天鳥阿古、私が見せたかったもの。
スペシャルステージを終えた歌合戦は終盤へと進んでいく。
前半は主に今年流行した曲や、比較的若いグループを中心に構成が組まれていたけど、後半は一転して大御所や定番曲中心の構成に切り替わる。
大御所の人達は意外にも前半に出ていた若手の人達よりも、もっと自由で、それぞれの季節にテーマソングを持っている夏の女王と冬のクイーンはお互いに人気曲を入れ替えて歌ったり、歌うまで有名な人気曲が何曲もある歌手達がメドレーの途中に流行の人気曲を取り入れて自分色に染め上げたり、演歌歌手の人は持ち前の声量と技術を活かして最新の洋楽を歌っていた人もした。みんな大人気ないくらい本気出してきてるけど、その気持ちもわかる。
そしてその中でも一番驚かされたのは、乙女色の心を作詞した井上陽子さんです。
持ち歌の少女時代を歌う時に、自らが平軍にもかかわらず源軍の大将であるあくあ君を連れ出して一緒にデュエットしたかと思えば、乙女色の心の作曲を担当した源軍の玉木浩美さんも対抗して、蒼い瞳のエリンを一緒にデュエットさせるし、調子に乗ってエリンをカノンに変えちゃったりとかもう無茶苦茶だ。カノンさん、今日は家で見るって言ってたけど大丈夫かな? 観客席は、促されて言わされたあくあ君のカノン愛してるぞーってシャウトにめちゃくちゃ受けてたけど、本人、家で死んでたりしないよね?
「孫娘の死亡を確認!」
「カノン南無〜」
何故か実の祖母であるメアリー様と親友のえみりちゃんが一番盛り上がってたのは、本人には内緒にしておこう。後、メリーさん、そのチーンって鳴らしたおりんは、どこから出したの? あ、お腹の中に入ってるんだ。
井上さんと玉木さんはその後にベリルのみんなを呼び寄せて、全員で冬の思い出ハーモニーまで歌ってステージをやり切って降りた。大御所のパワーってすごい……。
そこからはもっとカオスで、ロックバンドのステージに天我君が呼ばれたり、とあちゃんが超大御所の演歌歌手と一緒に演歌を歌ったり、黛君がオーケストラバンドに招かれてガチガチに緊張しながらも一緒に演奏してたり、そのどれもが歌合戦を盛り上げた。
そうして番組はクライマックスへと向かっていく。
「皆さんに悲しいお知らせがあります」
ステージの中央に立った森川さんがこれまでにないほど真剣な顔付きでマイクを握っていました。
何かトラブルがあったのでしょうか?
「やべぇ。楓パイセンがうんこ漏れそうな時の顔してやがるけど大丈夫か!?」
後ろに居たえみりさんの呟きに総理が吹き出す。やめて、私も我慢してるんだから。ほら、黒蝶さんだってもう我慢できずにプルプル震えてるじゃないですか。
「なんと、もう残すところあと少しで歌合戦が終わってしまいます!!」
森川さんの言葉に観客席からは嫌だとか、嘘でしょという驚きの声や悲鳴のような声が飛び交う。
ほんと、こんな夢みたいな時間がずっと続けばいいのにね。
「楽しい事にもいつかは終わりが来ます。ふと……小学生の時、公園で遊んでいたら夕暮れ近くになるとお母さんが迎えに来た時の事を思い出しました。その時はすごく悲しい気持ちだったけど、次の日になって公園に行けばまた友達がいるんです」
会場に居たみんなが森川さんの言葉に耳を傾ける。
「2022年の歌合戦はこれで終わりかもしれません。でも、歌合戦は来年もあります。その次も、そのさらに次も、だから終わりがある事を恐れないでください。きっとこの終わりは、次の楽しい出来事への新しいスタートになるのだから! さぁ、皆さん、私たちと一緒に、光り輝く未来へ、2023年へと、明日へと共に羽ばたきましょう!!」
森川さんの言葉にみんなが拍手と歓声を以って応える。
成長したわね森川さん……。いや、前から盛り上げるトークだけは本当に上手いんだよね。
「森川さんは私が育てた」
総理!? 急に腕なんか組んでどうしました!?
「いや、育てたのは鬼塚さんと国営放送のスタッフさんでしょ」
「いやいやこれまで森川さんを見守ってきた私達全員が育てたとも……」
近くに居た黒蝶さんとメアリー様に突っ込まれた総理は、わかりやすいくらいしょぼんとした顔をする。
それに追い打ちをかけるように、後ろにいた秘書官の人からは、総理、もう余計な事は言わないでください。年始から土下座しないといけませんよと苦言を呈されていた。
さっきの演説はかっこよかったのになぁ……。あ、カメラこっち向いてますよ。ほら、縮こまってないで、カメラに映る前にシャキッとしてください。また、ネットで総理の画像がミームにされたりオモチャにされたりしますよ。
「それでは大トリ前、本日最後のスペシャルステージ、ベリルエンターテイメントの皆さんで、天我アキラさん、黛慎太郎さん、猫山とあさん、そして白銀あくあさん、どうぞ!!」
森川さんの掛け声と共にステージが暗転する。
始まるんだ。私は軽く息を吐いて、目の前のステージをジッと見つめる。
「今、この瞬間もこの国の何処かで、苦しんでいる女性たちがいる」
マイクを手に持った天我君をスポットライトが明るく照らす。
初めて天我君にあった時、おどおどしてて物陰によく隠れていた事を思い出した。
それがみんなと出会って、自分が一番年上だから、引っ張って行かなきゃって思ったんだよね。
私はベリル全体としてのリーダーはあくあ君だと思ってるけど、4人の、BERYLとしてのリーダーは天我君に託したつもりだ。あくあ君にも甘えられる人が必要だと思ったし、天我君にもその覚悟があると思ったからだよ。
今思えば、あのCMを流した時から、私の中ではそう考えていたのかもしれない。
だからあの時も、曲終わりのメッセージで全く同じ言葉を最初に発したのも天我君だった。
「その一方で外の世界に怯え、一歩を踏み出せない男の子たちもいる」
天我君からバトンを受け取ったとあちゃんがスポットライトの光を浴びる。
4人の中で誰よりも芯が強くてブレない。負けん気もあって、本当は4人の中でとあちゃんが一番男らしいんだよね。
過去に女性に襲われた経験があるにも関わらず、とあちゃんはそれでも女性達のために何かをしようとしている。
はっきり言って私が同じ立場ならそんな事ができただろうか。人にもよるだろうけど、少なくとも私は好きでもない男性になんて襲われたくなんてないし、そんな事をされたらきっと部屋から出て来れなくなっちゃうだろう。だから、そこから一歩を踏み出したとあちゃんは、とてつもなく凄いことをやってるんだよ。
あくあ君と一緒に行きたい。そのために頑張っているとあちゃんの背中を何度か見た事がある。
いつか、その想いが報われる日が来るように、私たちもサポートしていくつもりだ。
「果たしてそんな世界でいいのだろうか?」
次にスポットライトの光を照らされたのは黛君だ。
黛君は一見すると4人の中じゃ普通の子に見えるかもしれない。だからこそ、そんな彼がここにいる事、それ自体が素晴らしい事なんだって思ってる。
ゆっくりと一歩ずつ、確実に前へと一歩を歩き続ける事ができる人は、そういません。でも、黛君はそういうコツコツを、毎日、何かをちょっとずつ積み上げていく事ができるタイプの人だ。
伸び代しかない黛君に、もっともっといろんな事ができるんだよって言ってあげたり、君にはいろんな未来があるんだよって提案してあげるのが私や、私達ベリルの役目だと思っています。
君はまだまだこんなもんじゃないって、私たちみんなが知ってる。
だからこそ私は4月から始まるドラマも、あくあ君じゃなくて黛君を主人公にどうかって提案した。
「いいわけがないよな?」
最後にスポットライトの光を浴びたのはあくあ君だ。
溢れ出るスター性、たとえスポットライトが故障していても、彼はきっとその暗闇の中で誰よりも輝いているだろう。
アイドル白銀あくあは、ううん、白銀あくあって男の子はそういう男の子だ。
もはや何も言う事なんてない。あの日、あの時、君に助けられた瞬間から、私の心と未来は決まった。
あくあ君、君が輝くために、やりたい事をやるために、世界を変えたいというなら変えればいい。そのためにサポートが必要なら私は努力を惜しまないよ。そのためにこの会社を、ベリルエンターテイメントを作った。
私は貴方のために、私は私のために、私の全てを貴方に捧げるわ。
だから私ごと全部持っていきなさい。この会社も貴方のために、白銀あくあのために作った会社なのだから。
ふふっ。
巷じゃ聖あくあ教なんてものがあるらしいけど、私以上の白銀あくあ信者なんているのかしら?
性女だか便所だか知らないけど、かかってくるなら受けて立つわよ。
本物の教祖ってものを教えてあげるわ。
「誰もが美しいと思うそんな社会にするために、僕たちは立ち上がる」
とあちゃんがあくあ君にそっと寄り添う。
「この国は変わっていく」
天我君があくあ君の肩に手を置く。
「僕たちが変えていく」
黛君が後ろから近づくとあくあ君と天我君の間に入った。
「だからみんなにも手伝ってほしい」
あくあ君は私たちに向かってマイクを持ってない方の手のひらを差し出す。
「みんなが笑って過ごせるそんな世界にするために」
全員の言葉が重なった。
そして音楽の始まりを告げるイントロが流れる。
Beautiful right?
あの時はインパクトを強めるために、先にPVを流してから今回のセリフにつなげた。
9月18日、私達、ベリルが世界に対して宣戦布告した日。
ドライバーが始まって、みんなでスターズに乗り込んで、あくあ君が結婚して、お見合いイベントや男性のオーディション参加など男性側にも変化があって、あくあ君による史上初、男性による国歌独唱もあったし、他にも色々なイベントがあって、世界は加速度的に変わっていった。
歌と同時に始まった後ろの巨大なモニターに流れるPVを見て、観客席の人達はびっくりした顔をする。
この歌合戦のために、あのPVに出たメンバーを再集結して新たに映像を撮り直したからだ。
あの衝撃的なPVと違って、このPVはそこから救われた後の暖かな世界を映し出している。
あくあ君と玖珂レイラさんのエピソードを、のうりんの白龍アイコ先生。
とあちゃんとゆかりのエピソードを、ゆうおにの司圭先生、
黛君と美洲様のエピソードを、はなあたの八雲いつき先生。
天我君と小早川優希さんのエピソードを、ピンクの薔薇の村井熊乃先生に書き下ろしてもらった。
もちろん監督はマスク・ド・ドライバー、ヘブンズソードの本郷監督です。
stay here。
曲が切り替わると、ベリルのみんながステージから降りて自由に歌い出す。
会いにいくから待ってろよという歌詞のまま、本当に会いに行ってしまうのが彼らだ。
自分がやってきた事は間違いじゃなかったんだと、周りにいる人達が見せる心からの笑顔を見て確信する。
会社を辞める時、最初はお母さんにも詐欺を疑われて心配されたけど……見てるかな? お母さん、これが私の、貴女の娘の仕事だよ。
あくあ君は審査員席に近づいてくると、みんなと肩を組んで歌い出す。ごめんなさい。総理はノリノリだけど、物静かな黒蝶議員はこういうの苦手ですよね? ん? 心なしか少し楽しそうな……って、そんな事を考えてたら、あくあ君は私に近づいてくると手を引いて席から立たせた。
な、何をするつも……。
「きゃっ!?」
あくあ君は私をお姫様抱っこすると、そのままステージを上がっていった。
「先輩!」
「まかせろ後輩!」
次は天我君が私をお姫様抱っこする。
ちょ、ちょっと待って、2人とも歌いながら私で遊んでない!?
「大丈夫だ社長、安心して我の腕の中にいるが良い」
天我君は余裕のある笑みでにっこりと笑う。
「慎太郎!」
「任せてください天我先輩」
うわわわ、身長のある天我君はまだしも次は黛君、大丈夫!? 私、今日は着物だから重いよ!?
黛君は天我君から私を受け取ると、天我君と同じようにマイクをオフにしてそっと呟いた。
「ほんの半年前の僕なら、こんな事できなかったけど……社長のおかげですよ」
黛君……。
「最後は僕だよね?」
「ああ、頼んだぞ、とあ!」
ちょ、ちょっと待って、流石にとあちゃんは無理でしょ!?
って、すご、ちゃんと私をお姫様抱っこできてる……。
「これでも一応僕、男の子なんだよね。それにちゃんとドライバーとイベントのために鍛えてますから、えっへん!」
私を抱き抱えたとあちゃんに、あくあ君が近づいてくる。
「悪いけど、俺の阿古さんを返してもらえる?」
お……俺の!? た、確かにさっきは全部を捧げるとか心の中で言っちゃったけど、こういう不意打ちは困る!!
「もちろん」
とあちゃんはそう言うと、あくあ君に私の体を渡した。
「おかえり阿古さん」
「た、ただいま……」
その笑顔、やっぱり私で遊んでるでしょ!?
stay hereを歌い切ると、あくあ君はそっと私を下ろした。
「阿古さん、前を見て」
あくあ君に促されて前に視線を向けると、お客さん達、全員の顔が見えた。
「阿古さんが俺達に見せてくれた景色だよ」
これが、いつもみんなが見てる景色……。
すごい。舞台袖や審査員席とは違う。ステージの上から眺める観客席から熱気とか圧は想像していたもの以上だった。みんな、本当にすごい。私、ここに1人だったら、きっと足がすくんで何もできないよ。
それなのにあくあ君も、とあちゃんも、黛君も、天我君も、1人でこのステージに立つ事ができるんだから。
あくあ君がそっと私の手を握る。反対側にいたとあちゃんは空いていたもう片方の手を握ってくれた。
そして2人は、私を中心にして、天我君と黛君の2人と手を繋ぐ。
「皆さん、2022年はありがとうございました。そして、来年も2023年もベリルエンターテイメントをよろしくお願いします!!」
あくあ君はノーマイクで観客席に向かって声を張った。
「「「「ありがとうございました」」」」
私たちもノーマイクで声を張り上げると、そのまま4人で手を繋いだ状態で観客席に向かって頭を下げた。
「ありがとうおおおおおおおおおおお!」
「ベリルのおかげで最高の年だったよ!!」
「あくあくーーーーーん、好きーーーーー!」
「今年一年、本当に楽しませてくれてありがとう!!」
「来年も再来年もずっとずっと応援し続けるから!!」
「とあちゃん、今日も最強に可愛いい!!」
「こんな歌合戦見たことなかった!」
「ベリルの事、これからもずっとずっと、一生推させてください!!」
「マユシンくーーーーーん! ドラマ応援してるからねー! 絶対見るよー!」
「最高の年末をありがとう!」
「笑顔をありがとう!!」
「天我先輩、みんなをお願いします!!」
「みんなー、大好きだよおおおおおお!」
「ありがとう。本当にありがとう!!」
「社長ー! ベリルを作ってくれてありがとおおおおおおおおお!」
拍手と共に観客席から温かい言葉が返ってきて、目がうるっとした。
でも今は泣くのを我慢しなきゃ。私は手を離すと改めて全方向に頭を下げてからステージを降りた。
なるほど、お母さんやまりんさんが会社に来た時に、みんなに向かって頭を下げてるのってこういう気持ちなんだね。
私が審査員席に着くと、ステージの中央に再び森川さんが出てきた。
「さぁ、それでは大トリです!!」
後ろや左右から今まで歌った全てのアーティストがステージに出てくる。
「平軍の大将、小雛ゆかりさん、源軍の大将、白銀あくあさん。ステージの中央にどうぞ」
ゆかりとあくあ君は森川さんの両隣に立った。
「さぁ、それは両軍の大将から、最後に歌う人を発表してもらってもいいですか?」
今回の歌合戦、最後に歌う人はまだ発表されていません。
なぜなら、全員が歌った後に最後に誰を歌わせるかを両軍の大将が決めるからだ。
「そんなの、もうこいつしかいないでしょ!」
「えっ!? 俺!? 玉木さんとか井上さんじゃなくって?」
ゆかりの提案に、両軍の皆さんが拍手で応える。
まぁ、普通に考えてそうだよね。誰しもがきっとそれを望んでる。
「じゃ、じゃあ、俺で」
あくあ君が照れながらそう言うと、観客席からも歓声が沸いた。
「いいゾ〜!」
隣で総理が酔っ払いみたいに頭にネクタイを巻いていた気がしたけど、見なかった事にした。
年始から謝罪会見お疲れ様です。
「それでは、2022年、年末歌合戦で、最後のアーティストは白銀あくあさんです。どうぞ!」
森川さんの掛け声と共に曲のイントロが流れる。
Carpe diem。
あくあ君はしっとりとした感じで曲を歌いあげる。
もちろんバックバンドはベリルのみんなだ。
あくあ君は歌ってるうちに気分が乗ってきたのか、近くにいた森川さんを抱き寄せて歌う。
「うぇっ!?」
森川さんのびっくりした声が聞こえた気がした。
うん、気持ちはわかる。
「ちょ!?」
次に被害に遭ったのはアヤナちゃんです。
赤くなった顔を隠すように両手で顔を押さえていた。
「ま、待って、私!?」
最後に被害にあったのはゆかりだ。
あくあ君ったら、ゆかりにまでそんな事するなんてよっぽどテンションあがっちゃったんだろうな。
「3人とも、聞いてくれ」
曲が終わりに差し掛かった頃、あくあはマイクのスイッチを切ってバックバンドのみんなに向かって何かを囁く。
そして奥に居たオーケストラの人に向かってこう叫んだ。
「四季折々、行きます!」
この言葉に観客席から歓声が沸いた。
「さぁ、みんなも一緒に歌おう!! 源軍も平軍も司会者の森川さんも、裏方のみんなも、審査員のみんなも、観客席のみんなも、そしてテレビの前のみんなも!!」
観客席も全員が総立ちになって歌う。
ふと後ろを見ると足腰が悪い人や、身長が低い人とかの事とかを考えて、みんながステージを見えるように配慮しあっていました。あぁ、なんて優しい世界なんだろう。ステージを見ると森川さんとかが頑張って手話で歌を伝えようとしている。
隣にいた総理は号泣して黒蝶さんとメアリー様に慰めてもらっていました。
あくあ君は間奏中に前に出てマイクを強く握る。
「みんなが最高のパフォーマンスをしてくれた。故にこの戦いに敗者なんていない! みんなの勝利だ!!」
らしいなって思った。
何も、あくあ君はあくまでも勝負事を否定しているわけじゃない。
勝つためにお互いが切磋琢磨して高め合う。勝つ事を目指して頑張るその姿こそが美しいんだって、それこそが重要な事なんだって伝えたかったんだと思った。
司会の森川さんは鬼塚さんからもらった結果が書かれた用紙をビリビリと破く。
「テレビの前のみんなも最後まで見てくれてありがとう!! 後、せっかく投票してくれたのに、ごめんな!」
みんながカメラに向かって手を振る。
今頃テレビ画面にはテロップが流れているんだと思う。
感動のフィナーレだ。
「ありがとうございました!!」
点灯していたカメラのランプは消えていた。
全てが終わった後に改めて観客席に向かってあくあ君は感謝の言葉を述べる。
「森川さんもほんとありがとう!」
あくあ君は森川さんと握手する。
今回、本当に森川さんは頑張ったと思う。
あくあ君は近くにいた鬼塚さんとも握手を交わす。
「小雛先輩もついでにありがとう」
「ついでは余計でしょ!」
いつものあくあ君だ。周りのみんなも2人のやりとりを見て笑う。
その一方でアヤナちゃんにはわかりやすくお礼を言っていた。
その扱いの違いに観客の人たちも大きな声で笑った。
「とあ、慎太郎、先輩もありがとな!」
「全く、最後どうなるのかと思っちゃったよ」
「ああ、僕も最後、尺が足りるのかと心配になった」
「大丈夫だ。もしもの時は我が総理のローリングサンダースライディング土下座で……」
「先輩、夜遅くまで何かやってるなと思ってたら、そんなしょうもない事を練習してたんですか!?」
あくあ君、私の隣にいる総理が悲しそうな顔をしてるから、しょうもないとかいうのは止めて……。気持ちはわかるけども!
「審査員の皆さんもありがとうございました」
あくあ君はメリーさんにギュッと抱きつくと、背中をぽんぽんと叩いた。
ところで今日のメリーさんの中身、本当に誰なんだろう……。茶々さん、めぐみ社長、どっち!?
「じゃ、俺はこれで、カノンが失神してないか確認するために一旦、家に帰ります!」
周りから今日一番の笑い声が起きた。
普通、アイドル白銀あくあのお嫁さんなんて、嫌われてもおかしくないんだけど、カノンさんはすごく好かれてるのよね。まぁ、その理由はわかってるけど……え? この国って、ほとんどの人が掲示板やってるの!?
あ、ダメかも。余計な事を考えたら、私にもついにホゲラー波が飛んできたかもしれない。
私は思考を切り替えて、4人にありがとうと話しかけると、舞台裏へと向かう。
さてと、裏で頑張ったみんなを労って私も仕事に勤しみますか! 今年が終わるのもあともう少し、来年も頑張るぞーーーーー!!
Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。
https://mobile.twitter.com/yuuritohoney
fantia、fanboxにて、本作品の短編を投稿しております。
https://fantia.jp/yuuritohoney
https://www.fanbox.cc/@yuuritohoney