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白銀カノン、守田さんの小ネタモノマネ王正月SP。

 1月2日、私は家で呑気にテレビを見ていた。

 なんでもあくあが守田さんの小ネタモノマネ王選手権に出場するらしいのよね。

 番組が生放送という事もあって、あくあは数時間前にスタジオへと向かっていった。


「そろそろかな」


 時間と丁度に小ネタモノマネ王選手権が始まる。

 この番組のいいところはすぐにネタが始まるところなんだよね。


『それでは最初のモノマネです。トップバッターの人、どうぞ!!』


 進行係の芸人さんの掛け声に合わせてあくあが登場する。

 え? 待って、トップバッターとか本当に大丈夫!?

 私は心配そうな表情で画面を見つめる。


『黛慎太郎のメガネが壊れる前と後』


 えっ!?

 あくあはメガネを装着すると、少しウキウキした感じでステージの右から左へと歩いていく。

 これ、USJの時に、ハラー・ヘッターのお城に行く時の黛君じゃん!!

 あくあは左に到着すると、ターンと同時にメガネを外して壊れたメガネを取り出す。

 今度はわかりやすいくらいしょんぼりした顔で折り返すと中央で落とし穴が開いて下に落ちた。


『これUSJの時でしょ!! 私、見てたからわかる!!』

『まんまあの時の黛慎太郎君ですね。わかりますわかります』

『待って、もうこんなのお題の時点で笑わせにきてるじゃん。メガネが壊れる前と後の黛くんとか、こんなの反則だって!!』

『ちゃんと帰ってきてる時にメガネが壊れてるの、芸が細かすぎる!』


 審査員の人達が机をバンバンと叩いて大笑いしていた。


「95点ですね。チョイスが黛様というのも渋いですし、何よりもみんなが知ってるネタで攻めてきた事がポイント高いです。何よりも表情とか雰囲気がとてもそっくりでした。旦那様は、黛様の事をよく見ておられますね」


 ペゴニア!? え、実はお笑い番組が好き? 嘘でしょ。そんなの初めて知ったんだけど……。

 私が口をぽかんと開いてる一方で、守田審査委員長のニヤニヤした顔がテレビに映る。


『いやぁ、さすが、うまく特徴をとらえてますよね。とんでもない新人が来ましたよ。え? 東京の人?』

『はい、東京都在住の一般人高校生、白金あくあさんです』


 白金あくあ!? ちょ、ちょっと、文字間違ってますよ!!


『白金!?』

『はい。アイドルがお笑いとかダメでしょって事で、事務所からは白銀あくあとしては出ちゃダメって言われたそうです』


 画面の下にテロップで、これもネタですという注釈がつけ加えられていた。


『ちなみにこれ、番組がオファーしたわけじゃなくてガチの一般応募です。だから楽屋も皆さんと同じタコ部屋使ってるらしいですよ』

『嘘でしょ!?』


 何してんのよあくあ……。


『嘘じゃなくて本当なんですよ。番組のスタッフも本番前の予選であくあ君が来て卒倒しそうになったらしいです。ちなみにギャラも一般人なので5000円らしいです』

『せめてもう一桁増やしてあげなよ! 普通、あくあ君を呼ぼうと思ったら5000円で来てくれないって!!』

『スタッフもそう言ったんですが、守田さんの番組だし、一般参加なんでいいですよって言ったそうです』

『あくあくーーーーーん! 本当にありがとおおおおおおおおおおお!』


 守田さんが感動で震えていた。

 いやいやいや、待って、私も知らなかったんだけど、これ。姐さんも知ってたのかな?

 あ……掲示板見る限りは知らなかったみたい。という事は、阿古さんにしか話してなさそう。


『今日は自宅からスタジオまで地下鉄で豊洲まで行って、そこから私鉄でお台場に来たみたいです』

『せめてタクシーにしようよ! 電車の中、大騒ぎだったでしょ!!』

『スタッフの人が調べてくれたところ、乗り換え2回で534円だそうです』

『交通費に1000円かかったら実質ギャラ4000円じゃん!』


 守田さんはポケットから財布を出すと、スタッフの人に手渡した。


『せめて交通費くらいは支給しよ。私の財布から個人的に払っといて』


 あー、この後に出る人、かわいそう。

 この空気感でやらないといけないの絶対に難しいよ。


『それでは次の方、どうぞ』


 私は次に登場した人を見て、ソファから転げ落ちそうになった。


『いつもの森川楓』

「ちょっと! えみり先輩、何やってるんですか!?」


 私は画面の中にいるえみり先輩に突っ込む。

 えみり先輩は、画面に向かってお辞儀をすると手元に視線を落とす。


『ん? あっ……』


 何かに気がついたえみり先輩は手元の資料を回転させると、そのまま落ちていった。


『あるあるあるあるあるある!』

『これ、あれでしょ。手元の資料を読もうとしたら逆さまになってたやつ。私1週間前にこれ見た!』

『しかもちょっと汗かいてるんだよね。多分遅刻ギリギリだったんだよ。裏のストーリーまで全部透けて見えたわ』

『これ、裏で鬼塚アナが頭抱えてますよ。そこまで見えました』


 面白かった。面白かったけど!! えみり先輩、何やってんの!? ねぇ、本当に何やってんの!?


「97点、動きもシンプルかつセリフも少ない。無駄を極限まで省いたモノマネの真髄ですね。それなのに裏のストーリーまで全部分かっちゃうのはすごいです。特にあの驚き顔、よく森川様の特徴を捉えているなと思いました」


 あ、うん。審査員の人達より詳しい説明をありがとう。


『うぇっへっへっ、今のはポイント高いですよ。この人も新人さんだよね?』

『はい。ラーメン竹子でバイトやってる雪白えみりさんです。ちなみにあの雪白美洲様の親戚だそうですよ』

『嘘でしょ!? 道理ですごく綺麗だと思った』


 えみり先輩いいのかな?

 絶対に忘れてると思うけど、これでもうラーメン竹子でバイトしてる事がメアリーの人達にもバレちゃったよ。あ、でも、デュエットオーディションでどのみちバレてるからいいのかな?

 それと段々、素の部分が出てきてるけど、のえるさんから怒られたりとかしない? えみり先輩、お母さんとの約束、絶対に忘れてそう……。


『それでは次の人!』


 ここからは中堅の芸人さんを中心としたいつものメンバーが続いていく。

 どれも面白いけど、最初に出た2人ほどじゃない気がする。というかそれくらい最初の2人がインパクトがありすぎた。隣に居るペゴニアの採点も渋めです。


『では一周目最後はこの人です。どうぞ!!』


 私はステージに出てきた人を見て、飲みかけのお茶を吹き出しそうになった。


『街中で偶然遭遇した人』


 お婆ちゃん!? 総理!?

 2人とも何やってんの!?


『あくあくあくあ様ああああああああああああ……あ』

『とーっ、とあーっ、とああああああっちゃん!!』


 お婆ちゃんがあくあの名前を絶叫した後に崩れ落ちて落ちていくと、総理はとあちゃんの名前を叫びながら大きく仰け反りながら落ちていった。


『あははははは! ちょっとこれダメでしょ!!』

『あー、街中でベリルの撮影かなんかに偶然にもファンの人が遭遇しちゃったんだね。わかります』

『メアリー様のあくあ様って叫んだ後の、あ、わかります。一気に来て容量オーバーになって倒れるんですよね』

『この番組やばいって、総理は全然いいとしてメアリー様を落とし穴に落とすのは国際問題とかになっちゃわない!?』


 お婆ちゃん大丈夫かな?

 今でもフルマラソンできるくらいだから大丈夫だとは思うけど、少しは自分の年齢を考えて欲しい。


「93点! これもベリルのメンバーに遭遇した人なら、誰だって共感できるのではないでしょうか? 崩れ落ちるメアリー様の再現度も素晴らしいですが、特に総理の落ち方はもはや芸術です! 今年の総理は土下座に加えて落ち芸も見られるかもしれませんね!!」


 その前に今年こそ総理がクビになりそうと思った視聴者はきっと私だけじゃないはずだ。


『どうですか審査委員長?』

『いや、ダメでしょ。この2人が出てきた時点で、こんなの笑っちゃうよ。総理はいつものことだとして、メアリー様、本当に何やってんの!? これ、スターズで放送が流れたら間違いなく大問題だよ!!』

『ちなみにこの2人も一般参加なのでギャラは5000円です。タクシーで来たら赤字なので、2人もあくあ様と一緒に電車でお台場に来たそうです』

『スタッフ! これも私のお財布から交通費出しておいて! 3人とも帰りはタクシーに乗せてあげてよ! 正月から電車の中が大パニックだよ!! 鉄道会社の皆様、正月早々本当にお手数をおかけしてすみませんでした!!』


 いや、本当に守田さんのいう通りだよ。みんな正月から何やってんの!?

 進行を務める芸人さんが手元の資料へと視線を落とす。


『えー、補足説明ですが、東京都からきた最年長の新人お笑いコンビの総理と女王のお2人は先月からネタ合わして、今月、えー、今日からですね。本格的に活動を開始するそうです。目標はベリルエンターテイメントのお笑い部門に入る事だそうですよ』

『ベリルにお笑い部門なんてないですよ!?』

『えっ? 森川さんってお笑い部門じゃないんですか?』

『森川アナは文化人枠! ああ見えて一応国営放送のアナウンサーなんですから!』

『あっ、そうだった。さすが守田さん、詳しい!』


 なんかもう頭が痛くなってきた……。


『それでは2周目行きますか。他にやりたいネタがある人、どうぞ!』


 嫌な予感がしたけど、あくあが笑顔で2周目に出てくる。

 なんでそんなに楽しそうなのよ……。


『なぜか全てを理解している守田一美』


 あくあはポケットからサングラスを取り出して装着した。

 うわぁ、ちゃんと守田さんの手の動きとか表情とかコピーしてる……。

 あくあの高い演技力のせいで、とにかく無駄にクオリティの高い。


『それでは今日のゲストです。どうぞ!』


 は!?

 あくあが自分の出てきた場所へと手をかざすと、黛君が出てきた。

 待って、黛君、何してるの!? しかも革ジャンにサングラスって、それどっかで見た事があるような……。


『天我先輩、今日の気分はどう?』

『雨色』

『あー、バイクで来て雨に濡れたのね。さっき国営放送で森川さんがゴリラ豪雨って言ってましたよ』


 本当にあくあの守田さん似てるんだけど……。

 あと黛君頑張ってる。なんかそこはかとなく天我先輩っぽい!


『最近どっか行った?』

『峠』

『あー、定番のツーリングコースですね。その後は例のダムですか。わかりますよ。あくあ君もね、この前その間にあるスタアライトって茶店できつねうどん食ってました』


 あくあがうぇっへっへっと笑ってみせる。


『ところで天我君はうどん好き?』

『わんこ』

『蕎麦!』


 2人は蕎麦を啜るリアクションをしながら、そのまま落下していった。


『2人とも似てる! これ確か天我先輩が1人でいいですともに出た時だよね。めちゃくちゃ緊張してたの覚えてます!!』

『いや、これ私もこの回、見てましたけど、天我先輩の会話が何故か全部単語なんですよ。あれほんとよく守田さん全部拾えたなって思います』

『これ最後、よくわんこだけで蕎麦が秒で出ましたね。天我先輩は岩手県出身なんですよ。だからうどんが好きって聞かれてわんこうどんって言いかけたんだけど、わんこうどんってあったっけって思って言うの止めたのに、守田さんが普通に蕎麦って言っちゃうっていうね』

『卑怯だよこれは。黛君が天我先輩のコスプレして出てきた時点でもう笑いそうになりましたもん。こんなの耐えられるわけないですよ』


 黛君まで何やってるの!? まさかうちのあくあが巻き込んだりしてないよね!?


「98点! 守田さんはわかりやすいやりやすい事から真似する人が多いんですが、生半可じゃなくて役者としての能力をフルに使って本気で真似に行く白金あくあさんの姿に感動しました。それに黛様が恥ずかしがっていたのが、あの時の天我先輩を再現してて逆によかったですね。これは、ネタと人選をチョイスした旦那様の計算のうちでしょう。いやぁ、実に恐ろしい。とんでもない新人さんが出てきました」


 長いって! 今日のペゴニアめちゃくちゃ喋るじゃん!!

 私、そんなペゴニア、今日初めて見たよ!


『えー、ちなみにこの衣装もサングラスも、天我先輩、本人から借りてきたそうです』

『嘘でしょ!?』

『ついでに言うと、さっきあくあ君が小道具で使ってたメガネも黛君の私物だそうです』

『じゃ、じゃあ、あの壊れかけたメガネって……』

『実際にあの時、壊れたメガネです』

『すごい!』


 進行の芸人さんはニヤけた顔で、同じくニヤけた顔の守田さんに話を振る。


『これ守田さん本当ですか?』

『本当ですよ! ただね。あくあ君がスタアライトできつねうどん食べてたのは、これ新しい情報ですよ。スタアライトの店長見てる? 明日もう凄いことになるだろうけど頑張って』


 本当だよ。これ聞いてもう今から現地に泊まりに行く人とかいるんじゃない。

 結婚前なら私も今からタクシー乗って明日の開店に合わせて前日入りしてるよ。


『ちなみに黛君は昨日、お雑煮を食べていた時に手伝ってくれって急にあくあ君からお願いされたそうです』

『嘘でしょ!?』

『本当です。ちなみに黛君はタクシーで来たので、行きだけでマイナス2000円の赤字だそうです』

『スタッフさん。もう黛君のは全部私のお財布からギャラも交通費も払っといてあげて!!』


 やっぱりうちのあくあのせいだった。

 黛君、ほんとごめん。うちのあくあが巻き込んでほんとごめんね。


『それじゃあ、次の人に行きましょうか。どうぞー』


 えみり先輩が普通に出て来たのを見て、うん、わかってたよと心の中で呟く。


『いつもの森川楓パート2』


 パート2!?

 えみり先輩は、普通にツカツカと歩いてくると扉を開けるリアクションをする。


『あ』


 えみり先輩は手に取った何かを見つめて口を大きく開けると、そのまま落下していった。


『これ、わかった! パワーでドアノブが取れちゃったんでしょ!』

『あー、これねー。私、見た事あります。目の前でもげるのみて、え、それってもげるんだって思いました』

『おかしいでしょ! 普通、ドアノブ取れないって! え? ネタじゃなくて本気で取れてるの!?』

『あはははは、これは卑怯だわ。こんなん絶対に笑っちゃうよ』


 ちなみに私も見た事あるよ。それ……。


「78点」


 78点!? え? ペゴニア、急に採点が厳しくない?


「本来は98点です。減点の理由を説明すると、森川さんがドアノブを壊したせいで私が部屋に閉じ込められた事があるのを思い出したので、それでマイナス10点。そしてそれを私が修理する羽目になったので更に追加でマイナス10点で、合計マイナス20点で78点です。ただ、えみりさんのモノマネはそっくりでした。そっくりすぎるが故のマイナス20点です」


 あ……そういえば、そんな事あったね。あの時は本当に大変だったな。

 姐さんやえみり先輩にも手伝ってもらって……あれ? でもあの時のペゴニアって、部屋の外に出た時、なんかツヤツヤテカテカしててあんまり不機嫌じゃなかったような記憶があるんだけど……。


「あ……でも、あの時は、旦那様とお部屋の中で閉じ込められて良い思いをしたのでマイナスを取り消して120点にします」

「は!? 良い思いって何!? え? 本当に何したの!?」

「お嬢様……若い男女が2人、密室に閉じ込められたらする事なんて一つしかないじゃないですか」


 え? 待って、それが気になって番組に集中できないんだけど!?

 部屋の中で何があったの!?


『えー、これは補足情報なんですけど、うちのスタッフが国営放送さんに問い合わせたところ、森川楓アナウンサーがこれまでに破壊したドアノブの数は9つだそうです』

『結構、壊してるねー』

『国営放送さんは対策のために一部をスライドドアに変えたらしいんですけど、閉めた瞬間に扉ごと破壊されたらしくてコスト面を考えてドアノブに戻したらしいです』

『いやいや、流石にそれは嘘でしょ! えっ? 本当に?』


 うんうん、流石にそれはないでしょ。

 進行役を務める芸人さんの顔を見ると、ニヤニヤしてたけど目が笑ってなかった。

 えっと……うん、嘘だって思う事にしておきます。


『ちなみにこのネタは、ちゃんと森川アナ本人から許可を取ってるそうです』

『ええ!?』

『これも補足説明なんですけど、雪白えみりさんはメアリー大学在籍らしく、森川アナは大学の先輩なんだそうです』

『あー、なるほどね。そういう繋がりかー』


 ちょっと!? 楓先輩と繋がりがあるなんてわかっちゃったら、えみり先輩が捗るだってバレちゃいますよ!?

 私は慌てて掲示板を確認する。でも、掲示板を見ると、誰1人として気がついてない。嘘……でしょ……。誰か1人だけその可能性を指摘してる人がいたけど、すぐにあんな美人が捗るのわけないだろって数十人に指摘されて納得していた。どうなってるの……。

 えみり先輩がネタを披露した後に芸人さんや一般参加の人達のネタが続いていく。


『それでは2周目はこれで最後です。どうぞ』


 またしても普通に出てくる総理とお婆ちゃんを見て2人に頭を抱える。

 ところで総理ってさ、もしかして暇なの?


『並んでる人』


 えっ!? 奥から更にあくあ、黛君、えみり先輩、それに加えて今日、お休みしているはずのりんちゃん、みことちゃん、るーな先輩が出てくると、総理と一緒に列を作って並ぶ。

 そこを杖をついたお婆ちゃんが近づいてくる。

 すると、列に並んでいた全員がスッと道を空けてあげた。あー、ベリルのファンあるあるですね。

 しかし道を横切ろうとしたお婆ちゃんがつまづくと、そのまま倒れるようにして落下していく。

 それを見た並んでいたファン達が一斉にお婆ちゃんの方へと駆け寄ってそのまま落下していった。


『わかりますこれ。ベリルのファンの子達、良い子が多いのよね。列に並んだりしてても関係ないの』

『最初ちょっとファンの子達が背伸びしてたのとか、あれ絶対に姐さんが列の乱れを監視するために巡回してたタイミングのモノマネでしょ。わかりますわかります。こうね、自然と背筋がビシッとしちゃうんですよ。姐さんが来た瞬間、そこだけ軍隊になるんです。いや、芸が細かいなぁ!』

『ちゃんとみんなベリルのファンTシャツ着てるのがいいですね。あくあ君がとあちゃんのファンTシャツ着てたのが個人的にポイント高かったです』

『いやあ、なんかもう感動しちゃいました。ベリルのファンで良かったなと思います。私も前にね、荷物を落として中身をぶちまけたら、グッズを買うために並んでた人達が一斉に列から離れて拾ってくれたんですよ。おまけに、後ろにいた人達も列を詰めたりしないし、ほんと優しい空間でした』


 うん、確かに感動的だよね。でも孫としては、何度も落ち芸を披露するお婆ちゃんを見てすごく心配になるんですよ。


「これは92点ですね。最後、穴に飛び込む時に総理がふざけてローリングサンダージャンピング土下座のモーションで自我を出してきたので減点です。モノマネならただの1ファンを演じないと。これが列に並んでる人ではなく、列に並んでる総理というお題なら98点でした」


 あのさ、今更なんだけど、その点数が書かれた看板ってどこから出してるの?

 ぶっちゃけずっと疑問だったけど、聞いちゃいけないかなと思って聞いてなかったんだよね。


『えー、テレビの前で見ている全国のあくあ君ファンの皆様、そしてとあちゃんファンの皆様にお知らせがあります。あくあ君が着用しているとあちゃんのファンTシャツは私物でございます!!』

『すみません! 今、生放送ですけど、お薬飲んでいいですか!?』

『どうぞどうぞ。私もちょっとガラガラします』


 ガラガラしますって何!? お薬そんなにたくさん飲んで大丈夫なのかな?

 飲みすぎても特に副作用はないらしいけど、見てると心配になるよ。


『守田さんどうでした?』

『メアリー様は最年長なのに体張りすぎなんですよ! 見てるこっちがハラハラします。もっとご自分の年齢というものを考えてください。ちょっとね、ここで審査員長権限を使ってドクターストップさせていただきます!』

『わかりました。残念ですが総理と女王のお二人はここまでという事で』

『はい。できれば次回は落ちないネタか、総理だけが落ちるネタを考えてください。総理はどうなっても大丈夫なんで。むしろあの人は何やっても死にませんから』


 ありがとう守田さん。あ、番組終わった後に守田さんにお礼を言っておくようにあくあにメール送っとこ。

 その後少し長めのCMが入る。多分、決勝に出るメンバーを選んでいるんだと思います。


『それではここからは決勝戦になります。どうぞ!!』


 あー……やっぱり決勝に残っちゃったかー。

 さも普通にあくあがステージに出てくる。

 ごめんね、黛君。決勝戦のネタにまで巻き込んで。


『一般通過大女優』


 見覚えのある服……っていうか、あくあの服を着た黛君が椅子に座る。

 そこをスタッフカードをぶら下げた総理が出てくると、黛君は立ち上がって普通に挨拶を交わす。えみり先輩やメアリーお婆ちゃんも普通にスタッフの振りをして総理に続く。黛君は変わらずあくあが何時もやっているように丁寧な物腰で挨拶を交わした。

 すると反対側から女装したあくあがめちゃくちゃガニ股で出てくる。

 あくあー、それ、絶対に怒られる奴!

 そんな私の心配をよそにして、あくあはズンズンと黛君の元へと近づいていく。

 もちろんスタッフ役を務める3人は、壁に張り付くようにして道を開ける。

 黛君は一度あくあの顔を確認すると、スッと携帯に視線を落とした。


『ちょっとぉ! あんた今、私の事をスルーしようとしたでしょ!!』


 あくあが地団駄を踏んだタイミングで黛君とあくあの2人が落下していく。


『ちょっと、これは反則じゃないですか!?』

『これ私見ました! 楽屋裏であくあ君が某大女優さんだけわざとスルーした時に絡まれてたんですよ!!』

『完全な形態模写でしたね。もう歩き方でどこの大女優かすぐに気が付きましたよ』

『これ、絶対にあとで怒られるやつでしょ。もう本人が見てない事を祈ります』


 うわ、私の携帯にもなんかメッセージ飛んできてるけど、知らなかった事にしておこ……。


「間違いなく優勝です。旦那様が某大女優のモノマネをする。もはや鉄板中の鉄板、みんなが望んだテーマを決勝に持ってくるところもさすがとしか言いようがありません。エンターテイナーとして、やっぱりわかってらっしゃいますね」


 ペゴニアは真顔でテレビに向かって拍手していた。

 お笑い好きとか言ってるけど、ここまで全部真顔なんだよね。でも、心の中じゃ爆笑してるのかな?

 もっとこう、楽しかったらちゃんと笑ってもいいんだよ?


『これはですね。だめですよ。大女優って言ってるけど、誰が見ても誰かもう解っちゃいますもん。これ大女優さん本人も今、画面の前で怒ってるんじゃないですか?』

『いや、怒ってると思いますよ。ひひ。ありがとうございます。もうね。わたしゃ、それ以外の言葉が見つかりません』


 進行役の芸人さんは手元の資料へと視線を落とす。


『ちなみに大女優ネタは他にもレパートリーがあって、突如、壁と喧嘩する大女優、野良猫と戯れる大女優、天気に向かって文句を言う大女優とかもあるみたいです。スタッフは予選審査の時に、壁と喧嘩する大女優を見て爆笑したそうです』

『あーっ、そっちも見たかった!』


 一体、幾つレパートリーあるのよ……。

 しかもそれ全部、本人が見たら怒る奴じゃないの。


『ん?』


 進行役の芸人さんが何かを見て固まる。どうしたの?

 それに気がついた守田さんが、芸人さんが見ている方向へと視線を向ける。


『あれ? もしかしてアヤナちゃん!?』


 カメラがターンすると私服姿のアヤナちゃんが映った。

 かわい〜。アヤナちゃんいつも可愛い服着てるんだよね。


『え? どうしたの?』

『あっ、別の収録できてて、たまたま、その、見学に……』

『なるほど〜、さっきのネタはどうでした?』

『そっくりでした。ほんと、もう。でも、ごめんなさい。ふふっ、これ以上は怒られそうなんで。ほんとごめんなさい。後、あくあはちゃんと怒られた方がいいです。ふふっ』


 本当だよ! 流石はアヤナちゃん! 私が言えない代わりに良くぞ言ってくれました!!

 本当にありがとう。


『月街さんありがとね。それでは決勝戦2人目です。どうぞ!』


 あくあの後に続くのはもちろんえみり先輩だ。

 なんで普通に決勝に残ってるんですか?


『飛行場の森川楓』


 えっ!? いつもの森川楓パート3じゃないの!?

 審査員の人達もまさかのネタの変化に戸惑っていると、空港職員のコスプレをした総理が出てきた。

 総理、着替えるのはやっ!


『次の人』


 総理が金属探知機のようなもので、えみり先輩の体を調べる。すると、金属探知機からわかりやすくピーピーという音が聞こえてきた。


『ん? ポケットに何か入ってるな! 出しなさい!!』


 するとえみり先輩はポケットの中から茄子を取り出してみんなに見せる。


『種子法違反だ! 逮捕しろ!!』


 手錠をかけようとする総理、しかしそれよりも早くえみり先輩は茄子にかぶりついて証拠隠滅を図る。

 そのまま2人は揉み合いながら落下していった。


『あーーーーーっ! これ、スターズに行った時の奴じゃん!!』

『これは反則でしょ! 後、あれって没収されたんじゃなかったっけ?』

『ちょっともうこれ、今回、新人さん達がやばすぎる。正直な話、優勝はどっちかに絞られてるんですよね』

『いやぁ、いつもの森川楓パート3かと思いきや。空港の森川楓って! 笑わせて貰いました』


 えみり先輩、大丈夫? 本当にこれ、後で楓先輩に怒られちゃったりしない?


「これも100点ですね。特に最後の茄子を掴んだ総理の手にまでかじりつく姿には、勢いがあるというか、リアリティがありました。もうずっと見てたいなと思ってしまいます。さすがは雪白様、森川様の事を誰よりも理解されているだけの事はあります」


 ん? なんだろう。横から出てきたスタッフさんが、進行の芸人さんにメモ書きのようなものを手渡す。


『えー、ちなみになんですが、先ほど雪白えみりさんの方から、急遽、バイトが入ったので決勝のネタが終わった段階で帰らせていただくとの事です』

『嘘でしょ!?』

『後もう、やりたい事はやり切ったとも言ってました』

『うん、それなら仕方ないですね。一般参加枠はあくまでも一般の方の協力の上で成り立ってますから、用事があったら仕方ありません』


 バイトで帰るって!? え? そんなの許されるの? え?


『雪白えみりさん、どうでしたか?』

『最高でしたね。できれば来年も出て今度は優勝を目指して欲しいです』

『そうですね。私もそう思います。一般参加の雪白えみりさんに温かな拍手を!』

『ありがとうございました!!』


 本当にいいのかなこれ……。

 どこかで私や姐さんのように頭を抱えてたりしている人がいなきゃいいけど。

 えみり先輩に続いて何人かの人がネタを披露すると最後のCMに入った。

 ちなみにさっきから携帯が鳴ってるし、画面には小雛ゆかりって文字が出てるけど私は知らないふりをする。

 そうしているとCMが明けて番組が再開した。


『それでは今回の優勝者はこの人です。どうぞ!』


 うん、わかってたよ。わかってたけど、普通にあくあが満面の笑みで出てきた。


『俺の嫁』


 は!? 私!?

 私が戸惑っていると、あくあは画面の前で直立不動になると、そのまま後ろにバタリと倒れ込むようにして落下していった。


『あっはっは! 待って、これは反則でしょ!』

『ひーっ、待って。これはダメですって、もう間違い無く優勝ですわ』

『このネタで笑わない人はこの国にはいませんよ。ちょ、もう一回、スローで見せてくれませんか?』

『いやぁ、最後の最後でわからせてきましたね。これはもう文句なしの優勝です!!』


 私は恥ずかしくて顔を両手で覆い隠した。あ、穴があったら入りたい。


『これはアレですか? 夕迅様ですか?』

『いえ、ネタの補足に書かれている内容だと、1日に放送されたばかりの陰陽師を見た時の奥さんだそうです』

『あー、なるほどね。ここで最新のネタを持ってきましたか。いや〜〜〜これはもう、文句なしの優勝です。俺の嫁って、もうそんなのタイトルの時点で笑っちゃいますよ。ネタもシンプルでわかりやすくて新鮮だし、ほんと、ありがとうございました!』

『本当にすごい新人さん達が出てきましたね。2023年の正月小ネタモノマネ王は、一般参加の白金あくあさんでした!!』


 守田さんから優勝カップを手渡されたあくあは、本当に嬉しそうな顔で黛君と一緒に優勝カップを上に掲げる。


『カノーン! 見てるかー! 優勝したぞー!!』


 カメラに向かって私に呼びかけるあくあを見て白目を剥きそうになった。

 は……ハズカシイカラ ヤメテ……。


「あっははははははは、あははははははははは、だめ、これ、こんなのもう優勝です。あははははは。お嬢様、さっきの見ましたか? ふふっ、もう完全に! どっからどう見てもお嬢様でしたよ!! ぷーくすくす」


 ペゴニアは机をバンバンと叩くと床に寝転がって腹を抱えて笑う。

 ちょっと!? さっき笑ってもいいって心の中で言ったけど、いくらなんでも笑いすぎでしょ!!

 なんでよりにもよって、私のモノマネで大笑いするのよ。ねぇ!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 時系列的に、デュエットオーディション決勝でえみりの歌唱力が全国に向けて披露される前にお笑いえみりが来た? 一応、クリスマスイベのミュージカルで世界的歌手相手に並んでるけど。
[気になる点] ご返信ありがとうございます。 あくあが私生活で、カノンの倒れる姿を見る機会があるのはわかります。直近でも陰陽師で倒れるのを見てる筈なので。 疑問に思ったのは、モノマネというあるあるネ…
[気になる点] アレ? 俺の嫁があくあのネタとして成立する状況って、あくあがカノン=ぽんなみって気づいてないとムリじゃない? カノンの立場のまま頻繁に倒れる姿を、周知される事ってないよね? あくあくん…
感想一覧
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