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小雛ゆかり、ベリルアンドベリル1月SP。

『はい! そういうわけで、ベリルアンドベリルお正月SP特大号、はっじまるよー!!』


 元気なとあちゃんの掛け声を聞きながら、私は串に刺さった甘辛いスルメを齧る。

 残念ながら一昨日買ったコンビニ飯がお亡くなりになっていたために、これが今日の私の晩御飯だ。


『で、今日は何やるんだっけ?』


 相変わらず間の抜けた顔をしているあくぽんたんを見ながらスルメをカジカジする。

 ちょっと! このスルメ硬すぎでしょ! どこのメーカーか知らないけど、私に喧嘩を売った事を後悔させてあげるわ!! これでも私、歯には自信があるのよ。だって女優は歯が命ですもの。


『今日は1月のライブツアーに向けて、このペンションで合宿をしてもらおうと思います! そういうわけで、このジャージに着替えてきてください』

『『『『はーい!』』』』


 4人がジャージに着替えてきた。

 ん? なんかとあちゃんのジャージ合ってなくない? ワンサイズ大きいせいかダボダボじゃん。それと黛君は普通だけど、天我君はなんでジャージの袖が全部ビリビリの切りっぱなしになってんの? スタッフは品質管理をしっかりしなさいよ! 我、ワイルドだろ? って言ってるけど、明らかにヤバいやつじゃん。

 あと、この学生が着てそうなクソダサジャージ、絶対に阿古っちの趣味ね。

 こんなしょうもない事で社長権限を振るうくらいなら、もっとこう他にやる事があるでしょ。


『お揃いのジャージとか最高じゃん! ちゃんとBERYLって書いてあるし、これは普通に嬉しい!!』


 それに比べてこのあくぽんたん。

 は? こいつ、なんでこのクソダサジャージですらかっこよく着こなそうとしてんの?

 あーあ、これでまた頭がポンの女どもが、あくあ様かっこい〜とか言って、あくぽんたんを甘やかすのよ。


『でも、このゼッケンみたいなネームタグがちょっと恥ずかしい!! それも苗字ならまだしも、なんでひらがなであくあなの!?』

『社長がそうしろって』

『エェッ!?』


 あー、阿古っちは、そういうの好きそう。

 みんな悪いけど、趣味の悪い阿古っちのセンスに付き合ってあげて。


『それで、合宿では何するんですか?』

『それについてはこれを確認してくださいだって』


 とあちゃんはスタッフから受け取ったノートを開く。

 この子が1番しっかりしてるからBERYLは回ってる気がするわ。


『えーと、今日から1泊2日で合宿を行います。以下のミッションをクリアしてください。だってさ』


 ここで画面が切り替わると視聴者向けの説明に入った。


 1日目

  集合 ランニングなどの基礎トレーニング。

  昼食 みんなでカレーを作りましょう。

  練習 ダンス、ボイトレなど。

  夕食 みんなでバーベキュー。

  食後 自主練

  就寝 天我くんはちゃんと寝る事!


 2日目

  早朝 地域のラジオ体操に参加。

  起床 みんなで昨日作ったカレーの残りを食べる。

  掃除 周辺のゴミ掃除。

  解散 みなさん気をつけて家に帰りましょう!

     あくあ君はふらふらと寄り道しない事!


 ふーん、最後の注意書き中々わかってるじゃないって思ったけど、これは間違いなく阿古ね。


『なるほど、それじゃあまずはランニングに行こうか』

『『『おーっ!』』』


 4人がランニングを始めて直ぐに地域の人と遭遇する。


『『『『おはようございまーす!』』』』

『あっ、あくあしゃま!? それにみんなも、なんでここに!? ついに天国からのお迎えが……』


 ちょっと、初手から遭遇したお婆ちゃんが死にかけてるじゃない!!

 お年寄りが多い地域なんだったらベリルも事前に説明しておきなさいよね。

 冗談じゃなくて、あくぽんたんに出会った事でこの世に未練が亡くなって、成仏するお婆ちゃんとかがいるわよ。


『そこで合宿してて、今日と明日だけしかいないんだけどお世話になります!!』

『は、はひぃ〜』


 あー、これは完全に逝きかかってるわね。

 まぁ、最後にいい夢が見れてよかったじゃない。成仏しなさいよ。なむなむ。


『ほら、どうしたー? みんな、声が少なくなってるぞー、いっちにー、いっちにー!』


 こいつってなんでいつもこんなに元気なんだろう。

 明らかに体力が有り余ってるのよね。そのくせ、私といるときは疲れた顔してダラダラするくせに!


『あっ、おはようございまーす』


 あくあは少しペースを上げると、目の前でランニングしている女の子2人組の横に並んで声をかける。


『あ、ああああああくあ様』

『あくあくあくあ様!?』


 女の子2人組はびっくりした様子であくあの方へと顔を向ける。

 ふーん、目の前で結構な大きなものが揺れてるけど、こいつってばアイドルやってる時だけは、そういう素振りを一切見せないのよね。


『はぁ……はぁ……も、無理ぃ……』


 ランニングを終えると同時に、とあちゃんが地べたにお尻をつく。


『はぁっ、はぁっ、はぁっ……』


 黛君はメガネを外して汗を拭う。こっちも結構きつそうだ。


『ふぅ……』


 天我君はとあちゃんや黛君と比べると少し余裕がありそうだ。


『よーし、みんな、次はストレッチやるぞー!』


 だからなんでこいつだけ、こんなに元気なのよ!

 走る前と後で全く変わってないじゃん!! むしろエンジンがかかってちょっと元気になっているような気さえする。


『はい、テレビの前の皆さんも、いちにーさんしー、にーにーさんしー!』


 イタタタタ! ちょっと、痛いじゃない!

 なんであんたはそんなに体が柔らかいのよ!

 うっわ、何よその変な動き!? そんなの常人にできるわけないじゃない!


『さてと……まだ昼食にはちょっと早いから筋トレしてくるわ!』


 あんた、後ろで死んだ顔をしてる3人を見た方がいいわよ。

 ここから暫くあくあのターンが続く。

 あくあはガシャコンガシャコンと機械を使ったトレーニングをやったかと思えば、サンドバッグを見つけて急にボクシングを始める。

 まーた、こいつは……。私はテーブルに置いたタブレットを手に取ってSNSの反応を覗く。


 乙女の嗜み@ヘブンズソード再開待機。

 きゃーっ! ボクシングするあくあ様、かっこいーーー!


 始まりの616@ザンダム待機。

 もう全部がかっこ良すぎます!


 ワーカー・ホリック@休みが欲しい。

 そのサンドバッグになりたい……。


 ラーメン捗る@NOT賢者モード。

 無料で床舐めの掃除を始めました。ぐへへ。

 あと、あくあ様限定で汗水の買い取りやってます!!


 ほら、またバカみたいな女達が湧いてきてるじゃない!

 って、よく見たらこいつら常連じゃん。また頭がポンなファンが増えたのかと思ったけど、元から頭がポンになってる同じレート帯のファンが反応してるだけだったわ。

 私はタブレットを閉じると、タブレットにつけたケースに書かれたがおーっと吠える熊を見てニマニマする。阿古っちは、その熊、間が抜けた顔してない? なんて言ってたけど、普通に可愛いじゃん。阿古っちには悪いけど、そういうところ、センスが悪いんだよね。

 その点、クリスマスプレゼントでこれをチョイスしたり、今、着てるゆかりご飯Tシャツをプレゼントしてくれたり、あくぽんたんのセンスは悪くない。あいつの数少ない良いところだと思うわ。


『よしっ! お腹すいたし、みんなでカレー作るぞー!!』

『『『おーっ!』』』


 だからなんで1番動いてるあんたが1番元気なのよ!! おかしいでしょ! 誰か突っ込みなさいよ!!


『はいはいはい! 我、カレー作りたい!!』

『だったら俺が野菜の下準備しますよ』

『えーっと、それなら僕はサラダを作ろうかな。慎太郎はお米をお願い』

『了解した』


 4人はそれぞれが自分の仕事に取り掛かる。

 あくぽんたんは自分の包丁を取り出すと、プロみたいな手際の良さで野菜をカットしていく。

 よしよし、ちゃんと私がプレゼントしたあのゲーミングパソコンみたいな色合いの包丁と、日本刀みたいな黒い包丁、ちゃんと使ってるみたいね。


『こっ、後輩、その超かっこいい包丁はどこで!?』


 隣に居た天我君が目をキラキラさせる。

 あら、この私がプレゼントした商品の良さがわかるなんて、あんたなかなか良いセンスしてるじゃない。


『あー、この包丁は、ゆうおにでクランクアップした時に、小雛先輩からプレゼントでもらったんですよ』

『わ、我も同じのが買いたい……!』

『それなら今度、小雛先輩にどこで買ったか聞いておきますよ』

『ありがとう、後輩!!』


 あー、だから前にどこで買ったのかメールが来てたのか。

 手慣れた手つきで下準備を終えたあくあは、とあちゃんの方へと向かう。


『どう?』

『今、ゆで卵作ってる』

『おー、良いじゃん良いじゃん。それなら俺がマヨネーズ作ろっか』

『え? マヨネーズも自作するの?』

『ああ! とあ、卵とって』

『はい』


 とあちゃんとあくあは2人で並んでマヨネーズを作り始める。

 へー、マヨネーズって作れるんだ。あくあは手慣れた手つきでマヨネーズを作り始める。

 そういえばあいつが作ってくれたサンドイッチとかポテトサラダが美味しいのって、自分でマヨネーズから作ってるから? 嘘でしょ……。この番組を見て、今、初めて気がついた。


『はい! そういうわけで、カレーが完成しました!!』

『やったー!』

『ふぅ……』

『うおおおおおおお!』


 テーブルの椅子に腰掛けた4人の前にカレーが並ぶ。

 あー、なんかお腹空いたな。

 私はあくぽんたんにお腹空いたのメッセージを10回くらい連投する。


『うわー、もうすげぇ良い匂いしてるじゃん!!』

『お腹すいてきたー』

『僕も』

『我も我も!』

『それじゃあ、みんなで同時に食べますか!』


 あくあは他の3人に目で合図を送ると、両手を合わせる。


『大地の恵みと全ての農家さん、毎日ご飯を作ってくれる人に感謝の気持ちを込めて!』

『『『『いただきまーーーす!』』』』


 4人はスプーンでカレーライスを掬い取るとほぼ同時にパクリと食べる。

 次の瞬間、4人がほぼ同時にむせた。


『ちょ、待って! これ、にっっっっっが!』

『うひー』

『ゴホッ、ゴホッ』


 3人の視線が同時にカレーを調理した天我君に向く。


『すまない……。悲しい事故があって、ターメリックを入れすぎてしまったんだ』

『悲しい事故ってなんですか?』


 映像が切り替わって、調理をしていた天我君が映し出される。

 天我君は後輩達に美味しいカレーを食べさせようと、自ら用意した30種類のスパイスを使ってカレーの味付けをしていく。どうやら彼だけは事前にカレーを作る事を聞かされていたらしい。

 天我君も他の3人と同様に最初は順調に料理していたけど、ターメリックを使った際に不運な事故が起こってしまった。

 なんとターメリックの入っていた容器の蓋が外れて、その中身がドバドバとカレーの中に入ってしまったのである。

 私は机の上をバンバンと叩いて大笑いする。


『なるほど……これは仕方ないですね』

『うんうん』

『天我先輩、落ち込まないでください』


 映像を見た3人が天我君を慰める。

 このカレーどうするんだろう。ちゃんと全部食べるのかな?

 まぁ、スタッフがそこら辺のファンと同じレート帯なら、涙を流しながら完食するだろうけど、あのあくぽんたんがそんな事はさせないと思う。


『俺に任せてください。まずはもうこのカレーはよそってしまったので、苦味を緩和させるためにココナッツミルクを入れて食べよう。足りなかったら、ハチミツを使えばもっと苦味が緩和されるから』


 あくあのアドバイスもあって、カレーの苦味はだいぶ改善されたらしい。

 改めていただきますと言った4人は綺麗にカレーライスを平らげた。


『それじゃあ残ったカレーの味を調整します』


 あくあはさらに追加で炒めた玉ねぎをたっぷりと入れ、すりおろしたニンニク、ブイヨン、ココナッツミルクなどを追加し苦みを中和させていく。


『うん、こんなもんかな。あとは明日の朝のお楽しみってことで! 再調理、完了です!!』


 おーっ、なんとなくだけど見た目も良くなってる気がする。私は口にスルメを咥えながら、パチパチと拍手を送った。

 こいつほんとふざけたり、女の子にデレデレしたりしなきゃ良い男なのに……。世の中の女がふざけたあくあを見て、かわいーとか、デレデレしたあくあを見て、保護者感覚でぐでぐでに甘やかすからよくないのよ。

 まぁ、女子としては完璧すぎてもつけ入る隙がないから、気持ちはわからなくはないけどね。

 そう考えると年齢差のある白龍先生や琴乃さんはあいつを甘やかすし、結さんもそんな感じだし、たまにあくあに突っ込むだけカノンさんが意外と1番ちゃんとしてるのかもと思った。


『とりあえずさ、これ一曲通してやってみる?』

『うん。良いと思う』

『わかった。やってみよう』

『うむ!』


 昼食のシーンが終わると合宿の目的である練習のシーンだ。

 BERYLが普段やってる練習を公開するのはこれが初めての事である。

 真剣な顔をして練習に取り組む男子4人の姿にSNSも大きく盛り上がっていた。


『ここだけどさ。もう少し合わせらんない?』

『とあの言うとおり、俺もここはちゃんと合わせた方がいいと思う』


 撮影した映像を自分たちでチェックした後、あくあがステージの上で手本を見せながらみんなに説明する。


『ここね! それと、ここ! ここ2つのポイントで全員のダンスが合ってないと絶対にダサいから気をつけて! それじゃあ一旦、発声練習してから歌を入れて合わせみよう!』


 4人は発声練習をして声の準備を整えると、今度は歌付きでダンスを合わせる。


『くぅっ! 足が、この足が!!』


 ダンスの時、足がうまく合わせられずに自分の足を叩いて悔しがる天我君。


『すまない。2回目のサビのとこ、俺の動き出しが遅くてうまく入れ替われなかった』


 ワンテンポ遅れてターンからのチェンジができなかった黛君も悔しがる。


『僕も、ダンスが入っちゃうと、歌が少し乱れるんだよね』


 とあちゃんも反省の言葉を口にする。


『うんうん、じゃあ次はそこに気をつけてもう一度やってみようか。でもさっきより全然良くなってるから! もっと自信をもってやってみよう!!』


 それに対して、こいつは本当に練習すら一度もミスしないわね。素人の私から見てもステージの上と変わらないパフォーマンスをしてる。面白くなーーーい! って、言いたいところだけど、女優としての私が台本の読み合わせの段階からミスしないのと一緒だと思えば当たり前の事か。

 そういう意味じゃ、こいつは友達としてだけじゃなくて良い仲間に巡り会えたわね。常にこれだけの差を間近で見せられても折れないのだから大したものよ。そんな男子、滅多にいないんだから大事にしてあげた方がいいわよ。


『今日はよろしくお願いします!』

『『『『よろしくお願いします!!』』』』

『おう! 悪ガキども、よろしくな!』


 途中で合流した一瀬さんと小林さんの2人に歌唱とダンスの指導を受ける。

 その様子をスルメを齧りながら観察していると、もう一つの新しい事実に気がつく。

 あくあはこの段階からステージを意識しているのか、曲に合わせて表情はもちろんのこと、雰囲気もちゃんと作っている。カメラが回ってるからアイドルとしてのスイッチが入ってるのか、それとも普段からそこを意識しているのかわからないけど、こういうところでもちゃんとアイドル白銀あくあだった。


『そういうわけで、やってきました!! 楽しみにしてたバーベキューの時間です!! 肉、食うぞーーー!』

『『『おー……』』』


 いやいやいや、後ろの3人が元気ないの見なさいよ! あんた1人だけなんでそんなに元気なの……。

 疲れていた3人を席に座らせたあくあは1人でバーベキューを作り始める。

 おまけに1人でもずっとカメラに向かって喋りかけてるし……。


『ほら、どう? これ、美味しそうでしょ?』


 カメラが上下にうんうんと頷く。


『はい! じゃあ、カメラさんとカメラの向こう側にいるみんなに、はい、あーん!』


 はいはい。またそういうサービスして、頭がポンになってる女どもがインターネットで騒ぎ出すのよ。

 くっ……私はアーンのタイミングに合わせてスルメイカを齧ったが、なんか負けた気になる。

 そういえばさっきのメッセージに返信が来てないわね。私はバーベキューでもいいわよと連投でメッセージを送信する。


『みんな、できたぞー! って、あれ?』


 あくあが料理をテーブルに運ぶと、3人が椅子に座ったまま眠りこけていた。

 うん、普通は疲れるよね。あくあはそれに気がついてそっとその場を離れる。


『それじゃあスタッフさん先に食べますか? 俺が焼きますよ?』


 そう言ってあくあはスタッフの人たちに焼いたものを提供していく。

 もちろんその合間で、ちゃんと自分も食事を取る。


『ごめん、ちょっと寝ちゃってた』

『すまん』

『我も肉を焼く!!』


 途中で復活してきた3人と合流して4人のバーベキューを再開する。

 それにしてもこいつどれだけ食うのよ。あんなに食っててなんで太らないのかも不思議だけど、多分その分、摂取したエネルギーを全部消費しているんだろう。


『それじゃあ、ここからは自主練の時間なので、それぞれに頑張ろう!』


 とあちゃんはボイトレ、黛くんは失敗が続いたダンスの確認、天我君は食事した分のカロリーを消費するために運動をしに行った。へぇ、みんななかなか、根性があるじゃない。根性がある奴は嫌いじゃないわ。

 肝心のあくぽんたんはというと、一つずつの動作をゆっくりとスローモーションで再現しながら指先の角度などを再確認していた。

 私としてはあくあに役者として全集中して欲しいけど、こういうところを見せられるとやっぱりそうとは言えない。あいつがアイドルとして本気なのは私も良く知ってるから。

 周りの子達もそれを良く見ている。天才のあくあが地味な事をいっぱいやってるから、それを見ている子達も自然とそうなっちゃう。これはいいサイクルだなと思った。練習をすると言っても、練習の質とか方向性は重要だし、ベリルにはその点、これ以上ないほどいいお手本が近くにいる。


『練習上がりの風呂は最高だな!』

『先輩……貸切でも泳いじゃだめですよ』

『とあ、背中、洗ってやろうか?』

『スポンジを持ったあくあの手つきがいやらしいからなんか嫌』


 4人のお風呂シーンはもちろん映像無しだけど、声だけが再生される。

 それを見た連中がネットで大騒ぎしていた。こんなの、どこがいいのかしら?


『というわけで、1日が終わりました。そういうわけで今から就寝の時間です』

『僕、もうおねむだよ』

『僕も眠たい』

『我はまだ元気だぞ!!』


 全員で天我君を引きずって寝かしつける。

 SNSを見ると白銀あくあの子守唄がトレンドランキング1位になっていた。


『すー』


 その後、それぞれに眠りにつくが、あくあは布団に入って秒で寝た。

 気絶したんじゃないかって思うくらいの早さ、まるで剣崎のようなスピードで夢の世界へと旅立っていく。


『うっ……』


 あれ? なんか苦しんだ顔してるけど大丈夫!?

 な、なんか大きい病気だったりとかしない!?

 は、ははは早めに大きな病院に行くように阿古っちに電話しないと!!


『やめるんだ。大怪獣ゆかりゴン! それ以上、地団駄で街を踏み潰すんじゃない!!』


 はぁ!? こんな時に、どんな夢みてんのよ。あのバカ!!

 さっきまで心配して慌てふためいていた私の優しさを返せ!!


 玖珂レイラ@帰国中。

 ウケるw


 睦夜星珠@黛君がむばれー。

 ゆかりゴンwwwww


 石蕗宏昌@陰陽師2希望。

 え? 大怪獣ゆかりゴン、こわ……。


 奏いちか@陰陽師2希望。

 あくあ君の夢、すごく気になる。


 綾藤緑@陰陽師2希望。

 夢の中まで追ってくるんだ……。


 小早川優希@やっと変身できたー!

 もしかして夢の中でもヒーローやってる?


 雪白美洲@親子のお仕事待ってます。

 あくあ君の夢に出れるなんて、小雛さんいいな……。


 森川楓@次回の『森川楓』の部屋をお楽しみに!

 こっわ。小雛ゆかりさんこっわ。


 鞘無インコ@ホロスプレー

 うわああああああああああ。野良の大怪獣ゆかりゴンだあああああああ。


 月街アヤナ@eau de Cologne

 あくあ、また怒られるよ……。


 天鳥阿古@ベリルエンターテイメント

 あくあ君、夢の中でもゆかりと楽しそうで何よりだよ。


 越プロダクション

 草wwwww


 ふーーーーーん。今、呟いた奴らの名前、アヤナちゃんと阿古っち以外、全部メモしとこっと。

 後、うちの公式SNSで呟いてるの社長でしょ? 呟いた画像をスクショして、そのまま添付して、誰が書いたのかわかってますよ社長ってSNSで書いとこ。


「ん?」


 映像が切り替わると、空になったベッドが映し出される。

 もしかして天我君、起きたんじゃない? って思ったけど、違うベッドだった。

 目を覚ました黛君が外に出ると、1人こっそりとダンスの練習をする。

 1番ダンスについていけてなかったのは黛君だ。だから悔しかったのだろう。

 いいじゃない、いいじゃない。そういう悔しさがなけりゃ、なんだってうまくはなれないのよ。

 映像が切り替わると、同じように隠れて練習するとあちゃんの姿が映った。

 こっちも黛君と一緒ね。2人ともアイドル白銀あくあに追いつくために必死だ。

 そうしてそれぞれの夜が更けていく。


『んんっ』


 目覚めはあくあの寝顔からだった。

 くっそ、寝てる顔くらい変な顔してなさいよ。口開けて涎ダラーっと垂らしてるとかさ!!


『んっ?』


 何かの違和感に気がついたあくあは起き上がって違和感のする方向へと視線を向ける。

 もしかして、とあちゃんでも居た? 前みたいに寝ぼけてベッドに潜り込んだとか……。


『おはよう後輩!』


 なぜか笑顔の天我君があくあの横で寝そべっていた。


『うわっ、先輩、何してるんですか!?』

『後輩の寝顔を観察してた!! そろそろ1人が寂しくて早く起きないかなって……』


 映像が切り替わると、早朝に目が覚めた天我君の姿が映し出される。

 こっちはどうやら朝早くに1人で練習していたみたいだ。


『先輩、だからって隣で寝そべってるのは怖いですって!』

『ははは、そうだろう!!』


 天我君は立ち上がると、後ろに隠していた大きな看板を持ち上げる。


【寝起きドッキリ大成功!!】


 ははは、ざまー! 勝手に夢の中で人を大怪獣にするからこうなるのよ!! 天我君ナイスゥ!

 その後、2人はそのままとあちゃんと黛君のドッキリへと向かう。

 とあちゃんからは無言でポカポカと叩かれ、黛君からは朝から何やってるんですかと呆れられていた。


『それじゃあ朝のラジオ体操に行こう!』


 全員で外に出ると、地域の人たちがラジオ体操をしている公園に向かう。


『あ、あくあ様!?』

『嘘でしょ!? とあちゃんまでいる!?』

『あー、天我しぇんぱいだー』

『マユシン君、こっち向いてー』


 4人は前に出ると地域の皆さんに頭を下げる。


『皆さんおはようございます!』

『『『『『『『『『『おはようございまーす!』』』』』』』』』』

『今日は皆さんのラジオ体操に混ぜてくれて、ありがとう! それでは外も寒いので、身体を温めるためにも早速、ラジオ体操をやっていこうと思います!!』


 地域の皆さんと一緒になって4人がラジオ体操をする。

 和やかで楽しい時間が流れていく。

 ラジオ体操が終わった後、あくあ達が全員のサインが入った大きなハンコをその日限りのために用意した特別なスタンプカードに押してあげる。

 そういえば前にあくあと会った時、全国ツアーもそうだけど番組を通して地域交流をしたいって言ってたっけ。


『みんなありがとねー!』


 一旦、合宿場所に戻った4人は昨日のカレーを食べる。

 どうやらあくあが味を直したおかげで翌朝のカレーは美味しかったみたいだ。


『それじゃあ、最後に、みんなでお掃除して帰ろう!!』

『『『おーっ!』』』


 ポリ袋やトングを持った4人は、周辺を歩きながら地域の人と交流しつつゴミ掃除をしていく。

 4人がやってることもあって、地域の人も参加し始めて大規模なゴミ掃除になった。

 まぁ、普通にそうなるわよね。


『はい、そういうわけでこれにて合宿終了です!!』


 ゴミ掃除を終えて合宿所に戻った4人は締めの挨拶に入る。

 あー、お腹空いてきた。もう、なんであいつは返信してこないのよ!!


[ピンポンピンポン!]


 はいはい、誰よこんな時間に、うっさいわね!!

 ちょっと待ちなさい! 私はこたつから出てドタドタと歩くと玄関に行って扉を開ける。


「先輩、せめてカップ麺くらい家に置いときましょうよ」

「仕方ないじゃない。気がついたら無くなってたんだから!」

「そりゃ、食べたら無くなりますよ」


 ん? あくあの後ろに人影が見えた。


「ど、どうも。夜分遅くお邪魔します」

「あら、アヤナちゃん、こんばんは!」


 あらあらあらあら、2人して来たって事は……もしかしてデート!?

 え? 違う? たまたまテレビ局であって、そのまま来たって? なーんだ。つまんないの。

 アヤナちゃんも、もっとグイグイいけばいいのに。そこのバカ、押せば秒で落ちるわよ。

 この2人、本当にもどかしいのよね。あ、良い事を思いついたわ!


「アヤナちゃん」

「なんですかゆかり先輩?」

「アヤナちゃんってさ一人暮らしよね?」

「ああ、はい、そうですけど……」

「よしっ! 2人であいつの家の近所に住みましょう!」

「えっ!?」

「大丈夫大丈夫、家賃は私が払うから。そしたら毎晩、あいつん家の晩餐にありつけるわよー!」


 そしてなし崩し的にアヤナちゃんとくっつけて、そのおまけとして私も姑として白銀家に乗り込むのよ。

 食事も掃除も洗濯も全部あくぽんたんかメイドさんがやってくれるし、こんな事を思いつく私って天才すぎない?


「そういうわけで、後は任せておきなさい!」

「えっ? あ……はい……」


 すんすん……なんかいい匂いがするわね……。って、これはカレー!?

 私はこたつから出るとキッチンに向かう。


「カレー、まだー?」

「はいはい、ちょっと待っててくださいね。ほら、この買ってきたスルメの串でも齧っててくださいよ。小雛先輩、これ好きでしょ」

「えー、それさっきまで食べてたからいい」

「もう。それなら大人しく待っててください。後、さっきアヤナとなんか話をしてませんでした?」


 ぎくっ! 私は口笛を吹いて誤魔化す。


「あ、怪しい……これは、きっとろくな事じゃないぞ……」


 ほ、ほら、そんな事よりさっさとカレー作りなさいよね!

 どうせ後で私に感謝する事になるんだから、いいじゃない!

 ほらほら、今日は特別に私も手伝ってあげるわよ。


「いえ、小雛先輩は戦力外なのでおこたでステイしててください」

「ちょっと! せっかく手伝うって言ってるのに、なんなのよ、もう!」

「ゆかり先輩、落ち着いて……」


 後で見てなさいよ。絶対にあんたの家の近く。ううん、なんとかして同じマンション内に住んでみせるんだから!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゆかりゴンの解像度が日に日に上がっていってつらい。 (*´ω`*)
[一言] そこは「ゆかり怪獣じゃないもん!」と…… ごめんやっぱなしで(゜д゜)
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