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雪白えみり、森川楓の週刊ぱわ〜ニュース!!

『はい! そういうわけで始まりました。今年最後になる森川楓の週刊ぱわ〜ニュースのお時間です!!』


 相変わらずホゲった顔してんなー。

 ベッドに寝そべった私は、横になりながらぼーっとした顔でテレビを見つめる。


『えー、このニュース番組では、他のちゃんとしたニュース番組では取り上げられない問題を、この私、森川楓とゲストが全力タックルで切り込んでいく尖った番組です。普通のニュース番組を視聴されたい方は、どうか鬼塚アナウンサーがやってる方の真面目なニュース番組を見てください!』


 心配しなくても最初からお前にそれは期待してない。と、多くの視聴者が言ってるぞ。多分な。


「な! シロ」

「にゃー」


 シロの声に思わずデレた顔をする。

 お前ってちゃんと返事するし賢いよなぁ。ほーれ、よしよし。

 もしかしなくても、今、テレビに出てるどこかのホゲった顔をした国営放送のアナウンサーより頭いいんじゃないか。


『というわけで、今週のゲストはこの人です!』

『ベリル医科大学、人体構造学主任教授の白銀あくあです。今日はよろしくお願いします!』


 うおおおおおおおお! あくあ様キター!

 しかも今日のあくあ様は何故かメガネモードでビシッとしてる。くぅ! 今日も一段とかっこいいぜ。

 って、ベリル医科大学ってなんだ? あ、いつものネタか。ホゲ川の番組って、なんか知らないけどゲストにまで小ネタやらせるんだよな。


『あくあ教授、無知で申し訳ないのですが、人体構造学とは、どのような事を研究されているのですか?』


 おい! あくあ様と距離が近すぎるだろ!!

 くっそー、国営放送のお問合せメールボックスに苦情のメール入れとこ。

 えーっと、貴社の森川楓アナウンサーが立場を利用してあくあ様にボディタッチしようとしています。やめさせてください……っと、よし、送信!


『人の体ってすごいんですよね。いまだに解明されてない事がたくさんあるんです。いわゆるもう一つの宇宙と言っても過言ではありません。特に女性の身体は我々男性にはないものがあるんです。一言で言うと神秘……いや、流石にそれは抽象的すぎるか。もっとシンプルに言うと、そう……胸部ですね』


 ん? 思わずテレビに映ったホゲ川と同じとぼけた顔をしてしまった。


『はい? すみません。ちょっと疲れてるのか、さっきの言葉が聞き取れなかったのですがもう一度言ってもらっていいですか?』

『はい、私は女性の膨らみの研究をしています。私の事はパイ先生と呼んでください』


 パイ先生だって!? 私は慌ててベッドから立ち上がるとちょっとだけ持ち上げる。


「先生……私のすごくもちもちしてるんですけど、これって普通ですか? あ、できれば……ちょっと触って確認してもらえると嬉しいのですが……なーんちゃって!」

「にゃ〜ん」

「んー? どうした猫? お前も私のふみふみしたいのか? ほれほれ」


 これがオスなら少しはテンションが上がるけど、この猫、メスなんだよな。

 ごめんよ。お前だって本当は私みたいな女じゃなくて、あくあ様に飼われたかったよな。

 なんなら私とお前、2人ともあくあ様に飼ってもらうとか……は、は、は……。


「くしゅん」


 うっ、さっぶ! そういえば節約のために暖房切ってたんだっけ。

 私はすごすごと着衣を整える。


『何やってんのよこのおバカ!』

「すみませんでしたぁ!」


 って、テレビかあ。

 思わず反応しちまったぜ。


『いたっ、小雛先輩、それ俺が大阪土産で買ってきたハリセンじゃないっすか』

『あんたがふざけた事を言ってるからでしょ。後、これちょうどいいわね。これからは対あくぽんたん専用兵器として使用するわ』


 すげぇな。ハリセンとはいえ、あくあ様のことをしばける女なんてこの世界にはほとんどいない……というか小雛ゆかりパイセンくらいじゃないのか。


『じーーーーーっ』

『ん?』

『うん?』


 何かに気がついた小雛ゆかりパイセンとあくあ様が、異変を感じた方向へと視線を向ける。

 あ……。


『また、私の番組を乗っ取りに来たんですか?』


 ホゲ川がハイライトの消えた目で2人の事を見つめる。

 私はそれを見てお腹を抱えながらゲラゲラと笑った。

 やっぱり国営放送は違うぜ。今、一番笑えるテレビ局と言われてるだけの事はある。


『モウ ナニモ シンジラレナイ……』


 あっ、ヤベッ、こいつまだ森川楓の部屋とゆうおにの莉奈の事を引きずってやがる!


『の、乗っ取るわけないじゃない!』

『そうそう、ほら、森川さん、これ、看板見てください!』


 あくあ様が指さした看板には、森川楓の週刊ぱわーニュースと書かれていた。

 そう、書かれていたはずなのである。


『『『あ』』』


 おそらくは土台となる看板と森川楓の文字が書かれた用紙の接着が甘かったのだろう。

 看板の上に貼られていた森川楓の用紙がペロリと捲れ落ちる。

 あっはっは! 流石、ホゲと笑いの神様に愛されてるだけの事はあるわ。

 あまりにもタイミングが良すぎて、思わず吹き出してしまった。


『ヤッパリ ワタシ ハ オハライバコ ナンダ……』


 小雛ゆかりパイセンは慌ててCMとか言ってるけど、国営放送にCMなんてないんだなぁ。


『し、しっかりしてください。森川アナ』

『ドウセ ワタシ ガ イナクタッテ……』

『そんな事ないですよ! 俺と小雛先輩には森川アナが必要なんです!!』


 森川の顔色がみるみるうちに良くなっていく。

 わかりやすいやつだなぁ……。これは堕ちたなと確信した私は、のんびりした気持ちで番組を視聴する。


『えっ? あ……あくあ君が私の事が必要!?』

『はい! だから今日も進行お願いします!!』


 あくあ様の奥で小雛パイセンがコクコクと無言で頷く。


『楓ちゃんふっかーつ!』


 わかりやすいなあ。まぁ、単純でわかりやすいところが楓パイセンのいいところなんだけど。


『えーっと……うん、そういうわけで、今日は歌合戦を前にして、ベリルエンターテイメントから白銀あくあさん、越プロダクションから小雛ゆかりさんに来ていただきましたー! 本日はよろしくお願いします』

『よろしくお願いします』

『はい、よろしくお願いします』


 うおおおおおおおおおおおおおおお!

 流石は国営放送だ、空気が読める。


『それでは最初のニュースです』


 楓パイセンは真面目な顔をすると、原稿へと視線を落とす。

 おお! まるで本物のアナウンサーのようじゃないですか!


【女優の小雛ゆかりさん、白昼堂々、公園で食事中に強盗にあう】


 楓先輩の後ろにあるモニターにニュースのタイトルが表示された。

 なになに……えっ!? 強盗!? これって結構やばいニュースじゃね?


『先日、女優の小雛ゆかりさんがロケ中に公園の中で1人、ランチタイムをとっていると、箸で掴んで口に入れる直前だった塩サバの切り身を奪われる事件が発生しました。なお、女優の小雛ゆかりさんが同様の手口で事件に遭うのはこれで今年、2度目になります』

『ちょっとぉ!? んぐっ、何するのよあくぽんたん』


 画面の端で暴れそうになってる小雛ゆかりパイセンをあくあ様が押さえつける。

 なるほどな……。ああやったら、あくあ様に合法的にお触りしてもらえるわけか、いやー、勉強になります。

 画面が切り替わると、事件の目撃者とされた女性のインタビューが映し出された。


『あー、女優の小雛ゆかりさんですね。ちょうどそこのベンチで、1人でご飯食べてましたよ。あの人って、ヤッパリ友達とかいないんですかね……? なんか、ちょっとだけ応援してあげたくなりました』


 音声処理に草が生える。あと、ぼっちなのは触れてやるな。かわいそうだから……。

 画面が切り替わるとまた違う女性のインタビュー映像が映し出される。


『あそこのベンチは昔からボス猫が使ってるんですよ。それを知らなかったんでしょうね』


 近所で喫茶店を営む女性がインタビューに答えながら、事件が起こったとされるベンチに近づく。


『にゃー……にゃー、にゃん!(何? ……ちょっと! 無断で撮影しないでよ!)』


 近所の猫のインタビューはいらねぇだろ!!

 しかもちょっと怒ってるし、その当て字なんなんだよ!

 もっと真面目にやれって思わず突っ込みそうになったが、そういえばこれ不真面目なニュースの方でしたわ。


『スタッフの聞き込み調査によると、犯人は近所でも有名なメスの白猫だそうです』


 うちの猫じゃねーか!!

 画面にでた白猫の写真を見た瞬間、飲んでた水道水を噴き出しそうになった。


『なお、犯人は現在逃亡中の模様です』


 ここに居るってぇ!!


「にゃー!」


 手、あげてるけど、お前、自分のことだってわかってるのか?

 それにしてもお前、強かったんだな。どうりで復活がはえーと思ったわ。


『ちょっと、何よこのニュース! 1人でお昼食べてたっていいじゃない!!』


 地団駄を踏む小雛ゆかりパイセンに歯茎が出る。まんま乙女ゲームだわ。

 スタッフ、よく見てる。


『あくあ教授、今回の事件についての見解をお伺いしてもよろしいでしょうか?』


 あ、ホゲ川が小雛ゆかりパイセンを無視しやがった。


『Eですかね』

『良い?』

『何が良いのよ!』

『いえ、良いではなくてA、B、C、D、EのEですね。最初に映ったインタビューに答えてくれた女性、確実にEはありましたね』


 あくあ様はふざけるわけでもなく真剣な面持ちで黛君のようにメガネをクイッとあげる。

 くっ……! 顔が良いから。すごく良い事を言ってるみたいに見えるのは私の気のせいだろうか。


『なるほど……ちなみに森川はCです。小雛ゆかりさんのサイズは?』


 お前の情報なんていらねーよ!!

 やっぱり後で真面目にやれって苦情入れとこ。


『い……って、言うわけないじゃない!!』


 なるほど……Eか。思ったより結構あるんだな。

 いや、過小申告、過大申告している可能性を考えるとD〜Fと言ったところか。

 昔はみんな必ずと言って良いほど過小申告していたが、最近はあくあ様のせいで過大申告する人も増えた。


『なるほど、研究へのご協力ありがとうございます』


 あくあ教授は、ポケットから取り出したメモ帳にペンを走らせる。

 それを見た小雛ゆかりパイセンが、手に持っていたハリセンであくあ様を軽く叩く。


『ほら、もう、次のニュース行きなさい! 次よ次!』


 小雛ゆかりパイセンに促された楓パイセンは再び原稿用紙へと視線を落とす。

 すげぇ! 国営放送のアナウンサー以下略……。常にそうやってれば良いのになーと、猫を抱えて画面を見つめる。


『先日、12月26日にベリルエンターテイメントに所属するアイドルの白銀あくあさんが、奥様の白銀カノンさんと一緒にプライベートの新婚旅行で箱根に訪れました。その際に訪れた美術館で画家で医師のMARIA先生から絵を購入した事が、今、世間をざわつかせているそうです』


 知り合いじゃねーか!! 思わず猫を抱えたまま、体を折り曲げて地面に顔を突っ伏しそうになった。

 マリア先生は聖あくあ教の幹部、十二司教の1人で神絵師と呼ばれている。

 ただでさえマリア先生の表に出せないあくあコレクションは裏オークションでとんでもない金額で取引されてるのに、これで表の画家でもあるマリア先生の価値まであがっちゃったら……。

 私は携帯を開くとクレアにサクッとお気持ちメールを送信する。

 この件は、私はミリも悪くない。

 ちゃんと言っておかないと、後から鬼電がかかってきそうだからな。


『仲睦まじそうに2人で頬を寄せ合って絵を見てましたよ。お二人とも幸せそうでこちらもすごくほっこりした気持ちになりました』


 聖農婦じゃねーか!!

 なんでお前がインタビューに答えてるんだよ!

 完全なマッチポンプというか、当日来ていたお客さんって、それほとんど信者だったりとかしないよな? 信者に先生の絵画を売りつけたりする変なビジネスとかに手を出してないよな!?


『マリア先生の絵に詳しい専門家の人にインタビューを取ってきました』


 は? 専門家? まさか、それもうちの信者じゃ……。


『マリア先生の絵は今、市場でもすごく価値が上がってきてます。みなさん手放しませんし、それも価格高騰につながっているのではないでしょうか』


 メアリーの婆さんじゃねぇか!! ちょ、何やってるんだよ!!

 こんなのモザイク処理しようが音声処理しようが、見る人が見たら100%誰かわかるだろ!!


『現在、市場にはほとんど出回っていないマリア先生の絵は十倍、百倍にも価値が高騰しているそうです。確かあくあ教授もマリア先生から絵を購入されたとか?』

『はい。すごく良い絵なんでね。ぜひ、皆さんに見てもらおうと今日はここに持ってきました』


 画面の端から絵を展示した台がガラガラと押されて出てきた。

 どんな絵を買ったんだろ。まさか、本人の絵だったりしないよな?

 ええ、そんな事を考えていた時期が私にもありました。


『うわー、素敵な女性の絵ですね』


 私やないかい!! 思わずインコさんみたいな口調になる。

 かろうじて目隠してるけど、どう考えても聖女モードをしている時の私じゃん!!


『なーんか、これ、どこかで見た事があるのよね』

『わかります。私もこう毎週見ているような……』


 おい、そこのポンコツ。ポン川!

 毎週どころか昨日、私の顔を見たばかりだろ! 気づけ!!


『あくあ教授、この絵を購入された理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?』

『はい。そうですね……。マリア先生の柔らかなタッチが、この被写体となった女性の暖かさだったり優しさだったりをとてもよく表現していると思います。でも、それだけじゃないんですよ。内面から溢れ出るようなパワー、オーラが繊細な書き込みですごく表現されているんです。それがすごく心を落ちつけてくれるんですね』

『なるほど……確かに、なんかこう、いつも見てるような安心感を感じます』


 だから昨日も三日前もあっただろ!!

 うわああああああああああああああ!

 私はベッドにダイブすると左右にゴロゴロと転がって体を悶えさせた。


『どうせここの膨らみでしょ』


 小雛ゆかりパイセンのジト目に、あくあ様が顔を背ける。


『どうせ大きさで選んだんでしょ』

『……確実にFはありますね』

『ほら、やっぱり!』


 くっ……私に目が眩んでくれた事を喜びたいのに、自分の絵を購入された羞恥心のせいでちゃんと喜べねぇ! なんでよりにもよって聖女モードの私なんだ!!

 その後も例の如く、くだらないニュースが続いていく。それに対してあくあ様がボケて、小雛ゆかりパイセンが突っ込むという構図が完璧に形成される。

 本当にくだらないニュースばかりだが、改めて真面目にニュースを見ると半分くらいのニュースで聖あくあ教が関与してるじゃねぇか。私はそっとニュースから目を逸らして猫のシロと戯れる。


『次のコーナーは通常通りだと森川楓プレゼンツ、今日のぱわ〜占いなんですが、特別に今日はあくあ教授の方から、来年の占いを発表してもらいたいと思います!』

『はい、わかりました。それでは森川さん、よろしくお願いします!』

『任せておいてください!!』


 楓パイセンの前に、パンチングマシーンが出てくる。

 ボクシンググローブを装着した楓パイセンは、勢いよく的にパンチを決める。

 機械には280とかいう見たこともない数字が表示された。なんだこれ……。

 あくあ様も若干苦笑いしてるじゃねえか!


『えー、画面の前で番組を視聴してくれている牡羊座のみんな。来年のみんなの運勢は100点満点です。たとえ何かがあったとしても、それはきっとあなたの人生にとっての飛躍、次のステップへと繋がるでしょう!』


 あくあ様はカメラに向かって、ホップ、ステップ、ジャンプを見せる。

 牡羊座って、誰が居たかな?

 確かとあちゃんとか、阿古さんとかが牡羊座だった気がする。

 あくあ様のコメントの後に、再び楓先輩が的に向かってパンチした。

 300……お前、上がってるじゃねぇか! 普通なら可愛く見せるためにヘロヘロパンチを打ったりして、きゃー、手、いたーいとか言うのが普通なのに、森川楓という女は、世界一良い男の前だろうとそんな事はお構いなしである。彼女は最初からそういう次元で戦ってないのだ。


『牡牛座のみんな、来年の運勢は100点満点だよ。今まで育ててきた事が実り咲く年になるでしょう。そう、昨日までの自分よりもさらにビッグに! さらに大きくなれるチャンスがあるんじゃないかな! 大きいのはいい事だと思います』


 真剣なあくあ様の表情に一瞬でホゲりそうになる。

 って、牡牛座生まれって私じゃん!

 確か結さんもそうだっけ?

 今の自分よりも大きく……?

 まっ、まさか、私と結さんのものが今よりも大きく育ってしまうと、そうおっしゃられているので!?

 楓先輩のパンチが330を突破した。こいつ、完全にコツを掴んだ顔をしてやがる。


『続きまして、双子座のみんなも来年は100点満点だ! 来年のあなたは仕事運MAX、仕事がたくさん舞い込んでくるとかだけじゃなくて、もしかしたら仕事を通して誰かと仲良くなれちゃったりするかもしれないね! 俺とも仲良くしてくれよな!』


 はーい! 双子座っていうと、ミクおばちゃんとアヤナちゃんか。

 おばちゃん、あくあ様とまだ距離があるってシュンとしてたから、何かの共演がきっかけで仲良くなれると良いなぁ。アヤナちゃんも、あくあ様が好きなのはモロバレだから頑張って欲しい。


『380!? え、えっと、蟹座の皆さんも来年は100点満点です。来年もきっと楽しくて騒がしい一年になると思います。だから最後には笑顔で、色々あったなあと思えるような年にしましょう!』


 あくあ様はカメラに向かって満面の笑みを見せる。蟹座といえば楓パイセンだ。

 この企画、楓パイセンが100以下を出さないから完全に企画倒れな気がする。

 でもまぁ、全部100点で良いんじゃないのかな。こういうのは気持ちだっていうし、いいことあると思ってりゃそっちの方が毎日、楽しい気持ちになるしな。どうせ、あくあ様は100%、悪い事言わないし。


『450! おぉ、マックスの500まであと少し……。あ、次は獅子座の人ですね。獅子座のみんなの運勢は、ターニングポイント! もしかしたら人生を変えるターニングポイント的な何かが訪れるかもしれません。でも、きっと大丈夫! 俺がそばにいる!』


 うぉー! 良いなー。

 獅子座って誰だ? 黛君とかが獅子座だった気がするな。

 あ……パンチングマシーンをする前に、楓パイセンがカメラへと視線を送る。

 私はその行為だけで全てを理解した。

 楓パイセン、もしかして乙女座の嗜みのためにMAXの500出そうとしてる!?

 漫画みたいに手をぐるぐると回した楓先輩は、完璧な踏み込みとクリティカルヒットでついに目標を達成した!


『やった、500だ!』

『すごいじゃない!』


 あくあ様と小雛パイセンがハイタッチする。

 うおおおおおおおおおおおおお! 楓パイセンすげー! ホゲ川よくやった!!

 きっとホゲった顔でテレビを見ている嗜んとかさんも大喜びだよ。

 まさかの妊娠祝いに私も少しうるっとした。でも、よく考えたらこの良い加減な占いに、そんな価値ないんだよなぁと思うと、違う意味で涙が出てくる。


『乙女座の君も来年は100点満点だ! 幸せが君の近くに舞い降りる事を祈っておくよ!』


 そういうとあくあ様は画面に向かって投げキッシュした。

 思わず私の口もひょっとこみたいにググッと伸びる。

 そういえば姐さんも乙女座か、姐さんにも赤ちゃんができると良いなあ!

 次に楓パイセンが叩き出した数字は460だ。


『天秤座のみんなも来年は100点満点だ!! 来年は忙しくも楽しい年になるだろうけど体調には気をつけてね。それでも無理しちゃうみんなのためにこの一言を贈らせてください。よく頑張ったね! えらい、えらい!』


 あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!

 天秤座じゃないけど、思わず画面に向かって頭を差し出してしまいそうになる。

 確か天秤座って白龍先生だっけか。あの人、忙しそうもんな……。

 再び気合を入れた楓パイセンは480を叩き出す。


『蠍座のあなたも100点満点だ! 今までやって来たことが報われる年になるはずです。もしかしたらその兆しが見えるだけかもしれないけど、きっとそれは何かがよくなる気配を連れてきてくれているはずですよ!』


 そういってあくあ様は画面に向かって手を伸ばす。

 蠍座って誰がいたっけ……? 揚羽お姉ちゃんって蠍座だったかな?

 なんか黒蝶も今、きな臭い動きがあるって聖あくあ教から上がってきてるからなぁ。

 揚羽お姉ちゃんは頑張ってるから、なんとかして報われて欲しいところ。あくあ様辺りがいつ剣、いつもの剣崎みたいに助けてくれねぇかな。

 画面の前の楓パイセンが真剣な表情を見せる。あっ、そっか、次は……。


『おっ、また500点だ。森川アナありがとうございます!』


 あくあ様の射手座、さすが楓パイセンだ。無駄にホゲってるわけじゃない。

 はっ!? もしかしたら、今日、この日のためにわざとホゲってパワーを温存してたんじゃ……。すげぇ! やっぱりメアリー卒は伊達じゃねぇぜ!!


『俺と同じ射手座のみんな。俺が幸せなのに、お前らが幸せじゃないわけないだろ? つまり来年も100点満点です!』


 ある意味、最強じゃねぇか!

 って、他に射手座っていたっけ? あ、そういえばくくりも射手座か。

 ん? そういえば、あと、もう1人居たような……。


『ただし同じ射手座でも小雛ゆかりさんだけは、箪笥の角に小指をぶつけるでしょう』

『ちょっと! なんで私だけ別個なのよ!! 占いまで私をぼっちにしようとするな!! 一緒にしーろー!』

『いてて、わかりましたって。もう』


 2人のやりとりに思わず歯茎でた。

 やっぱり普段の行いって重要なんだなって思う。

 あくあ様は次に行く前に、ジッと拳を見つめる楓パイセンを見て声をかける。


『ん? 森川アナ? どうかしましたか?』

『ううん。なんでもない。大丈夫大丈夫!』


 楓パイセンはそう言ったが、次の山羊座では一気に290まで数字が落ちた。

 落ちても290ってところがもうすでに異常なんだけどな……。


『山羊座のあなた! あなたの運勢も来年は100点満点だ!! もしかしたら何か新しい良い出会いが訪れるかもしれません! そんなあなたにこの一言を贈らせてください。大丈夫、勇気を出して!』


 もうすでにあくあ様と出逢っちゃてるんだよなぁ。

 おそらく山羊座の皆さんもそんな事を言っているだろう。

 山羊座って誰だ? あっ、そういえば忍者って山羊座だっけ?

 確か誕生日が1月2日だったような……やべぇ、なんかプレゼント買わねえと!!


『160!? あ、えっと、水瓶座のみんなの運勢も100点満点です! きっとあなたにとって大きな変化が訪れるでしょう。でも、その変化を恐れないで。さぁ。俺と共に行こう!!』


 楓パイセン、これ、絶対に怪我してるだろ。あからさまに限界じゃねぇか。

 水瓶座というとクレアか……。

 あいつも少しは報われると良いんだがな。

 とりあえずクレアの精神状況の改善は聖あくあ教の中でも最優先事項だ。

 まずはポケットの中に入ってる、あのダミーボタンからどうにかしないとな。

 あくあ様は、楓パイセンに近づくと、代わろうと声をかける。

 しかしここまで来たら最後までやると楓先輩は首を横に振った。

 なんだろう、これ……まるで世界大会に向かうプロアスリートの図に見えるけど、アナウンサーがただパンチングマシーンしてるだけなんだよな。あれ? これ何の番組だっけ?


『森川アナ頑張れ!』

『気合い入れなさい!』


 小雛ゆかりパイセンとあくあ様の声援が飛ぶ。

 楓パイセンにも2人の想いが、画面前の前で見てるみんなの想いが届いたのか渾身のパンチが決まる。


『120! やった!! 全員、100点満点だ!!』

「よっしゃー!」

「にゃー!」


 私も猫と一緒になって喜び合う。

 なんだこれ……そう思ったのは、それから数秒経って冷静になった後だった。


『えっと、最後の魚座の人、あなたも100点満点です。きっとあなたにとって、この一年は穏やかな一年になるでしょう。もし、そうじゃなかったとしても、ホッと一息できるような、そんな時間がみんなに訪れますように願ってます!』


 魚座というと天我パイセンか。

 よかったな。聞いた話によると、相当長い片思いだったそうだし、桜庭春香さんだっけ。2人とも幸せになってほしーわ。


『それでは最後に本日の天気です』


 楓パイセンが前に出るとカメラが引く。

 すると助走をつけて大きく足を振り上げた楓先輩が、履いていたスリッパを空高く飛ばす。


「あっぶね!」


 流石はゴリ川さんだ。パワーがありすぎて天井の照明にスリッパが当たりそうになる。

 お前、それ壊したらン十万とかだぞ……。

 少しは加減すりゃ良いのに、森川楓の辞書にあるのは常に全力という言葉だけだ。


『はい。そういうわけで今日の天気は晴れです!!』


 朝イチにあった国営放送のニュースじゃ曇りって言ってたけどな……。


『たとえ曇りだとしてもみんなのパワーで雲すらも弾き飛ばせ!! 森川楓の週刊ぱわ〜ニュース! 本日のゲストは白銀あくあさんと小雛ゆかりさんでした』

『みんな、今日はありがとう! 源軍への投票、よろしくお願いします!』

『ちょっとぉ! あんたそれズルすぎでしょ! 反則よ反則、反則負け! みんなわかってると思うけど平軍に入れるのよ! 平軍に投票してくれたら、こいつの間抜けな寝顔画像をネットに晒します!』

『ちょ! 小雛先輩!? そっちの方がずるいでしょ!!』


 あくあ様と小雛ゆかりパイセンが揉み合う。

 良いなぁ。私もあくあ様と揉み合いたいなぁと、呆けた顔で画面を見つめる。


『それでは次週に向かってー! ぱわ〜〜〜タックル!』


 楓パイセンがカメラに向かってタックルしたところで番組は終了した。

 あー、なんだろう。このとてつもなく時間を無駄にした感じ。

 最近じゃ楓パイセンのニュースを見る事は、貴族の嗜みだと言われている。

 暇を持て余したゆとりのある人達が、優雅に無駄な時間を消費しているという事らしい。

 私にはよくわからないけど、とにかく楓パイセンのニュースを見て無駄に時間を過ごす事がお金持ちや権力のある人達の間で流行っているというか、ステータスとされているとか、なんとか……。最近じゃこれ、字幕入りで世界に放送されてるんだっけか……。ま、まさか、世界の権力者が、こんなくだらないニュースを本気で見てるわけないよな?

 私はほっぺたをひくつかせながら、テレビの電源を落とした。

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