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森川楓、検証班の打ち上げ。

「ほげ〜」


 疲れた……私はゾンビのようにぐでぐでになりながらも目的の場所を目指す。

 今日は本当に朝から色々あった。

 お姉さんと一緒、いいですとも、クリスマスライブ、そしてクリスマスナイトパレード……自分でもよく最後まで無事にこなせたなと思う。

 あくあ君なんてこれに加えて大聖堂のイベントまでこなして、夜にもまだ仕事が入ってるらしい。

 体力お化けにも程がある。私なんかもうヘロヘロだよ。


「へい、らっしゃい!」

「こんばんは〜。予約してた清純派女子の会です」

「はい! ご予約の性純派女子の会の方ですね! こちらです!」


 なんかちょっとだけ言葉のニュアンスが違ったような気がするけど、私の気のせいかな?

 うん……疲れてるから気のせいって事にしておこう。面倒な事は考えない。それがプロフェッショナル、ホゲの流儀だ。


「こちらの部屋になります」

「ありがとうございます」


 案内された部屋の中に入ると、姐さん以外の2人が揃ってた。

 私はウーロン茶と適当に焼き鳥をいくつか注文する。

 すると前に座った嗜みからちゃんとお野菜も食べなきゃダメだよ言われた。

 確かに……私は追加でしいたけと、ナスと、玉ねぎを注文する。


「姐さんは?」

「まだもう少しかかるみたい」

「今、着いたって連絡来た」


 暫くすると私と同じように姐さんが店員さんに案内されてやってきた。

 私と捗るは姐さんと目が合うと、別に悪い事をしたわけではないがついつい条件反射で正座になってしまう。

 今日の姐さんは疲れてるのか、確実に3人はヤッてきたような目をしていた。

 私と捗るは自分が叱られているわけでもないが、事を荒立てないように背筋をピンとする。

 それを見た嗜みが呆れた顔をしていたが、あまり叱られない嗜みと違って、私と捗るは散々やらかして姐さんに迷惑かけてるんだよね。だから自然と身体の方に刷り込まれちゃってるんですよ。


「私もウーロン茶で、それと焼き鳥のBセット、板わさ、豆腐のサラダ、みりん干しでお願いします」


 私と捗るは極道の姉御を前にした丁寧な姿勢、いわゆる足をガニ股に広げて膝に手をつく姿勢で姉さんの注文を待っていたら、店員さんが居なくなった後に叱られた。解せぬ……。


「2人とも、それってわざとやってるんだよね?」

「嗜みさん、それがわざとじゃないんですよ」


 なぜか嗜みに可哀想な人を見る目で見られた。解せぬ!!


「はぁ……それはそうとして、ごめんなさい。遅くなりました」

「姐さん、私もさっき来たところだから大丈夫ですよ」

「私と捗るも、ほとんど変わらないくらい。ちょっと前に来たところだよ」

「んだんだ」


 とりあえずまずは最初に、4人でウーロン茶3とオレンジジュース1で乾杯する。

 せっかくの焼き鳥なのと疲れてるので本当は1杯くらいビールが飲みたいけど、未成年もいるので我慢我慢……。

 ちなみに空気の読めないオレンジジュース1は嗜みだ。

 小心者の私ならついつい周りに合わせて無難にウーロンにしちゃうけど、嗜みはそういうところが強い。


「姐さんは明日も朝イチだっけ?」

「はい」


 私は姐さんと嗜みの会話に割り込む。


「あれ? そういえばあくあ君達って、今、お仕事してるんじゃないの? 姐さん行かなくて大丈夫?」

「あくあさん達には、阿古社長やしとりさん達がついてますから大丈夫ですよ」


 ふーん。ベリルもマネージャーさん増やしたって言ってたし、常にマネージャー陣が万全であるように、ローテーションをしてるって事かな。それに加えて決定権のある阿古社長、しとりさん、姐さんの3人は、常に誰かが起きてて対応できるようにしているんだろう。そうじゃないとベリルは……いや、あくあ君は何をやらかすかわからないから。


「というわけで……嗜みさん。今日はお家の方で泊まりますけどいいですか? そっちの方が朝の合流時間と出発時間を短縮できそうなので」

「もちろん」


 ん? どういう事? 私は再び姐さんと嗜みの会話に口を挟む。


「あれ? 姐さんってまだ引越ししてなかったんですか?」

「はい。あくあさんも私も今は年末年始の仕事に集中してるので、それが明けてから届出をして、結婚式をして、引っ越しをしようかなと……まぁ、年明けですね。ただ、オーディションとか他の仕事の関係もあるので、2月とか3月になる可能性も考えてます」


 ジョッキを手に持った姐さんは、残っていたウーロン茶をゴクゴクと飲み干す。

 なんか姐さんのバイアスがかかってるせいか、ウイスキーをジョッキでイッキしているようにしか見えない。

 ウイスキーをジョッキなんて普通はありえないし、言ったら怒られそうだから黙っておこう。


「ま、4月までには絶対に同居ってあくあさんも言ってくれてますし、3月の後半にちょっとだけ私が会社休んでどうにかするつもりです。あくあさんを休ませるわけにはいけませんし、その頃には新人も育ってるでしょうしね」


 なるほどね。私は鶏皮を頬張りながらうんうんと頷く。

 そういえばあくあ君とはデートの約束してたけど、私がローション相撲で鎖骨を骨折したせいで延ばしちゃってるし、このままだとあくあ君もそのうち忘れちゃいそう。

 うーん、それはそれで残念だけど仕方ない。私が調子に乗ってプロのレスリング選手とガチのローション相撲なんてしてこうなったんだから。


「うめぇ。肉、うめぇ!」


 さっきから静かだなぁと思ってたら、隣に居た捗るが感動しながら焼き鳥を食っていた。

 あれ? ちょっとは生活状況が改善したんじゃないの?


「大聖堂で歌った後さ……病院に慰問行ったら、何故か手持ちの金を全額寄付する事になった。理由は聞かないでくれ……。ちなみに今日の食事は、文無しだから高校生の嗜みさんに奢ってもらってます」


 なんか知らないけど悲しくなってきた。

 流石に嗜みに奢ってもらうのはかわいそうだから私が奢るよ。

 これでもお姉さん、無駄に高給取りでお金だけは持ってるから安心しな。

 ほれほれ、さっきから一番安い鶏皮ばっか食ってないで、私のぼんじりとかしそ巻きもお食べ。


「おお、聖人ホゲーカワよ。感謝します!」


 うん、やっぱ奢るのやめようかな。

 そういう顔をしたら捗るが急に手揉みしてきやがった。

 それなら最初からそんな冗談言わなきゃいいのに、言わないと死んじゃう病気なんだろうなぁ。


「何やってんのよ……」


 またしても嗜みに呆れた顔をされた。

 むむっ、今、気がついたけど、こいつ、よく見ると焼き鳥屋に来てオレンジジュースにうずらベーコンだと!?

 かーっ、これだから嗜みさんはよぉ!


『嗜みは食事まですごくかわいいね』

『あくあ君……私のうずらの卵もあくあ君にハニーマスタードをかけられたいな』

『わかったよ嗜み、今晩はベーコン巻きだ。覚悟しとけよ』

『きゃっ!』


 なーんて家でもあくあ君とスイートなやりとりしてるんだろ!

 あざとい。これだから嗜みはあざといんだ!!


「は? 嗜みがあざといだって? そんなのいつものことだろ。これだからお子様はよぉ!」

「大人の女は?」

「黙って砂肝なんこつハツレバー!」

「あらよっと、もういっちょ!」

「砂肝なんこつハツレバー!」

「お子様はうずらベーコンでも食べてな!」


 あれ? 嗜みにしょーもなって顔された。

 姐さんに至っては完全に私達を無視して黙々と飯食ってる。

 ただ、箸で摘んだ味醂干しにガン飛ばすのはやめてください。そいつ、もう死んでます。

 え? ガン飛ばしてない、元からそういう目だって? あはは、失礼しました……。


「そういえば捗るは変装してないけど大丈夫なの?」

「大丈夫。この焼き鳥屋、聖あくあ教だから……」

「へぇ〜……えっ!?」


 捗る以外の全員が口をポカーンと開けたまま、顔を見合わせて目をぱちくりさせた。

 嗜みに至ってはうずらベーコンを口に含んだまま固まってやがる。

 くっ……顔が良いから女の私から見ても普通にかわいい。

 そりゃ、あくあ君もうずらの卵にハニーマスタードかけちゃうよね。


「そ、それって大丈夫なの?」

「ああ、検証班の4人は、聖あくあ教じゃ勝手に聖人認定されてるからな。だから捗るの正体がバレたところで、誰も告げ口なんてしねーよ」


 捗るは姐さんの注文した板わさをパクパクと食べる。

 あっ、あいつ半分以上食いやがった。死ぬつもりか!?


「え? それってもしかして捗るがえみり先輩だって事がバレてるって事ですか?」

「ああ。それどころか幹部の半数以上と聖女親衛隊や裏工作部隊、通称CIA……central intelligence aquaには、捗る=雪白えみり=聖女エミリーはバレてるからな。もう私はこの宗教からは足抜けできねえんだよ……ははは……」


 捗るは死んだような目で姐さんの注文した豆腐サラダを掻き込む。

 あー、姐さんが最後の締めで置いておいたのに、空になるまでペロリと行きやがった。

 捗る……無茶しやがって。


「ちょっと待って、聖あくあ教って、どれだけいるのよ」

「さあな。クレアなら把握してるんじゃないか? それかお前の婆ちゃんなら知ってそう」

「どうしてクレアさんとお婆ちゃんの名前が出るのよ?」

「あ……すまん。なんでもないです」


 あ、こいつ逃げやがった。

 わかりやすいくらい視線を逸らした捗るの後ろに回り込んだ姐さんが、仏のような鬼の形相でその肩をポンと叩いた。


「え、あ、う……聖あくあ教には十二司教っていう、特に頭のおかしな奴らが居てな。クレアがそこのナンバー1で、お前の婆ちゃんがそこのナンバー2だ」

「嘘でしょ……」


 あ、嗜みがホゲった。

 ホゲなみさんの代わりに姐さんが話を進める。


「なるほど……それでは、メアリー様が聖あくあ教の資金源なんですね?」

「いや。メアリー様だけじゃなくて、十二司教の1人、華族六家トップの皇くくり様とか、あとは一般教徒だが藤蘭子会長とか、信者には経済界や政治家の大物が相当いるらしいって話は聞いた」

「は?」

「後、日本だけじゃなくてスターズなんかにも根を張ってるし、スターズ正教なんてトップのキテラが十二司教だからな。もはやスターズ正教は、聖あくあ教のフロント宗教、カモフラージュでしかない」

「は?」

「だからほら、ベリル本社も藤財閥と聖あくあ教とその関連企業で同居してるでしょ?」

「は?」

「ベリルの全国展開に先駆けて、聖あくあ教も先に47都道府県に進出してますしね」

「は?」

「今日の仕事だって、半分くらい聖あくあ教が噛んでるんですよ」

「は?」

「そもそもベリルの社員も半分くらい聖あくあ教だし」

「は?」

「それを言うなら、あくあ様のお姉さん、しとりさんも十二司教の1人、粉狂いっていう頭のおかしな奴と繋がってますから」

「は?」

「あ、でも、あの邪教、聖あくあ教をもってしても、担任の杉田先生だけはダメだったみたいですね。聖農婦っていう頭のイカれた奴が十二司教に居るんすけど、幹部が直接スカウトしに行ったのに、生徒を守る私がそんな頭のおかしそうな宗教に入るかって断られたって言ってました。いや〜、ほんと、いい担任ですね。メアリーの先生なんてもう全員、聖あくあ教なのに乙女咲がまともで助かりました。というかメアリーで聖あくあ教じゃ無い奴を見つけるのが大変かも、やっぱり類が友を呼ぶっていうのは本当だったみたいですね」

「は?」


 思わず私が、は? って言ってしまった。

 え? 私の卒業した学校、そんなに頭の悪い事になってんの?

 あーなるほど、だからこのホゲ川や捗るでも特待生になれたのかー。うんうん……って、納得できるかーい!


「諦めて現実を受け入れてください姐さん。もうベリルと聖あくあ教は一蓮托生なんすよ。私も最初はどうにかしようと色々と頑張ったんですけどね。やることなすこと全部裏目で……いやー、流石に無理っす! 最近は掲示板で聖あくあ教だけは止めとけって匿名で書いたら、管理人から警告来るし……あ、ベリルのサーバーと掲示板の管理人も十二司教の1人なんで気をつけてください。まー、聖あくあ教の信者を1人見かけたらその近くに100人居るっていう噂もあながち間違っちゃいないっすね。ははは! ぐえ!」


 壊れた姐さんが、ごく普通に捗るの首を絞める。

 姐さん、気持ちはわかります! でも、それ以上はまずいっす!


「ギブギブ、姐さん、それ以上は本当に前科がつきますよ!」


 なんとかホゲから復帰した嗜みと私で姐さんの殺人を未遂で阻止する。


「聖あくあ教がそんな事になっていたなんて……」

「お婆ちゃん、クレアさん……嘘でしょ……」


 あれ? 楽しい打ち上げ会だったのに、なんかどんよりとしてません?

 こうなったら女、ホゲ川、一発芸で盛り上げます!


「ホゲ川、宴会芸いきまーす!」


 私は嗜みの注文したオレンジジュースの瓶の蓋を手刀で叩き落とす。

 続いてオレンジジュースの瓶を口に咥えると、そのまま上体を反らしてブリッジしながら一気飲みした。

 そして飲み終わった瓶を回転させたりしてパフォーマンスをすると、最後には蓋を締めた瓶の中に割り箸を入れるマジックを見せて終了である。


「楓先輩って本当、器用だよね」


 あれ? 嗜みさん? なんでそんな虚無を見るような目で私の事を見ているんですか?

 前はすごーいって、キラキラした純粋な目で喜んでくれたのに……。


「楓さん……そのスキルを身につけている時間を、ちゃんとしたスキルの取得に使っていれば……」


 姐さん? そんな残念なものを見るような目で見ないでくださいよ!

 これでも私、お稲荷さんソムリエっていうちゃんとした国家資格も持ってますから!


「ホゲ川って、ほんと無駄な事が好きだよな」


 ムキーっ! よりによって捗るに言われたくないんだけど!?

 私は捗るの後ろに回ると、その大きな胸を揉みしだいた。


「無駄に大きいのをぶら下げた捗るには言われたくないんですけどー?」

「はぁ!? この膨らみは無駄なんかじゃないですぅ。今日だって、あくあ様に、よろしくお願いしまーすって言われた時にちゃんと見ながら挨拶してくれましたぁ! あれえ? 森川さんは、この中で一番小さいから嫉妬してるんですかぁ?」

「んがー! 私だって、あくあ君にニットの上から膨らみをチェックされながら挨拶されたもん!!」


 私と捗るが子供みたいな喧嘩でギャーギャー騒いでると、他のお客さんの迷惑になるからやめなさいと姐さんに頭の上から手のひらで押さえつけられた。ぐぬぬぬぬ……。


「なんか余計に疲れたわ……。仕事してる方が疲れないってどうなの? 私、明日早いからもう帰っていいかしら」

「うん、じゃあ解散しようか」


 結局、会計は姐さんが払った。

 まぁ、なんとなくだけど、そんな気はしてたよ。


「あざーす! 流石姐さん! でかいだけあって器もでかい!」


 ぐへ顔で揉み手をしている捗るを見て、こいつは違う意味でメンタルが強いなと思った。


「それじゃあ捗るも楓先輩も、またね!」

「お2人とも、帰るまでが勤務時間ですからね。寄り道せず、怪しげな場所にも近寄らず、変な人に声をかけられてもついていかないように、気をつけて帰ってください」

「はーい!」


 姐さんと嗜みはタクシーに乗って自宅へと帰る。

 って、あれ? 捗る? お前は一緒に帰らなくていいのか?


「あはは……実は聖あくあ教も打ち上げしてて、流石に二次会くらいは行っとかないとなって……」

「ここ秋葉原だけど、場所は?」

「銀座だから1時間も歩けばどうにかなるかなって……」


 同じメアリーとして悲しくなったので、私は捗るに一万円渡した。


「あざーす! これで帰りも歩かなくてすみます……」


 なんだろう……。

 政治、経済の両面から世界を牛耳れるレベルの組織のトップがこれかと思うと、とてつもなく悲しい気持ちになってくる。この国、いや、この世界、大丈夫か?


「じゃあなー! この金はちゃんと臨時のバイトで働いて返すからー!」


 うん、普通クズならここでギャンブルで稼いでとか、信者から集金してって言うんだけどこういうところは本当、真面目なんだよね。それなのに、なんであんなにふざけたりするんだろうって思ったけど、こいつは捗るだ。捗るとあくあ君に関しては考えるだけ無駄だっていう結論が私の中でできている。


「さーてと、私は普通にお休みだから、どこかでちょっと一杯だけ飲んで帰るかなー!」


 私はちょっと食べ過ぎてた事もあって、歩いてぶらぶらしながらカロリーを消費する。


 今頃、本当なら六本木でクリスマスディナー食べてたんだろうなあ。


 でも今日は、今年のクリスマスはそれ以上に楽しい思い出ができた。

 私がディナーのチケットを譲った天我君はうまくいったのかな? ううん、うまくいっているって思う事にする。

 だって、あくあ君だけじゃなくて、ベリルの男の子達はみんな頑張ってるんだもん。

 今日だってベリルのみんなは本当に数えきれない人達を幸せにしてくれた。

 だったら、頑張ったベリルのみんなが少しくらいは報われたって、良い思いをしたっていいじゃん。


「あ……」


 ほげっと歩いてたら蔵前橋まで出てきちゃった……。

 もうそこら辺の自販機で缶ビールでも買って、隅田川でも見ながら飲もうかな。

 とほほ、おしゃれにバーでカクテルなんて私には無理でした。


「見つけた」

「え?」


 振り返るとそこにはあくあ君が居ました。

 え? えっ……?

 最初は事態がうまく飲み込めなくて、ホゲっとしてしまう。


「どうして?」

「どうしても、楓にお礼が言いたかったから」


 いやいやいや、それじゃあ説明になってないし、なんでここにいる私を見つけられたの!?

 とは言っても相手はあのあくあ君だ。そう、考えるだけ無駄なのである。


「楓、今日は本当に色々ありがとう。仕事でも助けてもらったし、天我先輩の事も……。今日だって、本当はクリスマスにディナーを食べる予定だったのに、本当にすまない!」

「う、ううん。どうせ1人で食事してもつまらなかっただろうし、た……カノン達と一緒にご飯食べられて、むしろこっちの方が楽しかったよ。むしろ、もらってくれてありがとう、みたいな」


 別に嘘はついてないし、本当の事だ。

 実際に打ち上げは楽しかったし、クリスマスに一緒に仕事できたのもすごく楽しかったしね。


「そっか……楓は優しいな!」


 自分だって疲れてるのに、満面の笑みを見せてくれたあくあ君にキュンとした。

 あー、やっぱりこう言うところ好きだな。

 あくあ君となら会話も弾むし、一緒に居たら絶対に楽しいもん。

 そりゃ顔だって好きだけど、そうじゃなくて、やっぱ一緒に居て楽しい人の方がいいに決まってるしね。


「本当はこの後、埋め合わせでどっか……って思ったけど、流石に遅すぎるか」

「うん。あくあ君、明日も仕事あるんでしょ? 姐さんから聞いてるよ。だから、明日のためにも今日はゆっくり休も? 私はまた今度でいいからさ。それに、私も今日はたくさん働いて疲れちゃったしね!」


 嘘……本当は、もうちょっと一緒にいたいし、あくあ君と一緒で元気にならないわけがない。

 でも、明らかにあくあ君は疲れてる。だからこの人をみんなのためにも休ませなきゃって思った。

 私は明日お休みだけど、あくあ君は明日も仕事でまたハードスケジュールが待ってる。


「ごめん……ありがとう」

「ううん、気にしないで」


 私は笑顔でそう答えた。


「楓、落ち着いたら絶対にデートしような」

「……うん!」


 覚えててくれたんだ。嬉しい!

 あくあ君はじっと私の方を見つめる。


「楓、嫌だったらかわしていいから」

「え?」


 あくあ君は私の体を抱き寄せると、そっと顔を近づける。

 ちょ、ちょっと待って、い、嫌じゃないけど、さっきニンニクの効いた料理を食べたばかりだからあああああ!

 って、思ったけど、キスしたい欲の方が勝ちました。


 ちゅ。


 あくあ君と、軽く唇が触れる。

 うわ……キスってこんな感じなんだ。

 前に捗るに自分の二の腕にキスするといいぞって聞いてたけど、全然違うじゃん!!

 あくあ君は唇を離すと、そのまま私の体を再び抱きしめてくれた。

 あわあわあわ、焼き鳥の匂いが髪についてないか不安になる。

 でもそこから急に、あくあ君の力がスッと抜けた気がした。


「……あくあ君?」


 私が声をかけても反応がない。

 それから少しして、あくあ君から寝息のような声が聞こえてきた。

 もしかしたら、安心して寝ちゃったのかもしれない。


「今日は本当にお疲れ様……」


 私はそう言って、眠ってるあくあ君のほっぺたにキスした。

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