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千聖クレア、本当の自分に目覚める。

「というわけなんだ」

「だからどういうわけでそうなったんですか!?」


 え? 待って、私がおかしいのかな?

 頭の中で一旦状況を整理する。

 困ってた人がいたから手助けでライブに出演。

 うん、そこまではいい。他の人ならないけど、えみりさんならあり得る話だ。

 で、その出演したライブで何故か他のアイドルのファンを熱狂させてしまう。

 あー……うん、少し飲み込むのに時間がかかったけど、メアリーでのえみりさんと、聖あくあ教でのえみりさんを見てたらありえる事なのかなと思った。

 いくら絶対神白銀あくあ君の存在があるとはいえ、えみりさんは半年で信者数を数億単位にまで増加させて他国の王族や自国の1番えらい人まで信者にしてる実績がある。それなら500人くらいの人数をたった一回のライブで熱狂させてしまう事もあるのかもしれない。

 なぜか知らないけど、えみりさんにはあくあ君と一緒で他人の人生を狂わせる何かがあるのだ。


「いやー、まさか、あんな事になるなんてな。ははは……」

「それ、私のセリフなんですけど……」


 ベリルエンタープライズについては早い段階から認識していました。でも、普通に活動してるし、なにも問題ないからと放置してたのが不味かったのかもしれない。

 調べたところストロベリー・プリンセスは5人のアイドルグループで、そのうちの3人が方向性の違いと就職で脱退し、1人が入院、残り1人がトンズラしています。その件をネットで暴露した元マネージャーのせいで、炎上というよりもどちらかというとネットでオモチャにされていました。

 これがまた良くない。

 あくあ君もそうだけどえみりさんも異常なまでに逆境に強いんですよね。

 それこそ2人の親族である美洲様がステイツに挑戦した時も、日本人がと馬鹿にされていたと言っていました。それでも美洲様その全てを覆していったのです。

 アウェーな状態はこの3人にとって舞台が整った状態と同じなのよね。期待値が低ければ低いほどに、基本スペックが高い3人は想定していたものを出してきます。でもそれだけではありません。

 そもそもアイドルとは偶像、それは聖女という宗教のシンボルに通じるところがあります。

 えみりさんは誰かに望まれた姿をそれ以上に体現してしまう。一言で表すならば調子に乗りやすいとでもいうのでしょうか。凡人ならば一歩後ろに引いて置きにいく、無難にやり過ごす所をえみりさんは一歩前に踏み込む。これはどんなに努力しても身につく事ではありません。ましてや才能とも違う気がします。

 根っからの性格がそういう先導者……いえ、むしろ周りを巻き込んでしっちゃかめっちゃかに引っ掻きまわす煽動者気質なところがある。だからアイドルのライブパフォーマンスのような観客席を巻き込むシステムとは相性がいい。


「私だって予想外だったんだよ。一応、後で自分でも映像を見直したけど、歌詞だって曲のフレーズの長さがあってなかったり、なんか噛んでてよく聞き取れないところもあるし、ダンスだってほとんど上半身の動きで誤魔化してるし……そりゃ、練習してないんだから、とてもじゃないけどあくあ様やアヤナちゃんとかとは比べられるレベルじゃないだろ。それなのになんでみんなノリノリなんだよ!!」


 うーん、それってやっぱりライブ感じゃないかな。

 観客の人達からすると、ネットでオモチャにされて誰もいなくなってファンも来てない可哀想なグループ。それにも関わらず勇気を出して1人で出てきてアウェーな状況で全力のパフォーマンスを見せてくれた。その事実だけです。

 アイドルにとって重要なのは、その人を応援したいかどうか。そして観客にとって重要なのは裏側じゃなくて、ステージの上で起こった事、自分が実際に見て経験した事です。例えパフォーマンスが追いついてなかったとしても、必死にやっている姿に多くの人たちが心を打たれたわけですね。

 つまり応援してあげたいなと思わせた時点で、えみりさんの勝ちパターンに入ってしまった……。これも、いつものことです。あー、胃が痛い! お薬のも……。


「え? 何でそれで両方の事務所に所属する事になったんです!?」

「とりあえず越プロは小雛ゆかりパイセンが超怖いので丁寧にお断りして、これ以上は変な事にならないように普通にベリルに入ったんだよ」

「はい、それはいいと思います」


 面倒事(あくあ君)面倒事(えみりさん)のダブル発生源が同じ所にいる方が、私も管理しやすいですからね。

 別々のところで問題を起こされると、私も核のボタンを持って右往左往しないといけません。


「で、今回の事を一応、天鳥社長に説明したんだよ」

「はい、それもいいと思います」


 そうそう、相談するって事は良いことですね。

 だから次からは、私にも先に相談してくださいね?


「そしたらさ、面白い事になりそうだからそっちにも所属しなさいって」

「え?」


 天鳥社長? 私は精神を安定させるためにポケットの中に放り込んでいたスイッチをカチカチと押す。

 これを押すとみんな素直で聞き分けのいい良い子になるんですよね。


「で、天鳥社長に言われてさっちゃん、あっちの社長さんを呼び出したら私と一緒でビビり散らかしちゃってさ」

「はい、普通はそうなるでしょうね」

「結局、天鳥社長が資金提供する代わりに、ストロベリー・プリンセスの白苺小猫としてそっちにも所属することになったんだよ」

「え? だから、何でそうなるんです?」


 天鳥社長はそのパフォーマンスを見て何かに使えると思ったそうだ。

 あくあ君と違って天鳥社長の社長としてのスタンスは、ベリルのオーディションからもわかる。

 経営者として社員を幸せにするために重視するのは売りやすいか、売れるかどうか、つまり確定で利益が計算できるかどうかただその一点だ。

 だから秘密裏に入手した採点表でも、阿古さんは最初から最後までらぴすさん、スバルさん、ラズリーさんの妹3人組を推してたし、売り出しやすいくくり様、フィーヌース殿下、ハーミー殿下の6人に高得点をつけていた事が確認されている。ライブステージのパフォーマンス重視で、祈ヒスイさんと那月紗奈元会長に最高得点をつけていたあくあ君といい、この2人は最初から最後まで採点もその選定基準もブレなかった。

 ただ、実際の指導にあたっていた他の審査員4人の採点表を見ると、それぞれがオーディションメンバーの成長や伸び代、努力や練習の向き合い方などを審査基準にしていたから、それぞれの審査員とは別の基準点で採点したのかもしれないとも考えられます。


「いいでしょう。100歩譲って天鳥社長の理由は理解できるとして、えみりさんはそれでもいいんですか?」

「うん」


 少し思考が逸れたけど、社長とは別に天鳥阿古さん個人のスタンスはあくあ君にとってプラスになるかどうかだ。

 天鳥社長がえみりさんの仮面アイドル活動の道を残したのは、あくあ君を燃えさせてくれる可能性が一ミリでもあると感じたからでしょうか。

 役者としてあくあ君を燃えさせてくれる人はたくさんいますし、覚醒した超がつくほど負けず嫌いの大女優さんがあくあ君の上に居続けようと頑張るでしょうし、そこは大丈夫でしょう。

 でも……アイドルとしてあくあ君を燃えさせてくれる存在はアヤナちゃんしかいません。かろうじて映像で確認した限り、あくあ君の完全コピー、ううん、それよりも先の何かを感じさせてくれる祈ヒスイさんもいるけど、こっちはまだまだ追いついてない気がします。同様に那月紗奈会長もそこクラスに追いつくには何かが決定的に足りない気がしました。BERYLの男子達も頑張ってはくれてるんだけど……同じ男子のあくあ君と比べられるレベルではありません。

 そう考えるとえみりさんは基本スペック、カリスマ性、何よりも周りを熱狂させてしまう素質であくあ君に負けてないのだから、あとは練習さえすれば……って感じがします。問題は本人がやる気かどうかなんですけどね。


「白苺小猫は臨時みたいなもんだし、病院に入院してるメンバーが退院して療養が明けたら辞めるつもりだしな。それまでの仮所属みたいなもんだから」

「本当かなぁ……」


 もうすでに嫌な予感がしてるけど、今から騒いだところでどうしようもない。

 私は席から立ち上がると帰宅の準備をする。


「あれ? クレア、どっかいくの?」

「はい。今日は例のマッサージの日なんで」


 運良くあくあ君のお年玉くじに当選した私は、今日がその権利の行使日にあたります。


「そうか……あくあ様がしてくれる大人のマッサージを楽しんでこいよ!」

「ふ、普通のマッサージですよ。もう!!」

「えっ!? 色々と揉んでもらわないの?」

「こ、これからマッサージしてもらうのに変な事言わないでくださいってば!!」


 これ以上えみりさんの相手をしてたら変な気分になりそうだったので、私はさっさと部屋を出る。

 どうして頭の中があんなのであくあ君とも色々とあったりしたのに、何であんなにもたついてるんだろうって思う。内弁慶というかネット番長というべきか、実は誰よりも臆病で小心者、それがえみりさんなんだよね。

 一緒にいる時間が長ければ長いほど、いかに虚勢を張って生きているのかがわかる。でも、それは口だけで実際の行動を見ていれば彼女自身が善意と優しさで動いているのは誰の目にも明らかだ。ちょっと、ううんだいぶアレなのが玉に瑕だけど……。


「えっと、ここかな……?」


 あくあ君に呼び出されたのは、自身が住んでるマンションのメイド居住フロアにある一室だ。


「千聖クレア様、お待ちしておりました」

「あ……ペゴニアさん。今日はお世話になります」


 私はペゴニアさんに案内されて部屋の中に入る。

 マッサージ用の服に着替えてまだかなーって思ってたら、外から足音が聞こえてきた。

 あっ、もしかしたら来てくれたのかな?


「失礼しまーす!」

「あっ、はーい」


 マッサージ師の人が着ているような服装をしたあくあ君が部屋の中に入ってきました。

 1月なのに半袖着てるから腕が丸見えでドキドキしちゃいます。


「えーと、クレアさんはどこか最近、凝ってるなとか、気になるなって場所はありますか? そこを重点的にマッサージしようかお思ってるんだけど」

「おっ」

「おっ!?」


 あ……えみりさんとの会話のせいで、思わず変な事を言いかけました。

 なんとしても誤魔化さなきゃ。うーん、うーん。おから始まる言葉でそれ以外の部位って何があったかな……あっ! そうだ!


「お尻」

「おしりぃ!?」


 わー! 何言ってるの私!? 違う。違うの、そうじゃないんです!


「おへそとか」

「おへそぉ!?」


 え? 待って、なんでおへそであくあ君は立ち上がってるんですか?

 おへそって大丈夫なところですよね? 変な事とかに使っちゃう部位じゃないはずだと思って言ったんだけど、そうじゃないのかな?


「それじゃあお尻とおへそですね。任せておいてください!!」

「あ……えっと、うん。はい、お願いします……」


 本当はすごく恥ずかしかったけど、あくあ君がこっそりガッツポーズするくらい喜んでたから今更ダメですなんて言えなかった……。


「それじゃあうつ伏せになってくれるかな?」

「は……はい」


 私はベッドの上にうつ伏せになった。


「少しひんやりするよ」


 あっ……待って、そんな、耳に息を吹きかけられるように甘い声で囁かれたら……!

 あくあ君は手のひらにオイルを垂らすと、私の太ももにそっと優しく触れる。


「ひんっ」


 あっ、変な声が漏れちゃった……。

 だってオイルがひんやりしてるし、あ、あくあ君の触り方がなんかこう、きっと私の気のせいなんだろうけど、気のせいじゃないような……。


「あっ、クレアさん、ごめん。触り方に違和感があったりとか、嫌だなとか、不快に思ったりしたら遠慮せずに言ってね」

「あ、は、はい。大丈夫です」


 あくあ君に触られて不快とか嫌だなんて思う女の子なんてきっといないよ。

 むしろみんなお金を出してでも触って欲しがると思う。


「それじゃあ、次はおへそのあたりをマッサージするね」

「う、うん」


 あくあ君は手のひらにドパドパとオイルを出すと、私の腰にそっと触れる。

 はぁはぁ、マッサージをしてもらったなのに逆に疲れて息が上がる。


「クレアさん、足が少しむくんでるね。ついでにここもマッサージしておくよ」

「あ、ありがとう」


 あくあ君は床に跪くと、ベッドに腰掛けた私のふくらはぎを優しく揉みしだく。


「くっ」


 私は歯を食いしばる。

 しゅごい。足のマッサージってこんな感じなんだ。

 足裏のツボを押されてすごく痛いはずなのに、これまでにないほど喜んでいる自分がいる。

 あっ、そっか……私、痛くされるのが好きなのかも。私はこの時、初めて本当の自分に気がついてしまった。


「ごめんね。痛かった?」

「ううん。むしろもっと痛くして欲しいかも」


 あああああっ! そこっ、それ、すごくいいぃぃぃぃぃ! んっ、ふぅ……あ、ダメ。足のマッサージってこんなに痛いんだ。


「あ、あくあ君」

「えっ!? あっ……何? どうかした!?」


 ん? なんか焦ってた気がするけど、どうかしたのかな?

 さっきから腋のところをチラチラみてるけど、もしかしてここもマッサージしたいのかな?


「え、えっと……腋あたりをマッサージしてもらえませんか?」

「いいんですか!?」

「う、うん」


 あくあ君は両手でガッツポーズして喜んでくれた。


「それじゃあ後ろから失礼します」

「う、うん」


 あ、あくあ君!? 顔、近いよ……って、あ、あれ? もしかして蒸れた私の腋の匂いを嗅いでる?

 ダメダメ、流石にそれは恥ずかしすぎるよ! で、でも、そんな事を指摘する勇気なんて私にはないし……ううう……。でも、気分は悪くないというか、むしろ上がってる自分がいる。

 どうやら私は痛い事以外にも、恥ずかしい事をされるのも好きみたい。


「あー、これはいいですね。クレアさんの体臭と汗、石鹸の香りが混ざって控えめに言って最高としか言えません」


 あくあ君? どうしたのかな? 今日はやたらとぶつぶつと呟いてるとけど……。や、やっぱり、私って臭い!? あっ……どうしよう。臭いって言われても、それはそれで良いかも……。

 どうやら私は罵倒されるのも好きみたい。ううう、今日は知りたくもない自分の事に気づかされている気がする。

 それからあくあ君は私が恥ずかしがるようなマッサージや痛くなるマッサージをたくさんしてくれた。


「クレアさん……今日は本当にごめんね」

「ううん。こっちこそ、色々とありがとね」


 私はあくあ君と何事もなかったかのように別れる。

 こっそりとあくあ君のズボンの中に私のIDを入れておいたけど、気がついてくれるかな?

 って考えてたら、その夜のうちに10回もカウントが回ってた。


「あー……やっぱりあの時、教団の事なんて何も考えずに続きをして貰えば良かったかなぁ……」


 私はベッドに寝転がってスマートフォンの画面を見つめる。

 すると誰かからメッセージの着信があった。

 誰だろう? あくあ君かな?


 送主:雪白えみり

 宛先:千聖クレア様

 件名:ご卒業おめでとうございます!

 内容:あくあ様の具合はどうでしたか? できれば使用感など、具体的に何をされたかを聞きたく存じます。つまり、電話かけてもいいっすかね? ぐへへ……。


 うん……。

 私は無表情でスマートフォンの電源を落とすと、えみりさんからメールを無視してベッドの中で眠りについた。

 カノンさん、桐花さん、森川さんの3人は頑張ってください。私のためにも期待していますよ。

Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。


https://mobile.twitter.com/yuuritohoney

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[一言] 性あくあ教幹部の時点でまともな訳ゃなかったんだ 御本尊? 性欲モンスターですが何か?
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