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月街アヤナ、みんなでベリルアンドベリルを見る。

 ゆかり先輩と阿古さんの2人と同居生活を始めてから数日後。

 最初から2人が家事を出来ない事は予想していたけれど、お米とかお野菜を洗剤で洗おうとするレベルなのは流石に聞いてなかった。なるほど。あくあが絶対にゆかり先輩をキッチンに近づけようとしないわけだよ。

 そんな状況でもなんとかやれているのは、家が近いあくあとえみりさんがたまに様子を見に来てくれるからです。2人ともすごく忙しいのに本当にごめんね。


「ほら、アヤナちゃん早く早く! もう始まっちゃうわよ!」

「はーい。今行きます」


 私は急いで洗い物を終わらせた後、エプロンを脱いでリビングにあるソファに腰掛ける。

 テレビの前でうつ伏せになったゆかり先輩は、駄菓子屋で売っている甘辛いイカの串を口に咥え、上半身を起こして両足をバタバタさせていた。

 あれ? 阿古さんは? 私は小雛先輩が指差した方へと視線を向ける。あっ、ソファで寝落ちしちゃったんだ……。私は近くにあったブランケットを体にかけてあげる。


「始まったわよ!」


 私はソファに座り直すとテレビの画面へと視線を戻す。

 今日のベリルアンドベリルホワイトデー号は、先月のライブツアーの時にみんなが近くの横丁に立ち寄った時のか。私もこの時、ツアーであくあとのデュエット曲を披露するために横丁にいたんだよね。その時の事を思い出して少し顔が赤くなる。


『というわけで僕達は今、ライブ会場の近くにある横丁に来ています!!』


 とあちゃんの言葉に周りで見学しているファンの人達が拍手する。

 んん? とあちゃんの両脇に天我先輩や黛君はいるけど、なんか肝心の誰かさんだけいなくない?


『あれ? あくあは?』


 とあちゃんの言葉に対して、天我先輩も黛君も首を左右に振って何も知らないよとアピールする。


「どーせ、そこら辺の女の子でも見てデレデレしてんじゃないの?」


 ペロリと舌を出したゆかり先輩は二本目の串イカに手を伸ばす。


『まぁ、いっか、時間もないし僕たちだけで楽しんじゃおう!』

『『おーっ!』』


 3人でスタートしたとあちゃん御一行様は最初の店へと近づく。

 外にテーブルと椅子が出てるから食事をするところかな?

 よく見ると座席の近くにおうどんと書かれた旗が立っていたので、おうどん屋さんのようです。


『あっ』


 とあちゃんの言葉でカメラのアングルがターンすると、その座席の一つに見覚えのある後ろ姿が映った。

 カメラに向かって人差し指を唇に押し当てたとあちゃんは、ゆっくりとその人物の背後から近づいていく。


『こんなところで何してるのさ?』

『おっ』


 とあちゃんに後ろから声をかけられたあくあがカメラの方へと振り返る。

 あれ? 今、なんか慌てて食べなかった?


『もう番組始まっちゃってるよ?』

『わりぃ、腹減っててさ』


 そう言ってあくあは、手に持っていたおうどんの入った容器をカメラの方へと見せつける。

 おいしそー。そういえば伊勢にもあくあの好きなおうどんがあるんだっけ。


『お前らもせっかく伊勢に来たんだからうどん食えよ。身体あったまるぞ』


 店員さんを呼び止めたあくあは、追加でおうどんを三つ注文する。

 よく見るとあくあは、全日本うどん協会名誉総裁白銀あくあと書かれた襷をかけていた。

 いつの間にそんな役職に就いたんだろう。


「私もあいつに対抗して全日本そば協会名誉総裁に就任してやるって電話かけたら、小雛ゆかりさんは結構ですって断られたんだよね。解せぬ! あっ、それなら次は全日本ラーメン協会に名誉総裁になってやらない事もないわって電話かけようかしら。そうすればラーメン食べ放題だし!」


 あはは……全日本そば協会の皆様、全日本ラーメン協会の皆様、本当にごめんなさい!!

 それとゆかり先輩、別に名誉総裁になったからってラーメンは食べ放題にはなりませんよ!

 しかしその二つの名前が出るって事は、お蕎麦は引っ越しの時に、ラーメンもつい最近あくあが作ってくれたから、無意識のうちに刷り込まれてるのかな? 前にあくあがこうなったら餌付けして大怪獣ゆかりゴンを飼い慣らしてやるって言ってたけど、まさか本当に実行してるんじゃ……。ううん、きっと気のせいよアヤナ。ゆかり先輩はともかくとして、あくあの行動に深い意味なんてないんだから、あの顔に騙されちゃダメ!


『あっ、ふわふわで美味しい、麺が太いからどうなんだろうって思ってたけど、食べた感じも讃岐のおうどんとは全然違うんだね』

『うむ、それはこの太さだからではないか? もし、この太さでコシがあったらお年寄りや子供には食べづらい気がするぞ。だけどこの柔らかさなら、年齢に関係なく食べられるな』

『確かに、これだけくたくたになるまで麺をゆがいていれば病気の時や、胃の調子がよくない時にも消化に良くて良さそうですね』


 とあちゃんはもちろんの事、天我先輩や黛君もだんだんとバラエティに慣れてきたなーって感じがする。

 元より3人とも誰かさんと違って危うい発言がないから、むしろとあちゃん達の方が安心して観れる気がするのは私だけかな?


『なぜ伊勢のうどんがこんなにくたくたなのか、実はこういう理由があるんです!』


 あくあはどこから取り出してきたのかパネルを使ってその理由を解説する。

 ごめん。字が綺麗なのと説明でかろうじて理解できるけど、その添付されたイラストは何? あくあの手書き? えっ、そのゾワゾワするようなぐにゃぐにゃした生き物って何? おうどん!? 嘘でしょ……。大丈夫かな? 風評被害になってなければいいけど。


『美味しかったねー』

『帰る前にまた来ようかな』


 BERYLのみんなはおうどん屋を後にすると、横丁をぶらぶらと歩き始める。


『紐の店?』

『慎太郎、どうかしたか?』


 黛君とあくあの2人が紐を売っているお店の前で立ち止まる。

 ゆかり先輩は紐のを干物と勘違いしたのか、ガックリと肩を落とす。さっきから串イカ食べてるし、おうどん食べてる時も羨ましそうに観てたから晩御飯が足りなかったのかな?


『へー、こんなのあるんだ。かわいー』

『伊賀!? ちょっと心がときめくな』


 とあちゃんは帯留を手に取ると、キラキラした目で見つめる。ふふっ、そういう小物とか好きそうだよね。

 その一方で天我先輩もやたらとキラキラした目をしていた。え? 忍者? ふふっ、天我先輩って私やあくあよりも年上なのにまだ忍者なんて信じてるんだ。昔は確かにいたかもしれないけど、普通に考えて通信機器の発達した現代社会にいるわけないじゃないですか。


『慎太郎、お前、貴代子さんに帯留とか買っておいてやれよ。俺も母さんこういうの好きだから買って帰るわ』

『そうだな。うん、そうしておくか』


 とあちゃんや天我先輩も手伝ってあくあと黛君の帯留選びを付き合う。

 黛君はじっくりと選ぶタイプかな? それに比べてあくあの決断力の早さは異常だ。いいなと思ったらまず迷わない。


「どーせ、何も考えてないわよ。ほら、店員のお姉さんが大きいから、その事で頭がいっぱいになってるんじゃないの」


 ゆかり先輩、そんな事をSNSで呟いたら確定で炎上するからやめてくださいね。

 早々に買い物を終わらせたあくあは、店内にある他の商品も見て回る。


『これさ。スニーカーとかスパイクの紐にしたらクソカッコよくね?』

『あー確かに』


 あくあは自分用と、ジョンさんやクリスさんが喜びそうだからとお土産の分も購入する。

 ふふっ、とあちゃん、今、さりげなくあくあと同じ柄の違う色を買ったのを私は見逃していませんよ。

 案の定SNSでもその話題が急浮上する。


『あくあ、どうしたの?』

『ん? あ、ちょっとな』


 先に店を出たあくあが招き猫を置いてある店の前で固まる。


『このお腹をみせて仰向けになってる猫を見てたら小雛先輩の事を思い出してな』

「はぁ? それのどこが私に似てるって言うのよ!!」


 ぷっ! 私は思わず吹き出してしまった。

 ははは、確かにこの前、そんな感じでお腹を出して寝てた気がする。


『あくあ……小雛先輩、絶対にこの番組を見てるだろうし、これが放送される回のスタジオゲストが小雛先輩だったら絶対に怒られるよ』

『あ……。今のカットでお願いします!』


 画面の下にちゃんと映像は使いましたというテロップが表示される。


『それはそうとして、会社に招き猫でもおいとこうぜ。こいつとかいいんじゃないか?』


 あくあは自分の背よりも高い招き猫の体を撫でる。


『いやいや、いくら何でも大きすぎでしょ。入らないし、そもそもどうやってそれを運ぶのさ! ていうか、これ絶対に売り物じゃないでしょ!』

『売ります。というか差し上げます』

『えっ?』


 とあちゃんが振り向くと真顔の店員さんが直立不動で立っていた。

 あ、これは間違いなくガチですね。覚悟を決めた顔をしています。


『いやいや、大丈夫だからね。もらったとしてもこれを置くスペースが会社にありませんから! だからもっと大事にしてあげてください!!』


 とあちゃんは慌てて店員さんを説得する。

 大変だなー。よかったあ、私この時に絡んでなくって……。


『もー、あくあが変な事を言うからもうちょっとで大変な事になるところだったじゃん。あんな大きなの持って帰ったら天鳥社長も絶対に倒れちゃうって!!』

『ごめんって。まぁ、もしもの時は小雛先輩に渡すという手もあるから』


 やめて。確実にあれが入り口を塞いでお家に入れなくなっちゃうじゃん!!


「それは悪くないわね。アヤナちゃんか阿古っちの部屋に置いて、ベッドがないからあんたの部屋に泊まらせなさいよって言えばなんとかゴリ押しできたかも……」


 ゆかり先輩? 私はまだいいけど、阿古さんが知らない所で変な計画を立てないでくださいね?

 阿古さんだって本当はあくあの事が好きだけど、絶対に私以上に我慢してるんですから。

 

『ほら、このくらいのサイズならちょうどいいんじゃない?』

『確かに。じゃあ、これ買って帰るか。そこはかとなくシロに似てるし』


 うんうん、それくらいのサイズならちょうどいいね。ていうかそれ、ベリルの受付で見たなー。

 あれ、あくあが買ってきたやつだったんだ。


『あくあ、社長室に飾るならあっちの方がいいんじゃないか?』

『ん?』


 あくあは黛君が指差した方向を見る。


『確かに。それじゃあこれは受付に置くわ』


 あ、話が繋がった。

 あくあは招き猫の置物を買うと黛君が提案したお店へと向かう。


『いらっしゃいませー』

『すみませーん。神棚ってありますか?』


 なるほど、神祭具とかを売っているお店なのね。


『ん? 我の記憶が正しければだが、社長室に神棚はもうあったんじゃないか?』

『確かに僕もそんな気がする』

『うーん、そういわれればそうだったような……でも、こんな鏡みたいなのあったっけ?』

『それはなかった気がする』

『うんうん』

『我も見た覚えがないな』


 店員さんがあくあ達に神鏡についての説明をする。

 なるほど自分自身を見つめ直して、自らの行動に対して誓いを立てるための道具なのね。


「あんたがそんな物を贈るからますます阿古っちが意固地になるんじゃない!」


 阿古さんは本当にいっぱい我慢してそうだよね。

 それこそ阿古さんだって私と同じ女の子なんだし、あんなにあくあの側にずっといて好きにならない女の人なんていないよねと思った。


『おぉっ!』

『天我先輩、どうかしましたか?』


 あくあ、とあちゃん、黛君の3人が天我先輩が見ているものを覗き込む。

 へー、こんな真っ黒の鏡なんてあるんだ。


『後輩、どうせならこの黒曜石の神鏡にしよう。何、お金なら我が払う!』

『わかりました。そうしましょうか』


 天我先輩は自分用も含めて黒曜石の神鏡を2枚購入する。


『おっ、あれって確か有名なお店じゃないか?』

『すごく混んでるな』

『ちょっと休憩する?』


 BERYLの4人は会計を済ませてお店を出ると近くにあった有名な和菓子屋さんに入る。

 あー、ここのぜんざい美味しかったなー。


『あれ? アヤナじゃん。どうしたの?』

『えっと普通にお茶しに来たんだけど……もしかしなくても収録中?』


 うわあああああああああああああ!

 たまらずにゆかり先輩からリモコンを奪ってテレビのチャンネルを変えそうになった。

 完全にプライベートの私じゃん! ヤダヤダヤダ、普通に見るのが恥ずかしすぎる。

 もーっ、こうなるってわかってたら、もっとちゃんとバッチリテレビ用のメイクとかしてきたのにな。


『ちょっと待って、今はダメだって』

『どうして?』

『……今、完全にプライベートで気が抜けてるから』

『そう? 自然体なアヤナもすごく可愛いと思うけど。まぁ、俺はいつも学校でそういうアヤナを見てるから、そっちの方がアイドルのアヤナと違って話しやすいけどね』


 相変わらずあくあは本当にもう!

 テレビの中の私もそんな一言で簡単に絆されたような顔しないで!!


『ほらほら、テレビの前のみなさん貴重ですよ。これが俺のクラスメイトの月街アヤナです!』

『だから恥ずかしいんだってば!』


 うん、あくあは一度でいいから痛い目を見た方がいいと思うよ。


「いいぞー。もっとやれー!」


 ふーん、ゆかり先輩は明日の朝ごはんがいらないんですね。了解しました。

 私は手に持ったタブレットでSNSをチェックする。



 雪白えみり

 アヤナちゃんとあくあ様の結婚式には呼んでください!!


 森川楓

 こーれ、もう結婚してます。


 白銀カノン

 アヤナちゃん、ごめんね。


 城まろん

 幸せになってね。アヤナちゃん。


 来島ふらん

 先輩、結婚おめでとうございます!!


 一色渚

 結婚式はいつですか?


 杉田マリ

 月街……幸せになれよ!



 なんでさっきのやり取りでそうなるのよ!

 杉田先生までふざけないでください!!

 ただでさえあくあの周りはまともな人が少ないんだから、真面目な杉田先生までそっち側には行かないでくださいよ!!


『さてと、俺達も並ぼうぜ』


 あくあ達は他のお客さんがお先にどうぞと言うのにも関わらず、4人で列に並んで順番を待つ。もちろんあくあは列に並んでいる途中も周りの人に話しかけたりして、和気藹々とした時間を作って番組的にも視聴者を楽しませてくる。

 うん、私はあくあのこういうところが好きだな。

 番組に対してもファンに対しても真摯だけど、それはあくあ本人の性格に由来しているからなんだよね。


『ぜんざい、うま!』

『いやー、寒いとやっぱりこういうあったかいものが美味しいよね』


 とあちゃんとあくあが2人で楽しく会話をしている隣で、黛君が伸びたお餅が切れずにお箸で格闘していた。

 あっ! と思った瞬間、その伸びたお餅が勢いよく切れて黛君のメガネにパシンと張り付いてしまう。


「あははははははは! んっ、あー、待って、今、食べてたイカが喉に刺さったかも」


 はいはい。ゆかり先輩、大丈夫ですか?

 私は苦しむゆかり先輩の背中をゆっくりとさする。


『慎太郎、大丈夫か?』

『あ、ああ、少しびっくりしたが大丈夫だ』


 それを見た周りのお客さん達もたまらずに笑い声を漏らしてしまう。

 黛君ごめんね。私もあまりのミラクルにちょっとだけ笑っちゃった。

 あと、あくあは一見するとすごく心配しているように見えるけど、まるでメガネが黛君本体のような素振りを見せるリアクションはやめなさい! もー、いくら温厚な黛君でもいつかは怒っちゃうよ?

 あくあは本当に甘えられる人にはとことん甘えるからなー。それだけその人には気を許してるって事なんだけどね。


『あくあは本当に一回くらいは慎太郎に怒られた方がいいよ』

『いや、いいんだ。僕はあくあがそうやって僕に対してもふざけてくれて普通に嬉しいよ』


 黛君、いい子だなー。

 一瞬だけその隣で構って欲しそうな顔をしている天我先輩が映り込む。


『美味しかったな。ここからはどうする?』

『我はスタッフの人達にお土産を買って来ようと思う。だからみんなは好きな物を見てきていいぞ』


 どうやら天我先輩は定番のあんこ餅だけじゃなくて、女の子が好きなドーナツやプリンを見つけたのでそれを買いに行くみたいだ。優しいなー。


『じゃあ、僕はお土産さんに行こうかなー。僕がまとめて適当に買っておくよ』


 とあちゃんのお土産のセンスはいいから安心できる。

 これがあくあなら本当に何を選ぶかわからないからね。

 私はあくあと一緒に買い物に行ったからわかるけど、ホワイトデーのお返しとか、さりげなくカノンさんが誘導してた気がするんだよね。もちろん選んだのはあくあ自身だろうけど、きっとカノンさんが隣でアドバイスして変なのにはならないようにしてくれたんだと思う。


『それなら僕は木綿を売っているお店があったからそちらに行ってみようかな。面白そうだ』


 あー、あったあった!

 木綿のワンピースとか、すごく可愛かったよねー。

 私も買おうかどうしようかすごく悩んだよ。


『じゃあ、俺はまた小腹を満たしにうろうろするか』


 あくあは他の3人と分かれて行動を開始すると、食べ歩きメニューがありますという看板に釣られて最初のお店に入る。


『手巻きのてこね寿司って美味しそうじゃん』


 あくあは海苔で巻かれたマグロのお寿司を受け取ると、テレビを見ている私達に見せつけるようにパクリと齧った。

 うわー、バリバリって海苔の音がすごく食欲をそそる。海苔ってなんであんなにもいい音がするんだろう。


『あー、これって醤油に漬けてるのか。マグロがすごくもちもちする。それに加えてシャキッとした酢飯と新鮮な海苔のパリパリ感が最高にいいね。手持ちなのもすごくいい』


 あくあは2口ほどでパクパクとお寿司を食べてしまう。


『ご馳走様でした。あっ、あそこにもなんか良さげなのがあるぞ』


 あくあはそんな感じで立て続けに食べ歩きメニューがある揚げ物やさんや天ぷら屋さんに立ち寄る。

 きっと、あくあが食べたメニューは明日からとてつもなく売れるんだろうな。みなさん頑張って……。


『ふぅ、腹も膨れてきたし、ご飯ものじゃないところにもよってみるか』


 周囲をキョロキョロと見渡したあくあは、近くにあったお店に入る。

 あっ、ここって……。


『へー、真珠のお店か。カノンになんか買って帰ろうかな』


 あくあはショーケースに並んだ真珠のアクセサリーを真剣な表情で見つめる。

 その途中であくあはまた私の存在に気がつく。


『あれ? アヤナじゃん』

『え? また?』

『はは、やっぱり俺達は気が合うな』


 ピロンピロンと携帯の通知が連続で鳴る。

 はいはい、どうせ結婚式がどうとかっていうしょうもない通知でしょ!!


『何してるの?』

『この前、1月に授賞式に出たでしょ。これからはああいうのお呼ばれしてもいいように、ちょっと大人っぽいアクセサリーを持っていてもいいかなと思っただけ』

『なるほどな』

『そういうあくあこそどうしたの?』

『カノンが好きかなと思って……あ、せっかくだから選ぶの手伝ってくれないか?』

『うん、私でよければ全然いいよ』


 私は通知が鳴り止まないので一時的にSNSの通知設定をオフにする。

 みんな絶対に私で遊んでるでしょ!


『この王冠みたいなのがいいんじゃないか?』

『いやいや、確かにカノンさんは似合いそうだけど、それだと普段につけられないでしょ!』


 いきなり値札のついてない王冠を指差すあくあを見て、テレビの中の私は頭を抱える。

 がんばれー。過去の私。


『もっとこう普段の休日から使えるようなのがいいんじゃない?』

『それじゃあこのネックレスとかどうよ』

『あっ、これ可愛い!』


 あくあは天使の羽根が両サイドにくっついた小さな真珠のネックレスを指差す。

 そうそう、そういうのでいいのよ!

 ちゃんと真面目に選んだらちゃんといいものが選べるのに、なんであくあってたまにとんでもないものを選んだりするんだろう。


「それよか、そこの黄金に煌めくクマさんの方が良くない?」


 あっ……ここにも同じレート帯の人がいたんだと頭を抱える。

 テレビではカットされてたけど、あくあはそれもチョイスしようとしたんだよね。うん。もちろん全力で止めたけど。


『じゃあ、カノンはこれで、アヤナはどれが欲しい?』

『えっと私は……って、私は大丈夫だって!』

『はは、せっかくだしなんか贈らせてよ。番組にも出てもらったし、これは俺からの出演料ってことで』


 ほんと、あくあってうまいよね。

 普通そうやってすぐに理由を思いついたりなんかできないよ。


『このピンキーリング、小指につける指輪なんていいんじゃない?』

『あ、可愛い』


 あんまり主張しすぎない感じもいいかも。なんて当時は思ってたら、あくあはすぐに会計を済ませた。

 はー、本当にこういうところはスマートだよね。


『さっきお会計している時に店員さんに聞いたけど、ピンキーリングで幸運のお守りなんだってさ。それと真珠は守護力が高いんだって。だから俺の代わりにこの指輪がアヤナを守ってくれますように願いを込めておくね』


 そう言ってあくあは私の手を取って小指に指輪をはめてくれた。

 うわああああああああああああああ! 私は恥ずかしすぎて、そのままソファの上でゴロゴロと転がりそうになる。

 あくあって、本当にこういうのを恥ずかしがらないよね。

 しかも本人は無自覚なんだろうけど、これってもうほぼほぼ婚約指輪みたいなものじゃん!


「いいわよー。そのまま結婚しろー!」


 ゆかり先輩は手に持った串イカをパクリと齧るとお口でハムハムする。

 先輩、もし次に串イカを喉を詰まらせても背中を摩ってあげませんよ?


『ありがとなー!』


 あくあは手を振って私と分かれる。

 恐る恐るインターネットを開いたら、聖白新聞がトップニュースで白銀あくあさん、月街アヤナさんご結婚という今年1番の大誤報を流していた。いくらなんでも記事が出るのが早くない!?


『おーい!』


 テレビの中の私と別れたあくあは、再びとあちゃん達と合流した。

 その後に買い物をするとあちゃん、黛君、天我先輩のVTRが流れる。

 ふふっ、3人とも本当に楽しそう。良かったねと思った。


『というわけで番組も終わりの時間を迎えました……。が、実はスタッフさんにも内緒にしてたんだけど、ここでちょっと僕達3人に時間をくれませんか?』


 え? どういう事だろう?

 あくあの隣にとあちゃんと黛君の2人が並ぶ。あれ? もしかしてまた天我先輩だけハミ子になってるんじゃ……天我先輩も私達視聴者も悲しい顔になる。


『1日早いんだけど……天我先輩、お誕生日おめでとうございます!! はい、拍手!』

『天我先輩、おめでとー!』

『天我先輩、おめでとうございます!!』


 あ、天我先輩って2月19日が誕生日なんだー。

 私とゆかり先輩、阿古さんの3人がテレビに向かって拍手する。

 って、阿古さんいつの間に起きたの!?


『ありがとうみんな……』


 天我先輩はもう泣きそうな顔になっていた。


『それじゃあ僕から。良かったらこれ着てください』

『今から着てくる! ありがとう!!』


 黛君が買ってきたのは木綿の作務衣とタオルだ。

 あー、いいかも。

 天我先輩は近くのお店のお手洗いを借りると早速着替えてきた。

 あ、似合ってる似合ってる。バンダナみたいに頭に巻いたタオルもいい感じです。


『じゃあ次は僕かな。使ってくれると嬉しいな』

『ありがとう!! もちろんありがたく使わせてもらうぞ!』


 へー、柿渋染めのバッグかー。

 ぱっと見、木目調かと思ったけど、柿渋染めってこんな感じなんだ。

 さすがはとあちゃん。天我先輩の好きそうなものがわかってる。


『じゃあ最後に俺だな』


 あくあは天我先輩の前に立つと長細い袋を手渡した。


『これは……』


 天我先輩は袋の中に手を突っ込むと、中から一本の日本酒を取り出した。


『天我先輩、20歳の誕生日おめでとうございます!』


 あー、そっか。天我先輩って今、大学2年生だから今日で20歳になるのか。


『ありがとう後輩! 家に帰ったらゆっくりと飲ませてもらうよ』


 天我先輩、本当に良かったね。

 そう思ってたら、あくあがさらにもう一本の日本酒を持ってきた。


『後輩、この日本酒は?』

『これは俺達3人全員からのプレゼントです』


 とあちゃんと黛君が一瞬だけ顔を見合わせる。

 おそらく2人とも何も知らなかったんじゃないかな。

 多分、あくあが自分で用意して全員からという事にしたんだと思った。


『これは先輩が持っていてください。先輩には少し待たせちゃうけど、俺達が20歳になったらその時は一緒にこれで乾杯しましょう!』

『後輩〜〜〜〜〜!』


 天我先輩は3人の事をギュッと抱きしめる。

 良かったね。本当に良かった。見ている私達の方が泣きそうになる。

 というか泣いた阿古さんのお鼻をゆかり先輩が拭いてあげていた。


『みんな大人になったら一緒に飲もうな!』

『もちろんですとも!』

『はい!』

『今から楽しみだなー!』


 やっぱりBERYLはいいな。

 この4人からでしか摂取できない何かがある。

 男性だからというのを抜きにしても、まだ発展途上なところも含めて応援したくなる何かがあるんだよね。


「よし、私たちも景気付けに乾杯するわよ!」

「ダメだって。アヤナちゃんはまだ未成年なんだから」

「うっ、そういえばそうだったわ」

「ふふっ、私の事は気にせずに2人とも家なんだから気にせずに飲んでくださいよ」


 私はそう言うと、2人を残して自分の部屋へと戻った。

 ベッドに寝転がった私は、スマホの通知設定をオンに戻してメッセージやコメントを確認する。



 雪白えみり

 ところでアヤナちゃんの結婚式の日取りを誰か知りませんか?


 森川楓

 こーれ、もう妊娠してます。


 白銀カノン

 アヤナちゃん、本当にごめんね。


 城まろん

 うわー、アヤナちゃんおめでとー。


 来島ふらん

 アヤナ先輩が楽屋で指輪見てニヤニヤしてたのってそういう事なんだー。ふ〜ん。へ〜〜〜。そうなんだあ〜。


 一色渚

 赤ちゃんができたら教えてください!


 杉田マリ

 月街……幸せになれよ!



 だから一色さんは気が早いって!!

 それとふらんはSNSで同じ事を呟いたから後でわかってるよね?

 もう! みんなしてすぐに私で遊ぼうとするんだから!!

 私は再度通知をオフにすると、お布団の中に潜り込んで恥ずかしさで1人悶えた。

Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。


https://mobile.twitter.com/yuuritohoney

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >全日本ラーメン協会に名誉総裁 既にはか・・・えみりが就任してるんじゃね?
[一言]  天我先輩に日本酒をプレゼントして自分たちが20歳になったらいっしょに飲もうと言っていたけど、日本酒って開封前でも1年くらいがおいしく飲める期限じゃなかったですっけ?  飲めないことはないは…
[一言] がんばれ常識人超がんばれ(゜д゜)
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