桜庭春香、私の王子様。
全てのイベントを見終わった私は、1人でタクシーに乗って六本木にある有名ホテルへと帰ってきた。
すごいなぁ……。
このホテル、一体いくらしたんだろ。
アキラ君は行く予定のなくなった知り合いの知り合いから譲ってもらったと言ってたけど、イベントのチケットから新幹線やホテルの予約まで、本当に何から何まで用意してもらって申し訳なくなるよ。
『春香ねえ……良かったら、クリスマスのイベントを見にこないか?』
2週間前、アキラ君から電話がかかってきた時はびっくりした。
大丈夫かな……? 前はアキラ君のお母さんやお婆さんが一緒だったから良かったけど、今回は1人でイベントに行かなきゃいけない。人混みで誰かとぶつかって、また記憶がフラッシュバックしたらと思うと怖くなった。
でも……このままじゃだめよね。
私は前回のハロウィンイベントで頑張るアキラ君を見て、一歩を踏み出したかった。
『桜庭さんが前に進みたいと思うならこれはきっとチャンスです。次のステップに進みましょう。大丈夫。私や天我家の皆さんもサポートに入るし、天我さんから何かあったら現地にいるあくあ様、猫山さん、黛さんのご家族の誰かがサポートしてくれるという話を天我さんから電話で聞いています』
私の担当のお医者様は、ベリルの皆さんのご家族の電話番号を書かれた紙を私に手渡してくれました。
みなさんお忙しいはずなのになんて優しいのでしょう。
私のために、こんなにも多くの人にご迷惑をおかけしてもよろしいのでしょうか?
逆に申し訳なくなります。それでも先生は私の手を握って、こう言いました。
『知っていますか? ベリルの皆さんは、自分達の事をあくあファミリーと呼ぶそうです』
『あくあファミリー……?』
『はい、これはとある打ち上げであくあ様がおっしゃっていた言葉なのですが、皆さんを自分の家族のように愛している。気にかけていると言ったそうなんです。だから困った事があったら頼ってほしい。家族なら助け合うのは当然だと……ね。だから桜庭さんも厚意に対して素直に甘えればいいと思います。だって桜庭さんは、天我さんの家族の1人なのですから』
凄いな。
アキラ君も電話越しにいつも、白銀はとても大きい奴なんだって嬉しそうに話してました。
私からするとアキラ君だって十分すごいのに、そのアキラ君達でさえも尊敬するのがあくあ君です。
彗星の如くこの日本に現れたあくあ君は、暗く沈みかけたこの世界を明るく照らすだけじゃなく、アキラ君達を巻き込んだ大きな流星群となって、この世界をベリルという暖かな光で包み込んでいる。
まだ16歳になったばかりだというのに、彼はどれだけのものを背負っているのでしょう。
そんな人に追いつこうとアキラ君も頑張っているんだから、私だってこのままじゃいけないと思いました。
『わかりました。先生……私、頑張ってみます』
『わかったわ。私も全面的にサポートするわね。あ……それと、もしものために私の伝手で、東京にいる神絵……げふんげふん、失礼、ちょっとむせてしまいました。マリア先生というとっても有名なお医者様がいます。東京で何かあったら彼女が相談に乗ってくれるはずなので、こちらの連絡先も念の為にお渡ししておきます』
こうして私は、先生やアキラ君たちに背中を押されて、ベリル主催のイベントを見るために新幹線に乗って東京へとやってきました。
最初は少し不安でしたが、今のところは問題なくやれていると思います。
「さてと、遅くなる前にレストランでご飯食べなきゃ……あ」
私はバッグにつけていたアキラ君のキーホルダーがない事に気がつきました。
どこかに落としてきたのかもしれない。いや、部屋の中を探しても見つからない事から落としたのは確定でしょう。
確かライブの時はあったはずだから、パレードの時に落とした可能性が高いと思います。
私はカウンターで落とし物がなかったか一応確認した後にホテルを出ると、タクシーを拾ってさっきまで居たパレードの会場付近に行ってもらうようにお願いしました。
しかし今日はクリスマス、さっきも移動にすごく時間がかかったけど、パレードをやっていた場所へ戻るのも一苦労です。結局、帰りと同じくらい時間がかかって会場付近まで戻ってきました。
「渋滞ですね……。どうします? もうここからだと歩いた方が早いかもしれませんよ?」
「はい。そうしようと思います! ありがとうございました」
私はお金を払って途中でタクシーを降りると、目的地に向かってゆっくりと走り出した。
たかがキーホルダーひとつ、買い直せばいい。
人によってはそう思うかもしれないけど、あのキーホルダーは、アキラ君が私にプレゼントしてくれたものです。
確かに同じ商品は他にもあるかもしれないけど、あのキーホルダーは私にとっては世界に一つだけしかない。
「パレード、楽しかったねー」
「うん! 私、こんなの初めてみたよ!!」
「ねー。渋谷の交差点を閉鎖した時も凄かったけど、こっちもこっちで同じくらいやばいよ」
「ワンダーランドも楽しみ。一体、どんなのができるんだろ?」
人はだいぶ減っていましたが、現場付近にはまだ多くの人がいました。
中には公園エリアでだべってる人や、弾き語りをしている人もいます。
「初めて出会ったその瞬間、俺の心臓は今までに感じたことがないくらい強く脈打った。あぁそうか! 俺はお前に出会うために生まれてきたんだと、熱くなった胸の奥が締め付けられる」
「TENGA! TENGA! TENGA!」
あ、アキラ君の歌……。
ギターを持って弾き語りをしている女の子の前で、ギャルっぽい子が何度も拳を突き上げていました。
ふふっ、アキラ君はギターが上手だから、楽器をする子に人気があるってお昼のワイドショーで言ってたっけ。
「確かここらへんだったよね」
私は自分がパレードを見学していた場所の付近にたどり着くと、周囲の地面をキョロキョロと見る。
すると近くに居た派手な見た目の若い女の人が声をかけてきました。
最初はパレードを見にきてた子かと思ったけど、よく見ると工事現場のヘルメットを被ってるし、スタッフ証を首からぶら下げてます。
「どうかしましたか?」
「あ、えっと……実は、キーホルダーを落としちゃって……」
私が事情を説明すると、女の人は耳に装着したインカムに手を当てる。
「落とし物の確認いいですか? 天我アキラさんのキーホルダーで、場所は東京インターナショナルフォーラム付近だそうです。はい……はい……了解しました。ありがとうございます。引き続き何かありましたらご連絡よろしくお願いできますか? はい。ありがとうございます」
女の人は申し訳なさそうな顔で私にペコリと頭を下げる。
「お待たせしてすみません。本部に確認しましたが、お探しの落とし物は届けられていないそうです。一応、後から見つかった場合は私に連絡してもらうように言いましたが、あまりお力になれずに申しわけありません」
「いえ、そんな、こちらこそ、お仕事の最中にも関わらず、丁寧に対応して頂いてありがとうございます。むしろこちらこそご迷惑をおかけしてすみません」
私は何度もぺこぺこと頭を下げる。
「津島さーん。ごめん、あっちの配線も片付けてもらえるー?」
「少し待ってくださいまし! すぐに参りますわ!」
津島さんと呼ばれた女性は、何やらメモを取り出すとボールペンで電話番号とメールアドレスを書いて私に手渡した。
「一応、これが今回のイベントの運営に関する窓口です。落とし物の保管もしてくれているそうなので、もしかしたら時間差で後から届けられる事もあると思うのでよかったら。私も作業中に見つかったら、本部の方に届けておきますね」
「あ、ありがとうございます! 本当に色々と助かりました」
私は再度、津島さんに頭を下げる。
津島さんと別れた私は、作業をしている方にあまり迷惑をかけないように周囲を少し探した後、来た道を引き返す。
後、可能性があるとしたら、ここからホテルに帰宅するタクシーを拾うまでの道すがらでしょうか。すごい人混みだったし、すれ違った時にバッグが擦れてキーホルダーが落ちたのかもしれません。
「うーん、やっぱりないな」
じっくりと探したけど、見つからずにさっきの公園付近に戻ってきました。
「おねーさん。さっきも通ったけど、どうしたの?」
「え?」
声をかけられて振り返ると、そこにはさっきアキラ君の歌を弾き語りしていた女の子が立っていました。
その後ろにはさっきTENGAコールをしていた子達がいます。
バ……バンドギャルというのでしょうか?
さっきのお嬢様っぽい女の子とは別のベクトルで派手な見た目の女性達に囲まれてびっくりしました。
みんなかっこいいな。私みたいな芋臭い女と違って、なんか東京のオシャレな女の子って感じがします。
「あ、えっと……実は、キーホルダーを落としちゃって……」
「それって、もしかしてこれの事?」
女の子はジーパンのポケットから何かを取り出すと私に手渡した。
「あ……」
探していたアキラ君のキーホルダーです。
一眼見てわかりました。傷の入り方とか、少し禿げてるところが私のものと完全に一緒です。
「これ、さっきそこの草むらに落ちてたのを見つけたから、スタッフの人に届けに行こうとしたんだよね。よかったよ。ちゃんと持ち主さんが見つかって」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
何かお礼をしたいと申し出ましたが、弾き語りをしていた女の子は両手をブンブンと振って別にいいからといわれました。
「ほ、本当にいいのでしょうか……?」
「良いって。同じアキラさんのファンから礼を受け取るわけにはいかないしね。それに、アキラさんならこういう時、気にするなよって言いそうだし!」
確かに言いそう……。
私は改めてお礼を言うと、公園で少しだけ女の子達とお話ししました。
「だから天我先輩は最高なんすよ!」
「うんうん、みんなの頼れる先輩だからね」
「あくあ君達も先輩にはめちゃくちゃ甘えるからね」
「かと思えば、あのかっこいいポージング! マジ痺れるっす!」
こうやってアキラ君のファンと話すのは初めてです。
話せば話すほど彼女達がアキラ君の事を応援してくれてるんだってわかって、嬉しくなりました。
その中でも最も印象に残ったのは、キーホルダーを渡してくれた女の子の話です。
「私さ、本当はギターを置いて地元の群馬に帰ろうと思ってたんだ」
女の子は遠くを見つめるような目で過去に想いを馳せる。
「そんな中で、同居人の女の子……まぁ、付き合ってる女の子が居るんだけど、その子がMステのチケットに当選して、最後の記念だと思って2人で群馬に帰る前に見に行ったんだよね」
女の子が見に行ったのは、ギターの弦が切れながらも最後までアキラ君が演奏しきったあの伝説の回でした。
「足掻こうって思った。人生1度しかないんだし、ここで諦めたら絶対後悔するって思ったから。彼女にはもうしばらく迷惑かける事になっちゃったけどね」
女の子は、私にさっき演奏していたギターを見せてくれました。
ポップアップショップに行った時に、アキラ君からギターにサインをもらったそうです。
その時の事を思い出して楽しそうに話す彼女の目は、キラキラと輝いていました。
「狂子さん! そろそろ予約してた打ち上げの焼肉行くっすよ!」
「ああ、そうだな!」
私は改めて女の子達にお礼を言いました。
こんなにも優しくしてもらって、感謝の言葉だけでは言い表せません。
女の子達は私も焼肉に誘ってくれたけど、予約をしていたホテルのレストランに申しわけがないので、泣く泣くお断りしました。
「それじゃあお姉さんまたねー!」
「せっかくだし東京観光楽しんで!」
「シスター服の人には気をつけて! あの人達はいい人だけど、入ったら最後、あの沼から抜け出せなくなるからー!」
「もし変な宗教に入るなら、堕天使アキラを崇拝する会に入ってね!」
「それ宗教じゃなくて、只の非公式ファンクラブ……後、変は余計でしょ!」
「次のライブで会いましょう!!」
帰りのタクシーまで拾ってもらっちゃって、本当にいい子達だったな。
ホテルに戻った私はすぐにレストランへと向かう。
もともとクリスマスディナーの予約を入れていた人がお仕事の関係で、1番遅い22時30分で予約をとってくれていたおかげで助かりました。
「ご予約のホ……桜庭様ですね。こちらへどうぞ」
レストランの人が案内してくれたのは個室でした。
い、いいのかな? これ、絶対、高いよね?
普段、行きなれてないような所だから、物凄くソワソワしました。
「アキラ君……」
出てくる料理は、どれも凝っていてとても美味しかったけど……1人の食事はすごく寂しかった。
天我家にお世話になってからは毎日のように騒がしくて、皆さんが私を1人にしないように気遣ってくれていました。その事に気がつけただけでも、ここにきてよかったと思います。
うん、明日、帰ろう。
そして皆さんに伝えなきゃ。
これ以上は甘える事ができないって、私もこのままじゃダメだから。
さっきの弾き語りをしている子がアキラ君の影響でまた前を向けたように、私も前を向いて生きたい。
そのためには寂しいけど、皆さんと離れて1人で自立した方が良いと思いました。
それに、アキラ君にだって未来がある。
考えただけで胸の奥が苦しくなるけど、私のような傷を持った女性がアキラ君の側に居るより、さっきの子達のような、何かを与えられる女性達がアキラ君の側に居た方がいいに決まってます。
「桜庭様、最後にクリスマスディナーをご予約された方のために、当ホテルから細やかながらプレゼントをご用意しております。よろしければこちらに持ってきてもよろしいでしょうか?」
「はい。ありがとうございます」
「わかりました。それでは少々お待ちください」
レストランの給仕係を務めてくださった方が退室してから数十秒後、扉をノックする音が聞こえてきた。
「はい」
私が返事をすると、ズタボロになったサンタクロースの衣装を身に纏ったアキラ君が息を切らして立っていました。
「ごめん。春香ねえ、こんな格好で……」
「あ、アキラ君!?」
アキラ君はクリスマスナイトパレードがあった後に、プレゼント配りのお仕事をしていたみたいでサンタクロースの格好をしていたみたいです。
「それじゃあ、その服の汚れは……」
服がズタボロだったのは、仕事が終わった後のバイクで事故に遭ったとかじゃなくて、何もないところで慌てて転けてしまったそうです。
頭を打ってないか心配でしたが、アクションで受け身の練習をしていたから大丈夫だったと言われました。
ほっ……見た目ほど、大きな怪我がなかったから良かったです。
「春香ねえ、クリスマスイベントはどうだった……?」
「とっても……そう、とっても楽しかったわ!」
私はアキラ君に、ライブやパレードの感想などを伝えました。
アキラ君に話したい事が沢山あって、一度話し出したら止まりません。
それでもアキラ君は、優しく微笑むように私の話を最後まで聞いてくれました。
本当に楽しい。
でも、だからこそ、お話ししなきゃいけません。
「アキラ君、話があるの」
私はアキラ君に、さっき自分が思った事を伝えました。
前を向いて生きたいって思った事。
このまま甘えるばかりじゃダメだって思った事。
そして……何よりもアキラ君の足枷になりたくないって事。
でも、足枷になりたくないって事だけは言うのをやめました。
それを言うと、優しいアキラ君にまた甘えちゃうから。
「だからね……さようなら……」
その言葉を口に出しただけで、泣きそうになってしまう。
でも、お世話になったアキラ君には、お別れの言葉をちゃんと伝えないといけないとそう思いました。
「わかった。春香ねえ……次は我の……いや、俺の話を聞いてくれないか?」
アキラ君は私の顔を真剣な顔で見つめる。
私はそれに応えるように無言でこくりと頷いた。
「俺は頑張る春香ねえを側で支えたいと思ってる。だから、俺と……俺の家で一緒に暮らさないか?」
「アキラ君……」
なぜ、そんなに私の事を甘やかしてくれるの?
私がアキラ君と幼馴染だったから?
アキラ君の優しさが嬉しくて、逆に苦しくなる。
だって、私がアキラ君に返せるものなんて、何一つないんだもん。
「俺は、ずっと春香ねえ……いや、今でもずっと桜庭春香って女性の事が好きだ」
好き……? アキラ君が、私の事を……?
ああ、そっか、それって友達とか家族とかに向ける好きっていうのと同じ事かな?
立ち上がったアキラ君は私に向き合って真剣な表情で叫ぶ。
「改めて言わせて欲しい! 俺は! 天我アキラは! 1人の男として、春香を愛してる!!」
びっくりして声も出ませんでした。
アキラ君は私の前で片膝をついて跪くと、ポケットから取り出した小さなプレゼントボックスを私に手渡す。
私はアキラ君に促されてリボンを解くと、中から指輪の入った箱が出てきました。
「本当はこの後ちゃんと着替えて、屋上の展望台を貸し切って、そこで言おうと思ってた……。だからこんな変な格好で、それも汚れててすまん。でも、カッコつけるよりも必要な事があるって事を、俺は大事な後輩に、白銀あくあという1人の男に教えられた」
アキラ君の本気の告白に涙が止まらなくなりました。
「春香、俺と結婚してくれ! もう俺は、君の事を絶対に手放したりなんてしない! 頼む! うんって、頷いてくれるだけでいいんだ……!」
願うように私の手を握り締めるアキラ君を見て、私だって離れたくないって思った。
「本当……私なんかでいいの?」
「当然だ!」
アキラ君は私の体をギュッと抱きしめる。
「春香、俺はもっともっと強い男になる。頼り甲斐があって、誰かを支えられるような、そんな大きな男になりたい。約束する。だから、俺と一緒に暮らしてくれませんか?」
私はアキラ君の背中に手を回して抱き締め返した。
「私も、アキラ君……ううん、アキラを支えられる強い女性になりたい! だから……! 私も、貴方の事が好きです。大好きです。愛しています!!」
それ以上の言葉は要りませんでした。
私たちはそっと口づけを交わす。
その後に、アキラ君は私の指に指輪をつけてくれました。
夢みたい……。
ううん、本当に夢なのかもしれない。
でも……例えそうだったとしても、今度は私がアキラ君に告白すればいいだけの話だ。
私はもう自分の中にある本当の気持ちに気がついたから。
「すみません。俺たちのために、こんな遅くまで開けてもらって」
私達はレストランの個室から出ると、拍手で迎えてくれたスタッフさん達に頭を下げました。
もう時間が時間なので、周りにお客さんは誰もいません。
「我に何かできる事があったら……」
アキラ君がそう言うと、レストランのスタッフさん達はお互いに顔を見合わせて笑みを見せました。
どうしたんだろう? 私とアキラ君は顔を見合わせて少しだけ戸惑った表情をすます。
私達の反応を見て、チーフと書かれたプレートをつけた女性が入口のカウンターから何かを取って戻ってきました。
「それなら大丈夫ですよ。今日ここで食事された方のお会計は、既に先払いでもらっていますから。当レストランのプライドとして、これ以上お客様達から何かを受け取るわけにはいけませんので」
そう言って彼女は、私達の方に指で数字の部分を隠した一枚のクレジットカードを見せる。
そこには、あくあ君の名前が書かれていました。
何でもあくあ君は、その前のイベントでここに来ていたそうなんです。
そしてその事をアキラ君にも伝えずに、おそらく会社の人に私達の事も伝えずに、このサプライズをスマートにやってのけたのだと知りました。
「はは、ははははははは!」
アキラ君は大きな声で笑うと、私の方へと視線を向けてこう言いました。
「どうだ。我の後輩は、最高にかっこいいだろ? 我は……ああいう男になりたいんだ」
アキラ君は本当に嬉しそうに話してました。
確かにあくあ君はかっこいいかもしれないけど、私にとって1番かっこいいのはアキラ君だよ。
電話でもアキラ君はいつだって、あくあ君達のここが凄いんだって話ばかりしてる。
そんな後輩想いのアキラ君だから私は好きになったの。
私はアキラ君と一緒に部屋に帰ると、熱い夜を過ごしました。
ちなみにこの翌日、館内アナウンスで宿泊した全お客様の宿泊代金まであくあ君が払ってると知って、アキラ君はとんでも無い奴だと笑ってました。
アキラ君にあくあ君から送られてきたメールを見せて貰うと、昨日のアキラ君のプロポーズが成功した幸せのお裾分けだそうです。
「それじゃあ行ってくる。明日、ちょっと遅くなるけど、一緒に結婚の報告に行こう。だから、俺の家で帰りを待っててくれ」
「うん!」
私はアキラ君から家の鍵を受け取ると、迎えにきた車に乗り込む彼を見送りました。
どうか、アキラ君が怪我をせずに無事に帰って来れますようにと願いを込める。
2022年12月24日。
今年のクリスマスは、私にとって忘れられない一生の思い出になりました。
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