一色渚、私のクラスのホワイトデー。
3月14日、今日はホワイトデーです。
ホワイトデーはバレンタインデーに続いて、あのあくあさんが考えたイベントだ。
なんでもバレンタインにプレゼントを貰った人は、この日にお返しのプレゼントを渡さないといけないそうです。
「えっ? それってあくあ君が私達になんかしてくれるって事!?」
「嘘でしょ!? そんな1年間を締めくくるご褒美みたいな日があっていいんですか!?」
1年A組の女子達はそんな素敵なイベントがあると知ってからずっとソワソワしていました。
周りをぐるりと見渡すと、今日はみんな髪とか身だしなみにすごく気合が入ってます。
なんなら一部の生徒を除いて1年A組は2時間前から全員登校してるし、始発で学校に来た人もいると聞きました。
始発組は大丈夫かな? まだ1限目も始まってないけど最後まで持つ? 見た感じ、始発組は確実に昨日から寝てないよね? ホワイトデーのお返しをもらった時点で限界を迎えて脱落したりしないか心配になります。
「ところでなんでホワイトなんだろうね?」
「やっぱり白銀で白だからじゃない?」
表向きではみんなそう言ってるけど、クラスメイトのいくちゃんみたいに、アレの色が白だからホワイトデーだって言ってる人も結構います。
掲示板民のいくちゃんは検証班の捗るが珍しく真顔で言ってたから間違いないって言ってたけど、そのソースで本当に大丈夫かなあ。同じ検証班でもベリルにいる姐さん、報道機関の最前線にいるティ……んんっ! 森川さんとか、あくあさんのお嫁さんであるカノンさんが言うなら検討の余地があるけど、あの捗るだよ? ソースとしての信用度が1番低い気がする。
そのいくちゃんは近くに居たクレアさんに話しかけていた。
「ねーねー。クレアさんはどう思う? 私は捗るならワンチャンあるって思ってるんだけど……」
「えっ? ど、どーかな。ははっ、私、よくわからないなー」
ん? 今なんか、カチッ、カチッ、ってボタンを押すような音が聞こえてこなかった?
うーん……私の気のせいかな?
「おはよう!」
「おはよー!」
「おはようございます」
あっ、あくあさん達が来た!
やっぱり3人揃っての登校だと華があるなー。
あくあさんは教壇の前に立つと私たちに向かってニコッと微笑む。
「みんなバレンタインはありがとな! よかったら俺達3人からのお返しをもらってくれ」
3人は1人ずつにプレゼントとお礼の言葉を渡していく。
わわっ、実はちょっとだけ半信半疑だったけど、本当にお返しなんてあるんだ……。
私は自分の番が来るまでゆっくりと待つ。
「一色さん、バレンタインはありがとう。よかったら受け取ってくれないか?」
「は、はい! ありがとうございます」
うわー、少し照れながら渡してくれる黛さんの表情に釣られて私まで赤くなる。
黛さんが渡してくれたお返しのプレゼントは、焼菓子の詰め合わせセットでした。
かわいー! あっ、メガネの柄のリボンじゃん!! ちゃんと黛さんらしさがあっていいわ〜!!
「渚ちゃんちょっといい? はい、僕からのホワイトデーだよ!」
「とあちゃん、ありがとう!」
かわわわわ! とあちゃんが私にくれたのは、お紅茶とコーヒーのティーバッグが入ったセットでした。
なーるほど、さすがとあちゃんです。ちゃんと黛さんとセットになってるのがいいなー。
おまけにパッケージの猫ちゃん柄もかわいー! さすがはとあちゃん。女子がときめく事をわかってるぅ!
「一色さん、今、いいかな?」
「は、はい!」
きた! あくあさんを前にした私は姿勢を正して身構える。
何がきてもいいようにちゃんと心から整えておかないと卒倒して失神する可能性があるからです。
「一色さんってさ、いつもポニーテールだよね。だからこれ、喜んでくれるといいんだけど」
そういってあくあさんは私にプレゼントの箱を手渡す。
な、なんだろう?
「開けてみて」
「う、うん」
リボンを解いで箱を開けると、中にリボンのバレッタが入っていた。
それも子供っぽいやつじゃなくて、大人なお姉さんがつけてるようなキレイめのハイソな感じの!!
「どうかな?」
「えっ、普通に嬉しい。嬉しいって語彙力のない言葉しか出ないくらい嬉しいです」
「そっか、それは良かった」
絶対にバイトでお小遣いを貯めて、これに似合うお姉さんワンピを買おうと心の中で誓う。
「あくあさん、ありがとう!」
「こちらこそ。バレンタインはありがとう。一色さんがくれたスタンドになる手持ちの自撮り棒、この前の福島ツアーでも外配信する時にめちゃくちゃ役立ったよ」
はー……これが、これこそが白銀あくあって感じがする。
全体的にかっこいいんですわ。ここでプレゼントをくれたあくあ君の方がありがとうとか、ちゃんと私が渡したプレゼントの事も覚えてるし、なんなら使ってくれてるし、そんなのを聞かされたら私がオーバーキルじゃん。もうなんか、俺以外の男に惚れるなよって釘を刺されてるみたいに自分の中で勝手に拡大解釈されて身悶えしそうになる。さすが言葉だけで女を火照らせる男はちがいますね。
正直、いくちゃんが言っていた捗る説を信じたくなります。あー、あくあさんの事が欲しい。多分、私だけじゃなくて、プレゼント貰ってる子達みんなの胸がキュンってしてる。
「いくちゃん、私も捗る説を信じるよ」
「私も……!」
「みんな……! ありがとう!!」
ほらね。みんな単純なんだから。私もだけど……。
「ははっ、ははは……」
あれ? また、カチカチって音が聞こえてきた。
うーん、一度病院に行った方がいいのかなー。
そんな事を考えてると、私の後ろから七海ちゃんが抱きついてきた。
「渚ちゃんは何もらったのー?」
七海ちゃんは挨拶のように私のおっぱいを揉んできた。
もー、仕方ないな〜。私は七海ちゃんにあくあさんから貰ったプレゼントを見せる。
「おー! 良いじゃん。これ可愛いコートにも似合いそう」
「でしょ! 七海ちゃんのも見せて」
「良いよー」
あっ、プチプラじゃなくてちょっとお高いところのネイルじゃん!!
しかもボトルのデザインが香水瓶みたいだし、色だって普段使いしやすいピンク系統でキレイめだし、なんかすごく良い匂いがする!
「部活のない時に使うんだー」
七海ちゃんは嬉しそうに笑った。
ギャルが素直に喜んでる姿っていいなー。なんか個人的に結構くる。
「みんな席につけー! ショートホームルーム始めるぞー!!」
あっ、杉田先生が教室に入ってきた。
みんな慌ててプレゼントをバッグの中に片付ける。
別に没収されるわけじゃないけど、ちゃんと授業は切り替えないとね。
「あっ、すみません。遅れました」
「月街、ギリギリ大丈夫だったな。ほら、席につきなさい」
「はい!」
そういえば最近のアヤナちゃんってギリギリに登校してくる事が多いけど、お仕事が忙しいのかな?
余計なお世話かもしれないけど、クラスメイトとしては心配になる。
SHRと1限目の授業が終わると、あくあさんがスッとアヤナちゃんの側に近づく。
「アヤナ、どう?」
「う、うん。今のところはなんとかね。ありがと」
はわわ、流石はあくあ様です。
アヤナちゃんの異変を感じ取ってすぐに声をかける。そういうところなんですよ!!
「なんかあったら、俺の事を頼っていいから」
「うん、ありがと」
えっ? 2人は付き合ってるのかな?
2人の間に流れる空気感に目をぱちくりさせた私は、近くにいたつーちゃん達と顔を見合わせる。
「ねぇ? 今の見た?」
「見た見た」
少し頬をピンク色に染めて穏やかに笑みを返したアヤナちゃんと、それに対して頭ポンポンを仕返したあくあ君を見て周囲に居た私達の方がドキドキさせられた。
「あーれ、付き合ってます。いや、ワンチャン、突き合ってます!」
いくちゃん!? なんで言い直したのか知らないけど、2度目の付き合ってるの文字が違う気がするのは私だけかな?
「私はね。あると思ってました」
「私も私も」
「男女のトップアイドル……お互いにしかわからない悩みと葛藤……アイドルとして、歌手として、役者としてライバルでもあり仲間でもある関係……クラスメイト、デュエット曲、ザンダム、そして名前を出してはいけない共通の先輩、これは何かがありますね。恐らくは名前を出すのも恐ろしい例の先輩がキーです」
ミステリー小説が好きな天文部のそらねちゃんは腕を組むとキラリと眼光を光らせた。
それっぽい事を言ってるけど、本当かな?
「そもそもアヤナちゃんを引っ掻き回せるのなんて、小雛ゆかりさんかあくあ君しか居なくて、あくあ君がそうじゃないなら普通に考えて小雛ゆかりさんしかいないんじゃ……」
あっ、確かに……。
朱鷺子ちゃんの言葉に全員が頷いた。
2限目の授業が終わった後、私はプリントを提出するために職員室へと向かう。
その帰りに生徒会のナタリア会長とあくあ君が一緒に居たのを見かける。
「ナタリアさん、バレンタインはありがとう! あの入浴剤、カノンもすごく喜んでたよ」
「ふふっ、カノンなら絶対に好きだと思ったんだ。ねぇ、ちゃんと2人で入った?」
「もちろん! ナタリアさんがプレゼントくれた時にカノンと一緒に使ってねって言ったから、ちゃんと言われた通りにしましたよ」
やっぱりあくあ君はみんながくれたプレゼントのことちゃんと覚えてるんだ。
そういうところが好き……! 後、結婚してもカノンさんと仲が良いところも好き!
だって普通は結婚したらそれまでって男の人がほとんどだし、教室でも見ているこっちが恥ずかしくなるくらいベタベタしているのはあくあ君くらいだよ。
「ところでこれ、俺からのホワイトデーのお返しなんだけど受け取ってくれる?」
「う、うん……!」
見ちゃいけないかな? でも、ここ通路だし、他に逃げ道ないし……これは不可抗力みたいなものだから仕方ないと自分に言い聞かせる。
「あっ……リボン付きのティペットだ!」
「ナタリアさん、冬は喉が乾燥するんだよねーって前に言ってたからさ、あっためると喉にもいいから、使ってくれると嬉しいな」
「ありがとう! すごく嬉しい。今日から使わせてもらうね」
あ〜っ、いかにもナタリア会長に合いそうな感じの大人びたやつ!
ほらほら、いつもはクールなナタリア会長が顔を赤らめてカノンさんみたいになってますよ。あくあさん、気がついてあげてますか!?
「ナタリアさん、カノンも喜ぶと思うから、よかったらまた家に遊びにきてよ」
「わかった。でも……あくあ君は喜んでくれないの?」
「もちろん俺だって嬉しいよ。綺麗なナタリアさんが家に来て嬉しくない男なんて居ないよ」
か〜っ! この男はほんまに!! 口を開けばそういうのがスラスラ出るんだから!!
どっかの捗るが口を開けば放送禁止用語しか出ないのと一緒ですよ!!
昨日、インコさんの乙女ゲー配信からの脳死スイカップゲーム配信を見ていたせいか、ついつい口調が移ってしまう。
全く、あくあ耐性値が低い女子なら勘違いしちゃっててもおかしくないですよ。
ほら、あのクールなナタリア会長がもう完全に恋する乙女みたいな顔してるもん。あれは間違いなく今晩は捗り……いーや、嗜みます! 確定で嗜みます。
そっかー、ナタリア会長でも嗜んじゃうのかー……カノンさんやナタリア会長みたいな綺麗な人でもするのかなって想像したら、同性なのにものすごくドキドキしてきた。
ううっ、これじゃあ、はかなんとかさんの事を馬鹿にできない。そうか、私もそういうのに興味が深々な女の子だったんだね。なもなも……。
「一色、聞いてるか〜?」
ごめんなさい先生、頭の中が悶々として何も聞いてませんー。
身の入らない3時間目の授業が終わった後、席を立ったあくあさんがクレアさんのところへと向かう。
「クレアさん、バレンタインはありがとね」
あくあさんは珍しく周囲を警戒する素振りを見せながら、クレアさんの耳元でそっと何かを囁く。
いいなー。あくあさんとヒソヒソ話とか羨ましい。
「れ、例の頼んでいた聖女様のポスター。すごく良かったです。あえてどこがとは言いませんが、その、透け感とか体のラインとか本当に最高でした……!」
「いえ……あんなものでよければいくらでも、むしろ本当にアレで良かったんですか?」
「はい、最高でした。後ろに映ってたクレアさんもシスター服がびたびたなのも良かったし、こんなけしからんシスターさんばかりいるえっ……いえ、なんでもありません」
クレアさんの顔が急速に赤くなっていく。えー、ちょっと待って、どんな会話してるのかすごく気になる!!
ま、まさか、2人でこっそりと男女のトークなんかしてたりしませんよね!? あくあ様の言葉責めとか、もしやこれはスクープでは? なーんてね。私達のあくあ様に限ってそれはないか。
「と、話は脱線しましたが、クレアさん、俺からのホワイトデープレゼントです。良かったら受け取ってください」
「ありがとう! あ……これって、腹巻き? しかも、腹巻き付きの毛糸のパンツまで!?」
「うん。前にえみりさんと話してたのが聞こえちゃってさ……もしかしてだけど、クレアさんってお腹弱いのかなって思って。余計なお世話だったかもしれないけど、カノンもこういうの使ってるしお腹を冷やさないためにもいいと思うんだ」
クラス全員が一斉にクレアさんの方を見る。
え? 待って、あれって市販品?
シロくんのデザインが入ってるけど、どう見ても寧々ねねねさんのデザインだよね? でも、あんな商品が出てたなんて知らないし……も、もしかして発売前の新グッズとか!?
「え、えーっと、こ、これって、もしかしてだけど……」
「へへ、恥ずかしいけど実は俺の手縫なんだよね。子供ができた時のために練習しててさ、前に練習で小雛先輩に腹巻き作ってあげたら喜んでくれたんだけど、カノンやペゴニアさんがそのデザインで喜んでくれるのは小雛先輩しかいないよって言うんだよなー。だから、クレアさんのはねねちょさんから許可もらって、ねねちょさんのデザインで作り直しました」
て、手作りぃ!? えっ!? しかも、あくあくあくあさんの!?
座っていた生徒たちも全員が一斉に立ち上がった。
「聖遺物じゃん」
「えっ?」
「こんなのもう確定で聖遺物じゃん。これ一個で戦争が起こるぞ……。それなのに腹巻きと毛糸のパンツで2枚もあるし」
「クレアさんどうしたの? もしかしてお腹痛い?」
クレアさん、ものすごく顔色が悪いけど大丈夫かな?
ポンポンが痛いのなら無理しない方がいいよ。
でも私も女だからわかるけど、あれはそういうのじゃないね。完全にキャパオーバーしたんだと思う。
さすがはキルリーダーあくあだよ。BERYLの4人でゲーム配信やってた時も、あくあさんがいつもキルリーダーだったし、FPSゲームでも殺意高めの外入りからファイトガンガン仕掛けて前をどかせていくタイプだからね。
「クレアさん、私と一緒に保健室にいこっか」
「あ、ありがとうカノンさん」
みんながクレアさんに助け舟を出そうかと思った瞬間、それよりも早く動き出したカノンさんがクレアさんに声をかける。
よっ! さすがは正妻!! ネットでポンなみとか言ってる人達みってる〜?
「あくあ君、ありがとね」
「いやいや、それより体調悪い時にごめんね。帰りもキツかったらうちの車に乗って行ってよ。俺なら電車移動でも大丈夫だし」
クレアさんの顔色がますます悪くなった気がするのは気のせいかな?
ペゴニアさんに支えられたクレアさんは、カノンさんと一緒に保健室の方へと向かって行った。
クレアさん、あなたのその勇姿を私達は絶対に忘れません。クラス全員が心の中でクレアさんの後ろ姿に最敬礼を送った。
「あっ、みんな4限目は家庭科室だよー。そろそろ移動しないと」
そうだった。みんな移動の事を思い出して慌てて移動する。
今日の家庭科は調理実習かー。そっかー……。
私は袖を捲ると周囲を確認して腕をブンブンと回す。どうやら周りの女子達も準備運動に余念がないみたいだ。
さっきまでのほんわかとしていた空気感が、一瞬にしてピリピリしたものに変わっていく。
1年A組の家庭科実習のグループ分けはくじ引きだ。つまり、あくあ君やとあちゃん、黛君と同じグループになれば彼らの美味しいご飯にありつくことができるのである。
ま、そんな事バッっかりを考えている思春期の女子ばかりだから、栄養がある一部分に集中して育ってるんだろうなあ。
「ふふっ、どちらが引いても恨みっこなしね」
「ええ、もちろんですわ」
強者のオーラを解き放っていた安心院清香さんと小野寺里子さんがあっさりと外れクジを引く。
わー、2人とも同じグループだなんて、本当に仲良しなんだねー。私は2人の健闘を讃えて笑顔で拍手したら、清香さんと里子さんの大きいものに挟まれた。煽ってるわけじゃないってぇ!
「くっ……俺にやってくれ」
あくあさん、どうかしましたか? ゴブリンやオークに嬲られる前の姫騎士ちゃんみたいな顔してるけど大丈夫?
「おめでとう」
「えっ?」
よそ見しながらくじを引いたら偶然にも当たりを引いてしまった。
いやったぁぁぁあああああああ! あくあさんと同じグループだ。いやっふぅううううううう!
私は心の中でガッツポーズをする。
「おっ、アヤナも同じグループか」
「うん、よろしくね」
Aグループは、あくあさん、アヤナちゃん、ののかちゃん、そして私の4人グループになった。
えーと、調理実習の内容はと……やったー! クレープだー!
しめしめ、あくあさんの手作りクレープが食べれるぞー!
「アヤナ、牛乳取ってくれる?」
「うん」
あくあ君が手を出すのと同時に、アヤナちゃんが牛乳のパックを手渡す。
「アヤナ、レンジでバターとかしといてくれるかな?」
「OK! わかった」
私は隣にいるののかちゃんと顔を見合わせる。
「こーれ、夫婦です」
「えっ? 2人って結婚してたっけ?」
芸能人だからきっと秘密にしてるんだよ。うん、きっとそう。
私たちの知らないところで同居してて、夜はぐへへな事ををしているに違いないね。
そうじゃなかったら、あの感じは説明できないよ。
もう恋人同士というか、完全に夫婦の空気出てたもん。
間違いなく4、5回は夜を重ねてなきゃあんな雰囲気にはならないよ。
だから、ののかちゃん。私達は気が付かない振りをしてそっと見守っておこうね。
「うまー」
「美味しい!」
あくあさんが作ったクレープをののかちゃんと2人で頬張る。
一応中の盛り付けは自分達でしたけど、1番難しいクレープを焼く事はあくあさんが全部やってくれた。
「はー、もう幸せ……」
お昼どうしようかなー。クレープぱくぱくしちゃったし、今流行りのオーガニックで野草っぽいサラダにしよーっと。
クラスのみんなとサラダを買うために食堂に行くと、あくあ君達がやってきた。
とあちゃんはミニランチ、黛さんはシンプルなおうどん、あくあさんはガッツリとトンカツ定食を注文する。
「くっ……! たくさん食べるあくあ君が可愛い!」
「ずーっと、アーンだけでご飯食べさせてあげたい!!」
ぱくぱくとご飯を食べるあくあさんを見て、もみじちゃんとのどかちゃんが悶える。
あくあさんってめちゃくちゃ動いてるから消費カロリーとかもすごいんだろうなあ。
体育の授業もいつだって全力だもんね。
先にご飯を食べ終わったとあちゃんと黛さんは何か用事があるらしく、どこかに行ってしまった。
「あっ、なつキング」
「あくあ君、この前ぶり」
わわっ、那月元会長だー。
この前までうちの生徒会長だったのに、今やもうベリルのアイドルだもんね。
それも総合能力の高さもあって、ソロアイドルだよ。すごいよね。
「こうやってあくあ君が食堂でご飯食べるのも今日で見納めなのだと思うと少し寂しくなるな」
「はは、それなら普通にご飯いきましょうよ。卒業祝いで俺が晩御飯奢りますよ」
ひゅ〜っ、さすがはあくあさんだよ。
流れるようにご飯デート誘うじゃん。
本人はそんなつもりがないんだろうけど、鈍感な那月元会長ですら少しびっくりして意識した顔をしている。すごいね。あくあ君の前じゃどんな女の子でも一瞬で乙女だよ。
「あっ、そうだ。バレンタイン、ありがとね。なつキングのくれた手袋、バイク乗る時に使わせてもらってるよ」
「おー、実は私もバイク買おうと思ってるんだよね。この前の福島旅行でさ、レイラさんと小早川さんに絡まれて3人でツーリング行こうって話したんだ」
「いいなー。俺も行きたいなー。なんならバイク見に行く時も一緒に行きましょうよ」
「えぇっ!? い、いいのかい?」
「もちろん」
もうそのままの勢いで結婚まで行っちゃう流れですか!?
流石は攻めのあくあさんだよ。防御力は簡単に貫通するくらいペラペラだけど、攻撃力だけ限界突破してる。ほんとグイグイ来るね!?
「あっ! それとは別にこれホワイトデー。もしかしたら食堂でなつキングに会うかもって思って、持ってきてたんだよな」
「あ、ありがとう! わ! 携帯用の加湿器だ!」
「アイドルにとって喉は大事だからね。よかったらたくさん使ってあげてよ」
「嬉しいよ! あくあ君、ありがとう!」
やっぱりね。あくあさんは本当にちゃんとみんなの事を考えて選んでるなーと思った。
お昼の休み時間が終わって午後の授業を受ける。
「終わったー……」
普通、学校が終わるとワクワクするけど、クラスの半分くらいの子は元気がなくなる。
これは授業で疲れたからとかじゃなくて、あくあさん達とお別れしなきゃいけないからだ。
「アヤナ」
「どうしたのあくあ?」
ついにきたか!
さっきまで死人になっていたようなクラスメイト達も活気が戻ったかのような顔で立ち上がる。
やっぱりみんな、あくあさんがアヤナちゃんに何あげるか、気になってたんだよね。
「ん」
「ありがと」
私は周りに居た女子たちと顔を見合わせると、ヒュ〜っと口笛を吹いた。
今の、ん、聞いた? はー、これはもう付き合ってるとか結婚してるとかいう次元じゃないね。
「結婚式の日取りが決まったら教えてください」
みのりちゃん、流石にそれは気が早いよ!
って、周りも私も普通に頷くんかーい!
「あ、これって……」
「引越しした時に新しいルームウェア買おうかなって言ってただろ。前にさ、カノンのルームウェア見て可愛いって言ってたから、同じブランドの新しく出てた奴買ってきたわ」
はー、この男は、本当に……!
さっき、ん、しか言ってなかった癖に、ちゃんと全部の話聞いているし、覚えてるんだよね。
「ありがと」
「おう。また後で家行くから」
マタ アトデ イエ イクカラ ?
クラスのみんながお互いに顔を見合わせる。
「出産予定日がわかったら教えてください」
だからみのりちゃん、気が早いってええええええ!
とか言いながら、私たち全員で普通に頷いた。
「今日の写真もありがとう」
私は新聞部に今日の写真データを手渡すと、帰宅するために校門へと向かう。
その途中で私は、杉田先生とあくあさんの2人に遭遇してしまった。
「白銀、どうした? 今日は部活か?」
「はい」
おっとぉ! 先生、もしかしてこれって密会ですか?
先生と生徒の関係ってなんだかドキドキするよね。見てたらダメだと思いつつも、ここから動けそうにないので私は壁になる。
「先生、バレンタインはありがとうございました」
「はは、安い駄菓子だけどな。ああいうイベント、先生はいいと思うぞ」
そういえば杉田先生はクラスみんなにチョコの駄菓子が入ったお菓子の箱を持ってきてくれたんだっけ。あれ、よかったーな。いろんなチョコのお菓子が入ってて、みんなでぱくぱく食べたっけ。
厳しい学校とかだとアウトだったらしいけど、乙女咲はそこらへん自由だからいいよね。
「そのお返しといっちゃなんだけど、これ、俺からのホワイトデーです」
「あ、ああ……ありがとう。でも、白銀、私は先生だぞ。こういうのはだな。うん……他の生徒達にもだな……」
あー、杉田先生はそういうところもちゃんと気にするよね。
私達は普通に応援するのに、杉田先生は真面目だから普通に抜け駆けって思ってそう。
「だろうと思って、この時間を狙ってやってきました」
「えっ?」
あくあさんは杉田先生にスマホの画面を見せる。おそらく時間が表示されているんだろう。
「この時間なら先生は勤務時間外でしょ。だったら今は先生と生徒じゃなくて、ただの白銀あくあと杉田マリじゃないですか」
「ははっ、白銀、やっぱりお前はうまいな。でも……流石にそれは屁理屈がすぎるぞ。私はたとえ勤務時間外、いや、お前達が卒業したとしてもずっとお前達の先生だし、お前達は私の可愛い生徒だからな」
ふぁ〜っ、あくあさんのテクニックにも動じない杉田先生つよしゅぎるぅ!
流石は私達1年A組の担任だよ。後、卒業した後も私達の先生とか嬉しいなあ。えへへ……。
「とはいえ、生徒の気持ちを無碍にする先生はもっとダメだからな。これはありがたくもらっておくよ。ありがとう。ところで、中を見てもいいか?」
「もちろん」
杉田先生はプレゼントの袋を開けると、中からブランドものぽいアクセサリーが入った箱が出てきた。
「これは……イヤリング?」
「はい。あの時、あいつのせいで先生がつけてたイヤリング壊れちゃったでしょ。だからそれ、よかったら使ってくださいよ」
ねぇ、それ何の話!?
何の話か知らないけど、一瞬で杉田先生の顔が乙女になっちゃったよ!!
はー、やっぱり私達みんなのあくあさんは最強ですわ。
どんな壁だろうと正面から行ってパワーでこじ開けちゃうんだもん。
やっぱりティ……森川アナのパワーニュースで言ってた、世の中はパワーです。レベルを上げて物理で殴れば大抵どうにかなりますっていうのは真理だったのかー。私も明日から森川アナのパワー教に入ろうかな。
「ありがとう。白銀……」
先生、本当に嬉しそう。よかったね。
私はそーっと1人その場から離れる。
本当は大スクープっぽいけど、もちろんこれは黙っておくよ。あくあさんだって、杉田先生に迷惑をかけないつもりでこの時間帯を狙って声かけたんだろうしね。
「さーてと、帰りますか!」
この翌日、私はあくあさんからコソッと話しかけられて、昨日の事を黙ってくれててありがとねって言われて、もっと好きってなっちゃうけど、この時の私はまだそれを知らない。
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