鷲宮リサ、バレンタインって何ですの!?
『貴女に好きな人はいますか……?』
朝食の後、リビングのテレビをつけると見た事もないCMが流れていました。
すごく綺麗な人……確かこの人って、小ネタ王に出ていた雪白えみり様でしたっけ?
コートを着て首元にマフラーを巻いた彼女は、息を切らして何処かへと走り出していました。
一体、彼女はどこに向かっているのでしょう?
彼女が手に持った見覚えのあるタータンチェック柄の紙袋が、ワクワクとした心が跳ねる様を表現するように左右に揺れる。これは、藤のCMかしら?
『この溢れる好きの気持ちを貴方に伝えたい』
雪白えみり様が走るのを止めて両膝に手をつくと、目の前にいた男性がこちらの方に振り向く。
画面には男性の鼻から下しか映っていませんでしたが、誰が見ても絶対にわかるくらいあくあ様です。
『2月14日に愛を贈ろう』
紙袋の中からリボンがついたハート型の紙箱を取り出した雪白えみり様は、ドキドキとした表情であくあ様にそれを手渡しました。何故だかCMを見ている私にも緊張感が伝わってきて同じくらいドキドキしますわ。
それに頬をピンク色に染めた彼女の表情はすごく可愛くて、同性の私も思わず見惚れてしまいます。
『藤百貨店、バレンタインデイフェア開催中』
軽く微笑んだあくあ様は、森長が作った羊のメリーさんの形のチョコレートを甘噛みすると、雪白えみり様の乱れた髪を整えるように頭を撫でます。
きゃあ! ナチュラルに王子様なあくあ様に胸の奥がとても痛いですわ。
あくあ様は雪白えみり様と手を繋ぐと、同じ方向へと歩き出した。
まあ! これはうまくいったという事でしょうか? 私は画面の向こう側の雪白えみり様にパチパチと拍手を贈る。
「みんな今朝のCM見た!?」
「見た見た!! あくあ君が出てた藤のCMでしょ?」
「うんうん。バレンタインだっけ?」
「SNSも掲示板もその話題一色だよね」
学校に登校すると案の定、例のCMの話で盛り上がっていました。
「リサちゃん! おっはよ〜!」
「わ! ココナさん!?」
後ろから抱きついてきた親友にびっくりする。
「おはよう。2人とも。ふふっ、朝から何やってるの?」
「あ、うるはちゃんおはよう!」
「うるはさんおはようございます。それと、ココナさんもおはよう」
私達3人は下駄箱で合流すると1年A組の教室へと向かう。
「ねーねー、あのCM見た?」
「ええ」
「もちろんですわ」
ココナさんの問いに対して、うるはさんと私は笑顔で頷く。
「バレンタイン? だっけ……。あれってさ、好きな男の子にチョコレートをあげるってことでいいんだよね?」
「そうみたいね。HPに書いてあったけど、男子に告白する勇気がないから、その代わりにチョコを渡して好きって伝えるシステムはすごく良いと思うわ。言葉以外に行動でわかりやすく好意を示せる手法は今までありませんでしたから」
確かに、うるはさんに言われて気が付きましたが、男性に対して直接好きだって告白するのはとても勇気がいる行動です。そう考えると、チョコレートを渡すだけというのは言葉で伝えるよりも少しは容易いのかもしれません。
もしくはそれがきっかけとして告白につながるというパターンも考えられます。
「なんかさ、直接、手渡したりとかできない子は下駄箱とか、机の中に入れたりしてもいいんだって」
「へえ。それならますます引っ込み思案の子にはいいんじゃないかしら?」
「うん。あと、勝手に入れる時には、名前とラブレターを添えたりしてもいいらしいし、逆に名前を書かずに贈るのもありだってHPに書いてたよ」
「それはいいですわね。後者の場合は、誰から贈られたのか受け取った男性はわからないかもしれませんが、陰ながら好意だけを男性に伝えられるのは勇気の出ない女性にとっては素晴らしい事ですわ」
「それと、本命チョコとは別に感謝チョコって言って、本命じゃない他の男子にありがとうって伝えるチョコもあるんだって」
「へー」
「後、女の子同士で渡す友チョコもあるんだってさ」
「あら、まぁ」
それなら私もうるはさんやココナさんに何か用意しておこうかしら。
「ねぇねぇ。そういうわけで今日さ。帰りにみんなで藤百貨店に行かない?」
「いいと思うわ。ふふっ、みんなで行くの楽しみね」
「私も、そう思いますわ」
私とうるはさんはココナさんの提案に頷く。
ココナさんのおかげで、一気に放課後が楽しみになりましたわ。
3人で教室の中に入ると、やはりクラスメイトの皆さんも例のバレンタインのお話で盛り上がっていた。
「掲示板見た?」
「え? なんか書いてた?」
「やっぱり捗るって天才なんだね……」
「いやいや、流石にアレはまずいでしょ!」
「あいつ早く逮捕されないかな」
「バレンタインで胸がキュンとするのがえみり様、バレンタインで下品にジュンとするのが捗る……ボソリ」
「もー! いくちゃんってば、笑わせないでよー」
「いくちゃん、清純そうなえみり様と汚れた捗るを比べたらだめだよ」
「ははっ……ははは……」
あら? クレアさん、笑顔がとても引き攣っておりますが、大丈夫ですか?
体調が悪いのでしたら保健室にお連れいたしますから、気兼ねなくおっしゃってくださいね。
「おはよー」
「あっ、あくあ君おはよー! って、えっ!?」
教室に入ってきたあくあ君を見てみんなが固まる。
それもそのはず、あくあ様の髪がいつもより短くなっていたからです。
「おはよー、って、あれ? あくあ、その髪どうしたの?」
流石とあさんですわ!! クラスのみんなが聞きたい事を真っ先に聞いてくれました。
「ヘブンズソードも区切りのいいところまで撮ってるし、次の作品に向けてちょっとな……」
「ふーん、結構似合ってるじゃん」
「マジ? 本社で早朝筋トレした後にスタイリストさんにやってもらったんだけど、今朝これを見たカノンが倒れちゃってさ……」
カノンさんのお気持ちがよくわかりますわ。
だって髪が短くなった事で、あくあ様のお美しい顔がより一層お見えになられますもの!!
「逆に慎太郎は伸びてきてるよね?」
「ああ、僕も理由はあくあと一緒だ。出る作品は違うけどな」
なるほど、黛さんは例の4月から始まるドラマに向けてでしょうか?
あくあ様は今度あるスペシャルドラマのPVを見る限りそれとも違う様ですし、何か違う作品の撮影が入っているのかもしれませんね。そういえば、例の噂に上がっていたSTARS WARはどうなったのでしょう?
「あれ? あくあって慎太郎のドラマじゃ……」
「あの金髪はPVの時からウィッグだから大丈夫。ジョンにも次のコロールの撮影の時は髪を短くして欲しいって言われてたから丁度良かったよ」
はー……笑顔で会話する3人の姿を見てクラスのみんなが幸せな気持ちになります。
今、この瞬間だけはクラスメイトの私達にだけ許された特権ですわ。
天我さんはいらっしゃいませんが、1年A組に居れば毎日がベリルアンドベリルをやっている状況と言っても過言ではありません。
「あっ、アヤナ、おはよう!」
「おはよう、あくあ……って、その髪型どうしたの!?」
「どう? かっこいいか?」
「う……うん……かっこいい。そういう髪形もよく似合ってる」
あくあ様はアヤナさんからかっこいいと言われてすごく気をよくしていました。
もちろん周りの女子や私からも、かっこいいという言葉が飛び交います。
「みんな、ありがとな!」
少し照れたあくあ様の表情にみんなの胸がキュンとする。
「あそこで照れちゃうところが可愛いんだよね」
「わかる……!」
「攻撃力マシマシだけど防御力ヨワヨワなのがいいんだよね」
「わかるっ……!!」
私も無言で頷きます。
「おーい、お前らー。バカやってないで席につけー」
「「「「「はーい!」」」」」
杉田先生が来たのでみんなあわてて席に着く。
「白銀カノン。ん? カノンは欠席かー?」
「俺の嫁なら、今朝、俺が髪切ったのを見てそのまま倒れました」
「はい。いつものことね。欠席と……」
クラスメイトから笑い声が起きる。
「やはりポンなみ。何も成長してない」
近くにいたいくさんが誰にも聞こえないようにポツリと呟く。
もう、近くの席の私達を笑わせないでくださいまし!!
ああ、でも、あくあ様からすると、カノンさんのそういうところを可愛らしく思っていらっしゃるのかもしれませんわね。
「って、白銀、そ、そ、その髪はどうしたんだ!? まっ、まさかいじめ!?」
「先生、反応遅いって!! 後、いじめじゃないから!!」
SHRがいつものように笑い声に包まれる。
私達女子や杉田先生だけじゃない。あくあ様やとあさんや黛さんも歯を見せて笑っていらっしゃいますわ。
これだから毎日の学校が楽しくて仕方ありません。
「今日も学校楽しかったねー」
「ええ」
本当にあっという間に学校の時間が終わってしまいました。
どうして楽しい時間はこんなにも一瞬で過ぎ去ってしまわれるのでしょう。
「それじゃあ行きましょうか」
「そうですわね」
私とうるはさん、そしてココナさんの3人は電車に乗って藤百貨店へと向かう。
「うわ……すごい人」
「どうする? 流石にこれ入れないよね?」
「どうやら他の会場も用意しているようですし、そちらに向かいませんこと?」
「おっけー!」
「そうしましょう」
羽生総理もおっしゃっていましたが、どうやら藤が他のデパートやスーパー、ショッピングモールなんかにも手を回していたみたいですね。
それに加えて少し離れていますが、有明の方でも藤が会場を貸し切って同様のフェアをやっているようですし、そちらに向かうのもアリかもしれませんわ。
「こっちもたくさんいるけど、回転率いいし入れそう!」
「そうですわね」
「整理券ならもう移動の間に取ってあるから並びましょう」
「流石ですわうるはさん」
「うるはちゃん、ないすー!」
ふふっ、ここに来るのは自身が所属するグループのフェス以来ですわね。
うるはさんが事前に整理券をネットで取ってくれていたおかげで、少し並んだだけでスムーズに中に入れました。
「本命チョコ、感謝チョコ、友チョコ、自分用チョコだってさ」
「自分用チョコ? って、どういう意味なのでしょうか?」
「面白そうね、ちょっとだけ見に行ってみない?」
うるはさんの提案に私とココナさんは笑顔で頷く。
「あ、BERYLのみんなとコラボしたチョコなんだ!」
「天我さんはアルコールが入った少し大人なチョコ、とあさんは甘くて香りが豊かなフルーツチョコ、黛さんはブラック&コーヒーの苦甘ビター&ミルクチョコ。そしてあくあ様は……甘々ミルクチョコ!?」
「へえ、ヤギとかラクダとかいろんなミルクを使ってて面白そうね」
あくあ様ったら意外と甘いチョコがお好きなのかしら?
ふふっ、あんなにかっこ良くていらっしゃるのに、こういうところが女性の母性本能と庇護欲を擽ります。
「これって、あくあ君が単に飲みたいだけだったりして……」
「しーっ! ちゃんと気が付かないふりをしてあげなきゃ」
私達は自分用のチョコを購入すると、感謝チョコのコーナーに向かう。
「とあちゃんも黛君もめちゃくちゃもらいそうだし、小さいのが一個とかの方がいいよね?」
「確かにそうね。2人ともたくさんもらいそうだし……」
「それでしたら、この賞味期限が長くて小さなものがよろしいのではないかしら?」
「リサちゃんナイス! これなら形違いとか色違いとか味違いがたくさんあるし、それにしよう!」
私はとあさんに可愛らしい苺の形をしたストロベリーミルクチョコを、黛さんには葉っぱの形をした抹茶ビターチョコを購入しました。
とあさんは苺味がお好きですし、黛さんは抹茶がお好きですから、これならば食べてくれるかもしれないと思ったからです。
「2人とも何買った? 私はねー。とあちゃんに苺と合いそうなバナナミルクのチョコと、黛君もたまにはミルクが食べたいだろうと思って普通のミルクチョコ買ったよ!」
流石ココナさんですわ。よく周りを見ていらっしゃるというか、とあさんや黛さんが誰からどういうチョコをもらうか想像して選んでいるところが素晴らしいと思いました。
「私は黛君に産地を厳選した八女の緑茶チョコと、とあちゃんにはブランド苺だけを使ったチョコを購入したわ」
流石うるはさんですわ。本当に質の良いものを選ぶそのセンスに脱帽しました。それに比べて私は、ちょっと見た目に拘りすぎたのかもしれません。
「リサちゃんのそれかわいー! とあちゃん絶対そういうの好きだよ!!」
「黛君、濃い味のお抹茶が好きだからきっと喜んでくれるわよ」
真冬なのに、2人の優しさに心がポカポカと温かくなりますわ。
「この会場暑くない?」
「仕方ないよ。興奮した女の子がこれだけ集まってるんだから」
「これがベリル雲かー……まさか真冬に見るとは思わなかったよ」
感謝チョコのコーナーを通り過ぎた私達は、本命チョコのコーナーに向かいます。
コーナーは4箇所に分かれてますが、やはりここが1番人が多いみたいですわね
「本命のチョコを購入された方、ベリルへのチョコをこちらで受け付けてますー!」
「猫山とあさんへのプレゼントはこちらになりまーす!」
「黛慎太郎さんへのプレゼントはここで受け付けています!」
「天我アキラさんのプレゼント窓口はここです!!」
「星水シロ君や大海たまちゃんなど、Vtuber部門へのプレゼントの受付はこちらで承ってます!!」
「山田丸男さん、黒蝶孔雀さん、赤海はじめさん、モジャさん、ノブさん、ジョンさんへの受付も既に対応してまーす!!」
「白銀カノンさん、雪白えみりさんへの本命チョコやプレゼントの受付も行っています!!」
「すみませーん。姐さんは所属タレントじゃないからチョコはちょっとお預かりできないんですよー。ごめんなさーい」
「その他の人へのプレゼントはこちらになりまーす! あの森川楓さんにも感謝チョコが贈れますよー!」
「アヤナちゃんはうちの事務所じゃないからちょっと……小雛ゆかりさんへ!? 貴女正気ですか!? って、その人もうちの事務所じゃないんですよ。普通にさっきもそこら辺で歩いてたけど……」
「白銀あくあさんへのプレゼントは専用の会場に向かってくださーい!!」
「白銀あくあさんのみ別会場の受付になりまーす!!」
どうやらここの会場では、購入したチョコや商品をそのままベリルの皆さんへと贈ることができるようです。
そういうのすごく良いと思いますわ。でも、あんなにたくさん貰ってもみなさんどうするんでしょうか?
「どうやら受け取ったチョコや商品は、みんなに一度は見せてくれるみたいね」
「それで気に入ったのだけ持って帰って、残りはそれぞれの名義で各所に寄付って形になるみたい」
なるほど、現実的に考えてそこが落とし所かもしれませんわね。
「どうしよっか? 本命チョコのことばっか考えてたけど、あくあ君はたくさんもらいそうだし、困っちゃうよね?」
「それならチョコは1つだけにして、3人でプレゼントを買ったらどうかしら? プレゼントを渡す時も、3人一緒の方があくあ君の手間も省けるでしょうし」
「賛成ですわ。そうしましょう」
「OK! じゃあ、みんなでチョコ選んじゃお!」
3人であーでもないこーでもないと悩んだ結果、結局、シンプルなハート型のチョコに落ち着きました。
王冠チョコや星チョコも考えましたが、これぐらいストレートじゃないとあくあ君は超鈍感だから気がついてくれないよというココナさんの指摘が決め手でしたわね。
「プレゼントどうする?」
「嵩張るものはアレだし……」
「じ……実はその事なのですが……」
「どうしたのリサちゃん?」
私はココナさんとうるはさんを引っ張って人の少ない会場の隅っこへと向かう。
「あ、あくあ様はその、女性の……にとても興味がおありでして……それでその、宜しければ3人でどうかなと……」
私は勇気を出して2人にこれまでの経緯を説明する。
最初は半信半疑だったうるはさんやココナさんも、証拠の写真をこっそりと見せると口をあんぐりと開けていました。
「ご、ごめんなさい。お2人には、本当はもっと早くに打ち明けるべきでしたのに、今まで黙ってて……」
「仕方ないわよ。だって、あくあ君にとってもデリケートな問題だしね」
「うんうん。リサちゃんだって、それがあったから私達に黙ってたんでしょ? 気にする必要ないよ!」
お2人の優しさに思わず涙がこぼれ落ちそうになりました。
「そ、それじゃあ、プレゼントはそれにする?」
「え、ええ。そうね」
3人であくあ様に喜んでもらうために、帰りに可愛い下着を買って帰ろうって話をする。
私もレースやフリルやリボンがたくさんあしらわれたパステルカラーのものを買おうと心に誓います。
「じゃあ、最後は友チョコだね」
「一旦解散する?」
「そうですわね」
私は一旦2人と分かれると、別の友チョココーナーへと向かいます。
売っているものはどこも同じですが、これは回転率を上げて人の入れ替えを効率的にさせるためのものでしょう。
現に別会場も全く同じ作りで同じものが売られています。
「白銀あくあさんコラボの友チョココーナーがこちらになります!!」
やっぱり、貰うのもあくあ様コラボがいいですわよね。
わ! この色々なあくあ様の写真がプリントされたチョコ。いいですわね。
なんとなくだけど、お2人とも同じものを購入してきそうな気がしますが、プレゼントは回転して渡す形にしているので被っても大丈夫でしょう。
私は友チョコを購入するとお2人との合流場所へと向かいます。
「やっぱり」
「あらあらまぁまぁ」
「見事にみなさん同じでしたわね」
同じチョコを袋から取り出したのを見て、3人で顔を見合わせて笑いました。
乙女咲に入って、みなさんと仲良くなれて、本当に良かったですわ。
私達は別会場で売っていたバレンタイン用の下着を購入して有明を後にすると、途中の駅で別れてバラバラに帰宅する。
「おかえりなさいませお嬢様」
「ただいま。ばあや」
私はチョコが溶けないようにばあやに預ける。
あ、それはあくあ様へのプレゼントだから、上からポリ袋を被せて私のだとわかるように名前を入れておいてくださいまし。
「ふぅ……さてと、こちらも準備しなければいけませんわね」
私はクロゼットの中から旅行用のキャリーケースを取り出すと中身を再チェックする。
お年玉くじで当たったあくあ様の1日お嫁さんになれる権利……それを行使する日のために、最善の準備を整えておかなければいけませんわ。
「おニューの下着よし! 化粧品良し! 生理用品も念の為に入れておいてと……あ、あとは当日の服をどうするかですわね」
昨日までニットにコートを考えてたけど、白くてふわふわのもこもこのポンチョも捨てがたいですわ。
あっ、でも家の中じゃあったかいですし、もっとこうあくあ様が喜んでくれるように、女性らしい部分をアピールする服の方がよろしいのかしら?
う、うるはさんほどじゃありませんが、わ、私も結構ありますし、そのカノンさんより大きいですし……。自分で言うのもどうかと思いますが形だって綺麗だし、って、わー! 今のなしですわ!! うう……私とした事が少し溜まっているのかしら?
私はそっと扉に耳を押し当てて周囲の気配を確認します。
だ、誰もいませんようですし、夕食の前に少しだけなら……その、乙女の嗜みを捗ってもよろしいですわよね?
私はキャリーケースを元あった位置へと戻すと、そっとクロゼットの扉を締めた。
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