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白銀カノン、報告会。

 みんなでおせちを食べた後、私とあくあは阿古さん、姐さん、楓先輩、ペゴニア達と一緒の車に乗って、総理が用意してくれた都内のホテルに向かいました。

 私はもうスターズ王家の人間じゃないけど、ロイヤルファミリーは妊娠した時に公表するのが義務とされています。

 その事を知っていたあくあが総理や王家とも相談して、スターズの人のために今回の公な報告会を開いてくれました。

 ふぅ……なんだかさっきまで楽しくて忘れてたけど、久しぶりの公的な行事にちょっと緊張してきたかも……。

 この国の人はみんな優しいから、掲示板じゃ嗜み死ねを連呼されるかもしれないけど、きっと祝福してくれるんだろうなって思う。でも、不安じゃないわけじゃないんだよね。

 私は隣にいたあくあの横顔を見つめる。するとあくあは私の視線に気がついたのか、私の方を見て笑顔を見せてくれた。


「どうしたの? 緊張でもしちゃった?」

「あ……うん。ちょっとだけ、緊張しちゃったかも」

「そっか。でも大丈夫。俺がいるから安心して」


 あくあはそっと私の手の甲に自らの掌を重ねる。

 あったかいな……。


「それに、ステージの上には楓もいるし、もしもの時には裏に琴乃もいるから、ね?」

「そうそう司会はこの楓ちゃんが務めるから任せておいて! もしもの時は私のこのパワーとホゲウェーブでどうにかしちゃうから!」


 楓先輩はシャツの袖を捲って腕を見せる。

 ホゲウェーブって結局なんなの? って聞くのはダメかな。


「はい。何かあっても私達が絶対に守って見せますから安心してください」


 姐さんがサムズアップする。楓先輩も姉さんも2人とも優しいな。


「それにもしもの時は総理がローリングサンダー土下座だっけ? それで全部うやむやにするから大丈夫だって言ってたよ」


 あくあの言葉にみんながひきつった笑顔になる。


「えみりもこれたら良かったのにね。あの胸部装甲なら十分盾になるでしょ」

「そういえば、えみりさんは正月なのにバイトに行くって言ってましたね。良からぬバイトじゃなければ良いのですが……」

「あるある。どうせまた胡散臭そうなバイトでしょ」


 確かに、なんだかとっても嫌な予感がするんだよね。

 変なバイトじゃなくて、まともなバイトならいいけど……。

 あと楓先輩は、えみり先輩を盾にしようとしても多分えみり先輩の方が先に楓先輩の後ろに隠れると思うな。なんとなくそんな気がしている。というかそういうビジョンが想像しなくても鮮明に見えた。


「さぁ、行きましょう」


 そうこうしている間に記者会見をするホテルに到着したので、私達は車を降りてホテルの中に入った。

 記者会見のために用意された控え室の扉を開けると、目の前に大きな影が横切る。

 空中でクルクルと回転した影は、そのまま着地と同時に膝スライディングしながら頭を下げていく。

 その姿にはとても見覚えがありました。


「総理!?」


 総理は立ち上がると、見られて恥ずかしかったのか少し顔を赤らめる。


「今日のために完璧なローリングサンダー土下座を仕上げてきました」

「あ……はい。ありがとうございます?」


 あくあ、最後が疑問系になってるよ!

 初めて総理が生でローリングなんとか土下座をしてるところを見たけど、こんなにアクロバティックな技だったんだね。大丈夫かな。これどう考えてもふざけているようにしか見えないけど……。


「そろそろ時間なので、いきましょうか」


 控え室で衣装を着替え、ヘアセットとメイクを整えてもらい、みんなで並んで記者会見場へと向かう。

 私はシンプルなワンピースだけど、あくあはかっちりとしたスーツだ。

 やばい。すごくかっこいい。本当はもっとスーツのあくあを堪能したいのに、それ以上に緊張で心臓がドキドキしてる。それに気がついてくれたのか、会場に着くまでの間、あくあがずっと私の手を握ってくれていた。

 なんか……私、らしくないな。いつもなら緊張もしないし、不安にもならないのに。

 だからなのか、今日はあくあやみんながすごく頼もしく見えました。


「それじゃあ、森川、いきまーす!!」


 楓先輩が先に会場の中に入ると少しだけ騒がしくなった。

 どうやらもうテレビの中継は始まっているみたいで、舞台袖のモニターには今リアルタイムで放送されている映像が流れています。


「えー、皆様お待たせしました。本日の司会を務めさせていただきます。国営放送の森川楓です」


 楓先輩は手慣れたトークで挨拶をしつつ場を和ませる。

 こういう姿を見ると、やっぱりアナウンサーなんだなって思う。

 さっきまでお雑煮のお餅を詰まらせて、えみり先輩に背中をバンバン叩かれてた人と同一人物には思えないよ。


「それでは、ただいまよりベリルエンターテイメント所属の白銀あくあさん、白銀カノンさん、両名より皆様に向けて、ご報告を兼ねた新年のご挨拶をさせていただきたいと思います」


 楓先輩の紹介で会場の中に入った私とあくあの2人は、一礼した後に用意された席に座りました。


「明けましておめでとうございます。皆様には昨年とてもお世話になりました。今年も引き続き応援いただけると嬉しく思います。そして本日は私、白銀あくあと、妻カノンのために新年早々、皆様の貴重なお時間を割いて頂き、誠にありがとうございました」


 会場が暖かな拍手に包まれる。

 あくあは一度私の方に笑顔を向けると、もう一度カメラの方へと視線を向けた。


「私事ではありますが、本日は私から皆様に向けてご報告しなければいけない事が一つだけございます」


 あくあの言葉に会場がどよめく。

 まだこの情報はどこにもリークされていません。それもあって報道陣の人に見せるいつものような砕けたあくあと違って、真剣なあくあの表情と雰囲気に、不安そうな表情や心配した顔を見せる報道陣の人もいました。


「この度は妻、カノンとの間に私達の子供を授かりました事を、この場を借りて皆様にご報告させていただきたく思います」


 うわっ、眩しっ!?

 ものすごい量のフラッシュに当てられながらも、なんとか笑顔を崩さずに表情をキープする。


「まずは最初に、子供の性別だとか、出産予定日に関しての質問への回答は、現時点では控えさせて頂けると嬉しいです」


 あくあはテーブルの下で私の手を握りながら、落ち着いたトーンでゆっくりと語りかけるように喋りかけます。

 記者会見の最中なのに、やっぱりあくあって、しっかりしててこういう時に頼りになるなってキュンとしちゃいました。


「今日の記者会見は日本政府、スターズ王家、双方の友好関係の元、国営放送様のご協力の上で、皆様にご報告という形で、正式に公表をさせて頂くという事になりました。この場を借りて改めて御礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました」


 私はあくあに合わせて一緒にお辞儀をする。


「……とまぁ、堅苦しい挨拶はここまでにしましょうか」


 あくあがいつものような笑顔を見せると、会場の緊張感も解けたのか、いつものような空気感が漂い始めます。


「報道陣の皆様もスタッフの皆さんも、それに森川アナも、正月早々にほんとごめんね」


 あくあはさっきよりもフランクにぺこりと頭を下げる。

 こういうところも好かれるところなんだろうなぁと思う。

 あくあのトークが一区切りした事もあり、楓先輩が再びマイクを握ります。


「はい。それでは事前にご説明した通り、今から質問コーナーに入りたいと思います。えー、今日は私が早く帰って寝正月をしたいので、私のパワーチョイスで選んだ3社からの質問のみに絞らせていただきますのでご了承ください。文句はね、あれば腕相撲で聞きます」


 楓先輩のトークに横暴だ。お前は歌合戦の最中も半分寝てただろとか、パワーチョイスってなんだ、お前に腕相撲で勝てる奴なんかいないだろなどの声が飛んだけど、みんなニヤニヤと笑っています。

 私と楓先輩がメアリーの先輩、後輩なのはもう世間にバレてるし、楓先輩が私に負担をかけないためにこう言ってくれてるんだろうなって事に、皆さんも気がついているのでしょう。


「えー、それでは最初に……そこの一番右端の方、どうぞ」


 楓先輩が最初に指名したのは藤テレビの人です。


「えー、まずはご懐妊、おめでとうございます!」

「ありがとうございます」


 私もあくあと一緒に感謝の言葉を返した。


「えー、質問は3つまでと事前にお聞きしていますので、まずはあくあさん、カノンさん、両方からその時の、妊娠を知った時の率直なお気持ちをお聞かせ願えないでしょうか?」


 あくあは私の方を見ると、先に答えたいか後に答えたいかを聞いてくれた。

 私、あくあのこういうところも好きなんだよね。


「素直に嬉しかったですね。なんと言っていいのか表現するとなると難しいのですが、自分が親になるのかって思うとより一層、責任感とか、しっかりしなきゃいけないなって思うようになりました」


 私はあくあからマイクを受け取る。


「私は最初びっくりして、どうしようどうしようって慌てちゃったんだけど、いつもと変わらないあくあの顔を見たら、なんかこう落ち着いちゃって、あ、子供ができたんだって嬉しい気持ちでいっぱいになりました」


 今も、隣にあくあが居るからすごく落ち着いていられる。

 私はあくあの横顔をチラリと見た。


「ありがとうございました。それでは次に、それからおそらくは数日が経っていらっしゃるのだろうと予測しておりますが、少し落ち着いた今のお二人のお気持ちをお聞かせいただけないでしょうか?」


 私は一呼吸置くと、そのまま質問に答える。


「そうですね。今でも嬉しい気持ちは変わりませんが、出産や育児など後の事を考えれば考えるほど不安になる事はいっぱいあります。だって、もう1人の命が、私とあくあの赤ちゃんの命がここにありますから。だから、この不安感を良い方向に捉えて、一つずつ、この子のためにも自分ができる事をやっていけたらなと思っています」


 私は隣のあくあにマイクを手渡す。


「子供の事に関して不安がないと言えば嘘になりますが、カノンと一緒ならやっていけるんじゃないかって思ってます。ただ、俺にとっては子供と同じくらいカノンの事も大事ですから、より一層、カノンを見ていようと思うようになりました。きっと、俺よりも彼女の方が不安な事も多いでしょうしね」


 あくあ、私の事もちゃんと考えてくれてるんだ。

 どうしよう好き。もうチラチラじゃなくて普通にガン見してる。


「それでは最後の質問です。子供の性別に関しては現時点で回答を差し控えたいとの事でしたが、男の子だった場合、または女の子だった場合、産まれてきたらどういう事がしたいか、お聞かせ願えますでしょうか?」


 あくあは私の方へと顔を向けた。

 うん、それくらいの質問なら答えてもいいんじゃないかな?

 私はいいよって囁いた。


「そうですね。男の子ならやっぱり一緒に遊びたいです。個人的には息子と2人旅で釣りとかキャンプとかは憧れますね。後は家族でゲームしたりするのも楽しそうなのでやってみたいですね。女の子なら、やっぱりショッピングかなぁ。でも、女の子だってパパと一緒に釣りしたいって思うかもしれませんし、子供がやりたいなって思ってくれる事を家族で一緒に探してやれたらなと思ってます。俺やカノンが一緒にやりたい事と、子供がやりたい事は違うかもしれませんから、そこはあまり強制させたくないかな。ただ、家族旅行とか家族のイベントとかはやっぱり社会的な協調性を身につけるためにも、そこはちゃんとやらせたいですかね」


 ふぁ〜、私よりめちゃくちゃ考えてる。え? 私、この後にコメントしなきゃいけないの!?

 さっきまでとあちゃんや黛君のお母さん達のおっぱいを見て、デレデレしてたあくあはどこに行ったのかな!?


【ピロリロリン、ピロリロリン】


 ん? なんだろう、一斉に携帯のアラートが鳴った。

 しかもこの音、国防アラートだよね? え? これってミサイルが飛んでくるとか、どこかの国が戦争を仕掛けた時にしかならないんじゃないの? え? 大丈夫!?

 あ……舞台袖から総理が出てくると、楓先輩となにやらコソコソと話をする。

 だ、だだだ大丈夫かな!? 総理が出てきた事で会場の空気がピリッとした。


「カノン」

「あくあ……」


 あくあは私の手をぎゅっと握る。


「大丈夫、どんな事があっても俺が守るから」

「う、うん……」


 あくあがカッコ良すぎてすごくキュンキュンする。

 うう……やっぱりあくあは女の子にデレデレしてるくらいが丁度いいよ。

 私、このあくあと24時間一緒に居たら夜に寝られなくなっちゃうかも……。


「えー、国防アラートの方は全くと言っていいほど問題ありませんでしたので、このまま続けさせていただきたいと思います。どうぞ、皆さんも気になる方はお手持ちの携帯を確認して、アラートの内容をご確認ください」


 なにがあったんだろう。私とあくあはスマホを姐さんに預けてるから見れないし、ちょっと気になるな。

 でも周りの反応を見ると、ちらほらと苦笑する顔が見えたり、全体的に空気が緩んでるので大丈夫そう。


「それでは白銀カノンさん、どうぞ」


 私はあくあからマイクを受け取る。


「男の子なら、その、パ……パパがとてもカッコいいので、もしかしたら比べられちゃうかもしれないなって思ったんです。だから、その子の話をちゃんと聞いて、寄り添ってあげるところから始められたらなと思いました。それと女の子なら、親子コーデとかでショッピングしたり遊びに行ったりできたら嬉しいかな。雑誌で見て、ああいうの憧れちゃいます」


 あくあの答えに比べたらだいぶふわふわしてない? だ、大丈夫かな。これで……。


「お二人とも真摯に質問に答えていただき、ありがとうございました! 改めて、カノンさんの妊娠にお慶び申し上げます! そして、母子共に何事もなく無事に出産できる事を藤グループ全社を挙げてお祈りさせてください。以上をもちまして藤テレビからの質問を終わらせてもらいます。今回はこのようなご報告会見を開いていただき、ありがとうございました!」


 記者の人の礼に対して、私とあくあはぺこりとお辞儀を返した。

 礼には礼をもって返すというこの国の文化は素晴らしいものがあると思います。

 あ、だから総理は毎日土下座してるんですね。なるほど……私はギャグでやってるのか、わざとやってるのかなって思ったけど、あれにはそんな深い意味があったのかー。私もまだまだ勉強不足のようです。


「それでは次に質問がある方、挙手の方をお願いします」


 楓先輩の言葉に対して報道陣の方が一斉に手をあげる。


「それじゃあ、右奥の方、よろしくお願いいたします」


 楓先輩に指名された人がマイクを手に取る。


「日本新聞です。まずは最初に白銀あくあさんにご質問したいと思います。他のベリルのメンバーには既に報告している事だと思われますが、皆さんからはどのような反応をいただいたのでしょうか? よろしければお聞かせ願えませんか?」


 あくあからはみんな祝福してくれたと聞いたけど、今日改めてベリルのみんなからは祝福の言葉をもらった。

 天我先輩なんかは祝いの品だとたくさんのベビーグッズを持ってきて、あくあから気が早すぎるよって突っ込まれたっけ。おばあちゃんが持ってきたべビーベッドとかもあるし、まだ男の子か女の子もわからないのに勝手に子供部屋が充実してきてる……。


「そうですね。まず天我先輩からは、気が早い事にたくさんのお祝いを貰いました。慎太郎からもおめでとうって言葉を言ってもらえて嬉しかったですね。ただ……とあだけは、祝いの言葉とは別に、あくあの子供に今から恐怖を感じてると言われたんですよ。どうしてかな!?」


 あくあの答えに報道陣から笑い声が上がった。

 うん、とあちゃんの気持ちわかるよ。もし、生まれたのが男の子で、それがあくあにそっくりだったとしたらどうしようって私も思ってる。

 もう下手したらこの世界の女性はみんなママになっちゃうんじゃないかな。全員が私が育てたとか言いそう。


「ありがとうございます。それでは、次にカノンさんへの質問で、検……ンンッ、スターズ王家やお婆様からはご祝福の言葉をもらったりはしましたでしょうか? よろしければお教え頂けると嬉しいです」


 今、検証班と言いかけて踏みとどまったよね?

 うん、わかるよ。本当に聞きたいのはそっちなんだって……。

 でも私は聞かなかった事にして、普通に質問に答えます。だって、あくあに裏でヲタ活してたり、過去の恥ずかしい発言と行動がバレるわけにはいかないもの。


「家族からは普通におめでとうとお祝いの言葉をもらいました。お婆ちゃんは私よりも嬉しそうで、今日もそうなんですけど毎日、どこかへお祈りに行っているみたいです。あと、妹のハーミーが今、ベリルのオーディションに参加しているのですが、そちらからもお姉ちゃん良かったね。おめでとうという言葉をもらいました」


 お母さんとちゃんと話したのは結婚式の時以来だったと思う。

 その時にお母さんから改めてあの時はごめんと言われた。

 お互いに距離をとっていた事、私が継承権を捨てた事で、女王と王女じゃなくて、ただの母と娘として会話できたのはすごく良かったと思う。


「それでは最後に、出産までにまだ時間があると思いますが、お二人はそれまでの時間をどう過ごしていきたいとお考えですか?」


 私はあくあにマイクを手渡す。


「そうですね。さっきも言ったとおり、一番大変なのも不安なのもカノンだから、夫として隣にいるカノンをしっかり見ていようかなと思います。あとは2人で産まれてくる子供の事を、ゆっくりと落ち着いて考えられたら良いなと思っています」


 あーやっぱり好き。好き好き好き。


「お二人とも質問にご丁寧にお答えいただきありがとうございました。我が社も全社を挙げて、この度のご懐妊、お二人にお慶び申し上げます。新年早々、胸が暖かくなるニュースをありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございました」


 先ほどと同じように、ぺこりと頭を下げる。


「それでは次で最後にしたいと思います。私も早く帰って今晩の陰陽師の放送に備えたいですから。あ、放送は国営放送です。皆さんお忘れなきようよろしくお願いしますね! 白銀あくあさんとこの私、森川楓の出演もお楽しみにしていてください!! それでは、質問のある方は挙手をお願いします」


 さすがは楓先輩、たくましいなぁ。隙があれば、しっかりと番宣を入れてくる。

 たしかちょい役で出てるんだっけ? どういう役なのか気になるな。


「はい、では一番右の……あ」


 あ? あって、どうかした? また何かやらかした?


「失礼しました。前から2列目の右から4番目の人、良いですか?」


 スタッフの人が指名された人にマイクを手渡す。

 うん? 顔はキャップで隠してるけど、なーんか、どこかでつい最近見た事があるような……。


「あ、サーセン、聖白新聞の記者です」


 軽薄新聞? 聞いた事ない新聞会社だなぁ……って、えっ!?

 そ、その声と喋り方、も、もしかしなくてもえみり先輩!?

 どうしてこんなところにいるんですか!?

 私は舞台袖にいる姐さんへと視線を向ける。

 姐さんも知らなかったのか、真顔で首を左右に振っていた。

 え? 正月のバイトってこれ!?


「えーっと、どちらにお答えしてもらっても良いのですが……おそらく多くの人が気になっている事だと思っているんですよね。やっぱり、そのー、積極的だったんでしょうか?」


 ちょっとぉ!? えみり先輩!?


「はい、そうですね。積極的にいかせてもらいました」


 あくあ!?


「それはやっぱりあくあ様の方からなんでしょうか!? そ、それともお淑やかに見えるたし……カノンさんも夜は女豹のようになったりとかしちゃってるんでしょうか!?」


 誰が女豹よ!! そ、そそそそそんな、恥ずかしい事できるわけないじゃない!


「自分の方から、積極的にいかせてもらいました」


 嘘でしょ、あくあ!? それ、えみり先輩だよ。絶対に面白がって……ううん、自分の欲望が赴くままに聞いてるだけだからね!


「なるほどなるほど、いやー、とても参考になる回答をありがとうございます。ぐへへ……」


 あ、今、涎ふいた。もう、これ全国放送だよ。顔が見えないからって好き勝手しすぎ!

 そもそもなんで新聞記者のバイトなんてあるのよ。どうなってるの!?


「それでは次の質問に入らせていただきたいと思います。次の質問は、そのために努力された事とかはございますか? あ、これもきっと、みんな本当は知りたいんじゃないのかなあと思うんですよね」


 それ、自分が知りたい事だよね!? みんなの知りたい事じゃなくて、えみり先輩が個人的に知りたい事でしょ!


「やっぱりムード作りですね。女の子にだってほら、色々と準備は必要でしょうし、それは男としてのマナーみたいなものだと思います」


 あくあさん!? 私、恥ずかしいんだけど!?

 ねぇ、さっき隣にいるカノンの事をよく見ないとって言ったんだから、今、見て! この、真っ赤になった顔を今、見て欲しいな!!


「あとは日々の体力作りとか、いつもとは違う一面を見せる事なんかも重要なんじゃないかなと思います」

「た、例えば……? ゴクリ……」

「普段とは違う別の一面を見せる。皆さんも夏にプールに行く時、どうですか? 水着に着替えたりとかするでしょ。会社に行く時はスーツを着たり、学校に行く時は学生服を着たりするんです。普段とは違う異性の姿、そこにドキドキした経験はありませんか!?」

「ありまぁす! 今、あくあ様のスーツ姿に大変嬉しく思っています!」

「ありがとうございます」

「こちらこそ、視聴者を代表して、ありがとうございました!!」


 なんなの? ねぇ、なんなのこれ?

 この2人を組み合わせちゃ危険だって事を今ひしひしと感じている。

 私は冷めた目で楓先輩に視線を送る。

 楓先輩、こうなるのわかってましたよね? さっきの、あ、ってえみり先輩の存在に気がついた、あ、だよね?

 え? 面白そうだから指名した? ふざけんなー! もう、私、今日はカメラに顔を向けられないかも。


「それでは最後の質問に入らせてもらいたいと思います。これはお二人、同時にお答えしていただきたいですね」


 同時ってどういう事だろう?

 私はあくあと顔を見合わせると一つのマイクを2人で持った。


「2人は今、幸せですか!?」


 あ……そういう事か。私は、隣に居たあくあと顔を見合わせるとお互いに小さく頷いた。


「「今、とっても幸せです!」」

「はい! ありがとうございます!! あくあ様、それに、カノンさん!! 本当におめでとうございました!! これにて、聖白新聞からの質問を終わりにしたいと思います。ありがとうございました!!」


 報道陣の皆さんから温かい拍手が飛んできた。

 私とあくあはありがとうございましたと改めて報道陣の皆さんにお礼を述べると、カメラに向かってお辞儀をして会見場を後にします。


「えー、それではお時間の方が少し余ってしまいましたので、このあとは総理による無駄に長いけど中身が何もない時間を潰すための記者会見を行いたいと思います」

「はい、解散解散、帰って早く夜のニュースに備えなきゃ!」

「関係者にコメント求めて! 総理の会見? 別に聞かなくて良いでしょ」


 入れ違いに記者会見場に入っていく総理の横顔が悲しそうに見えたのは私だけでしょうか。

 みんな、もっと羽生総理には優しくしてあげてね……。


「カノン、疲れた?」


 ツーン、私はあくあの質問にそっぽを向いた。

 えみり先輩の質問、最後は良かったけど、最初の2つはすごく恥ずかしかったんだから。これくらいは、しても良いよね?


「ごめん。でも、きっと、えみりさんもわざとだと思うからさ。それに……」

「それに?」

「こういう質問にちゃんと答える事が、この世界を良い方向に変えていくためにも必要なのかなと思ったんだよ」

「ふーん、それなら良いけど……」


 でも、私が本当はえっちな子だって世間に知られちゃいそうで、恥ずかしかったんだからね!


【心配しなくても全員知ってますよ!】


 ペゴニア、そういう看板は出さなくて良いから!!

 というか、私の心を勝手に読むなー! もう! もう! もう!

 あくあとペゴニアとえみり先輩だけは、絶対に私の事をオモチャにして遊んでるでしょ!

 むー、やっぱりもうしばらくおへそまげとこ!


 この後、私は家であくあにたくさん甘やかされて、おへそを曲げていた理由すらも忘れちゃう事になる。

 もしかしたら私って結構単純なのかな? ……いや、きっとそんな事ないよね。うんうん。そういう事にしておこっと。

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[一言] あくあが女殺し油地獄なのは最初からだからアキラメロン(・∀・)
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