白銀あくあ、えみりさんとお忍びデート。
3日間のツアー最終日を終えた俺は、BERYLのみんなと別れて同じ県内にある志摩スターズ村に来た。
「おー、ここが志摩スターズ村かー」
スターズをテーマとして作られた複合リゾート施設、それが志摩スターズ村だ。
ここの良いところはテーマパークとして結構ちゃんとしてるのに、某ランドとかと比べて人が全然居ない事である。だから今日みたいなお忍びデートにはもってこいなのだ。
「あっ、あくあ様、その……」
「うん? えみりさんどうかした?」
「え、えっと、その……」
えみりさんは俺の事をチラチラと見つめる。
あっ、そっか。今回は予定していた前回のデートと違って貸切にできなかった。
だから、俺とえみりさんは一応お忍びってことでえみりさんは変装、俺は女装してるんだけど、やっぱり俺の女装が微妙だったかな? これでもちゃんとベリルのスタイリストチームの人が気合い入れてやってくれたんだけど……。
「ちょっとだけ揉んでみても……いや、なんでもないです」
揉む? 何を?
これが俺ならちょっとその大きなお山さんを揉んで良いですかの揉むだけど、えみりさんに限って100%……いや、1200%それはないだろう。という事はきっと他のものに違いない。うん、絶対にそうだ!!
揉んでみても、もんでみても、mondemitemo……はっ!? そうか。そういう事だったんですね。えみりさん!
これは揉んでみてもじゃなくてmundo mi temo、スターズでも一部の地域で使われてる言葉だ。
mundoは世の中、世間、miは私、temoは心配、恐れるという意味がある。
つまりえみりさんはこのお忍びデートが世間にバレないかちょっぴり心配だという事を俺に伝えたかったんだろう。
くっ、なんて可愛いんだ! ちゃんと守ってあげないとなという気持ちになる。
「大丈夫ですよ」
俺はえみりさんの不安を解消すべく、笑顔でこう答えた。
「えぇっ!? ほ、本当に!?」
もちろんです! ほら、遠慮なく頼ってくださいと俺は胸を張る。
おお……! 胸を張ったら結構サイズあるな。詰め物だと分かっていても、男としてちょっと揉みたくなる。自分のだけど……。
「じゃ、じゃあ遠慮なく……ひぃっ!?」
えみりさんは一瞬だけ視線を逸らすと俺の背中にそっと隠れる。
あれ? どうしました? 心配しなくてもここはあまり人いないし、ほら、誰もみてませんって。
「あっ……くんくん、良い匂いが、ふぁ〜」
おっと、近づいてきたえみりさんから良い匂いがして、たまらず心の声が漏れてしまったようだ。
きっとえみりさんの声で再生されたのは、俺の脳内が勝手にそう処理してしまったのだろう。
「あっ、なんかスタンプラリーやってますよ!」
「本当だ」
これって確かサヤカさんと同じ大惨事所属の紅鶴ミンゴちゃんこと、ンゴちゃんとのコラボじゃん。
そういえばスターズ村の名誉村長になったとかって配信で言ってたっけ?
俺たちは受付のお姉さんからスタンプラリーの用紙を貰うと、近くにあった1個目のスタンプを押す。
おー、すげぇ。よくみるとスタンプの台座が置いてあるところに、バブル時代にできたみたいな立派なンゴちゃん銅像まで立ってるじゃん。
「えみりさんせっかくだから一緒に写真撮りましょう」
「うん!」
俺はえみりさんとンゴちゃんの銅像と3人で並んで写真を撮る。
それにしてもンゴちゃん小さいな。そういえば設定は小学生くらいだっけ? いや、ギリ中学生か。
俺は知り合いのV仲間達で作ったグループチャットに画像を投稿する。
星水シロ@ベリル
お友達と2人で志摩スターズ村に来た!
十二月晦日サヤカ@大惨事
ンゴ様、羨ましいですわ〜!
紅鶴ミンゴ@大惨事
ンゴー!? べっぺんなお姉さん達に挟まれてるンゴ!?
春咲ツバメ@ホロスプレー
ンゴちゃんの身長なら2人のお姉様に挟まれてそのまま浮きそうw
鞘無インコ@ホロスプレー
うらやま!
片平駒鳥@ホロスプレー
Wお姉様……良い!
大海たま@ベリル
ふーん、僕とは女装デートしてくれないんだ?
十二月晦日サヤカ@大惨事
たまちゃん様!?
紅鶴ミンゴ@大惨事
ンゴおおおおおおおおおおおおおおおお!?
鞘無インコ@ホロスプレー
ンゴちゃんなもなも!
向坂スズメ@ホロスプレー
インコ先輩、乙女ゲー配信まだですか?
鞘無インコ@ホロスプレー
乙女ゲーもう嫌ンゴおおおおおおおおおお!
俺はインコさんに乙女ゲー配信頑張ってねと送ってから画面を閉じる。
インコさんには悪いけど、俺は俺で今からリアル恋愛ゲーを頑張らなきゃいけない。
「えーと、2つ目のスタンプが置いてある場所は……スターズ村の名物?」
「名物……あ、そういえばさっきポスターにチュロスが名物って書いてました!」
「OK! じゃあ、そこに行ってみようか」
「はい!」
おっ、ここか。ちょっと小腹空いたし、スタンプを押すついでにせっかくだから少し食べていこうかな。
「えみりさん、せっかくだし、ピザでも食べますか?」
「え? そ、それって、デブはピザでも食ってろって……」
そんな酷い事、言ってないよ!? 誰に言われたのそれ!?
そもそもだけど、えみりさん別に太くないじゃん……。
なんなら俺はちょっと肉付きがいい方が……いや、なんでもないです。
「はは……実はあくあ様のところでご飯いただくようになって、最近ちょっと太っちゃって……でも、ウェストとかは別に変わってないんです。んー、どこにいっちゃったんでしょう?」
「えみりさん……」
立ちくらみを起こしそうになった俺は少しだけよろめく。
「えみりさん……もしかして、最近、胸が苦しかったりとか?」
「え? あっ、はい。たまにそうなるんですけど……今もドキドキして胸が苦しいです」
えみりさーん!!
その苦しさはドキドキとは違うんですよ!
それはですね。増えた体重がある一部分にいってサイズが合わなくなってるだけなんです!!
くっそー、協会長の俺とした事が、冬服のせいでえみりさんのサイズアップに気がつかないとは、なんたる不覚! 協会長として、これは解任を請求されても仕方のない事案だ。
俺は気合いを入れ直すために、頭の中で弛んでいた自分の頬をグーで殴る。
バンっ!
うぉっ! びっくりしたあ!?
えっ? 俺、リアルにほっぺた殴っちゃいました?
いや、違うな。どうやらお客さんの1人が壁を殴ったみたいだ。
「おほほ、すみません。壁に虫がいましたの」
あー、うん。でも、さっきすごい音してたけど大丈夫? 手、痛くないですか?
「ひぃっ!」
えみりさんは大きな音にびっくりしたのかビクビクしていた。大丈夫大丈夫。
しかしさっきのお客さんの声、そこはかとなくだけどくくりちゃんに似てた気がする。
まぁ、俺の気のせいだろうな。うん、きっとそうに違いない。
「大丈夫です。えみりさん、ほら俺のピザも食べていっぱい育ててくださいね。俺のために!!」
「やっ、やっぱり、ピザでも食ってろデブってそういう事ですか!?」
ん? えみりさん、何か言いましたか?
えみりさんはうっすらと涙を流しながらもぐもぐとピザを食った。泣くほど美味しかったのかな?
俺とえみりさんは食事を終えると、次のスタンプを探しに行く。
「3つ目のスタンプのヒントは……門?」
「あれって門かな?」
俺はえみりさんの指差した方へと視線を向ける。
おー、本当だ。なんかあれっぽい気がする。
「えみりさん、いこ」
「う、うん」
俺はえみりさんの手を引いて、門のある方向へと周りの景色を見ながら進んでいく。
後ろから、しゃぁっ! って声が聞こえたけど、近くにある的当てゲームでもうまく行ったのだろうか?
俺達は門の近くで3つ目のスタンプを押す。
「この門の中が劇場になってて映像作品とか流してるみたいですよ」
「へー。行ってみようか」
劇場の中に入ると、えみりさんが何かに気がついて立ち止まる。
「どうかしました?」
「えっと、なんかトラブルみたい?」
ん? ああ、本当だ。スタッフさんがなんか慌てたそぶりを見せてるけど、どうしたんだろう?
えみりさんはすみませんと俺に一言告げると、スタッフさんのところへと向かう。
もちろん俺もその後を追う。
「どうかしましたか?」
「あっ……えっと、映像は大丈夫なんだけど、なんか音が出なくて……すみません! 次のでラストの予定だったんですけど、もしかしたら今日の公演はこれでおしまいかもです」
それは残念だけど仕方ない。
俺が助けられる事ならどうにかなるけど、流石に機械の故障まではどうにもならない気がする。
「あ、あの、音響機器とかって使えます?」
「スピーカーとかマイクは大丈夫ですけど……お客様、それがどうかしましたか?」
えみりさんは申し訳なさそうな顔で俺の方をチラリとみる。
「……あくあ様、ピンクのバラって覚えてますか?」
「当然覚えてるけど、それがどうかした?」
えみりさんは近くにあったポスターに親指をクイっと向ける。
あっ! 映像作品ってピンクのバラなのか!!
「幸いにも私は嗜……カノンとメアリーお婆ちゃんと姐さんのせいでピンクのバラを見まくってるので、全員のセリフを完コピできます」
まじかよ!? えみりさん半端ないな!? 流石に俺も驚いたわ。
「というわけで、少し手伝ってきてもいいですか? その……デート中に本当、すみません!」
「それは別にいいんだけど、それならここにもう1人適役がいない?」
「えっ?」
俺は自分に向けてサムズアップする。
「もしかして……アステルのセリフ、全部、覚えてるんですか?」
「当然、俺は一度やった役なら全部覚えてる」
勉強した事は寝たら1日で忘れるけど、そこは許してほしい。
俺は記憶のリソースの全てを芸能に関係する事に振り切っているのだ。
流石に作品に出てくる全員のセリフを覚えている小雛先輩には勝てないけどな……。まぁ、あの人は役者以外の事を全てどこかに置いてきてるから仕方ない。
俺はスタッフのお姉さんに近づくと、そっと耳元で話しかける。
「お姉さん、よかったら俺達に少し手伝わせてくれないかな?」
「あっ、あくあくンゴォ!?」
おっと、危ない。俺は思わずお姉さんの口を手で塞ぐ。
口を塞がれたお姉さんがトロンとした目で体をビクンビクンと震わせる。だ、大丈夫ですか?
「う、うらやま……」
えみりさん何か言いましたか?
「ごめんね。今、お忍びだから、で、俺達でよかったら手伝えると思うんだけど、どうかな?」
「お、お願いします!」
スタッフのお姉さんはすぐに上司に相談してOKを貰うと、俺とえみりさんの2人を音響施設のある部屋に通す。
「そ、それじゃあよろしくお願いします。あ、あの、ダメだったらダメでいいですからね!」
スタッフさんのお姉さんはそう言って部屋を出ると、ステージに出て観客の皆さんに音響トラブルについて説明する。
俺もそれに合わせてただの白銀あくあからベリルの白銀あくあに切り替えた。
1人のエンターテイナーとして見に来ているお客さん達のためにも、何よりも1人の男として隣にいるえみりさんのためにも、カッコつけさせてもらおうか。
『エリーゼ! どこにいるのエリーゼ!』
最初のセリフはエリーゼの母、マチルダのセリフだ。
えみりさんうめぇな。バイトで色々やってたからって言ってたけど、これなら普通に声優とかできそうだ。
『どうされたのですか、お母様?』
ンゴおおおおおおおおおお! えみりさんの声が良くて思わず仰け反りそうになった。
例えるならばカノンのような可愛いお姫様声と、美洲お母さんのような綺麗なお姉さん声と、玖珂レイラさんのキリッとしたかっこいい声のミックスである。
そういえば正月に宴会芸でカノンの声真似しててカノンが顔を真っ赤にしてたっけ。えみりさん本当にすげぇな。デュエットオーディションで七色の声を持ってるって審査員のエリーカ様に言われてたけど、ガチじゃん……。
『くっ……』
おっと、そんな事を考えている間に自分の出番が来たぞ。
俺はアステルだった時の声を作る。
『どうやら困ってるみたいだね』
俺が一声を発すると会場が大きくざわめいた。
アステルは俺史上最もキラキラな爽やか王子様ボイスだが、それでも声質は俺なので、まぁ普通にバレるよな。
『助けは必要かな? お嬢さん』
2言目には大歓声と拍手が上がった。
うん、会場の反応は悪くないな。えみりさんも順調だし、これなら無事にやりきれそうだ。
そのままシーンはどんどんと次に進んでいく。
『やっぱり舞踏会なんて退屈ね……』
エリーゼのセリフを聞いて、俺はえみりさんの横顔を見つめる。
今日のデート、えみりさんに退屈だなんて思われてないだろうか?
幸いにも俺は何度か女性とデートしてそれなりに経験を積んだつもりだけど、それでもまだ不安だ。
『おっと、先約かな。お嬢さんよかったら、私もほんの少しだけここで休憩させてもらえないだろうか?』
俺の視線に気がついたのか、えみりさんが俺の方へと視線を向ける。
『は、はい。どうぞ……』
えみりさんって、すごく不思議な人だ。
ミステリアスというかなんというか、俺はまだ彼女の事について1%しか知らないんじゃないかって思う時がある。
『せっかくの満月の日なのに、雲で隠れてしまいましたね。まるで貴女のようだ』
そう、思い返せばつい最近も何かに気がつきかけたような。うーん……バレンタイン配信の時だったか? 思い出せないな。
ふと頭の中に何故かラーメンが思い浮かんだけど、それはきっと俺の腹がまだ空いているせいだろう。
俺とえみりさんは順調よく読み進めていく。
『アステル……私、ずっと待ってるから』
そういえばピンクのバラって俺達が文化祭で披露したバージョンに全部切り替わってたんだっけ。
まさか文化祭でやった事がそのまま本家に本採用されるとは思わなかったな。
「ありがとうございました!」
「こちらこそ」
俺とえみりさんは最後までやり切ると、コソコソと裏口からスタッフ用の通路を出て劇場を出る。
よしっ、なんとかこのままデートを継続できそうだぞ。って、もうこんな時間か。時計を見ると閉園までの時間が迫っていた。
「あっ! あくあ様、あれ!」
「ん? あっ、4つ目のスタンプだ!!」
4つ目のスタンプがあったのはアトラクション施設の前だった。
「次が最終になりますー。乗られる方はいますかー?」
うーん、スタンプは残り1つだけど、見つかるかどうかわからないし、どうしようかな?
俺は隣にいるえみりさんに相談する。
「せっかくだし、乗っていく? それとも5つ目のスタンプ探す?」
「まだ帰り道もありますし、せっかくだから乗っていきましょう」
「OK!」
俺とえみりさんはアトラクション施設の中に入る。
見た感じ子供でも乗れる緩めのジェットコースターかな?
俺とえみりさんが船の形を模した乗り物に乗り込む。
「危険ですのでもっと、つめてくださーい!」
「ちょ、おま……」
「はいはい、危険ですからねー。隣の人にギュッと密着しててく・だ・さ・い・ね!」
おっふ! なんか知らないけどアトラクション施設のスタッフさんに押されて、隣のえみりさんの体が俺の体にムギュッと押し付けられる。お姉さんナイスゥ!!
ありがとうございますありがとうございます! 志摩スターズ村、紅鶴ミンゴちゃん、スタッフのお姉さん、俺はあらゆる人達に感謝した。
それにしてもさっきのスタッフさん、2つ目のスタンプを押したところにいたお客さんと声が似てたな。俺の気のせいか。
「それじゃあ出発しまーす!」
おお! ゴトンゴトンと俺達2人を乗せた小さな船が動き出す。
なるほど、冒険風のアトラクションになってるのか。
「うぎゃー、野生の楓パイセンだー!」
「よく見てえみりさん! ゴブリンですゴブリン。楓じゃないって!」
確かにコミカルな動きがそこはかとなく楓に似てる気がするけど俺の気のせいだよな?
ん? よく見たら、あとあのやたらとでかい敵の女幹部……どこかで見た事があるような気がするぞ。うーん、なんだったかなー。思い出せない。
あれ? そういえば閉園時間のアナウンスの声もそこはかとなくカノンの声に似てたような……。っと、そんな事よりもデートに集中しなきゃえみりさんに失礼だ。
「うわっ」
「おぉ!」
そういえば水を少し被りますって書いてたっけ。
えみりさん大丈夫? ってぇ!?
俺とえみりさんはお互いに顔を見合わすとフリーズした。
「おっ、おっ、おっ……!」
「み、水も滴る良いなんとか……」
ん? えみりさん今、なんか言いました。ちなみに俺は何も言ってませんよという爽やかな顔をする。もちろんそんな顔をしつつ、俺の視線はえみりさんに釘付けだ。
「お疲れ様でしたー!」
「「あ、ありがとうございました」」
ふぅ、なんか色々あった気がするけど最終的に濡れてた事しか記憶に残らなかったぞ。
「間も無く閉園でござる。お帰りはあちらの方になるで候」
おっと、もうそんな時間か。
こんな夜遅くまでスタッフの人もご苦労様です。
「はは……ははは……」
えみりさんの笑顔が引き攣ってるけど、もしかしてアトラクションが苦手だったのかな?
「もしかして、えみりさん、さっきの苦手だった?」
「い、いえ! 全然よかったです!!」
そっか、それならいいんだけど……。
うん、それにしてもさっきの誘導員の子、りんちゃんくらいちっちゃかったな。
こんな夜遅くまで小さい子がバイトしてると心配になる。早く帰りなよー。
『皆様、本日の営業は間も無く終了いたします。本日はご来園ありがとうございました!』
うーん。やっぱりこの声、カノンに……って、いたっ! 誰かに後ろから看板で小突かれた。
ん? 着ぐるみ? あー、スターズ村のキャラクターかな?
【早くしなさいよ!!】
こっわ! 早くしなさいよって何!? 早く帰れってこと!?
あっ、別の着ぐるみさんが出てきてその人を手刀で気絶させた。
【すみません旦……お客様、小……このキャストは疲れてるみたいなのですぐに片付けます】
あっ、うん。そうだよね。みんなだって早く帰りたいよな。ごめんね。すぐに帰るから。
「みんなー、今日は来てくれてありがとー!」
おー、俺とえみりさんはパレードから引き上げていく女船長さんのキャストさんに手を振る。
んんっ? 女船長さんと目が合いそうになった瞬間に逸らされた。
俺の気のせいか。心なしかアヤナの声に似ていたが、アヤナがあんなに大きいはずがない!! これは協会長として断言してもいい! アヤナがあんなボタンが弾け飛びそうなほど大きいわけがないだろ!! 常識的に考えてない。100%ないったらないね!!
「お忘れ物、落とし物のないようによろしくお願いします!」
はーい。俺は身長の高い警備員さんにお仕事お疲れ様と敬礼する。
りのんさんもかなりでかいけど、たまにいるんだよな。ヒール履いてなくても俺より身長の高い女の人。
「最後のスタンプがまだの方はいらっしゃいますかー? 最後のスタンプのヒントは3510でーす!!」
3510? どういうこと?
「あっ、あくあ様、地図です。地図」
地図? 俺はえみりさんに言われた通りに地図を広げる。
3510番なんて数字はないけど、35番と10番ならある。その間に何かあるな。
あっ! 入り口近くの総合インフォメーションか!
俺とえみりさんは帰り道、入り口そばにある総合インフォメーション前を訪れる。
「いっ……5つ目のスタンプはこちらになります」
「ん? クレアさん?」
「イエ タニン デス」
「えっ? でも……」
「ゼッタイニ タニン デス」
うーーーーーん。どっからどう見てもクレアさんだけど、世の中には似てる人が3人居るっていうし、常識的に考えて志摩スターズ村にクレアさんがいるわけないよな。
「コレガ スタンプラリー ノ ケイヒン デス。オメデトウ ゴザイマス!!」
「あっ、はい。ありがとうございました」
「ありがとうござました……」
あれ? えみりさん、ドチャクソ疲れた顔してるけど大丈夫ですか?
ごめん。俺がはしゃぎすぎて疲れさせちゃったかな?
「えみりさん、今日は俺とデートしてくれてありがとう。すごく楽しかったよ」
「あっ、わ、わたわた私こそ、ありがとうございました! すごく楽しかったです」
「ごめんね疲れちゃったよね?」
「い、いえ、あくあ様に比べたら全然大丈夫です。あ、あの、あくあ様は疲れてないんですか?」
全然! あー、やっぱりえみりさんは優しいな。
俺がライブをやった後だからって気遣ってくれる事に、涙がホロリとこぼれ落ちそうになった。
「えみりさん。また今度ゆっくりとデートしようね」
「はい!」
さてと、あとは帰るだけなんだけど、この原っぱに行けばいいんだっけ?
俺は琴乃から手渡された場所へと向かう。
するとそこには一台のヘリコプターが止まっていた。
「あれ? くくりちゃん?」
「はい!」
どうやらくくりちゃんも用事があってここに来ていたらしい。そっかー、なんの仕事か知らないけどお疲れ様と言ったら、すごく喜んでくれた。
「明日、学校あるから助かったよ」
「いえいえ、そうだと思って手配……いえ、なんでもないです」
ん? ごめん、最初の辺がちょっとプロペラの音で聞こえなかったんだけど何か言った?
「泊まって朝一に帰る事を考えてたから助かったよ」
ゴンっ!
くくりちゃん!? えみりさん!?
2人ともヘリの窓に頭ぶつけて大丈夫!?
「そ、その手があったかーーーーーー!」
くくりちゃん? 悪い、さっきからプロペラの音がすごくてなんも聞こえないんだ。ごめんね。
「あ、あくあくあくあ様とお泊まり、ぐへへ……」
あっ、疲れていたのかえみりさんが幸せそうな顔で気絶した。
俺はえみりさんの体にそっと自分の着ていた上着をかけると、俺の肩に頭をもたしかける。今日は本当にありがとね。
途中でくくりちゃんも疲れていたのか、俺の膝に頭を乗せて寝てしまう。こっちもお疲れ様。
心の中でグヘグへしていた俺も疲れていたのか、そのままいつの間にか寝てしまった。
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