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ヴィクトリア、私の優秀な妹。

 私には優秀な2人の妹がいる。

 そのうちの1人は三女のハーミーです。頭の良いハーミーは早々に大学までスキップして、周りからは長い王家の歴史の中でも史上最高の天才だと持て囃された。

 そしてもう1人は次女のカノンです。お母様、お父様、お祖母様、キテラ、スターズの国民……誰からも愛されていた彼女はいつだって世界の中心に居る。私も初めての妹ができたと聞いた時は、カノンが愛おしくてたまらなかった。

 そんなカノンとの関係が変わり始めたのは、優秀で若い時のお祖母様にそっくりだったカノンを持ち上げようとする勢力が現れてからです。

 察しのいいカノンは、お祖母様のところへ行く事が増え、自然と私やお母様と距離を取るようになった。

 私は私で優秀な妹と比べられて、余裕がなかったんだと思います。

 家族から距離をとったカノンに対して、どうしてあげる事もできなかった。


「へい、うどんいっちょ上がり〜!」


 そんな妹のカノンを救ったのがこの男、私の目の前でうどんを茹でているうどん職人……じゃなかった、アイドルの白銀あくあです。

 彼は男性なのにスターズに乗り込んで来て、お母様に向かって世界を敵に回したとしてもカノンと添い遂げると言った。あの時は本当に衝撃的だったわ。

 世界から愛された私の妹は、世界から愛されている男性と結ばれた。

 まるでお伽話に出てくるお姫様と王子様のように……。


「美味しかったわ。ご馳走様」


 私は彼におうどんのお礼を言うと席から立った。

 いつもなら棚ぼたで次期女王になる私に近づけるチャンスだと思って、我先にと話しかけてくる者が後を絶たないけど、今日は誰も近づいてこない。

 何故なら、ここにいる誰しもがもう彼に夢中だからだ。

 思い出すわね。カノンもずっとこうだった。

 私は護衛が彼に見惚れてぼーっとしていたのをいい事に、1人会場から離れて中庭で夜風にあたる。


「カノン……」


 妊娠したという話を聞いたけど、元気にしているのかしら……。

 不安になってなければいいけど、私にカノンを心配する権利なんてないわよね。


『お母様、これはどういう事ですか!!』


 カノンが本人の意思に反して結婚させられるという話を知った時、私はお母様に問い詰めた。


『これは女王としての判断よ。ヴィクトリア、あなただってわかっているでしょう?』


 私は歯を食いしばる。

 お母様がカノンの母である事よりも女王である事をとったからだ。


『そうだとしても、カノンを人質にして、ペゴニアを拘束するのはやりすぎです!!』

『ペゴニアの類稀なる戦闘能力は特別です。元軍人で王家の犬としても優秀だった彼女が、カノン1人を連れてスターズから脱出するのは不可能ではありません。そしておそらく彼女の……ペゴニアの心は既に王家にはないという話を聞いています。ペゴニアは一歩引いていたはずなのに、どこかの誰かが余計な事をしたから……まぁ、今はその話はいいでしょう。カノンに絶対的な忠誠を誓う彼女にはちゃんと枷をかけておくのは当然の事です』

『……そうやってお母様は、カノンにも同じ事をしたんですね?』


 お母様は私の事を冷えた目で見つめる。

 それが答えだった。

 お母様はカノンに対しても同じ事をしたのでしょう。ペゴニアを人質にしてカノンに結婚をするように迫ったんだわ。そうすればカノンが言う事を聞くから……。


『ヴィクトリア、あまりフューリアの事を嫌わないでおくれ。君もいずれ女王になればわかるよ』


 お父様は白銀あくあが助けに来ると踏んでいたようですが……いや、お母様にそう言いくるめられていたのでしょうが、お母様はどっちに転んでも良かったんだと思いました。

 彼が助けに来ればそのままカノンをスターズから放り出して、カノン派を一掃し次期女王を私とハーミーに絞らせる事ができるし、彼が助けに来なければお母様は誰か適当な者、とは言ってもカノンを傷つけないような相手と結婚させてカノンをそのまま女王に据える事を考えていたのではないでしょうか。


『それでも……それでも私は、お母様に、女王ではなくて、私やカノン、ハーミーの母で居て欲しかった!』

『ヴィクトリア……』


 ずっとお祖母様と比べられて、想像もできない様な大きなプレッシャーの中で、母としてよりも女王としてを望まれてきたお母様を私はこれ以上非難する事はできませんでした。


『ヴィクトリア様……どうして』


 結婚式の当日、私は自分の手の者を使ってペゴニアのところに行きました。


『ペゴニア……今ならまだ間に合うかもしれません。カノンを連れて行きなさい』


 私の真意を測りかねたペゴニアは戸惑う。

 だから私はとっても悪い笑顔をペゴニアに見せてあげた。


『カノンがいなくなれば私が次期女王よ。だからあの目障りな妹を連れてさっさと出ていってくれるかしら』


 これでいい。

 私は念を押すようにペゴニアに対して、カノンが女王になったらクーデターや暗殺の可能性まで匂わせる。


『ヴィクトリア様……動機はどうであれ、私をここから出してくれた事を感謝します』


 あなたの主人を傷つけると言った私に対してここから出してくれた事を感謝するなんて、貴女もカノンに似て甘いところがあるわね。

 結局、彼が来て全てをメチャクチャにした挙句、お姫様は無事王子様に攫われちゃったわけだけど、あれ以来、私はカノンと口を利いていない。

 かろうじて、妊娠した時にかしこまった報告のメールがあったのみだ。

 それでいい。彼女はもう幸せなのだから。


「ダメね……」


 彼の顔を見てカノンの事を思い出したのか、珍しくセンチメンタルな気分になってしまった。

 ふぅ……。護衛も私が居ない事に気がついて慌ててるでしょうし、そろそろ会場に戻りましょうか。

 私が会場に戻ろうと動こうとした瞬間、草むらから誰かが飛び出してきた。

 もしや間者ではと思い、私は咄嗟に身構える。


「ふぅ……すっきりした。女どもがトイレに篭って出てこないせいで、もう少しで大変な事になっちまうところだったぜ」


 す、すっきり!? 漏らす!? 今、彼女はなんて言ったの!?

 私は頭とドレスに草をつけて出てきた雪白えみりを見て口をぽかーんと開く。


「ん?」


 私の存在に気がついた雪白えみりと目が合う。


「ヤッベ!」


 彼女は分かりやすいくらい私から視線を逸らすと、額から汗をダラダラと流した。


「もしやさっきのが聞かれて……いや、ヴィクトリアさんは日本語がわからないし、きっとセーフ!」

「セーフなわけないじゃない!」


 しっかりとこの両耳で貴女がスッキリって言ったのを聞いたわよ!


「あ、あれ? 日本語がわかるっていうか、喋れるんですか?」

「し、しまっ……」


 私は自分の口を両手で塞ぐと雪白えみりから視線を逸らす。

 こ、こんなしょうもない事で、いつの日か、妹達と会えるかもしれない時のために日本語を勉強しただなんて知られたくない。しかもよりによってカノンの親友だとされている雪白家の彼女だけには、知られるわけにはいかなかった。


「じーっ」


 そんな声に出してまで私の事をガン見しないでよ!


「じーっ」


 だから近いって!

 あんたいくら日本の元華族だからといって距離が近すぎるわよ!


「じーっ」


 いやもう完全に身体があたってるじゃない!

 言っておくけど私も貴女もどっちも大きいんだから比べるだけ不毛よ! だからそんなはしたのない事はおやめなさい!!

 そうそう、後ろに下がって。もう! こんな大きいもの同士をぶつけあってる姿を、男性陣に見られたらどうするのかしら? いくら彼とはいえど卒倒して気絶しちゃいますわよ。


「ヴィクトリアさんってカノンに似てますよね」

「どこが!? 私なんかよりカノンの方が可愛いに決まってるじゃな……あ」


 私は思わず日本語で返してしまった。

 もう! もう! もう! なんなのよこいつ!!

 すごく綺麗な顔してて、この会場にいる誰よりも、そうこの私やナタリアよりも気品に溢れたオーラを出してるのに、ふざけた事はするし、由緒あるお庭で野、野……うわあああああああああああああ!

 恥ずかしくなった私は頭を抱えてうずくまる。

 カノン、あなた、この子が親友だなんて、きっと嘘よね……?


「ぐへへ……! お姉さんいいっすねぇ……。あくあ様やナタリアさんがいるからずっと気を張ってたけど、お姉さんのおかげでポン……カノンの事を思い出して気が楽になりましたわ」


 黙っていれば女神様みたいに綺麗なのに、これがこいつの本性なの?

 もしかして私の妹、騙されて友達になってたりしない?

 ああ、急にカノンの事が心配になってきた。

 桐花琴乃って人は大丈夫そうだけど、あの森川楓って女もこいつと同じくらいヤバそうだし、彼のそばにいる小雛ゆかりって女も相当ヤバそうだし、もしかして私の妹の交友関係、ヤバい人しかいないんじゃ……。


「はい」

「あ……うん」


 私は彼女とお互いの連絡先を交換……って、なんでそうなるのよ!!

 貴女が普通にポケットからスマホを出してくるから何も考えずに応じちゃったじゃない!


「あ、これ、昨日送ってもらったカノンの写真です」

「わ、学生服を着てるカノンだ!」


 終業式の時の写真かしら。乙女咲の制服姿もすごく似合ってるわ。

 あ、こっちはハーミーの、フィーヌース殿下と一緒に暮らしてるって聞いたけど、元気そうね。

 良かった……。元気そうにしている妹2人の写真を見て心がほっこりとする。


「あ、やべ」

「ん? って、貴女これはダメでしょ!!」


 な、なんでカノンと貴女が一緒にお風呂に入ってるのよ! しかも普通にカノンとくっついて写真撮ってるし、これは間違いなくアウト寄りのアウト、重罪でギロチン刑確定です! 誰か今すぐにでもサンソン家の者を呼んでくださるかしら?

 ぐぬぬぬ、私だってカノンと一緒にお風呂に入った事なんてないのに!! ねぇ、それって貴女の国で言うところのマウントってやつかしら? 私、売られた喧嘩はちゃんと買うわよ?


「カノンの写真を撮ってあくあ様に送るついでに、偶然を装って私の姿もあくあ様に見てもらおうと……」

「貴女のくだらない行動に妹のカノンを巻き込まないでくれるかしら?」

「いやですね。あいつも結構ノリノリで……」

「はあ!? 妹のカノンはそんな変な事なんてしないですー」


 見たらわかるでしょ? って言おうと思ったけどやめた。

 何故なら私の目の前に、見た目だけじゃ中身が全くわからない奴が居たからです。

 貴女、もうずっと黙ってた方がいいわよ。私は結構嫌いじゃないけど、貴女のその見た目に騙されてる人って、結構多いんじゃない?


「もしかしてハーミーにも変な事してないでしょうね?」

「ハーちゃんにはエ……んんっ、なんもしてません」


 嘘でしょ? 今、確実にアウトなワードが出かけたわよね?

 私、これでも地獄耳なの。だって王宮ではずっと噂話が絶えなかったから。


「……い、妹達はそっちで幸せにしてるかしら?」


 この女に聞くのはどうかと思ったけど、背に腹は代えられませんわ。

 だって妹2人の事がそれ以上に心配だし、大切なんですもの。


「そんなに気になるなら遊びに来たらどうすっか?」

「はあ!?」


 そんな気軽に行けないし、そもそもそれができないから貴女に聞いてるんでしょ!?

 察しなさいよ。このおバカさん!!


「きっとあいつ喜びますよ!」


 あ、わかった。この女、残念な女なんだわ。

 普通に考えたらわかるでしょ。私は結果的にカノンをこの国から追い出したのよ!

 私が優秀だったら、カノンもハーミーも自分の生まれ育った国から出て行く事なんてなかったのに……!

 俯いたら涙が出そうだったから、私は必死に堪えて前にいる雪白えみりを睨みつける。


「そんな事あるわけないじゃない!!」


 私は思わず声を荒げてしまう。

 ハッとなった私は、慌てて謝罪の言葉を紡ごうとする。


「ご、ごめ」

「お姉さん、あいつはそんな奴じゃないっすよ」


 雪白えみりは聖女のような優しい笑みを見せる。

 とてもじゃないけど、さっきまで由緒あるお庭でお花を摘んでいた人間だとは思えない。


「私よりお姉さんの方が知ってるでしょ」


 なんなのよこいつ。本当にもう。調子が狂うじゃない。


「……でも、そのきっかけがないから困ってるんじゃない」


 あーあ、喋っちゃった。

 本当は誰にも言うつもりなんてなかったのに、この女と喋ってると自然と本音がこぼれ落ちてしまう。


「なるほど……話は聞かせてもらいましたよ!」


 えっ?

 びっくりした私が声の方に振り向くと、白銀あくあが壁にもたれかかるようにして立っていた。

 ほんと……ここまでくると腹が立つくらい絵になる男よね。


「あくあ様、どうしてここに?」

「俺のセンサーが、2つの大きなものがぶつかりあう波動を感じましてね。いえ、なんでもないです」


 いやいやいや! キリッとしたかっこいい顔をして誤魔化そうとしてるけど、なんとなく全部わかってるから!!

 え、待って。さっきおうどん食べてた時、私を見てたのって私の気のせいじゃなかったの!?

 雪白えみりがスススと音もなく私に近づくと、耳元で囁く。


「あくあ様は女性の膨らみがお好きなのです」

「はあ!? そ、そんな事あるわけ……」


 あ、そこまで言いかけたところで私は、女性解放宣言とかいう頭の悪そうな出来事が日本であったのを思い出した。あれって、世の中の女性を元気づけるために行ったのだと解釈していたんだけど、違ったの?

 え? 私も隣に居る雪白えみりも、かなりおっきいよ? え? こんな肉の塊が本当にいいの? ただの脂肪だよ?


「お、おぉ!」


 何、今度はどうしたの?

 彼の視線の先を辿ると、私と雪白えみりが寄り添っているせいで、とある部分が押し合いをしていた。

 え? こんなので喜んでるの? か、かわいい……じゃなくって! 貴方、もしかして顔がいいから誤魔化せてるけど、本当はこの隣に居る雪白えみりと思考レベルが同じでしょ! 絶対に!!

 私が怪訝な目で白銀あくあの事をジトッと見つめると、それに気がついた彼はコホンと軽く咳払いして、キリッとした顔をする。あ、確実に今、かっこいい顔をして誤魔化したわよね。


「ま、まぁ、俺に任せておいてくださいよ」


 そう言って彼はアイドルをやっている時のような素敵な笑顔で私達に微笑んだ。

 ほ、本当かなー。普通ならそんな事任せられるわけないじゃないと突っぱねるところだけど、この日の私は雪白えみりのせいで感覚が狂わされていたのか、彼の提案にわかったと頷いてしまった。

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― 新着の感想 ―
[一言] レート帯同じぞ
[一言] こいつらの一族は本能或いは下半身でしかモノ考えてないから論理持ち出しても無駄ぞ(゜д゜)
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