白銀あくあ、騒がしい正月。
「小早川さんの変身きたー!」
「やったーーーーーーー!」
「これで勝てる!」
「小早川さん、本当に良かった……」
テレビの前で横に並んでヘブンズソードを視聴しているカノン達4人を見て、ほっこりした気持ちになる。
そういえば今日は小早川さんがバイコーンビートルに変身する日だっけ。
撮影したのは数ヶ月前だけどもう随分前のように感じる。
「旦那様、本当に私達は何もしなくてよろしいのでしょうか?」
「今日はメイドの仕事はお休みなんだから、ペゴニアさん達も俺の代わりにヘブンズソード楽しんでよ」
るーな先輩もりんちゃんもヘブンズソードを楽しんでるみたいだし、俺としても自分の出ているドラマを見てみんなが楽しんでくれる方が嬉しい。それよりも、さっきから1ミリも動いてないみことちゃんが心配なんだけど、大丈夫? 心なしか頭からうすーく煙が出ているように見えるけど、そんな事あるわけないし俺の気のせいか……。
「テーブルセッティングはこれでよしと」
カノンと相談しながら購入した正月用の兎が描かれた小皿を、和紙のテーブルマットの上に置いていく。あ、祝箸と兎の箸置きも置いとかなきゃな。うんうん、これだけでもう十分、正月らしさが出てる。
俺はテレビの方へと再び視線を向けた。
「ここで、ロ・シュツ・マー達が出演するのは熱いなぁ」
近くのソファに座ったアイが前のめりになる。
その隣では結がハンカチで目元を拭っていた。
うんうん、こっち2人も楽しんでくれているみたいだな。
「そろそろ終わりだし、お雑煮作るか」
俺はお雑煮を作りながら、遠目からみんなの方をチラチラと見る。
くっ! 目の前でカノンとえみりさんにサンドイッチされてる楓を見て羨ましい気持ちになった。
俺も……俺も、その柔らかそうな空間に挟まりたいです!
「さっきからこの大きなものが私を押してるんだが?」
「ちょ、もげるもげる!」
楓がえみりさんの大きなお餅を捏ねている後ろで、俺は血の涙を流しながら、アイと一緒に作った餅を箸先で捏ねるようにひっくり返す。俺もそっちの柔らかそうなお餅をコネコネしたいな……。
「ん、こんなもんかな」
俺は漆のお椀に焼いたお餅を入れて、その上に汁と具をかける。最後は三つ葉をのせて完成だ!
お、あっちもエンディングのスタッフロールが流れ出したな。
「「「「は?」」」」
ん? テレビの前を陣取った4人が間抜けな声を出す。
「ちょ、楓さん!? えみりさんも!?」
「え? え? どういうこと!?」
うん? えみりさんと楓がどうかした?
カノンと琴乃が2人に詰め寄る。
「そういえば……うちの竹子って、ヘブンズソードの打ち上げでよく使われるんだよね」
うんうん、そもそも本郷監督が常連だからね。で、それがどうしたの?
「そこでさ、私が、へい、おまち! って、ラーメン鉢を本郷監督の前に出したら、両手を掴まれちゃったんだよね。私、思わず、うちのお店はそういうサービスしてませんよって言ったら、私の手を見て、この手だ! っていうんですよ」
へぇ、セイジョ・ミダラーの手はえみりさんだったんだ。
ところで、えみりさんを自由に触れるサービスのお店ってどこに行けばありますか?
「割りのいい取っ払いのバイトだって言うし、引き受けたんだけど、まさかアレがヘブンズソードに使われてるなんてなぁ……。いやぁ、撮影してた事も忘れてたわ」
えみりさんの返答にカノンは小さくため息を吐いて、琴乃は片手を額において頭を抱えた。
「私もなんか叫び声とか唸り声とか出して欲しいって言われて引き受けたけど、まさかそれがドライバーの仕事だったなんて思ってもいなかったよ。言ってくれたら良かったのに……」
楓の返答にカノンは大きなため息を吐いて、琴乃は両手で頭を抱える。
うん、2人がそうなるのもわかるよ。
でも俺とか楓とかえみりさんは、知り合いから頼まれたら何の仕事か聞かずにやっちゃうかもなぁ。
本当は良くない事なんだろうけどね。
「みんなー、見終わったらおせち食べるよ!」
「あっ、はーい!」
俺はおせちのお重ををテーブルの中央に置いた後に、1人ずつにちらし寿司が入った小さなお重を手渡していく。
あ、それと甘酒も出してっと……あー、大丈夫大丈夫、手伝わなくていいって、みんなは座って待ってなさい。
今日は一年の最初だからね。いつも俺とカノンをサポートしてくれてるみんなを労うためにも、ここは白銀家の代表として、日々の感謝の気持ちを込めてしっかりとおもてなしさせてください!
「あ、ドライバー終わったし、おばあちゃん迎えに行ってくるね」
「おう!」
俺はカノンがお迎えに行っている間に、お婆ちゃんの分もセッティングする。
「あくあ様、明けましておめでとうございます。去年は孫娘ともどもお世話になりました。今日は誘ってくれてありがとう」
「こちらこそ昨年は色々とお世話になりました。今年もよろしくお願いします。あ、それと、お婆ちゃん明けましておめでとう!」
さてと、まだ後からどんどん来るだろうけど、とりあえずもう乾杯しよう。
みんなお腹空いてるだろうし、俺もご飯食べたい。
「皆様、昨年は本当にありがとうございました。まだまだ自分自身至らないところはありますが、今後も頑張っていく所存でありますので、長い目で見てくれると嬉しいです」
俺はカノン達へと視線を送る。
「また、こうやって妻のカノン、結、琴乃、アイと良好な関係を築く事ができているのも、偏に皆様が陰ながらサポートしてくれたおかげです。ありがとうございました。4人とは、今後もお互いに大事にしていける関係であればと思っています!」
俺は甘酒の入った盃を手に取ると周囲を見渡す。
未成年の子供組は甘酒だけど、大人達は金粉入りの日本酒が入った盃を用意してある。
俺は全員が盃を持ったのを見て、盃を持った手をほんの少しだけ上に掲げた。
「乾杯!」
「「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」」
俺は甘酒をクイっと傾けて一気に飲み干すと、米にがっつく。
うおおおおおお、自分で作っといてなんだけどちらし寿司うめぇ!
昨日は気がついたら寝てたし、昼ぐらいからご飯食べれてないから余計に美味しく感じた。
俺はとりあえずちらし寿司で腹を満たすと周囲に視線を向ける。
すると斜め前の席に座ったりんちゃんが、美味しそうに栗きんとんをぱくついていた。
「りんちゃん、俺の作った栗きんとん美味しい?」
「おっ、美味しいで候」
あー、素直なりんちゃんはかわいいな。なんだかとっても餌付けしたくなる。
俺は自分の栗きんとんをお箸で摘むと、りんちゃんの方へと持っていく。
お行儀としては良くないけど、今日は正月だからいいか。
「そっか、じゃあ俺のもあげちゃおうかなぁ。はい、あーん」
「あ、あーん……」
りんちゃんは少し恥ずかしそうにしながら、俺の栗きんとんをモグモグする。
あぁ、幸せだなぁ。正月からとてもほっこりした気持ちになった。
「ん?」
カノン達は、鯉みたい口をパクパクさせてどうしたんだい?
「ほら、私の栗きんとんも一個やるよ、に……りんは甘いものが好きだからな」
ふぁ〜、えみりさん優し過ぎ……。
ほんと、聖女みたいな人だ。体はちょっと、いや、だいぶ刺激的だけど……ダメだぞあくあ! もしかしたらえみりさんは、それがコンプレックスで、周りの人からそういう目で見られてしまう事を悩んでるかもしれないだろ!!
でも、俺だって健全な青少年の1人だ。だからほんのちょっぴりだけ……いや、ちょっとだけえみりさんを懸想するくらいは許して欲しい。だって、どうしようもなく魅力的なんだもん。もし、えみりさんがセイジョ・ミダラーだったら、剣崎だって前屈みになって戦えないよ。
「じーっ」
おっとぉ、俺はカノンからの視線に気がつかないふりをして、残りのチラシ寿司をかきこむ。
どうしたのカノン? え? 俺が、えみりさんの事を見てたんじゃないかって? いやあ、相変わらず綺麗だなって思ってただけですよ。ほら、そんな事よりもカノンはこのあくあさん特製の黒豆さんでも食べてなさい。
俺はその場をうまく誤魔化し、ちらし寿司のおかわりをするためにキッチンカウンターへと向かう。
すると同じタイミングでるーな先輩がやってきた。
「あ、るーな先輩、ちらし寿司のおかわりですか?」
「ん」
俺はるーな先輩から受け取ったお重に、ちらし寿司をよそって返す。
お重を返す時に、俺はるーな先輩の頬にちらし寿司のご飯粒がついている事に気がついた。
「るーな先輩、ほっぺたにご飯粒がついてますよ」
「どこ?」
るーな先輩はほっぺたをぺたぺたと触る。うーん、もちもちしてて柔らかそう……じゃなくて、あ、そこ、あー、そっちじゃなくって。
「ここですよ」
「あ」
俺はるーな先輩のほっぺたに引っ付いたお米粒をつまむとパクッと食べた。
それを見たるーな先輩の頬がうっすらとピンク色に染まる。
あ……なんも考えずにやってしまった。
「ごめん」
「ううん、ありがと……」
ん? 何やら視線を感じて後ろに振り向く。
するとみんながほっぺたに米粒をつけてた。
カノン……俺はそういうのよくないと思うよ。ご飯で遊んじゃいけません。めっ!
俺が席に戻って座ろうとしたらポケットの中の携帯が鳴る。どうやら母さん達が到着したみたいだ。
「ちょっと母さん達を下まで迎えに行ってくるわ」
「うん、わかった」
俺はエレベーターに乗って一気に下まで行く。
1階に到着したエレベーターの扉が開くと、前にすれ違った事のある住民さんがコンビニの袋を持って立っていた。
あの時もフードを深く被っていて顔が見えなかったけど、今日もあの時と同じようにフードを深く被って顔を見えないようにしている。もしかしたら有名な人かな? それとも恥ずかしがり屋さんなのだろうか。
どちらにせよ挨拶はすべきだろう。俺は住民の人に笑顔を向ける。
「明けましておめでとうございます」
「あ、あああああけましておめでとうございます」
ん? この声、なんかどこかで聞いた事があるような……俺の気のせいか?
それにこの膨らみ。前回見た時もそうだけど、この膨らみは確実にどこかで見た事がある。
思い出せ、白銀あくあ。お前の頭の中にあるデータベースと照らし合わせるんだ!
「え?」
何かに気がついた時、俺は自然とその人のパーカーの袖を掴んでいた。
「もしかして……うい先輩?」
「あ……」
俺が急に手を掴んだせいもあって、パーカーのフードが落ちてうい先輩の顔があらわになった。
乙女咲高校の先輩で図書委員長を務める佐倉うい先輩とは、図書室で何度か会った事がある。
「あ、すみません」
「う、ううん。大丈夫」
少し気まずい空気が俺たちの間に流れる。
うい先輩はわざわざ正体を隠していたのに、俺が暴くような真似をしてしまったせいだ。
「うい先輩、本当に申し訳ない。この責任は是非とも俺に取らせて欲しい」
「責任を取る!?」
「ああ、俺にできる事ならなんだってするよ」
「何だってする!?」
「うん。だからどんな事でもいいから俺に命じてください」
「どんな事でもいい!? あくあ君に命令する!?」
うい先輩はびっくりした顔を連発する。
ん? どうかしました?
「え、えっと、あくあ君……その、男の子はあんまりそういう事は言わない方がいいよ? だって、その、人気のないところに連れ込まれて変な人に押し倒されちゃうかもしれないし。私だってそうしないとは限らないんだよ?」
な、なんだって〜!?
それはよくない。うんうん、よくないね。
よーし、第二、第三のチジョー事件が起きないように、この俺が剣崎の代わりにそういうお姉さんが出る地域を重点的にパトロールしなきゃな。で、どこにいけば、うい先輩みたいな体つきの女性に押し倒されるんですか?
俺がそんなくだらない事を考えていると、後ろのエレベーターが開いた。
「ういちゃん、おそーい! 何やってのよ……って、白銀あくあ!?」
うん? 何、このちっさい子は? なんか……見た目は違うけど、小雛先輩をさらにミニにした感じの子が出てきた。
「あ、お姉ちゃん」
「お姉ちゃん!?」
え? うい先輩の方がお姉ちゃんじゃないの? って、この子、これで俺より年上なのか……。俗に言う合法ロリって奴だ。
うい先輩のお姉さんは、俺に警戒心を見せながらうい先輩の背中に隠れる。
あー、その睨んでる感じ。完全に小雛先輩ですわ。
「えっと……あくあ君、この人は私の姉で佐倉ゆかなです。ほら、お姉ちゃん、挨拶」
「は、ははははじめまして、佐倉ゆかなです」
名前まで小雛先輩に似てやがる。
もう俺の中で佐倉ゆかなさんはミニ雛先輩としてインプットされた。
「あ、白銀あくあです。うい先輩にはいつもお世話になってます」
俺は頭をぺこりと下げる。しかしミニ雛先輩は警戒を解こうとはしない。
でも、さっき挨拶した時に声が上擦ってたし、もしかしたら緊張しているだけかもしれないな。
そか、過去に男の人と何かあったのか……そういう女性ならこの反応も珍しくない。
「よろしくお願いしますね。ミニ雛先輩」
あ……間違ってミニ雛先輩って呼んじゃった。
しかしこれが功を奏したのか、先程までとは打って変わってミニ雛先輩は一気に警戒心を解く。
「ふ、ふーん、さ、さすがは天下の白銀あくあさんね。わ、わかってるじゃない」
あー、この人あれだ。背伸びして小雛先輩の真似をしているんだな。
うん、それに気がつくと、なかなか可愛いなと思った。思わず頭を撫でたくなる。
うい先輩は俺に近づくと、そっと耳元で囁く。
「ごめんね、あくあ君。ゆかなお姉ちゃん、小雛ゆかりさんに憧れてて……全然性格だって似てないのに、無理して真似ようとしてるんだよね。それでレーネお姉ちゃん……あ、もう1人のお姉ちゃんも、ちょっと困ってるの」
ごめん。ちょっと今、うい先輩のが俺の腕にあたってて、先輩の喋った言葉が一ミリも頭の中に入ってこなかったんだけど、もう一回言ってもらっていいかな? ついでにレーネさんのサイズも……というのは冗談で、状況を理解した俺はゆかなさんに近づくと、彼女の両肩にそっと手を置いた。
「うぇっ!? あ、う……え!?」
俺は本当に心穏やかな笑顔をゆかなさんに向ける。
もうこれ以上、第二、第三の森川楓を増やさないためにも、そしてアヤナや俺のように振り回される人物を作らないように、ここで何としても俺が阻止するという謎の使命感が湧いてきた。
「ゆかなさん。悪い事は言わないから小雛ゆかりとかいうトキシックな人の真似をするのだけはやめた方がいいですよ。これ以上は、森川さんのように不幸な被害者が増えるだけです」
「あ……うん。あくあさんがそう言うなら……」
素直でいい子だな。
俺は相手が年上だという事も忘れて、妹のらぴすにやるように頭を撫でる。
あ、やっちまった。ま、まぁ、ゆかなさん照れてるしいっか。とりあえずキリッとした顔でなんかちゃんとしてる雰囲気を出しつつ多めに撫でて誤魔化しとこ。
「ありがとうね。あくあ君」
うい先輩、前屈みはやばいです。俺も前屈みになって立ち上がれなくなっちゃいますよ。
ん? くだらない事を考えていると、偶然にもうい先輩が持っていたコンビニの袋の中身がチラリと見える。
おぅ……すごい量のエナジードリンクだ。
しかもこのメーカー、セイジョエナジーとかいう最近急速に売れてるところのだな。
聖女の聖水とかいういかにも胡散臭そうなキャッチコピーにも関わらず、セイジョエナジーは飛ぶように売れた。
なんか飲むと体がとても元気になるらしい。愛飲しているアイがこの前テレビで、これ飲んだら72時間働けるとかとんでもない事を言ってた。流石に冗談……だよな?
「あ、2人ともごめんね。俺が引き留めてしまって」
「ううん、大丈夫。それじゃあ、またね」
ゆかなさんが俺の袖をくいくいと引っ張る。
「さっきはごめん。びっくりして睨んじゃった」
「気にしてないからいいですよ」
素直でいい子じゃないか……どっかのなんとかゆかりさんに爪の垢を煎じて飲ませたい。
俺は2人を見送るとロビーに向かう。
「おそーい!」
うげ……。
マンションのロビーど真ん中で小雛先輩が仁王立ちしていた。
思わずチェンジと言いそうになったけど、グッと堪える。うんうん、相手はあの小雛先輩だ。ちゃんとロビーで大人しく待っていただけでもマシだと思わなきゃね。
小雛先輩の周りを見ると、母さんや美洲さん、しとりお姉ちゃん、アヤナと阿古さん、とあとかなたさん、慎太郎と貴代子さん、天我先輩と春香さんが立っていた。
残念ながららぴすとスバルちゃんは、合宿で正月を過ごすと言ってたからこの場にはいない。
「ごめん、みんな待たせちゃって。ちょっと知り合いと会っちゃってさ」
「ふーん……どうせまた女の子の1人や2人くらい口説いてたんじゃないの?」
ドキッ! そ、ソンナコト ナイデスヨー って、俺が誤魔化すと、チジョーみたいに片言になって怪しい。あんたこそドライバーに退治されるか、剣崎に浄化されなさいよねと言われた。
小雛先輩……剣崎は俺です。残念ながら俺が剣崎総司なんですよ。
「ほらほら、ここで溜まってたら皆さんの迷惑になるからさっさと上に行きましょう」
さすがは阿古さんだ。阿古さんはいつだって俺の事を助けてくれる!!
俺はみんなと一緒のエレベーターに乗ると、自分の部屋があるフロアに向かった。
そこからまた立て続けに来客があって、俺とカノンが交互に降りてお客さん達を出迎える。
「さてと……人数も揃ってきたので、今からお年玉を配りたいと思います」
俺は空いているテーブルの上に箱を置いた。
普通のお年玉じゃ面白くないからって、うちのペゴえもんがいうものですから、この日のために色々と考えたんだよね。
「えーと、箱の中にはお年玉の封筒が入っています。中身は全部一緒なんだけど、封筒の裏に数字のスタンプが押してあるから、引いた人は俺にわかるように書かれていた数字を申告してください」
ペゴニアさんが奥の部屋から事前に準備していたホワイトボードをガラガラと引いてきた。
ホワイトボードには数字が縦並びになっており、その隣に書かれている景品の内容はテープで隠されている。
「それではペゴニアさん、試しに1番をめくってみてください」
1番に書かれているのはライブのチケットだ。
みんな喜んでくれるといいなぁ。
ペゴニアさんは、俺の指示を受けて1番のテープをぺろりとめくる。
【白銀あくあとデートする権利】
はあ!? 俺はホワイトボードを見て固まる。
え? ちょっと待って、ライブのチケットは?
俺はペゴニアさんの方をチラリと見る。するとペゴニアさんは手に持った看板を俺に見せた。
【旦那様の用意した景品が空気を読めてなかったので、こちらで変えておきました】
なぁにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?
ハメやがったな、ペゴえもん! 俺とのデートなんて誰も喜ぶわけないでしょ!!
「どうやら本気を出す時が来たようね」
あれ? そんな見た事もないほど真剣な顔をしてどうしたの楓? いつものホゲラー波が飛んできてないよ。
って、思ったけど、元より楓とはデートするつもりなんだから、デートする権利が当たっても意味ないんだよね。
うん、真剣なのは顔だけだった。いつも通りの楓にホッと胸を撫で下ろす。
「あくあ様とデート……」
えみりさん!? えみりさんが俺とデートしたいなら俺はもういつだってウェルカムオッケーですよ! だからこんなの当てなくてもいつだって俺にデートしたいって言ってくださいね。
「なるほど、一日好きにあくぽんたんを使えるってわけね」
小雛先輩、それデートちゃう。ただの奴隷や……。
俺がホゲってると、ペゴニアさんが代わりに前に出た。
「なお、男性陣の皆様や春香様には普通のお年玉をご用意しておりますので、こちらをどうぞ」
良かった。慎太郎達が俺とのデート権を引き当てたり、春香さんとデートなんて気まずいだけだもの。
って、天我先輩が何故かめちゃくちゃがっかり顔してた。
先輩、俺とデートしたかったんですか!? あ……一緒に遊びに行きたいだけね。
それならそうと言ってくださいよ。今度遊びに行きますから、ね。
「ちなみに特賞は、あくあさんに何でもしてもらえる権利です。皆様、是非とも頑張ってくださいね」
うわぁ! 俺は強烈な何かに吹き飛ばされそうになった。
な、なんだ!? 女性陣からこれまでに感じた事がないほどの殺気と圧が飛んでいる。
「どうやら本気を出す時が来たようね」
お、おばあちゃん!? 指なんか鳴らしてどうしたの!?
「とあ、妹と弟、どっちがいい?」
かなたさん!? それって、どういう意味で……。
「うーん、どっちでもいいかな。楽しみにしているね、お母さん」
とあ、お前、悪ノリしすぎだろ!!
「あ、あくあ君、だめよ……こんなおばさんに……あぁ」
貴代子さーん! 一体何を、何を想像していらっしゃるんですか!?
「私が特賞を引ける確率はピー、ガー」
あ、あれ? みことちゃん? なんか変な音が出てた気がするけど、俺の気のせい……だよね。うん、きっとそう。みことちゃんみたいな可愛い女の子から、そんな壊れたファックスみたいな音が出るわけないよね。
「だ、大丈夫、あくあ君は私が守るから!!」
さすがは阿古さんだ。やっぱりこういう時に一番頼りになる!
むふふなお願いなら俺は全然ウェルカムだけど、小雛先輩や自分も引く気満々のペゴニアさんが引いたら何を言い出すかわかったもんじゃない。だからもう頼りになるのは阿古さんしかいないんですよ。
俺は間も無く始まろうとしている闇鍋お年玉くじを前にして、唯一の希望である阿古さんの勝利を祈った。
Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。
https://mobile.twitter.com/yuuritohoney