白銀カノン、年末歌合戦開幕!!
「お嬢様、早く! そろそろ始まっちゃいますよ!」
「わ、わかってるってば!」
私は慌ててペゴニアが座ったソファの隣に座る。
テレビへと視線を向けると、丁度いいタイミングで年末恒例の歌合戦が始まりました。
あー、あと少しで今年も終わっちゃうんだって思うと、なんかちょっとだけドキドキします。
会場を映したカメラがゆっくりとターンすると、ステージの中央に着物を着た楓先輩が立っていました。
うんうん、楓先輩はやっぱり黄色だよね。華やかなお花の柄が上品にデザインされた着物は、いつものような楓先輩の元気なイメージと、アナウンサーとして気品のある大人の女性、その両方をうまく表現できていると思います。えへへ、みんなで頑張って、あーでもないこーでもないって選んだ着物が楓先輩にすごく似合ってて嬉しくなった。
『みなさんこんばんはー! もう年末の大掃除は終わりましたか? えっ? まだ、してない!? 私と一緒じゃないですか!』
楓先輩、まだ、大掃除してないんだ……。
あくあが知ったら直ぐに掃除いきそう。あくあって気がついたら掃除してる事が多い。
そういえばえみり先輩もだらしなさそうなイメージあるけど、めちゃくちゃ家が綺麗なんだよね。
何せあくあもえみり先輩も、あのペゴニアが窓の桟に指を這わせて小姑プレイしようとしたら舌打ちするレベルだし……もしかして雪白の人って、みんなそうなのかな?
『えっ? そんなのはいいから、お前、パンチングマシーンで負傷したのはどうなったって?』
楓先輩は着物の袖口を捲ると握り拳を作って見せる。
『この通り、もう大丈夫です! みなさんご心配をおかけしてすみませんでした!! え? そうじゃない? お前の話はどうでもいいからさっさと行けって!? そんな……あ、すみません。スタッフの人から、本当に早くしろってカンペをパンパン叩かれてるので、次に行きます!』
うわぁ……。
普通の会社なら始末書を書かされたっておかしくない話だけど、最近、楓先輩に聞いたら始末書を書かなくても良くなったって話してたんだよね。
どうしてだろうと不思議に思ってたら、ビンゴゲームの時に会った鬼塚アナからその本当の理由を教えてもらった。
楓先輩に始末書を書かせても無駄、始末書の用紙代が無駄って国営放送が判断するのは100歩譲って、あるのかなぁ……いや、普通はないんだけど、理解できなくはない。でも、森川に始末書を書かせるのは資源の無駄だからとかいう前代未聞の聞いた事もないクレームは本当に謎です。なんかもうみんな楓先輩と国営放送で遊んでない? クレーム電話の使い方、絶対に間違ってるよ。
『さぁ、それではトップバッターは、平軍のフェアリスからです! フェアリスの皆さん、どうぞ!!』
あ、あれ? タイトルコールも源平軍の司会者紹介もなし!?
あわわ、もしかしてミスったりとか、流石にしてないよね!?
『みんなー! いっくよーーーーーーーー!』
フェアリスのセンター、加藤イリアさんの声がステージに響き渡る。
『えいっ、えいっ、えいっ、えいやぁっ!』
メタル調の激しい曲で登場した加藤イリアさんは、空手着の要素を取り入れたアイドル風の衣装で型を意識したダンスを見せる。
赤い鉢巻を巻いているのは某格闘ゲームの主人公を意識しているのかな? 最近、ゲーム配信でもやってたよね。
『私は進み続ける。この道の先に何かがあると信じて!』
フェアリスは本来、もっと可愛い感じの曲が多いんだけど、今回はトップバッターという事もあって、人気曲でノリの良い曲を選択したのかな?
加藤イリアさんに続いて他のメンバーの人たちがステージに出てくる。
『このままじゃ終われないよね。だって、そうでしょ?』
それにしてもこの空手着風のアイドル衣装を着た加藤さんかわいいな。
袖を破いたワイルドな袖口からスラリと伸びた細い腕と綺麗な腋。きっと今日のためにすごくお手入れしてきたんだろうな。赤の鉢巻と帯をリボン風にしてるのもかわいいし、空手着の裾が切りっぱなしのフリルになってるのもかわいい。下のズボンもショートパンツ風にしてスラリとのびた細い生足が眩しいです。
細身で小柄な加藤さんだからこそっていうのもあるのかもしれないけど、空手着のワイルドな要素とのミスマッチさが余計に可愛く見える。
『押忍、押忍、押忍! 勝つのは私達、平軍だ!!』
曲の間に入れたMCコールに観客席が盛り上がる。
私とペゴニアも一緒になって押忍コールで応えた。
『平軍大将、YUKARIMETAL COME ON BABY!!』
ゆかりメタルって何!? って、思ってたら、メタルファッションの小雛ゆかりさんが空手の型を見せながらステージに出てきた。
しかもその後ろには平軍のアーティストが続いて入場する。
大名行列のような登場に会場も盛り上がっていました。
『もう迷わないって、決めたからには、ただひたすらに、己の道を進むのみ!!』
加藤さんはその勢いのまま最後まで突っ走った。
その熱気と真剣度合いは、パフォーマンス後のフェアリスの皆さんに流れる汗を見ても明らかです。
ライブパフォーマンスに対して大きな拍手が贈られる。私もペゴニアと一緒に手を叩いた。
拍手が落ち着くと、ゆかりメタルこと、小雛ゆかりさんがマイクを手に取って前に出る。
『平軍のポンコツども!! 私を負かせたらあんたらの乙女ゲーだけ私の出現確率を倍にするわよ!! だから、気合い入れて勝ちに来なさい!! わかったわね!?』
とんでもない脅し文句と、とんでもない大将が来てしまった。
珍しくペゴニアが歯茎を出して笑ってるけど、私は頬が引き攣りそうになる。
平軍のアーティストの人からも、それだけは勘弁してくださーいという声が飛んでいました。
それを聞いた観客席が爆笑する。
『さぁ! 対する源軍のトップバッターは、eau de Cologneのみなさんです! HERE WE GO!』
楓先輩の掛け声で、会場が暗転すると、3つのスポットライトがステージにいる3人を映し出した。
『フェアリスのみんな、ステージを熱くしてくれてありがとう!』
eau de Cologneのリーダー、城まろんさん。
今日はすごく大人びた感じを全面に出してるせいか、同性の私が見てもドキッとします。
これが捗るならステージを暖めてくれてありがとうっていう意味の煽りにしか聞こえないんだろうけど、まろんさんは聖人だから全然そんな感じに聞こえないんだよね。実際にフェアリスのみんなも、まろんさんの声に押忍のポーズを返してるし。
やっぱり、普段の言動は大切なんだって思った……。
『この熱を、灯火を消さないように、みんなで繋げよう』
来島ふらんさんって、まだ小学生だっけ?
元よりちょっとマセた感じといい、歌唱力やダンスパフォーマンスのレベルが高いから、らぴすちゃんより大人びて見えるんだよね。
ネットでは来島ふらんは月街アヤナのファンクラブ会員0番とか、ファンクラブ名誉総裁と言われてるだけあって、彼女のパフォーマンスはアイドル月街アヤナを参考にしているというか、全面的にすごく意識している。それもあって、多分、子供っぽく見えないんだろうなって思う。
『さぁ、私達も行きましょう!』
は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
やっぱり大正義、アイドル月街アヤナは別格です。
カメラが向いた瞬間にかわいいが溢れてキュンとしました。
リアルのツンデレ具合を知ってる私だからこそ、余計にギャップがたまりません。
『私達のこの気持ちが、みんなに届きますように』
テクノ調の曲に合わせて3人がダンスを始める。
一糸乱れぬダンス、その完成度の高さはeau de Cologneのファンであればみんなが知っている事です。
『僕の想いと、私の願い、巡り巡って誰かに届くといいな』
は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
本日2度目の大きなため息が出ます。なんでアイドルをやってる時のアヤナちゃんって、こんなにかわいいのかな?
どこを切り取ってもちゃんとかわいいんだよね。意味がわからなくない?
多分、カメラの位置も、切り替えのタイミングもわかってて、そのシーンで一番可愛く見える最適解をやってるんじゃないかな。小雛ゆかりさんの演技も超人芸だけど、月街アヤナの魅せ技も超人芸だよ。
そりゃアイドル白銀あくあもライバルはアイドル月街アヤナだって言うわよね。
前にあくあにこっそり聞いた時、私だけにこっそりと教えてくれた。
『すれ違い。このポリメトリックが、いつかは繋がるといいな!』
サイバー風のワンピースはすごく可愛いけど、ダンスを重視をしているためか、体のラインにピッタリと沿うようにデザインされている。女性らしい膨らみとかがくっきりとわかるところも、彼女達が大人びて見える要因だったりするのかもしれない。
『交差する。このクロスリズムが巡り合う瞬間に、僕達の想いが通じ合う』
圧巻のパフォーマンス。
流石はeau de Cologne。もうこれ以上の言葉は出てこない。
ミスがないとかそういうレベルじゃない、意識の高い人たちが想像した以上のパフォーマンスを、100%を超えた先の200%をこの大舞台で魅せてくれた。
大きな歓声と拍手、どうして彼女達がこの曲を選択したのか、もうみんなはわかっている。
『届け、みんなの想い!』
まろんさんが天高く両手を広げる。
うん、こうやってみるとまろんさんって結構大きいよね。
あとであくあが好きそうなリストに入れとこ……。
『願いを込めて祈ります』
うっ……祈りを捧げるふらんさんを見てると、聖あくあ教を思い出して胃が少しだけ痛くなりました。
クレアさんは真面目で良い子だって思ってたのに、なんでよりにもよってスターズ正教のシスターがそんな胡散臭そうな宗教に入っちゃうのかが、いまだに理解できません
『もう、どうせ来るなら、もったいぶらずにさっさと出てきてよ!』
アヤナちゃんの掛け声にみんなが笑った。
あくあに対して気兼ねなく喋れるのって、私の隣にいるペゴニアとか、アヤナちゃん、小雛先輩、楓先輩とか一部の人に限られています。だからアヤナちゃんのような、あくあのライバルにもなれて、友人のように寄り添える人にお嫁さんになってもらえたら私も嬉しいんだけどね。
『『『『『きゃああああああああああああああ!』』』』』
あ、観客席の大歓声と共に、後ろのバックスクリーンにバイクの映像が映し出される。
事前に通知があったために通りには多くの人達が、生のあくあを見ようと詰めかけていた。
そして見覚えのある建物、国営放送のホール前にたどり着くとバイクを降りたあくあはヘルメットを脱ぎ捨て、マイクを手に取る。
『源軍のみんな! もう準備はできてるよな!!』
あくあは革ジャンのジッパーをゆっくりと下げていく。
あわわわわわ、私は思わず顔を両手で覆い隠した。ダメダメ、それはダメだよあくあ!!
【今日の俺はハイな気分だ! お前らもちゃんとハイになってるか?】
あ……スターズの言語で歌われるこの曲は、スタフェスでトラッシュパンクスと一緒に披露したSTARS BOYだ。
いつものあくあと違って、ちょっと歌詞が下品というか粗暴になる。異色だからこそ、一部の界隈では人気があるんだよね。
【一年前は想像もしてなかった。俺がここに立っている。他の誰でもない。スポットライトは俺を照らしている】
まさか最初にこの曲を選択してくれるなんて、思っても見なかったから少し驚いちゃったな。
国営放送の歌合戦だし、多分最初は乙女色の心じゃないかって予測してた私にとっては、それくらい意外なチョイスだった。
スターズでも生中継するって言ってたから、そこへの配慮もあるのかな?
【ドラマでもない。映画でもない。アニメでもなければコミックスでも小説でもない。俺を見ろ。これが現実だ】
ジャケットを脱いだあくあは、そのまま手に持って通路を歩いてステージへと向かう。
途中すれ違った源軍の人たちとハイタッチして、その人達があくあの後ろに続く。
ステージ前、もちろん最後に合流したのは、とあちゃん、黛君、天我先輩の3人です。
「待たせたな。みんな!」
ステージに登場したあくあは観客席に手を振った。
そしてポケットから黛君からプレゼントされたサインペンを取り出すと、ジャケットの内側にささっとサインを入れる。あくあはサインしたジャケットを、そのまま軽く観客席へと放り入れた。
あー、いいな。って……ん? 今、キャッチした人、どこかで見た事があるような……?
流石に私の気のせいか。例え知り合いだったとしても、私はもう深く気にしない事にした。
【俺を見ろ! スターはここに居る。他のどこにもいない。ここにいるんだ。だから何も考えずにお前は俺だけを見てればいい】
観客席の熱を煽るようなジェスチャーの後に、あくあはカメラに向かってウィンクする。
あーずるい。これはずるいです。あれだけ、俺様プレイしておいて、今の少年チックな可愛いウィンク。
少なくない数の女性達が確定でホゲの波に持って行かれてしまったでしょう。
あ、楓先輩はダメですよ。まだ序盤だから耐えてくださいね。
ネットでも楓先輩に総合司会をさせたのは、どんな事が目の前で起こってもホゲられない罰ゲーム論とかあったしね。
『きゃあああああああああ!』
『うぎゃあああああああああ!』
観客席からは悲鳴のような歓声が上がった。
それもそのはず。あくあはアヤナちゃんの手を引くと、平軍の大将である小雛ゆかりさんの元へと向かう。
【最後に勝つのは俺達だ! お前はそこで俺達の勝利を指を咥えて見てな!!】
うわあああああああああああああ。
元の歌詞を多少弄ってまで完全に小雛先輩を煽ってきてる。
あくあは小雛先輩の前でわざとらしくアヤナちゃんと2人で残りの歌詞を歌いあって、パフォーマンスを終えた。
『ふーーーーーん! なかなか、いい根性してるじゃない! 2人とも覚悟しておきなさいよ!! ほら! 平軍のあんた達もぼーっとしてるんじゃないわよ。本当はあんた達だって、さっきみたいな事をこいつとしたかったんでしょ!?』
小雛先輩の問いかけに対して平軍の皆さんが頷く。
『だったら、アヤナちゃんだけが良い思いしてもいいの!?』
平軍の人達に向かって小雛先輩を手を振り上げる。
『あんた達、本気でやりなさいよ!! もし、この勝負に勝った時は……』
『『『『『時は……?』』』』』
『MVPには私がこいつとデートさせてやるから本気で勝ちに行きなさい!!』
「はい!?」
思わず私が声に出して反応する。
この人、本当にフリーダムすぎない!?
『しゃあああああああああ!』
『私の時代が来たあああああああ!』
『わたくしの歌手人生、全てを懸けて望みますわ』
『あくあ君とデート、あくあ君とデート、あくあ君とデート』
『流石は小雛ゆかり。いいえ、小雛ゆかりさん!!』
平軍から小雛ゆかりのコールが起こる。
すご、わかりやすすぎる餌とはいえ、一瞬で平軍を掌握しちゃった……。
それを見たあくあもすかさずマイクを手に取る。
なんかもうこの段階から、あくあが何を言うのかなんとなく予測できた。
『じゃあ源軍のみんな。勝ったら全員で俺と……いや、ベリルのみんなと遊園地で遊ぼうぜ!!』
巻き込んだ。自分だけじゃなくて、とあちゃん達3人も巻き込む高等テクニックである。
黛君は少し驚いた顔をしたが、ふっと息を吐いて仕方ないなあと言う顔を見せた。
天我先輩は目を煌めかせる。多分みんなで遊びに行けるのが普通に楽しいんだろうな。
とあちゃんは一瞬だけ呆れた顔を見せたけど、次の瞬間には優しい笑みを見せた。
『うおっしゃああああああああああ!』
『やったあああああああああああああ!』
『平軍のみんなには悪いけど本気で行かせてもらいます!』
『ワンチャンあるぞ。ワンチャンあるぞ。ワンチャンあるぞ』
『ふぅ……これって、近くからとあちゃんとあくあ君の遊園地デートも見れるって事ですよね? はい、私、勝って壁になります!』
もちろん源軍の皆さんも大盛り上がりである。
そりゃそうだよね。もはや年末に発売されるくじどころではない。
『ずっる! あんた流石にそれはずるいでしょ!!』
『借りがあるとはいえ、先に言い出したのは小雛先輩ですよ』
『ぐぬぬ……』
あっ……そっか、美洲お義母様の件であくあは小雛先輩に借りがあるんだ。
だからそれを利用してデートさせようと……この人、やっぱりなかなかの策士だな。
「普通の男性ならまず嫌がるでしょうけど、心なしか旦那様が嬉しそうな顔をされていたような気がしたのですが、私の気のせいでしょうか?」
ううん、ペゴニア、それは絶対に気のせいじゃないよ。
平軍のおっぱいの大きな色気ムンムンの着物美人の有名歌手さんに対して、あくあの左目の瞼だけがピクッと反応してたの、他の誰も気がつかなくても、私“だけ”はちゃんと気がついてるからね。
それだけじゃなくて、同じ源軍のまろんさんに反応したのもちゃんと気づいている。それこそ、隣に居たアヤナちゃんもまろんさん本人も気がついてると思うよ。女の子同士、そういうのはすぐにわかっちゃうんだから!!
『観客席の皆さん、そして、テレビの前の皆さん! まさか自分は関係ないなんて思ってないですよね?』
2人の間に割って入った楓先輩は握り拳を天に突き上げる。
え? まだ、何かあるの!?
『今年の年末歌合戦は特別ですよ!! ベリルエンターテイメントの協力もあって、投票してくれたみなさんの中から、抽選でサイン入りグッズは勿論のこと、ライブのチケット、社内の見学ツアー、ステージの裏からライブ中のみんなを見守る事ができる、通称、本当に壁になれるチケットなど、とんでもないスペシャルな権利が当選します!!』
「な、なんですって〜〜〜〜〜!」
私は思わず席から立ち上がった。
か、壁になれるチケット欲しい。壁になれるチケット欲しい。壁になれるチケット欲しい……!
『そして他にも豪華な景品として、私の友人でもある羽生総理からは、前回好評だったお見合いパーティー、その次回の参加券をプレゼント用としていただいております!』
あー、そっか、お見合いパーティーの放送権利も国営放送なんだよね。
それにしても総理が友達とか、そんな事が言えるのは、あくあか楓先輩くらいだよ……。
『後は私個人から、森川楓の部屋の観覧チケットもプレゼントに出しちゃいます!』
へー、森川楓の部屋って、次回もちゃんとあるんだ。
あれってどうなるんだろ。あの3人のままいくのかな?
そんな事を考えていたら、楓先輩の横からあくあが顔を出してきた。
『そして俺個人からもプレゼント。白銀あくあから直接お年玉がもらえる権利だ!! みんな応募してくれよな!』
あー、これはいいかも。でも、あくあがお年玉を渡すよりも、あくあにお年玉を渡す権利の方が盛り上がりそうな気がしているのは、私だけかな?
『他にも源軍や平軍の皆さん、審査員の人達から特別なプレゼントをご提供いただいております! だからみんな、もうチャンネルは変えちゃダメだよ!! あなたが無駄だと思ってる森川楓のトーク中もチャンネルはそのままで!!』
自分で自分のトークを無駄って……それがわかってても絶対に無駄なトークを止めないところが逆にすごいよ。
『それでは審査員の皆さんをご紹介したいと思います! まずは文化人枠として、ベリルエンターテイメントより、天鳥阿古社長!!』
あ、社長! 今日の阿古さん、すっごく綺麗! 落ち着いた色合いの着物もすごく似合ってるし、楚々とした感じがすごく大人っぽい!
『続きまして、みんなご存知。この国の代表にして、私と並ぶ問題児、羽生総理!!』
総理が問題児ってとんでもない失言だけど、総理も観客のみんなも笑ってるからこれでいいのかな。
おそらくこの発言を受けて顔が引き攣ってるのは、もう鬼塚アナくらいしかいないと思う。なんとなくだけど、国営放送のスタッフさん達はもう諦めの境地に達している気がしました。
『そして公平公正をモットーとしてる国営放送では、政界での総理のライバルにして戦友、黒蝶家当主。黒蝶揚羽さんにも来て頂きました!!』
黒蝶揚羽さんって、なんかみんなが噂しているような人には見えないんだよね。
なんとなくだけど、姐さんみたいに見た目とかで勘違いされているような感じがすごくする。
まぁ、私もそこそこポンコツだから、私の勝手な勘違いかもしれないけどね……。
『今回、スターズにも同時生中継されているという事もあり、スターズからはメアリー前女王陛下に来ていただきました!!』
お婆ちゃん!? 私、なんも聞いてないんですけど!?
って、後ろを良く見たら引き攣った顔のえみり先輩が椅子に座っていた。
あー、これ、えみり先輩も、今日までお婆ちゃんから何も知らされてなかったんだと察する。
『次に国民的ドラマ、ヘブンズソードより、本郷弘子監督の登場だ!! あの続きは、倒れた剣崎は、まだですか!?』
おー! 本郷監督がおめかしして、ちゃんとしてるー!
本郷監督も白龍先生もちゃんとすれば綺麗なのにズボラなところがあるんだよね。
『もうお前の顔は見たくない。おそらく例のビスケットを食べ過ぎてしまった多くの人がそう思ってるでしょう。森長より、メリーさんにきてもらいました!!』
急にカオスになった……。あれ? 国営放送ってこういうの大丈夫だっけ?
うーん……まっ、今更かな! 楓先輩、あくあ、小雛先輩が揃ってる時点でもうなんでもありだ。細かい事を考える方がきっと時間の無駄なんでしょうね。
って、アレ? メリーさんの中身どっち?
メリー1号の社長なのか、メリー2号の茶々さんなのか。茶々さんって確かバイトから社員に昇進したんだっけ?
うーん、あくあなら一眼見てどっちが中身かわかるらしいけど、私は全くといっていいほどわからない……。
『そして最後に……本郷監督や天鳥社長が来たから、みんな白龍先生が来ると思ってるでしょ? そうじゃないんだなあああああ!』
『『『『『えーーーーーーっ!?』』』』』
『最後のゲストを発表する前に、これだあああああ!』
楓先輩は剣崎のおかいつポーズで後ろの大型モニターを指さす。
[特報! 来年放送開始予定の大河ドラマ、その脚本家に司圭先生の起用が決定!!]
うぎゃああああああああああああ!
月9でトラウマを背負った人達が一斉に叫び声を上げる。
『というわけで改めて最後の審査員を紹介します! 月9ドラマ、ゆうおにより司圭先生です!!』
狐面!? パーカーを被って狐面をつけた小柄な人が、おどおどした感じでちょこんと審査員席に座っていた。
へー、今まで表に出てこなかったからわからなかったけど、司先生ってこんな感じの人なんだね。もっと苛烈な人を想像していたから、なんかもうギャップが凄い。あ、でも、もしかしたら影武者なんて事も……あ、ありえる。私は、司先生だからこれもフェイクの可能性があるかもと掲示板に書き込んだ。
観客席からは大きくどよめいた後に、暖かな拍手が贈られる。私もペゴニアと一緒に拍手を贈った。
『審査員は以上の7名になります! というわけで……年末最後の恒例行事、歌合戦が始まりますよーーーーー!!』
楓先輩の掛け声にみんなが歓声を返す。
こうして年末恒例のスペシャルな歌合戦が始まった。
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