白銀あくあ、いいですともクリスマスSP後編
「表彰……あっ、やべ、これ逆さまだ」
俺は慌てて表彰状の向きを変える。
観客席からはクスクスという笑い声が聞こえてきた。
「表彰状、守田一美さん! 貴女は長い間、ご長寿番組いいですともの司会を務められました。それを祝して僭越ではありますが、この私の方から表彰状を贈りたいと思います」
少し照れくさそうにする守田さんに、周りからパチパチと拍手が贈られる。
「なお、この表彰状は、この私、白銀あくあの文章表現能力が壊滅的という事もあり、ゴーストライターの黛慎太郎さんに代筆してもらっています!」
すかさず楓と守田さん、それに続くように小雛先輩とアヤナがズッコケそうになる。
みんなバラエティ慣れしてるなぁ……。特に楓の反応の速さよ。本当に国営放送のアナウンサーなのかたまに怪しくなる。
「本日はいいですとものクリスマススペシャル回という記念すべき日に、森長さんや藤百貨店さん、コロールオム、パナソニーさん、百福食品さん、コーク社と専属契約を結び、現在放送中の超国民的特撮ドラマのマスク・ド・ドライバー、ヘブンズソードの剣崎総司役として出演し、1月1日は国営放送で放送されるお正月特別ドラマスペシャル、陰陽師に安倍晴明役で出演する事が決まっており、そして12月25日にはベリルアンドベリルのUSJ回、26日には最終回を迎える、あの! そう、あの、藤テレビの月曜9時に絶賛放映中の人気ドラマ、優等生な私のお兄様に佐田一也役で出演しているこの私、ベリルエンターテイメントの白銀あくあを呼んで頂いた事を感謝します!!」
「宣伝が長いよ!」
スタッフの人からは悪ノリしてくださいと言われていたので、俺は事前に藤蘭子おばあちゃんからも許可をとってこれを読んでいる。ちなみにこれを聞かされたメアリーお婆ちゃんと藤蘭子さんと八雲いつき先生は大爆笑してた。
「今思えば私、白銀あくあと守田さんの最初の出会いはMステでした」
「うんうん。そうだったそうだった。他局だけど、あくあ君にはもうそんなの関係ないよね」
苦笑いする観客席。スタッフの人は爆笑してた。
「あの時の私は、スタッフの人から危険だから絶対に飛び降りないでくださいと言われていたにも関わらず、演奏が終わった後にテンションが上がりすぎてステージから飛び降りた挙句、本郷監督に抱きついてしまいました。それを今、ここで謝罪したいと思います。Mステのスタッフさん、ごめんなさい!!」
「それ、Mステで言おうよ! だからここ他局なんだって!」
守田さんの的確なツッコミのおかげで観客席がドッと沸く。
後、小雛先輩、もっと他にも謝れーとかいうツッコミはいらないです。
「今、思い返せば、守田さんとの共演以来、本当に色々なことがありました。26日に最終回を迎えるゆうおにの放送が開始された事から始まり」
「それ、さっきも言った!」
「2回めのランウェイショー、ハロウィンフェスティバル、お見合いパーティーにサッカーの世界大会でのパフォーマンス、新居に引っ越した天我先輩の幽霊騒動」
「は?」
「プライベートで、とあと2人で公園のボートを漕いでたら転覆事故を起こしかけた件」
「いやいや、さっきのもそれも知らないよ!」
「慎太郎のメガネがUSJで複雑骨折してお亡くなりになられたり、あっ、これは25日のベリルアンドベリルで放送します!」
「ちょいちょい宣伝入れてくるなぁ!」
「悪名高い女優K.Yさんが俺のロケ弁を勝手に食ったり、優しくて可愛い月街アヤナさんがそれを見て、この私にロケ弁を半分恵んでくれた事には涙が出ました。仕返しで小雛先輩……あっ、名前言っちゃった。ええっと、小雛先輩のロケ弁から先輩の好きな甘い卵焼きを勝手に食べた事も今となってはいい思い出です」
「ちょっとぉ!? それじゃあ、まさかあの塩シャケも……」
「それから小早川さんがロケ弁5つも食って病院に運ばれたり、家出した時に一時預かっていた玖珂レイラさんが、いまだに私の家にブラ……荷物を置きっぱにしてたり、白龍先生が仕事を溜めすぎて編集さんに監……軟禁されたり、ドライバーの撮影中に中々帰ってこないと思ってたら、挙動不審すぎて本郷監督が不審者に間違われて職質されたり、メアリーお婆ちゃんが健康診断で肉体年齢内臓年齢共に30代だったり、総理が今度みんなで飯食おうって自分で誘っておきながら未だに連絡がなかったり、森川アナがローション相撲で骨折したり、診てもらった現地のお医者さんが自称シャーマンのヤブ医者で最近逮捕されたり、ミシュ様が自分のもう1人の親だと判明したり、カノンが今朝も可愛かったりと、本当に色々ありました!!」
「ちょっと!? 半分はわかるけど、いくつかみんなの知らない話が混ざってますよ!」
守田さん、的確なツッコミありがとうございました。
そしてアヤナ、暴れそうになった小雛先輩を止めてくれてありがとう。
ちなみに隣にあった塩シャケを食べたのも俺です。俺は心の中で懺悔した。
あと楓も、もしかして私は骨折してないのかもってハニワみたいな顔をしてるけど、それはちゃんと骨折だから安心して欲しい。ただ、あの医者が見せてくれたレントゲン写真は他人のものだったけど……。
「そして忘れもしません。初めて出演したテレフォンショック。最後にとあ達と一緒に出演できた事は感動的で、今でも覚えています。だからこそ、次は4人で出たいと守田さんと話していました」
「うんうん、言ってたねえ」
「それがどうでしょう。なんでよりによって小雛先輩なんですか?」
「はぁ!?」
「本音を言うと今日は小雛先輩とじゃなくてアヤナと2人きりで出たかったです」
「え? 待って? 私だけはぶり?」
「皆さん時計を見てください。もう20分をゆうに超えてます! 小雛先輩が出るといつもこうなるんですよ!!」
「あんたの話も私と同じくらい長いんだが!?」
「あっ、すみません。急に耳が遠くなったかも……あー、ちょっと聴こえづらいな」
「都合よく難聴になるな!」
先輩、本当にレスポンスが早いな。
「この番組を語る上で忘れてはいけない人がいます。長年この番組の司会者を務められた守田一美さんの事をお話ししましょう」
「おお!?」
「守田さんは元々、怪しげな浄水器の訪問販売員、胡散くさそうな新興宗教の勧誘員、スターズへの密航斡旋業、ベリルグッズの転売ヤーを経て芸能界に入りました」
「やってない。やってないよ!」
「ヤモリの形態模写、4ヶ国語花札、インチキ外国語など、数々の新しい芸事を開拓していく事で評論家気取りのエセ知識人の支持を受け、多額の裏金でサクラを大量動員する事で、国民的人気番組いいですともの司会者にまで上り詰めました!!」
「おい! ここの部分を考えたの、絶対に黛くんとあくあ君じゃないだろ!!」
俺は守田さんの言葉にニヤニヤする。
ちなみにここの部分を考えたのは番組のプロデューサーとスタッフの人達だ。
「ふぅ。少し長くなりましたが、この番組も今日で終わりです」
「ええ!? この番組、今日で終わりなの? 私、聞いてないんだけど!?」
びっくりした守田さんが珍しく慌てる。
観客席からも驚きの声が上がった。
「そして次回からは、この番組の枠で、女優K雛ゆかりさんの奪っていいともが始まると藤蘭子会長から聞いた時には、思わず正気なのかと何度も聞き返したほどです」
「えぇっ!?」
小雛先輩、マジかみたいな顔してるけど、もちろん嘘ですよ。
「ああ、今日もまた大魔王小雛ゆかりの魔の手にかかり、第2、第3の森川楓さんが量産されるのかと思うと、私も顔がホゲって仕方ありません」
端っこで楓が腕を組んでうんうんと何度も力強く頷く。
俺は1番奥にいるアヤナに視線で合図を送る。
「というのは全部冗談で、守田さん!! いいですとも、放送開始40周年! おめでとうございまーーーーーーーーーーす!!」
俺が両手を高く広げると、後ろにいたアヤナがタイミングを合わせてくす玉を開く。
それに合わせて観客席からはクラッカーの音が鳴った。
「え? え?」
観客席やスタッフのみなさんからおめでとうコールが巻き起こる。
そしてくす玉の設置された入口からいつものレギュラー陣が次々と降りて来て、守田さんに力強い拍手を贈った。
「改めて、おめでとうございます!」
「うぇっへっへ、こりゃ、どうも。ありがとうございやんす」
表彰状を守田さんに渡した後、俺も拍手を贈る。
「守田さん、なんと1982年に始まったこの番組も今年で40歳です」
「はー、こりゃ、すごいね」
本当にすごい事だ。
改めて俺みたいな若造が表彰状を贈ってよかったのだろうかと思う。
いつものレギュラー陣とか、もっと守田さんと親交がある人に渡して貰った方が、本人も喜んでくれるんじゃないかってプロデューサーさんや蘭子さんにも話した。
それでもプロデューサーさんや蘭子さんに、この番組はまだ終わりじゃない。これからもまだ続いて行くからこそ、新しく時代を切り開いていくような人に渡して欲しいと、守田さんに、まだまだ先があるぞって言わせたいからこそ俺にお願いしたいと言われて、これは受けるしかないと思った。
「これからも、よろしくお願いします!」
「こちらこそ。あっ、もし、私が途中で倒れたら代わりにあくあ君がやってくれる?」
「えっ? 俺ですか?」
「そうそう、小雛ゆかりさんだとさ、一度やったら番組返ってこなさそうだもん」
「あー……」
遠くでまた楓が何度も力強く相槌を打っている。
よく見たら他の出演者達も頷いていた。
「ちゃ、ちゃんと返すわよ」
「じーっ」
「ひっ……!」
楓の視線に気がついた小雛先輩がたじろぐ。
なんという説得力のある圧だろう。小雛先輩、ちゃんとした前例があるんですよ。
来月の番組欄見てください。森川楓の部屋から、小……森川楓の部屋? に表記が変わってるんですよ? 局ぐるみで弄られる楓がかわいそうじゃないんですか?
楓の事だから美味しものを食べるか、寝たら次の日には忘れてるかもしれないけど、一応アレでも傷ついてるんです。少しは反省してください。
「そうやってまた番組を乗っ取るんですね」
「ちょ、ちょっと……!?」
小雛先輩は幽霊のようにゆらりゆらりと近づいてくる楓を恐れて、アヤナの背中に隠れる。
先輩が後輩を盾にしちゃダメでしょ。アヤナもどうしていいのか分からずに戸惑ってるじゃん。
「う〜ら〜め〜し〜や〜!」
「ヒィッ!」
あれれ? もしかして、小雛先輩って、そういうの苦手なんですか?
へぇ、へええええええええ。それは良い事を知ったなぁ。来年の夏、2人で絶対にお化け屋敷に行きましょうね!
あっ、なんならホラーゲーム実況しましょうか。2人で楽しく幽霊と戦いましょう!!
「なんちゃって!」
楓は裏から出てきたスタッフから受け取った大きな看板を持ち上げる。
そこにはこう書かれていた。
ドッキリ成功!!
その看板の右下には、小さく、いつも小雛ゆかりさんに迷惑をかけられているゆうおにスタッフ一同よりという文字が添えられていた。
「ははは、はははははは!」
ごめん、小雛先輩。
思わず笑っちゃった。
「ちょっと! あんた知ってたの!?」
俺は首をブンブンと横に振る。
「知らないですって!」
「本当に?」
「ほんと、ほんと。だからそんな目で見ないでくださいよ」
小雛先輩は、疑わしそうに俺の事をジト目で見つめる。
嘘なんかついてませんよ。見てくださいよ、このキラキラと輝く目を!!
「胡散臭い」
「いやいや、本当に知らなかったって、ほら、アヤナもびっくりしてるじゃん」
「わ、私も知りませんでした」
「アヤナちゃんはいい。信頼できるから。でも、あくぽんたんは……じーっ、その無駄にキラキラした目が怪しい」
「元からこんな目なんだって!」
俺は寄ってくるカメラに視線を向けると、途中で軽くウィンクした。
それを見た観客から悲鳴に近い歓声が聞こえてくる。
「そうやってまた誤魔化そうとしてるでしょ!」
「あ、バレた」
「ほら! 私、本気で森川さんが化けて出てきたと思ったんだから!!」
「いやいや、死んでないですよ私! 勝手に殺さないで……」
小雛先輩が俺の脇腹をぐりぐりする。
これはまずい。また、カオスになってきた。
「もう、あんたのせいで、さっきちょっとちびっちゃったじゃない! 後でパンツ買ってきてよね!」
「えぇっ!?」
俺のせいなの? っていうか、ちびったって言って大丈夫なんですか?
小雛先輩、これ全国放送ですよ!?
というか、コンビニで女性のパンツ買ってる俺、完全に変質者じゃない? それ逮捕されたりとかしないかな? 大丈夫?
「ちょっと、小雛さん!? 流石にそれ以上はまずいですよ!」
守田さんと周りの出演者が慌てて小雛先輩を止める。
スタッフの人も気を利かせて、CMに切り替えてくれた。
「CM中です! 出演者はバックヤードに戻ってください! 108分のいくつの準備に入りまーす!」
スタッフの人達がCM中に什器を出して設置する。
小雛先輩はというとそのまま出演者達に両脇を抱えられて退場してしまった。
え? 大丈夫なのそれ?
「CM明けまーす! 5、4、3……」
そのまま小雛先輩が消えた状態で番組が再開する。
「はい」
無言のまま、俺とアヤナ、守田さんは顔を見合わせる。
俺はカメラに向かって視線を送って合図すると、隣の席に置かれた子熊のぬいぐるみをゆっくりと持ち上げた。
「小雛先輩改め、子熊先輩です。随分とまぁ、可愛くなって……」
スタッフや観客席から大きな笑い声が飛び交う。
俺は小雛先輩が居なくなった事で、改めてその偉大さに気がついた。
居なくなって、それでも笑いを取る。お笑い芸人として実力をまざまざと見せつけられた気分だ。
心の中で、私は女優よ! と、叫ぶ、小雛先輩の声が聞こえてきたが、それはきっと気のせいだろう。
と、思っていたら、舞台袖から聞こえてきたので本物だった。ちょっと、静かにしててくださいよ。
「それじゃあ、108人に聞いてみただけど、どうする?」
「色々考えていたんですけどね」
「ね。どうしよっか?」
俺はアヤナの方を見つめる。
その後に俺は観客席やカメラの方に視線を向けた。
ねぇ、みんな。今のアヤナの可愛い返し、みなさん聴きましたか?
小雛先輩なんかじゃ得られない成分がここにあるんですよ。
「えっと、じゃあ、スペシャルなんで俺とアヤナで二ついいですか?」
「おっ! いいねぇ。じゃあ私もやるから三つ聞いてみようか」
観客席からわーっという喜びの声が聞こえてくる。
「それじゃあ、まずは最初に俺から、ゆうおに、みんな見てるー?」
「「「「「見てるー!」」」」」
「ちなみに俺は莉奈派です!! 莉奈派のみんな、頼む! ボタンを押してくれ!! ちなみに俺の予想は108人です!!」
俺が莉奈派だと言うと、スタジオの中が大拍手に包まれた。
スタッフさんなんか、指笛を吹いてタオルを回してクソ喜んでる。
あれ? もしかして、これ、圧勝するんじゃ……。
「108人、満点、おめでとうございます!!」
「ちょっと!!」
小雛先輩の声が聴こえてきたが、きっと気のせいだろう。
楓と一緒に安らかに成仏してくれ。
「アヤナ、おめでとう!」
「あ、ありがとうございます」
照れたアヤナを見て、可愛いなあと思う。
はー、やっぱ小雛先輩とは違うわ。これがプライベートなら頭をなでてるかもしれない。
俺は記念品を貰うと、そのままアヤナに手渡した。喜んでくれて俺も嬉しいよ。
「えっと、じゃあ私はその……普通かもしれないけど、これからもずっとずっと、いいですともが続いて欲しいと思ってる人ー! もちろん108人で!!」
小雛先輩、じゃなかった、子熊先輩とは違って、空気を読みに読んだアヤナの最高の質問にみんなが応える。
もちろん答えは一つだ。
「108!! 満点、おめでとう! そして、ありがとう!!」
アヤナは受け取った記念品を、そのまま守田さんに手渡す。
「その、守田さん、これ、もらった事ないですよね?」
「ええ? 本当に、いいの?」
「は、はい。私はさっき、その……あ、一也先輩に貰ったから」
「良かったな莉奈」
アヤナは莉奈っぽくほっぺたを少し膨らませて恥ずかしがる。
観客席のみんなも、俺たちのアドリブに物凄く喜んでくれた。
「へっへっへっ、皆さん、私もついにこれ貰いました。いやぁ、嬉しいですね。わたしゃ、長年この番組やってますけどね。これ貰ったの40年で今日が初めてです。みなさん、改めてありがとうございました」
守田さんは少しだけ腰を浮かせると、テーブルに両手をついてペコリと頭を下げた。
もちろん観客の皆さんも拍手を持ってそれに応える。
それを見て何人か感極まって目に涙を溜めたスタッフさんの姿も見えた。
「あくあ君がアヤナちゃんに、そしてアヤナちゃんが私に、こうなると私があくあ君にという流れしかないですよね? いいですかみなさん。ちゃんと空気を読んでください!!」
守田さんの言葉にみんなが笑い声を漏らす。俺とアヤナも思わず笑ってしまった。
「今日のクリスマスイブ、誰のお陰とは敢えて言わないけど、みなさん、最高でしたか? 最高だったに108人で、どうぞ!!」
一言で言うと、みんなめちゃくちゃ空気読んだ。
つまり108人である。
「最高のクリスマスイブをありがとう。あくあ君。はい、これ記念品。ちゃんと前回のボールペンとは違うからね」
「あっ、本当だ。3色ボールペンになってる!」
地味な違いに思わずズッコケそうになった。
こういう細かい所を仕込んでくるあたり、さすが守田さんって感じがする。
最後の最後に一本取られたなと思った。
「ちょっと! 莉奈派が108人ってどういうことよ!!」
「あっ、子熊先輩」
「子熊先輩じゃなくって、こ・ひ・な・せ・ん・ぱ・い!!」
ナイスツッコミです。子熊先輩。
「そんな事より!! 実は本当は沙雪派だった。みなさん、そうですよね? もちろん108人でお願いしますわ」
すげぇ。咄嗟とはいえ完璧な沙雪モードだ。
子熊先輩、そんなにも記念品のボールペンが欲しかったんですね。
仕方ないなぁと言った感じで、スタッフの皆さんが装置を起動させる。
ピロピロピロピローン!
「ん?」
子熊先輩は数字を見ると電光掲示板を指差して、1番手前にいるスタッフの人に声をかける。
「あれ、故障してるわよ」
「いえ、至って正常です」
「え? でも、0って……」
「正常です」
俺はそっと子熊先輩の両肩に手を置く。
「子熊先輩、何度見ても0は0です。諦めてください」
「だから子熊じゃないって言ってるでしょ!」
「子熊……じゃなかった小雛先輩、もう諦めてください」
「アヤナちゃんまで、って、また!?」
再びCMに入ると小雛先輩はスタッフの人に両脇を抱えられて、舞台袖の奥へと退場させられていった。
最後にあんた達、見る目がないにも程があるわよって叫んでたけど、観客の人達は空気を読んだだけだからダル絡みしないように。それ以上やると、ただでさえ少ない小雛ゆかりファンが減っちゃいますよ。
「はい、そういうわけで、今日のテレフォンショックも最後になりました」
「「「「「えーっ!?」」」」」
「「「「「もっとやってー!」」」」」
「ちなみにここまででもう40分使ってます。もう番組終わりますよ、これ」
あー、これは小雛先輩のせいですね。
決して俺のせいじゃないと言う顔をする。
あんたにも責任あるからねという声が聞こえてきたけど、きっと気のせいだろう。
「それじゃあ、次のお友達を紹介してもらえますか?」
「そうですね。色々、考えたんですけど、誰がいいかな? 次は1月1日ですよね?」
「はい」
「そうなると……そうですね。この人にお願いしようかな」
俺は楓を手招きすると、耳元で次のゲストの名前を囁いた。
それを聞いた楓は、スタッフの人に声をかけて自分の携帯を持ってくるようにお願いする。
「ん? それ、プライベートの携帯電話?」
「はい」
楓が電話をかける。
しかし中々繋がらない。大丈夫かな?
そんな事をみんなが思い始めた頃、ようやく電話がつながった。
「もしもし、国営放送の……じゃなかった、今は藤テレビの森川楓です。今、大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。笑いすぎてちょっと漏れ……ちょっとだけ待ってくださいね」
声を聞いた観客席が少しだけどよめく。
しかしその直後に聞こえてきたトイレを流す音にみんなが大笑いした。
「はい、もしもし」
「あ、もしもし、総理ですか?」
「はい、日本国総理の羽生です。森川さんこの前はどうも、また、飲みに行きましょう」
「あ、はい。それじゃあちょっと、お電話、代わりますね」
楓は俺と守田さんの間に携帯を置く。
「総理、お久しぶりです。白銀あくあですが覚えてますか?」
「もちろん、忘れるわけないでしょ!」
「ふーん、そうなんですね。その割に、俺との食事を忘れて、森川アナとは飲みに行ったりするんですね」
「ドキッ!? い、いやぁ、それはその……ね。大人の付き合いというかなんというか」
しどろもどろになった総理の声を聞いて観客席から野次が飛ぶ。
「はっきりしろー!」
「ちゃんとしろー!」
「国会と同じじゃないですか!」
「いつもの答弁と一緒ですよ!」
それを聞いた俺と守田さんが苦笑いをした。
「ははっ、冗談ですよ! それじゃあ、お電話代わりますね」
「ふぅ、助かった……」
「お電話代わりました。守田です。総理、今、大丈夫ですか? 漏らしたらまた国会で黒蝶議員に追及されますよ!」
「だ、大丈夫です! ギリ、間に合いましたから!」
このやりとり、一体なんなんだろう。
観客席も歯茎を見せながら呆れた顔をしている。
「あっ、総理、もう45分を超えちゃったんで、巻きでいいですか?」
「ええ!? 私の扱い、そんなに雑なの!?」
「はい。そういうわけで新年1発目、出てくれるかな?」
「いいですとも!!」
「ありがとうございます」
「ありがとうございました! 総理、お電話待ってますからね」
「はい! 次こそは必ず!」
そこで電話が終わった。
守田さんは電話が終わると、額の汗を拭うような仕草を見せる。
「いやぁ、びっくりした。前回のメアリー様といい、あくあ君は気軽に呼んでるけど、みなさん国家元首クラスですからね。え? もしかして、いいですともで世界会議やろうとしてます?」
「ははは」
舞台袖から子熊先輩を抱えたアヤナが出てくる。
「ふぅ……そういうわけでね。本日のゲストの白銀あくあさん、月街アヤナさん、子熊ゆかりさんの3人でした!」
「ちょっと! 誰が子熊ゆかりよ!! こ・ひ・な! 小雛ゆかりよ!」
後ろから小雛ゆかり先輩が飛び出してきたタイミングで番組はCMに入った。
小雛先輩、最高のタイミングでしたよ。
だから、ね? レギュラーメンバーのコーナーがまだギリ残ってますから、俺達も舞台袖に戻りますよ。はいはい、俺の脇腹なら好きなだけグリグリしていいから、みんなに迷惑をかけるのはやめましょう。
「ちょ、ちょっと、また私の事を背中から押して!」
俺達は観客席にお辞儀をしながら、小雛先輩を後ろから押してそのまま舞台袖へと引っ込んでいった。
GW後に入院して手術する事になりました。
入院前の5月6日土曜か7日の日曜まで更新して、その週の13日の土曜か14日の日曜にまた復活できればと考えています。つまり5月8日月曜あたりから12日金曜まで更新をお休みする予定です。
早かったら11日木曜か12日金曜で復活できるかもしれません。
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