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月街アヤナ、陰陽師。

 あくあ達の記者会見が終わったあと、さらに多くの人達が合流して、みんなであくあの実家で餅つきをした後に一緒に食事をしながらテレビを見る事になった。


「ムキーっ、今、思い出したら腹が立ってきた!」

「小雛先輩、落ち着いてください。正月なんだから、どーどー」

「行け野生のクマ川! 野良の小雛ゆかりを抑えるんだ!」

「ちょっと、は……えみり、誰がクマ川よ!!」


 無人島番組が終わると周囲が一気に騒がしくなった。

 私はそれを眺めながら近くにあった出前のお寿司をつまむ。

 ふふっ、まさかこんな楽しいお正月になるなんて思っていなかったな。


「みんなもう次の陰陽師が始まるよー」


 カノンさんがテレビのチャンネルを国営放送に切り替える。

 そっか、無人島の後に連チャンで始まるのか。


「仕方ないわね! 後で覚えておきなさいよ!!」


 落ち着いた小雛先輩はちょこんと座ると、テレビの画面に集中する。

 私も見やすいようにもう少し前に行こうかな。


「あ、隣、失礼します」

「ドーゾ、ドーゾ」


 雪白えみりさん、美洲様の親戚だけあって本当に綺麗。

 芸能界にいる私でさえそう思う。

 少し昔なら胸が大きいところは残念ポイントだったのかもしれないけど、あくあにとっては、きっとそこもプラスポイントなんだろうなあ。


「あ、始まった」


 おっと、私も余計な事を考えずにテレビ見よっと。


『晴明! どこだ晴明!!』


 1人の男が騒がしく母屋を駆ける。

 ん? 男の人の声? でも、あくあやとあちゃん達とは声が違うし……これは一体、誰なんだろう?

 陰陽師はあくあと天我さんの2人が出演としか公式から発表されてないから、今日この日まで誰が出るかを知っているのはあくあや天我さんのような出演者や制作スタッフだけです。


崇明(たかあきら)殿、どうかなさいましたか?』


 男の前に現れた1人の女性。

 確かこの子って、シ・シュン・キーを演じていた(かなで)いちかさんよね。

 なんかちょっとみない間に大人びててびっくりした。

 こんなに色気がある子だったっけ? 確か私より1つか2つしか変わらないはずなのにすごいな。


蜜姫(みつひめ)殿! 晴明を探しておるのだが、どこに行ったのかわからんのじゃ』


 画面がターンして崇明と呼ばれた人の姿が画面に映し出されびっくりした。

 ああっ! この人、はなあたで主人公だった人だ!!

 この部屋に居たほぼ全員があくあの方へと振り向く。するとあくあは、ニヤリと笑った。

 えっと、確か……石蕗宏昌(つわぶきひろまさ)さんだっけ。


『崇明殿……』


 蜜姫は軽く息を吐くと少し呆れた顔をする。


『晴明様なら、先ほどからそこにおられるではありませんか』

『えっ?』


 崇明は蜜姫が視線を向けた方向、つまりは自らの後ろへと大きな動きで振り返る。

 あ……テレビを見ていた全員が息を呑む。

 ただ縁側に座って背中を向けているだけ。たったそれだけの事なのにそこの空間だけがすごく神秘的で、この世ならざる美しさが漂っていた。


『相変わらずお前は騒がしいのう。崇明の足音で、酒の肴にしていた美しい蛍達の光が逃げてしまったではないか』


 鳥帽子を被り、髪をぴっちりとセットしたあくあは、こちらを振り向くと、手に持った盃にそっと口をつける。

 え? 待って、これ……はなあたの夕迅様というか、それ以上にかっこいい白銀あくあの再来じゃない?

 チラリと横を見ると、えみりさん、森川さん、桐花さん、カノンさんの4人がまとめてホゲった顔をしていた。


『晴明! そこに居たのか!!』


 崇明は少しだけホッとした表情を見せると、また、慌ただしく晴明の側へと駆け寄る。

 この人、はなあたの時は本当に下手だったけど……崇明のキャラもあってなのか、演技が上手くなったような気がします。


『実はお前に相談があってここに来た』

『なんだ? また妻同士がお前を巡って、お互いに呪詛でも飛ばしあったのか? あぁ、それとも愛人の方か?』


 晴明はふっとクールな笑みを見せる。

 え? 何、このあくあ? お正月から国営放送さんは視聴者を殺しに来てるのかな?


『それはいつもの……じゃなくてだな! それどころの話ではないのだ!!』

『不潔……』


 蜜姫は口元にそっと袖を当てると、蔑んだ瞳で崇明の事を見つめる。

 奏さんすごいな。そんな演技もできるんだ……。さすがは芸歴10年。

 私がドラマから消えてる間も子役からずっと出続けていただけの事はある。


『蜜姫殿まで!』


 蜜姫は晴明に近づくと、崇明とは反対側に座ると空になった盃へと酌をする。


『せ、晴明だってな。朝廷では多くの女人に言い寄られておるのだぞ!』

『不相応な女狐共が晴明様の周りで姦しいのは何時もの事……。それと、女人の尻を追いかけ回している人とでは大違いですわ』


 蜜姫に言い負かされた崇明は悔しそうな顔を見せる。

 なるほどなるほど、どうやら崇明は残念な男性のようだ。


『くっ……晴明。お前の嫁御は、お前に似て私に厳しすぎる!』

『崇明、何度も言わせるな。蜜姫は私の嫁御ではない』


 晴明の言葉に、蜜姫はしょんぼりした顔を見せる。

 今まで隠してきた蜜姫の少女らしさが表に出る事で、見ている私も胸がキュンとした。


『蜜姫は私にとって血を分けた家族と同様なのだ。別れれば他人でしかない嫁御などと一緒にするな。私と蜜姫はそれよりも、もっと深い関係なのだ』

『晴明様……』


 うっとりとした蜜姫は晴明の事を熱のこもった目で見つめる。

 なんだろう。なんとなくだけど分かりやすい崇明より、晴明の方が性質が悪そうに見えるのは私だけだろうか。


「よ……嫁御は別れれば只の他人……」

「おい、カノン、しっかりしろ! コレはあくまでもドラマだドラマ!」


 ショックを受けるカノンさんを私の隣に居たえみりさんが励ます。

 私も大丈夫、あくあはそんな事を言わないよってフォローしておく。


『で、崇明。お前は蜜姫に罵倒されるためにここにきたのか?』

『断じて違う! 言っておくが私に、女人に罵倒されて喜ぶような趣味はないぞ!!』


 晴明は崇明の反応を見て盃を傾ける。

 こ、この男、崇明を揶揄う事で酒の肴にしているのだと気がつく。


『って、違う! そうではない!!』

『ん? やはり女人に蔑まれるのが趣味なのか?』

『そうではない! ええい!! これでは話が進まんではないか!!』


 ふふっ、思わず笑みが溢れた。

 石蕗さん、良い演技をするようになったな。

 はなあたに出た後、あくあの演技を見て感化されたって言ってたの本当だったんだ。

 それに、元々は2枚目の役を中心に出てたけど、こういうキャラの方が合ってる気がするな。


『全くお前達は、私はこれでも晴明より7つも年上なのだぞ!!』


 見た感じの雰囲気、あくあの演技が大人びているところから晴明が20−25の間くらい、崇明は25−30の間といったところだと思う。


『いや、そうではない。また話が大きく逸れるところであった。それよりも、四の姫の事でお前に相談したい事がある!』

『やはり女の話ではないか。それに四の姫だと……お前、まさか、帝の娘に……』

『恐れ多い事を言うな! 私とてそれくらいの分別はあるわ!!』


 崇明は軽く咳払いして落ち着くと、真剣な顔で晴明を見つめる。


『四の姫様が謎の病で床に伏せられたそうだ。それも昨日、今日の話ではない。1ヶ月ほど前から体調を崩され、奥の院で療養されていたが、ここ数日前からは時折、発狂するようになり、典薬寮(てんやくりょう)医師(くすし)や並の陰陽師では手をつけられないのだとか……』

『ほう』


 晴明は興味を示したのか崇明の話に目を細める。


『晴明! 待て!』


 崇明の話を聞いた晴明は、すぐに四の姫がいる奥の院へと向かう。

 すると入り口を守っていた舎人(とねり)達が崇明だけを抑える。


『お待ちください! 崇明様、ここより先に足を踏み入れることができるのは女人と帝、それに許可を得た医師と陰陽師だけとなっております!!』

『くっ……』

『そういうわけだ。助平な崇明はそこで待っておれ。私が1人で行ってくる』

『わかった。四の姫様の事を頼んだぞ! 後、助平は余計だ!!』


 なんだろうこの感じ。

 劇中とはいえ、あくあがベリル以外の男子と普通に絡んでるのがすごく新鮮だ。


『いやあああああーーーーーーーーーーーーーーーっ!!』

『落ち着いてください。四の姫様!』


 発狂する女性の声が聞こえる。

 その部屋の中に足を踏み入れた晴明は、袂から1枚のお札を取り出すと、それを女性のおでこに向かって飛ばした。


『急急如律令、六根清浄……!』


 晴明が九字を切ると、さっきまで叫び声を上げていた女性がパタリとその場に倒れた。

 それを見たお付きの女御が、安心したように息を吐く。


『晴明様、本当に助かり申した』

『気になさるな。それよりも貴女は大丈夫か?』

『え?』


 晴明は女御の手を取ると優しく微笑む。

 え? なんかその笑顔、胡散臭くない?


『聞けば、四の姫様が数日前からこの様子だとか……女御である貴女も、その間、気が休まらなかっただろう。ほら、四の姫様は私が見ておくから、貴女は少しの時間だけでも休まれると良い』

『晴明様……』


 うわぁ……。

 晴明は顔の良さを全面的に使い倒して、女御を四の姫から遠ざける事に成功した。

 その後の黒い笑み、こんなあくあを見たらまた拗らせる女性ファンが増えそう……。


『さてと……』


 晴明は四の姫に近づくと、おでこにつけたお札を剥がす。

 あっ……紅白で平軍のトップバッターを務めたフェアリスの加藤イリアさんだ!

 相変わらず顔がちっちゃくて可愛いなぁ。


『四の姫様、起きてください』


 四の姫はすーすーと気持ちよさそうな寝息を立てる。

 晴明は四の姫様が着ている小袖の襟に指先をかけると、耳元にそっと顔を近づけた。


『なるほど……では、このまま夜這いをするとしましょうか』

『ひぁっ!?』


 四の姫は顔を真っ赤にして飛び起きると、はだけさせられた襟を左手でキュッと閉じる。

 か、加藤さんすごい。この状況でちゃんと演技できるなんて、役者云々以前に強靭な自制心がないと無理だ。

 あくあが夜這い……じゃなくて、晴明が夜這いか。私でも、思わずびっくりしちゃったよ。これ、テイク幾つしたんだろう。


『おはようございます。四の姫様』


 うわぁ、何、この笑顔、絶対に悪い男じゃん。

 さっき崇明の事を散々言っておいて、晴明はその崇明より全然遊んでるように見えるのは私だけかな?

 でも、実際にこんな男の人が居たら、女の子達はきっと弄ばれちゃうんだろうなぁ……。

 良かった……あくあがあくあで。あくあは、女の子にデレデレしてるくらいがちょうどいいよ。多分、今、このテレビを見てる大半の女の子はそう思ってるはず。

 晴明みたいにちゃんと自分の破壊力を自覚してたら、もうつけ込む隙もなさそうだもん。


『せ、晴明様……わわわ、私はもう12ですよ。冗談では済まされなくなり……ます』


 可愛い。同性の私からしてもぎゅっと抱きしめたくなる。

 はっきり言って、役者としての加藤さんの演技の範囲は狭い。

 それでも、加藤さんの演技は下手というわけでもないんだよね。むしろそういう演技に特化してるから、ちゃんと型、ハマる役に当てれば抜群に上手さを出してくる。

 以前、お話しした時も、そういう役に特化して仕事を受けてるとも言ってたし、彼女はそういう強かさというか、自分の目指すべき方向と、そのためにしなきゃいけない事をちゃんと自覚してる人だ。そういう意味では、幼い見た目と違って中身は私なんかより全然大人なんだよね。


『なるほど……では、この症状が出始めたのは、初潮が始まってからではありませんか?』

『ど、どうしてそれを……ま、まさか晴明様、どこかで見て』


 袖で顔を覆い隠した四の姫は、壁際で恥ずかしそうに悶える。


『内裏で行われている事であれば全てお見通しですよ』

『はわわわわ』


 四の姫はますます顔を赤くする。

 もう! 四の姫様をいじめるのはそこまでにしなさいよ!

 晴明は四の姫の反応を見て絶対に遊んでるし、やっぱりこいつは悪い男だ。


『さて、そういう冗談は置いておくとして……これは良くないですね』

『良くない? 良くないとはどういう事ですか?』


 四の姫は、膝をするように晴明に近づく。

 こういう時もちゃんと上目遣いだし、加藤さんはちゃんと自分の可愛いポイントがわかって演技してるんだよね。

 でも、それだけじゃなくて、ちょっと襟が緩かったり、女としての部分もアピールしてきてるのがあざとい。あざといって視聴者がわかってても可愛いと思わせるのだからある意味すごいと思う。


『月のものの始まりをきっかけにして、誰かが四の姫様に呪術をかけたのでしょう。四の姫様に世継ぎを産んでほしくない人と考えれば……ある程度は犯人が絞れるのではないでしょうか?』

『なるほど……それでは私に呪いをかけた方は、私に近しい高貴な立場の方になるのですね? 晴明様……いえ、先生』


 四の姫様に先生と呼ばれた晴明は、今度は黒い笑みではなく優しげな面差しで微笑む。


『そういう事です。冷静に物事を判断できていて偉いですよ。四の姫様……いえ、私の白菫(しろすみれ)


 見つめ合う晴明と四の姫。なんだかいい感じに見えるけど……え? 何、どういう事?

 四の姫が晴明にしなだれると過去の回想に入る。

 なるほど……晴明は幼い頃から聡い四の姫様の教師を務めていたのね。

 だから晴明は四の姫様に対して、崇明や先ほどの女御、蜜姫に向けられたものとは違う柔らかな笑顔を向けていたのかー。でも、白菫と呼ばれた時の四の姫様からは女の色をすごく感じた。つまり、四の姫様は、道ならぬ恋に身を焦がされているわけなのですね。


「その男、絶対うちの単純明快なあくぽんたんと違って性格悪いから辞めといた方がいいわよ」


 小雛先輩の的確なツッコミにみんなが思わず頷いてしまう。

 って、あくあに聞かれちゃいますよ。あ……今、おトイレに行ってるのね。了解。


『先生……私、どうしたら良いのでしょう?』

『そうですね。犯人が捕まるまでの間は、彼女をお側に控えさせましょう』


 蜜姫と書かれた人形を袂から取り出した晴明は、その人形にふっと息を吹きかけた。

 すると空に舞った人形が蜜姫に成り変わる。あ、蜜姫って人間じゃなかったんだ。


『お呼びですか? 晴明様』

『ああ。蜜姫、事件が解決するまでの間、四の姫様の女御として控え、彼女を呪詛から守りなさい』

『わかりました』


 晴明は四の姫といくつかの言葉を交わすと、奥の院を後にした。


『う〜、寒いなぁ。暗いし、なんか出そうだし……晴明ー! 早くしてくれー!! 俺は物怪の類が一番苦手なんだーーーー!! 俺を1人にしないでえええええ!』

『崇明殿、静かにしてください。中にいる御方々が起きてしまわれます』

『あっ……すみません』


 ふふっ、石蕗さん、本当にいい演技をするようになったな。

 あの時はキザな役をやってたけど、こういうキャラの方が絶対に合ってるよ。


『全く、何をやっているのだお前は……』

『晴明!』


 崇明は晴明に近づくとぎゅっと抱きついた。

 晴明は大きなため息を吐くと、ペイッと崇明の体を引き剥がす。


『バカをやっていないでさっさと行くぞ』


 ふふっ、なんだかこのコンビいいなぁ。

 ちょっとだけ剣崎、神代のコンビに似てる気がする。

 ヘブンズソードのせいで感覚が麻痺してきてるけど、今までのドラマにはなかった男性同士のこういったシーンは本来であればとても貴重だ。

 帰りの道中、晴明は崇明に四の姫様の事情を説明する。

 どうやら崇明は蜜姫が人形である事を知らない様で、晴明もそこは誤魔化して説明していた。

 翌日、朝廷に参内した崇明は、四の姫様を疎ましく思っている者がいないか情報を集める。


『ああ……憎い。いつも彼女ばかり可愛がられて……! それなのにあの子は!!』

『おやめください! 二の姫様!!』


 おおぅ……二の姫と呼ばれた女性は近くにあった壺を投げつけて割ると、近くにいた女御達にも当たり散らす。

 長い髪が振り乱れて顔が隠れていたが、この声に聞き覚えがあった。

 綾藤翠(あやふじみどり)さん……あの、はなあたで主演女優を務めた人です。そしてあくあにとって、初めて共演した女優さんでもある。

 その事を考えると、なんだか心がちくっとした。私があくあの初めての人だったら良かったのに……なんて言ったらワガママだよね。私は彼女に少し嫉妬してしまった。


『くっ!』


 二の姫は簾越しに目の前で正座した男性を睨みつける。

 怖いなぁ。嫉妬する女性のピリついた演技が光ってる。


『玄上、どういう事だ! 今朝、すれ違った時、四の姫は元気にしていたぞ!!』


 声を荒げる二の姫とは対照的に、男は至って冷静だった。

 僧綱襟(そうごうえり)と呼ばれる背の襟が頭より高い袈裟を着た男性は、目の部分がくり抜かれた目隠しをしている。口元に見える皺と一本の毛も生えてない坊主頭、私は玄上と呼ばれた男性に見覚えがあった。


『仕方ありますまい。相手はあの晴明ですぞ?』


 男性俳優の中でもベテランと呼ばれる賀茂橋一至(かものはしかずし)さん。身体が弱くてあまりドラマには出られなかったけど、男性俳優の中ではあくあが出てくるまで一番マシだと言われていた方だ。とはいえ、デビューしたのが40と遅かった事もあり、あくあのように若い時からバシバシ活躍してたわけでもない。

 今まで演じられたのも物静かな役が多く、演技をしているというより、どちらかというと自然体の自分でいつも通りにしゃべっているというのが近い。加藤さんとはまた違うけど、要はそのままで出られる役なら問題ないといった感じだ。

 そして驚くべきは、今まで単独シーンのみの出演に限られていた賀茂橋さんが、こうやって他の女性と共演している事だろう。おそらくテレビを見ていた世代の人は驚いてるんじゃないかな。

 そもそも出演自体が数年ぶりだし……今はもう60代だっけ。


『くっ……ならば、どうすれば良いのだ!!』


 玄上は小さく咳をすると後ろに視線を向ける。すると見覚えのある男性がそこに立っていました。

 今回はあくあ演じる晴明のライバル役を務める天我さんです。


『道満、やれるか?』


 天我さん演じる道満は無言で頷く。

 再びシーンが変わると、崇明が奔走するシーンに戻る。

 その後また晴明を中心にしたシーンになったりと、内側のゴタゴタを崇明と晴明、2人のコミカルな掛け合いで盛り上げていく。

 ちょっと待って、今、気がついたんだけど、この番組、ほとんど男性のシーンが中心になって話が進んでない?

 あのヘブンズソードだって進行の中心は小早川さんだった。男性4人の出演シーンは半分くらいに抑えられている。

 それなのに陰陽師は、晴明、崇明、道満、玄上の4人が交互に入れ替わる事で男性が主軸となって物語が進んでいく。ここまで見ててやっぱり4人の中でダントツに凄いのはあくあだ。演技もそうだけど色気もあるし、仕草一つ視線の動き一つをとっても他の男性俳優達とは明らかにレベルが違う。

 でも、その次に驚かされたのは、崇明を演じる石蕗さんだ。それこそ、ここまで見る限りは、あくあより多くのシーンに出てるんじゃないかな?

 はなあたに出演した時は完全に主演を奪われるような立場になったけど、本当に今日のために頑張ってきたんだというのが見てわかる。演技はあくあに及ばないかもしれないけど、その成長と努力には同じ役者として心を打たれた。

 男の人たちも変わっていってる……。あくあの演技が彼を変えたんだ。

 私は思わず小雛先輩の方を見つめる。すると小雛先輩も真剣な表情でテレビを見ていた。少し離れた位置から見てる私でもわかるくらい、この時間を邪魔するなよオーラがすごいでてる。気持ちはわかるけど、隣に居る森川さんが恐怖で死にそうな顔になってるからやめてあげて……。


『うう……』


 深夜、四の姫は寝苦しそうに悶える。

 それを見た蜜姫が彼女の胸の上に手を当て、纏わりつく呪詛を祓う。


『ならば!』


 五つの大きな篝火に囲まれた道満は呪詛を唱え九字を切る。

 更なる大きな呪詛が四の姫を襲う。

 蜜姫は先ほどと同じように呪詛を祓おうとしたけど、呪詛の方が強くて四の姫の体を徐々に蝕んでいく。


『くっ……仕方ありません!』


 蜜姫は両膝を畳につくと、四の姫の汗ばんだおでこにそっと口付けをする。

 するとみるみる内に四の姫の顔色は良くなり、蜜姫は息を荒げながらその場に倒れた。

 なるほど、さっきので呪詛の対象を無理やり四の姫から蜜姫に変えたのね。


『申し訳ありません。晴明様……蜜姫はここまでのようです』


 意識が朦朧とする蜜姫、そんな彼女の元に晴明が現れた。

 ほーんと、いいところで出てくるんだから。わかってても女の子はやっぱりこういうのに弱いのよね。


『急急如律令、呪詛復仇……!』


 晴明は呪詛を祓わずに、九字を切って術師の道満へと呪詛を返す。


『ぐっ!』


 呪詛を返された道満は地面に膝をつくと表情を歪ませる。

 それでも道満は九字を切って、なんとか返された呪詛を祓う。


『安倍……晴明……!』


 道満は悔しそうな顔を見せると地面を叩いた。

 シーンは、再び晴明の方に戻る。


『晴明様……すみません』

『何を謝る事がある。蜜姫、よく四の姫を守ってくれた』

『晴明様……!』


 晴明は蜜姫を優しく抱きしめる。

 くっ……晴明みたいな男の人に惚れたら絶対に苦労するってわかってるのに、ピンポイントに女子の弱い所を攻めてくるのはどうにかなりませんか?

 これ、見ている人達大丈夫かな? ここに居る人達って結構、白銀あくあに耐性があるはずなんだけど、9割くらいの人は顔がほげってるよ。カノンさんなんて、和装のあくあが出てたあたりからもうホゲってたよね……。逆にホゲってないけど、瞬きひとつせずにミリも動かない桐花さんも怖い。最初見た時、オーバークロックで時が停止してるのかと思ったよ……。


『先……生……?』


 晴明は目を覚ました四の姫の頭を撫でる。

 そんな晴明達の様子を木の上から見ていた鴉が空へと羽ばたく。

 なんか怪しいなと思っていたら、鴉は飛んできた矢によって撃ち落とされてしまった。

 落ちた鴉の向こう側には、弓を構えた崇明の姿が見える。

 そういえば、崇明……源崇明は近衛を務めるだけあって弓の名手らしいって話がお昼の会話で出てたな。


「これ、俺が石蕗さんに教えたんだよね」


 あくあは膝の上に乗せたメイドの風見さんにそんな事をいっていた。

 そういえばあくあ弓道得意だもんね。って、そうじゃなくて、風見さん大丈夫?

 あくあは子供扱いしてるけど、風見さんって女子大生で私たちより年上だからね。あくあはそこら辺、自覚してるのかなあ……。


『やはり晴明の言っていた通りだったな。誰かは知らんが、四の姫様に手を出すなら覚悟しておけよ』


 崇明は鴉に向かって喋りかける。

 すると次のシーンで、咳き込み血を吐く玄上のシーンが映し出される。


『あの、馬鹿明め……! 晴明が居なければ何もできぬぼんの癖に!』


 賀茂橋さんは珍しく怒りを滲ませた演技を見せる。

 それを見た小雛先輩がポツリと呟いた。


「今になってそういう演技をするなら、もっと早くからやってなさいよ……!」


 その言葉を近くにいた美洲様やレイラさんが静かに聞いていた。

 同一シーンでの共演はないけど、あの3人は別撮りで賀茂橋さんと共演してるから思うところがあるのかもしれない。

 ここでシーンが切り替わると、あくあの顔が画面にドアップになる。

 そして、ここから後半に向けて10分休憩を挟みますという注意書きが上に出た。

 国営放送はCMがないからそこに配慮したのだろう。正直、ありがたかった。

 みんながトイレに立とうとした瞬間、テレビから声が聞こえてきて思わず振り返る。


『時は平安、京の都に渦巻く悪意と戦う1人の男』


 は? 何これ? 私達がポカーンとしてると、何やらすごく陽気な音が流れ始めた。

 画面の中央には晴明、その左右には道満と崇明、さらにその横、大外には四の姫と蜜姫が立っている。


『黒い笑みを浮かべ、顔がいいから女性を誑かしてその気にさせる悪い男の名前は、白……安倍晴明!』


 ちょっと!? 今、白銀あくあって言いかけてなかった!?

 って、この語り口、賀茂橋さんだよね?


『さぁ、行け! 陰陽師、安倍晴明!! 今日もどこかで誰かが君を呼んでいる!!』


 え? 歌? 何これ? みんながホゲった顔で画面を見つめる。


【陰陽師、HERE WE GO!】


 作詞:黛慎太郎

 作曲:猫山とあ

 編曲:モジャP

 歌:安倍晴明/白銀あくあ、源崇明/石蕗宏昌、蘆屋道満/天我アキラ、四の姫/加藤イリア、蜜姫/奏いちか

 語り:玄上/賀茂橋一至


 何これぇ!? トイレ休憩にこんなものを流しちゃダメでしょ! 無駄に完成度高いし、ダンス地味に揃ってるの見たら石蕗さんとかめっちゃ頑張ったんだろうなって思うけど、映像の勢いが強すぎてそれどころじゃない。

 私達女性陣がフリーズして画面を見ている一方で、とあちゃんとあくあは机を叩きながら爆笑してた。


『六根清浄! 六根清浄! 俺の心が一番よこしまだ!』


 あくあ!? それはそうだけど、本人がそれ言っちゃダメでしょ!!

 ネタが強すぎてもう誰もトイレなんか行けないよ!! 制作スタッフさん、ちょっとは考えて!!

 あっ、森川さんとか股間押さえてるけど大丈夫かな? 気になるのはわかるけど、漏らす前に行ってくださいよ!!


「あっ、これループだ! 森川、ダッシュ!!」

「おおおおおOK!」


 えみりさんの言葉でみんながハッとする。

 確かに気がついたけど曲が10分もあるわけないよね。1分くらいの曲がずっとループしてた。

 ほっ、これでなんとか私もトイレに行けそう。トイレに並ぶと私の前には総理とメアリー様が居た。


「いやぁ、先生が白銀家の外に仮設トイレを10台近く設置してくれたおかげで助かりましたよ」

「ふふっ、そうでしょそうでしょ」


 私も心の中でメアリー様に感謝しつつ、外の仮設トイレをお借りした。

 後半は何もなければいいけど……。

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[良い点] 白銀あくあの輝きに当てられて男性の俳優達も奮起して輝きはじめるのが熱くて素敵な回でした。 そして最後の陰陽師のCMは草。 かつてニコニコでブレイクしたあの音楽が頭の中にループされますね…!…
[一言] 煩悩退散! 煩悩退散! 動悸ムラムラ困った時は! あーくあ! あーくあ! あーくあ! あーくあ! すぐに呼びましょ性シスター! レッツゴー! こうですかわかりますん
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