆかりさんくらいだと思う。
『みやび、頼む!』
『なり、任せて!!』
ここぞというチャンスで北村さんの3ポイントが決まる。
すごいなー。本当にうまい。
その後も解決ナイトカウンセリングチームは選手を入れ替えながらも残り5分を必死に戦う。
そして最後のワンプレー。北村さんに車椅子の選手が2人マークにつく。
もう残る時間はたった10秒しかない。
『くっ!』
北村さんはダブルチーム相手に出しどころがなくて戸惑う。
そんな時に彼女が手を挙げた。
『みやびーーーーー!』
北村さんなら必ず自分にパスを届けてくれる。そう信じて長原さんが走り出す。
相手のエース選手とキャプテンが2人の間のパスコースを塞ごうとしたが、あくあさんと再びピッチに戻ったえみりさんの2人が阿吽の呼吸でスクリーン? をかけて2人の間のコースをこじ開ける。
『いけー! なりーーーーーー!』
最後のワンプレー。パスが出てくるのを信じて長原さんが飛ぶ。
「お願い!」
「そのまま、叩き込め!」
「いけええええええええ!」
私達もテレビの前に立ち上がって声を枯らした。
『うおおおおおおお!』
空中で北村さんのボールを受け取った長原さんはそのままリングに叩き込んだ。
それと同時に鳴り響くブザーの音。誰しもが熱狂した試合が終わる。
10分間ずっと試合に出続けたプロの人達もやり切ったという顔で笑みを見せた。
北原さんは試合終了のブザーと同時に天を仰ぐと、長原さんはコートに大の字になって倒れる。
『あーーーーー! 負けて悔しい!!』
『本当、めちゃくちゃ悔しい!!』
試合はもちろんプロの人達が勝った。
まぁ、普通に考えてそうだよね。ドラマのように逆転したりなんてしない。
プロの人達もあくあさんと長原さんにマンマークつけて潰してたし、パスの出し手だった北村さんに車椅子の選手を2人ぶつけるなど本気で戦ってくれた。その結果、ちゃんと負けたのである。
でもよかったなって思った。
私達3人はテレビの向こう側にいる敗者と勝者、両方に拍手を送る。
整列した2つのチームの選手達と監督は握手を交わす。
『はい、そういうわけで試合には負けたけど、どうでしたか2人とも?』
えみりさんは北村さんと長原さんにマイクを向ける。
『最高でした。ありがとう。本当にありがとうございます!』
『私も、まさか最初に依頼した時はこんな事になるなんて思ってもいませんでした。えみりさん、桐花マネ、松垣部長、あくあさん、それにスタッフや対戦相手の皆さん、今日来てくれた観客の皆さん、本当に、本当にありがとう!!』
えみりさんは笑顔で2人と抱き合う。
それを見たあくあさんがみんなに声をかける。
『よーし、バスケで良い汗を流した事だし、今からみんなで飯を食いに行こうぜ! せっかく沖縄に来たんだしな』
あくあさんは相手のチームや観客席にも一緒に行こうと声をかける。
もちろん断る人なんて誰もいない。
『いやいや、あくあ君。観客席入れたら100人超えてるし、さすがにそれだけの人数が入れるところなんて……』
『それならもう国際通りにある店、全部貸し切っちゃいましょう。なんなら、今日そこで食事した人は全部俺の奢りで!』
『えぇっ!?』
あくあさんは再びみんなに向かって声をかける。
『せっかくだし友達や家族も誘ってみんなでワイワイしようぜ!』
や、やる事が豪快すぎる……。
その後、本当にあくあさんは国際通りやその周辺にあるお店を全部貸し切って、みんなで飯を食った。
もちろん道ゆく地元の人達や、たまたま遊びに来てた旅行客などを巻き込んでいく。
「もう、あくあ君はあれだよね。アイドルっていうよりスターだよ。みんなの心の中にある古き良き時代の大スターって感じがする。男だからとか、もうそういうカテゴリじゃないのかも」
けいとの言葉に私とういも頷く。
VTRは戦いあったみんな笑顔でご飯を食べる映像を最後に終わった。
『ぐすっ、ぐすっ……ずびー』
そしてVTR明け1発目から小雛さんは大泣きである。
隣にいた秘書の月街さんにチーンと鼻を噛んでもらう。
『良かった。本当に良かった。あんたも良い仕事するじゃない』
『いえいえ、結局、捜査に協力してくれた住民さんが北村さんのお家にコンタクトを取ってくれたりとか、あくあ様が助けに来てくれたりとか、松垣部長がかっこよかっただけで、私は特に何もしてませんよ』
『そんな事ないわよ。あんたが頑張ったからみんなが動いたの。頑張らない奴のいう事なんて誰だって聞くわけないんだから』
小雛さんの言葉に私も頷く。えみりさんが必死になって頑張ったからこういう結末になったんだと思う。
やっぱり小雛さんはそういうところをちゃんと見てくれてる素敵な女性だ。
『ちなみに頑張りすぎた結果、松垣部長は病院の先生にまたですかと怒られました』
『あっ……』
松葉杖姿の松垣部長を見て、スタジオが笑いに包まれる。
『松垣部長、ついでだし、テレビを見ている若者達になんかない?』
『私がテレビの前の皆さんに伝えたい事があるとしたらそれは一つだけです』
松垣部長はキリッとした顔を見せる。
『2度ある事は3度あります! 皆さんも怪我だけには気をつけてスポーツを楽しみましょう!!』
あははははは。それはそう!
ほんと、オチまで完璧だよ。
『って、小雛パイセン、あくあ様には触れないんですか!?』
『嫌』
嫌って何!? そんな答えあるの!?
『なんか、かっこよくてムカつくから触れなーい』
『理不尽すぎる!』
小雛さんのコメントに、すかさずあくあさんが突っ込む。
それを聞いた小雛さんがすぐに言い返す。
『あんたもっと、接触したバスケの選手にデレデレしなさいよ! ほら、相手のエースの子、大きかったじゃない!!』
『プレー中はちゃんと考えないようにしてたのに、思い出させないで!!』
あはははは、いつもの2人のやり取りでスタジオが和やかな雰囲気になる。
『アヤナちゃん、やっぱりあいつだけはやめといた方がいいわよ』
『本当にね。せっかく、かっこいいと思ってたのになー』
でも、そういうあくあさんも好きなんでしょ?
月街さんのファンじゃない私にだってわかる。
『顧問の鞘無インコさんはどう思いますか?』
『沖縄旅行ええなー。うちも行ってみたいわ。沖縄、めんそーれ、ナンクルナイサー!』
確かに沖縄いいわよね。
せっかくだし、今年の夏休みは3人で沖縄に旅行しようかなー。
『それじゃあ、アヤナちゃん。次の依頼をどうぞ』
『はい、次の相談者さんは田村さんで、家の中で落としたポイントカードが見つかりません。どうか一緒に探してくれませんか? だ、そうです』
『しょーもな! なんでさっきの依頼の後に、こんなしょうもない依頼がくるのよ!! 普通、逆でしょ。むしろさっきのが最後でよかったじゃん!! なんで2番目にあれやるのよ!!』
スタジオから笑い声が起きる。
『この問題には天我アキラ相談員が解決に乗り出してくれました』
『はい。そういうわけで我は必死にポイントカードを探してきました。その時のVTRをどうぞ!』
映像が切り替わると、天我さんが一件の民家を訪ねる。
『どうも、解決ナイトカウンセリング、相談員の天我アキラです』
『えぇっ!? 天我先輩!?』
『うむ! 我が助けに来たぞ!!』
慌てて出てきた家の人が天我さんの顔を見て喜ぶ。
よく見たら玄関に天我グッズあるし、ファンの人は嬉しいだろうな。
『で、無くなったポイントカードというのは……』
『地元の家電量販店で貯めたポイントで、実は10万ポイントまで貯めたんです』
うわぉ。そりゃ、諦め切れないよね。
『ただ、再発行不可で……おまけに使用期限が今日なんです。それで諦める前にラストチャンスだと思い、依頼を応募させてもらいました』
『なるほど、では、どこで落としたかわかりますか?』
『はい』
依頼主さんは玄関と二階を繋ぐ階段のところに天我さんを案内する。
『荷物が届いた時に、慌ててお財布を持って2階から1階に降りたんですよ。そしたら、お財布からポイントカードがするりと抜け落ちちゃって、多分、この階段の隙間辺りに落ちたと思うんです』
『ここか?』
『はい、ここです』
えーっ!? そんなうっすい隙間に入るってまじ!?
『落とした時に慌てちゃって足で蹴ったと思うんですよ』
『なるほど……ちょっと厚紙みたいなのありませんか?』
依頼主さんは天我さんに厚紙を渡す。
天我さんはその厚紙を階段の隙間に差し込んでガシガシする。
『引っかからないな』
『そうなんですよ』
確かに落としたら、普通は引っかかるよね?
最初はくだらない依頼だなあと思ってたけど、気がついたら私達3人はテレビに前のめりになっていた。
Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。
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診断メーカーで新年のおみくじ作りました。
もっと色々できるの考えてたけど、これしかなかったんだよね。
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