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ヘブンズソード 第17話「未来」

すみません。遅れました。

 私の名前は夢園繭子。

 中学生の時に同級生だった猫山とあくんを教室で襲った事で有罪判決を受けて、未成年だった事もあり保護観察処分で少女院に送られました。

 少女院の生活は厳格で、日中は授業を受けて、夕方以降や休みの日は被害者への損害賠償のために、隣接の工場で仕事をしなければいけません。それに加えて私のような犯罪者に対しては教育プログラムが実施されています。

 最初の数週間はどうして私がこんなところにと思ってたけど、教育プログラムを受けるうちに、自分はとあくんに対して何て事をしてしまったんだろうと気付かされました。

 それからの日々は、自分がやった取り返しのつかない事に懺悔し、罪を償う事はできないけど贖罪のために黙々と汗を流しています。


「出ろ。道徳の時間だ」


 監察官の人に呼び出されて、私は同部屋の人達と一緒に大広間へと向かう。

 そっか……今日は日曜日だもんね。

 模範生、つまりは真面目に授業や仕事をやっている人達は、道徳の授業の代わりとしてマスク・ド・ドライバー、ヘブンズソードを視聴する事ができます。


「座れ!」


 私は監察官の指示に従い、決められた場所に座ります。

 犯罪者の癖にヘブンズソードが見れるなんて、と思う人もいるかもしれませんが、私達は視聴中、声を上げる事や立ち上がる事はできません。

 同部屋の子は、少女院の中でも最も苦痛なのがこの時間帯だと言います。


「全員、前向け前! 不動!」


 全員の視線がテレビの方へと向けられる。

 それから暫くしてヘブンズソードが始まりました。


『ミサ隊長!』


 とあくんの声に、思わず体が反応しそうになる。

 初めてヘブンズソードを見た時、画面に映ったとあくんを見て私は目を見開きました。

 私に襲われてきっと辛かったはずなのに、トラウマを抱えたっておかしくないのに、それでもこうやって頑張ってるとあくんを見て、自分がしてしまった事の大きさに、犯してしまった罪の深さに今更ながらに向き合わされたからです。


『あいつは私が倒す!!』


 とあくん演じる加賀美隊員の制止を振り切った夜影ミサ隊員は、追い詰めたチジョーに対して独断専行する。

 熾烈さを増すチジョーとの戦いに備えて、新たに支給されたSYUKUJYOの武装。それもあってSYUKUJYO側もチジョーに対して、ある程度の有効的なダメージを与えられるようになりました。


『覚悟しろ! ヤン・デ・ルー!』


 夜影はベルトを取り出すと、天に向けて手をかざす。

 しかし空から現れたクワガタは夜影の手を叩くようにぶつかると、そのままどこかへと飛んでいってしまった。


『くっ……』


 その隙に追い詰めたチジョー、ヤン・デ・ルーはどこかへと消えてしまった。


『みんなよくやったわ』


 田島司令の言葉にも夜影はどこかやるせない怒りを見せる。

 それを見た加賀美は、どこか心配げな表情で夜影の方へと視線を向けた。


『どうして私は……』


 1人、夜道を歩く夜影、そこに忍び寄る1つの闇。


『何故、私がドライバーになれないのだ』

『だ、誰だ!』


 夜影は後ろに振り向くが、そこには誰もいない。


『誰よりも私こそがドライバーにふさわしいのに』

『ドライバーになるために厳しい訓練に耐え、誰よりも努力をし続けてきた』

『それなのに、私よりもあいつらの方がドライバーに相応しいとでもいうのか?』


 色んな方向から脳に向かって直接囁くように声が聞こえてくる。

 夜影はそれに合わせて周囲へと顔を振り向け、手に持った武器を構えた。


『卑怯な! 出てこい!!』

『出てこい? 私ならいつだってお前の側にいるだろう。そう、お前のその澱んだ心の奥深くに……』


 夜影の後ろにトラ・ウマーの影が映る。

 それに反応した夜影が後ろに振り返るが、慎重で用心深いトラ・ウマーはどこかへと消えてしまった。


『お待たせしました。お客様、こちらへどうぞ』


 画面は変わって、流行りの美容室。

 席に案内された今時の女の子がウキウキ気分で席に座る。

 女子院はこういう世界から隔離された場所なので、何人かが苦しそうに画面を見つめていた。

 しかしそれも仕方のない事です。なぜなら私達は罪を犯したのだから。


『よろしくお願いします』

『え……?』


 ラフな格好で現れた剣崎総司は、言葉は丁寧だが砕けた感じの言い方でお客さんの席の後ろへと回る。


『今日はどうします?』


 耳元で囁いてるんじゃないかってくらいの距離感まで顔を近づけた剣崎は、女性の座った席に手を置き、片方の手ではお客さんの髪質を確かめるように優しく弄んだ。

 ありえない距離感に何人かの受刑者達が耐えきれずに立ち上がると、そのまま法務教官に体を掴まれて再教育室へと連れて行かれてしまう。


『あ……えっと、もう、その……好きに……してください……』


 顔を赤くした女性客は、チラチラと鏡越しに剣崎を見つめる。


『じゃあ、そうだな……思い切っておでこ出しちゃおうか。お姉さん、せっかくおでこが綺麗だからちゃんと見せた方がいいよ』

『は、はひ……』


 うわー……相変わらずだなと思う。

 はっきり言って私はあまり得意なタイプじゃないけど、彼が大多数の女性から大人気なのも頷ける。

 こんな女性に対して甘く優しく攻めてくるような雰囲気の男性は今まで居なかったし、王子様って言葉はもう彼のために存在してるんじゃないかって思うほどだ。


『どうだ剣崎! 我のこの独創的なヘアカットは!!』


 お決まりのパターンだ。

 剣崎がバイトをしているところには必ずと言っていいほど神代がいる。


『こ、これが……私!?』


 神代の担当したお客さんはなんとパンキッシュなモヒカンヘアになっていた。


『ああ、それがお前のうちなる渇望、そしてパッションを具現化させた最適なヘアスタイルだ!!』


 いや、それにしたってないでしょ。

 確かに似合ってるけど、いくらなんでも攻めすぎだ。


『あ、ありがとうございます! わ、私、本当は内気で、でもヘヴィメタが好きで、こういう弾けた髪型にしてみたかったんです!!』


 嘘でしょって思ったけど、女性客の喜んだ顔を見ると完全にガチである。

 なんとなく、これは女性としての勘だけど、彼女はこの仕事が終わった後もこの髪型にしてそうな気がした。


『やるな。しかし、輝いているのはこちらとて同じだ』


 剣崎は天に向かって指を指す。


『お母さんが言っていた。女性を輝かせ蝶のように羽ばたかせるのは蜜を与える男の役目だとな』


 いつもより早いタイミング、不意打ちのおかいつでまた何人かが脱落して連れて行かれる。

 ヘブンズソードがご褒美だって? そんな事はない。

 再教育室に連れて行かれて無事に戻って来たやつを見た事がないからだ。


『臆するなよ。さぁ、俺の手で輝け。俺のミューズ』


 くっ……なんで美容院に来て髪型を変えただけなのに、服装まで変わってるんだ!

 って、突っ込みたくなるのを上回るくらい、剣崎がヘアセットした女性は女の私から見ても可愛く仕上がっている。

 どうせプロがやったんだろって、冷静になろうとする心を打ち砕くように、右下には今回のヘアアレンジ、衣装ともに全て白銀あくあ本人のプロデュースですというテロップが小さく入っていた。


『こ、これが私……』


 改めて女の子を見ると、本当に可愛い。

 おでこを出した事で、ちょっと幼い感じはするけど、天真爛漫っぽい雰囲気とにぱっとした笑い方がキュートで、本当にこの女の子の事がわかってコーディネートしてるんだなってわかる。

 それにこの服、どこのブランドの服か知らないけど、今日には特定されて店の在庫が吹っ飛ぶレベルで売れるんだろうな。そんな気がしました。


『くっ……負けた』


 落ち込む神代に近づいた剣崎は、真剣な表情を見せる。


『この勝負に勝ちも負けもない。現に、お前がヘアカットした女性もよく似合ってるじゃないか。それに、彼女はとても喜んでいるだろう。だったら、それでいいじゃないか。もし、そこに勝ち負けが発生したとするなら、勝利は全て彼女達に、俺はそんな彼女達の笑顔に負ける敗者でいたい』


 あー……ほんと、むかつくくらい良い男だわ。

 これもどうせ全部アドリブなんでしょ。はいはい、かっこいいかっこいい。今日も白銀あくあが白銀あくあしてるって言いたくなる。


『で、お前はどうしてここにいるんだ?』


 剣崎はそのまま待合席の方へと向かうと、1人のお客さんに近づいて雑誌を優しく奪い取った。


『バレちゃった』


 お客さんとして紛れていた事がバレた加賀美は、小さく舌を出す。

 変わらないな。その仕草……。とあくんの事が好きだったからよく覚えている。


『何か、話があって来たんだろ?』


 ビルの屋上に集まった剣崎、神代、加賀美の3人は、チジョー、ヤン・デ・ルーについて話し合う。

 SYUKUJYOと共に動いている橘と違って、剣崎と神代の2人は管轄下に入っておらず単独行動をしている。

 そんな2人とSYUKUJYOの間で連携を取り持っているのが加賀美だ。


『そうか……どうやら次のチジョーは、随分と恥ずかしがり屋さんのようだな』


 冒頭のシーンでも見せていたけど、ヤン・デ・ルーは逃げ足が早く、SYUKUJYOもだいぶ苦労しているみたいだ。

 屋上での話し合いが終わると、再び逃げ惑うヤン・デ・ルーが映し出される。


『逃げるな!!』


 再びヤン・デ・ルーを追い詰める夜影。

 画面を見る限り今回は単独行動しているようだが、大丈夫なのだろうか。


『なんで私が追いかけられなきゃいけないのよ! 何にも悪い事なんてしてないでしょ!!』

『悪い事なんてしてない? その闇の力で、多くの人々を苦しませておいて!』


 夜影は目まぐるしいアクションと、派手な攻撃の連続でヤン・デ・ルーを追い込んでいく。

 確かにすごいけど夜影ミサを演じる小早川優希の素晴らしい演技もあって、鬼気迫るような強さというよりも、どこか焦ったような印象を受けた。


『引っかかったわね!!』


 それを見抜いていたヤン・デ・ルーは、一瞬の隙を狙って夜影の足を掴んで攻撃を止めると、そのまま夜影の首を掴んで壁に叩きつける。


『さぁ! 貴女の心の中にある闇と向き合いなさい!』

『ぐぅっ……』


 今までの記憶がフラッシュバックされ、先ほどのトラ・ウマーの声と重なる。

 やがてその記憶は夜影の幼少期にまで遡っていく。


『おかーさーん!』


 子供の夜影はSYUKUJYOの制服を着た女性に抱きつく。

 この人が夜影のお母さんという事だろうか。

 母親は娘である夜影を抱き上げると、優しく頭を撫でた。


『来てたのか。ミサ』

『うん!』


 良く見ると夜影のお母さんはベルトのようなものを装着している。

 そういえばドライバーは元々、SYUKUJYOの隊員なんだっけ。


『お母さんすごくかっこよかった! でも……怖くないの?』

『怖いさ』


 夜影はお母さんの言葉に首を傾ける。


『怖いのに戦うの……?』

『ああ。少なくなってしまった男性を守る。それこそがドライバーの使命だからだ』


 同じだ……。

 そうやって私たちも教えられてきたはずなのに、私は守るどころかとあくんに対して酷い事をしてしまった。

 自分がコントロールできずに、とあくんは自分のものだって勝手に思い込んで、そして私はとあくんに対して許されない行動を起こしてしまったのである。

 いくら私がこうやって後悔しても、とあくんが負ってしまった傷を癒す事はできない。

 本当に取り返しのつかない事をしてしまった。そう自分の犯した罪に苦しんだところで、それは自分に酔っているだけだと思う。なぜならとあくん達、傷を負った被害者の人達の傷跡は決して消える事がないのだから。


『ミサにも出来るのかな……?』


 夜影は手に持ったぬいぐるみをギュッと抱きしめて不安そうな顔をする。

 なんだろう。可愛らしい女の子ぽいフリフリの衣装といい、今の夜影からは想像できない子供時代だ。


『はは、ミサは強い子だからな。お母さんよりも優秀なドライバーになれるかもしれないね』


 幸せな記憶……そう見せかけた次の瞬間、炎の海に包まれたドライバーの姿が映し出された。

 そこはかとなくヘブンズソードに似ている気がするが、これは初めてのドライバーかな。

 それかヘブンズソードのプロトタイプという可能性もある。

 おそらくは夜影のお母さんが変身したドライバーだろう。


『お母さん!!』


 煤けたワンピースで子供の夜影は手を伸ばして泣き叫ぶ。


『田島ァ! ミサを頼む!』

『夜影隊長。でも……』

『いいから行け! チジョーの幹部……エゴ・イスト。こいつは強い。お前達を庇いながらじゃ倒せない!』

『くっ……わかりました。必ず救援を連れて来ますから!』


 そう言って、田島は子供の夜影を抱えて逆方向へと走り出す。

 必死に手を伸ばす夜影の、お母さんと叫ぶ声が心に重くのしかかる。

 ここで再びターンは現代へと戻った。


『ふざ……けるな!』


 武器を持った手に力を込めた夜影は、なんとかヤン・デ・ルーに攻撃を加えて拘束された状態から脱出する。


『ゲホッ! カハッ……はぁ……はぁ……』


 夜影は地面の上で四つん這いになり、苦しそうに咳き込む。


『そうだ……思い出せ。私は……私は誰よりも強くならなきゃいけないんだ!』


 夜影は手に持った武器をヤン・デ・ルーに向ける。

 しかし、その武器はヤン・デ・ルーの攻撃によって、遠くへと弾かれてしまった。


『もう少しだったのに! さぁ、次こそはもっと深く、その先へ!!』


 夜影へと詰め寄るヤン・デ・ルー。

 しかしそれを阻止するように銃撃が飛んでくる。


『ひっ! 3人目のドライバー。ライトニングホッパー!!』

『チジョーは……倒す!』


 ライトニングホッパーは正確無比な射撃でヤン・デ・ルーを追い詰める。

 しかしそれを邪魔したのは影から現れたトラ・ウマーだ。


『今のうちだ。逃げろ、ヤン・デ・ルー。計画の途中でお前を失うわけにはいかないからな』

『言われなくても逃げるわよ!』


 トラ・ウマーの介入もあって、ヤン・デ・ルーはさっさとその場から逃げ出してしまう。


『また貴様か。邪魔をするな!』

『悪いが私もここで退散させてもらうよ』


 ライトニングホッパーの攻撃を回避したトラ・ウマーは、影に入りそのままどこかへと消えてしまった。

 影さえあれば自由に現れて逃げれるなんて反則でしょ。でも幹部なんだからこれくらい強くても当然なのかもしれない。


『大丈夫か……?』

『ああ……』


 夜影は差し伸べられたライトニングホッパーの手を取らずに自力で立ち上がる。

 彼女なりのプライドが見え隠れしたような気がした。


『ヤン・デ・ルーとトラ・ウマーは何かを計画してるみたいだな』


 変身を解いた橘は、メガネをクイッとあげる。

 なぜかそれだけで数人が反応して、法務教官に再教育室へと連れて行かれてしまった。

 毎回あるシーンなのに、どうしてかここに反応する奴が必ず1人か2人はいる。


『わかっている! だから、絶対に阻止しなければいけないのだ!!』


 夜影は悔しそうに、壁を叩くと、乗って来たバイクに跨ってどこかへと走り出してしまった。


『というわけだ。以上が協力者、橘斬鬼から伝えられた情報である。ヤン・デ・ルーとトラ・ウマーは何かを計画していると思って間違い無いだろう』


 場面は変わり、説明を終えた田島司令がテーブルの上に両肘をついて顔の前で手を組む。

 会議室の中に居た隊員達は、田島司令の指示を受けて行動を開始すべく外へと出る。

 良く見るとそこに夜影の姿はなかった。

 指示を受けた隊員の1人、加賀美は他の隊員が着替えた後を見計らうようにして更衣室に入ると、SYUKUJYOの制服に着替える。


『僕は……いつまでこんな事を続ければいいんだろう』


 普通なら時間的にここでCMのはずだが、今日はどういうわけかCMが流れない。

 画面はそのまま加賀美の回想シーンに入る。


『君が、加賀美夏希くんだね』


 声をかけたのは田島司令だった。

 真っ暗な部屋、その隅っこで毛布に包まる人物が映る。

 毛布が少し捲れて加賀美が怯えた顔を見せると、過去の回想へとシーンが飛んだ。


『お母さん!』


 一般市民に害をなすチジョー達が映し出される。

 小さな加賀美の手を引いて逃げる母親らしき人物は、焦ったような顔を見せた。


『オトコ ダー! オトコ ヲ ダセー!!』


 2人はなんとかシェルターに逃げ込もうとするが、そこに繋がる道がチジョーの起こした攻撃によって塞がれてしまった。


『こっちよ!』


 お母さんは咄嗟の判断で近くにあった倉庫に逃げ込むと、狭い場所に加賀美を隠した。


『お母さん。僕……』

『大丈夫よ。夏希』


 お母さんは不安そうな顔をしていた加賀美の頭を優しく撫でる。


『夏希……聞いて。もし、お母さんが戻って来れなかったら、これから貴方は女の子として生きるの』

『お母さん、戻ってこれないの……? そんなの、やだ!!』

『ごめんね。お母さんの事はどれだけ恨んでくれてもいいから。だけど、男の子として生きるより、女の子として生きた方がきっと夏希にとっては安全で平和な世界が待っていると思うの。だから、ね』

『お母さん……』


 珍しい話じゃない。

 現実の世界でも女顔の男子は外出する時に女装をする子は少なくないし、実際に女子だと言って思春期まで育てるのは良くある事だ。

 2人が話していると、何人かのチジョーが倉庫の中へと入ってくる。


『っ……! 夏希。大丈夫だから。お母さんに任せて!』


 お母さんはそのまま倉庫の中にある扉を締めると、わざと声を出してチジョーを自分の方へと追って来させた。

 そして再び画面は現代へと戻ってくる。


『話は聞いた。君は本当は男の子なんだってね』


 加賀美は田島司令の優しい問いかけに小さく頷く。


『君のお母さんはチジョーの攻撃を受けて、今はSYUKUJYOの病院で治療を受けている』

『お母さんは無事なの!?』


 田島司令は加賀美からの問いかけに肯定も否定もしなかった。


『君のお母さんは怪我もなく生きている。だが……意識が戻らないんだ』


 ベッドに横たわったお母さんに、抱きついた加賀美は泣きながらお母さんの名前を叫んだ。

 それを見た田島司令は悲痛な表情を見せる。


『君には2つの道がある。男の子としてSYUKUJYOの施設で保護されるか、女の子として普通に……というわけには行かないが、それなりに自由のある生活を送るか。どちらにせよ、私が全面的にバックアップしよう』


 子供の加賀美は涙を拭うと、田島司令の方へと真っ直ぐと顔を向ける。


『僕はこれから……女の子として生きます。だから、僕をSYUKUJYOの隊員にしてください!』


 なるほど、こうして加賀美はSYUKUJYOの隊員になったんだね。

 加賀美はSYUKUJYOになるべく普通に女子達と混じって生活したり、実際にチジョーに関わって行く事で、徐々にだけど女性側がチジョー化する原因に、男性側が無関係ではない事を知っていく。


 ただチジョーを憎んだりするだけじゃ、この問題は解決しない。


 悩める加賀美、その前に現れたのが剣崎総司だ。

 剣崎は従来のドライバーとは違って、ただ倒すだけじゃなく、その心まで救っていく。

 その優しさと強さ、ぶれない決意の固さに加賀美は心を打たれた。

 ほらね。やっぱり気に食わない。世の中の全ての女子が剣崎の事を好きでも、私はこいつが嫌いだ。

 だって……。


『加賀美隊員、出動できるか? チジョーが現れた』

『わかりました。今、行きます』


 街で暴れるチジョー、その中心にはヤン・デ・ルーが居た。

 その現場に真っ先に駆け付けた夜影は、チジョーに対して攻撃を仕掛ける。

 間髪入れずに到着したSYUKUJYOの隊員達は、夜影をサポートしつつ市民の避難を誘導した。


『もー、なんで邪魔するの! あんた達だって同じ女でしょ!!』


 ヤン・デ・ルーは夜影に対して攻撃を仕掛ける。

 夜影はうまく相手の攻撃を回避して応戦するが、敵が仕掛けた攻撃の射線に一般市民が居る事に気がついて相手の攻撃を受け止めようとした。

 無謀な行動だが、SYUKUJYOの隊員であるからこそ一般市民を守らなければいけない。

 夜影ミサのSYUKUJYOとしての矜持が見えた気がした。


『そうはさせない!』


 ヤン・デ・ルーが仕掛けた攻撃を、間に入った神代が愛剣カリバーンで受け止める。

 その無駄にかっこいいポージングに耐えきれずに、また少しの脱落者が出てしまう。


『なんなのよ。もー!』


 神代は派手な剣舞でヤン・デ・ルーと戦いを繰り広げる。

 14話以降回を増すごとにアクションシーンが良くなっているように見えるのは、私の気のせいだろうか?


『来い! ポイズンチャリス!』


 戦いながら変身した神代は、ヤン・デ・ルーを追い詰める。


『く……』


 再び逃げようとするヤン・デ・ルー。

 しかしそこに居たのはもう1人のドライバーだ。


『どこに行くのかな、レディ。まさか、この俺とのデートをすっぽかすつもりじゃないだろうな?』


 はい、10人くらい一気に死んだ。

 法務教官も倒れてる人がいるけど見なかった事にする。

 何度も言うけどやっぱりこいつは嫌いだ。なんでこんなに自信満々なのよ。世の中の全員の女性が貴方の事が好きだとも思ってるのかしら? 言っとくけど、私だけは絶対にない。


『変身……』


 毎回やってる事なのに、ここでも数人が持っていかれる。


『きゃあ。流石はヘブンズソード様、かっこいい!!』


 ヤン・デ・ルーは目をハートマークにして体をくねくねとさせる。

 絶妙に気持ち悪いわね。こいつ。一瞬、同族嫌悪という言葉が頭をよぎったが、私はここまで気持ち悪くはなかったはずだ……多分。


『でもごめんね。私達は悲劇のヒーローとヒロインだから結ばれる事はないの! だから、ね。私の胸に抱かれて死になさい!!』


 ヤン・デ・ルーが両手を大きく広げる。

 すると辺り一帯の影から一般市民の人達が現れた。

 彼女達の目を見ると虚で、どこか病んでいるように印象を受ける。


『この人達は……!』


 加賀美はSYUKUJYOのデータベースにアクセスする。

 するとここ最近、行方不明になった人達のリストと現れた一般市民の人達が完全に一致した。


『さぁ、行きなさい!』


 現れた一般市民達はドライバーに向かって攻撃を仕掛ける。

 おそらくだが、ヤン・デ・ルーによって操られているのだろう。


『くっ』


 戸惑うSYUKUJYOの隊員達。ヘブンズソードはできる限り相手を傷つけないように手刀で気絶させようとするが、ゾンビのようになった彼女達は何度も立ち上がる。

 ポイズンチャリスはこのままでは埒があかないと攻撃を仕掛けようと武器を構えた。

 しかしその瞬間、喫茶店で働く母娘の事が頭に思い浮かび攻撃を躊躇してしまう。


『卑怯だぞ! 正々堂々と戦え!!』


 叫ぶポイズンチャリス。

 それに対して聞き覚えのある声が応える。


『卑怯? 戦いに卑怯も何もないだろう』


 影の中から一般市民が現れた事でおおよそはわかってはいたけど、チジョーの幹部、トラ・ウマーが不敵な笑みを浮かべ参戦する。おそらく彼女が多くの市民を自らの影の中に捕らえ、ヤン・デ・ルーの闇パワーで人々を洗脳したのだろう。

 一気に状況は不利になるかと思われたが、トラ・ウマーが現れると同時に攻撃を仕掛けた者がいた。


『お前の自由にはさせない!』


 ライトニングホッパー、安定のケツアップだ。

 ここでまた数人が脱落する。気がついたら、こちらも、もう野戦病棟状態だ。


『まさか、ずっと私を追っていたのか!』


 ライトニングホッパーが現れた事でトラ・ウマーを抑える事はできたが状況は何も変わらない。

 ポイズンチャリスは襲いかかる一般市民に対して何度か攻撃を仕掛けようとしたが、その度に攻撃を躊躇い苦悩する。剣崎達や喫茶店の母子との出会いが彼を変えたのだろう。

 防戦一方でジリ貧になっていく剣崎達、1人、また1人とSYUKUJYOの隊員達も倒れていく。

 そして最後には、なんとか一般市民の洗脳を解こうとしていたドライバー達も膝をつき変身を解いた。


『ふははははは! SYUKUJYO、そしてドライバー達よ。お前達もここまでだ』


 ここで私の周りの受刑者達も負けないでと立ち上がって声を出す。

 普通なら再教育室送りだけど、法務教官も熱狂していてそれどころじゃない。


『僕は……僕はここでも見ていることしかできないのか……』


 加賀美の頭の中に、お母さんとの記憶がフラッシュバックする。


『男の子として生きるより、女の子として生きた方がきっと夏希にとっては安全で平和な世界が待っていると思うの』


 お母さんとの約束が、立ちあがろうとした加賀美の心を縛り付ける。


 そう、お母さんの言う事を聞いて、立ち上がらない方がいいよ。


 私は心の中でそう呟いた。

 誰がどう見ても絶望的な状況だし、加賀美1人が立ち向かったとしてもここから好転するとは思えない。

 何よりも洗脳された一般市民を人質に取られてる時点で、彼女達をどうにかしないと結局防戦一方だ。


『まだだ……!』


 声を振り絞り立ちあがろうとしている剣崎に、加賀美はハッとした顔をする。


『無駄だ! 貴様だってそれはわかっているだろう? それなのに何故、立ち上がる?』


 剣崎は手を伸ばすと天を指さす。


『お母さんが言っていた。人間、生きていれば理不尽な事に会う日もあれば、自らの無力さに打ちひしがれる日もある。時には高い壁にぶち当たり弾き返される事もあれば、絶対に覆す事のできない不可能を目の当たりにする事もあるだろう。そんな時には逃げてもいいと……ふっ、これはきっと母なりの、俺に対して見せた優しさだったんだろうな』


 トラ・ウマーが、ヤン・デ・ルーが、夜影が、神代が、橘が……そして加賀美が、画面の前で見ている私達視聴者が、剣崎の事をじっと見つめる。


『それでも……ごめん。お母さん、俺はお母さんの言いつけを破るよ。だって、諦めなければ、立ち上がれば、俺はまだ戦える!!』


 まさかのおかいつキャンセルに周りもどよめく。


『俺は剣崎総司。剣崎総司が言った。ヒーローであるならば、ヒーローであろうとするならば、どんな絶望的な状況に追い込まれても決して諦めないと!!』


 橘と神代の2人がゆっくりと立ち上がる。

 私……やっぱり、こいつの事が嫌いだ。

 言葉1つだけで、行動1つだけで、周りの人たちを巻き込んでいく。

 こんな姿を見せられたら、もう誰だって諦める事なんてできない。


 僕は……僕は、何をやっているんだ!


 加賀美の、ううん、とあくんの心の声が聞こえた気がしてハッとする。


『くっ……そ、そんな状況で今更、何ができるというのだ!』


 立ち上がった橘はフレームの歪んだ眼鏡を外す。

 痛々しい表情に悲鳴が上がる。


『確かに、はっきり言って非合理にも程がある……。でもな、心は合理だけじゃ動かせない』


 神代は唇についた血を拭う。

 足元はふらつき、今すぐにでも倒れてしまいそうだ。


『は……いけすかない奴だと思っていたが、初めて意見があったな橘。よく見ろ。俺はまだまだ元気だぞ』


 はっきり言って強がりだ。

 それでもこの男の子達は誰1人として諦めてない。


『いけ!』


 ヤン・デ・ルーの指示で操られた一般市民達が、3人の体にしがみつく。

 それを見た加賀美が、拳に力を込めて立ち上がる。


 行け。


 気がついた時には、私はそう呟いていた。


『お母さんごめん。お母さんはきっと僕に平和で安全な世界で生きてもらいたかったんだと思う。でも……僕も、剣崎達と一緒に戦いたいんだ!』


 駆け出した加賀美の姿と、とあくんの姿が重なって見える。

 今まさに一歩を踏み出した彼の姿を見て、自分の犯した罪の重さが心を締め付けた。

 ごめんだなんて謝って済む問題じゃない。それでも私は走り出したとあくんを見て心の中で彼に謝罪し続ける。


『先輩、これ、借ります!』

『夏希!』


 加賀美は落ちていた夜影の武器を手に取ると、ヤン・デ・ルーの前に立った。


『僕は……僕の名前は加賀美夏希! 僕は……男だ!!』

『ほへぇっ!? しょ、しょんな可愛い男の子がいるわけないでしょ!?』


 ヤン・デ・ルーに対して攻撃を仕掛ける加賀美。

 不意打ちの攻撃にびっくりしたのか、それとも加賀美が男だと聞いて驚いたのか、ヤン・デ・ルーは咄嗟の攻撃を頭の上の触角に喰らってしまう。

 その瞬間、剣崎達3人の体にしがみついていた数人の一般市民がその場に倒れる。


『そうか。その触角さえ落とせば』

『くっ! 油断したけど、2回目は当たらないんだから!!』


 加賀美は諦めずに攻撃を仕掛けるが、ヤン・デ・ルーはことごとく攻撃を防ぐ。

 その隙を狙って狡猾なトラ・ウマーが加賀美の近くに忍び寄るが、それを止めたのは現場にバイクで駆けつけた田島司令だった。


『邪魔をするな!』

『それはこちらの台詞だ。男が立ちあがろうとしてる時に、無粋な真似をするなって言っただろ?』


 田島司令は派手なアクションではないものの、最小限の動きでトラ・ウマーの行動を牽制する。


『ほらほら、ただの生身の男の子が何ができるっていうのよ!』


 その一方で加賀美はジリ貧だ。

 時間と共にヤン・デ・ルーの攻撃に防戦一方になる。


『それでも……それでも! 僕はもう誰かに守られるばかりは嫌なんだ!! 僕はもう逃げない! だって、僕は、僕は……剣崎達と一緒に、チジョーをいや、君を、君達を救いたいんだ!!』


 自然と私の頬を一筋の涙が零れ落ちていた。

 加賀美の……ううん、とあくんの声に応えるように、どこからともなく現れたクワガタが空を舞う。

 それを見た剣崎が、体にしがみついた人達の拘束を振り解いて走り出す。

 剣崎は夜影が落としたベルトを拾うと、とあくんに向かって放り投げる。


『加賀美! 何かを打ち明けようとすることは勇気のいることだ。何かを乗り越えようとすることは痛みを伴うことだ。それでも……それでも! あえてお前に言う! 手を……その手を伸ばせ!!』


 あ……。


 この人だ。


 事件の後、私はとあくんがどれだけ苦しんでいたかを聞かされている。

 そんな彼がどうしてこうやって立ち上がる事ができたのかずっと不思議だった。

 でもこの瞬間に全ての事が私の中にストンと落ちる。

 やっぱりこの人が、剣崎が、ううん、白銀あくあがとあくんの心を救ったんだって。


『僕に……僕に、力を貸して!』


 誰しもが空からクワガタが降りてくるのだと思った。

 でもクワガタはぐるぐると空中を回るだけで動こうとはしない。

 やっぱりダメなのか。

 誰もそう思った瞬間、とあくんはさらに天に向かって手を伸ばす。


『僕は弱い! でも……弱い僕だからこそ、きっと救える心があるはずだって、そう信じてる!! だから!』


 とあくんの叫びに応えるように天から、美しい蝶が舞い降りてくる。

 その蝶が伸ばしたとあくんの指先に触れた瞬間、彼の手の中に変身するためのソレがあった。


『ありがとう。こんな僕のところに来てくれて』


 腰にベルトを当てたとあくんは、顔の前で美しい蝶の変身道具をかざす。


『変身……!』


 史上、4人目の男性によるドライバー。

 いつかはそうなるだろうなって、きっと、心の中ではみんなわかってたと思う。

 それでも橘の言葉を借りるとするなら、みんなの心はそれだけじゃ動かせないのだ。

 視聴室の中は大騒ぎだが、もはや再教育室に行く云々ではない。

 私は目の前の画面に釘付けになった。


【マスク・ド・ドライバー、バタフライファム!】


 ああ……ああ!

 なんて、なんて美しいのだろう。

 一点の穢れもない白鳥のような純白のドライバー。

 バタフライファムは他のドライバーと比べて体の線が細く、全体的に鋭さを感じる。

 何よりも特徴的なのは、肩につけた大きなマントと身の丈より長い槍だろう。


『4人目のドライバーなんて聞いてないんですけど!?』


 焦るヤン・デ・ルー。

 ここで、とあくんの歌う新曲がバックに流れる。

 それに合わせてバタフライファムが動き出すと、軽いステップでヤン・デ・ルーとの距離を素早く詰めていく。


『ひいっ! ほ、ほら、あんた達、何やってんのよ!!』


 ヤン・デ・ルーは一般戦闘員のチジョーをバタフライファムにけしかける。

 しかしバタフライファムの踊るようなステップに翻弄されたチジョーは、舞のような槍捌きによって簡単に倒されていく。

 剣崎のような力強いアクションとも、神代のようなかっこいいアクションとも、橘のような動きの少ないアクションとも違う。バタフライファムのアクションは、華麗で流麗、その美しさに画面の前の私達も魅了された。


『なんかヤバそうだし、こういう時は逃げるが勝ちよ!』


 チジョーをけしかけた間にヤン・デ・ルーは遠くへと走って逃げる。

 バタフライファムは大きくマントを空に広げると、槍を構えた。


【アーマーパージ!】


 よりシャープな姿になるバタフライファム。

 なんとなくアーマーパージした後の白の装甲に銀のラインが、白銀あくあを思わせるようで嫌だ。


【オーバークロック!】


 加速する時間と共に、空中に広がったマントが艶やかな蝶の羽根へと変わる。


『ヤン・デ・ルー、逃がさないよ。みんなの心を解放してもらう!』


 一瞬で距離を詰めたバタフライファムは、ヤン・デ・ルーの頭の上にある触角を切り落とす。


「ぎゃあああああああ! 私のラブリーキュートな触角があああああああ!」


 頭を押さえて転がるヤン・デ・ルー。

 ヤン・デ・ルーの触角を切った事で、剣崎や橘、神代を拘束していた一般市民が解放される。


【オーバー・ザ・タイム、クロックアウト!】


 加速した世界が元に戻る。

 変身を解除した加賀美は、ヤン・デ・ルーに向かって手を伸ばした。


『君の話を聞かせてほしい。ヤン・デ・ルー』

『私の話を……?』


 加賀美の言葉にヤン・デ・ルーは首を傾ける。

 それに対して加賀美は首を縦に振った。


『今まで誰も私の話になんか耳を傾けてくれなかった……それなのに、貴方は私の話を聞いてくれるの?』

『うん。それに、君の話を聞きたいのは僕だけじゃないよ』


 加賀美が後ろを振り向くと、拘束の解けた剣崎達が近くへと駆けつけていた。


『わ、私……』


 手を伸ばそうとするヤン・デ・ルー。

 しかしその心の中に声が響く。

 ヤン・デ・ルーも、元はただの一般市民だ。

 そんな彼女がチジョー化したのは、男性からの甘い言葉で騙され捨てられ心を病んだからである。

 その時の記憶が再び彼女を人からチジョーの方へと引っ張っていく。


『あ、あ、あ……私は、私は!! 本当はこんな事したくなかったのに……!』


 止めて。


 人間だった時の姿を一瞬だけ見せたヤン・デ・ルーが、そう口を動かした気がした。

 後少し、もう少し、彼女に早く手を差し伸べる事ができたのなら、彼女を救えたかもしれない。

 でも、もう全てが手遅れだ。

 人だった頃のヤン・デ・ルーは完全に消え去り、チジョーに染まり切ったヤン・デ・ルーが4人の前に立ちはだかる。


『私はチジョーの幹部候補、ヤン・デ・ルー! チジョーの敵、ドライバーはここで始末する!』


 加賀美は再びベルトを腰に装着する。


『ヤン・デ・ルー、止めてと言った君の最後の言葉、ちゃんと届いたよ。だから……!』


 悲しい変身だ。

 ドライバーになった加賀美は、その槍でヤン・デ・ルーにトドメを刺す。


『あり……がとう……ごめん、なさい……』


 それがヤン・デ・ルーの最後の言葉だった。

 彼女の言葉は片言ではなく、トラ・ウマーのように流暢な言葉だった事から、チジョー化が相当進んでいたんだと思う。どのみち、彼女は救われるにしては罪を重ねすぎた。いや……罪は罪、たった1度だとしても、それは被害者にとっては関係のない話である。だから私も、自分が救われようだなんて思ってはいない。


『くっ……』


 加賀美は悔しそうな顔を見せる。

 世の中、生きていれば理不尽な事も多いか……。剣崎が言ったセリフを思い出す。

 それでも4人の男の子達は、それぞれの決意を胸に前だけを向いていた。


 まさかここまでCMがないとは思ってなかったけど、そろそろ終わりだろうか。

 誰しもがそう考えていた。


 でも次の瞬間、どこからともなく飛んできた光線が加賀美に向かって襲いかかる。

 寸前に直撃を覚悟した加賀美は目を閉じた。

 しかしダメージがない事で違和感を覚えたのだろう。

 ゆっくりと目を開き、そして驚愕した。


『加賀美……油断したらダメだぞ』


 覆い被さった剣崎の優しい笑みがアップになる。

 そして、彼は加賀美の前から崩れ落ちた。


『け……剣崎……?』


 加賀美に向かっていった攻撃を剣崎が庇ったのだ。

 地面に膝をついた加賀美は、剣崎に何度も声をかける。

 みんなが動揺する中、1体のチジョーが姿を現す。

 チジョーの出現に最初に気がついたのは神代だった。


『貴様、誰だ!』


 このチジョー、どこかで見たことが……あ。

 私が気がつくのと同時に、夜影が声を振り絞るようにだす。


『エゴ・イスト……!』


 そうだ。夜影のお母さんの命を奪ったチジョーだって事を思い出す。

 エゴ・イストの呼吸音と共に画面が暗転し、右下にto be continued……の文字が映し出された。


 え? ここで、終わり……?


 呆然とする私達を前に、ドライバーの新しいOPがEDテロップと共に再生される。

 突き出した4人の拳、白銀あくあ、天我アキラ、黛慎太郎、そして猫山とあ……4人のカットが続く。

 バイクで荒野を走る4人のドライバー。せっかく、ドライバーが4人揃ったと言うのに、見ている方はもうそれどころじゃない。


 え? これで年を越せって?


 もう視聴室の中は阿鼻叫喚だ。

 法務教官達も、もう自分の仕事を完全に忘れている。

 私は席から立つと、1人、再教育室へと向かって歩き出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかの蝶!あれ?ってことはクワガタは?夜影隊員??
[一言] これは闇靖子のホンですわ間違いない
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