天鳥阿古、私とあくあ君の365日。
「これがベリルカフェ1号店のメニューになります。メニュー、あくあさんをメインにBERYLの3人、それと特別顧問のカノンさん、姐……琴乃さんというメンバーで考案しました。それとトマリギのオーナー、七間八千代さんに監修の方をお願いしています」
「ありがとう」
私は送られてきた資料のファイルを開いてベリルカフェ1号店のメニューを確認する。
・白銀あくあの俺様サルピスウォーター。
猫山とあさんが契約している旭飲料さんのサルピス原液を通常よりも高い割合で使用し、コクと濃厚さを演出するために練乳などをプラスした自信作です。
どろりとした感じを出すためにヨーグルトを隠し味にしています!!
ターゲットは全ての女性。サルピスが嫌いな女の子はいないので!!
・猫山とあの初恋ソーダレモネード。
甘酸っぱいレモネードに爽やかさを演出するためにソーダを足して、苦味のあるライムを一絞り入れて初恋感をさらにアップします。
メインターゲットを学生としつつも、味付けは少し大人風を意識。幅広い層に飲んでもらえるように考案しました。
・黛慎太郎の闇堕ちスパイスコーラ。
黒胡椒やカルダモン、シナモンや八角などをプラスしたピリリとした辛味のあるコーラで俺様感を演出しています。
4月から始まる主演のドラマを意識して、白銀あくあさんで使用する予定だったコーラメニューを黛慎太郎さんに変更しました。
また使用するコーラについては、あくあさんがCM契約を結んでいるコーク社のものを使用する予定です。
・天我アキラの大人なジンジャーモヒート
辛味のあるジンジャーにモヒートで大人感をプラス。
子供向けにモヒート抜きや、ノンアルのモヒートを使ったアレンジも考えています。
天我アキラさんのファンは大学生以上が多いのと、若い子でも大人びた子が多いので大人をメインターゲットにしました。
「これら、それぞれに4人の専用コースターが付く予定となっております」
うん……なるほどね。
全体的にいいんだけど、あくあ君のは本当にこれでいいの!?
えっ? 本人が考えた? もしかして飲み物で全国民の女子をなんかしようとしてない?
……ま、いっか! あくあ君がいいのなら私は何も言わない。
きっと純粋なあくあ君の事だから、多分そういう事は考えてないんだろう。
「そして、こちらがその他のドリンクメニューになります」
どれどれ? 私は画面をクリックしてページを捲る。
コーヒーメニュー
・天我アキラのホロ苦エスプレッソ。
・黛慎太郎のちょい苦カフェ・ラテ。
・白銀あくあの甘々カフェ・オ・レ。
・猫山とあの極甘カフェ・モカ。
・黒蝶孔雀の濃厚カプチーノ。
・山田丸男の特濃コーヒー牛乳。
紅茶メニュー
・BERYLティー。
ジュースメニュー
・白銀あくあのバナナジュース。
・猫山とあのいちごミルク。
・黛慎太郎のももミルク。
・天我アキラのヨーグルトラッシー。
・BERYLのミックスジュース。
コーヒーメニューでは、新人の黒蝶君と山田君のメニューを取り入れた。
彼らは次世代のベリルを担ってもらわないといけないし、次のドライバーにどうですかって松葉杖……松垣部長からも直に言われてるのよね。ヘブンズソードの後は大変だろうけど、そんなチャンスは滅多にないので頑張って欲しい。
あとさ、なんかジュースメニュー全体的に白くない?
黛君のももミルクなんてヘブンズソードでやたらと入る後ろからのカットを連想させるし、とあちゃんのイチゴミルクなんてこれもう……なんならあくあ君のバナナジュースはあからさまにアウトじゃないの!? 極太で長くて反りのあるバナナを丸々一本使用って何!? その説明いる!?
「本人から了承を得ているのならいいけど……あんまりやすぎないようにね」
「はい……」
一応社長としてみんなが暴走しないように釘を刺しておく。
「そしてこちらがフードメニューになります」
私はページを捲って次のページに視点を落とす。
・白銀あくあの野菜天うどん。
ヘルシーさをアピールするために野菜の天ぷらをトッピングしました。
産地直送の新鮮なお茄子と、香川県のおうどんを使っています。
いやいやいやいや!
だからもうなんでそういう雰囲気のメニューばっかりなのよ!
そりゃ、あくあ君はおうどん大好きだし、お茄子だって好きだよ!? でもさ、この麺がシコシコしてます。の、シコシコをクローズアップする必要なんてないよね!?
「みんな、ちょっといいかしら?」
私は一旦ノートパソコンの画面を閉じると、軽くみんなにお灸を据える。
みんな、自分達は所属タレントを守る方の人間なんだって理解してね。
あくあ君が攻め攻めなのは仕方ないとして、みんなも一緒になって攻めちゃダメなのよ。ちょっとは軌道修正してオブラートにしなきゃ、お茄子とシコシコおうどん、お汁がピュッピュッピュッ! ってもう完全にアウトでしょ!!
なんで誰も止めなかったの!! はい、分かればよろしい。一旦持って帰って、また再度提出してね。よろしく。
「それとアイドルオーディションの方ですが、白銀あくあプロデューサーと協議の結果、このような形となりました」
「どれどれ?」
私はそっちに関しては基本的にノータッチだ。
営業とかの総合的なマネージメントやサポートはもちろんするけど、基本的にはプロデューサーのあくあ君の好きにさせたいから、グループの組み合わせや方向性など、そういうところはあくあ君に決めてもらっている。
・アイドルグループ「ミルク・ディッパー」
メンバー:白銀らぴす、猫山スバル、皇くくり、ハーミー・スターズ・ゴッシェナイト、フィーヌース。
サポートメンバー/裏方:鯖兎みやこ。
備考:キャプテン、センター共になし、コンセプトは私、全員、主人公。
選考理由:将来的にそれぞれがソロでも輝くような若いメンバーで構成しました。白銀らぴすさんはマルチに、猫山スバルさんは歌とダンスを中心に舞台やミュージカル、皇くくり様はモデルや番組のMCやナレーション、ハーミー殿下は映画やドラマ、フィーヌース殿下は子供向け番組や配信をメインに活躍を考えています。
ユニット名の由来:ミルク・ディッパーは射手座が構成する南斗六星のことを言います。プロデューサーである白銀あくあさんが射手座であることや、表に出るメンバーは5人だけど、鯖兎みやこさんを入れた6人が1チームである事をメンバーやプロデューサーが望んだ事を考慮しました。
ふーん、なるほどね。悪くないと思うわ。
この中でもカノンさんの妹、ハーミー殿下……いや、ハーちゃんは既にドラマの仕事が決まっている。
黛君が出演する新作ドラマの監督さんからの強い熱意とお願いもありすぐに話が決まった。なんでも探していたキャラクターのイメージと完全にピッタリだったらしい。
演技の方もちゃんと教えてくれると言ってるし、周りの女性キャストにはトラ・ウマーの淡島さんや映画賞で助演役者賞を受賞した睦夜星珠さんがいるから学べる事も多いんじゃないかと思った。それに、あくあ君や黛君も現場にいるし、2人がうまくカバーしてくれるだろう。
ハーちゃんには他にも何本かドラマや映画の問い合わせが来てるし、彼女はこっち方面で需要がありそうな気がする。子供なのに子供っぽくない雰囲気と、整いすぎているお顔の造形に対して感情表現が薄いからミステリアスな雰囲気もあって、重宝されるだろうなという気はしていた。
これに関してはあくあ君だけじゃなくて、ゆかりからも指摘されていたし、今回のオファーを受けたのも個人的にゆかりに相談してから決めた。
・ガールズバンド「kinetik STAR」
メンバー:星川澪/ボーカル、桐原カレン/ギター、七瀬二乃/ドラム、津島香子/キーボード、茅野芹香/ベース
選考理由:星川さんのかっこいい歌声を生かすためにバンド構成はどうかと提案したところ、他の4人のメンバーが立候補してくれた事からすんなりと決まりました。
ユニット名の理由:桐原カレンのK、七瀬二乃のN、津島香子のT、茅野芹香のKをとってkinetik、星川澪の星を取ってSTARを組み合わせた。kinetikはkineticをもじったもの。
備考:当面はデビュー曲の発売を目指します。そのために合宿をやりたいとメンバーから提案がありました。チームとしての目標は全国ツアー、楽曲の売り上げランキングで1位を目指す事です。
こっちは意外な事になったわね。
アイドルじゃなくてバンドになっちゃったか。
自分達から合宿したいと申し出るようにしばらくは下積みが必要かな。
それならベリルの全国ツアーで、バックバンドのサブメンバーとして帯同させるのもありかもね。
全国ツアーを経験する事で将来の指標にもなるし悪くない気がした。私からさりげなく後であくあ君に提案してみよう。
で……こっちの3人はそれぞれ、ソロでやる事になったのね。
・ソロアイドル「那月紗奈」
理由:グループを組ませるよりもソロの方が彼女の魅力を引き出せると思ったから
備考:ジャンルを絞らず幅広い活動を目指します。アイドルという括りに捉われず、役者やモデル、バラエティなど幅広いジャンルで活動していく予定です。
・ソロアーティスト「巴せつな」
理由:歌唱力が高すぎてグループで使うのは勿体無いと判断しました。また、巴さん自身と話したところ、歌手一本でやりたいという話が出たのでその意思を尊重しようかと思います。
備考:こちらも当面の目標はデビューシングルの発売に設定しています。そのために彼女の歌声に合う楽曲を提供できる作曲家を厳選しています。
・ソロアイドル「祈ヒスイ」
メンバー:祈ヒスイ
理由:白銀あくあプロデューサーの強い意向もあってソロアイドルとしての活動が決定しました。
備考:白銀あくあプロデューサーからの希望で、できるだけ早く大きな病院で人間ドックを受けさせて欲しいとの事です。既に国内でもトップの病院と医者を手配しているので、こちらに上京してくるタイミングで検査入院をさせる予定です。
あくあ君は随分とヒスイちゃんにご執心ね。一体、彼女に何があるのかしら?
BERYLの振り付けもやってもらってる一瀬水澄先生はヒスイちゃんを見て、白銀あくあのコピーというより白銀あくあの原型のような感じがする。それに気がついた時、言葉は悪いけど少し気味が悪く感じてしまうというような事を言っていました。
2人とも接点があったなんて話は聞かないし、あの時、確実にあくあ君は初対面だったと思う。でも、今にして思えば、あの時のあくあ君の反応は少しおかしかった気がする。
これは前から少し感じていた事だけど、あくあ君はたった一つだけ私に、ううん、私達に対して何か大きな隠し事をしている気がするのよね。
もちろん、その事について詮索したりなんてしないけど、秘密を抱えたまま生きるというのは大変な事だ。だから常に私達、サポートする側の大人達がちゃんと見ておいてあげないとなって思う。これはあくあ君に限らず全員の話だ。
そう考えると人間ドックは心配ね。あくあ君がヒスイちゃんにそれを受けさせようとするに値する何かを感じ取ってるって事なんだから。私はスタッフに対して、ヒスイちゃんにできるだけ早く上京してくるようにしてと促した。
・デュオユニット「丸男と孔雀」 ※仮名
メンバー:山田丸男、黒蝶孔雀。
選考理由:男女混合メンバーも考えましたが、オーディションを見て次世代のBERYLを背負っていく事を考えました。2人ともマルチな方向に活躍の機会を伸ばしていければと思っています。
ユニット名の由来:白銀あくあプロデューサー曰く、覚えやすさとわかりやすさ重視。下の名前を採用したのはファンから愛着を持ってもらえるのではと思ったからだそうです。
備考:黒蝶孔雀さん曰く、自分がリーダーで、山田丸男さんを前に出して将来のエースに育てるそうです。それもあってユニット名も山田丸男さんを前にしました。
山田丸男さんは現在の活動拠点が青森と、デュオで活動するには少し遠いので、4月から乙女咲高校に3年生として転入する予定で全員が動いています。なお、転校後は2人でシェアハウスをしたいと聞きました。面倒見のいい天我アキラさんが自分がちょくちょく様子を見に行けるように自宅近くで家を探してくれているそうです。
あら? 丸男と孔雀はわかりやすくていいんじゃない? 私は推すわよ。
それに天我君の家のそばに住むというのもすごくいいと思う。気が利く春香ちゃんもいるし、2人がうまく生活をサポートしてくれるんじゃないかしら?
天我君が住んでいる神田・秋葉原方面なら事務所が近いから直ぐに駆けつけられるし様子も見に行けるし、こっちとしてもすごく助かる。
「また、天宮ことりさん、藤林美園さん、瓜生あんこさん、ラズリーさんに関しては、このような形になりました」
・天宮ことり
ミルク・ディッパーに続く次のアイドルユニットのセンターでキャプテンにと考えています。
メンバーは、今度設立するベリルエンターテイメントの養成所の訓練生から彼女に合う人を選んではどうかという意見が出ました。現在はその方向性で話が進んでいます。
・藤林美園
本人との話し合いで大学を退学して、アイドルではなく自分がやりたい事を体現できるベリルエンターテイメントの社員にどうかという話になりました。白銀あくあプロデューサーから、そこから先は天鳥社長や人事部長の有栖川アビゲイルさんの領分になるのでと、話し合いを保留にしてあります。
・瓜生あんこ
本人の希望もありアイドルではなく、今年開園予定のベリル・イン・ワンダーランド内の劇場でメインキャストとして活動する事を決めました。開演までの期間中は、白銀あくあプロデューサーが小雛ゆかりさんの伝手で紹介してもらったところに、舞台女優としてミュージカルや演劇等にベリルから派遣する予定です。
・ラズリー・アウイン・ノーゼライト
本人との話し合いで雑誌や広告のモデルとして声を出さない活動する傍ら、Vtuberとして配信活動をしてはどうかという話をしました。現在は白銀あくあプロデューサーからの指摘もあり、配信でNGワード連発をしたり、社会的秩序に欠ける発言をしすぎないように倫理観の教育をしています。
天宮さんが訓練生とやるのはいいわね。養成所のアピールにもなるし、次のグループの軸が決まってるなら他のメンバーも選びやすい気がする。
藤林さんはアイドルじゃなくて、営業とか企画開発部とかそっちの方が面白いと思っちゃったのね。彼女のプロデュース能力の高さ、魅せ方のうまさ、マーケティング能力の高さは事前のオーディションで知っているので私としてはアリよ。後でアビーさんに問題がなければ雇用するようにと言っておこう。
瓜生さんに関しても、ベリル・イン・ワンダーランド内の劇場キャストをやってくれるのは非常に助かります。こっちのキャストの子達もちゃんと自分達で育てて、高いクオリティのものを提供したいって話が脚本の白龍先生や、総合監督の本郷監督、プロデューサーのあくあ君から話が出てる。ゆかりも協力してくれるなら、任せておいて大丈夫でしょう。ゆかりはあくあ君の期待を裏切るような事だけは絶対にしないしね。
ラズリーさんは少し心配だけど、配信界隈は通称シャフテ、社会不適合過ぎるくらいの人の方がネットで爆発しやすいし人気も出る。NGのボーダーをちゃんと守れるなら適役だと思う。実際、そこさえ超えなきゃアリなんじゃないかな。それによく考えたら小雛ゆかりという私の親友ですら芸能界でやっていけてるのだから、きっとラズリーさんも大丈夫でしょう。うん。
「オーディションメンバーの進路については以上で全てです」
「了解しました。では、その方向でサポートしてあげてください」
「それでは次の議題ですが、ベリル・イン・ワンダーランドについてです。モニターにご注目ください」
「「「「「おおー!」」」」」
テーマパークの中央に鎮座する白銀城の完成イメージ図を見て、みんながどよめく。
まさか本物のお城を作るなんて私も思ってもいなかった。
もちろんちゃんとしたお城だから中だって自由に歩けるようになってるし、あくあ君プロデュースの王子の主寝室というコンセプトルームもある。
「えー、このお部屋、なんと泊まれます」
「「「「「はあ!?」」」」」
何人かがたまらずに席から立ち上がる。私も思わず立ち上がってしまった。
あっ、なるほどね。実際の部屋は一般見学用に開放するから、同じ部屋をホテル内に作るって事か。りょーかい。
でも、メンバーがイベントの時には実際にその部屋を使うっていうのはいいわね。それは採用でお願いします。
「他にも城内にはコンセプトルームがいくつかあって、そのどれもが泊まれるような作りになっています」
モニターにそれぞれのコンセプトルームが表示される。
・お姫様の寝室……白銀カノンさんプロデュースのコンセプトルーム。
・妖精の隠れ家……猫山とあさんプロデュースのコンセプトルーム。
・大臣の執務室……黛慎太郎さんプロデュースのコンセプトルーム。
・騎士の訓練所……天我アキラさんプロデュースのコンセプトルーム。
・博士の図書館……白龍先生プロデュースのコンセプトルーム。
・将軍の作戦室……本郷監督プロデュースのコンセプトルーム。
・魔物達の監獄……森川楓さんプロデュースのコンセプトルーム。
森川さんのコンセプトルームは本当にそれで大丈夫なの!?
将来的にはえみりちゃんプロデュースのエルフの離れ家も追加予定? それはいいんじゃないかな。
でも、ゆかりプロデュースは本人がやりたがってもちゃんと越プロさんに許可取らなきゃダメだよ。
「玉座の部屋には、実物そっくりに作られたみんなの等身大マネキンに衣装を着せて展示しようと思います。またお城の門番には山田丸男さんと黒蝶孔雀さんを置くのはどうかって話がありました。他のオーディションメンバーについてもお城で働いていると想定したキャスティングで城内に展示しようと考えています」
「わかりました。その方向でお願いします」
次はショッピングエリアを確認する。
・白銀あくあの防具屋さん……身につけるアイテムを取り扱うショップ。貸衣装あり。
・天我アキラの武器屋さん……武器をイメージした文房具などを取り扱うショップ。
・猫山とあのお菓子屋さん……食品のお土産を取り扱うショップ。生菓子の取り扱いや併設のカフェも検討
・黛慎太郎の雑貨屋さん……様々なグッズを取り扱う総合的なショップ。百貨店のようにするつもりです。
・白銀カノンのお花屋さん……フラワーグッズを取り扱うショップ。
・ノブの写真屋さん……写真を取り扱うショップ。写真を撮るスタジオが併設されています。
・モジャの音楽屋さん……ワンダーランド内限定パッケージの音楽ソフトが買えるショップ。
・本郷監督の映像屋さん……ワンダーランド内限定パッケージの映像ソフトが買えるショップ。
・白龍先生の本屋さん……ベリル関連の書籍や、白龍先生本人の書籍、台本のコピー、博士の図書館に置いてあった白龍先生セレクトの本が購入できます。
文房具なら黛君が良くない? え? あー、天我君が絶対に武器屋をやりたいって駄々を捏ねたわけね了解。
「次に食事に関するショップはこちらになります」
・白銀あくあの俺様レストラン……全メニューあくあさん考案、味を完璧に再現したメニューを提供します。
・天我アキラのモンスターミートダイニング……肉の丸焼きなど肉メニュー中心に考案中です。
・黛慎太郎のおもてなし和食店……天ぷらやお寿司を中心とした和食がコンセプトの食事処です。
・猫山とあのケーキショップ……お菓子屋さんとコンセプトは一緒。併設を検討中です。
・白銀カノンの乙女カフェ……インターネットに詳しい人をメインターゲットにしたカフェになります。
・森川楓のパワーランチ……ドカ盛り定食がコンセプトの食事処になります。
・山田丸男と黒蝶孔雀のバーガーショップ……ハンバーガーショップ。
・鞘無インコさんコラボの粉もん屋……たこ焼きやお好み焼き、焼きそばなど。
インコさんはちゃんとコラボの了解はとってるのね?
それならOK、乙女ゲームが炎上しなくて済んでいるのは彼女のおかげだから、こういうのは歓迎です。でも、何度も言うけどゆかりのはちゃんと許可取ってね?
昨日だって打ち上げで越プロの社長が、うちのゆかりは取らないでくださーい、って私の右足にずっと泣きながらしがみついてきててすごく可哀想だったし……。
「コラボに関しては月街アヤナさんや、小早川優希さんとも検討しています。向こうの事務所も乗り気で、今後も前向きに話を進められたらと考えています」
「いいと思うわ。その方向で話を進めてちょうだい」
次にライブができる大中小のステージや劇場を確認する。これとパレードが、ベリル・イン・ワンダーランドのメインです。
あくあ君の言う、歌やダンスに溢れていて、ただパーク内を散策できるだけでも楽しめるようにしたいというコンセプトをベリルとしても大事にしたいと思った。
「ステージ関連の総合監督、演出は本郷監督と白銀あくあさんが音楽監督はモジャさんが務めますが、舞台やパレードの脚本に関しては白龍先生以外にも腹を切るの志水キスカ先生、ゆうおにの司圭先生、ピンクのバラの村井熊乃先生、はなあたの八雲いつき先生、ヘブンズソードの森石章子先生などに依頼をしたいと考えています。ああ、それとヘブンズソードに関してはパーク内でヒーローショーができないか、松葉杖……じゃなかった松垣部長との1回目の話し合いがありました。向こうも前向きに検討してくれるとの事です」
「いいじゃない。どれも楽しそうね」
肝心の工期にも遅れはないようだし、今のところは順調ね。
問題は人員の確保と育成だけどそっちもしっかりやっていきたい。
「次に雪白えみりさんについてですが、藤のCMに続いて、白銀あくあさんと天我アキラさんが出演する例のフォーミュラ映画からオファーが来ています。スターズからステイツに本拠地を移した、レッド・ウィング・エナジーというエナジードリンクの会社ですが、天鳥社長はご存知ですか?」
「もちろん。確かあくあ君がたまに1階のロビーにある自販機で買って飲んでるセイジョ・エナジーを作ってる会社よね?」
「はい、そこの会社から雪白えみりさんに是非にとお願いがありました。共演するレーシングドライバーのチームメイトはステイツでも人気の女優、アメリア・フォーサイスさんになる予定です」
「なるほどね……」
新人のえみりちゃんにはもっと楽な仕事からと考えてたけど、ゆかりが言うように世間が彼女を放っておかないわね。若い時の雪白美洲……もしかしたらそれ以上の可能性を秘めた人が出てきたのだから普通に考えて放っておくわけがないか。
carpe diemのMVを公開した時から問い合わせは多かったし、これは当然の結果だったのかもしれない。
「わかったわ。本人が了承済みならオファーを受けるように言っておいて、でも、当面の目標は全国ツアーのイベントに合わせたデュエット曲の完成ね。そっちを急がせて」
「了解です。あー、あと、本郷監督からヘブンズソードに出演するチジョーのセイジョ・ミダラーとして使いたいという話が……」
「問題ないわ。そっちは最初にしてた約束だから当然受けていいわよ」
本郷監督からはえみりちゃんがうちの会社に入るなら、絶対にミダラー役をやって欲しいってずっと言われてたし、この約束はお互いの信頼関係もあって絶対に破れない。
「おおまかな議題は以上です」
「ありがとう。それでは細かいところを詰めていきましょうか」
ふぅ……気がついたら夜の20時を過ぎていた。
あくあ君にはトマリギに行けたら行くって言ってたけど、結局、間に合わなかったな。
明日からスターズへの出張が入ってるから今日の会議は絶対にずらせなかったし、仕方のない事だと自分に言い聞かせる。
一応、会議の途中で行けないって連絡しておいたけど、もしかしたら忙しくてあくあ君が見逃してたり忘れてたりする可能性もあるし、とりあえずお店に行くだけ行ってみようかな。
私は帰宅の準備を整えるとタクシーに乗って、トマリギに行ってもらうようにお願いする。
「あ、お釣りは要りません」
途中、渋滞していたのでトマリギの近くで降りた私は、タクシーの支払いを済ませて小道を通ってお店へと向かう。
ああ……思い出すな。あの時、たまたま駅前のお店が混んでて入れなくて、それでトマリギに行ったんだっけ?
ふふっ、あくあ君の働いている姿は見られなかったけど、こういうノスタルジックで楽しい思い出に浸れる事が嬉しかった。
「え?」
私はトマリギの前で固まる。
営業時間を過ぎているにも関わらず、トマリギの店内にはまだ光が灯っていた。
私はあの時と同じように、トマリギの扉を開けて中に入る。
「いらっしゃいませ」
ああ……同じだ。あの時に見た、あくあ君がそのままの姿で……ううん、あの頃より少し身長は伸びたし、やっぱり大人びた気がする。それでもあの時のあくあ君と比べても、彼のその優しさは何一つ変わっていない。
「すみません。もしかして常連さんですか? 今日限定で特別なお客様を出迎えるまで無期限で営業していたんです。良かったら中にどうぞ」
ふふっ、全く一緒だ。1年前、365日前にここであくあ君と出会った時に言われた言葉を思い出す。
「あの……いくら払えばいいですか?」
あの時と同じセリフ、私もやり返してあげた。
私がお財布を出したのを見てあくあ君が笑う。それを見た私もまた笑顔になる。
ベリルの天鳥阿古とBERYLの白銀あくあじゃなくて、ただの天鳥阿古だった私と、ただの高校生でバイトだった白銀あくあの2人に戻ったみたいだ。
「あの……えっと、お客様、うちの喫茶、そんなにお金出さなくても、コーヒー一杯450円からですよ?」
そうね。よく知ってるわ。ふふっ、すごい。本当にあの時のまんま。
あくあ君は優しげな表情でゆっくりと私に近づいてくる。
「こんなに遅くなるまで働いて、本当に大丈夫?」
「大丈夫。だって貴方達のためだもの。だから今、すごく楽しいわ」
あの時もよろけた私の体を優しく抱き止めてくれたよね。
少しくらいはいいかと、今日この瞬間だけはただの天鳥阿古として、ゆっくりとあくあ君に体を預ける。
「本当に? 阿古さんは俺よりも無茶しちゃうからなー」
「えー? 私より絶対にあくあ君の方が無理してるよー」
お互いに顔を見合わせて笑い合う。
なんか自分ってやっぱりちゃんとやらなきゃって肩肘を張ってたんだなと気付かされた。
ゆかりからも散々言われてたのに……ごめんね、ゆかり。今になって少し気がついたよ。
「阿古さん、お腹空いたでしょ?」
「うん! もう、ぺこぺこ!」
「それなら俺のオムライスを食べていってよ」
「わー、楽しみ!」
懐かしいな。あの時もオムライスだった。
あくあ君がケチャップで文字を書いている姿を横目で見ながらあの時の事を思い出す。
あの時と同じように、お疲れ様って書いてるのかな? それともお仕事頑張ってくださいかな?
私はワクワクとした気持ちでオムライスが運ばれてくるのを子供のように待った。
「はい、お待たせしました」
あくあ君の作ってくれたオムライスに視線を落とす。
そこにはただ一言、ありがとうと書かれていた。
そしてその下には、これからも一緒に居てくださいと書かれている。
「ふぁっ!?」
え? 待って?
これからも一緒に居てください!?
そ、それってプロポーズじゃ……。
いやいや、落ち着くのよ阿古!
純粋で無垢で無邪気で子供っぽいあくあ君がそんな深いところまで考えてるわけじゃないじゃない!!
何せあの天下のあくぽんたんよ!!
私は頭の中で大怪獣ゆかりゴンが地団駄を踏みながら火を吐くビジョンを思い浮かべながら心を落ち着かせる。
「阿古さん……もう、この俺から離れられるなんて思わないでくださいね?」
ふぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!
リアルに叫ばなかった自分を褒めてあげたい。
「なんちゃって! びっくりしました?」
「もーっ!!」
はぁはぁ、はぁはぁ……もう少しで本当にやばかったと思う。
仕事の疲労もあって目の前まで私の天使達が迎えにきてくれてたけど、大怪獣ゆかりゴンが蝿を叩くみたいに手で叩き落としてくれたおかげで助かった。
「阿古さん、できたらこれも貰ってください」
「え?」
私にプレゼント!? そういえば授賞式の時にゆかりにティアラをプレゼントしていたけど、もしかしてみんなに買ってあるの!?
何だろう? 私はあくあ君にありがとうとお礼を述べると、プレゼントされた大きな箱を開ける。
「花瓶?」
「そ、この前、楓がグーパンで割っちゃったから」
なるほどね、そういう事か……。
花瓶と言えば、ゆかりが出演した映画、腹を切るでひとはがギンカにプレゼントした花瓶を思い出す。
ギンカとひとはの禁じられたお互いへの淡い恋心。割れ物の花瓶を受け取った事で、ギンカはひとはからの別れのメッセージだと勘違いしたけど、実はこの花瓶、もう一つの意味が込められている。
たとえ中の花が枯れたとしてもそこにずっと花瓶は残るから。ずっと貴女のそばにいるという意味が込められていた。
だけど、ひとははその想いを隠すために割れ物である花瓶を利用し、淡い恋心を断ち切って彼女は母になるのである。
ちなみにこの描写は、花はいつか花瓶に戻るという意味も込められているのではという検証もされていた。
「ふふっ」
「阿古さん?」
ま、うちのあくあ君がそんな事を考えて渡してるわけないよね。
「ありがとう。早速飾らせてもらうわ」
「はい、ありがとうございます! っと、すみません。もう少し後で渡せばよかった。オムライス冷めちゃいますね」
「いいって。ね。それよりも、バイトは上がりなんでしょ。ね、一緒に食べよ?」
「いいですね。実は俺もさっきからもうお腹がぺこぺこで、背中と腹がくっつくんじゃないかと思ってました」
私とあくあ君は食事が終わった後も、これまでの一年間を振り返って楽しく話を咲かせた。
その時、一瞬だけ、本当に偶然であくあ君と唇が触れそうになったけど、私はすぐに話を逸して誤魔化す。
だって、今はその時じゃないもの。
ねぇ……。
あくあ君が全部やりたい事をやって、それでもまだ私と一緒にいたいと思ったら、私と添い遂げてくれる?
私はその言葉を飲み込みいつものように振る舞う。
「阿古さん、それじゃあ俺は後片付け手伝ってから帰りますから」
「ねぇ、本当に大丈夫? 私も手伝おうか?」
「いいですって。それよりも明日、スターズに出張があるんでしょ? 阿古さんこそ、早く帰って休まなきゃ」
「わかってるって。じゃあ、気をつけてね」
私はそう言うと後ろを向いてトマリギの扉にそっと手を置く。
この扉を開けると、また、いつも私達に戻っちゃうんだなと思った。
そう思うと少し惜しい気がするけど、醒めない夢はないのだ。
どんなに素晴らしいドラマだって、どんなに素晴らしい映画だって、どんなに素晴らしいミュージカルだっていつかは終わる。
ずっと夢は見れない。大人なら誰だってわかる事だ。それなのに……。
「阿古さん」
あくあ君が私の背中を優しく強くギュッと抱きしめる。
「俺、世界一のアイドルになります」
「うん、知ってる」
心臓が煩いくらいドキドキする。
「だから、待っていてください」
大きく跳ねる心臓の鼓動、私の封じ込めていた感情が強く揺さぶられる。
「どれだけ待たせるかわかんないけど、必ず俺の方から迎えに行きますから」
ああ……ずるい。ずるいなあ!! 本当にずるい……でも、そのずるい所が私の心をポカポカと暖かくさせてくれる。
君に待っていてって言われて、待たない女の子なんてこの世界には1人だって存在しないんだよ?
「それって私に終わらない夢を見せてくれるって事?」
「貴女がそれを望むのなら。俺はずっと阿古さんに夢を見せてあげる」
はぁ……私は心の中で小さなため息を吐く。
私の負けね。それを言われたらもう待つしかないじゃない。
「そっか」
私はあくあ君の腕をぎゅっと握り締めると、いつものような笑顔を作る。
「じゃあ、みんなにいっぱい夢を届けなきゃね。私の王子様」
「阿古さん……」
本当は振り返ってキスをしようかとも考えた。
でも、それをしちゃったら押さえつけている想いが溢れそうだったから。
「あくあ君、またね」
「はい。阿古さん、どうか気をつけて」
私は扉を開けてトマリギの外に出る。
まだ心はどこか夢を見ているようにふわふわと浮遊していた。
必ず迎えに行く。ずっと夢を見せてくれる。その言葉だけでこうなるなんて、ああ、私って単純なんだなって思った。
さーてと、明日からの仕事も頑張るぞー!!
私は空に輝く一番星に向かって拳を突き上げた。
Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。
https://mobile.twitter.com/yuuritohoney




