黒蝶揚羽、お隣が煩い時はどこに苦情を言えばいいんですか?
「ふぅ……」
汗を拭った私は、自分がお掃除したところを確認するようにお部屋の全体を見渡す。
うん、すごく綺麗になった。生活感のある六畳一間の間取り。前の家と比べるとここは狭いかもしれないけど、私にとってはすごく居心地が良かった。
黒蝶家の当主としての全てを失った私、もちろんどこかへと行く当てがあるわけでもなく路頭を彷徨う。
そこにすぐに駆けつけてくれのがあくあ様だった。
『ごめん。ちょっと狭いかもしれないけど、すぐに借りられるところで融通が利くのがここしかなくて』
あくあ様は私が資産を全て手放すとニュースで聞いて、急遽、私のために住むところを用意してくれたそうです。
なんて優しい人なんだろう。いくら私がえみりちゃんの友人で孔雀君の母だからと言って、そこまでしてくれる義理なんてないのに……。
『いえ、住むところを手配して頂いただけでも有難いです。むしろ、こんな事までしていただいて本当によろしいのでしょうか? ご迷惑ばかりおかけしてすみません』
『これくらいの事、気にしないでください。とりあえず生活に必要なものは揃えてもらったから、当面の間はそれで……あっ、もしものためにこれも渡しておきますね』
あくあ様はポケットから封筒を取り出すと私に手渡す。
何が入ってるんだろう? 確認のために封筒の口を開けると中には現金が入ってました。
『こ、これは受け取れません!』
『いやいや、ご飯食べるのとか日用品の補充とか、とりあえずお金はあったほうがいいでしょ。っと、そろそろ俺も仕事で行かなきゃいけないので、それはまた次の時に話しましょう』
『あ……』
あくあ様は慌ただしく玄関に向かうと靴を履く。
それを見た私もあくあ様を追いかけて玄関へと向かう。
『それじゃあ、また空いた時間に様子見にきますから! ちゃんと毎日、ご飯食べてくださいね!!』
『あ、な、何から何まですみません!!』
それからというもの、私はあくあ様の手配してくれたアパートで暮らしています。
ああ、こんな事が許されて本当にいいのでしょうか?
私なんかがあくあ様にお返しできる事なんて全くないのに……。
『揚羽お姉ちゃん、それ、本気で言ってるの?』
このアパートに最初に来たお客様は隣に住んでいたえみりちゃんでした。
どうやらこのアパートを手配してくれたのもえみりちゃんみたいです。ありがとう、えみりちゃん。
『ほら、その大きいのとか膨らんでるのとか小山さんとかお返しできるもんがたくさんあるじゃない!』
えみりちゃん……沢山って言ってるけど、さっきから全部一つのワードにしか聞こえないのはなぁぜなぁぜ?
それに、あくあ様だってこんなおばさんのになんか興味ないと思うの。
だ、だから、引越し祝いにそんな悪魔のビッグバン……だなんて、ううん、それはまだいいけど、こんなおばさんの私が天使のエアリーなんて無理よ。そういうフリフリでリボンがついてる可愛い奴は、えみりちゃんとか若い子がつけた方が、男の子だってきっと喜ぶと思うのよね。
『本当にそう思ってるのなら、揚羽お姉ちゃんはバカよ』
そして次にこの家を訪ねて来たのはくくりちゃんです。
なんでも一般人の暮らしがしてみたいからと、ここのアパートを丸ごと買い上げたのだとか……。
『もう誰もみてないんだしいいじゃない。ほら、揚羽お姉ちゃんこういうの好きでしょ』
くくりちゃんはニターっとした笑みを浮かべると、私のクローゼットの中を可愛い服で埋め尽くして帰っていきました。
こんな若い子が着るようなワンピースとか、フリルのついたシャツとかスカートとか、わわ、これなんてもうアイドルの衣装じゃない。100歩……ううん、1万歩譲ってそれはいいとして乙女咲の学生服なんて何に使うの!? これのどこの誰に需要があるっていうのよ!
「あっ……」
そんな事を考えている場合ではありませんでした。
私はテレビの前に座ると、電源を入れてチャンネルを合わせる。
「始まった!」
今日からヘブンズソードが再開する日です。
前回、いいところで止まっていたので、一体どうなってしまうのか気になっていました。
『んん……』
ベッドに横たわった女性が目を覚ましました。
彼女は確か、最後に慎太郎君演じる橘斬鬼さんが助けた女性です。
『ここは……』
どこか虚な目をした女性はベッドから上半身を起こして周囲を確認する。
『目が覚めたか』
あ……。
スーツのジャケットを脱ぎネクタイを緩めた姿の橘さんが、両手にマグカップを持って奥のキッチンから現れる。
橘さんは部屋の電気をつけると、女性にマグカップの一つを手渡した。
『ん』
ぶっきらぼうな中に橘さんの優しさが見えます。こういうの女の人は弱いんですよね。
女性は受け取ったマグカップをじっと見つめると、恐る恐る口をつけた。
『あ……』
『どうした? もしかして苦かったか? 一応ミルクと砂糖はいれたが、足りなかったのなら……』
『甘くて美味しい』
慌てふためくような仕草を見せていた橘さんは、女性の笑顔を見てふっと息を吐いて肩の力を抜く。
あああああ、慎太郎君、こんなにも演技が上手になって……おばさんは感動しました。
『お前……いや、君の名前は?』
『え、あ……わ、私の名前……?』
女性は考える素振りを見せた後に首を左右に振る。
記憶がないのでしょうか?
『思い出せない。何も……。本当に何も覚えてないの』
『そうか……』
橘さんはマグカップの中に入っていたコーヒーを一気に飲み干す。
『それじゃあ、しばらくはここに居ろ』
『えっ?』
はぁ!? 思わず女性と声が被ってしまいました。
そ、そそそそそれって、同居じゃ……だ、だめよ。そんな簡単に女性と同棲したら!!
『嫌ならいいんだが、そうじゃないのなら落ち着くまでの間、ここに居たらいい』
大丈夫かな?
こんな事を言ったら、今すぐ記憶を失ってきますとか言う女の子とか出てこない?
少なくともあくあ様がこんな事を言ったら、えみりちゃんならそこの電柱に頭をぶつけに行くよ?
『あ、ありがとう……えっと』
『橘、橘斬鬼だ』
橘さんはポケットから名刺入れを取り出すと、中に入っていた名刺をその女性に手渡す。
ふふっ、女性への自己紹介に名刺を手渡すなんていかにも橘さんらしいなと思いました。
『それじゃあ、よろしくな。えぇっと……女というのもアレだし、名無しのままだと面倒だな。仮に、そう仮にだな。お前を拾ったのは月が綺麗な日だった。だから月子なんていうのはどうだろうか? い、いや、嫌ならいいんだぞ。別に……他の名前でもな。うん』
あらあら、まぁまぁ、なんて素敵なのでしょう。
ふふっ。なんかいいなって思ってしまった。
『月子……。うん、私、月子がいい」
『そ、そうか』
橘さんは軽く咳払いをすると、月子に向けて手を伸ばす。
『それじゃあ、コホン……改めてよろしくな、月子』
『よろしく……。私、月子……。橘月子?』
そう言って月子は唇に人差し指を当て首を傾ける。
ちょっと、お待ちなさい! そんな……いきなり橘だなんて、苗字が一緒とかもう合法的に結婚したのも同然じゃないですか!?
今頃、そんな手段があったのかーって、頭を抱えながら立ち上がった女性が数百、いえ、数万人はいますよ!
私は一応えみりちゃんに、電柱に頭ぶつけて記憶喪失の振りをしてあくあ様に近づこうとするのはやめておいた方がいいよとメールを送る。
するとすぐにえみりちゃんから、何でバレたの!? さっきカノンと桐花マネからも止められたんだけどと返事がきた。ふぅ……どうやらえみりちゃんの事を心配してくれている人がちゃんと近くにいたみたいですね。よかったです。
「あっ、小早川さん」
オープニングは前回のエンディングで使われた5人バージョンに変更になりました。
どうやら今回から正式にオープニングとして採用されるみたいですね。って、よく見ると月子さんも新たにカットが追加されています。これからレギュラーになるという事でしょうか?
『フハハハハ、よくきたな!』
オープニングが明けるとカフェの服を着た天我アキラさんこと、神代始さんが接客するシーンに変わる。
『おすすめのメニューは俺考案の神カレー、もしくは、神ナポリタン、神パフェ、神パンケーキだぁっ!』
カレーは普通に美味しそうな見た目だけど、ベリルアンドベリルを思い出すとすごく不安になる。
それに20枚重ねの神パンケーキはいいとして、神パフェとか盛りすぎててもう完全にグラスから溢れて全部下のお皿で受け止めちゃってるじゃない。
んん? 唯一まともかと思ってた神ナポリタンをよく見ると麺がうどんになってた。それもうケチャップ味の焼きうどんじゃ……。え? それ食べれるの……。
『俺の一押しは神ナポリタンだが、どうする?』
『『『『あっ、じゃあ、神ナポリタン4つで』』』』
頼んじゃったよ……神ナポリタン……。
うん、でもみんな嬉しそうに見えるからまぁいっか。
『はじめくん、ありがとう』
『はじめおにーちゃん、ありがとう』
神代さんが居候している喫茶店のオーナー、南ハルカさんとその娘、南カナちゃんが笑顔を見せる。
前回まで激闘が続いていた事もあって、平和そうな雰囲気にほっこりした気持ちになります。
『いっちにー、いっちにー! ほら、お前達! しっかりしろ!!』
小早川優希さん演じる夜影ミサ隊員は阿部寛子さん演じる田島司令が見守る中、SYUKUJYOの隊員を引き連れてグラウンドで走り込みを行う。よかった、田島司令も夜影さんも元気そうで。
あれ? 加賀美隊員が居ないみたいだけど、どこに行ったんでしょう?
『ふっ、はっ!』
え……? 私はテレビの画面を見たまま固まる。
もし、私が母親で小さな娘がいたら、すぐに両手で目を隠した事でしょう。
あ、あ、あ、あくあくあくあ様が、じょ、じょ、上半身裸で、ボクシングをしていました。
腕に浮き出た血管、綺麗に六つに割れた腹筋、肌に滴る汗、それを拭った時に見える腋、白い吐息、え……鎖骨のところなんかもう放送禁止なんじゃないですか!? ていうか完全にアウトでしょ!! こ、これはテレビ局に苦情を入れた方がいいのかしら? だって、その、こんなの絶対に青少女の教育上とてもまずいです。
隣の部屋からひゃっほーーーいという声が聞こえてきた。あっ、えみりちゃん、今日はこっちに居るんだね。
『どうした?』
あわあわあわ、おまけに下もボクシング用のパンツで太ももまでガッツリ見えてるし、ダメじゃないですか!!
さすがはヘブンズソード、復帰1話目からとんでもないシーンを連発してきました。
平和そうなシーンで油断させておいて、一瞬たりとも気をぬくんじゃないぞと剣崎さんから言われているみたいです。
『はい、これ』
あ……猫山とあさん演じる加賀美夏希さんが、あくあ様演じる剣崎総司さんにペットボトルを手渡す。
何でしょう……。今の空気感とか間がなんかもうすごく恋人っぽいというか……いえいえ、これはきっと私の気のせいです。気のせいですよね?
『チジョーが現れなくなってから1ヶ月……そっちは相変わらずみたいだね』
へー、それじゃあ前回の終わりから1ヶ月は平和だったんだね。
束の間かもしれないけど、ヒーロー達に休息の時間が訪れて良かったと思った。
私はふと総理の事を思い出す。
総理とかすごくふざけてるように見えるけど、あの人は誰よりも働いてる。
ふざけて怒られる事もあるけど、それもまた愛嬌。総理は何事においてもある程度は寛容な世の中、誰しもが生きやすい世の中であって欲しいと、そういう社会を目指していると聞いた事があります。
本質は真面目な人だって知ってるから、もしかしたらあのおふざけもわざと……ううん、最近は楽しそうにふざけているのを見ると、あっちが本当の総理なんだろうな。そこも含めて憎めない人、人たらしだなと思いました。
もしかしたらあくあ様に本質的に1番近いのは彼女なんじゃないかと思ったけど、それは気のせいでしょう。うん、きっと気のせいなはずです……。
『ああ、いつその時が来てもいいように気を抜くわけにはいかないからな。それに……』
剣崎さんは前回の回想に入る。
次元の狭間から出てきた新たなチジョー達。きっとまだ戦いは終わってない。
今は嵐の前の静けさなのだと視聴者に予感させます。
ん? えみりちゃんの部屋の方が少し騒がしいですね。どうかしたのかしら? これが終わったら様子を見に行った方がいいのかもしれません。
『だからと言って根を詰めすぎたらダメだよ』
『わかっている。お前もな』
剣崎さんは加賀美さんの頭の上をポンポンと叩く。
は〜〜〜……あっ、一瞬だけ意識が遠のきそうになりました。
これが夫婦ですかーなんて思ったのはきっと気の迷いでしょう。
再びシーンが切り替わるとキッチンに向き合う月子さんが映りました。
『ふんふんふーん』
月子さんを演じる淡島千霧さんって身長が高くって足がすらっとしててすごくクールでかっこいい人ってイメージだけど、今回演じる月子は表情が柔らかくて家庭感があって、今までやってた役とのギャップをすごく感じました。
『ただいま、月子』
慎太郎君!?
橘さんは月子さんを後ろから抱きしめるんじゃないかという距離感で顔を近づける。
待って……これからはあくあ様やとあちゃん以外のシーンでも視聴者を翻弄させようとしてきてるんですか!?
ネットじゃあくあ様と比べて安心感、あまりびっくりさせる事をしないでファンを増やしてきた慎太郎君だけど、このシーンには気の弱い子が多いマユシンファンの子達も凄くびっくりしちゃってるんじゃないかな。
しかも慎太郎君ってあくあ様とほぼ身長が同じで180cmあるんですよ!!
だから170cm後半の淡島さんでも、慎太郎君より少しだけ小さくてそれがその……えー、なんか凄くドキドキする。本郷監督は再開から攻めすぎなんですよ! 生理周期じゃないのに、こんなドキドキするシーンを連発してたら排卵が始まっちゃいますよ!! もっとこう、さっきの焼きうどん……じゃなくって、神ナポリタンみたいな視聴者が保護者の目線になるようなほんわかするシーンを入れてください!!
『お帰りなさい』
あっ……これは完全に夫婦です。
私、結婚どころか男性とお付き合いした事なんていないけど、2人は確実に一線を越えてる男女の雰囲気を醸し出してました。こ、これって、慎太郎くんの演じる橘さんが大人びてるから? そ、そそそそそそれともリアルで淡島さんに卒業させてもらったとか!?
私は慌ててSNSを確認する。
だ……だめです。あくあ様のキックボクシングのところでSNSが完全に消滅していました。ページが存在しませんって……。
『今日はどうだった?』
『ああ。今日はな……っと、この卵焼きうまいな』
『ほんと? ふふっ、ありがとう』
同じテーブルで仲良く談笑しながら食事ですって!?
日曜の朝から固定観念をちゃぶ台返しするような衝撃的なシーンが続く。
その後も橘さんと月子さんがイチャイチャするシーンが映し出される。
これが女性同士であれば普通に会話してるだけだけど、男女間になるとイチャついているようにしか見えません。
『あー、駄菓子屋さんだー』
『おい、あまり走るなよ』
『ふふ、カナったら、はじめさんとお出かけできて凄く楽しそう』
こっちもですか!?
神代さんと南さん親子が仲良く3人で手を繋いで歩くシーンが映し出される。
さっき神代さんは癒しだなんて言っていましたが、全くといってそんな事はありませんでした。
え? だってもうこれ完全に家族ですよね? 子供できちゃってますよね? ふぁ〜! 私たちの中にある家族観の固定観念が覆されていく。
『おやつは300円までだぞ』
『はーい』
これもう天我パパじゃん……。いやそうじゃなくてパパは神代さんで、えーと、えーと。
コホン! 私とした事が精神を乱されましたが、まさかの3連続夫婦シーンとは驚きました。
『ここも大丈夫っと』
シーンが変わると夜道を1人歩く加賀美さんが映し出される。
どうやらチジョーが現れないか夜の街をパトロールしてるみたいです。
もし現実の世界でとあちゃんが夜の街を1人でパトロールをしていたら、きっとお姉さん達に秒で襲われるでしょうけど……加賀美隊員なら変身できるし大丈夫なのかな?
『きゃあっ!』
加賀美隊員は叫び声に反応すると即座にそちらの方向に向かって走り出す。
『グヘヘヘヘ』
この下品な声は間違いなくチジョーです。
そういえば、たまにえみりちゃんの部屋の方向から似たような声が聞こえる時があるのですが、私の聞き間違いでしょうか?
『チジョー! こんなところに居たのか!』
加賀美隊員が現場に駆けつけると、女性の前でゴミ箱に顔を突っ込んだチジョーがいました。
何をしているのでしょうか?
『ン? ナンダ オマエ? オンナ……イヤ! オトコカ!!』
新たなチジョーですか。あまり知能指数が高そうには見えません。
加賀美隊員が目の前に手を伸ばすと手のひらに蝶が舞い降りてくる。
バタフライファムはこういうところの演出も他の4人とは少し違うんですよね。
『変身!』
バタフライファムの変身シーンは5人いるドライバーの中で1番スマートでエレガンスです。
ヘブンズソードもスマートだけど、堂々としてて凄く男らしいというか、あっちはおへその下辺りがキュンってしちゃうんですよね。
『ドライバー ダト!?』
チジョーは相手がドライバーだと知ると、三流の悪役のようにダッシュで逃げた。
それを見たバタフライファムは腰を落として目標を定めるように槍を構える。
『ウィングスラッシュ!』
バタフライファムはチジョーに向かってマントをはためかせて突撃する。
初めて変身した時にも使ってたけど、そういう技名なんだね。
『ヒィッ!』
チジョーは後ろから迫ってきたバタフライファムを見ると、直角に曲がるようにして三角跳びして壁をよじ登る。
バタフライファムは空中を舞うようにくるりと回転するとマントを翻し、壁ジャンプして空に舞う。
うわー、同じジャンプなのに、あっちはドタバタしててこっちは優雅です。
『エアリアルレイド!』
バタフライファムは空中で槍を薙ぎ払うと、逃げ惑うチジョーに向かって風の刃となった攻撃を放っていく。
でも相手の予測不能かつコミカルな動きに惑わされて攻撃が当たらない。
『こらー、逃げるなー!』
あっ、ごめん。せっかくの戦闘シーンなのに、中の人、とあちゃんの声のせいもあってなんかほんわかした。
『ヒーッ スタコラサッサ!!』
『あっ!』
チジョーはマンホールの蓋を開けると中に逃げ込んでしまった。
バタフライファムはマンホールのそばに着地すると、その中を覗き込む。
『ううっ……流石にこれ以上は追えないかも』
バタフライファムは変身を解いて加賀美隊員の姿に戻る。
薄暗い下水道での戦いは目立ち易いカラーリングのバタフライファムは不利だ。それに加えて狭い中での戦闘は機動力が持ち味のバタフライファムにとっては相当きついと思われます。
だからここは引く判断で間違ってないと思いました。
『もー! なんなのさ、あのチジョー!』
加賀美隊員は頬を膨らませる。
ふふっ、かわいい。
『ん? ミサ先輩?』
加賀美隊員の持っていた通信機に反応がある。
発信者名を見ると夜影ミサと書かれていた。
『こちら夜影、チジョーが出現した』
『知っています。それならこっちも今、遭遇したばかりで……』
夜影は戦闘中なのか、後ろで戦うような音が聞こえる。
『何!? そっちにロ・シュツ・マーやクンカ・クンカーが出たというのか!?』
『えっ? ロ・シュツ・マー!? クンカ・クンカー!?』
場面が切り替わると同時に見覚えのあるチジョー達の後ろ姿が映し出された。
あっ……せっかくのいいところだったのに、そこでCMです。
隣の部屋から、やったぞ。クンカ・クンカーだ! ぐへへという声が聞こえてきた。
えみりちゃん? さっき、ぐへへって下品な声が聞こえてきたけど、お家にチジョーがいるのかな? のえるさんから変なペットを拾ってきちゃダメだって言われてたでしょ。怒られるよ?
私はCMの間にトイレに行くと、飲み物を補充して後半に備える。
「ちょっと、えみりお姉ちゃん、さっきから五月蝿いんだけど? 2軒隣の私のところにまで丸聞こえだよ」
「ひぃっ、すみませんでしたー」
ん……? なんか今、くくりちゃんとえみりちゃんの声が聞こえてきたような。もしかして一緒に見てるのかな?
いいなあ。私もお邪魔しちゃだめかな? そんな事を考えていたら後半のパートが始まりました。
『ふんふふーん』
後半のシーンは買い物帰りの月子さんのシーンから始まりました。
鼻歌を歌いご機嫌な月子さん。その後ろから一つの影が忍び寄ります。
『思い出せ』
ちらつくトラ・ウマーの残像。あっ……そっか、今思い出したけど、月子さんって中のキャスト的に確かトラ・ウマーなんだったっけ。
えっ、待って、そう考えると、橘さんは何も知らずにトラ・ウマーと暮らしてるってこと!?
頭を抱えた月子さんは持っていた買い物袋を落とすと、その場に膝をつく。
『オンナ オマエ ニオウナ?』
月子さんが声のした方に振り返ると、そこにはデカ・オンナーが立っていた。
嘘!? ロ・シュツ・マーといい、クンカ・クンカーといい、確かに倒したはずでしょ!?
なんでまだ生きてるの!?
『あ……あ……』
地べたにお尻をついたまま後ろに下がる月子さん。
そこに容赦なく振り下ろされるデカ・オンナーのパンチ。
でもその攻撃を草むらから飛び出てきたバッタメカが弾き飛ばす。
『月子!』
スーツ姿の橘さんは息を切らして月子さんのところに駆け寄る。
慎太郎君、かっこいい!
『デカ・オンナー……なんでお前がここにいるのかはわからないが、月子に危害を加えるというのなら俺が相手だ』
橘さんはスーツのジャケットを脱ぎ捨てると、ネクタイを緩める。
はわわわわ、今日の慎太郎君は男らしさマックスですか!?
『来い! ライトニングホッパー!!』
ライトニングホッパーをキャッチした橘さんは取り出したベルトに装着する。
『変……身!』
変身したライトニングホッパーは銃を構えると、デカ・オンナーに対して躊躇わずに攻撃を加えていく。
なんか、なんか……今日のライトニングホッパーは今までと全然違う気がします。
『クッ! ウットウシイ! ソレナラバ……!!』
ライトニングホッパーが得意とするのが遠距離攻撃だと見抜いたのか、デカ・オンナーは近接戦闘へと持ち込もうとする。しかし、それに対して橘さんはちゃんとこの1ヶ月で苦手とする近接戦の対策を準備していたのです!
飛びかかるデカ・オンナー。それに対してライトニングホッパーの脚の側面がパカッと開くと、中から新しい銃が出てきました。
『ショットガンライジング!』
ここにきて新武器!?
ピストルから近接専用のショットガンタイプの銃に持ち替えたライトニングホッパーは近接戦でデカ・オンナーを圧倒する。
嘘でしょ……。あのネタの橘、ケツの橘と呼ばれていた橘さんが、私達が見てない2週間の間に、剣崎さん並に頼れる男になって帰ってきた……。隣の部屋からもイケイケ橘、オセオセ橘という声が聞こえてきます。
『ナンダト!?』
『もう、俺は前までの俺じゃない』
ライトニングホッパーは銃口をデカ・オンナーへと向ける。
『俺の名前は橘斬鬼、マスク・ド・ドライバー、ライトニングホッパーだ!』
ふぁ〜、これはきっと橘さんのファンが増えちゃいます。し、慎太郎くんを守らなきゃ! ベリルのセキュリティは大丈夫かしら? あくあ様なんてもうあくあ様に勝てる人間なんていないと言わんばかりに、警備がついてるのかついてないのかわからないほどザルだから心配になります。
『うぅ……』
『月子!?』
橘さんは苦しむ月子へと視線を向ける。
その一瞬を狙ってデカ・オンナーは目眩しを使って逃げ出した。
『くっ! 逃したか……いや、それよりも今はもっと大事な事がある。月子!!』
橘さんは倒れて意識を失った月子に駆け寄る。
シーンが切り替わると今度は何かから庇うように南親子の前に出た神代さんが映し出されました。
『クンカ・クンカー、お前は確かあの時……』
『クンクン クンクン コノ ニオイ ハ オトコ! オトコダ!!』
神代さんは空を飛ぶ蜂をキャッチする。
隣の部屋からは、さすがはクンカ・クンカーだぜ。変態度が違うという声が聞こえてきた。
『へんしんっ!』
神代さんは腕を大きく動かす無駄にカッコイイポーズでポイズンチャリスに変身する。
『お前の罰は俺が背負うと約束したはずだ。だから、これ以上お前に罪を重ねさせたりはしない!』
あ、あ、あ、これは2話の時に神代さんがクンカ・クンカーに向けて行ったセリフです。
かっこいいな。これは役なのかもしれないけど、BERYLの男の子達はちゃんとかっこいいんだなと思いました。
孔雀君や孔雀君とコンビを組んでくれている山田君も、彼らの背中を見て同じようにかっこよくなっちゃうのでしょうか? 彼らがあくあ様の背中を見てかっこよくなったように……。
『シャドーサイクロン!』
弓を分離させて両手に武器を持ったポイズンチャリスは、回転しながらそのまま敵に突っ込んでいく。
凄まじい攻撃です。これにはクンカ・クンカーも為す術がありません。本当にみんな強くなったんですね。
ここまで3人ともオーバークロックを使わなくても敵を圧倒しているのにも成長が感じられます。
『これで終わりだ』
ポイズンチャリスは手に持った武器を再び合体させて弓に戻す。
『ハートブレイクアロー!』
ポイズンチャリスの矢がクンカ・クンカーの胸を貫く。
次の瞬間、断末魔と共にクンカ・クンカーが散っていった。
隣の部屋からもそれと同時に、嘘だろ!? 私のクンカ・クンカーが一瞬で!? うぎゃあああああというチジョー並の断末魔が聞こえてきた。えみりちゃん? やっぱり貴女の部屋にチジョーさんが住んでるでしょ?
『ん?』
変身を解いた神代は手応えがなかったのか違和感を感じる。
シーンが再び切り替わると、夜影隊員が地面をゴロゴロと転がっていた。
『くっ、なんで……なんで、お前が生きている!!』
嘘……でしょ? 夜影隊員の前に立ち塞がったのは確実に倒したはずのあのエゴ・イストでした。
『変身しろドライバー。生身のままでは話にならん』
エゴ・イストは夜影隊員に剣先を向ける。
夜影隊員は飛んできたクワガタをキャチすると、ベルトに装着した。
『変……身……!!』
バイコーンビートルに変身した夜影隊員はエゴ・イストに向かってラッシュ攻撃を仕掛ける。
もはやあの自信を失っていた頃の夜影隊員の姿はそこにはありません。
『タキオンパンチ!!』
光速をも超える重たいパンチがエゴ・イストを吹っ飛ばす。
どうやら1ヶ月の間に、みんなそれぞれ新しい技を習得していたみたいですね。
『いいぞ。貴様、中々やるではないか!』
夜影隊員は首を傾ける。
どうやら私達視聴者と同じ疑問を抱いたようです。
【どういう事だ……? こいつ、まさか私の事を覚えてないのか?】
先ほどから拭いきれない違和感。
とあちゃんと対峙したのは新しいチジョーでしたが、クンカ・クンカーにしてもデカ・オンナーにしてもポイズンチャリスやライトニングホッパーの事を覚えてない素振りでした。
『む?』
夜影隊員の助っ人として、SYUKUJYOの部隊が駆けつける。
それを見たエゴ・イストは手に持っていた剣を鞘に収めた。
『どうやらここまでのようだな』
『待て! 逃げるな!!』
チジョーは幹部ほど逃げ足が早い。
エゴ・イストは自分が不利だと察すると、あっという間に退散していきました。
『きゃあああああっ!』
シーンが切り替わるとチジョーから逃げ惑う人々が映し出された。
見覚えのあるコート、間違いありません。ロ・シュツ・マーです。
『ワタシ ヲ ミロ!!』
隣の部屋から、いいぞ〜! クンカ・クンカー亡き今、お前だけが最後の希望だという声が聞こえてきました。
えみりちゃん、もしかしてチジョーを応援してるの? ダメよ。そんな事してたら、いつの日かえみりちゃんもチジョーになって、剣崎さんからドライバーキックされるわよ。
『お母さんが言っていた』
あっ……。
声を聞いただけで背筋がピンとする。
誰しもが彼が来たのだと確信した。
『もし友が、愛する人が、身近な人が、自らの目の前で罪を犯そうと言うのなら、それを止めてあげる事こそが真の愛だと……』
剣崎さんは後ろから飛んできたカブトムシを逆手でキャッチする。
『ロ・シュツ・マー、俺はいつだってお前の事を見ている。だから……お前も俺の事だけを見ていろ』
ふぁーーーーーー、隣の部屋にいるえみりちゃんとくくりちゃんと私の声が重なる。
え? これ、中の人大丈夫かな? もう一生あくあ様以外の事を見れなくない?
確か中の人は高野舞さんだっけ。このセリフもどうせあくあ様のアドリブなんだよね? だったらもう責任とらなきゃ……。
『変、身!』
あー、やっぱりヘブンズソードが1番かっこいい。
慎太郎君がせっかくかっこよくなってたのに、あくあ様はそれ以上の包容力を見せてくる。
それは当て付けとかそういうのじゃなくて、まるで慎太郎君にその先を、お手本を見せているように思えた。
『ナンダ オマエ ハ?』
『ふっ、やはりそうか。お前……』
ヘブンズソードは一旦ロ・シュツ・マーから離れると手に取ったカードを見る。
あ……そういえばチジョーは死んだ後、全てがカードになっていたはずです。
つまりヘブンズソードの手元にロ・シュツ・マーのカードがあるという事は……。
ヘブンズソードは腰のベルトに装着されたカブトムシの角に手をかける。
『ドライバー……キック!』
シンプルかつ回避不能の最強攻撃。研ぎ澄まされた完璧なドライバーキックがロ・シュツ・マーを弾き飛ばす。
地面に倒れたロ・シュツ・マーは小さな粒子となって霧散していきました。
『やはり偽者だったか……』
ヘブンズソードは強く拳を握りしめる。
死者への冒涜に近い行為に剣崎さんは怒りを滲ませた。
『お見事ですね。ヘブンズソード……いえ、剣崎総司』
剣崎さんが声の方へと振り返ると、錫杖を持った女性が立っていました。
地面につくほどの長いヴェール、一瞬だけチジョーの親玉、セイジョ・ミダラーかと思いましたがどうやら違うようです。
『誰だ?』
『おっと……私とした事が名乗りもせずに失礼致しました。私の名前はミ・レーン、チジョーが幹部の1人、死を司どるシスター、ミ・レーンでございます』
ミ・レーンは、ヘブンズソードに向かって丁寧に頭を下げる。
明らかに他のチジョーとは違います。
『さぁ、剣崎総司、貴方の未練を覗いて! 暴いて! 曝け出して見せましょう!!』
どうやらこのチジョー、あまり性格がよろしくないようです。
ミ・レーンが錫杖をシャランと鳴らすと、ヘブンズソードが頭を抱え地面に片膝をつく。
一体、どうしたというのでしょうか? ヘブンズソードの中にいる剣崎さんの苦しむ顔が映し出されました。
『ぐっ……!』
グニャリと歪むヘブンズソードの視界、目の前に居たミ・レーンの姿が別のチジョーの後ろ姿へと変わる。
ほんの少しの動き、剣崎の方へと振り返るような仕草、たったそれだけの事なのにものすごい母性を感じた。
唇とその周り以外は完全に特殊メイクや外部装甲に覆われている。それなのに、笑顔ひとつでどうしてこんなに心が安らぐのでしょう? 誰? 素人の、ただの視聴者の私が見てもわかるくらい、この人はとてつもなく演技が上手い。
『お……かあ……さん……!』
は!? え? どういう事!?
もしかして剣崎さんのお母さんって、チジョーなの!?
『総司、貴方は人の道をお行きなさい。私とはここでお別れです』
は!?
ま、まって、こ、ここここの声って!
「「小雛ゆかりパイセンキターーーーーー!」」
隣の部屋が一気に騒がしくなる。
え? え? え? 剣崎さんのお母さんってチジョーで小雛ゆかりさんなの!?
『うおおおおおおおおお!』
剣崎さんは唸るように声を上げると地面を勢いよく殴りつけた。
そこを中心に地割れを起こしたヘブンズソードは、シスターミ・レーンの集中を乱して無理矢理術を解く。
『はぁはぁ……はぁはぁ……』
ヘブンズソードは肩で息をする。そしてその後ろ姿からは強い怒りのようなものを感じました。
おそらくは剣崎さんにとって大事にしてた過去、誰にも見られたくなかった過去だったんでしょう。
『なるほどなるほど、そういうわけでしたか。これは興味深い。それに先ほどの貴方の脳裏に浮かんだチジョー……ふふふ、私、その方に見覚えがありますよ』
『何っ!?』
ミ・レーンはヘブンズソードに向かって手のひらを差し出す。
『この手を取りなさいヘブンズソード。そうすれば貴方の母に会わせてあげましょう』
それはきっと罠よ! ヘブンズソード、その手を取っちゃダメ!!
隣の部屋からも私が考えている事と同じような声が聞こえてくる。
『……お母さんが言っていた』
ヘブンズソードがゆっくりと立ち上がる。
今日まさかの2度目のおかいつに私も思わず立ち上がってしまいました。
『人の弱みにつけ込むような奴を信頼してはいけないとな!』
ヘブンズソードが手を伸ばすと、その手に神代のカリバーンが顕現する。
『チェンジ・ド・フォーム、ハイパーモード!』
隣の部屋からハイパーフォームキターという声が聞こえてくる。
なんなら3軒先にいる優しくしてくれる八百屋のお姉さんの声まで聞こえてきたし、5軒先にいるお話しやすい魚屋のお婆ちゃんの声まで聞こえてきました。壁が薄いのでしょうか? まるで映画館で見ているような臨場感です。
『マスク・ド・ドライバー、ヘブンズカリバーン!!』
ミ・レーンが手を振り下ろすと、どこからともなく現れたチジョー達がヘブンズソードに向かって攻撃を仕掛ける。それに対してヘブンズソードは炎を纏った剣を振り上げた。
『お母さんに誓った』
3度目のおかいつが来るのかと思いきや、ここに来て新しいパターン!?
『どんなに心が辛くとも、魂が挫けそうになったとしても、俺は、全てをやり遂げてみせる!!』
何を誓ったのかはわからない。でも剣崎さんの表情からその覚悟が伝わってきます。
『カリバーンよ力を貸してくれ。全てのチジョーの魂に安らかな眠りを』
ヘブンズソードは手に持ったカリバーンを大きく振り回す。
まるで炎舞の様な美しい舞、柔らかな炎の光がチジョーを包み込みそして全てを優しく浄化していく。
天に昇っていくチジョー達。全てが終わった後、そこにミ・レーンの姿はありませんでした。
先ほどの攻撃で倒したわけではないでしょう。きっと、その間にどこかへと逃げ出してしまったのです。
チジョーは幹部ほど逃げ足が早いですから。
『お母さん……』
ヘブンズソードが空を見上げると、ポツリポツリと真っ暗な空から雨が落ちてくる。
画面が暗くなり雨の音だけが流れ、右下にはto be continued……という文字が現れました。
ぼーっと画面を見つめていると雨の音だけが残り、真っ黒なバックにスタッフスクロールが流れていく。
「一週空いてたから油断してたけど、今週もすごかった……」
しばらく時間が経ってから携帯でネットを確認すると、トレンドランキングに知らなかったというワードが入っていました。
なるほど……小雛ゆかりさんは別撮りだったらしく、今日この日まであくあ様は母親役が小雛ゆかりさんだと知らなかったみたいです。
お母さんチェンジと投稿したあくあ様のメッセージに、小雛ゆかりさんが、なんでなのよ!? もっと喜びなさいよ!! って噛み付いてたのがみんなにウケていました。
ピンポーン!
あっ、誰だろう?
隣の部屋のえみりちゃんかくくりちゃんが遊びに来たのかな?
「はーい」
私が玄関に行って扉を開けると、そこにはあくあ様が立っていました。
突然の事に私はフリーズしてしまいそうになる。
「おはようございます。近くに用事があってそのついでに寄ったんだけど、今、忙しかったかな?」
「いえ、全然大丈夫です」
まさかあくあ様が本当に様子を見に来てくれるなんて思いもしませんでした。
「どう? 何か困ってる事ない?」
はわわわわ、現実のあくあ様が優しすぎます。
私はあくあ様を家の中に招きいれてお話をする。
「あっ、そういえば揚羽さんに少しお願いがあって……」
「私にお願い? なんでしょう?」
えみりちゃんのお部屋の下にオーディションで合格したフィーヌース殿下とハーミー殿下が入居?
幼い子2人でシェアハウスなんて大丈夫でしょうか?
「2人とも一人暮らしに憧れてるみたいでさ、それならって話を聞いていたえみりさんがこっちに居る時は面倒見てくれるって言ってくれたんです」
なるほど、面倒見のいいえみりちゃんらしいです。
私はあくあ様にそういう事ならお任せくださいと言いました。
「あっ、そういえば、えみりさんって今日こっちに居るんだっけ? せっかくだし、そっちの方にも挨拶行こうかな。揚羽さんも一緒にどうですか?」
「あ、じゃあ、お言葉に甘えて……」
私はあくあ様と一緒に部屋を出るとそのまま隣のえみりちゃんの部屋へと向かう。
すると私の部屋がある方の壁に耳をつけたくくりちゃんとえみりちゃんの2人が居ました。
2人とも、何してるの……。
「い、いやぁ、隣の揚羽お姉ちゃんが心配で、ぐへ、ぐへ、ぐへへ……」
「えみりさん、それもしかして今日出てたチジョーのモノマネ?」
ふふっ、えみりちゃんのチジョーのモノマネがそっくりで、思わずおかしくて笑っちゃいました。
それに釣られてみんなが笑顔になる。
まさかこんな穏やかで楽しい時間を過ごせる日が来るなんて思ってもいませんでした。
「せっかくだし、みんなでご飯食べに行こうか」
「賛成です、あくあ先輩!」
あくあ様の提案で私達は近くのファミレスへと向かった。
楽しみだな。ファミレスだなんて、もう何年ぶりだろう。
私はウキウキとした気持ちでみんなと一緒にファミレスへと向かった。
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