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白銀カノン、乙女ゲーム攻略。

 あくあ達が草津に温泉スキー旅行に行っている間、私達、検証班は集まってベリルの乙女ゲーを攻略する事にした。

 本当は私もと思ったけど……妊娠してるし、たまにはあくあも実家の人達とのんびり過ごす時間があってもいいんだと思うんだよね。


「とりあえずここまでは順調だな」


 私の隣でえみり先輩があぐらをかきながら、カップうどんをずるずるとすする。

 本当はお嬢様のはずなのに、その姿がなぜか様になっているように見える気がするのはきっと私の気のせいだよね?


「あくあ君コラボのカップうどんうまうま!」


 楓先輩、カップ麺のお汁まで全部飲んだら体に悪いですよ。ほどほどにしましょう。そうじゃないと鬼塚さんや姐さんに、生活環境がだらしないってまた怒られちゃうよ? まぁ、あくあと結婚したらそこら辺は改善するとは思うけどね。

 成人式の翌日、あくあと2人揃って家に来たまではよかったけど、流石にいきなり結婚まで行ってたのはびっくりだよ。あくあってなんでこう、1から段階をあげて100とかじゃないんだろう。もう0からノンタイムで100なんだよね。だから生き急いだみたいな生活してるのかな……。もう少しお仕事だってセーブすればいいのに、そのうち倒れちゃったら、どうしようって心配になる。


「クリアまであと1ヶ月……。このまま順調にいけば好感度的にも大丈夫そうですね」


 姐さんは私達みんなで作った攻略ノートと睨めっこする。

 表向きでは最速と言われる鞘無インコさんの攻略がゲーム内で1ヶ月目に差し掛かろうとしているのに対して、私達の方はと言うと11ヶ月を過ぎようとしていた。このゲームは12ヶ月でエンディングを迎えるので、あと少しで終わりです。

 最初は新人マネージャーだった主人公も急速に拡大していくベリルに合わせて出世し、今やあくあの専属マネージャーを務めている。これも、姐さんが仕事モードでの選択肢を間違えなかったおかげだと思う。

 まだ検証が完了したわけじゃないけど、出世するために重要なのは信頼度で、誰のマネージャーになるかで重要なのは関係値だろうと予測しています。だから、これであくあルートに入ったのは間違いないと思うんだよね。


「それじゃあ、始めるよ!」

「おう!」

「うん!」

「行きましょう!!」


 私はポーズ画面を解除すると先に進む。


『ポンなみさん、夏フェスの件はどうなりましたか?』


 文字が出た瞬間、私は机に突っ伏す。

 なんでよりにもよって名前がポンなみなのよ!!


「どうしたポンなみ? まだあくあ様のサービスシーンじゃないぞ?」


 どうしたじゃないでしょ!

 この変な名前にしたのえみり先輩じゃない!!


「なんで主人公の名前がポンなみなのよ!! もーーーっ、そのせいでゲームに集中できないじゃない!」


 まぁ、そのおかげであくあがカッコイイシーンになってもイマイチ没入できなくて、攻略には助かってるんだけど……。むぅ、私は渋々とゲームを進めていく。あ、選択肢だ。


【A:順調です。なんの問題もありません!】

【B:今から、あくあさんとその打ち合わせをするところです】

【C:はわわわわ、今から確認してきまーーーす!】

【D:えーっと、どうだったっけ?】

【E:確認しなきゃいけない事が多くて全然終わらないんです。助けてください!!】


 うーん、一見するとAかBが良さげだけど、このゲームの選択肢はちょっと普通じゃない。

 たまに間違ったような選択肢がミラクルな正解に繋がる場合がある。


「Cは止めといた方がいい。私が鬼塚パイセンに叱られる時のパターンとまったく一緒だ」


 何、その楓先輩の無駄に説得力のある説明……。

 楓先輩の野生の勘は結構当たる事が多いし、とりあえずCは選択肢から消しておこう。


「Bは絶対に餌だろ。小雛先輩の匂いがぷんぷんしやがるぜ。ワンチャン、フェイクのフェイクの可能性もあるけど、ここのところ野良の小雛ゆかりが鳴りを潜めてるのが余計に怪しいんだよ」


 確かに……このゲーム、あくあが夏休みに入ってからちょっと選択肢が緩くなったんだよね。

 夏休みに入った途端、小雛先輩や楓先輩が仕事の関係で出現率が落ちる代わりに、ボーナスカットやあくあとのイベントが一気に増えた事。その前の4月、5月、6月の地獄の3ヶ月と比べて、ゲームの難易度が急にデレてきてるのは怪しい気がする。このゲームを作ったスタッフを信頼してはいけない。


「Aはダメだと思います。実際、ゲーム内のタスクでは結構ギリギリですし、そこを順調と言って何かトラブルがあったら、これまでに築き上げてきた信頼度が落ちるのではないでしょうか?」


 姐さんのアドバイスは的確だと思う。私もAはないと思った。


「となると、残りはDとEか……。ここはEかな」

「Dじゃない理由は?」

「Dじゃない理由というよりも、Eなら誰かがヘルプでくる選択肢だと思うんだよね。もしかしたら一時的に信頼度は下がるかもしれないけど、姐さんが手伝ってくれるなら野生の楓先輩でゲームオーバーになる事は確定で防げるし、阿古さんが手伝ってくれるなら野良の小雛先輩でゲームオーバーになる事は確定で防げるから、選択肢的にEは相当アリだと思う」


 このゲームの攻略についてもっとも懸念となるのが野生の楓先輩と野良の小雛先輩だ。

 そしてこの2人のゲームオーバーを確定で回避できるのが姐さん、阿古さん、そして、あくあの3人です。

 つまりこの3人の間をうまくフラフラしたり良いタイミングで一緒に行動するようにすれば、ゲームオーバーを回避しつつ攻略を進められる事に気がつきました。


『わかったわ。そういう時はみんなで手分けして頑張りましょう!』


 阿古さんはそういって姐さんを連れてきてくれた。


「こーれ、勝ち確です。もぐもぐ」


 あっ、私が買っておいてあったみたらし団子!

 もー、そんなに食べたら太るよ! って言いたかったけど、えみり先輩の場合、栄養が全部1箇所にいってるんだよね。この前も体重増えたって言うから3サイズ測ったらウェストはそのままで胸だけ膨らんでるんだもん。いくらなんでもそれは反則でしょ!!

 はっ!? もしや、あくあってそれがわかってて、たーんとお食べってえみり先輩を餌付けしてるんじゃ……ううん、それはきっと私の気のせいよ。気のせいよね?


「シリアス度が上がってきました。シリアス度が上がってくると野生の私は登場しません」


 楓先輩、なに、そのシリアス度って……新しい隠しパラメーターみたいなのを勝手に作らないでくださいよ。


「そういえば仕事が忙しくなった時に野生の楓さんが現れる出現率がガクンと減るんですよね」

「そりゃそうでしょ。現実の私も仕事に巻き込まれないように、みんなが忙しい時は懲罰房で大人しくしてるもん」


 嘘でしょ……。え? ここにきて新たな隠しパラメーターとかあるの?

 ま、まぁ、そこらへんの検証は姐さんに任せて私はゲームを進めよっと。


『はー、疲れたな』


 気づけばゲーム内の時間は深夜。週末にはゲーム内最後の仕事イベントだと思われる夏フェスあるから、ベリルのマネージャーとしての仕事も大詰めだ。


『あ……』


 急に画面が真っ暗になる。

 それを見ていた私たち検証班全員に戦慄が走った。


「野生の楓パイセンか!?」

「いやいや野生の私はこの時間は呑気にぐーたら寝てるはず。ここは暇な野良の小雛ゆかりさんでしょ」

「小雛ゆかりさんは仕事中に迷惑かけまいと画面端で構って欲しそうに彷徨いた後に帰っていたのでないはず。まさか戻ってくるパターンもあるのでしょうか?」

「ううん、多分どっちも違うよ」


 結論から言うと、3人の予想は外れている。

 この瞬間、私だけは主人公に何があったのかわかった。


『だーれだ?』


 ほらね! あくあはこういう事をすると思ったんだよ!!


【A:あくあくん!?】

【B:えっ、誰!?】

【C:ははは……働き過ぎて幻聴が聞こえてきた】

【D:ひーっ、おっ、おっ、おばけだー!】


 まーた、面倒臭そうな選択肢が出てきた。


「普通に考えたらA一択だよなぁ」

「流石にあの声でわかるし、Bはないでしょ」

「かといって、CとDもどうかと思う。そこから先の発展性、ビジョンが全く見えない」


 私はテーブルの上に肘をついて手を組むと、手の上におでこを乗せるようにして俯き気味に考える。

 相手はあくあだ。しかもここの選択肢は、スタッフじゃなくてあくあか白龍先生が考えてる気がする。

 あくあならどれがいいだろうって考えたら、私の中の答えは一つしかない。


「ここは圧倒的、Bね」


 全員が驚いた顔で私のことを見つめる。


「あくあはこういうのにちゃんと引っかかってくれる女の子に弱いはず」

「なるほど、つまりは頭がポンなみレートの女に弱いと。メモメモっと!」


 えみり先輩、もし、私が小雛先輩だったら張っ倒してると思いますよ?

 私は隣ではしゃぐえみり先輩を無視してBを選択する。


『ははっ、流石に誰はないでしょ? それとも、本当に俺の事を忘れちゃった?』


 あっ……あくあの顔がアップになった。

 ゲームの中だけどやっぱりカッコいいな。声だってかっこいい曲を歌ってる時とかと違って優しくて甘いし、視線も柔らかくて、このシーン、完全に私の事だけを見つめちゃってるじゃん。って、えみり先輩や、楓先輩や姐さんも思ってるんだろうな。あ、えみり先輩も楓先輩も急にもじもじするのやめてくださいね? 発情したら1番遠いトイレでシテください。


『ポンなみは本当に面白いな』


 私は机にゴンと頭をぶつけた。

 せっかくいい雰囲気になってたのに、ポンなみが全てを台無しにしてくる。


「ポンなみ、大丈夫か!?」

「ポンなみ!? どうかした!?」

「ポンなみさん!? 妊娠してるんだからあんまりバカなことはしないでくださいね?」


 もー、姐さんまでポンなみとか言わないでよ。って半笑いじゃん。もーっ!

 私達はわちゃわちゃと戯れあう。うー、こうなったらたまには私の方からイタズラしちゃうんだから。


「んっ」

「あっ……」


 私はえみり先輩と姐さんをまとめて抱き寄せる。

 ふーん、なるほどね。これがあくあを惑わせてるのかー。


「あ、あの、私は……?」


 楓先輩は自分で自分のを触ってください。私、今、それどころじゃないんで。

 なるほどね。へー、こうやって近くで観察するとその違いがよくわかる。


「はぁはぁ、はぁはぁ、悪かったって」

「んんっ、嗜みさん許して」


 あ、少し夢中になり過ぎちゃってた。ごめんね。

 私は2人を解放する。ん? 楓先輩どうしたんです? 私だけ仲間はずれ? もー、仕方ないですね。ほら、これでいいんですか?

 あー、私ってなんでこんなしょーもない事してるんだろうって冷静になる。

 ゲーム進めようっと。


『ほら、これ』


 あくあは主人公にいちごミルクを手渡す。


『大変な時だろうけど、お互いに頑張ろうな』


 あー、こういうの好き。ちゃんと主人公が197日前の選択肢でいちごミルクが好きだって言ってたの覚えててくれたんだ……。ゲームの中の自分とあくあだけど、またあくあの事が好きになっちゃう。


「いちごミルク……はっ!? これはもしや、お前の苺からミルクの出る体にしてやるっていうお誘いフラグなのでは!?」

「捗る……お前、天才かよ!!」


 バカな事を言っているえみり先輩と楓先輩は無視して、私は画面を先に進ませる。


『あ、それと……イベントが終わった後に話があるから』


 あくあはそう言うと、手をひらひらと振ってその場を後にした。


[アイテムストレージにいちごミルクが追加されました。疲労値を0にできる効果を持っていますが、飲めばなくなります。使用するタイミングに注意しましょう]


 ふーん、なるほどね。まぁ、私はこういう貴重アイテムは全部取っておくタイプなんだけど、このゲームはそれを許してくれなさそうな気がする。とりあえずロックかけておいとこ。


「カノンってさ、こういうの貰ったらいつまでも置いておきそうだよな」

「わかる。空になった後も1時間とか2時間とかずっとストローの先とか見つめてそう」


 えっ!? 2人ともなんでわかるの? 姐さんも遠くから見てるペゴニアも頷いてるし、なんでなんで!?

 でも空になった後、見る時間だけは間違ってるかな。私なら最低でも5時間か6時間くらいは見てると思う。

 あくあとデートした後とかもそんな感じだし……。


『いよいよ夏フェス本番ね』


 順調にゲームを進めた私達は、ついにこのゲーム最後の大型仕事イベント、夏フェス本番の日を迎えた。


『さぁ、行くわよ。みんな!!』


 ここからはずっと姐さんのターンだ。

 本番前の最終確認、打ち合わせなどを完璧にこなし、あくあやスタッフが会場に無事、到着するようにうまく差配する。さすがは本物のベリル社員なだけの事はあると思いました。

 姐さんが手慣れているところにも感心するけど、このゲーム、本当にこういうところだけすごくリアルなんだよね。


「イケイケ姐さん!」

「オセオセ琴乃!!」


 なお、仕事パートでのえみり先輩と楓先輩は完全に置物です。比較的早い段階から戦力外でした。

 姐さんは疲労値などもうまく調整して、本番中に主人公が倒れないようにコントロールしつつ、イベント本番まで進めていく。


「あっ、なんかきた!!」


 画面が切り替わるとリアルな映像に切り替わる。手持ちカメラ? それにこれって……ステージの裏!?


『よろしくお願いします!!』


 あ……衣装を着たあくあが現れる。それに続いて、とあちゃん、黛君、天我先輩も登場した。

 うわー、みんな王子様ルックでかっこいい!!

 すごい。こんなのも撮ってるんだ。まるで自分が本当のスタッフになったみたい。


『さぁ、行くぜ、お前ら』


 姐さんが何度見てもいいですねと呟く。

 どうやら姐さんはこのシーンを生で見た事があるらしい。いいなー。

 その後は実際のライブシーンが流れてみんなで盛り上がる。

 でも、それも束の間の休息、再び画面が主人公へと戻りました。

 どうやら曲と曲の間でイベントをこなしていかないといけないみたいです。


「ここからまたグンと難易度が上がりましたね」


 姐さんは珍しく髪を結ぶ。これは本気モードだ!


「「「イケイケ姐さん! オセオセ琴乃!!」」」


 もうこうなると私も応援するしかありません。

 えみり先輩と楓先輩の2人に混じって私も姐さんにエールを送る。

 姐さんは疲労度と制限時間のタスク管理をしつつイベントを進めていく。

 そしてイベントをクリアする度に、ご褒美のライブシーンが流れる。

 時間にして数時間は経ったと思う。この間、もちろんセーブなんてできるはずがありません。


「いちごミルク飲みます!!」


 ここであの時にもらったいちごミルクが活きてくる。

 疲労値が限界のところでいちごミルクを飲み、佳境を乗り越えていく。

 そうこうして、ようやく夏フェスのイベントを無事に終わる事ができました。


「つ、疲れました」

「私が代わります!!」


 姐さんと交代した私は、その後のイベントを卒なくクリアしていく。

 私が倒れたら代わりにプレーするのはえみり先輩か楓先輩だと思ったら気合いが入る。

 姐さんから託された私は、なんとか無事に帰宅してセーブポイントを踏んだ。


[セーブを完了しました。さぁ、最後の1週間です。ラストゲームを楽しんで]


 わぁっ! これで本当の本当に最後なんだ。


「不穏すぎる。楽しんでの文字が全くと言って笑えない……」

「ここに来て、まーたスタッフが自我を出してきたぞ」


 2人ともビビり過ぎでしょ。抱き合うのはいいけど、私をクッションにするのはやめてくれないかな?

 楓先輩のパワーで首が痛いし、えみり先輩のおっぱいで前がよく見えないんだけど……。


『さーてと、久しぶりの休みだしどうしようかな?』


 ここから1週間、主人公は遅めの夏休みだ。

 週の最後にあくあと会う予定にしてあるので、そこまでに自分を磨き上げていく。

 ショップであくあの好きそうな服を購入したり、髪を切りに行ったり、エステ、ランニングやストレッチなどで美容のステータスをあげたりして本番に備えます。


『さぁ、もうやり残した事はないよね?』


 最終決戦、私は全てをチェックし、最後の最後に姐さんに頼んで捨てずに取っておいて貰った空のいちごミルクのパックをクリックする。


[いちごミルクの空パックに願いを込める。気力のゲージがMAXになった!]


 やっぱりね!! こういうのあると思ったんだよ!!


『行ってきます!』


 主人公が扉を開けて外に出る。

 本当は早く行くことも考えたけど、あくあは他の男性とは違う。前日入りなんてしなくていいし、なんなら渋滞でちょっと遅れてもむしろ心配してくれるくらいです。

 だからと言って遅刻するわけにはいかないけど、待ち合わせの時間の5分手前になるギリギリまで使い切って準備をした。


『よ』


 待ち合わせ場所に着くと既にあくあが待っていた。


[A:ごめん、遅れちゃった]

[B:待たせてごめんね]

[C:あ、ごめんね、待たせちゃったかな?]

[D:遅れちゃった。ごめんね]


 私は選択肢が出ると同時に素直にAのごめん、遅れちゃったを選択する。

 どれを選んでいいのか迷う選択肢だけど、私が注目したのは右上に表示された残り時間だ。

 これの選択はおそらく全てが正解です。それよりもいかに早く選択肢を選ぶかが重要な気がしました。


『気にしなくていいって、俺も今来たばかりだからさ』


 ほらね、あくあの笑顔を見るとやっぱりこれが正解だったようだ。


『それじゃあ行こっか』


 本当にこのゲームが終わるんだ。

 そう思わせるくらいのボーナスステージ。

 甘い甘いあくあとのデート。現実でのあくあのデートを知っていて、白龍先生のファンの私だから言えます。

 このデート、ちゃんとあくあが考えて、うまく白龍先生が文章とシーンに落とし込んでいる。


「よがったなぁ……ポンなみさん……」

「ううっ、ポンなみぃ!」


 えみり先輩も楓先輩も泣くのはいいけど、そのポンなみっていうのはやめてもらえません?

 でも、そのポンなみのおかげで、せっかくのデートシーンも没入できなくてゲームを進められている自分もいます。

 認めたくないけど、攻略って事を考えたら、ポンなみという名前を勝手につけたえみり先輩のファインプレーだったのかなぁ……。


「2人とも、まだゲームは終わってませんよ!」


 姐さんの言う通りだよ。私はさらにデートを進めていく。

 そうしておそらくは最後のシーンと思わしき場面に到達した。

 2人きり、夜の公園、私のキャラは手にいちごミルクを持っている。


[A:好きです! 付き合ってください!!]

[B:ただのアイドルとマネージャーじゃない関係になりたいです]

[C:あくあ君は私の事をどう考えてますか?]

[D:あくあ君って女の子の事に興味とかない?]

[E:ふぅ、疲れちゃったな。ちょっとそこのホテルで休憩しませんか?]

[F:もうちょっと遊びたいな。そこのカラオケができるホテルに行きませんか?]

[G:この前の夏フェスの話を振る]

[H:緊張して喉が渇いたのでもう一回ジュースを買う]

[I:覆い被さる]


 おそらくこれが最後の選択肢だ。

 私は一旦深呼吸する。


「普通に考えたらAかB、もしくはCですね」


 姐さんの言う通りだ。でも、私はそうじゃない気がしている。


「こーれ、EかFです。ホテル! ホテル! ホテル!」


 そういえば楓先輩はホテルだったんだっけ。

 でも流石にそれはない気がするな。


「ここはやっぱりIだろ! もうこっちは準……ひぃっ!」


 姐さんナイス。

 もう、えみり先輩ってば、そんな事を言うくせにリアルじゃ襲わないくせに。

 ぶっちゃけ、あくあならえみり先輩に襲われてもきっと嬉々としてわざとらしく受け入れてくれると思うよ。


「最後……私が選んでもいいかな?」


 私がそう言うとみんながコクンと頷いた。

 みんなありがとう。


 ……。


 …………。


 ………………。


 私が選んだ選択肢は沈黙だ。

 最後の最後にあえて選択肢を選ばない。

 ここまであくあからの好感度をマックスに上げてきた。

 だったら最後の最後にご褒美くらいはあってもいいはずでしょう。


『ポンなみ』


 思わずズッコケそうになった。

 もーーーーー、せっかくの良いシーンでやっぱりポンなみはダメだって!

 しかもあくあのフルボイスだよ!?


『好きだ。俺と付き合ってほしい』


 あくあからの告白、後ろでえみり先輩と楓先輩がハイタッチしてウェーイと喜び合う。


『大人のポンなみ、マネージャーのポンなみからしたら困るかもしれないけど、もうポンなみへの愛が抑えられないんだ! 好きだポンなみ! 愛してるポンなみ!! だからポンなみ、俺と付き合ってください』


 もちろん全てフルボイスである。

 もー、あくあもポンなみポンなみうるさいよ!!

 せっかくの感動のシーンも台無しだ。

 その後のサービスシーンもポンなみのせいでいまいち集中しきれず気がついた時にはエンドロールが流れてた。


「いやー、ポンなみお幸せに!」

「ポンなみに幸あれ!」

「ポンなみさんばんざーい!」


 3人とも楽しそうだなー。良いなー。

 でも、クリアできたのも確実に名前がポンなみだったからだし、なんとも言えない気分になる。


「ん?」


 私はメールがきてた事に気がついて内容を確認する。

 あくあのスキーウェアの画像!? それにスキーシーンまで!?

 はわわわわわ、かっこいいよー! なんでそんなにかっこいいの!?

 ゲレンデに舞い降りた王子様、雪よりキラキラしてるじゃん!!

 やったー! ついに私へのご褒美シーンキターーーーーーーーーーーーーー!!

 あっ……興奮しすぎたかも……。私はここでゆっくりと仰向けになって意識を失った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 女子会てぇてぇ [一言] イイハナシダッタナー
[一言] ポンなみさんはそういうところがポンだからポンなみなんやで(゜д゜)
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