月街アヤナ、あくあとランチデート。
生放送で何やってんのよ。こいつ……っていうのが今の素直な気持ちだ。
私は隣の席に座ったあくあの事をジト目で睨みつける。
するとあくあは私の視線に気がついたのか、ごめんごめんという素振りを見せた。
もう! 謝るなら最初からやらなきゃいいじゃん。
でも……こういう子供っぽいところに、女の人、特に大人のお姉さん達はキュンとくるんだろうな。
楽屋でも年上の綺麗な女優さんとか、最近流行りのおっぱいの大きなお姉さんタイプのモデルさんとかがそういう話をしているのをよく聞く。
私も仕方ないなぁって許しちゃうから、もうきっとダメなんだろうな。
あくあって、こういうところ、本当に小雛先輩にそっくりだよね。
まぁ、それは置いといて、なんでここにいるのよ?
私がそう思っていると、司会の海沼さんがみんなの代わりにあくあに聞いてくれた。
「失礼ですが、なんでここにおられるんですか?」
「実はベリルのクリスマスキャンペーンで昨日は都内、今日は4人で分かれて他県のファンにプレゼントを届けているんですよ。その途中で偶然ここを見つけたので、せっかくだしアヤナと一緒にランチでも行こうかなと」
「ええっ!?」
私も心の中で海沼さんと同じリアクションをする。
待って、そういう事ならもっと早くから言っておいてよ! それならもっと可愛い服着てきたのに!!
「なるほどね……やっぱり、あくあ君も莉奈派ですか?」
「当然ですよ。だって沙雪の中身はあの小雛先輩ですからね。その時点でないでしょ。それに比べて莉奈は素直だし、頑張り屋さんだし、なにより結構、健気なところがこう……グッときます」
「ストップ! あくあ君、それ以上は隣のアヤナちゃんが大変な事になりますよ」
ありがとう。海沼さんが止めてくれて本当に良かった。
みんなが顔を赤くした私の方へと視線を向ける。
「みんな、この顔見て。本当に可愛らしいなぁ。流石は今をときめく男女のトップアイドル2人ですよ。あくあ君もアヤナちゃんも顔ちっちゃいし、シュッとしてはるし、は〜……やっぱり東京はちゃいますね。あ、ところで2人の結婚式はいつですか? 私、司会やりに行きますよ」
にゃ、にゃにを言ってるんですか!?
「あー、来年の夏くらいかな。海が見えるところなんかどうかなって思ってます」
あくあも何を言ってんの!? ねぇ、本当に自分の言ってる事わかってる?
「あくあ君、ノリ良すぎでしょ。話を振った私の方がびっくりしましたわ」
「すごいね。彼、もう開いた口が塞がらないよ。あ、元からか」
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー、もうだめ!
私は両手で顔を覆い隠すと、一旦気持ちをリセットする。
急なあくあの登場にただでさえ驚いているのに、心が落ち着かないうちにそんなネタ振らないでくださいよ。もう!
「そういえば2人って同じ学校に通ってはるんでしたっけ? お互いに学校ではどんな感じなの?」
「乙女咲では同じクラスなんだけど、一学期は隣の席同士でしたよ」
「は? そんなドラマみたいな事あるんですか? それかもうそれ、なんかドラマの撮影やってはられるんですか?」
「ははは、確かに今思えば、共演して今こうやって2人でテレビに出てるのってすごいですね」
思い出すな……確かあの頃の私は、あくあに対してつっけんどんな態度をしてて自分でも可愛くなかったと思う。
そんな私に変わらず接してくれて、共演して頑張ってる姿を近くで見て、自分の中で凝り固まっていたものがゆっくりと溶けていった。
「逆にアヤナちゃんから見て学校のあくあ君はどない感じですか?」
「ほんと変わりませんよ。このまんまです。それこそ、黛君やとあちゃんも変わらないですよ。皆さんがテレビで見るそのまんまのみんなが学校で授業を受けてると思ってください」
「いやー、ありがとうございます。これにはもうね、今日、ここに来てくれた愛知の視聴者さん達も、テレビの前の皆さんも大満足の答えじゃないですか? しかもちゃんと黛君やとあちゃんにまで言及してくれて、ありがとうございます。私が言わなくても、ちゃんと言って欲しい事がわかってる。アヤナちゃん本当に好き!」
「あ、ありがとうございます」
うん……嘘はついてないはずだ。
本当は学校にいる時のあくあの方が、ほんの少しだけ気が抜けた感があるけど、それも誤差の範囲内って事で大丈夫だと思う。
例えば前に仕事で忙しくて眠たくなったのか、授業中にうつらうつらして机に頭ぶつけて目が覚めたりとか、そういうちょっとドジなエピソードは可愛いけど、本人のためにも内緒にしておく。
それに自分が飲んでた牛乳と間違えてとあちゃんの飲みかけの牛乳を飲んだうっかりエピソードとかは、刺激が強すぎて死人が出たらいけないから話せないしね……。
「逆にあくあ君から見て、学校に居る時のアヤナちゃんはどないですか?」
「アヤナは学校に居る時の方が自然体って感じがします。アイドルのeau de Cologneとしてステージに立ってる時とか、役者の月街アヤナとして現場に居る時と比べて、真面目に教室で勉強してるアヤナの横顔を見ると本当に普通に高校生って感じで、そのギャップにグッとくるものがありますよ」
なんで私の横顔なんて見てんのよ! 授業中でしょ!?
ちゃ、ちゃんと前向いて、先生の話を聞いてなさいよ!!
「は〜、なるほどね。そういう事ですか……。はいはいはい、わかりましたよ。少し質問を変えますが、同じアイドルとしてお互いに尊敬するところとかはありますか?」
「あー、やっぱり華じゃないですか?」
「華、ですか?」
「はい。ステージの上に立った時、やっぱり目を惹くというか……アイドルって色んなタイプがいると思うんです」
「はい、わかりますよ」
「アイドルって応援したくなるっていうのが一つのポイントで、そういう子って人気が出やすいと思うんだけど、アヤナは最初からそうじゃないんですよね。アヤナの場合は歌もダンスも完璧で、ステージに立ったらいつだって変わらない、それこそいつもと同じ最高のアイドル、eau de Cologneのセンター月街アヤナのパフォーマンスを見せてくれるわけなんですよ。これって結構とてつもない事で、同じアイドルとしては尊敬します」
ちょっと待って、この番組って何?
今日のコーナーに、私の処刑って企画あったっけ?
恥ずかしくて思わず隣にいるあくあの背中をぐいぐいと押したくなった。
「俺はまだそこまで安定してないというか、天我先輩の言葉を借りるなら、パッション……ファンと熱を共有する事で誤魔化してるって言ったらいいのかな。ステージだとテンションが上がりすぎて、こうした方がいいんじゃないかって思いついたらアドリブで入れたりとか、どうにも楽しんでしまうというか遊んじゃうんですよね」
「はー……そういう事なんですか。私は結構好きですけどね、そういうところ」
「ありがとうございます!」
あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
もう何度心の中で、あーって叫んだかわからないよ。
ねぇ、あくあ、これ生放送なのわかってる? 生放送中に私を恥ずかしさで殺すつもりなのかな?
「アヤナちゃんはどう? 同じアイドルとしてあくあ君はどうですか?」
「アイドルとしてのあくあは、そうですね……純粋に羨ましいかな」
「羨ましい!? それはどういう意味でですか?」
「あくあのライブパフォーマンスは本当、見ていていつも楽しそうで……ううん、楽しいんだろうなっていうのが同業者の私から見てもわかるんですよね。でも、私の場合はeau de Cologneのセンターとして完璧にやらなきゃって事に拘り過ぎて、楽しもうって感覚を忘れてた気がしました。あくあのステージを見てそれに気付かされたんです」
「なるほど、それで、それがどうして羨ましいに繋がりはるんでしょうか?」
「その……楽しめるっていうのは、ステージに立った時に余裕がないと無理なんですよ。普段からちゃんと練習してて、自分のパフォーマンスに自信がないと余裕は生まれないんです。私はまだ、そこには至ってないので、純粋に羨ましくなりました。こういうと羨ましいっていうより、憧れって言った方がこの感情は近いのかもしれませんね」
うん……自分で言っていて恥ずかしくなった。
何コレ? どうしてこんな事になったの!?
「なるほどなぁ。2人はドラマでも共演してるけど、役者としてはどうなんですか?」
「役者としてのあくあは、一言でいうと純粋にすごい……かな。スイッチが入ると、小雛先輩のような凄みを感じる演技をする時もありますし、私も、もっともっと頑張らなきゃなって良い刺激を貰います」
「うんうん。わかるわぁ。めちゃくちゃ他局やけど、明日の夜やってるドラマとかは、本当まぁ、ドキドキさせられるというか、これも他局で申し訳ないんですが、ヘブンズソードやはなあたと違って、ゆうおにでは役者としてのあくあ君の凄みに毎回ドキドキさせられてます」
海沼さんの言葉に私は無言で頷く。
ゆうおにで一也を演じている時のあくあは司先生の脚本もあって、その凄みがわかりやすくなっている。
演じるキャラクターのシンクロ率で言えばヘブンズソードの剣崎だし、あくあの男性としての魅力を引き出すのははなあたの夕迅様だけど、役者としてのあくあの実力を引き出すのはゆうおにの一也だ。
「あくあ君はどうですか? 役者としてのアヤナちゃんは」
「役者としてのアヤナは読み解く力に優れていると思います。一緒に練習したりするんですけど、演じる事に対して脚本だったりキャラクターだったりに対して、脚本家や原作者が描きたい事、その意図を一つずつ丁寧に読み解いていくアプローチの仕方はとても勉強になりました。俺はそこらへんもっとこう……演じている内に、その流れの感情というか、感覚で合わせちゃうところがあるので」
それができないから、こっちはそういうアプローチの仕方をしてるんだけどね。
だから丁寧に丁寧に、とにかくひたすら丁寧に脚本とキャラクターを読み込んでいくスタイルの小雛先輩に指導された事は、私にとってはラッキーだった。
役者の私があくあに置いていかれないためにも、私はもっともっと小雛先輩を見て観察して学ばなければいけない。
「は〜〜〜、なるほどね。ところで2人の結婚式はいつでしたっけ?」
「何ならもうこの収録後にでもしちゃいます?」
「もう! 何言ってんのよ。このおバカ!」
あっ、思わず反応しちゃった……。
も〜〜〜〜〜〜っ! せっかく、無視してやり過ごそうと思ったのに、2人して私の事をいじるから!!
「ほんま、顔真っ赤にして可愛らしいなぁ」
「でしょ?」
だからなんであくあがドヤ顔してるのよ!!
ほんと、そういうところが小雛先輩とそっくりなんだから!
「そういう訳で……え? もう時間? 残念やけど、もう番組が終わりみたいですわ」
「あ……すみません。なんか最後、尺を使ってしまって」
「それなら最後、局違いますけど、葉さんと2人で並んで新旧ドライバーポーズしてもらえますか?」
「あ、いいですね」
「それ、楽しそう」
藤木葉さんとあくあは前に出ると、2人でかっこよく変身ポーズを決めて番組は終了した。
今日のドライバーで藤木さんが出演した事もあり、会場の中も大きな拍手に包まれる。
「ありがとうございました!」
「こちらこそ、色々とほんまにありがとうなあ」
「それじゃあ最後に、今日、たくさんプレゼント持ってきてるんで、よかったら会場に来てる人も、出演者の皆さんも、スタッフの皆さんも貰って帰ってくれると嬉しいです!」
「やったぁ! やっぱりあくあ君はわかってるなあ!!」
それから少しして収録を終えた私はあくあとランチを食べるために楽屋で服を着替える。
「すみません。衣装持ってきてたら貸して……ううん、買い取らせて欲しいんですけど」
「いいですよ。どうぞ」
今日来ていたスタイリストさんに相談しながらデート服を見繕ってもらう。
私物の黒ニットとショートブーツ、買い取った足首が見えるロングのチェックスカート、うん、これなら大丈夫だよね。
「その服なら、このライダースが似合うんじゃない?」
「え、あ……」
その様子を見ていた藤木さんが自分が着ていたレザーのライダースジャケットを脱いで私に着せてくれた。
「アヤナちゃんはこういう甘さと辛さが同居したようなファッションが似合うと思うんだよねー。それ、よかったら貰ってくれる?」
「え? でも……」
「私、レザーばっかついつい買っちゃうから、家にたくさんあるんだよね。嫌なら仕方ないけど、よく似合ってると思うよ」
「あ、ありがとうございます!」
さらにその様子を見てた海沼さんがやってくると、自分の持ってきたバッグの一つから中身を取り出してマネージャーに押し付けると、私にそのバッグを手渡した。
「それならアヤナちゃんにこのショルダーバッグもあげるわ。これ私の好きなフランスのブランドやけど、コロールの親会社やし、あくあ君ともぴったりとちゃいますか?」
「あ、いやその、流石にこれは高すぎてもらえませんよ!」
「ええのええの。その代わり、うまく行ったら結婚式に呼んでな!」
「あ……ありがとうございます!」
海沼さんは私にバッグを押し付けるように渡すと、スッと行ってしまった。
こ、ここのって、小さくても4、50万するけど、本当に大丈夫かな……。
でも流石はトップメゾンの新作だけあって普通に可愛い。うん、ここはありがたく使わせてもらおうかな。
「ついでだから髪も可愛くしてあげるね。あ……そのイヤリングかわいい!」
「あ、ありがとうございます」
私は鏡を見ながらそっとイヤリングに触れる。これは昨日、あくあからもらったクリスマスプレゼントだ。
そのイヤリングと、あくあから前にもらったリボンのヘアピンが似合うように髪もアレンジしてもらった私は、慌てて関係者用の出口へと向かう。あああああ! 思ったより待たしちゃった。
普通なら怒ってもいいはずなのに、あくあはいつもと同じように笑顔で出迎えてくれる。
「ごめんな。俺がランチ行こうって言ったから、色々と気を遣わせちゃって」
「あ……うん。こちらこそ、待たせちゃってごめんね」
やっぱり、あくあはずるいな。
待たせちゃったのは私なのに、先に謝っちゃうんだもん。
「後、その私服、すごく似合ってるよ。かっこかわいいってやつ」
もう! 何でそんな事をさらっていうのよ!
男の子が女の子にいう可愛いって特別なんだよ?
それなのにあくあだけはバーゲンセールのように言っちゃうし、これが適当に言ってるならまだしも、本当にちゃんと私を見てかわいいって言ってるから、こっちはそれで感情が大変な事になるんだからね!!
結婚してる貴方と違って、こっちは付き合った経験もなければ、あくあが初恋なんだから、もうちょっとこう……もーーーーーーーっ! 少しは手加減しなさいよ。
「アヤナはお昼、何食べたい?」
「うーん、せっかくだし愛知の名物とか?」
「それなら冬だし、味噌煮込みうどんとかどう? おうどん大使としては、やっぱ外せないかなって……」
「良いと思う。私、冷え性だから、あったかいの食べるの賛成!」
そういうわけで私達2人は、スタッフさんの運転する車で送ってもらってお店のたくさんある駅前へと向かう。
ちなみにその間にわざとらしくイヤリングやヘアピンがわかるようにアピールするけど、あくあは全くと言っていいほど気が付かない。もう! なんでそういうところは気がついてくれないのよ!
「え? 嘘? 本物?」
「さっき、テレビでランチ食べに行くって言ってたの本当だったんだ……」
「莉奈……じゃなくて、アヤナちゃん、がんばれ!」
「やば。生のあくあ様、やば……」
「流石現役のアイドルの男女ツートップなだけはある。オーラがすごい」
「ホゲー、あそこだけ完全に別空間でしょ」
うん。まぁ、普通にそうなるよね。
みんな遠巻きに見てくれているし、マナーがいいから助かってるけど、普通なら大パニックになってもおかしくない。
でもそうならないのは、やっぱりみんながあくあに今のあくあのままでいて欲しいからなんだと思う。
「すみません。いけますか?」
「うぇっ!? ほ、本物……しょ、少々お待ちくださいませ!!」
慌てるお店の人に対してぺこりと頭を下げる。
お客さんが多い時間帯を外しているとはいえ、ほんとごめんね。
「えっと、上に個室があるんで、そこでどうですか?」
「「ありがとうございます!」」
私とあくあは靴を脱いで個室に入る。
スタッフの人達は私に気を遣って反対側の大部屋で食べるそうだ。
みなさん、本当にありがとうございます。
「おおっ! これが味噌煮込みうどんか!! 真ん中に卵が入っててめちゃくちゃ美味しそう!」
「味噌煮込みうどん初めて食べるけど、お鍋で出てくるんだね。海老天まで入ってるなんて豪華ー」
「よっしゃ! 冷めないうちに食べようぜ」
「うん!」
「「いただきまーす!」」
本当はずるずるしたいけど服が汚れるわけにはいかないから我慢我慢……。
「はふっ、はふっ、うっま……! あっつ!」
「もう! 慌てて食べなくてもおうどんは逃げないわよ。はい、お水。火傷しないように気をつけてよね」
「ありがとう、アヤナ。味噌煮込みうどんのうまそうな匂いと湯気に、無意識のうちについ」
「ふふっ、まぁ、わからなくはないけどね。でも、ほら、こうやって少しは冷ましたほうがいいわよ」
私は髪がお汁につかないように手で押さえながら、掬い上げた麺をフーフーしてから口の中へと運ぶ。
んーっ。お味噌の味が濃くて美味しい。麺は思ったよりコシがあってびっくりしたけど、これが普通なのかな?
「ありがとうございます!」
「あくあ……なんで拝んでるの?」
「あ、いや、フーフーしてる時のアヤナが可愛くて、つい……」
なっ……! もーっ! あくあが急にそんな事を言うから、体が火照って暑くなってきたじゃない。
私は自分の顔をパタパタと仰ぎながら、口を少しだけ尖らせながらあくあの方へと視線を向ける。
「あくあってさ、それ、無自覚? かわいいって言われるのは嬉しいけど、そんな事を言われたら私でも流石に勘違いしちゃいそうになるんだけど」
「ああ、だから俺も、カメラの回ってないところで2人きりになったら、気のない女性にはそういう事は言わないようにしてるよ」
「え……? あ……それって、どういう」
「さあ? どういう事なんだろうね?」
何よその笑みは!? え……あ、う、そ、それって私に気があるみたいじゃない!!
って、え、もしかして私、今、気があるって事を言われちゃったの……?
「別に今すぐどうこうってわけじゃないけど、それくらい俺はアヤナの事は気にしてるし、いつだって心配してるって事を伝えておきたかったんだよね」
「……心配?」
「ああ、アヤナは強いからなんかあっても自分で解決しようとしたり、我慢して耐えようとしたりしちゃうだろ? だからといって、傷つかないわけでもないし、心が擦り減らないわけでもないと思うんだよ。ああ、うん……自分で言ってて気がついたけど、そんなアヤナの姿を見るのは嫌なんだよね。だからさ、アヤナは嫌かもしれないけど、こうやって何もなくてもたまに飯誘ったりするからな」
あ……私はあくあの言葉で、あの時の事件を思い出す。
私がその後なんも言わなかったから、あくあは私が本当はまだ辛い思いをしてたりするんじゃないかって、ずっと気にかけてくれたんだ。
だめ……そんな事、知りたくなかったよ。だって、知ったらもっと好きになっちゃう。
「嫌じゃない……むしろ、嬉しい。ありがとう」
「どういたしまして。はは、まぁ俺が飯食いたいだけなんだけどさ。っと、冷めないうちに食べよっか!」
「うん!」
私は熱った顔を誤魔化すように、味噌煮込みうどんをずるずると食べる。
ニットに汁が飛び散りそうになったけど、今度はそんな事を気にする余裕もなかった。
ん……?
でも、ちょっと待って、それじゃあさっきの可愛いは!?
気がない人には言わないって事は、うわあああああああああああああ!
聞きたい! 聞いてみたいけど、聞いてもいいの!?
恋愛の初心者マークをつけたばかりの私に、この問題は難しすぎます……。
「いやあ、美味かったな。おうどんだから、もしかしたら足りないかなって思ったけど、ちゃんと満腹感あるし、満足、満足!」
「うん。すごくおいしかった。ネギとかお揚げとか具がたくさん入ってるのも良かったね」
私の今日の仕事はもう終わりだけど、話に聞いたら、あくあはどうやらこの後もまだお仕事らしい。
すごいなぁ。ほんと、どれだけ体力あるのよって思う。
「それじゃあ、アヤナ、またな!」
「うん! 今日はランチ誘ってくれてありがとう!」
私はスタッフの人が用意してくれた車に乗り込む。
するとあくあが、扉を閉める前にそっと私の耳元で囁いた。
「俺のプレゼントしたそのヘアピンとクリスマスプレゼントのイヤリング、すごく似合ってる。ありがとな」
ずるい! 最後の最後にそういう事を言うのは本当にずるい!!
もしかしたら忘れちゃったのかなと思って、さりげなくアピールしたりして、こっちはドキドキしてたのに!! もう、絶対に私の事を弄んでるでしょ!
「それじゃあまた年末な!」
「うん!」
私はあくあと別れると、スタッフさんに駅まで送ってもらい帰路に着く。
この後、家に着いた私を待っていたのはベリルから送られてきたゲームだった。
そのせいで大晦日までの間、ずっと家でゲームをする事になるんだけどそれはまた別のお話である。
絶対、大晦日にあくあにあったら、あのゲーム、どうやってもクリアできないんだけどって文句言ってやるんだから! 後、小雛先輩のエンカウント率が高すぎなのよ!! なんなのよあれ! 絶対にクリアできないじゃない!!
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