ベリルアンドベリル USJスペシャル。
「USJに、来たぞおおおーーーーーーーー!」
「うおーーーーーーーっ!!」
ハイテンションでガッツポーズする俺と天我先輩がカメラの枠いっぱいに収まる。
あれ? なんか慎太郎もとあも元気ないな? もしかしてもう疲れてきたとか?
あっ、むしろ旅行でテンション上がりすぎた俺達の方が前に出過ぎね。了解。
「で、天我先輩、USJって知ってますか?」
「いや、実のところはよく知らん!」
知らないのにあんなに喜んでたの!?
みんなが思わずズッコケそうになった。
「慎太郎、頼む……!」
「説明しよう。ユニバーサル・ステイツ・ジャーニー、通称USJとは。エンターテイメントの本場、ステイツから輸入されたテーマパークである!!」
流石は慎太郎だ。俺と天我先輩はメガネをクイっとさせる慎太郎の両隣で、演出のためにカッコイイポーズを決める。
とあはそれを何してるんだろうって目で見ているが、周りで見学しているお客さんたちには大受けだった。
「そういうわけで今日はそのUSJさん全面協力のもと、俺達4人で遊び尽くしたいと思います!!」
俺が拍手をすると、スタッフのみんなや周りにいたお客さん達も拍手をしてくれた。
「で、とあはどこ行きたい?」
「んー、やっぱりショップでみんなにお土産を買うか、テーマパークに来たんだからアトラクションに乗りたいよね」
「OK!」
俺は近くにいたスタッフさんを手招きする。
「はい、そういうわけでUSJの谷口真美子さんに来ていただきました!」
谷口さんは俺がSAで電話をかけた時に出てくれた女性だ。
俺を含め周りのみんなで拍手をして出迎える。
「あっ……USJの谷口真美子です。先ほどはお電話ありがとうございました。それでは、警備の問題もありますので、アトラクションとショップ、両方順番にご案内させていただきますね」
「やったーーー! 両方楽しめるぞー!」
「うぉーっ!」
俺と天我先輩のテンションは爆上がりだ。
とあも冷静を装っているが、さっきの感じを見る限り相当楽しみにしてきたんだろうなってのがわかる。
その一方で俺は少しソワソワしてる慎太郎の事が気になった。
もしかしたら慎太郎はアトラクションとか苦手なのかもしれない。
そう思った俺は、移動の途中でそっと慎太郎に話しかける。
「慎太郎、大丈夫か?」
「あ、ああ、実はずっと前からここに来たくてな。もしかしてソワソワしすぎて挙動不審になってたか?」
あぁ、そっちか! にしても意外だな。俺はてっきり慎太郎はこういう騒がしいところはあまり得意じゃないのかなと思ってた。
「ここには、俺が小説で読んでた作品のアトラクションがあったりするからな。あ、あくあは魔法使いとかには憧れたりしないのか?」
「もちろんするに決まってるだろ! とう……じゃなかった。空とか飛んだり、手から炎とか出してみたいよな」
危ねぇ。もう少しで透視の魔法っていうところだったぜ。
ピュアな慎太郎は気がついてないみたいだが、これが察しのいいとあならバレてたかもしれねえ……。
「僕も同じだ。子供の頃は何のしがらみもなく、自由に空を飛べたらって何度も思ったよ」
「子供の頃は……? 今は違うのか?」
「ああ。あくあに出会って、魔法なんてなくったって僕は、黛慎太郎はどこにだって自由に行けるようになったからな。だからほら、今、こうやって僕達はここにきてるだろ? 友達と一緒にテーマパークに来れるなんて、半年前までは夢にも思わなかった」
「慎太郎……」
俺は思わず目頭を押さえた。
お前、このタイミングでそういう事言うなよ……。
年頃の男子ならもうちょい恥ずかしがれって思ったけど、素直に嬉しかった。
「よっしゃ! そういう事なら今日ははっちゃけようぜ! みんなにニュー黛慎太郎をお披露目だ!!」
「ニュー黛慎太郎!?」
「おっ、ちょうどそこにいいのがあるじゃないか!」
俺は近くにあった路上カートに行くと、店員のお姉さんからグッズを購入する。
もちろん購入したアイテムはその場で慎太郎に装着した。
「こ、これは……!」
「じゃーん! 慎太郎の好きな小説の主人公、ハラー・ヘッターのなりきりグッズだ!! ちなみに慎太郎だけだと恥ずかしいだろうと思って、俺は赤毛のロニーの一式を装着するぜ!!」
赤毛のロニーは一見すると苦労人のように見えるが、やる時はやるかっこいい奴だ。
ただ、女心に鈍感なところは直さなきゃな!
「ってぇ!」
あっぶな! 今、どこからか俺の目の前に特大のブーメランが飛んできた。
「あ、ごめん。それ、僕のブーメラン。なんとなくだけど、そっちに投げといた方がいい気がして、つい……」
どこに売ってたんだよそのブーメラン……。
よく見ると、とあはハラーとロニーの友人、ヘルミオーネのコスプレをしていた。
普通に似合ってるな。うん。
そして俺達3人がこのコスプレをしているという事は……先輩はフォイだな!
俺は確信して先輩の方を振り向く。
「恋焦がれた復讐は時として蜜より甘い」
そっちかあーーーーーーーー!
なんでよりによって、ベルセウス先生なんだ!
そこでフォイフォイを選択しないから、先輩だけたまにはみっちゃうんだよ!!
「天我先輩、すごく似合ってます。ところで、あくあは大丈夫か? 先輩を見て急に膝から崩れ落ちたが……」
「うんうん、ベルセウス先輩っぽい。あと、慎太郎、あくあはいつもみたいにふざけてるだけだから大丈夫だよ。それとあくあの行動を一々疑問に思ってたら、この旅、最後まで体力が持たないよ」
あれ? なんか俺の扱い酷くない?
まぁ、いいか。それより谷口さんを待たせちゃったな。
「寄り道しちゃってすみません、谷口さん」
「いえいえ、大丈夫ですよ。それにその格好は次行くところにもぴったりですから!!」
そうして俺たちが連れて来られたのは、ハラー・ヘッターの舞台に出てくる街並みが再現された場所だった。
やべぇ! もうこの時点で感動だわ。
「ちょ、家族に送るから誰か写真撮ってくれ!」
「うむ。それならばプロキャメラマン、天我アキラに任せるが良い!」
流石は天我先輩だ!
教師であるベルセウス先生のコスプレをしているせいか、もう修学旅行に来た引率の先生にしか見えねえ!
「ありがとうございます先輩!」
「うむ!」
天我先輩に写真を撮ってもらった後にふと周りを見ると、お客さん達が携帯を手に持って撮りたそうにこっちを見ていた。
「何? みんなも撮りたいの?」
俺がそう聞くと周りで待ってくれていたお客さん達全員が無言で頷いた。
「仕方ないなぁ。それじゃあ、みんなかっこよく撮ってくれよな! あ、その代わりみんな、撮った写真は、本放送があるクリスマスまで出しちゃだめだぞ。あくあさんとの約束だ。それが守れる人は、撮っていいよ!」
俺は建物やオブジェの近くでみんなが撮影しやすいようにポーズを決めたりする。
それに気がついたとあや慎太郎、天我先輩も混ざってほんの少しだけど撮影会ぽい事をした。
「すみません、谷口さん。何度もストップしてしまって……!」
「いえ! 私達もその……たくさん撮らせてもらいましたから」
俺達は谷口さんの案内でそのまま建物の中に入る。
すると、そこにはいかにもなお婆さんが立っていた。
「ひっひっひっ、また若くてイキが良さそうなのが4人も……。どれ、私が杖を選んであげようかねえ」
おばあさんは後ろを振り向くと、壁一面が棚になっているところから一つずつ箱を取り出した。
やべぇ、これもう映画じゃん……!
「まずはそこのメガネの坊やからだよ」
お婆さんは小さなメガネをずらすと、慎太郎の顔を覗き込む。
「ふむ……メガネの坊やからは、大きな後悔が見えるのう。それに、小さくない悩みを抱えているように見える」
「っ!? 大きな後悔……どうして、それを! それに、小さくない悩み……?」
「大丈夫。今のメガネの坊やなら、その後悔はゆっくりとじゃが、いつの日か必ず晴れる日が来るはずじゃ。しかし……もう一つの小さくない悩みは少し厄介者じゃのぉ。まだ問題にもなっとらんみたいじゃしなあ」
「それは……もし、それに気がついた時には、どうしたらいいと思いますか?」
「ふむ。その時が来たら、真っ直ぐと己の心に聞いてみることじゃ。幸いにもメガネの坊やは、最良の手本を誰よりも近くで見てきておるから心配せんでも大丈夫じゃて」
お婆さんは、近くに置いてあった新しい箱を手に取ると、中に入っていた杖を取り出した。
「この杖は新しい木で作られておるが、だからこそ何にも染まってないんじゃ。成長盛りのメガネの坊やに合わせて馴染んでいけばええ。コアになる宝石はアクアマリン、その宝石に込められた言葉は……聡明と勇敢。きっと道に迷った時、前に進む勇気となるはずじゃ」
「あ、ありがとうございます!」
すげぇ……なんかよくわからんけどそれっぽい!!
「次は我だ!!」
天我先輩は意気揚々と一歩前に出る。
「ふむ……。お主はもう覚悟が決まっているようじゃな。私からアドバイスする事はなさそうだねぇ。そんなお主にピッタリな杖は黒檀の杖じゃ。コアとなるパパラチアサファイアの宝石言葉は一途な愛、運命的な恋、そして、信頼関係。どうじゃ。気に入ったか?」
「気に入った!! 特に杖が黒いのが最高にいいな!!」
あ、うん、なんとなくわかってました。
先輩、黒いの大好きだしね。
「それじゃあ次は僕が行ってくるよ」
お婆さんはとあの顔を覗き込むと、難しそうな顔をした後、少し悲しげな表情を見せる。
「なるほどねぇ。過去、今、未来……苦難が絶えないお嬢さんには、このアイオタイトがコアになった杖を授けようじゃないか。アイオタイトの宝石言葉は目標に向かって正しい方向に前進する。この杖がお嬢さんの未来を正しく切り開いて行けますようにと願いをこめて。そしてこの杖に使われた木はブドウの木じゃ。ブドウは周りに蔦を伸ばして巻きつく植物じゃからのう。どうせ苦難の道なら、1人より2人、2人より3人、3人より4人がいいじゃろ」
「ありがとうございます……!」
次はいよいよ俺の番だ。
それにしてもただ杖を買いに来ただけなのに、えらく本格的すぎやしませんか?
まぁ、ワクワクするから別にいいんだけど……って、これ、何かのフラグじゃないですよね?
「最後はお前さんか。最初は情熱のアウイナイトを勧めようと思ったが、どうやらもうすでに石言葉である過去との決別は終わっているようだね。ふむ……。どうしたものか」
お婆さんは後ろの棚をゴソゴソすると、角がヨレ、表面が擦れた古ぼけた箱を出してきた。
その箱を開けた瞬間、俺の視界に一本の美しい杖が現れる。
「そんなお前さんにピッタリの宝石はダイヤモンド以上に光り輝くとされているベニトアイトじゃ。人智の外、真理の範囲外。説明がつけられない才能。優しい正義感と曇りなき明るさ。他者の良いところを見つけるのが上手で、お前さんが動くだけで世界は煌めき、希望に満ち溢れる……。男も女も年寄りだろうが若者だろうが関係ない。皆がその溢れるばかりの魅力に惹きつけられるじゃろう。そしてこの杖は桜の木でできておる。お前さんの国の象徴となる木じゃ。お前さんがこの国を引っ張ってくれると信じて、特別にこの杖を渡そう」
杖を握るとあまりにもしっくりくる。まるで最初から持っていたみたいだ。
もしかしたらこれは運命かもしれない。俺はそう思った。
「ちょ、ちょっと……さっきの杖、在庫……もう5年くらい前から抱えてる奴ですよ」
「ふひひ、あくあ様と同じ杖じゃって言えば、みーんな定価以上で買うじゃろ。ビジネスチャーンス」
「ん? 谷口さん? お婆さん? 何か言いました?」
「「いえ、何も!!」」
俺は首を傾ける。ん……俺の気のせいか!
「コ……コホン! それでは次に城の中をご案内しますね!」
谷口さんの後に続いて俺達は城の方へと向かう。
「でけぇ!」
「これを作っちゃうんだから凄いよね」
城の中に入っても圧倒された。
ちゃんと内装の細かいところまで作り込まれている。
これがステイツの本気かと思った。
俺達は学校に通う新入生として、お城の中でいろんなイベントを体感する。
『まずは君達の魔法の力を見せてくれ』
どうやら最初は杖を使ったARアトラクションのようだ。
目の前に出てきた的を目指して杖を振れば、空中に球の映像が現れて目標にぶつかる仕組みらしい。
「ふっ、どうやら我の黒杖が火を噴く時が来たようだな」
「先輩、悪いけど、ここは俺と相棒……紅桜が目立たせてもらいますよ!」
「な……に……? ベニトアイトと桜の木で紅桜だと……ぐぬぬぬ。後輩……やるな!」
「先輩こそ……!」
俺と先輩はガッツリと握手を交わす。
その後ろでとあがジト目で俺達のことを見ていた。
「ねぇ、僕はあれに混ざらなくてもいいよね?」
「え?」
「え? ……もしかして、慎太郎は混ざりたいの?」
「……ちょ、ちょっとだけ」
ん? とあと慎太郎は何を話してるんだ?
あ、もしかしたら混ざりたいのか? それなら早くしてくれよ。
自分で言っといてなんだけど、もうちょっと恥ずかしくなってきたところだ。
「永久の闇に誘われろ!」
相変わらず天我先輩はくそかっこいい無駄ポーズで杖を振った。
俺もそれに合わせて魔法を撃つ。続くようにとあや慎太郎も的に当てていく。
『ほう、みんな中々やるじゃないか』
おっ、褒められたぞ!
魔法のテストを終えた俺達は先に進む。
廊下を抜けその途中で教室を見学し、食堂となる大きな広間や実験室。職員室や救護室などを見学する。
そのところどころで細かなイベントがあり俺達はその度に楽しんだ。
「それでは、ここからアトラクションにご乗車していただきます。ちょっと揺れたりするけど大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫!」
「僕も大丈夫だ」
「僕も大丈夫かな」
「我も大丈夫だ!!」
こうして俺達は4人でアトラクションに乗る。
前列左から、慎太郎と天我先輩、2列目がとあと俺の順番だ。
「さぁ、ここからは激しい戦闘になります。どうか気をつけて、いってらっしゃいませ!!」
「「「「はーい!」」」」
うおっ!? スタートと同時にガタンとアトラクションが大きく動いてびっくりする。
それに合わせて目の前の映像が切り替わった。
『よくきたな新入生の諸君!』
箒に跨ったキリッとした表情の魔女が目の前に現れる。
おお! かっこいい! ショートカットの似合うクール系の美人さんだ!!
お姉さんの表情は、どこか焦っているように見えた。
『今から私たちはここに攻撃を仕掛けて来た者達へと応戦するために最前線へと向かう。今は人が足りないから、お前達にも協力してもらうぞ!』
制服を見る限り彼女は上級生なのだろう。
箒に跨ると、もう一度俺たちの方へと振り返る。
『さぁ。いくぞ! 我に続け!!』
「うぉっ!?」
「うおおおおおおお!」
「うわぁ!」
「おおおおお!?」
アトラクションが動き出した事でみんなが一斉に声を出してリアクションする。
ちなみに1番最初に驚いて声を出した俺は、アトラクションが動き出したから声を上げたわけではない。
箒が浮いた瞬間、目の前のお姉さんのミニスカートがふわりと浮いたのである。
流石に中身は見えなかったが、ものすごくワクワクした気持ちになった。
おそらくあれほどスカートが浮いて見えなかったという事は……ズバリ、お姉さんが穿いているのは紐……いや、最初から穿いてないという可能性もあるのではないだろうか。
これは何度か乗って検証する必要があるようだ。
『くっ、きたぞ! 全員、ホルダーから杖を抜いて戦うんだ!』
俺達はあらかじめ自分の座席の前に取り付けられたホルダーに入れた杖を引き抜くと、目の前を飛んでくる魔法に向かって何度も杖を振り続ける。
この間、俺たちが乗っているアトラクションは、杖を落とさないようにゆったりとした動きでふわふわと浮いているだけだ。
『みんな、良くやった!! さぁ、援軍が来たぞ。私達は学校へ帰ろう!!』
『空を高速で飛ぶ時は、杖を落とさないようにホルダーにしまってね』
なるほど。どうやらホルダーに杖をセットしないとアトラクションがスタートしないようだ。
俺達4人が揃って杖をセットすると、再びアトラクションが動き出す。
最初はゆったりとした動きだったが、急に目の前が霧に包まれて暗雲が立ち込めて行く。
『くっ、追っ手か!』
『どうやら私達だけでも倒そうとしているみたいね』
『全員、全速力で逃げるぞ!!』
うおおおおお!
乗っていたアトラクションが加速する。どうやらここから先がジェットコースター要素のようだ。
俺は目の前を飛ぶお姉さんのミニスカートを注視する。もしかしたら激しい動きでチラリと見えるかもしれない。
ん? なんか腕が引っ張られるような感覚がして横を向く。
すると隣に座っていたとあが俺の袖をキュッと掴んでいた。
「うおおおおおおおお!」
その一方で前に居る慎太郎は楽しそうに両手を上げる。
「あっ……」
慎太郎? どうかしたのか?
そう思った瞬間、何かがスローモーションで空中へと投げ出されていくのが見えた。
あっ、あれは……! 慎太郎のメガネだ!!
手を伸ばせば掴めるか!? いや、無理だ。
この間、わずかに0.01秒。俺は足りない分を伸ばすために、目の前にあったホルダーから杖を引き抜いて天高く掲げる。
しかし、俺の杖の長さが足らずに……いや、本当は足りていたはずなのに、俺が想定していたよりも杖の長さが短くなっていた事で、慎太郎のメガネは俺が掲げた杖の上を掠めていった。
先端が折れ短くなった杖を見た俺の絶叫がお城の中に木霊する。
「おっ、俺の相棒がああああああああああ! 紅桜ーーーーーーーーっ!」
どうやら固定されたホルダーから杖を無理やり引き抜いたせいで、先端がポキッと折れてしまったらしい。
「お帰りなさいませ。当テーマパーク自慢のアトラクションはどうでしたか?」
「あ、えっと、楽しかったです」
沈痛な表情を見せる俺と慎太郎を察して、とあがみんなを代表してコメントをする。
とあは頼りになる奴だよ。それに比べて俺はなんだ。
慎太郎の命、もう1人の慎太郎と言っても過言ではないメガネの命も守れずに、相棒までこんな姿にして……自らの非力さに俺は地面に膝をつき四つん這いになる。
「あ、あの……メガネ見つかりました」
スタッフさんが落下してきたメガネを拾ってきてくれた。
俺と慎太郎、とあの3人はお姉さんの手のひらに乗せられた慎太郎のメガネへと視線を落とす。
うん、どっからどう見ても修復不可である。完全に複雑骨折です。
「と、とりあえずテープで巻いてどうにかするよ」
「あ、はい。それならこっちにテープがありますのでどうぞ」
慎太郎……。辛いだろうな。わかるよ。俺も相棒を失った同志だからな。
「あ、あの、白銀さん。ホルダーに詰まってたコレ、取れました」
「谷口さん、ありがとうございます。ほんと何から何まですみません……」
俺はそういうと、慎太郎からセロファンテープを貸してもらって紅桜を修復する。
ごめんな。紅桜。痛かったよな……。俺は紅桜に謝りながらセロファンテープで患部をぐるぐる巻きにする。
「もーっ、2人とも暗いって! ほら、気を取り直してショップでお土産買お!」
「とあ……!」
俺は慎太郎と顔を合わせるとうんと頷いてから笑顔を見せる。
「よしっ! お土産いっぱい買うぞー!」
「「おーっ!」」
ん? あれ……?
なんか1人少なくないか?
俺はそこで天我先輩の存在を思い出した。
「先輩? って、居るんならなんか言ってくださいよ!」
俺は直立不動で立っていた先輩の背中を軽く叩く。
すると先輩がゆっくりと前に倒れ始めたので、3人で慌てて天我先輩の体を支える。
「きっ、気絶してる……!」
なるほど、先輩はこういうアトラクション苦手だったんだな。
俺達は気絶した先輩が復活するのを待ってから、谷口さんの案内でショップエリアへと行く。
「それじゃあまた後で」
お店が多いので、俺達4人は分かれて探索する事になった。
俺はすぐにハラー・ヘッターのコーナーに行くと、カノンにも衣装と杖を購入する。
帰ったら2人でごっこ遊びをするためだ。
俺は他にもみんなにお菓子のプレゼントを買ったり、使ってくれそうなグッズを買ったりしていく。
「いやー、楽しかったな」
「うん。楽しかった!」
とあと俺は顔を合わせると、少し体を傾けてねーっと言った。
「また来たいな」
「ああ!」
俺は同じ傷を背負った同志である慎太郎とハイタッチする。
「先輩は? 大丈夫?」
「も、もちろんだ。すまない。我とした事が……くっ!」
いやぁ、誰にだって苦手な事はあるし、仕方ないですよ。うん。
「よし、それじゃあ、次の目的地に向かって出発しますか!」
「「「おーっ!」」」
「そういうわけでみんな! ベリルアンドベリルのクリスマススペシャル回は楽しんでくれたかな? えーっと、番組の最後では、この関西旅編で俺達が購入した様々なお土産を貰える応募企画があります。ファンのみんなの事を思って色々と選んだお土産達だから喜んでくれると嬉しいな! そういうわけでね。今から、応募に必要な5つのキーワードを発表したいと思います!!」
俺たちは顔を見合わせると、俺、慎太郎、天我先輩、とあ、そして全員の順で、自分達の体を使ってそれぞれの文字を表現する。
「最初のキーワードは、B! って最初から難しすぎる!!」
「2つ目のキーワードは、E…はこれでいいのか? あれ? 逆だったか?」
「3つ目のキーワードは、R!! どうだ我のこの完璧なRの反り返りは!!」
「4つ目のキーワードは、Y。そして一個余るし、この企画、絶対に失敗でしょ! あくあが変な事言うから」
「「「「最後のキーワードは画面のみんなも一緒に、L!!」」」」
俺は阿古さんから番組の告知が書かれた用紙を受け取ると、その場でバーンと大きく広げてカメラへと向ける。
「はい。そういうわけでね。実はこのベリルアンドベリル、毎月の定期放送が正式に決定しました! そして番組を長くをやって行く上で、僕達はベリルエンターテイメントを象徴する4人のグループ、その名の如くBERYL、ベリルという一つのグループとして活動していきたいと思います!!」
「そのまんまじゃん!」
「とあ、しーっ!」
俺はとあに近づくとカメラのマイクが拾えるようなヒソヒソ声で話す。
「仕方ないじゃん。もうこれで定着してるんだから。というかもう今更、違う名前つけたところでしっくりこなかったんだし、選択肢がこれしか無くなったというか……。スタッフだって全員頭抱えたんだぞ!」
「あー、うん。それはわかる。でも、それだと会社と被ってややこしくない?」
「仕方ない。こうなったら会社の名前の方を無理やり変えるか」
「嘘でしょ……」
「大丈夫。小雛先輩と違って阿古さんは優しいから、俺が泣きついて押せばどうにかなる」
「ひどい……」
「ま、まぁ、そこら辺はおいおいどうにかするから任せておいてよ」
よし、これでうまく話はまとまったな。
「全部聞こえてたんだけど……」
「えっ!?」
俺は素知らぬふりをして、明後日の方向を見ながら口笛を吹く。
「まぁ、いいけど、その辺はまたみんなを交えて話し合いましょう。ほら、それよりもさっさと締めて」
「あ、はい。そういうわけでベリルアンドベリル、次回は1月開催です! しかもなんと1月の企画は! 俺達4人による合宿生活に密着するぞ! みんな、楽しみにしててくれよな!!」
「バイバーイ、次も見てねー!」
「ご視聴ありがとうございました。また次回もよろしくお願いします」
「もちろんみんな見てくれるよな? 我との約束だ!」
俺達4人はカメラに向かって手を振る。
こうして俺たちのベリルアンドベリル、クリスマス回の撮影が終わった。
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