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那月紗奈、最高の卒業式。

 卒業式の日がやってきた。

 楽しかった高校生活も今日で終わりなのだと思うと、色々な事を思い出してセンチメンタルな気持ちになる。

 この3年間は本当に色々とあったけど、その中でも最後の1年間はとても濃密な時間だった。


 白銀あくあ。


 彼が現れてからこの国の未来は大きく変わったと言っても過言ではない。

 アイドル白銀あくあに感化された男性達が女性に対して歩み寄る姿勢を見せたり、社会的な進出を加速させる一方で、女性達もまた自分たちの行動や言動を見直し、男性達に対する事件が大幅に減少していった。

 また、ベリルの活躍で日本経済は大きく加速し、黒蝶揚羽さんの謀略とくくりちゃんのびっくり宣言によってこの国の膿が一掃された事で、羽生総理……お母さんの政治活動とそれに伴う大改革に一切の妨げがなくなり、間違いなくこの国は現在進行形で進化していっている。


 それが正しいか間違っているかは後の人たちが判断する事だよ。

 だからこの行動が正解なのかどうかはまだ誰にもわからない。それでもみんな今がその時だって思ってる。

 お母さんも含めて多くの大人達は、今のこの国が目指そうとしている未来にすごく手応えを感じているんだ。だからまぁ、紗奈ちゃんに子供や孫ができた時にこの国に生まれて良かったって、私のお母さんはすごかったんだぞって紗奈ちゃんが胸を張って言えるくらいは頑張ってみるよ。


 なんてお母さんは笑いながら言っていた。


「紗奈ちゃん緊張してる?」


 私は声をかけられた方向に振り向く。


「まさか。むしろ高校最後のイベントにワクワクしてるよ」

「ふふっ、そっか」


 ういはいつものように私に向かって穏やかな笑みを浮かべた。

 佐倉うい。彼女は高校卒業後も私と同じ乙女咲の大学に進学する。

 私はお母さんのやった事をいつか出来るであろう子供達にうまく伝えるために総合政策学部に入るけど、ういは文学部に入ると聞いた。

 ういや私のようにほとんどの人が内部進学を選択する一方で、もう1人の私の友人のように内部進学をしない人もいる。


「るーな、頭がぐらついてるぞ」

「んにゃ?」


 もしかして、立ったまま寝ていたのか?

 るーなは卒業後に白銀家のメイドになると聞いた。

 もうすでにるーなは研修生として白銀家で働いているそうだが、こんな時にまで寝るなんて、よっぽど仕事がハードなのだろうか? あくあ君の多忙ぶりを見ると白銀家のメイドはかなりハードな仕事環境なのかもしれない。


「昨日、みことちゃんやりんちゃんと一緒に夜遅くまでvariantのカスタムしてたから眠くて……」


 るーなの言葉に私とういはズッコケそうになった。

 variantは5対5で戦う今流行りのタクティカルFPSゲームで、るーな曰く、昨晩はカノンさん率いるチームとペゴニアさん率いるメイドチームで夜遅くまで白熱していたらしい。


「るーなは、りんちゃん、みことちゃん、りのんさん、ペゴニアさんと同じチームで、対戦相手はカノンさん、えみりさん、琴乃さん、結さん、白龍先生だった」


 へー、そうなんだ。

 え? カノンさんと琴乃さんがとてつもなく強くて、えみりさんがすごくいやらしかったけど、カノンさんの思考を完全にトレースしたペゴニアさんと、スナイパーでりのんさんが抜きまくったのと、りんちゃんのジェットストリームキャラコン特攻と、みことちゃんがチーター並の精密射撃スーパーエイムだったおかげでなんとか互角に戦えたって?

 ふーん、そういう面白そうな事は私達部外者からすると見たいから配信して欲しいんだけどな。


「それって普通に遊んでただけ?」

「ううん。ペゴニアさんとカノンさんの2人がリビングに置いてある超特大あくあ君人形に、あくあ君が不在の春休みだけメイド服を着させるかセーラー服を着させるかで話し合ってて、ゲームで決着つけるって流れだったかな? 私も含めて他の人達はそれに巻き込まれただけだよ」


 しょーもな! しょうもないけど、あくあ君のお家はいつも楽しそうでいいなーと思った。


「あ、でも、えみりさんは1人だけ縄で縛ろうって言って琴乃さんに胸ぐらを掴まれていたような……私の気のせいかな?」

「それは、るーなが寝ぼけてただけだな」

「うんうん、きっと眠たくて意識が朦朧としてたんだよ」


 私はういと顔を見合わせて苦笑する。

 まさかね。あのえみりさんがそんなどこかの誰かみたいな変な事を言うわけがないよ。


「おーい、お前達、そろそろ始まるぞー。私語は謹んで列に並びなさーい!」

「「「「「はーい!」」」」」


 あ、もうそんな時間か。

 私達は慌てて列に並び直す。


『卒業生入場!』


 開会の言葉があった後、私は今まで共に学んできた学友達と共に卒業式の会場に入る。

 私は移動の途中で、保護者席へと一瞬だけ視線を向けた。


 うん、やっぱり来てないか。


 そりゃそうだよね。2人とも今は外国にいるんだから、普通に考えたらいるわけがない。

 2人いる私のお母さん、その1人、羽生治世子(はぶちよこ)はこの国の総理大臣で、もう1人、那月芽衣花(なつきめいか)は医師をやっている。

 治世子お母さんは外交で北欧連邦共和国に、芽衣花お母さんは政情が不安定になっている東欧共和国連邦にいると聞いているから、今日の卒業式には当然の如くどちらも来られない。しかしそれは私にとってはいつもの事だ。

 寂しくないと言えば嘘になるが、娘として2人がやっている仕事をとても誇らしく思う。


『国歌斉唱』


 私は一際大きな声で国歌を歌いながら母に想いを馳せる。

 1人でも多くの国民に好きになってもらえるような、誇りを持ってもらえるような、そんな国を作りたいと治世子お母さんは言っていた。

 お母さん、私は例えお母さんがやろうとしている事が間違っていたとしても、良くしようと思って行動に移ったお母さんの事をすごく誇らしく思うよ。

 周りで好き勝手に言う人はたくさんいるかもしれないけど、いつだって何かを成し遂げるのは、勇気を以て前に一歩を踏み出した人だけだ。その事をあくあ君が私に教えてくれた。

 サッカーの世界大会であくあ君が国歌を歌ってくれた時、私はお母さんがやってた事がここに繋がったんだと思って涙が出たよ。そんな経験をした私だからこそ、思いを込めて、そして誇りを持って国歌を歌いきった。


『校歌斉唱』


 乙女咲は一貫して同じ校歌を採用している。つまり小中高大と同じ校歌を歌う。

 これはメアリーや聖クラリス、そして渦中の日ノ本も同じだ。

 その中でもメアリーの校歌斉唱はすごくて、卒業式にOGが参加して校歌を大合唱するのはこの時期の名物になっている。また、OGは卒業式に参加する時に子供や孫を連れて参加し、その景色を見せる事で自分の子孫もメアリーに入学するようにさりげなく誘導しているらしい。

 私は治世子お母さんとの関係がバレるわけにはいかないから一度も参加した事ないけど、一回くらいは見てみたかったな。


『校長先生からの式辞が御座います』


 校長先生は壇上に登ると全員の顔をゆっくりと見つめる。


『卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。改めて多くの高校から我が校を選び、入学し、そして卒業してくれた事を感謝いたします。言いたい事はたくさんありますが、私からは一言だけ言わせてもらえればと思います』


 軽く咳払いした校長先生は私達の顔をじっと見て語気を強める。


『道に迷ったら1人で悩まずに学校に来い! これは覚悟とか責任とかね、そんな言葉だけで片付けられる事じゃないんです。だってこんなにも私達は同じ時間を一緒に過ごしてきたんですよ。貴方は困ってる友達がいたらどうしますか? それと同じです。だから困った時は、決して1人で悩まないでください。大人だって1人でどうしようもない事なんてたくさんあるの。それでもどうにかしてみんなやってきてるけど、本当はもっとみんなが寄り添えるようになれば、もっともっとこの国は良くなると私は信じています。だから私でもいい、みんなが苦しい時には寄り添わせてください。私からは以上です。卒業生の皆さん。改めてご卒業おめでとうございます!!』


 相変わらず熱い人だなと思った。

 うちの校長先生はメアリー卒だし、メアリー卒はとにかく熱い人が多い。

 乙女咲はメアリーと同じで熱いけど、先進的というか、変わって行く事を恐れない学校だ。

 お母さんと一緒のメアリーに行くことも考えたけど、私が乙女咲を選択したのはそういうところに惹かれたからなんだよね。


『それでは続きまして在校生よりお祝いの言葉があります』

「はいっ!」


 ええっ!? 会場全体が彼の声に大きくどよめく。

 普通、在校生からの送辞は生徒会長が務めるものだ。だから私もナタリアがやると思ってたし、みんなもそう思っていた。それなのにどうしてあくあ君が……。私がナタリアの方へと視線を向けると、してやったりという顔をしていた。

 これはしてやられたな。嬉しいサプライズに思わずみんなの頬が緩む。


『まだ肌寒い……って言おうと準備してたんだけど、今日、思ってたよりあったかいですね』


 ははは! あくあ君の送辞に思わずみんなが吹き出してしまう。

 これが乙女咲やメアリーじゃなかったら先生達から注意されるかもしれないけど、乙女咲の卒業式はあくまでも卒業生がメインだ。卒業生が文句を言わなければ何をしてもOKなのである。

 だから乙女咲は卒業式当日のカリキュラムも在校生と卒業生から選ばれた代表グループが話し合って決めるし、そういう型に囚われてない自由なところもこの学校のいいところだ。


『卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。在校生一同、心よりお祝い申し上げます』


 あくあ君は私達の顔をぐるりと見渡すと、手に持っていた送辞を折りたたんでポケットの中へと戻す。

 もー、そんな事しなくても最初から読んでなかったじゃん。それ。


『さて、堅苦しい挨拶はここまでにしておきまして、私から先輩達に最後の質問があります。先輩達の高校生活はどうでしたか?』

「楽しかったよ!」


 私はすぐに声を上げた。それに続いてみんなからも楽しかった。卒業できて良かったという声が上がる。


「成績がギリギリで最後まで焦った!」

『大丈夫。俺もそこそこギリギリです!』

「おい!」


 ははは、杉田先生のツッコミでみんなが爆笑した。

 あくあ君はそんな事を言ってるけど、テストの点は大体8割キープしてるから大丈夫だろうと思う。

 ただ、乙女咲はそれが平均なんだよね。だからどっちかというと黛君の方がピンチかもしれない。

 まぁ、50点以下じゃなかったら赤点にはならないし、黛君も平均7割は取れてるから大丈夫だと思う。

 いや……そもそも男子には留年なんてシステムはなかったから大丈夫なのか。そう考えると、授業に出席して真面目にテストを受けているだけBERYLの3人はすごいのだが、3人はあまりにも普通にしているためについついこちらの常識が歪みそうになる。


『私はこの学校に入って、すごく良かったと思っています。それは良き友人達や同学年の皆さん、担任の杉田先生に出会えた事だけではありません。3年生と2年生、そしてすでに乙女咲を卒業された皆さん先輩達、そしてそれを支えてくれる地域や教師の皆さんが乙女咲という素晴らしい学校を、みんなで作り上げてくれたおかげです』


 あくあ君の言葉に来賓の卒業生達が涙を流す。

 乙女咲が新御三家と呼ばれるようになったのはつい最近だ。それまでにはきっと言葉だけでは語れない多くの苦労があったんだろう。それが今やあくあ君が送辞を述べ、とあちゃんや黛君まで卒業式に出席している。

 それどころか今日は他の男子達も全員が卒業式に出席しているんだ。

 私は同じクラスの男子生徒2人と2年A組の男子達へと視線を向ける。

 彼らはずっと不登校だったが、12月から学校に来るようになった。テレビで森川さんが乙女咲の文化祭の様子を中継した時に、楽しそうにしているBERYLの3人と私達を見て学校に行ってみたいと思うようになったらしい。

 乙女咲はとあちゃんのような心に傷を負った男子生徒や、黒蝶本家から逃れるために留学していた黛君や、記憶喪失になったあくあ君などの特殊な事情を抱えた男子生徒を積極的に受け入れている。

 それもあって3年間根気よく男子生徒達との話し合いを重ね、いつ彼らが学校に来てもいいように準備をしていた先生達は大いに喜んだそうだ。それがこういう形になって報われたのは私も嬉しく思う。


『ナタリア生徒会長からは、送別の言葉をお願いしますと言われたけど、実は私、送別という言葉があまり好きじゃないんです。確かに皆さんは卒業後、この学校からは居なくなるかもしれません。でも、卒業をした後も先輩達は俺たちにとってはずっとかけがえのない乙女咲の先輩達です。だからあえてさようならの言葉は言いません。これからも同じ空の下で共に学び、共に生き、共に頑張りましょう!! 俺達は乙女咲の名の下にこれからもずっと一緒だ!!』


 ははは! さすがはあくあ君だよ。

 湿っぽさなんて全部どこかへと吹き飛んでしまった。


「いいぞー!」

「あくあ君ー! ありがとう!」

「あくあ様ー、私達の事を忘れないでねー!」

「白銀ー! なんでそんなに喋れてお前は国語の点数が1番低いんだー!」


 あははははは! 最後の杉田先生からのツッコミで、会場に居た全員が大笑いした。

 あのさー、卒業式ってもっと湿っぽいのが普通じゃないの? なんで最後の最後にこんなにも笑わせてくるのさ。


『ちょ、杉田先生ダメだって。ここはカッコつけさせてよ!』


 あくあ君はわざとらしい咳払いすると、私たちに向かってニコリと微笑んだ。


『次の言葉をもちまして私からの感謝と激励の言葉を終わりたいと思います! 改めて卒業生の皆さん、ご卒業、おめでとうございます!! 在校生代表、1年A組、白銀あくあ』


 会場全体から大きな拍手が湧き起こる。

 私は席から立ち上がると、ゆっくりと壇上に向かう。

 次は私の番だ。私は階段のところであくあ君とすれ違う。


「なつきんぐ。あそこを見て」

「え?」


 私はあくあ君が手を向けた方へと視線を向けるために後ろに振り返る。

 するとそこには私の2人のお母さんが座っていた。

 え? なんで? 私はびっくりしてその場に固まってしまう。


「実は総理からチャーター機で奥さんを連れて一緒に帰ってくるから、できるだけ時間を稼いでって言われたんだよね」


 あ、あ、あ……治世子お母さん、本当にいいの?

 こんなところに来たら、私が隠し子だってバレちゃうかもしれないよ。それなのに、どうして?

 そんな私の疑問に隣にいたあくあ君が耳元で囁いて答えてくれる。


「もう隠す必要もないからだってさ」


 そっか、もう黒蝶本家も含めて華族が解体しちゃったし、私も高校を卒業してベリルに入った事で周りも手を出しづらくなったから、お母さんが私の事を隠さなくても良くなったんだ。

 だったら、これからはコソコソしなくても、治世子お母さんと遊びに行ったり、お買い物とかに行けるようになるのかな? 治世子お母さんは忙しいから難しいとは思うけど、そういう可能性があるってだけですごく嬉しい気持ちになった。


「ありがとう。あくあ君」

「いや、今回、俺はなんもしてないし別に良いって」


 そんな事ないよ。あの時、あくあ君が黒蝶家との問題を解決してくれたから今がある。

 もちろんそれだけじゃない。君は黒蝶家を断罪する事だってできたのに、揚羽さんに手を差し出して、ありがとうって言った。そんな事ができるのはきっとこの世界には君しかいない。

 だからみんな君に救われてきたんだ。私も……ね。


「あ、それとやっぱり、なつきんぐのショートヘア凄く似合ってますよ」

「もう、そういうのはここで言う事じゃないじゃん!」


 私はあくあ君にツッコミを入れた後、自分の短くなった髪を照れくさそうに触る。

 黛君主演のドラマに初回放送のゲストで出演した時、私が演じた少女は犯人に髪を切られるシーンがあった。

 監督はウィッグとかでも良いよって言ったけど、実際に髪を切った方がリアリティがあるんじゃないかと思って、自分からそうするように提案したんだよね。


「はは、ちょっとは気持ちが切り替えられた?」

「あ……うん」


 さっきまで嬉しくて泣きそうになってたのに、気がついたら涙だけが引っ込んで笑みが溢れていた。

 あーーーーー! もう! もう! そういうところなんだよ。うん。私はあくあ君のそういうところが好き……なんだ。


「頑張って」

「うん」


 私は用意していた原稿をポケットの中にしまうと1人壇上に登った。

 もうこれはいらない。


『卒業生答辞、3年A組、元生徒会会長、那月紗奈』

「はいっ!」


 私は手を挙げて下ろすと、マイクの前に立ってみんなの顔を見渡す。


『ありがとう』


 最初に出た言葉は感謝の言葉だった。


『今まで共に学校生活を送ってくれた同学年のみんな、そして2年生、1年生のみんな、指導してくれた先生方、見守ってくれた保護者の皆さん、地域の皆さん、そしてこの素晴らしい学校を作り上げてくれた卒業生の皆さん、そのすべての人たちに感謝の言葉を送らせてください。ありがとう』


 涙もろい治世子お母さんはもうハンカチを取り出して泣いていた。

 やめてよ。そういうの見たらせっかく引っ込んでた涙がまた出てきちゃうじゃん。


『そして3年間、ここで楽しく学べた事にありがとう。無事に過ごせた事にありがとう。今日のこの卒業式を計画してくれた在校生、卒業生の代表グループのみんなにありがとう。今日出席してくれた男子達を含めたすべての人にありがとう。色々と言いたい事はたくさん考えていたけど、もうここに立った瞬間から感謝しかありません。だからありがとう』


 あーあ、本当は色々と考えてたのに、もうぐちゃぐちゃだよ。

 治世子お母さんのせいで結局私も泣いちゃうし、もう! 止まらなくなっちゃったじゃない。

 これ、どうしたらいいのさ!


「那月さん泣かないで!」

「先輩がんばれー!」

「元会長、こっちこそありがとう!」

「私も楽しかったよ。ありがとう!」


 泣かないでって! それ、絶対に泣かせにきてるじゃん!!


「少しだったけど、僕たちも凄く楽しかった。もっと早くに来れたらよかったって思ってる!」


 勇気を出した同級生の男子生徒が声を上げてくれた。


「私もお前らと出会えて楽しかったぞー! ありがとなー!」


 担任の先生の言葉に教師陣が続く。


「こんな素敵な卒業式を見せてくれてありがとう!」

「これまで生きていてくれてありがとう!!」


 来賓の人たちや保護者の人からも感謝の言葉が返ってきた。

 ああ、なんて暖かいんだろう。本当に乙女咲に入ってよかった。

 それと同時に今日で卒業しちゃうんだと思うと、また涙がこぼれ落ちそうになる。


「笑えよ。なつきんぐ!」


 あくあ君の声にみんなが視線を向ける。


「なつきんぐは笑顔が1番かわいいんだから。俺達になつきんぐのお日様みたいな元気いっぱいの笑顔を見せてくれ!!」


 ああ、わかったよ。そうまで言われたら笑うしかないじゃないか。

 だって、世界で1番かっこいい男の子に、ううん、世界で1番大好きな男の子にそう言われたら、笑うしかないじゃん。だから目を見開いてよく見ておいてくれよ。

 私のこの笑顔で絶対に君を攻略しに行くから。ゲームじゃない。本物の白銀あくあをね。


『次をもちまして私からの言葉を終わらせたいと思います。みんな、本当にありがとう! 卒業生代表、3年A組、那月紗奈』


 大きな拍手と大歓声が返ってきた。

 私はその中を歩いて自分の席へと戻る。


『それでは卒業証書授与に移りたいと思います。名前を呼ばれた順に返事をして壇上に出てきてください』


 校長先生が1人ずつに卒業証書を手渡していく。

 るーな、うい……そして私の番が回ってきた。


「卒業おめでとう。那月さん、最後の感謝の言葉、私、本当に嬉しかったわ。ありがとう」


 私は校長先生に照れくさそうに笑うと、卒業証書を受け取って自分の席へと戻った。

 その後も滞りなく卒業証書の授与が進行していく。

 さあ、あとは閉会の言葉と退場をして卒業式は終わりだ。

 私も含め多くの人達がそう思っていた。


『それでは次に白銀あくあさん、猫山とあさん、黛慎太郎さんの在校生3人による卒業の歌を贈らせていただきたいと思います!』


 わっ! あくあ君達のサプライズライブに会場全体が湧く。

 生徒も先生も、来賓も保護者も全員を巻き込んだライブにみんなが熱狂する。

 特に最後の全員で歌う四季折々はすごく盛り上がった。


「那月先輩!」

「ナタリア!」


 卒業式が終わったあと、私はナタリアと笑顔で抱き合った。


「素敵な卒業式をありがとな!」

「こちらこそ那月先輩にはたくさんお世話になりました」


 他の生徒会の面々とも抱き合って喜ぶ。

 みんなみんな本当にありがとな!!


「那月先輩、うちのあくあが本当にごめんね」


 カノンさんが申し訳なさそうな顔で私に近づいてくる。

 いいって、そんなに気にしなくても。あくあ君にとってはいつものことだろ?


「紗奈ちゃん」

「治世子お母さん、来てくれてありがとう」

「素敵だったわよ紗奈」

「芽衣花お母さんも来てくれてありがとう!」


 私は両親と抱き合って喜ぶ。

 少し恥ずかしかったけど、それ以上に嬉しかった。


「よっしゃー! 全員で打ち上げ行くぞー!!」


 私が今日の宴会部長ですという言葉が書かれた襷をかけたあくあ君が、全員に向かって大きな声で呼びかける。

 なんでも今から時間がある人は全員でホテルの宴会場に行くらしい。

 校庭の方を見ると知らない間にバスが何台も止まっていた。

 え? あくあ君の奢り? 相変わらずやる事が大胆だね。


「やったー! あくあ君の奢りだー!」

「なんであんたが娘より喜んでるのよ」


 ふふっ、芽衣花お母さんの言う通りだよ。

 治世子お母さん、はしゃぎすぎたらまた謝罪する羽目になるんだからね!

 私は笑いながら2人のお母さんと一緒に会場へと向かうバスに乗り込んだ。

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