皇くくり、この国大丈夫?
2023年4月7日金曜日、今日は乙女咲の入学式だ。
私はアパートの部屋を出ると、外で泣きながら草むしりをしているえみりお姉ちゃんの存在に気がつく。
一体何があったのだろう? どうせ物凄くどうでも良い事で泣いているんだろうけど、チラチラとこっちを見てくる視線が面倒くさいので聞きにいってあげる。
「どうしたの?」
「あっ、いやあ、この前スターズ行ったらさ。パーティーに参加する度に、雪白家のお嬢様ですか? 寄付にご興味はっていうから寄付してたら文無しになっちまって、今やってる深夜ドラマの出演料も全部使っちゃったんだよな。ははは……」
あぁ……うん。なんとなく全てが鮮明な映像となって想像できた。
私は一旦自分の部屋に戻ると、冷蔵庫から入学祝いで羽生総理から頂いた高級焼肉セットを取り出す。
再び自分の部屋から外に出た私は、えみりお姉ちゃんにそのまま焼肉セットを差し出した。
「私、こんなに食べないから、あげる」
「お、おおっ! に、肉だ! ありがてぇ、ありがてぇ!」
全く……。そういう時はすぐに私に言いなさいよ。
せっかく同じアパートに住んでるのに、バカじゃないの?
私はそっけない表情で髪を手で靡かせる。
「それじゃあ私、もう入学式だから」
「おお、頑張れよ!!」
えみりお姉ちゃんは庭に立てていた大饂飩共和国の名残である国旗を左右に振って私を送り出す。
ああ、あの国旗を見てるだけで頭が痛くなる。どうしてあんな事になったのか。誰か私に一からちゃんと説明してほしい。聖あくあ教に上がってきた報告書を100回以上見てもどうしてああなったのか未だに理解が追いつかない。
やはり私ではあの2人を理解するのは不可能なのでしょうか……。いや、諦めてはダメよ、くくり。クレアが使い物にならなくなってる今、私がちゃんとしないと!!
メアリーお婆ちゃんも享楽的なところがあるし、キテラは最初から戦力外だし、本当はやりたくないけど私がちゃんとしないと聖あくあ教が本当にやばい奴らの集団になってしまうもの。
私はそんな事を考えながら電車に乗る。
「あっ、あの子、乙女咲の一年だ!」
「って、あれってくくり様じゃん」
「くくり様、乙女咲なんだ。いいなぁ」
電車の中で座っていると、私を見た他校の生徒達がヒソヒソ話を始める。
女学生の会話とはなぜこうも姦しいものなのでしょうか。静かに話しているつもりかもしれないけど、ちゃんと全部聴こえていますよ。
私は座席から立ち上がると、途中の駅で乗ってきたお婆さんに声をかける。
「どうぞ」
「あっ、あ、ああ、ありがとうございます……!」
お婆さんは私の顔を見て拝む。
はぁ……。この世代って皇家の事を神だかなんだかと思ってる人が多いのよね。
皇家の中にもそう思っていた人はいるかもしれないけど、私はそんなのは嫌だ。
普通に遊びたいし、もっともっと人生を楽しみたい。
だからこそ、雪白家の生まれでありながら自由気ままに生きているえみりお姉ちゃんの生き様に憧れた。
私は近くにある広告へと視線を向ける。
【ヴィクトリア様は軽傷、たまたまカメラが手に当たっただけ。他にも一般市民が巻き込まれて転倒したりする事件も、問われる報道の質と責任、メディアなら何をやっても良いのか?】
【記者やメディアの在り方について一般市民がデモ、知る権利とプライバシーの侵害は別物。お前たちの金稼ぎのために被害者を利用するなという声も起こる】
【緊急対談! メアリー様と羽生総理「世の中、知らない方が良い事もある。優しい嘘があるように、暴かなくても良い嘘に目を瞑る事も記者としての品格」】
【女性が傷ついた事で立ち上がり、自分からインタビューをされに行こうとするあくあ様の姿にスターズの女性たちが全面支持。やっぱり私達の白銀あくあは世界一かっこいい男だ!!】
【ザ・セイントが謝罪記事、流石にやりすぎだった。自分達の女としての欲望が表に出過ぎてしまったと謝罪文を掲載、なお、画像はザ・セイントの本社ビルで先陣を切ってエレベーターを降りる羽生総理と、巧みに消火器を振り回して消火活動に従事する雪白えみりさん】
【フライデイ襲撃事件の発端、センテンス・スプリング社のビルが解体業者によって一晩で更地になる。業者「場所を間違えた」その後解体業者は倒産、社長と社員は雲隠れ。賠償費用は回収不可能か。近所の住民「子供が遊べる更地が増えてよかった。記事でも環境問題について書いていたしセンテンス・スプリング社も満足でしょう」】
ふふっ、思わず笑みが溢れる。流石に最後のヲチにそれはないでしょ。
あくあ様の行動一つで世界はこんなにも色づく。男性という生まれでありながら、何もないところから真っ直ぐ一点突破でこじ開けてくるあくあ様の、世界すらも狂わせる熱に私は恋焦がれた。
だから私と同じように生き方が選べなかったカノンさんが自由を手に入れ、幸せを勝ち得た時の事は自分の事のように嬉しかったわ。
カノンさんがどう思ってるかはわからないけど、国は違えど生き方を選べなかった者同士、私は勝手に同志のようなものだと思ってたから。
私は隣の電光掲示板に流れたニュース速報を見る。
【黒蝶揚羽氏、新党聖女党の代表として政界復帰へ。エレベーターで先陣を切って出て行く羽生総理の満面の笑みを見て決意! 私がこの人をちゃんと止めないとダメだと思いました】
揚羽お姉ちゃんが政界に復帰してくれたのも嬉しかったな。
黒蝶家の呪縛に縛られ、その中でも1人で戦い続けて最後に自らが望む結果を勝ち得た揚羽お姉ちゃんの覚悟と耐え忍ぶ心の強さに震えたわ。私にはそんなの絶対に無理だ。
だからこそ尊敬する。
本当はあくあ様との穏やかで幸せな生活を悪くないとは思ったのだけど、揚羽お姉ちゃんはやっぱりそっちに生きる人なのよね。
その原因を作った羽生総理にはちゃんと責任を取ってもらいましょうか。
私は電車から降りると学校に向かって歩き出す。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます!! あくあ団子一本どうですかー!!」
「朝食にアスパラトマトサンドイッチ、略してATS、アクトアサンドイッチはいかがっすかー! たまごアボカドサンドことTAS、トアクアサンドイッチもあるよー」
「あの小雛ゆかりさんが着ているのと同じTシャツ売ってまーす! 冬用にパーカーも出ましたぁ!! 新製品であの白銀あくあ様も購入した小熊パーカーと、大怪獣ゆかりゴンの着ぐるみルームウェアも見て行ってくださぁい!!」
通りが随分と賑やかね。
商店街なんてどこも閑散としているのに、ここだけはすごく活気に溢れてる。
へぇ、他の商店街とも提携して、ここで売ってるメニューとか商品も地方の商店街で買えるようにするんだ。すごいわね。でも、それって肖像権とかちゃんと大丈夫なのかしら……。と思ったら、至る所に白銀あくあ公式とか、小雛ゆかり公式とか書いてあった。嘘でしょ……。
私は学校に着くと下駄箱で靴を履き替える。
「く、くくり様だ……」
「すご。朝一から超有名人に遭遇しちゃった」
「乙女咲に入学したって気がしてきた」
「後でお母さんに自慢しよっと」
私は通路を歩いて自分のクラスへと向かう。
その途中で人だかりができているのを見つけた。
どうしたのだろう?
私は隙間からみんなが写真を撮っているものへと視線を向ける。
告示
大饂飩……スターズにおいて様々なトラブルを引き起こして世間を騒がせ、私達を含め日本国民を不安にさせた事で、以下の者を1週間の停学処分とする。
なお、停学期間中は当校が指定した課外活動に従事してもらうものとします。
2年A組 白銀あくあ
ああ、これかぁ……。
ちなみに処分を決めたのはこの学校の理事長を務める私だけど、その裏では羽生総理とのとある話し合いがあった。
あくあ様もよりにもよってなんで羽生総理に借りなんか作っちゃうのよ。あの人、ホゲった顔しているけど、ちゃんと自分側の利益を確実に取ってくる交渉相手としては凄く嫌なやつなのよ!
まぁ、あくあ様の事だから何の心配もしてないけど、例の課外活動については一応私自身が参加するか、私の息が掛かった人を手配するようにしなきゃいけないわね。
は〜〜〜っ、こんな忙しい時なのに、なんで貴女も一緒に停学になってるのよ。
私は隣に張り出された用紙にも視線を向ける。
告示
昨晩、騒音で警察に通報され近隣住民の皆様方にご迷惑をおかけしたために、以下の者を1週間の停学処分とする。
なお、本生徒はあくまでも通報されただけで逮捕はされていません。
2年A組 千聖クレア
これだから狂信者は!! 少しは自重しなさいよ! 最近、全くと言っていいほど隠せてないわよ!!
もし、ここにちょうど良い高さのテーブルがあったら、私は握り拳でドンとテーブルを叩いた事でしょう。
私は掲示板の前をしらけた顔でスルーすると、1年A組と書かれた教室に入る。
「くっ、くくり様だ……」
「これから3年間、くくり様と一緒だなんて緊張してきた」
「すごい。なんかもうオーラからして私達モブとは違う」
私は周囲の視線を受けながらも、自分の席に座った。
ん? なんか落書きの跡が残ってるわね。なんだろうこれ? 何かの象形文字かしら?
私は机の中に手を突っ込む。ん? この紙、何? 前の人の忘れ物?
机の中から紙切れを取り出した私は、書かれている文字へと視線を落とした。
【女の子大好きの賛歌。作詞:白銀あくあ】
私はすぐに紙を折りたたむと自分の机の奥底へと戻した。
ちょ、ちょ、ちょっと! なんてものを忘れてるんですか!!
って、えっ? こ、これ、あくあ様の机!?
そういえば、そこはかとなくあくあ様の匂いが……するわけないよね。
お鼻が良いえみりお姉ちゃんならまだしも、私の普通のお鼻では何の匂いも感じない。
私はえみりお姉ちゃんにメッセージを送る。
皇くくり
私の席、あくあ様の机と椅子だった。
雪白えみり
ペロれ! 放課後誰も居なくなった後に頬擦りしろ!!
後、私もクンカクンカーしたいので机の中の匂いをポリ袋に入れて持って帰ってください。オナシャス!!
相談した相手が悪かった。
私はえみりお姉ちゃんをブロックすると、そっとメッセージアプリを閉じる。
入学式、早く始まらないかなと思いながらもジッと席に座って前を見ていると、クラスが少しざわつく。
誰か来たのかしら? 私は教室の入り口へと視線を向ける。
「あっ、祈さんだ」
「うわー。くくり様も可愛いけど、ヒスイちゃんも可愛い」
「足綺麗! スタイルいい! さっきアヤナ先輩とすれ違ったけど、やっぱり乙女咲は次元が違うよ」
「乙女咲ってやっぱレベル高いよね。さっき生徒会長の人とすれ違ったけど凄く美人だった」
「あの人ってカノン様の親戚でしょ? 綺麗で当然だよ……」
祈さんは私に気がついたのか、目をキラキラさせながら手を振ってこっちに駆け寄ってくる。
何だろう、この子犬感……。
「あっ、くくりちゃん! おはよう! それと、入学おめでとう!」
「おはよう。あと入学おめでとうは貴女もじゃない? だから、その……入学おめでとう」
この子、私に対しても最初からずっとこうなのよね。多分、皇がどういう家かもわかってないんだと思う。
ペースが狂うというか、まぁ、1人くらいはこういう子が居てもいいでしょ。ね? だから私を監視している奴らもちゃんと見逃しなさいよ。少なくとも、今だってどうしていいのか分からずに黒板見てたから、話しかけられて嬉し……なし、今のはなしよ!!
「上京してきたばっかりで知り合い誰もいないし、くくりちゃんが一緒のクラスでよかったー。でも、私、結構ギリギリだったからAクラスに残留できるように頑張らなきゃ……」
「……まぁ、私もテスト勉強するし、一緒にしてあげなくはないわよ」
祈さんはその無駄に綺麗な眼をキラキラさせる。
この子って、目力がすごくあるというか、あくあ様以上に目がキラキラしてるのよね。
ずっと見てたくなるというか、宝石なんかよりすごく綺麗な眼をしている。
「ほ、本当!?」
「あ、あくあ様だって、祈さんが成績落としちゃったら気に病むかもしれないでしょ! だから仕方なくよ。そう、仕方なく。だから勘違いしないで頂戴よね」
前のめりになった祈さんが私の両手を掴むから、恥ずかしくなった私はフンッと顔を背けた。
「ありがとう! くくりちゃん好き!」
「ちょっ!」
祈さんは私に抱きつく。もう! そんなにわかりやすく尻尾振ってたら誰かに騙されるわよ!
仕方ないわね。あくあ様が悲しまないように、私がちゃんと見ておいてあげないと。
それと私に体を押し付けるのはやめなさい。大きさでマウントを取ろうったってそうはさせないんだから!! 私だってまだ成長中だし、大人になる頃にはもう少し大きくなってる予定よ!!
「あっ、あれって……」
「あれって音さんじゃない!?」
「音さんって音ルリカさん?」
「音ルリカさんも乙女咲なんだ……」
音ルリカ、あの小雛ゆかりとドラマ賞で受賞を争った新人女優だ。
この子……乙女咲は自由な校風がウリの学校だけど、それにしては自由すぎないかしら?
髪色だって薄いピンク色とのツートンカラーだし、制服もそこはかとなくアレンジしてるし、制服の上から私服の猫耳パーカーを着て、スニーカーも今流行りの厚底のゴテっとしたのを穿いている。
音さんは私の方をチラッとだけ見ると、自分の席へと向かう。
大丈夫かしら? あの子、私以上にこのクラスで浮くんじゃない? 少しだけ親近感を覚える。
その後ろからまた1人、見覚えのある人物がやってきた。
「じゃじゃーん! 1年A組の諸君!! フェアリスの加藤イリアだよ! よろしくね!!」
あっ、うん……。違う意味でもう1人浮いている人がやってきた。
良かったー。私以上に確実に浮いてる人がやってきてホッとする。
音さんには親近感を覚えたけど、加藤さんには全くと言っていいほど親近感は覚えなかった。
その後も次々と教室に人が入ってくる。
「あ、あれ……」
「わ、男子生徒、入学式に参加するんだ」
「確か男子って入学式は自由参加だよね?」
「うん。これもあくあ先輩の影響かな?」
「きっとそうだよ」
へぇ。1年A組の男子生徒は3人いるけど、3人全員が入学式に参加するために来ていた。
あくあ様やBERYLメンバーの頑張りのおかげで、間違いなくこの国が変わり始めていると実感する。
「1年A組、揃ってるかー?」
担任の教師がクラスに入ってくる。
その後、私達は入学式に参加するために会場となる講堂へと向かう。
「うわー、リアル黛君だ!」
「とっ、とっ、とあちゃん!!」
「カノン様めちゃくちゃ綺麗」
「ワンチャンあくあ先輩って考えてたのがバカらしくなる。カノン様の美しさによるわからせがすごい」
「未だにカノン様があの嗜みだなんて信じられない……」
「3年生に山田君いる!」
「山田君が転入してくるって話、本当だったんだ」
この浮ついたクラスの中でも私と音さんだけは静かだった。
やっぱり彼女とはどこかで親近感を覚える。
「おーい! アヤナちゃーん!」
「イリアさん、入学式はまだ始まってないけど、外での待機中も静かにして……」
うん、やっぱりあの浮いている先輩の同級生には近づかないようにしよう。
その後、私達1年A組はつつがなく入学式を終わらせる。
教室に戻った私達は1人づつ立ち上がって自己紹介した。
「皇くくりです。よろしくお願いします」
これで良かったのかしら?
他の人は趣味とか特技とか色々言ってたけど、私は特に言いたい事もなかったので挨拶だけで終わらせた。
祈さんが私の事を不安そうな顔で見ていたけど、音さんもそんな感じの自己紹介だったから大丈夫でしょ。
「それじゃあ、くくりちゃん、またねー!!」
「ええ、また明日」
祈さんと別れた私は電車に乗って帰路に着く。
駅から出て自分の住んでいるアパートに近づくにつれ、煙のようなものが見えてきた。
も、もしかしてアパートが燃えてるんじゃ……。私は慌ててアパートの方に向かって走り出す。
するとそこには手にトングを持ったえみりお姉ちゃんが居た。
「よう! おかえり、くくり!」
「えみりお姉ちゃん……」
途中の匂いで気がついたけど、アパートの庭でえみりお姉ちゃんがBBQパーティーをしていただけだった。
もう、びっくりさせないでよ!!
周りを見ると揚羽お姉ちゃんや、ハーちゃん、フィーちゃん、アンナマリーちゃん、オニーナちゃんも居た。
「はい、それではくくりの入学と、アンナマリーちゃん、オニーナちゃんの引っ越し祝い、ハーちゃん、フィーちゃんの進級祝い、揚羽おねーちゃんの政界復帰祝い、シロのドラマ初出演祝い、そしてこの私の停学を祝して乾杯!!」
「「「「かんぱーい!」」」」
「にゃー!」
「「えっ?」」
みんながウェーイと盛り上がる一方で私と揚羽お姉ちゃんだけが顔を見合わせる。
ちょ、ちょ、ちょっと、なんでえみりお姉ちゃんも停学になってるのよ!!
むしろ消火器を使って消火作業に従事したんだから表彰でしょ!!
えっ? そっちじゃない? ベリルに所属して収入が一定金額の見込みになったから特待生の奨学金が切れて振り込まれてなかったあ!? くっ……私とした事がその可能性を完全に失念していた。
「それ、本当に大丈夫なの? その……もし良かったらだけど……」
「とりあえず阿古さんに頼んで、すぐに振り込んでもらえる仕事を紹介してもらったから、それでどうにかするよ。うん」
あ、うん……。せっかくうちの奨学金からって思ったけど、言い出すきっかけがなくなっちゃった。
私が少ししょんぼりとしていると、えみりお姉ちゃんが私の目の前にお肉の載ったお皿を差し出す。
「ほら、何をしょんぼりしてるか知らないけど肉を食え肉を、この肉はうまいぞー。ま、私の用意した肉じゃなくて、お前が今朝持ってきてくれた肉だけどな! ははは!」
全く……私はお箸でえみりお姉ちゃんの焼いてくれたお肉をパクりと食べる。
そのお肉は、今までのどんな高級焼肉店で食べたお肉よりも美味しかった。
お肉自体の質がいいとかそういうのじゃなくって、きっとこうやってみんなで食べたから美味しいんだと思う。
もう、えみりお姉ちゃんだってお腹空いてるんだから自分1人で食べればいいのに……でも、こういうえみりお姉ちゃんだから私は好きだ。きっと、あくあ様もえみりお姉ちゃんと同じ立場なら同じ事をしていたと思う。だから私はあくあ様の事も好きです。
私はぐるりと周りを見渡すと微かに表情を緩めた。
そこへまた騒がしい人がやってくる。
「おいっすー。やってるかー!!」
「あ、羽生総理だ! 国際条例法の騒乱罪に抵触して1週間停職中の羽生総理だ!!」
羽生総理は頭の後ろに手を回すと冗談っぽくメンゴメンゴと謝った。
「うひひ、おかげで私、1週間もお休みです!!」
「全く貴方という人は!! 国家首脳が停職で喜んでたらこの国に危機が来た時どうするんですか!!」
うんうん、揚羽お姉ちゃんの言う通りだよ。
私はお肉をもぐもぐしながら小さく頷いた。
「大丈夫だって。この国になんかあっても大抵あくあ君が全部1人でどうにかしちゃうって! だって、大饂飩共和国だぞ。流石の私やメアリー様もあんな頭の悪そ……無茶苦茶な解決方法なんて予測できるか!!」
「それはそう……じゃなくって! あなた、最近弛んでるわよ!!」
ふふ、揚羽お姉ちゃん楽しそう。
あくあ様がアパートを訪ねにきた時はすごく穏やかな顔をしているけど、羽生総理がきた時は活気に満ち溢れた顔をしている。私はどっちの揚羽お姉ちゃんも好きだ。
だからこれからも楽しく穏やかに過ごして欲しいと思う。
「おーい! みんな楽しんでるー?」
「あっ、パワーが制御できずに器物損壊した事で1週間の停職を食らった楓パイセンだ!!」
「鬼塚先輩にしこたま怒られました……。でも鬼塚パイセンも襲撃事件で特攻服を着ていって、今回は私と仲良く停職です!!」
ふふっ、あくあ様もそうだけど、森川さんも鬼塚アナも羽生総理もそういう事にしてるだけで、本当はみんな忙しくて休みがないから周りがそういう事にして世間体を取り繕った上で、みんなを休ませてあげてるだけだって事を私はよく知っている。
普通に停学になったのはクレアとえみりお姉ちゃんだけです。やっぱり聖あくあ教は潰した方がいいのかもしれないという考えが私の頭をよぎった。
「イェーイ、森川楓、腹踊りします!」
「楓パイセンいいぞー」
全く何をやってるのよ。
その様子を見た羽生総理も立ち上がる。
「腹踊りなら私にませろ!! 宴会芸とゴマスリと太鼓持ちと飲み会で総理に辿り着いた私の芸を見ろ!!」
「ちょっと総理!!」
ははは、こうして私にとっての楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
学校でもこんな友達ができるといいな。
私は新しい学生生活への期待に胸を膨らませてお布団の中に潜り込む。
翌日、羽生総理は停職中に腹踊りしているのが国民にバレて謝罪した。
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