暴走特急雪白えみり。
『雪白えみりさん、実は今日、貴女にお願いがあってやってきました』
「えっ? 私?」
アンナマリーちゃんの訪問にびっくりした私は、日本語で言葉を返しながら自分を指差す。
っと、日本語じゃわかんねぇよな。私はスターズの言葉で改めて言い直そうとする。
「あ、日本語でも大丈夫ですよ。まだ辿々しいけど、私も喋れるので……」
あ、そうなんだ。アンナマリーちゃんすげーな。
私はコホンと軽く咳払いすると、キリッとした顔をする。
「私へのお願い? 最初に言っておきますが、金ならありません!!」
大事な事だからな。ちゃんとお金はないぞとアピールしておく。
もちろん、それ以外の事……そう、たとえば乙女の嗜み事や淑女の捗り事についてならいつでも聞いてくれたっていいんだぞ?
アンナマリーちゃんだってもうそういう年齢なんだし、ほら、オトメマスターこと捗るさんになんだって相談してみなさい。あ、言っておくがそれ以上の事はダメだぞ。私はまだ未経験だから、そういうのは手慣れてる乙女の嗜みさんに聞いてくれ。
「お、お金? ああ……! もしかしてもうご存知だったのですか!?」
いや、なんも知らん。
でも私は頼れる年上のお姉さん感を演出したくて、無意識のうちにコクンと頷いてしまう。
「それなら大丈夫です。私はもちろん自費ですし、オニーナさんは特待生だから国から補助金が出る事になってますから」
自費? 特待生? 国から補助金? 一体、なんの話だ?
想像するに学生に関係した話だろうが、それと私のどこにお願いする部分があるというのだろう?
あれか? 奨学金をもらうくらいだから食べられる草の相談か? それなら雑草博士の雪白えみりに任せて欲しい。私はキリッとした顔を見せる。
「雪白えみりさんにお願いしたいのは、日本に留学するオニーナさんの後見人です」
「後見人……?」
え? オニーナちゃんが日本に留学ってマジ?
そんな事になったら掲示板民のオモチャにされちゃうぞ。というかもうなってる。
この前、掲示板を見たらオニーナちゃんって捗るの生き別れの妹ってまじ? って、スレが立ってたし。
ていうか、オニーナちゃんって特待生で留学できるくらい優秀なのか。すげーな。
「オニーナさんは孤児ですから、日本で生活するのに保護者兼後見人になれる人が必要なのです」
「それで私に?」
アンナマリーちゃんはコクンと頷く。
いやいやいや、私以外にもっと他に、こう……まともな奴がいっぱいいるだろ!
君がお願いしている見た目だけの女は、金なし、飯なし、考えなしのなしなし尽くしの雪白えみりさんだぞ!?
カノンとか姐さんとまではいかなくても、私に預けるくらいならそこらへんの野生のゴリラとか野良の大怪獣にでも預けた方がまだマシだろ。
いや、冷静に考えたらやっぱり大怪獣とゴリラはないわ。2人とも金はあるけど生活能力がないからオニーナちゃんが荒んだ幼少期を過ごしてしまう。それに、あの2人はこの私よりも子供に悪影響を与えそうな気がした。
「な、なんで、私に?」
「えみり様は、フィーヌース殿下やハーミー殿下と同じアパートで暮らして面倒を見て下さったり、メアリー前女王陛下の侍女を務めていると聞いています。この点がスターズの政府や王家からも評価されており、現地での後見人や保護者に相応しい人物としてリスト入りされているんですよ。それを思い出して、えみり様にお声がけさせていただきました」
そ、そうなんだー。
聖あくあ教といい、私の知らないところで勝手に評価されて、勝手に話が進んでる気がするのはなんでだろう。
「とはいえ、これは私からの個人的なお願いですし、急な事なので、断ってもらっても構いません」
うーん、オニーナちゃんも、遠く離れた場所に1人で留学となると不安だよな。
それこそ、例のアパートに来るのならハーちゃんやフィーちゃんもいるし、寂しくないだろうなと思った。
「そういう事なら別に引き受けてもいいけど……」
「やはり難しいですか……って、えっ?」
えっ? 引き受けちゃダメだった?
アンナマリーちゃんはポカンと口を開ける。
ぐへへ、ご令嬢がそんな可愛く口を開けてたらお茄子を突っ込まれてしまいますよ。
「本当にいいんですか?」
「もちろん。私が管理人じゃないけど、アパートにまだ部屋空いてるし、なんなら私の方からくくりに言っておくよ。それと、オニーナちゃんが心配ならアンナマリーちゃんも一緒に住めば? あのアパート、めちゃくちゃ古いけど本間の2LDKだから普通に2人で暮らせるぞ」
それにあのアパートなら、私が不在の時も面倒見のいい揚羽お姉ちゃんがいるしな。
シロを残していく時もめちゃくちゃ不安だったけど、気がついたら私より揚羽お姉ちゃんの方に懐いてるし、猫だって誰が1番まともな人間なのか薄々勘付いてやがる。ぐぬぬぬぬ!
「私とオニーナさんが一緒に……」
おっ、満更でもない顔をしているな。
確か、アンナマリーちゃんって一人っ子なんだっけ?
だから妹ができたみたいで嬉しいのかもしれない。
私も一人っ子だし、その気持ちはよくわかる。
嗜み……いや、カノンがメアリーに居た時、お互いの身を守るために姉妹の契りを結んだ時の事を少しだけ思い出した。私もあいつも中身はクソヲタとクソサルのクソクソコンビだが、見た目だけはいいからなぁ。
「あ、あの、そのお話、とっても興味がありますわ」
「そっか。じゃあ、くくりに言って空き部屋使えるようにしといてって言っておくわ。あ、ちなみに風呂トイレありでちゃんと別。敷金礼金なし、管理費修繕費込みで7210円な」
「えっ? やす……」
実はそうなんだよ。
土地は値上がりしてるのに、私のせいで騒音被害があるからという理由で7210円まで値下がりしたんだよな。あはははははは! って、自分で言ってて少し悲しくなってきたぜ……。
あまりの家賃の安さにも驚愕だが、私が1番驚いたのは、あのくくりがアパートに住んでる事だ。
もっとセキュリティのしっかりした都内のマンションに住むのかなって思ってたのに、あいつ、普通にあそこに住んでるからな。いくら華族を解体したからといって、無防備すぎねぇか? 私ですらずっとあそこに住んでるわけじゃないし、メアリー婆ちゃんのところに行ったり来たりしてる。それなのにくくりは、ずっとあそこに住んでるんだよ。うーむ……。私如きの頭脳では、あいつが何を考えているのかわからん!
まっ、どっちにしろ私が色々と言えた立場じゃないし、皇と違って雪白なんて本当に名前だけだしなー。あっはっはっは……。あ、ダメだ。また悲しくなってきた。
「それでは、早速なんですが、今日は撮影がお休みだと聞きましたので、よかったらこの後、私と一緒に孤児院に行きませんか?」
「孤児院に?」
私は首をコテンと傾ける。
「はい。オニーナさんとの手続きもありますし……その、良かったらですけど……」
「OK、別にいいぞ」
私はアンナマリーちゃんと一緒の車に乗って孤児院へと向かった。
『本日はよろしくお願いします』
『こちらこそよろしくお願いします』
おっと、どうやら他の貴族の子女達も孤児院に来ているようだ。
うんうんわかるぞ。お嬢様だって、あくあ様の残り香を嗅ぎたいよな。
私はニコリと微笑む。
『はわわわわわ』
『美洲……様?』
『いいえ、確かご親戚の雪白えみり様よ』
『お、お姉様……!』
とりあえず国際問題にならないように、笑顔で誤魔化しておけば大丈夫だろう。
私はアンナマリーちゃんの後に続いて、孤児院の院長さんがいる部屋へと通される。
『ようこそおいでくださいましたアンナマリー様。オニーナ・ハッカドールの件だとお伺いしましたが……』
『はい。その事で日本での後見人兼保護者の方が見つかったので、こちらに連れて参りました』
私は一歩前に出ると、外行き用の笑顔を見せる。
『この前はお世話になりました。雪白えみりです』
『あら、確かあくあ様と一緒に居た……』
私は孤児院の院長さんと軽い挨拶と面談のようなものを済ませる。
孤児院の院長さんは良い人で、オニーナちゃんの事を1番に考えてくれていた。
『それではオニーナと会ってみて、本人の意思を確認しましょう』
『そうですね。それが良いと思いますわ』
私達はソファから立ち上がると部屋を出て、オニーナちゃんの居る大広間へと向かう。
クンクン、クンクン……おぉ! 良い匂いがするな。私は開いていた扉から調理場を見つめる。
焼きたてのパンにお肉とサラダとスープか。あ、あれ……? オニーナちゃんって、もしかして私より良いご飯食べてるんじゃ……。さっきチラッと見えた孤児の子達の部屋もうちのアパートより綺麗だったし……。あ、あれれ? あ、だめだ。頭が筋肉痛になってきた。
うん……まぁ、普通に考えたら、カノンやヴィクトリア様が支援してるんだから当然の事だよな。むしろ、みんなが健康的な生活を送っていて何よりだよ。私は感動で涙を流した。
『まぁ、泣いていらっしゃるわ』
『きっと、心を痛めておられるね』
『なんて心が綺麗な人なのでしょう』
ごめん。これはそういう綺麗な涙じゃないんだよ。でも、そうとは言えずに私は気づかないフリをして誤魔化す。
『ん?』
『大広間が騒がしいですね。何かあったのでしょうか?』
もしかして飯の取り合いか?
私は呑気な顔をして大広間の中に入る。
するとそこには怯えた顔の子供達やシスターさんと一緒に、武装したシスターが大勢居た。
あ、あれ? どちら様で?
『貴女達は一体、誰ですか!?』
孤児院の院長が一歩前に出ると声を荒げた。
それに対して、向こうのリーダー格らしきシスターが一歩前に出る。
『私達は神聖スターズ正教の者だ』
神聖スターズ正教? スターズ正教のパチモンですか?
もちろんそんな事を言ったら粛清されそうなので私は大人しく黙っておく。
捗るさんは本当にやばい時は軽口を叩かないのである。
『我々の崇高な目標のために、君達の身柄を預からせて貰う。何、抵抗しなければ傷付けないと保証する』
『そんな事を言って、信じられるものですか!』
うんうん、口約束なんて普通に考えて信じられないよな。
私の知る限り、口約束を馬鹿正直に実行したのなんて、土下座でアカウントを凍結された白龍先生くらいだ。私もああいうカッコイイ大人の女になりたいね。本人は黒歴史にしたいみたいだけど、私だけは絶対に忘れません!!
『確かに貴女の言う事も一理ある。私達から君達を傷つけるような事は絶対にしないが、こちらの要求をスターズ政府や王家が飲まないのであれば、その保証は絶対ではないのだから』
うげー。それって、要求を絶対に飲まなきゃ私達1人1人を殺しますって言ってるようなもんじゃん。
やっぱり保証って言葉は当てにならねぇな。他人の保証人になりすぎて両親が漁船送りにされた私が言うんだから間違いない。あっはっはっ!
『へぇ……中々の上玉がいるじゃないか』
おいおい、私の事か!?
幼い時から年上のお姉さんから狙われていた私は身の危険を感じる。
私は楓パイセンやポンなみと違って、敏感なセンサーを持ってるからな。危機察知能力は人1倍ある方だ。
『やめてくださいまし』
って、私じゃなくてアンナマリーちゃんだった。全然というかミリも私じゃなかった。
うん、どうやら私のセンサーは完全に壊れているみたいだ。
『おい、やめろ!』
『言われなくてもわかってるって。冗談でしょ』
リーダー格の人がすぐに止めてくれたからいいものの、あれは冗談の目じゃなかったね。
いつもガン決まった顔をしている聖あくあ教の信徒や掲示板民、クソヲタモードのカノンと冗談が通用しない時の姐さんを常に見ている私だからよくわかる。
『良いか? ここで大人しくしてろよ!!』
スターズ全土に向けた放送が終わった後、私達は一箇所に固められて部屋の中に押し込まれる。
……うん。とりあえず一般人の私がどうする事もできるわけないし、ここは一旦寝るか。
私が貧乏生活で学んだ術は寝るだ。寝てる間は腹も減らないし、体力も消耗しない。何よりも頭がスッキリする。
とりあえず一旦寝るというのは悪くない。私は目を閉じると秒で寝た。
……。
…………。
………………。
「ふが?」
あ……ここ、どこだ?
ぼんやりとした思考で私はキョロキョロと周囲を見渡す。
あー、そういえば孤児院にテロリストが押し寄せてきて、みんなと一緒に人質にとられたんだっけ。
あれから何時間経ったのか知らないけど、状況に変化なしと……二度寝するか? いや、なんか、トイレに行きたくなってきたな。私はスッと立ち上がる。
『おい! 許可なく立ち上がるな!!』
『お花』
私の言葉にテロリストの1人が口をあんぐりと開ける。
『はぁ!?』
『トイレ、漏れそう』
『我慢しろ!!』
『じゃあ、ここでする』
私はいつもの外行きの顔じゃなくてガチの顔を見せる。
任せろ。つい最近までスターズウォーの撮影をやってたからな。
周りの役者馬鹿どもに鍛えられて、戦場で見せるような本気の殺気を出すのはお手のものだ。
『うっ……流石にここでされるのはまずいんじゃないか?』
『仕方ない。連れて行け!』
うんうん、もし連れて行ってくれなきゃ、本気でここでするつもりだったから助かるよ。
何せ私はスターズの歴史ある宮殿、その中庭でした女だぞ。なんなら学校の先輩は、歴史的な遺物に対してしようとしたやつだ。冗談でこんな事を言うような奴じゃないのはわかってるだろ?
『ほら、さっさと済ませろよ』
『へーい』
私は事を済ませると手を洗ってトイレから出る。
ぐっすりと熟睡したおかげか頭がクリアだ。そういえばさっき、オニーナちゃんとアンナマリーちゃんが居なかった気がするな。なんか嫌な予感がするぜ。
『やめてくださいまし!』
『ふふっ、ちょっとくらいいじゃない』
キュピーン!
私の頭のてっぺんについてるアホ毛こと、捗るセンサーが反応する。
この私に隠れて、ムフフな事をしている奴がいるだと!?
そんな事、断じて許されるわけがない!!
おい、私も混ぜろ!!
『な! 待て、お前!!』
私は走り出すとセンサーが反応した調理室の扉にタックルする。
ムフフな現場はここですか!?
『ん? 貴女は……』
あ……さっきのガン決まりお姉さんだ。
それと、アンナマリーちゃんにオニーナちゃんも!?
どうしてこんなところに……。
周囲をもう一度確認した私は全てを察する。
これは間違いない。こいつら、今から2人を襲うつもりだ!!
幸いにもまだ2人は手を出されてないみたいで私はホッと胸を撫で下ろす。
『おい、お前!!』
チッ! さっきの奴が後ろから来やがった。
『……お前ら、ここで何をやっている?』
『何って、そんなの楽しいことに決まってるでしょ。先輩も一緒に楽しみましょうよ』
どうやら、コレはこいつらが勝手にしているみたいだ。
私は彼女達が睨み合ってる間に、2人のところへと駆け寄る。
『大丈夫か? 何もされてないよな?』
『は、はい……!』
『うん、大丈夫』
アンナマリーちゃんこんなに震えて可哀想に。オニーナちゃんも……うん、オニーナちゃんは至って普通だった。この子、中々肝が据わってるな。
後は私についてきたまともなお姉さんがどうにしてくれればと、一縷の希望を託す。
『先輩だって溜まってるでしょ。ここには純粋無垢な少女がたくさんいるんだし楽しみましょうよ』
『私はお前達とは違う! ……だが、そっちの美女を貸してくれるなら吝かじゃない。私も溜まっているからな』
くっそー。あんたもそいつらと同じ仲間か!!
このままじゃやべーな。何か、何かないのか。私は相手の方に視線を添えながら、後ろ手でキッチンの上を漁る。
こ……これは!?
「ふっ、ふふふふっ」
私の笑い声を聞いて、テロリスト達が若干引き気味になる。
『気でも狂ったか?』
『心配しなくても、天井のシミを数えている間に終わるさ』
ぐへった顔のテロリスト達が私達の方へと近づいてくる。
『えみり様……』
『こ、これって大人の漫画と同じ展開じゃ!?』
この触り心地、形、硬さ……間違いない。
私が何度も握り締め、寂しい夜を共にした相棒だ。
『さぁ、大人しく……あああああああああああっ!』
私の肩を掴んだ女が、頭の天辺から雷の直撃を受けたかのように体を痙攣させると、大きく泡を噴いてその場に倒れる。
『何!? 何が起きた!? あっ……』
また1人の女性が口から泡を噴いて倒れる。
私は手に持ったお茄子をポンポンとお手玉しながら彼女達へと近づいていく。
『お前の罪を数えろ。私の回数は万を超えてるぞ』
お茄子を愛し、お茄子に愛され、そして今もまだこの果てしないお茄子道を進み続けているお茄子の探究者、茄子マスター捗るとは私の事だあああああああ!
私はテロリスト……いや、チジョーの群れに突撃すると、自らが編み出した茄子雄無神拳を駆使して無双した。
『あっ!』
『いっ!』
『うっ!』
『えっ!』
『おっ!』
地べたに仰向けになった女達の姿に、私は蔑んだ目を向ける。
こいつら……まるでなってない。お茄子を使った鍛錬を怠っているからこうなるんだ。
日本の淑女はみんな毎日お茄子で毎日トレーニングしてるぞ。
『わりぃな。キッチンじゃ負けた事がねぇんだ』
決まった……。私は手に持っている茄子にかぶり付く。
うめぇな。程よい塩梅だ。やっぱりお茄子のお漬物は浅漬けや粕漬けに限るわ。
『えみりお姉様、か、かっこいい……!』
オニーナちゃんがキラキラした目で私のことを見つめる。
『お前達、何をしている!?』
あ……。悦に浸っていると、武装したシスター軍団に囲まれた。
これはあかん。流石に終わったか……。全てを諦めかけた時、それはやってきた。
『ぎゃー!』
『なんだ、どうした!?』
『うぎゃあああっ!』
『だから、どうしたと言っている!?』
なんだなんだ!?
私は隣に居たアンナマリーちゃんやオニーナちゃんと顔を見合わせる。
『こ、こいつは……!』
『ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴリラだぁぁぁあああああ!』
『はぁ!?』
ゴリラと聞いた瞬間、私はピンときた。
スターズのチジョーの皆さん、ご愁傷様です。私は手を合わせて天に祈りを捧げる。
『違う、あれはゴリラじゃない!!』
『私はあのゴリラに見覚えがあるぞ!!』
『あ、あれは……日本のリーサル・ウェポンにして野生のゴリラ、国営放送のフィジカルモンスター、メアリー四天王の森川楓だーーーーっ!』
あー、なもなも。ていうかこいつら全員、絶対に日本の掲示板をこっそり見てるだろ。
大半の奴が楓パイセンの姿が見えた途端、両手をあげて膝をついていた。うん、野生のゴリラに遭遇した時の正しい対処方法だ。インコさんの乙女ゲー配信を見て勉強したのかな。
『えみりー! 助けに来たぞー!! って、あ、アレ!? 私、何もしてないのにもう降伏してるんだけど!?』
あー、うん。最初の1人が面白いくらい楓パイセンのタックルで吹っ飛ばされていったからな。あれを見て戦意を喪失しちゃったんだろう。
楓パイセンがアメフト部の助っ人に行った時、練習で機械をタックル1発で破壊した時の事を思い出す。あまりの危険性に試合開始1分で引退したあの事件は、後にメアリー大タックル問題事件と呼ばれた。
「楓先輩、どうしてここに?」
「お前のピンチに駆けつけたに決まってるじゃないか!」
楓パイセン!! なんていい先輩を持ったんだと思ったけど、楓パイセンの目が泳いでいたのできっと違う。
「私も来たぞ!!」
あ、ロケラン担いだ羽生総理がやってきた。
ふぅ……私は軽く息を吐くと、総理の肩をトントンと叩く。
「総理、もう終わりましたよ」
「え?」
総理はがっくりと肩を落とした。この人、自分が総理だって事を理解して、こんなところまでやってきてるのだろうか。一応一国の総理なんだけどなぁ。
『えみりさん』
『えみりお姉ちゃん、はぁはぁ』
『2人とも……』
あ、1人のチジョーが復活したのか、立ち上がるとアンナマリーちゃんを後ろから抱え込もうとする。
くっ! 間に合わない。そう思った瞬間、私とオニーナちゃんの視線が合う。
気がついたら私はオニーナちゃんに向かって、手に持っていた茄子を投げていた。
『な、何!?』
勝負は一瞬、オニーナちゃんのお茄子がクリティカルヒットした。
『イエス、オナス! ノー、タッチ!!』
完璧だった。そうか、ここに居たのか。私の編み出した茄子雄無神拳の正当なる後継者が!!
『えみりお姉様……!』
『オニーナちゃん……!』
私達はお互いを讃えあうように抱き合う。
この子は才能がある。私はそう確信した。
「ナニコレ?」
「さ、さぁ……?」
こうして神聖スターズ正教は、設立からわずか1日で解散させられる事になった。
そしてスターズから帰国後、私がオニーナちゃんを連れているのを見て、聖女様に子供ができたなどとアホな事をいう信徒達のせいで、また謎の信奉を集めてしまう事をこの時の私はまだ知らない。
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