白銀あくあ、懺悔室。
停学中に下された課外授業の一環として、俺は都内の駅に設置された懺悔室に来ていた。
最初、懺悔室と聞かされて何をやらされるのかと思ったけど、説明を聞くとどうやら簡易のお悩み相談室のようなものらしい。どこかの宗教がそういう取り組みをボランティア活動の一環としてやっているらしく、今回はその活動の一般ボランティアとして応募して俺はやってきた。
もちろん俺だとバレると騒ぎになるので、応募する時に偽名を使い、周囲に俺だとバレないように女装している。この女装も本当はベリルのスタイリストチームにしてもらう予定だったのに、俺が女装するという話をどこから聞いたのか、ペゴニアさんが勝手にやってきて、ひとしきり満足して帰っていった。
それもあって今日の俺はバッチリメイクでシスター服を着て、らぴすのようなプラチナブロンドのウィッグを装着している。
なんとなくだけどらぴすをお姉さんにしたらこんな感じになるだろうなと思った。
「後はよろしくお願いしますね」
「はい」
俺は懺悔室まで案内してくれたシスターのお姉さんにお礼を言う。
ふふふ、声優をやってた時に西条さんとかプロの声優さんに教えて貰った女声の出し方が上手く行っているようだな。
おかげで誰も俺の事を白銀あくあだなんて気が付かないぜ。
「さーてと、やりますか!」
俺は懺悔室に入って待機する。
……。
…………。
………………。
あれっ!? もしかしてこれって結構暇なの?
でも、よく考えたらそうか。
懺悔室や相談室って懺悔したい人や相談してくれる人が自分から入ってこない限り、中に入ってるシスターさんは何もする事ないもんな。
そっかー……俺は大きく股を開いてリラックスする。
「すみません。大丈夫ですか?」
おっとぉ! 気を抜いた瞬間に迷える子羊さんが入ってきた。
俺は姿勢を正して軽く咳払いする。
「はい、大丈夫ですよ」
うーん、どっかで聞いた事のあるぽわんとした可愛い声だな。
正直、声だけで確定で美少女だってわかる。
それになんか、こう、耳に馴染むというか、毎日どこかで聴いているような声だ。
というかここ、音が吃ってなんか変な感じに聞こえるな。
相談者が誰かわからないように配慮した作りになってるのか?
「実は私、夫がいるんですけど……」
なんだって!?
声の感じからして高校生くらいだと思ってたのに、旦那がいるってすごいな。
どこの旦那か知らないけど、推定美少女が奥さんとかいいな!
まぁ、俺の奥さん達も負けてないくらい可愛いけどな! ははは!
「その夫が最近停学になって、しょんぼりしちゃってるんです」
ふーん、俺みたいな奴がいるんだなあ。
一体、何をやらかしたのか気になるが、すごくしょうもない事だったりとかしない?
「いつもはとんかつだって大きいのをペロリと食べちゃうのに、昨日は半分しか食べなかったんですよね。だからやっぱり停学した事で気落ちしてるかなって思ったんです」
あー、そういえば俺も昨日はとんかつだったなぁ。
停学中ってあんま外出れないし、運動量が落ちる分ちゃんと食事で制限しなきゃいけない。
俺だって本当は2枚くらい行きたかったけど、我慢した。
もしかしたら旦那さんもそうだったんじゃないか?
「そういう時、妻としてどうしたらいいと思いますか?」
なるほどなるほど、つまり妻として停学中の落ち込んだ旦那を励ましたいと……。
良い奥さんじゃないか!!
全く、どこの旦那か知らないけど、しっかりしろよ!!
奥さんを心配させてるんじゃないぞ!!
「そういう事でしたら私に良い方法があります」
「ほ、本当ですか!?」
俺は向こう側が見えない壁に向かってこくんと頷く。
「猫カフェごっこです」
「えっ?」
あれ? 聞こえなかったかな?
俺は念を押してもう一度同じ事を伝える。
「猫カフェごっこで全てが解決します」
「猫カフェごっこってなんですか?」
ふーん、猫カフェごっこを知らないとはいけないな。
奥さん、これは妻としてちゃんと覚えておかなきゃいけない必修科目の一つですよ。
「まずは猫の気持ちになってください」
「猫の気持ち!?」
「はい、その後に猫耳と尻尾をつけるのです」
「ええっ!?」
「ここで一つ助言すると、服もフリルやリボンがついてたり、可愛い方がにゃんにゃんポイントは高いです」
「へ、へぇ〜」
やっぱり猫耳は夫婦の嗜みとしては定番中の定番だろう。
俺が旦那さんなら確実にそれで復活する。というかむしろ俺が自分の奥さん達にしてほしい!!
「そしてこれも定番中の定番ですが、旦那さんが帰ってきたらご飯にする? お風呂にする? そ、それとも、にゃんにゃんする……? って恥ずかしがりながら聞くと、旦那さんは元気になります。それはもう寝ている子も起きちゃうほど元気になるでしょう」
「はわわ」
ちなみに俺も今すごく元気になりました。
あー、俺もカノン猫をモフりたいよー。
「あ、ありがとうございます。家に帰ったらやってみたいと思います」
「はい、頑張ってくださいね」
迷える子羊さんは満足したのか、元気な声で懺悔室から出ていった。
ふぅ……。自分なりに結構、良いアドバイスができたんじゃないかと思う。
こういうのは最初の1人が来ると続くもので、すぐに新しい子羊ちゃんがやってきた。
「すみません。相談、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
また可愛い声の子が来たなぁ。これは2連ちゃんで美少女で確定ですか?
「えっと、相談の内容は私の兄様の事についてなんですけど……」
おっ、お兄さんの相談って事は、この子は妹ちゃんか。
これは兄としてどうにかしてあげなきゃなという気になる。
「えっと、私の兄様はおっきなお姉さんが好きで、いつもおっきなのを見てデレデレしてるんです」
へぇ。お兄さんはおっきいのが好きか。
これは良い友人になれそうだな。
「もちろんそんな常時デレデレしてるとかじゃなくて、ほんの一瞬だけなんですけど、ちゃんと大きい人は目で見て確認してるのがわかるんです」
妹ちゃん……それは仕方ないよ。
俺もさ、失礼だからこの世界に来て最初は見ないように努力してたけど、男に見られる事がないからめちゃくちゃ無防備な人が多いんです。もうここまで来たら、男として見ない方がむしろ失礼じゃないのかって思うんほどにみんな無防備なんですよ。
「私、その……お姉さん達と比べるとそんなにおっきくないんです。こんな私だけど、ちゃんと大きくなるでしょうか?」
なるほどな。俺は真剣な顔つきで両手を組む。
「大きくするかもしれない効果があって、更にはお兄さんとのスキンシップを増やす良い方法があります」
「ほっ、本当ですか!?」
前のめりになったであろう子羊ちゃんに俺は無言で頷いた。
「お兄さんに背中をマッサージしてもらいましょう」
「背中をマッサージですか?」
「はい、背中をマッサージする事で姿勢が良くなります。つまりはそういう事なんですよ」
「な、なるほど」
その時にちゃんと大きくなーれ、大きくなーれと願いを込める事がポイントである。
「わかりました。今度、兄様が家に帰ってきた時にお願いしてみますね」
「はい、頑張ってくださいね」
「お姉さんも、ボランティア大変だろうけど頑張ってください。ありがとうございました!」
あー、優しい良い子だったなぁ。
やっぱり妹に悪い子はいないな。俺が知る限り妹でヤバかったのは小雛先輩が演じる紗雪くらいだ。
ただ、俺は紗雪みたいな可愛いい女の子に束縛されるなら全然アリだけどね。
「あの、大丈夫ですか?」
「はい」
おっと、次の子羊さんが来たみたいだな。それも声からして同い年くらいの男だ。
いいねいいね。男の子へのアドバイスなら、このあくあお姉様に任せてほしい!
「相談に乗ってもらいたいのはその、友人とのことなんです」
友達の事を相談してくるなんて、こいつはきっと友達想いさんだな。
声だけで世話焼きさんだとわかる。
「実は僕の友達は大きい女性が大好きなんです」
その友達は大事にした方がいいぞ。間違いなくいいやつだ。
この俺が保証するんだから間違いない!! いいか、大きいのが好きなやつに悪いやつなんかいねぇんだ!!
「そんな友達に対して、僕も好きだって言ったんですけど、伝え方が悪かったのか友人を勘違いさせちゃったみたいなんです」
お前もそうかよ! 最高じゃねぇか!!
もうお前とその友達は一生のベストフレンド、ソウルメイトだよ。
「僕は、僕は……本当はスレンダーな女性が好きなんです……!」
そっちかぁ……。
同じ好きでもそれは大きくベクトルが異なる。
言ってしまえば別のジャンルだ。
「どうしたらいいと思いますか? やっぱり俺も大きいのが好きになる努力した方がいいのでしょうか?」
なるほど、この問題は確かに非常に問題だ。
ただ、君は大事な事を忘れている。
「いいですか。確かに大きいものもあれば、小さいものもあります。しかし、よく考えてください。どちらも同じなのです」
「た、確かに……」
「ですから貴方も一度、その御友人と正直に腹を割ってお話をするべきだと思います。大丈夫、ともに同じものを愛し、同じものに導かれた友人同士、きっと仲良くできるはずですよ」
「ありがとうございます。それと実は僕、最近、気になる人ができたのですが、その人はそれなりにサイズがある人だったので、小さいのも大きいのも同じだと聞くとなんか自分も大きいのが好きになれる気がしました」
お前……絶対にいいやつだな! それにストンとしたのが好きなのに、そこに囚われずに女性を好きになるなんてカッコよすぎだろ!! 思わず涙ぐみそうになる。
「頑張ってくださいね」
「はい。ありがとうございました」
ふぅ、良い事をしたな。
俺も手慣れてきたのか、だんだんと楽しくなってきた。
「すみません。今、大丈夫ですか?」
「どうぞ」
さーてと、次の子羊さんの悩みは何かな?
「どうか私の罪深き懺悔をお聞きくださいませんか?」
「はい」
そういう事なら、このシスターアクアに任せなさい。
「実は私、ただの女子高生なんですけど、裏では日本を影から牛耳る某宗教の幹部をやっているんです」
イタッ! イタタタタタタッ!
俺は痛くもない胸を手で押さえる。
「最初はその宗教が悪さをしないようにと、真面目に制御しようとしてたんです。それなのに全然うまくいかなくって……気がついたら私もその組織の色に染まってしまっていたんです」
これは、アレですね。
少年少女が思春期の時に必ず通る、厨二病症候群という病気です。
「私はその……ストレスを溜める内に気がついたのですが、破滅願望があるというか、自分の中の破壊衝動がどうしようもなく抑えられなくなる時があるんです。そういう時、どうしたらいいでしょうか?」
俺は軽く息を吐くと、温かい眼差しで壁を見つめる。
「なるほど……そういう時は衝動を発散するために運動しましょう」
「運動ですか?」
「はい、体を動かす行為には溜まったものを発散する効果があります」
「なるほど……一理ありますね」
運動はいいぞ。健康にもいいし、前向きな気持ちにもなれる。
何かを発散したい時には、1番理にかなった方法だと思う。
「それでも自分の中の衝動が抑えきれない時はどうしたらいいですか?」
なるほどな……。そういう時は、もう一つの方法がある。
俺は軽く咳払いして気持ちを清らかにすると、少し迷いながらも口を開いた。
「昇降運動です」
「えっ?」
「自宅のベッドを踏み台にして昇降運動をして発散します」
はっきり言ってこれは冗談じゃない。
俺はシスターアクアとして、お姉様として、迷える子羊ちゃんに大真面目にアドバイスを送ってるだけだ。
「いいですか? 踏み台昇降運動をしていったい何の意味があるんだと思うかもしれませんが、これは少年少女が抑えられない衝動を適切に、そして的確に発散できる最も手軽な手段なのです」
「は、はぃ。ありがとうございました……」
我ながら完璧なアドバイスをできたと思う。
なんとも言えない清々しい気持ちだ。
「あの……相談しても大丈夫でしょうか?」
「はい、どうぞ」
そんな事を考えていたら次の子羊さんがやってきた。
声からして間違いなく年上だ。
「えっと……年甲斐もなく年下の男の子に恋をするのってやっぱりダメですよね?」
「いいえ。全然アリです」
即答だったね。
「好きになるのに年齢なんか関係ありません。もしかしたらその子の方もお姉さんの事を意識してるかもしれませんよ?」
「えっ!? か、彼も私の事を!?」
俺はキリッとした顔で無言で頷く。
「実は、その彼には返しきれないほどの恩があるのですが……」
「なるほど、その話を詳しく伺ってもいいですか?」
相談者のお姉さん羊さんによると、その男子高校生は自分の絶対的なピンチを救うどころか、その後の生活の面倒まで見てくれているらしい。
「なるほど……それは確実に脈アリですね」
「えぇっ!?」
というか好きじゃなきゃそんな事しないでしょ。
その男子高校生は、きっとお姉さんからの見返りを期待しています。
「ありがとうございました。その……頑張ってみます」
「はい。どうかお幸せに」
我ながらいいアドバイスができたな。
そういえばこっちに帰ってきてからまだ揚羽さんに会えてないなって事を思い出した。
政治家に復帰するみたいだし、一度顔を出しておこうかな。
っと、次の迷える羊さんがきたようだ。
「すまない。シスターさん、今、大丈夫だろうか?」
「あっ、はい」
おっと、また男の人だ。しかも俺よりちょい年上くらいか?
「実はこの前、ここでシスターさんに妻とのデートを相談して助かったんだ。確かシスター・ククリーという女性だったんだが……」
「ちょっと待ってくださいね」
俺は近くにあったタブレットで出席名簿を確認する。
えーと、シスター・ククリーはお休みかな。今、いるのは誰だ?
「すみません。シスター・ククリーさんは今日、お休みのようです。代わりに、シスター・エミリー? この人なら暇で朝からずっといるんですが……他の人はその、休憩中みたいですね」
「ありがとうございます。それならその、えぇっと……お姉さんの名前は?」
「シスター・アクアーです」
「ほう。我の後輩に名前が似てるな。それじゃあお姉さんにお願いします」
へー、そういうお兄さんも我だなんて、俺の知ってる先輩によく似てますね。
「それでご相談というのは?」
「今回の相談も前回と同じなんだが、夏に少しくらい妻とプチ旅行に行けないかなと思っているんだ。どういう旅行にするか、今から考えておきたくてな」
なるほど……。
奥さんとの旅行か。俺は近くにあるタブレットの旅行アプリを起動する。
「プチ旅行ならやっぱり近郊がいいですか? それとも思い切って遠出とか?」
「うーむ。まずはやっぱり近郊がいいだろうな。できれば自然が豊かなところがいいと思ってるんだが……」
なるほどな。俺はアプリの中にある旅行プランと睨めっこする。
「それなら植物園とか、でも夏なので水族館もいいと思いますよ」
「うーむ……どちらも捨て難いな」
「それならお昼を植物園で楽しんで、夜はナイトアクアリウムがセットになった旅行プランとかどうでしょう? ツアーだとアレですが、車やバイク、特にバイクでの移動なら途中でひまわり畑を通るコースもありますよ」
俺は旅行のプランが書かれた紙をプリントする。
へぇ、印刷したら向こう側に出るのか。いいシステムだな。
「おぉ! これなら我の妻も喜んでくれるかもしれない!! ありがとう。シスター・アクアーさん!」
「いえいえ。あっ、旅行プランを申し込む時はこの用紙を持って聖女トラベルか、エミリー・ツーリストに行けば、早期申し込みでウェルカムサービスのオプションがつくらしいですよ」
「ありがとう。本当にありがとう!」
相談者さんにめちゃくちゃ感謝されて俺も嬉しくなる。
「楽しんできてくださいねー」
「うむ! シスター・ククリーさんにもありがとうと伝えておいてください!」
「はい」
俺は相談者さんを見送った後、シスター・ククリーさんへの連絡事項に、相談者さんがお礼を言いに来てくれた事と、今回の相談内容とそれの対応について書き込む。
そうこうしていると、次の迷える羊さんがやってきた。
「すみません。今、いいですか?」
「はい」
落ち着いた感じの人だな。
なんとなくだが、この人の声を聞くとすごく安心する。
「実は私、とある会社の社長をやっているんですが、どうしても制御のできない人がいるんです」
いるいる。会社にそういう人が1人はいるんだよな。
しかもそういう人に限って地味に仕事ができるから余計にタチが悪い。
「どうしたらいいと思いますか?」
「クビにしましょう」
「えぇっ!?」
そんな爆弾野郎はクビにしてしまえばいいんですよ。
会社に何か不利益な事を起こされる前にね。
「流石にクビはちょっと……」
「そうですか……それならその人が何かする度に社長さんがペナルティを与えてはどうでしょうか?」
「ペナルティ……でも、その子は別に悪い子じゃないんですよ。むしろすごく良い子なんです」
あー、そういう人いるわー。
良い事してるんだけどトラブルしか起こさない問題体質の奴ね。
「それでもです。ペナルティを与えると言っても罰でなければいけない事ではないでしょう? むしろその子にとって免罪符になるような、どうでもいいペナルティを負わせたらいいんですよ。だからどんどんペナルティを与えていきましょう! 大丈夫! 私が支持します!!」
「なるほど……単純な罰じゃないペナルティ。それは良いかもしれませんね」
そうそう、たとえば体罰みたいなのはダメだし、休みを無くするとか給料を減らすとかはダメだけど、なんかこうもっと軽いって言ったらそれも違うけど、その人が免罪符にできるようなペナルティを与えるというのは良いと思うんだよね。
「ありがとうございます。すごく参考になりました」
「いえいえ、色々と大変だろうけど、社長さんも無理せずに頑張ってくださいね」
「はい!」
声からして少し疲れた感じがしたから、俺はボタンを押して社長羊さんにエナジードリンクを出してあげた。
この懺悔室すごいな。いろんな機能がある。普通に遊びにきてもいいかな?
って、よくみたらシスター・エミリーさん、1人で何本もドリンク頼んでる。この人、もしかして無料でドリンク飲めるからここに来てるんじゃ……。いや、流石にそんな事ないか。うん。
「ここが懺悔室か……」
おっと、どうやら次の人が来たようだ。
俺はどうぞと声をかける。
「よろしくお願いします」
「はい。こちらこそ、よろしくおねがします」
丁寧な人だな。この時点ですごく好印象だ。
「実は私、学校の先生をしているのですが、教え子の事を意識してしまっているんです」
「なんて、うらやま……」
「えっ? 裏山が何か?」
「い、いえ、なんでもありません」
危ない危ない。杉田先生で想像しちゃって、つい本音が出てしまった。
俺はコホンと軽く咳払いをする。
「いいですか、学校の先生と生徒というのは、あくまでも在学中だけの話です。卒業さえすればこっちものですよ。その瞬間に相手は合法になります」
「そ、卒業したら合法……」
ていうかそもそも男の学校の先生って女学生と結婚しがちだよな。
俺が前世で通ってた学校の先生にも普通に2、3人いたぞ。
「し、しかし、教師の立場もあるし、その……」
「大丈夫。法にさえ触れずに正式な手順を踏めばいいのです」
「正式な手順……そ、そうか。わかった……って、いやいや! やっぱり学校の先生と生徒はまずいだろ!」
チッ! もう少しでゴリ押せそうな感じがあったんだけどなあ。残念。
「ともかく、相談に乗ってくれたのは助かりました。ありがとうございます」
「こちらこそ、他のシスターさんも居ますし、また相談しに来てくださいね」
俺はそう言って先生羊さんを見送った。
我ながら良いアドバイスだと思ったんだけどなー。残念、まぁ、仕方ないか。
「すみません。大丈夫ですか?」
「はい」
おっと、次の迷える子羊ちゃんだ。
これはまた声からして美少女ちゃんかな? 俺は再び姿勢を正す。
「えっと……気になる男の子がいるんだけど、その人の前じゃ素直になれないんです。意地を張っちゃうというか……本当は好きなのに、そういう素振りを見せないように誤魔化したりとか……」
「それはその男が悪いです」
「えっ!?」
どう考えてもそうでしょ。
女の子から好き好きオーラが出てるのに気がつかない?
それは100%その男が悪いです。
「そんな男はやめましょう。ちなみに私のおすすめはBERYLの白銀あくあさんです。どうせ好きになるなら彼のような素敵な男性をお勧めしますよ」
「は、はぁ……」
あれ? なんか思ってた反応と違うな。
もしかしてこの子、俺の事があまり好きじゃないだろうか……。
「えっと、それじゃあ今すぐにってわけじゃないんだけど、仮に、そう、仮に! あくあ……白銀あくあさんの事が好きだとして、どういうアピールをしたら良いでしょうか? 私はそんなに彼の好みじゃない気がして……」
「襲ってください」
「襲ってください!?」
「はい。もう全然、襲っちゃって大丈夫です」
俺は今日一のキリッとした顔をした。
「えっと、流石にそれはまずいのでは?」
「大丈夫。白銀あくあなら全てを受け入れます!!」
「その、ありがとうございました」
あっ……。
迷える子羊ちゃんが荷物を持って慌てるように懺悔室から出て行ってしまった。
あれ? もしかしてあぶねー奴だって思われたかな?
流石に提案が過激すぎたかなと反省する。
「何これ? 懺悔室?」
ん? なんかドタドタした足音が聞こえてきたな。
次の迷える羊さんか?
「入るわよ」
なんかこの人、すごく偉そうだな。
いい加減に対応してもいいかな?
「で、あんたは何をしてくれるわけ?」
態度でか! 声だけで態度がでかいとわかる。
「迷える方の相談に乗ったり、懺悔を聞いたりします。お姉さんなんか、懺悔したい事がたくさんあるんじゃないですか?」
「はぁ? 私の人生に懺悔なんて言葉はないの。だって悪い事なんて何もしてないんだから、懺悔なんてする必要ないでしょ?」
わーぉ……。すごい人が来ちゃったな。
ていうか相談も懺悔もないなら営業妨害で追い出すか。
確か迷惑なお客さんが来た時は、スタッフの呼び出しボタンを押せばいいんだっけ?
「その代わり相談ならあるわよ」
じゃあ、さっさと相談してくださいよ。
面倒臭い人だなあ。
「私の事を女だと意識してる男がいるんだけど、やっぱり恋人になってあげた方が良いと思う?」
「えっ? その男の人って現実に存在してるんですか?」
すごいな。そんな男がいるのか。男として逆に尊敬するわ。
「ちょっと! 勝手に私のイマジナリーしないでよ! ちゃんと存在してるに決まってるじゃない!!」
「え? それって人間ですか? 野良の熊とか野生のゴリラとか?」
「人間よ人間! まぁ、頭はお猿さんだけど、一応人間よ!」
ふーん。世の中には色んな男がいるんだなあ。
「もう! いいわよ!! こんな所に相談しに来た私がバカだったわ。前に相談した時に出てきた、シスター・エミリーってやつもポンコツだったし!! もう2度と来ないから!!」
「はい、わかりました。どうぞお気をつけて〜」
さっきの相談者さんは要注意だな。一応タブレットの危険人物リストに入れとくか。
と思ったら警告のランプが点灯してた。こんなのあるのか。今気がついたよ。
どうやら前に相談に乗ったシスター・エミリーさんが、既に彼女の事を危険人物のリストにぶち込んでたみたいだ。
っと、楽しかったけどそろそろ時間かな?
「お疲れ様でした」
「はい、こちらこそ貴重な体験をさせていただきありがとうございました」
これで最後の課外授業も終わりかー。
っと、せっかくだし俺もなんか相談して帰ろうかな。
俺は近くにあったもう一つの懺悔室に入った。
「あのー、相談してもいいですか?」
「んぐごっ……はい。大丈夫ですよ」
お姉さん、今、ご飯食べてたでしょ……。
この人に相談して大丈夫かなという気持ちになる。
「何の相談ですか?」
「女の子が大好きです。どうしたらいいですか?」
もういっその事ストレートに相談した方がいいなと思った俺は素直にぶちまけた。
「ぐへへ、なるほど……同志でしたか」
「お、お姉さんも!?」
「はい。私も女の子が大好きですよ」
俺は席からガタッと立ち上がる。
すると、目の前の小窓があいて綺麗な手が俺の方へと伸びてきた。
俺はその手と固く握手を結ぶ。
「お互いに大変でしょうが、頑張りましょう」
「お姉さんこそ、お……私も仲間ができて嬉しいです」
お姉さんとの間に、性別を超えた絆のようなものを感じた。
「お姉さん、ありがとう」
「困った時はまたきなさい」
俺はスッキリした顔で懺悔室を後にする。
そのまま電車で移動した俺は、家の近くの公園のトイレで着替えてから自分の家に戻った。
「ただい……まあ!?」
俺は自宅の扉を開けた瞬間に固まった。
「あ、あ、あ……お帰りなさい」
「お風呂にしますか?」
「お食事にしますか?」
「そ、それともわ、にゃんにゃんもふもふする?」
家に帰った瞬間、猫コスプレをした奥さんが4人で待ち構えてくれていた。
俺は感動で涙を流しながらみんなと一緒にリビングへと向かう。
あれ? そういえば、何か重要な事が抜け落ちているような……。まぁ、いっか!
俺はみんなをモフったりして、猫カフェごっこを楽しんだ。
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