月街アヤナ、新しい時代の幕開け。
再びシーンが切り替わると病院のベッドに横たわった彩香が映し出される。
通路には2人の女性警察官。そのうちの1人が大きな欠伸をすると、近くで雷が落ちたのか、通路の蛍光灯がちらつく。次の瞬間、通路の奥から冒頭の男、戸田を演じる石蕗さんが姿を現す。
その事をもう1人の警察官が気がついた。
『戸田……?』
その言葉が彼女にとっての最後のセリフだった。
通路の奥から突風が吹くと、2人の警察官の全身を切り裂く。
そういえば特殊能力ある世界観なんだっけと思い出した。
となると戸田は風を操る能力か何かなのかな?
あぁ、だから冒頭のパルクールですごいジャンプのシーンがあったんだ。
戸田は何食わぬ顔でそのまま彩香のいる203号室の病室の扉を開ける。
『久しぶりだな。彩香先生』
『次郎君……』
えっ? え? この2人って顔見知りなの? それに先生って……?
警察には知らない男って言ってたけど、彩香が嘘の供述をしたって事?
シーンが変わると今よりも若く見える彩香の姿が映し出される。
『初めまして、今日から次郎君の家庭教師を担当する柏木彩香です』
これは戸田の視点という事だろうか?
視界に映ったノートを見ると6年生と書かれている。
なるほど、どうやら戸田は小学生の時に家庭教師の彩香から勉強を教えてもらっていたらしい。
『先生……僕……』
『大丈夫。……ね?』
彩香が幼少期の戸田を抱きしめるシーンが映し出される。
幼少期の戸田の声は石蕗さんじゃなくて誰か別の人の声だった。
『あの時の復讐かしら……?』
『いいや……そんな事はどうでもいい。それよりも俺が欲しいのはあんたの研究結果だ。それをスターズのとある人が欲しがってる。俺はそれを取引条件にスターズへと亡命するつもりだ。能力者の俺は、あっちの国の方が生きやすいからな』
戸田はゆっくりと彩香に近づくと、その腕へと手を伸ばす。
しかしその瞬間、病室の窓ガラスが割れて誰かが突入してきた。
『くっ! 誰だ!!』
わっ、アクションシーンだ。
とは言っても戸田さんは顔が見えないし、突入してきた人物は顔が見えない様に仮面をつけているから中身のスタントは女性だろう。
押され気味の戸田はさっきと同じように特殊能力を使おうとする。
しかし、それよりも早く仮面の男が腕を締め上げて戸田を拘束した。
『戸田次郎……。お前の背景に誰がいる? 誰がお前にその話を持ちかけた? 答えろ』
あっ、黛君の声だ。
『知らねぇよ! 知ってたところで言う訳がないだろ!!』
黛君はさらに戸田の腕を絞めて、肩の関節を外そうとする。
骨の軋む音と仮面から覗かせる黛君の冷えた視線、苦悶の表情を浮かべる石蕗さんの演技力に私達も息を呑む。
『そうか。ならば殺すだけだ』
黛君がさらに力を入れると、遠くから誰かが走ってくるような足音が聞こえてきた。
おそらく通信が繋がらなかった警察の誰かが気がついて駆けつけたのだろう。
『警察だ! 手を挙げろ!!』
病室に駆け込んできたのは、刑事の花咲美鈴だった。
その一瞬の隙を見て、戸田は能力を発動させようとする。
それに気がついた黛君は戸田を美鈴の方へと突き飛ばした。
『くっ!』
戸田とぶつかられた美鈴は地面に倒れる。戸田はすぐに立ち上がると逃げるように走り出す。
その一方で黛君は彩香を気絶させると、肩に担いで自分が入ってきた窓から外へと飛び出した。
『待て!』
立ち上がった美鈴が手を伸ばすも、どちらに行こうか一瞬迷った隙に2人ともに逃げられてしまう。
うーん、これは流石に仕方ないかな。この状況で咄嗟にどっちかを優先させるって中々出来なさそうだし、2人とも最初から撤退する時の事を想定していたのか逃げ足が早かった。
「淡島さんは仕事ができる女の役も多いけど、意外とダメ女の役も上手いのよね」
「ふーん、そうなんだ。ゆかりって結構ちゃんとそういうの見てるよね」
一緒に居てわかったけど、ゆかり先輩って1人の時は結構ちゃんと見てるんだよね。
それこそ、あくあが出ているヘブンズソードとかザンダムは私達と一緒に見るのが楽しいからなのか、それとも私達のためなのか一緒に見てくれるけど、それ以外の作品は基本1人で見るし、なんならヘブンズソードとかも後で1人で見直してたりする。だからこの作品も、きっと後でちゃんと見直すんだろうなと思った。
『美鈴、聞いたわよ。どっちも取り逃したんだって?』
『ええ……。おかげで私は捜査班から外れちゃった』
翌朝、缶コーヒーを手に持った美鈴が屋上で項垂れた。
それを隣にいたかなえが背中をポンポンと叩いて慰める。
『そういう時はさ、パーっと飲みに行こ? ね? ほら、素敵な出会いとかがあるかもしれないじゃん』
『いや、いいよ……。そもそも出会ったところで私のような女、相手の方からお断りだろ』
『いやいや、何事も最初から諦めてちゃダメでしょ! ほら、ね?』
美鈴は渋々と言った感じだったけど、お酒が入ると段々とテンションが上がってくる。
その愚痴を目の前の席にいるかなえがうんうんと何度も頷く。
なるほどね。もしかしたらかなえは美鈴の事が好きなのかなと少しだけ思った。
良い感じに酔っ払った2人は千鳥足で夜の街を歩く。
そこに一台のリムジンが止まった。
『わぉ』
リムジンから出てきたスーツ姿の黛君を見て、かなえが声をあげる。
その姿に美鈴も少し見惚れてしまったのか、足元がふらついてしまう。
それを咄嗟に抱き寄せた黛君が美鈴に対して優しげな笑みを見せる。
『大丈夫ですか?』
『あ……はい。ごめんなさい。あ、あああありがとうございます』
うんうん、男の子からこういう事されて優しくされたら戸惑っちゃうよね。わかるわかる。
ていうか黛君、さっきまでの雰囲気と全然違うくない? 今はすごく好青年って感じがする。
『若』
『わかってる』
スーツを着た女性の1人に若と呼ばれた黛君はもう一度美鈴に対して笑顔を見せる。
うん、やっぱり全然違う。
『気をつけてくださいね』
『あ……はい』
黛君はスーツを着た女性達を従えて大きなビルの中へと消えていく。その時の顔があまりにも無表情で少しだけゾクッとした。
会社の名前は黒木コンツェルン……。って、実際に存在してる会社じゃん! いや、存在してた会社の間違いだ。
なるほど、黒蝶関係で潰れたビルをそのまま使ってるんだね。
翌日、自宅で休んでいた美鈴にかなえから電話がかかってくる。
『黒木舜君、21歳、都内の国立大学に通う大学生でなんとあの黒木財閥の長男。美鈴……これはまたとないチャンスよ!! 乗らなきゃ、この玉の輿に!!』
『……あのなぁ。かなえ。いくらなんでも私とあの子じゃ歳が離れているし、私なんか相手にしてくれるわけがないだろ! そもそも酒に酔ってふらついた私を助けただけで、そこからどうやって発展するというんだ。馬鹿馬鹿しい』
冷静な美鈴に対して、携帯電話を耳に当てたかなえは唇を尖らせる。
へぇ、黛くんってお坊ちゃんの役なんだ。でもよくよく考えたら黛君って黒蝶の傍流だし、そういう独特の育ちの良さは出てる気がする。
『もーっ! 美鈴も少しくらい夢とか見なさいよ!』
『はいはい。ありがとな、かなえ』
美鈴は優しい笑みを浮かべる。
電話越しにもそれが伝わっているのか、かなえも仕方ないなあと笑顔を見せた。
ふふっ、仲良さそう。もう男性陣がなんか全体的にアレな感じがするので、この2人の関係はこの作品にとっての癒しなのかもしれない。
『それはそうと柏木隆明は警察で保護してるけど、娘の柏木真衣が昨日から家に帰ってきてないそうよ』
『かなえ。それは本当か……?』
『ええ、なんでも警察に匿名でいじめがあった証拠が送られてきて、今、急いでその子達の取り調べをしてるわ』
うわ〜。真衣って家に帰ってきてないんだ。
槙島の方がどうなっているのか映らないからすごく不安になる。
そんな事を考えていたら、鼻歌を歌いながら学校の通路を歩く槙島の姿が映し出された。
『すみません。養護教諭の槙島圭吾さんですか?』
『はい』
声をかけてきたのは非番のはずの美鈴だ。
美鈴の隣にいたがかなえが槙島に対して警察手帳を見せる。
『警視庁の花咲美鈴です。柏木真衣の事でお話を伺ってもいいですか?』
『ええ、大丈夫ですよ。ところで、柏木さんがどうかしましたか?』
うわぁ。白々しい。美鈴から事件の説明を聞いた槙島は悲しげな憂いを帯びた表情を見せる。
『そうですか。柏木さんが行方不明に……』
『はい。その事で何か心当たりがあればと思ってお声がけさせてもらいました。槙島さんは学校に対しても柏木さんへのいじめについて報告していたとか……』
『ええ。とはいえ私は代理の養護教諭ですし、学校側も明確な証拠がなければ動いてくれなくて……。それと、柏木さんの行方に関しては私も心当たりがありません。すみません。あまりお力になれなくて』
『いえ、ご協力感謝します。もし、心当たりがありましたらこちらに連絡ください』
美鈴は電話番号を書いたメモを槙島に手渡す。
気づいて美鈴! 目の前にいる胡散臭い笑顔を浮かべるその優男が1番怪しいよ!
『はーーーっ』
『どうしたかなえ?』
『どうしたもこうしたもないでしょ! 私の学生時代にあんなかっこいい保健室の先生が居たら、熱が出てても毎日学校行ったわ。むしろ体調悪い時こそ無理に学校に行って保健室でお世話になってたかも。いいなあ……』
『全くお前という奴は……』
美鈴は頭を抱える。
うん、なんかわかった。この2人少し既視感があるなと思ったけど、森川さんと琴乃さんだ。2人のやり取りに結構似てる気がする。
再びシーンが切り替わると、窓のないどこかの部屋に閉じ込められた彩香と猫の姿が映し出された。
『ステラ・ネットワークは何を研究している? スターズが欲しがる研究結果は何だ?』
『ふーん……猫か。あなたのそれって猫に化けてるの? それとも猫を操ってるとか? それかもしくは猫に乗り移ってるとか、お互いの人格とか心を入れ替えてるのか……。その能力、少し興味深いわね』
彩香は自分が捕まっているというのに、そんな事よりも目の前にいる猫に興味津々だ。
シロちゃん、演技うま……! いや、シロちゃんに合わせてる声の人も凄く上手いんだけど、それ以上にちゃんとシロちゃんが彩香に対してこいつやばいなって目をしているように見える。もしかしてすごいところから役者界のダークホースが出てきちゃいました?
「うーん、うーん……」
「どうしたのゆかり?」
「いやこの猫、どっかで見た事あるような……って、思い出したぁ!! 公園で私のお弁当に入っていた塩サバを食った猫よ!!」
あ、あはは……あのネットに晒されていた小雛ゆかり公園で猫と喧嘩するって記事の猫ってシロちゃんだったんだ……。なるほど、女優小雛ゆかりを本気にさせる猫だからこそあの演技力なのかな? という事にしておこう。
小雛先輩には悪いけど、その時の猫があくあの猫でえみりさんの家……今は黒蝶揚羽さんに預けてるんだっけ? その事については黙っとこ。私は知らない事にして巻き込まれないようにしようと心に誓う。
彩香が捕えられている部屋の扉が開くと、仮面をつけた舜が入ってきた。
『ステラ・ネットワークで研究していたのは柏木隆明のデータだな』
舜は古い新聞のコピーを彩香に見せる。
そこには民家が全焼した事件の記事が書かれていた。
『当時、中学生だった柏木隆明は、何かがきっかけで火を使う能力に目覚めたのだろう。しかし、その頃はまだ特殊能力なんてものはなく、普通に家事中の事故として処理された。彼を引き取ったのは遠く離れた親戚の君の家だったと聞く。そう君の実家だ。その時、どういうきっかけかは知らないけど、君は隆明の能力を知った。違うか……?』
『……そうよ。当時、私は大学生で将来は研究者になりたいと思ってたわ。だから興味が湧いたの』
『違うな。大学に入って君は行き詰まっていた。だから隆明の能力を解明する事で君は研究者になろうとしたんだ』
舜の言葉が彩香に突き刺さる。
襲われた時も平然としてたのに、図星をつかれたのか彩香の表情に怒りが滲む。
『だって仕方ないでしょ! 大学に入ったら周りは特別な子ばかりで、私には何もなかった!! 隆明は心に傷を負っていたし、私はその代わり隆明に優しくしてあげただけじゃない。それって等価交換でしょ!!』
うわぁ……。槙島といい彩香も彩香でちゃんとクズだ。
さっきまでの幸せそうな隆明との夫婦2人の会話は一体何だったんだろう……。
『大人しくアクセスキーを差し出せ。そのデータを他国に奪われる前にこちらで保管する』
『無理よ……。アクセスキーは私の脳波を使ったものだもの。私が行かなきゃサーバーは開かないわよ。だから私を連れて行きなさい。その代わり、私と娘の身の保証とステイツへの亡命を求めるわ。貴方のバックが誰かは知らないけど、こんな事ができるなら可能でしょ?』
私と娘か……。所詮、彩香にとっては隆明は研究対象でしかなかったって事なのかな?
それともどちらにせよ男性を他国に亡命させるのは難しいから、自分と娘を守ろうとしたのかもしれない。
少なくとも自分の娘だけは守ろうとするだけ、真衣に対しては愛情があるように思える。
『……いいだろう』
舜は彩香の提案を呑む。
再びシーンが変わると、今度は椅子に縛り付けられ目隠しをされた白衣を着た女性の姿が映った。
ネームプレートを見ると篠崎恵美と書かれている。
確か美鈴とかなえが戸田の家で見つけた次のターゲットとされていた女性じゃなかったっけ?
そんな彼女にそっと誰かが近づく。あ……槙島だ。
『篠崎恵美……。確か君のお母さんの専門分野は生殖細胞の配合だったかな。君のお母さんが書いた本を読んだけど、自分達の研究が神の領域に踏み込む事を実に人間的な観点と倫理観から書かれていたのがすごく面白かったよ。僕はね、そういう人間的な思考が大好きなんだ』
槙島は篠崎の耳元で囁きながら頬に優しく触れると、そのまま指先で輪郭をなぞる。
女優さんってほんとすごいよね。普通の女の子はあくあにこんな事をされたら間違いなく演技どころかじゃないと思う。
『残念ながら君のお母さんは死んでしまったけれども、残された娘の君は同じ分野の研究者として、柏木彩香が君のお母さんと一緒になってやっていた事を知っているはずだよ? だって君のお母さんが大学の教授をしていた時の生徒は柏木彩香で、専門外だった彼女はきっと君のお母さんに自分がやろうとしている事を相談したはずだからね。その事は共犯相手の娘である君へと引き継がれたはずだ』
『し……知らないわ……!』
槙島はニコッと笑うと、机の上に置いてあったタオルを丸めて篠崎の口の中に突っ込む。
そして恋人同士のように篠崎と指を絡めると……。
『っ!?』
骨が折れるような鈍い音と共に篠崎が叫び声を上げる。
う、うわぁ……ドラマだってわかってるのにすごく痛そう。
反対側に反り返った指を見て私は画面から目を背けた。
『痛いかい? よくドラマや小説ではこうやって尋問をするみたいだけど、本当にこれで秘密を吐いてくれるのかな? 何、これも君達がやっているいつもの研究と同じ事じゃないか。ね?』
『ふーっ、ふーっ』
篠崎は痛みで息を荒げる。
『幸いにも指はまだ9本ある。喋る気になったらちゃんと意思表示してね』
『んんっ!!』
再び部屋の中に鈍い音が響く。
槙島はあと8本だねと笑顔で呟いた。
『本当は僕だってこんな事したくないんだ。君だってそうだろう? 勝手に親の研究を引き継がされて、当の本人は責任を全て君に押し付けて、あの世に逃げて逝ったんだ。そのせいで今、君はこうなってる。君は全く悪くないのにね?』
うわー、うわー、うわー。私は寒気がして自らの体を両手で抱きしめる。
いやいや、どう考えても指を折ってるあんたが1番悪いでしょ!!
あくあが全部悪いなんていうのはみんなネタで言ってるからいいのであって、槙島の場合は全部本当に槙島が悪いんだから!! それを屁理屈捏ねて責任転嫁してるだけじゃない!!
篠崎はあまりの激痛に耐えきれず涙を流し何度も頷いた。
それを見た槙島は愉悦の表情を浮かべると、丸めたタオルを篠崎の口から取り出す。
『真衣、もう中に入っていいよ』
『は、はい!』
槙島がそう言うと、真衣が扉を開けて部屋に入ってきた。
なるほど、さっきのやりとりを見られたくなかったから外で待たせていたのかな。
『ほら、真実を彼女に教えてあげるんだ』
『私は……私は悪くない! お、お母さんが勝手にやった事で、私はまだその頃全然子供だったし、わた、わた、私は……』
動揺する篠崎の背中を槙島が優しく摩る。
『彼女も君と同じ被害者なんだ。母親に人生を無茶苦茶にされた……ね? だから同じ立場の君ならわかるだろう? 君だけが彼女を解放してやれるんだ。大丈夫、話せば君もきっと楽になる。もう、我慢しなくて良いんだよ』
『あ、あ、あ……』
音が消える。
篠崎が何かを喋ると真衣は動揺した顔を見せる。
はっ、はっ、はっ……。
早くなる真衣の呼吸音と共に、画面がブラックアウトした。
そこで映像が切り替わると真っ白な建物が映し出される。
あ、ホゲウェーブ研究所だ! ステラ・ネットワークって書いてあるけど、この真っ白い建物は間違いなくホゲウェーブ研究所です。
【認証……柏木彩香。通行を許可します】
ステラ・ネットワークの本社に忍び込んだ舜と彩香は、そのままメインコンピューターのある部屋へと向かう。
その途中で倒れていた警備員達の中央で立っていた戸田と遭遇する。
『待っていたよ。彩香先生』
『次郎君……』
舜は彩香の前に出ると、先手必勝とばかりに一気に戸田へと攻撃を仕掛ける。
おそらくここのアクションシーンもスタントが担当しているんだろう。
ライトニングホッパーはあまり動きのないキャラだからいいけど、この動きが男性できるのはあくあくらいだ。私や小雛先輩だってできない。玖珂レイラさんとか小早川さん、それこそニコさんくらいじゃないと無理だ。
戸田は冷静に舜の攻撃を回避すると、病院で見せたように特殊な能力を使って反撃に出る。
ここでシーンが切り替わると、ホゲウェーブ……じゃなかった、ステラ・ネットワーク本社の周りに詰めかけた警察達が映し出された。うん、普通に警備システムが働いてるからそうなるよね。
そこには美鈴やかなえの姿も見える。
『いいか。踏み込むなよ。人質の解放が先だ』
署員の1人が手に持ったタブレットに縛り付けられた篠崎の姿がライブ配信されていた。
どうやら槙島が人質を使って建物の中に踏み込まないようにさせているらしい。
またシーンが切り替わると、それを遠くから見つめる女性達3人の後ろ姿が映し出された。
うーん、誰だろう。引きすぎててよくわかんないや。
『くっ』
戸田の風切り刃によって舜の全身はボロボロだ。
パッと見、舜の方が状況は悪そうに見える。
そういえば舜ってさっきから全然特殊能力を使ってない気がするけど、もしかしてなんの特殊能力も持ってないのかな?
舜は転がるようにして戸田の攻撃を回避すると、そのまま跳び上がって天井の配管を掴む。そのまま両足で戸田の首を締め上げて落とそうとする。
おぉっ! 一瞬で逆転した。舜のアクションシーンは能力も何もないけど、普通に動きが良くてステイツっぽいカメラワークもあってかっこいいと思う。
『ぐっ……うぅ……』
石蕗さん苦しむ表情うまいなぁ。
この人なんで本当に2枚目なんてやってたんだろう。勿体なすぎる。
あくあが出てこなきゃ、石蕗さんの覚醒もなかったんだろうなと思った。
『あがっ……』
石蕗さんが締め落ちるその直前に事は起こった。
大きな爆発と共にけたたましい火災警報器が鳴り響く。
『なんだ? 何が起こってる……!?』
舜が耳に装着したインカムに通信が入る。
『ステラ・ネットワークの中心部で巨大な熱源を感知。何者かがメインコンピュータを爆発させた』
一体誰が……みんながそう思った瞬間、爆発音がした方向の通路から真衣が姿を現す。
その目は空虚で、表情から感情が抜け落ちていた。
『真衣!』
真衣の姿を見た彩香が駆け寄ろうとする。
しかし途中で真衣の異変に気がついたのか立ち止まってしまった。
『真衣、事件に巻き込まれたかもしれないって聞いて、お母さんずっと心配してたのよ。でも、大丈夫。もうこれからはお母さんが一緒だから。ね? 2人でステイツに行ってゼロからやり直そう?』
『……黙れ』
冷えた真衣の声に彩香が身体をビクッとさせる。
『私の母親でもない癖に母親面をするな!!』
『な、何を……!』
『五月蝿い五月蝿い五月蝿い! 貴女みたいな大人がいるから……!!』
真衣の感情が爆発する。それと共に彼女の周囲から大きな爆風が噴き上がる。
その炎は戸田や舜はもちろんのこと、彩香にまで及ぶ。
『あっ……』
ほんの一瞬だった。精神が不安定になっていた真衣は、制御できない能力で彩香を一瞬で燃やし尽くしてしまった。自分が母親を殺してしまった事で真衣の能力はさらに暴走する。
『そこは危険だ! 新しい脱出ポイントを送る!』
あっ、久乃の声だ。舜は戸田が死んだのを確認すると、送られてきた脱出ポイントに向かって走り出す。
外では警察が慌てふためきつつも、周囲の人達を避難させるために必死に動いていた。
そうしてシーンは、誰かの回想シーンに入る。
目の前に居たのは槙島圭吾だ。
『柏木真衣は柏木隆明と柏木彩香の子供でもなければ、戸田次郎と柏木彩香の子供でもない。そう……柏木彩香は禁忌に手を染めたんだよ』
著者に篠崎と書かれた本を槙島はゆっくりとめくっていく。
その瞬間、私は答えがわかってしまった。
『女性同士の交配が可能なのであれば、男性の生殖細胞のみの交配ができるのではないか? 答えはイエスだ。それでは能力者の男性の遺伝子と別の能力者の男性の遺伝子を掛け合わせる事でどうなるのか? 研究者なら誰しもが一度は考える事じゃないのかな。そう、つまり彼女にとって研究所のデータはただのフェイクでしかない。研究者たるもの観察対象とは常に一緒にいたいからね。だって、親が子供の側にいるは当然の事だろう?』
はは……淡々とした感じで喋るあくあの演技に背筋がゾクゾクとした。
新境地どころの話じゃない。あくあの悪役がこんな感じになるなんて誰も想像していなかったんじゃないかな。
少なくとも私の隣にいるゆかり先輩以外は……。
『人間の知識欲求というのは時として恐ろしいものだ。しかし、神の真理を解き明かそうとするのならば、ルールを破り、その禁止領域に足を踏み入れなければならない』
ヒーローを演じるかっこいいあくあ。
誰に対しても優しいあくあ。
そんな、優しくてかっこよくて強いヒーローの白銀あくあはここにはいない。
『僕もそれと同じだ』
一見して物腰の柔らかそうな青年。
だけど間違いなく彼は心の中でバケモノを飼っている。
背筋が震えるような声、その柔らかくも怖いトーンに心臓が痛む。
『僕はね……。ただ知りたいだけなんだ。この狂った世界にいる、狂った人間達の内面をね』
槙島は本を閉じると本棚に戻して話をしている人物へと近づく。
『ん? なぜあの時、戸田の家に君の資料を残したかって? そもそもスターズの組織を使って戸田を動かす必要なんてなかったし、もっと危険性が少なくて確実な方法で事を運べたのに何故そんなにもリスクの伴う無駄なことをしたかわからない? それはね。スリルだよ。スリルがなければ人生なんて平坦で退屈なものだろう。いいかい。ドラマでも小説でも映画でも漫画でも、面白い作品はドラマティックで読者を楽しませてくれる。僕はね、いつだって本を読む度にその主人公になりきっていたんだ。彼らのように僕もスリルがあってドラマティックな人生を歩んでみたいとね。黒幕として裏から物語を操って俯瞰して見ているだけなんて何が面白いんだろう。僕はね、あくまでも物語の登場人物としてロールプレイがしたいんだよ』
槙島は話していた人物に笑顔を向けると1人部屋から出ていく。
残された部屋には物言わぬ篠崎の亡骸だけが残されていた。
え? まさかずっと死体と話してたってわけ?
あ、あれ? じゃあ、あのさっきのライブ配信ってもしかして、録画した映像をずっと流してただけって事?
うわぁ、もうやだこの作品、何も信じられなくなりそう。
『危ないから規制線の後ろに下がってください!』
『早くここから離れて!!』
シーンが切り替わると、規制線の外に出た舜の姿が映る。
どうやら建物の中から脱出したようだ。上着と仮面を外した舜は雑踏に紛れようとする。
その時誰かと肩をぶつけた。
『失敬』
『いえ、こちらこそすみません』
お互いに張り付けた笑顔で謝罪する舜と槙島を見て、また悪寒が走った。
うわああああああ……舜、そいつ、目の前にいるそいつが1番悪いやつだよ! って、言ってあげたくなる。
その瞬間、また大きな爆発が建物の中で起こった。
鳴り響くサイレンと共に画面がブラックアウトする。
『戸田次郎、柏木彩香は両名共に死亡。柏木真衣は生死不明で行方不明だそうよ』
舜はリムジンの中で久乃からの報告を無言で聞く。
その報告の途中で隆明がお墓の前で雨に打たれるシーンが映し出された。
たった一瞬、そう、ほんの一瞬だけだったけど、賀茂橋さんの演技で隆明は全てを知った上で彩香と真衣を受け入れていたんだと感じる。
『一応上は、研究データが他国に渡らなかった事を良しとしているみたいよ。だから後味は悪いけど最低限の目標は達成したからお咎めは無しだってさ。そういうわけだから、アンタも切り替えなさいよ』
そう言ってリムジンの外に出た久乃は、またタバコを煙らせながら闇へと消えていった。
夜が明け事件現場の様子が映し出されると、それに合わせてED曲とテロップが流れる。
出演
黒木舜:黛慎太郎
カーリ:ハーミー・スターズ・ゴッシェナイト
ニャンニャン:白銀シロ
鷹見久乃:睦夜星珠
花咲美鈴:淡島千霧
小林かなえ:宮田梨花
????:サフィリア・キングスレイ
????:アナスタシア・エックハルト
戸田次郎:石蕗宏昌
柏木隆明:賀茂橋一至
柏木彩香:伊藤早苗
柏木真衣:那月紗奈
篠崎恵美:内山愛菜
友情出演
槙島圭吾:白銀あくあ
????:雪白美洲
声の出演
ニャンニャン:雪白えみり
幼少期の戸田次郎:猫山とあ
スタント
黒木舜:天我アキラ
原作・構成
志水キスカ
第一話脚本
八雲いつき
演出/槙島圭吾のみ
司圭
第一話監督
本郷弘子
総監督
本村玄斎
ん? ちょっと待って、美洲様出てたの!?
あっ、もしかしてあの時映っていた後ろ姿だけの3人組の誰かかな?
それと舜のスタントって天我さんなの……。えー、普通にすごい。
ニコさんっぽいなって思ってたけど、そういえばアクションの勉強してるって言ってたっけ?
あと、シロの声優さんものすごく上手いなって思ってたらえみりさんだった……。あくあといい、えみりさんといい、2人ともスペック高すぎでしょ。
それに加えて演出に司先生がいるのも驚きだけど、槙島圭吾のみってどういう事なの? SNSを見ると、どうやら槙島に関する事だけ台詞回しとかを司先生が考えているらしい。うわぁ、そんな事ってあるんだ。
EDテロップだけでツッコミどころ多すぎて追いつかない。とあちゃんが襲われる役をやってるのも驚きだった。
いつの間にか静かになっていたゆかり先輩と阿古さん、そして私の3人でただただじっと画面を見つめる。
EDが終わると、スーツを着た男の肩から下が映し出された。
あぁ、なんかもう嫌な予感がする。
男はソファに腰を下ろすと、目の前に居る俯いた女性にニコリと微笑んだ。
『どうも弁護士の槙島圭吾です。大丈夫……もう1人じゃないよ。僕だけが君の味方だ』
背筋の凍るような槙島の笑みと共に番組が終わった……。
CMが流れるのと同時に、ゆかり先輩がすくっと立ち上がる。
「阿古っち……。今年からドラマ部門に男優賞と女優賞とは別に映画部門と同じ役者賞ができるかもしれないって話聞いてる?」
「え? あ……うん」
「悪いけど私、今年中になんかのドラマで助演として出るわ。今のこいつと私、現時点でどっちが上か勝負したくなっちゃった」
ゆかり先輩は普段見せないようなギラリとした瞳を阿古さんに向ける。
私はそこで初めてゆかり先輩はあくあの事を対等な役者として認めたんだと気がついた。
負けてられない……。
私も頑張らなきゃと気合を入れる。ゆかり先輩にも、あくあにも、そしてあくあを中心に頑張っている他の役者達に置いていかれないためにも、頑張るぞと気合を入れ直した。
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診断メーカーで新年のおみくじ作りました。
もっと色々できるの考えてたけど、これしかなかったんだよね。
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